Panorama Panama Town 「パノパナの日 2022」 @下北沢BASEMENT BAR 8/8
- 2022/08/12
- 00:18
諸説あるが8月8日は「パノパナの日」なのである。というわけで昨年に続いて下北沢にてPanorama Panama Townのファン感謝祭的なライブへ。夏フェス真っ盛りであるが、今年はそのスケジュールと被らなかった(去年は被っていたが夏フェスがことごとく中止になった)ためにこうして参加できるのが嬉しい。
建物の階段を降りて久しぶりのBASEMENT BARの中に入ると、すでにタノアキヒコ(ベース)の友人という設定にしてはタノがサングラスをかけただけなんじゃないかと思うくらいにあまりに似過ぎているDJ Sick BoyがDJをしている。くるりなどのダンスミュージックで体を揺らしてくれるのがいつも以上に心地良いのは「アルコールの種類がライブハウス随一豊富」でおなじみのBASEMENT BARだからでもあり、Sick BoyのDJがただ曲を流すという単純なものではなくて、曲をさらにダンサブルにアレンジして繋げているからである。場内に入った時間が遅かったので数曲しか聴けなかったけれど、最後のNirvana「Lithium」はやはりロックファンをブチ上げてくれるし、こうしてかけている曲がわかるというのは自分が彼と同じような音楽を聴いて育ってきたということである。
すでにSick BoyのDJ中にステージに出てきてカホンを叩いていたが、続いては岩渕想太(ボーカル&ギター)による弾き語り。パノパナの日はこうしてメンバーそれぞれが何かしらをやってからバンドのライブをやるという、それぞれの個性をいつも以上に感じられる内容になっているのだが、岩渕はボーカリストらしく弾き語り。
DJブースからステージを通過して裏に戻っていくSick Boyを労うと、
「あんまり弾き語りやらないんで」
と言いながらも、昨年リリースされた「SO YOUNG」を歌とアコギのみという丸裸の状態で歌う岩渕の歌唱はずっと弾き語りをやってきた人のものであるかのように堂々としたものであるし、バンドサウンドという武装を解除したアレンジで聴くことによって元々の曲のメロディの良さを存分に感じることができる。
その「SO YOUNG」の歌詞には
「夕暮れのサリンジャー」
というフレーズが登場するのであるが、それはもちろん「ライ麦畑でつかまえて」でおなじみのJ・D・サリンジャーのことであり、その小説に多大な影響を受けたことでこうして今もバンドマンとして生き続けているのであろう岩渕は
「読むと頭おかしくなっちゃうけど(笑)、是非読んでみて欲しい」
と勧める。そうしてメンバーの影響源をメンバーの口から聞くことができるのはパノパナの日ならではあるが、自分がサリンジャーを手にしたきっかけは何だっただろうかと思い返してみると、学生時代に銀杏BOYZの峯田和伸が紹介していたのがきっかけだったからであり、今はこうして岩渕の言葉をきっかけにして手に取る人が出て来るんだろうなと思う一幕であった。
そんな岩渕の弾き語りに
「スペシャルゲスト」
と紹介されながらも
「全てメンバーだけで回しているんで(笑)」
という自家発電っぷりを口にしてステージに招かれたのはバンドのサポートドラマーである、オオミハヤト。普段なかなかライブでは喋る機会がないオオミに岩渕は積極的に話を振るのだが、やはりあまり話し慣れていないのかそこまで話は広がらず。
しかしながらこうしてメンバー脱退という出来事があってもバンドが続いているのは大学時代に一緒にNUMBER GIRLなどのコピバンをやっていたというくらいに長い付き合いであるオオミの存在あってこそだ。
そんな2人(オオミは先程岩渕が叩いていたカホン)で演奏されたのは実に久しぶりに歌うという「odyssey」。その久しぶり感は岩渕が収録アルバム「Hello Chaos!!!!」の歌詞カードを目の前に広げて歌うというアナログっぷりからもよくわかるのであるが、こうした曲が聴けるのは弾き語りならではであるし、メロディの壮大さはそのままに曲のそもそもの良さをダイレクトに伝えてくれる。
そんな弾き語りのラストはこうした時のために作っている曲であることを伺わせる「ハイウェイ」。弾き語りだからこその素朴なサウンドは岩渕の歌の上手さ、シンガーとしての力量の高さを改めて感じさせてくれる。弾き語り慣れしてないと言いながらもここまで完成度が高いのはきっとこの日に向けて入念な準備をしていたんだろうなと思う真摯さを感じさせながらも、やはりどこかリラックスできる独特の空気も漂っていた。
