ハルカミライ 「ヨーロー劇場2022 -10-」 @J:COMホール八王子 7/31
- 2022/08/01
- 22:47
前日に続いてのハルカミライの八王子J:COMホールワンマン。この日は追加公演的に発表されたライブであり、公式アカウントでも「この日に何かが起きる」的な煽り文があったため、前日に見ていてもやはりどうなるのかと楽しみになる。それはハルカミライのライブが毎回全く違うものになるからというのもあるだろうけれど。
で、実際に客席にいるとすでにステージ上の装飾が全く違うということに気付く。前日はなかった「HRKMRI IS ALWAYS AT THE LIVE HOUSE」の巨大な幕がかかっており、その前にも小さな4つのフラッグがかかっており、まさにこのホールの会場を前日以上にライブハウスにしようという意図がこの時点でわかる。
18時を少し過ぎたところで前日同様に先に関大地(ギター)、須藤俊(ベース)、小松謙太(ドラム)の3人がステージに登場すると、須藤は
「昨日も来てくれた人にはごめんだけど、昨日とセトリ一緒だから〜」
と言うのであるが、それは絶対ないだろうということはここにいる人たちはこれまでに見てきたライブに同じものが全くなかったということでわかっていたことであろう。
その言葉の後に前日同様に巨大フラッグを持った橋本学(ボーカル)も登場すると、
「今日もやるぞー!」
と叫んで「君にしか」から始まるというのは前日と変わらないスタートであるだけに、本当に昨日と同じ?と一瞬思う…ということは全くないというのは、この曲で始まるのはハルカミライのライブの定番でもあるのだが、その直後に演奏されたのが「デイドリーム」というあたりからしてもう前日とは全く違うということがわかるし、そもそも「ニューマニア」のツアーファイナルだった前日とは違って、この日のライブタイトルは「ヨーロー劇場2022 -10-」となっている。その段階でもはや違うライブになるということはわかりきっているのだが、前日の序盤はどこか響きを確かめるように歌っていた橋本もこの日は最初からその喉に宿る力をぶっ放すかのような歌唱で、
「今すぐ会いに行けたなら
時間も場所も飛び越えて行けたなら」
という歌詞を歌うことによって、ハルカミライが本当にその通りに我々に会いに来てくれたんだなと思えてくる。
その橋本の絶好調っぷりは「カントリーロード」で関がこの日はアンプの上に登ってギターソロを決めて大ジャンプする様を
「うちのスーパーギタリスト!」
と紹介した後に橋本が
「今日ライブ終わったら貸切で打ち上げやるから。みんな来ていいよ(笑)
今日も余裕で昨日を超えてる!」
と叫んだことからもわかるのだが、つまり昨日すでにここでライブをやって感覚を掴んでいるだけに、この日は絶好調ということである。
自分はこの日は2階席の1列目で見ていたのだが、早くも演奏されたショートチューン「ファイト!!」で2階席がぐらんぐらん揺れているのが確かにわかる。それくらいに観客が熱狂して飛び跳ねまくっているということであるが、「俺達が呼んでいる」では関がギターを抱えたままで前回り受け身を取るようにステージ下手側に走り出して回転。パンクなサウンドに合わせてメンバーの暴れっぷりも明らかにパンクになっていくのであるが、前日も含めて最近のライブでは定番になっている曲間一切なしでショートチューン「フルアイビール」へと繋がるライブアレンジはこの日はなかったために、やはり前日とは全く違う内容のライブになるのがわかる。
なので少し曲間を作ってから演奏されたのは、
「ここが世界の真ん中!」
と橋本が口にしてから始まる「春のテーマ」なのだが、曲が始まった瞬間に場内は客電が点くくらいに一気に明るくなる。それはまるで日本武道館のアンコールの最後の曲であるかのような演出であり、会場の至る部分までもがハッキリ見えるようになることでより一層ここが世界の真ん中であるように感じられる。