1.SO YOUNG
2.odyssey w/ オオミハヤト
3.ハイウェイ
そんな岩渕の弾き語りに代わってステージに現れたのは浪越康平。普段はギターを弾くという立ち位置であるが、このパノパナの日では昨年も爆笑してしまうネタを披露してくれただけに、ある意味では個人的に1番楽しみなアクトと言える存在である。
なのだがブルージーなギターフレーズを弾きながら浪越は歌うわけでもなく、
「物販でトレーディングカードを作りまして…」
といきなり物販の紹介をするのであるが、その内容はバンドメンバーをトレカ化したものというぶっ飛んだものであり、Sick Boyだかタノだか定まっていないタノをステージに呼ぶと、タノにために封入したという「タノスターターパック」をプレゼントして開封させる。その名の通りに中身はタノのカードばかりで、タノも思わず
「俺ばっかりやん!(笑)」
と驚いていたが、ちゃんとノーマルカードやレアカードなどが作られていて、それぞれのカード名も本格的なものになっているのが驚き。売り上げの動向が気になってしまうところでもあるが。
そんなトレカ紹介をするためだけに呼んだタノを見送ると、
「僕は3人兄弟なんですけど、全員もう実家を出て暮らしていて。だから両親が寂しい思いをしてるかなとも思うんですが、実家には猫がいるんでそこまで寂しい思いはしてないだろうなって」
という浪越の家族愛と育ってきた環境の良さを感じられる言葉とともに弾き語りで歌ったのは「猫とチャイム」という曲。浪越の歌はめちゃくちゃ上手いわけではないというか、上手かったら岩渕の立つ瀬がなくなってしまうのであるが、それでもこの素朴さを感じる曲をさらに素朴に感じさせてくれるというのは浪越の歌声だからこそであり、なんだかその声は聴き手に安心感を与えてくれるものですらある。そういう部分が自分が浪越弾き語りが好きな理由でもある。
そんな弾き語りはあっという間に最後の曲になるのだが、徐に自身のスマホをアンプに繋ぐと、Arctic Monkeys的な疾走感のあるダークなロックサウンドの曲のオケを流しながら自身もギターを弾いて歌うという、もはや弾き語りと言っていいのかという形で新曲を披露するのであるが、この曲は間違いなくこれからバンドでアレンジされて我々の耳に届くようになるだろうし、早くそうなって欲しいと思うくらいにカッコいい曲。でもそれもやっぱりこれからバンドでさらにアレンジされて変わっていく可能性もあるということだし、去年の「MOROHAっぽく歌う」という爆笑せざるを得ないネタは見れなかったけれど、やはり浪越弾き語りが好きなのでこれからも毎年やって欲しいと改めて思った次第。
1.猫とチャイム
2.新曲
そんなメンバーそれぞれのソロの後にバンドとしてのライブでこの日を締めるべく、メンバーが揃ってステージに登場。
「今日は楽しめましたか?」
と岩渕が問いかけると「Sad Good Night」から始まるのであるが、石毛輝(the telephones, Yap!!!)を迎えてニューウェイブ的なロックサウンドを獲得した昨年以降リリースのこの曲が、ツアーの東京キネマ倶楽部の時よりも圧倒的にロックバンドさを増したサウンドになっている。それはリリースツアー以降も主催フェスを開催したり対バンライブに積極的に出演してきたことによってライブでの鳴らし方が練り上げられてきた部分もあるのかもしれないし、あるいはこの距離感の近いライブハウスだからこそという部分もあるのかもしれないが、ともかくパノパナはライブバンドとしてここへきてさらに進化を果たしているのが冒頭から鳴らしている音によってわかる。
それはタイトルフレーズ部分でタノがコーラスを重ねる「Faces」の「100yen coffee」もそうであり、どちらかというとこの作品の曲はクールなパノパナという新しい一面を見せてくれたものだと思っているのであるが、その楽曲のクールさはそのままに「MOMO」や「$UJI」という曲で発揮してきたロックバンドとしてのグルーヴの申し子っぷりが加わっている。まさかこの曲がこんなにもライブで変わるとは。きっとメンバー同士でライブでの音の鳴らし方を突き詰めて練り上げてきた結果だろう。
そんな中でまだ前半であるのだがここで新曲として「Bad Night」という出来立ての曲が演奏される。ダンサブルなリズムとグルーヴという「Faces」の先を感じさせる曲であるだけに、新曲とは思えないくらいに観客の腕が上がっていたのも曲の即効性の高さと、このライブを楽しみ切ろうという観客の思いを両方感じることができる。
「みんな、パノパナのライブどのくらいぶり?」
「今日、徳島から来た人もいるらしいよ」
と観客と親密にコミュニケーションを取ろうとするのもこのライブハウスの顔がハッキリと見える距離感の近さによるものかもしれないが、それがバンドとバンドを愛する人の双方向の感情のキャッチボールになっている。
そうしたやり取りもありつつ、やはり「Faceless」、浪越のギターサウンドの浮遊感が癖になる「Strange Days」という「Faces」の曲が軸になっているというのは最新の作品の曲が最高であるというバンドのスタンスによるものでもあり、その作品に自信があって、その曲をもっともっとライブで鳴らしたい、みんなに聴いてもらいたいという思いによるものかもしれないが、もはや音源とライブは別物と言っていいレベルの濃厚な、熱いロックサウンドになっている。
自分は「Strange Days」が特に好きな曲なのであるが、この曲の
「消えかかってた衝動
閉ざしてた心
抑えようとしたって何度も湧き上がって」
というフレーズはバンドが自身に気合いを入れ直すかのように感じるものであり、実際にその衝動をバンドが全く失っていないということを鳴らしている音によって示してくれているからである。
そんなバンドのグルーヴが極まるのは、このバンドから感じるミクスチャーロックさをハンドマイクで歌う岩渕のヒップホップ混じりの歌唱と、うねりまくるタノのベース、力強い一打を見せるオオミのドラム、大胆かつ情熱的に刻む浪越のギターという、このメンバーによるバンドだからこそ鳴らせる曲であると毎回感じる「世界最後になる夜は」で、岩渕は小さいと言っていいステージでも激しく歩き回りながら歌う。コロナ禍になる前はこの曲を歌いながら客席の中に突入してきていたな、なんてことも思い出すが、その当時とは鳴らしている音の強度は段違いである。
このBASEMENT BARにやはりホーム感を感じるというか、この場所だからこそ生き生きしていると感じられるのは東京にやってきた当時はしょっちゅうライブをやっていて、今でもフラッとライブを見に遊びに来るくらいの場所であるからということも語られるのであるが、そんな場所で鳴らす最新のバンドの曲である「King's Eyes」はサウンドとグルーヴもそうであるが、タイトルフレーズを含めたコーラス部分もより強く逞しくなっており、だからこそ観客もこんなに盛り上がるんだろうなというくらいの盛り上がりを見せている。
そしてこのバンドの持つ熱さが最大限に放出されるのは岩渕がハンドマイクでやはり動きまくりながら歌うと、タノも体を揺らしまくりながらベースを弾き、
「ほっといてくれ」
のメンバーのコーラスフレーズで観客が一斉に飛び跳ねる「フカンショウ」。このバンドのライブがあれば一生その症状は出ないだろうなというくらいに、あまりにカッコ良すぎて感動してしまうくらいだ。まさかこんなにも前回見た時から進化しているとは。
しかしながら浪越は自身の弾き語りがスベったことを引きずっており、しかもタノとのトレーディングカードのくだりが最もスベっていたという波及の仕方に。それでも岩渕が励まして平常心を取り戻すと、タノがサングラスをかけることによってよりグルーヴィーな演奏が展開される「Rodeo」はバンドの鳴らす音が一つの大きな波のような塊になってこちらに押し寄せてくるかのような迫力。このライブ映像を公開してたくさんの人に見てもらったら絶対このバンドのカッコ良さがもっと伝わるのにとさえ思う。
そして岩渕が観客に感謝を告げながら、
「ここに集まった君たち、いい趣味してるね」
と言って最後に演奏されたのはバンドのシーンへの出現を大胆に告げた曲とも言える「いい趣味してるね」で、その突飛とも違う曲同士を1曲にしたとも言えるような奇抜なアレンジすらも今のこのバンドにとっては1曲の中で起承転結を描くようなものだ。そのサウンドに反応して観客が飛び跳ねまくることによって、冷房が効いたライブハウスが本当に暑く感じるようになっていた。