すると橋本はこのライブの2日後が自身の誕生日であることを明かすと、
「誕生日プレゼント持ってきた?」
と観客に問いかけるのであるが、その際に客席からはこの日が自身の誕生日であるという観客が手を挙げると、
須藤「君、MURO FESの時もいたよね?」
とすぐに1週間前のライブの時も客席にいたことがわかるというあたり、このメンバーは本当によく観客の1人1人を見ているし、その人をよく覚えている。それくらいに目の前にいる人に向き合ってライブをしているということだ。
橋本「誕生日の日に劇団四季を見に行く予定だったんだけど、その公演が中止になっちゃって。自分のライブが延期になったりしても「もうしょうがない!」みたいにあんまり気にしないんだけど…」
須藤「いやいや、この前めちゃくちゃ落ち込んでたから!(笑)」
橋本「(笑)予定なくなったから、誕生日の分の体力まで前借りしてやります!」
とさらにパワーを込めてから「八王子」というワードが入ったボーカル部分をイントロに追加しながら関がギターを刻んで始まったのは「星世界航行曲」であり、サビのファルセット混じりの橋本のボーカルの安定感もリリース当時とは比べ物にならないくらいの歌唱力の向上を感じさせるが、
「携帯の電波じゃ君を探せない」
という締めのフレーズは本当に大事なものがなんなのかということを我々に問いかけてきているかのように響く。
前日にも演奏された曲ではあるけれど、「ニューマニア」の曲たちの中に挟むように後半で演奏した前日とこの流れで演奏されたこの日とではまた全く曲の響き方が違うというか、よりロマンチックに感じられるような「ウルトラマリン」ではやはりこの日も観客が
「1番綺麗な君を見てた」
のフレーズに合わせて拳ではなくて人差し指を突き上げるのであるが、その際に1階の最前列中央にいた女性2人組が橋本に声をかけられて肩を抱き合っていた。その表情は後ろにいた自分からはわからないけれど、配信の画面には映ることはないであろうその表情こそが1番綺麗なものなんじゃないかと思う。橋本はその2人を見てどう思っていたのだろうか。目の前で2人が号泣していたりしたらもらってしまって歌えなくなってしまいそうなものでもあるけど。
そんなライブだからこそ見ることができる、感じることができるものを曲として、音楽として封じ込めたのが「Predawn」であり、
「それなら夜は煌めくだろう
そのうち夜は明けるだろう」
という歌詞が真っ直ぐに、かつ高い天井にまで伸びていく。きっと八王子のライブハウスで夜に何度も響き渡っていたこの曲が八王子の大きなホールで鳴っている。きっとMatch Boxとかの八王子のライブハウスでこの曲たちを聴くことができていたらもっと感じることは変わっていたんだろうなと思う。
前日には怒涛のショートチューンラッシュの中で演奏された「Tough to be a Hugh」はこの日は橋本がアカペラで歌い始めると、そこにメンバーの歌声が重なるという形の入り方に。そうして同じ曲でもライブごとに流れが変われば曲の形もガラッと変わる。これはセトリを見るだけでは決してわからないハルカミライのライブの魅力だ。最後のコーラス部分ではやはり観客が飛び跳ねまくったことによって、2階席はめちゃくちゃ揺れていたのが、もうこの段階ではそうなることを嬉しくすら思っていた。コロナ禍のホールでのライブでもハルカミライのライブの力も観客の熱狂も全く変わっていないことがその揺れによってわかるからだ。
「昔「21世紀」っていう曲を作って。21世紀もあと80年くらい?22世紀になるときには俺らはもうくたばってるだろうけど、そうして終わることによってまた新しく始まる。このライブが終わったらまた新しいことが始まる。卒業すればまた新しい生活や人生が始まる」
という思いを込めるように関がギターを鳴らして演奏されたのはまさにそうした「終わりと始まり」を切なさを感じさせるメロディとサウンドによって描く「21世紀」。
でもなんだかこうしてライブを観ていると、ハルカミライのメンバーたちは22世紀になってもこうして変わることなくライブをやっているんじゃないかとすら思える。もちろん現実的には生きていても100歳を超えているだけに不可能なことだろうけど、でもこの4人はそう思わせてくれるオーラのようなものが確かにある。それを感じられるバンドは他にいないと言っていい。(それこそヒロト&マーシーくらいか)
「俺達が居なくなっても、俺達の曲は22世紀になっても残っていく」
と橋本は口にしたが、それは間違いなくそうなる。今ですら新しいものとは言えないハルカミライのパンクサウンドはこんなにたくさんの人に突き刺さっているのだから。それは100年後、200年後でもずっと変わることがないもの。そんな時代でもみんなモッシュやダイブをしながらハルカミライの曲を大合唱しているんだろうなという変わらない景色が確かに脳内に浮かんでくる。
そんな切なさをさらに加速させる「Mayday」の橋本のファルセット混じりのボーカルはより一層切なさを加速させるというか、自分の中から過ぎ去っていったものを思い出させるのであるが、この曲を今音源で聴くとパンクさはほとんど感じられず、むしろストレートな歌モノギターロックという印象を感じる。それでもライブではやっぱりパンクさを感じるのは小松のぶっ叩くドラムなどのバンドの鳴らす音の強さによるものだ。だから単なる切なさではなくてそれを超えて先に進んでいく強さを与えてくれているような感覚になるのだ。
さらには真っ赤な照明がステージを照らすのは橋本のボーカルとそこに重なるメンバーのコーラスが
「君には全てをあげるよ
愛も憎しみも歓喜も悲哀も
だから君の全てをくれよ」
という歌詞にまさに真っ赤に燃え盛るような激情や情念を宿らせる「ラブソング」。鳴らしているサウンドこそ轟音ではあるが、テンポはハルカミライの曲の中では遅めと言っていい曲。そんな曲ですら聴いているこちらの体と心が奥底から震えて、どうしても感情が溢れ出てきてしまう。そんな力をハルカミライのライブと鳴らす音は確かに持っている。
MURO FESで演奏されて来場者を歓喜させた「パレード」はやはり直前までの切なさとは全く違う、まさにこのライブ、この瞬間こそが「愛のパレード」であるかのような祝祭感を感じさせてくれるように響く。それはきっとこれからもこの曲が演奏された場所や瞬間がそうなっていくということを示しているのだが、前日は終盤で演奏された「世界を終わらせて」も橋本によるアカペラ歌唱から爆音のバンドサウンドへと展開することによって、その瞬間に両腕を突き上げて叫びたくなるようなカタルシスをもたらしてくれる。やはりサビでは拳を振り上げながら歓喜が飛び跳ねることによって、地震が起こってるのかと思うくらいに2階席は揺れる。その全てが幸せだと感じることができている。
そして前日は演奏されなかった「PEAK'D YELLOW」での小松によるパンクなビートのみになったりするというサウンドの押し引きがクライマックスへ向けてのさらなる興奮と熱狂を生み出していく。それはまさに、拾って集めた名言も意味がなくなってしまうくらいに、ただただ目の前で鳴っている音と、はしゃぐようにして楽しそうにそれを鳴らしているメンバーの姿に我々は明かりの先を感じているのだ。
すると何故かこのタイミングで小松が素肌に青いジャケットを着てドラムセットからステージ前へと出てくる。4人がステージ前に並んで歌うという始まり方をやりがちな「春のテーマ」も「世界を終わらせて」もすでに演奏しているだけにこのタイミングで何を?と思ったら、このタイミングで2月1日に日本武道館ワンマンを行うことを発表し、会場は大きな拍手に包まれる。すでに対バンライブで2回武道館に立っているし、武道館よりキャパが大きい幕張メッセでもワンマンをやっている。それでも武道館でワンマンをやるということが特別なことであるということをわかっているからこそ、こうして敢えて4人で並んだ状態で発表することにしたんだろう。