そしてアンコールではこのBASEMENT BARで対バンライブを展開していくということを告知し、まだまだここから攻めていくということをライブだけでなく曲でも伝えるようにここでも新曲を披露。こちらはタイトルは口にしていなかったが、今のバンドのグルーヴがそのまま乗っかっているだけに音源になるのが実に楽しみであるし、それはバンドにとっての決定打的な作品になるのかもしれない。
そんなこの日の最後に演奏されたのが今になっての「めちゃめちゃ生きてる」であるというのが今のバンドの勢いがこの曲の通りであるということを示しているし、SWEET LOVE SHOWERのオープニングアクトとして出演した時の「これは凄いバンドが出てきたな」と思った、今も忘れることができない衝撃を今のバンドで塗り替えてくれた。きっと今あのフェスに出たらもっとたくさんの人を巻き込むことができるだろうなと思うくらいなのであるが、この曲をこれだけの凝縮された熱量で聴くと我々もめちゃくちゃ生きてるなと思える。それは生きているからこそ感情が震えるのであるし、その震え方がめちゃくちゃ激しいものだったからだ。それくらいに素晴らしい、2022年のパノパナの日だった。
もうこんな素晴らしいライブが出来るんならもうもっとデカい会場でたくさんの人の前で!とついつい思ってしまいがちである。本人たちがどう思っているかは聞いてみないとわからないけれど、もちろんそうしたところをまだまだ諦めずに目指しているだろうけれど、この日これだけ熱くて素晴らしいライブになったのはこの小さいライブハウスの距離感で観客の顔が見れて、リアクションがダイレクトに届くからというのもあるのかもしれないし、だとするならばこうしたライブハウスで生きていくバンドなのかもしれない。
もしこのバンドがそうしたバンドなのだとしたら、この日鳴っていたのはこうした小さなライブハウスで生き続けているライブバンドの生き様そのものだ。それを何よりもカッコいいと思うし、何物にも奪われてたまるか、ずっと続いて欲しいと思うからこそ、またこうして小さいライブハウスに足を運んで、至近距離でバンドのライブを見るのであろう。その醍醐味がここには確かにあった。それを再確認させてくれた、2022年のパノパナの日だった。
1.Sad Good Night
2.100yen coffee
3.Bad Night (新曲)
4.Faceless
5.Strange Days
6.世界最後になる歌は
7.King's Eyes
8.フカンショウ
9.Rodeo
10.いい趣味してるね
encore
11.新曲
12.めちゃめちゃ生きてる
建物の階段を降りて久しぶりのBASEMENT BARの中に入ると、すでにタノアキヒコ(ベース)の友人という設定にしてはタノがサングラスをかけただけなんじゃないかと思うくらいにあまりに似過ぎているDJ Sick BoyがDJをしている。くるりなどのダンスミュージックで体を揺らしてくれるのがいつも以上に心地良いのは「アルコールの種類がライブハウス随一豊富」でおなじみのBASEMENT BARだからでもあり、Sick BoyのDJがただ曲を流すという単純なものではなくて、曲をさらにダンサブルにアレンジして繋げているからである。場内に入った時間が遅かったので数曲しか聴けなかったけれど、最後のNirvana「Lithium」はやはりロックファンをブチ上げてくれるし、こうしてかけている曲がわかるというのは自分が彼と同じような音楽を聴いて育ってきたということである。
すでにSick BoyのDJ中にステージに出てきてカホンを叩いていたが、続いては岩渕想太(ボーカル&ギター)による弾き語り。パノパナの日はこうしてメンバーそれぞれが何かしらをやってからバンドのライブをやるという、それぞれの個性をいつも以上に感じられる内容になっているのだが、岩渕はボーカリストらしく弾き語り。
DJブースからステージを通過して裏に戻っていくSick Boyを労うと、
「あんまり弾き語りやらないんで」
と言いながらも、昨年リリースされた「SO YOUNG」を歌とアコギのみという丸裸の状態で歌う岩渕の歌唱はずっと弾き語りをやってきた人のものであるかのように堂々としたものであるし、バンドサウンドという武装を解除したアレンジで聴くことによって元々の曲のメロディの良さを存分に感じることができる。
その「SO YOUNG」の歌詞には
「夕暮れのサリンジャー」
というフレーズが登場するのであるが、それはもちろん「ライ麦畑でつかまえて」でおなじみのJ・D・サリンジャーのことであり、その小説に多大な影響を受けたことでこうして今もバンドマンとして生き続けているのであろう岩渕は