「武道館でワンマンやるときに武道館の建物の前で写真撮るじゃん?宣伝用に。俺らもこの前その写真を撮ってきたんだけど、普通に通りがかった兄ちゃんに「ハルカミライの皆さんですよね?」って声かけられて。ずっと黙ってたあいつ凄えよ!(笑)」
と自分たちが武道館でワンマンをやること以上に、内緒にしてくれていた自分たちのファンを称える。それはそんな自分たちのファンを誇りに思っているからというのもあるだろうけれど、今からその武道館の照明などで演奏されるのを見るのが楽しみになる「赤青緑で白いうた」では橋本のポエトリー的なボーカルに合わせてやはりステージをタイトル通りの色の照明が照らしていく。小松がここにきて青いジャケットを着たのもこの曲のためだったんだなということもわかるけれど、
「俺たちも嬉しいし、発表することでみんなが嬉しくなってくれるのがわかるのが本当に幸せだ」
というセリフは、橋本学という人間は、このバンドはそうしてあらゆる人を幸せに笑顔にする宿命を持って生まれてきたんじゃないかと思ってしまうほど。それは本当に我々にとってのスーパーヒーローそのものだ。
するとイントロで関が哀切なギターのサウンドを鳴らすと、ステージ背面には星空というよりはもっと近く、我々が宇宙空間の中にいるかのような星たちの煌めきを想起させるような照明の光が。思わず橋本もそれを見て「キレイだ」と口にしていたのだが、そんなキレイな空間の中で演奏されるのはもちろん「宇宙飛行士」。マイクスタンドに向かって祈るような表情で歌う橋本のボーカルが宇宙にまで伸びていくかのような照明。アウトロ部分では橋本は
「写真はまだ見れないけどさ」
と「アストロビスタ」の中の、ライブではこの「宇宙飛行士」の
「生まれ変わったら会いに行くよ 今度は私から」
というフレーズに変えて歌うフレーズを口にした。それはその2曲が紛れもなく繋がりあっている物語であり、視点が違う2人の曲であることを示していて、だからこそ次にはもちろん「アストロビスタ」が演奏される。
宇宙の空のような照明ではなくなったのは視点が地球に移ったからだろうけれど、そこではやはりいつものように「宇宙飛行士」のフレーズに入れ換えて歌われるのであるが、さらに橋本は曲中に
「俺、頑張るよ。あいつら、やっぱりすげぇって言われたいから。いろんな先輩もいるけど、俺たちは俺たちの道を行く」
と口にする。それは階段を1つずつ順番に登っていくのではなく、もう武道館以上の場所に立ってきたハルカミライというバンドだからこその歩き方をそのまま示しているし、そんな自分たちだけの歩き方をするバンドだからこそアウトロでは
「俊のベースは、小松のドラムは、大地のギターは、俺のボーカルは、きっとお前の人生を救うよ」
と付け足した。ああ、きっとじゃなくて、出会ってからこの日までの数年間でこのバンドに救われ続けているんだけどな、と思ったのは自分だけじゃないはず。それを橋本はわかっているだろうから、これから先の人生をもっと救ってやるという意志を込めてその言葉を口にしたんじゃないかと思う。
そんな橋本は今、この2日間はもう八王子のホテルに泊まるようになったという地元との微妙な距離感を口にし、同じホテルに泊まっていた女性の観客(2階席で手を振っていた2人組だろう)に声をかけられてもコミュ障を発揮して上手く対応出来なかったという八王子エピソードを口にすると、最後にメンバーが円陣を組んで気合いを入れてから、須藤、関、小松がステージ中央で向かい合うようにして
「今日も駐輪場を通ってきたな」
と言って演奏されたのはもちろん「ヨーロービル、朝」。
その爆音であり轟音の、でもその中に優しさを感じさせるサウンドと橋本の自分の抱えている、今伝えたい思いを100%素直にそのまま絞り出すような鬼気迫るボーカル。目が悪くなりそうなくらいに明滅する照明。その全てに震わされるような、一瞬たりとも目を離すことができないくらいの光景を見ていて、やっぱりこの曲はこの街を歌った曲なんだなと思った。だからこのライブで他のどの曲よりも突き刺さるように響いてくる。この街でこの曲を鳴らしているということをここに刻み込むかのように。