「読むと頭おかしくなっちゃうけど(笑)、是非読んでみて欲しい」
と勧める。そうしてメンバーの影響源をメンバーの口から聞くことができるのはパノパナの日ならではあるが、自分がサリンジャーを手にしたきっかけは何だっただろうかと思い返してみると、学生時代に銀杏BOYZの峯田和伸が紹介していたのがきっかけだったからであり、今はこうして岩渕の言葉をきっかけにして手に取る人が出て来るんだろうなと思う一幕であった。
そんな岩渕の弾き語りに
「スペシャルゲスト」
と紹介されながらも
「全てメンバーだけで回しているんで(笑)」
という自家発電っぷりを口にしてステージに招かれたのはバンドのサポートドラマーである、オオミハヤト。普段なかなかライブでは喋る機会がないオオミに岩渕は積極的に話を振るのだが、やはりあまり話し慣れていないのかそこまで話は広がらず。
しかしながらこうしてメンバー脱退という出来事があってもバンドが続いているのは大学時代に一緒にNUMBER GIRLなどのコピバンをやっていたというくらいに長い付き合いであるオオミの存在あってこそだ。
そんな2人(オオミは先程岩渕が叩いていたカホン)で演奏されたのは実に久しぶりに歌うという「odyssey」。その久しぶり感は岩渕が収録アルバム「Hello Chaos!!!!」の歌詞カードを目の前に広げて歌うというアナログっぷりからもよくわかるのであるが、こうした曲が聴けるのは弾き語りならではであるし、メロディの壮大さはそのままに曲のそもそもの良さをダイレクトに伝えてくれる。
そんな弾き語りのラストはこうした時のために作っている曲であることを伺わせる「ハイウェイ」。弾き語りだからこその素朴なサウンドは岩渕の歌の上手さ、シンガーとしての力量の高さを改めて感じさせてくれる。弾き語り慣れしてないと言いながらもここまで完成度が高いのはきっとこの日に向けて入念な準備をしていたんだろうなと思う真摯さを感じさせながらも、やはりどこかリラックスできる独特の空気も漂っていた。
1.SO YOUNG
2.odyssey w/ オオミハヤト
3.ハイウェイ
そんな岩渕の弾き語りに代わってステージに現れたのは浪越康平。普段はギターを弾くという立ち位置であるが、このパノパナの日では昨年も爆笑してしまうネタを披露してくれただけに、ある意味では個人的に1番楽しみなアクトと言える存在である。
なのだがブルージーなギターフレーズを弾きながら浪越は歌うわけでもなく、
「物販でトレーディングカードを作りまして…」
といきなり物販の紹介をするのであるが、その内容はバンドメンバーをトレカ化したものというぶっ飛んだものであり、Sick Boyだかタノだか定まっていないタノをステージに呼ぶと、タノにために封入したという「タノスターターパック」をプレゼントして開封させる。その名の通りに中身はタノのカードばかりで、タノも思わず
「俺ばっかりやん!(笑)」
と驚いていたが、ちゃんとノーマルカードやレアカードなどが作られていて、それぞれのカード名も本格的なものになっているのが驚き。売り上げの動向が気になってしまうところでもあるが。
そんなトレカ紹介をするためだけに呼んだタノを見送ると、
「僕は3人兄弟なんですけど、全員もう実家を出て暮らしていて。だから両親が寂しい思いをしてるかなとも思うんですが、実家には猫がいるんでそこまで寂しい思いはしてないだろうなって」
という浪越の家族愛と育ってきた環境の良さを感じられる言葉とともに弾き語りで歌ったのは「猫とチャイム」という曲。浪越の歌はめちゃくちゃ上手いわけではないというか、上手かったら岩渕の立つ瀬がなくなってしまうのであるが、それでもこの素朴さを感じる曲をさらに素朴に感じさせてくれるというのは浪越の歌声だからこそであり、なんだかその声は聴き手に安心感を与えてくれるものですらある。そういう部分が自分が浪越弾き語りが好きな理由でもある。
そんな弾き語りはあっという間に最後の曲になるのだが、徐に自身のスマホをアンプに繋ぐと、Arctic Monkeys的な疾走感のあるダークなロックサウンドの曲のオケを流しながら自身もギターを弾いて歌うという、もはや弾き語りと言っていいのかという形で新曲を披露するのであるが、この曲は間違いなくこれからバンドでアレンジされて我々の耳に届くようになるだろうし、早くそうなって欲しいと思うくらいにカッコいい曲。でもそれもやっぱりこれからバンドでさらにアレンジされて変わっていく可能性もあるということだし、去年の「MOROHAっぽく歌う」という爆笑せざるを得ないネタは見れなかったけれど、やはり浪越弾き語りが好きなのでこれからも毎年やって欲しいと改めて思った次第。
1.猫とチャイム
2.新曲
そんなメンバーそれぞれのソロの後にバンドとしてのライブでこの日を締めるべく、メンバーが揃ってステージに登場。
「今日は楽しめましたか?」
と岩渕が問いかけると「Sad Good Night」から始まるのであるが、石毛輝(the telephones, Yap!!!)を迎えてニューウェイブ的なロックサウンドを獲得した昨年以降リリースのこの曲が、ツアーの東京キネマ倶楽部の時よりも圧倒的にロックバンドさを増したサウンドになっている。それはリリースツアー以降も主催フェスを開催したり対バンライブに積極的に出演してきたことによってライブでの鳴らし方が練り上げられてきた部分もあるのかもしれないし、あるいはこの距離感の近いライブハウスだからこそという部分もあるのかもしれないが、ともかくパノパナはライブバンドとしてここへきてさらに進化を果たしているのが冒頭から鳴らしている音によってわかる。
それはタイトルフレーズ部分でタノがコーラスを重ねる「Faces」の「100yen coffee」もそうであり、どちらかというとこの作品の曲はクールなパノパナという新しい一面を見せてくれたものだと思っているのであるが、その楽曲のクールさはそのままに「MOMO」や「$UJI」という曲で発揮してきたロックバンドとしてのグルーヴの申し子っぷりが加わっている。まさかこの曲がこんなにもライブで変わるとは。きっとメンバー同士でライブでの音の鳴らし方を突き詰めて練り上げてきた結果だろう。
そんな中でまだ前半であるのだがここで新曲として「Bad Night」という出来立ての曲が演奏される。ダンサブルなリズムとグルーヴという「Faces」の先を感じさせる曲であるだけに、新曲とは思えないくらいに観客の腕が上がっていたのも曲の即効性の高さと、このライブを楽しみ切ろうという観客の思いを両方感じることができる。
「みんな、パノパナのライブどのくらいぶり?」
「今日、徳島から来た人もいるらしいよ」
と観客と親密にコミュニケーションを取ろうとするのもこのライブハウスの顔がハッキリと見える距離感の近さによるものかもしれないが、それがバンドとバンドを愛する人の双方向の感情のキャッチボールになっている。
そうしたやり取りもありつつ、やはり「Faceless」、浪越のギターサウンドの浮遊感が癖になる「Strange Days」という「Faces」の曲が軸になっているというのは最新の作品の曲が最高であるというバンドのスタンスによるものでもあり、その作品に自信があって、その曲をもっともっとライブで鳴らしたい、みんなに聴いてもらいたいという思いによるものかもしれないが、もはや音源とライブは別物と言っていいレベルの濃厚な、熱いロックサウンドになっている。
自分は「Strange Days」が特に好きな曲なのであるが、この曲の
「消えかかってた衝動
閉ざしてた心
抑えようとしたって何度も湧き上がって」
というフレーズはバンドが自身に気合いを入れ直すかのように感じるものであり、実際にその衝動をバンドが全く失っていないということを鳴らしている音によって示してくれているからである。
そんなバンドのグルーヴが極まるのは、このバンドから感じるミクスチャーロックさをハンドマイクで歌う岩渕のヒップホップ混じりの歌唱と、うねりまくるタノのベース、力強い一打を見せるオオミのドラム、大胆かつ情熱的に刻む浪越のギターという、このメンバーによるバンドだからこそ鳴らせる曲であると毎回感じる「世界最後になる夜は」で、岩渕は小さいと言っていいステージでも激しく歩き回りながら歌う。コロナ禍になる前はこの曲を歌いながら客席の中に突入してきていたな、なんてことも思い出すが、その当時とは鳴らしている音の強度は段違いである。
このBASEMENT BARにやはりホーム感を感じるというか、この場所だからこそ生き生きしていると感じられるのは東京にやってきた当時はしょっちゅうライブをやっていて、今でもフラッとライブを見に遊びに来るくらいの場所であるからということも語られるのであるが、そんな場所で鳴らす最新のバンドの曲である「King's Eyes」はサウンドとグルーヴもそうであるが、タイトルフレーズを含めたコーラス部分もより強く逞しくなっており、だからこそ観客もこんなに盛り上がるんだろうなというくらいの盛り上がりを見せている。
そしてこのバンドの持つ熱さが最大限に放出されるのは岩渕がハンドマイクでやはり動きまくりながら歌うと、タノも体を揺らしまくりながらベースを弾き、
「ほっといてくれ」
のメンバーのコーラスフレーズで観客が一斉に飛び跳ねる「フカンショウ」。このバンドのライブがあれば一生その症状は出ないだろうなというくらいに、あまりにカッコ良すぎて感動してしまうくらいだ。まさかこんなにも前回見た時から進化しているとは。
しかしながら浪越は自身の弾き語りがスベったことを引きずっており、しかもタノとのトレーディングカードのくだりが最もスベっていたという波及の仕方に。それでも岩渕が励まして平常心を取り戻すと、タノがサングラスをかけることによってよりグルーヴィーな演奏が展開される「Rodeo」はバンドの鳴らす音が一つの大きな波のような塊になってこちらに押し寄せてくるかのような迫力。このライブ映像を公開してたくさんの人に見てもらったら絶対このバンドのカッコ良さがもっと伝わるのにとさえ思う。
そして岩渕が観客に感謝を告げながら、
「ここに集まった君たち、いい趣味してるね」
と言って最後に演奏されたのはバンドのシーンへの出現を大胆に告げた曲とも言える「いい趣味してるね」で、その突飛とも違う曲同士を1曲にしたとも言えるような奇抜なアレンジすらも今のこのバンドにとっては1曲の中で起承転結を描くようなものだ。そのサウンドに反応して観客が飛び跳ねまくることによって、冷房が効いたライブハウスが本当に暑く感じるようになっていた。
そしてアンコールではこのBASEMENT BARで対バンライブを展開していくということを告知し、まだまだここから攻めていくということをライブだけでなく曲でも伝えるようにここでも新曲を披露。こちらはタイトルは口にしていなかったが、今のバンドのグルーヴがそのまま乗っかっているだけに音源になるのが実に楽しみであるし、それはバンドにとっての決定打的な作品になるのかもしれない。
そんなこの日の最後に演奏されたのが今になっての「めちゃめちゃ生きてる」であるというのが今のバンドの勢いがこの曲の通りであるということを示しているし、SWEET LOVE SHOWERのオープニングアクトとして出演した時の「これは凄いバンドが出てきたな」と思った、今も忘れることができない衝撃を今のバンドで塗り替えてくれた。きっと今あのフェスに出たらもっとたくさんの人を巻き込むことができるだろうなと思うくらいなのであるが、この曲をこれだけの凝縮された熱量で聴くと我々もめちゃくちゃ生きてるなと思える。それは生きているからこそ感情が震えるのであるし、その震え方がめちゃくちゃ激しいものだったからだ。それくらいに素晴らしい、2022年のパノパナの日だった。
もうこんな素晴らしいライブが出来るんならもうもっとデカい会場でたくさんの人の前で!とついつい思ってしまいがちである。本人たちがどう思っているかは聞いてみないとわからないけれど、もちろんそうしたところをまだまだ諦めずに目指しているだろうけれど、この日これだけ熱くて素晴らしいライブになったのはこの小さいライブハウスの距離感で観客の顔が見れて、リアクションがダイレクトに届くからというのもあるのかもしれないし、だとするならばこうしたライブハウスで生きていくバンドなのかもしれない。
もしこのバンドがそうしたバンドなのだとしたら、この日鳴っていたのはこうした小さなライブハウスで生き続けているライブバンドの生き様そのものだ。それを何よりもカッコいいと思うし、何物にも奪われてたまるか、ずっと続いて欲しいと思うからこそ、またこうして小さいライブハウスに足を運んで、至近距離でバンドのライブを見るのであろう。その醍醐味がここには確かにあった。それを再確認させてくれた、2022年のパノパナの日だった。
1.Sad Good Night
2.100yen coffee
3.Bad Night (新曲)
4.Faceless
5.Strange Days
6.世界最後になる歌は
7.King's Eyes
8.フカンショウ
9.Rodeo
10.いい趣味してるね
encore
11.新曲
12.めちゃめちゃ生きてる