「形のないものに必死に名前と意味を付け足して 息をしている」
という歌詞は、まさにこうして音楽を聴くことによって息をしている=生きていることを実感することができる我々のための歌詞のようだ。この曲はこの街の曲であり、そしてここにいる1人1人のための曲だった。
アンコールを待つ観客が手拍子をしてメンバーを招くと、4人は楽器を持たずにステージに並び、
「今日はこれで完璧だった。だからアンコールはやらないで終わりにする」
と、この日はアンコールをやらないことを告げて1人1人がまさに一言ずつというくらいに短い挨拶をして去っていく。
自分が行ったツアーの川崎クラブチッタの初日もそうしてアンコールをやらなかったが、確かにこの日の「ヨーロービル、朝」の後にどんな曲をやってもそれは蛇足になってしまうかもしれないし、あの曲の余韻を消してしまうことになる。決して音楽でも言葉でも嘘をついたり取り繕ったり、必要以上に良いことを言おうとしない、ただただ自分たちが本当に今考えていることだけを音楽や言葉にしてきたハルカミライだからこそ、その選択で間違いないと思った。
しかしそれでも止むことのないアンコールを求める手拍子に応えてメンバーはダッシュで登場して「ファイト!!」を演奏して高速で去って行った。そのあまりの見事さにはもう笑うしかなかった。どうすればこの瞬間に最も自分たちがやりたいことで観客を熱狂させることができるかというのを本能的に理解することができている。やはりハルカミライは今の日本最強のライブバンドの一つだなと思わざるを得なかった。
「ホールでまたやることがあるかもしれないけど」
と橋本は言っていたが、それはモッシュもダイブも封じられたコロナ禍という状況だからこその選択だったかもしれないし、本質的にはハルカミライが1番生きる状況はメンバーも客席に突入しまくることができるようなライブハウスと言っていいだろう。
でもそれができない今だからこそ、そうじゃない場所で見るハルカミライのライブもやっぱり最高で最強だということを確かめることができる。果たして武道館のワンマンの時にはどんな光景を我々に見せてくれるのだろうか。それを見たいという思いだけで、少なくとも2月までは絶対くたばることはできない。その日までも、それ以降もずっと、わがままでいようぜ。
1.君にしか
2.デイドリーム
3.カントリーロード
4.ファイト!!
5.俺達が呼んでいる
6.春のテーマ
7.星世界航行曲
8.ウルトラマリン
9.Predawn
10.Tough to be a Hugh
11.21世紀
12.Mayday
13.ラブソング
14.パレード
15.世界を終わらせて
16.PEAK'D YELLOW
17.赤青緑で白いうた
18.宇宙飛行士
19.アストロビスタ
八王子に泊まった
20.ヨーロービル、朝
encore
21.ファイト!!
で、実際に客席にいるとすでにステージ上の装飾が全く違うということに気付く。前日はなかった「HRKMRI IS ALWAYS AT THE LIVE HOUSE」の巨大な幕がかかっており、その前にも小さな4つのフラッグがかかっており、まさにこのホールの会場を前日以上にライブハウスにしようという意図がこの時点でわかる。
18時を少し過ぎたところで前日同様に先に関大地(ギター)、須藤俊(ベース)、小松謙太(ドラム)の3人がステージに登場すると、須藤は
「昨日も来てくれた人にはごめんだけど、昨日とセトリ一緒だから〜」
と言うのであるが、それは絶対ないだろうということはここにいる人たちはこれまでに見てきたライブに同じものが全くなかったということでわかっていたことであろう。
その言葉の後に前日同様に巨大フラッグを持った橋本学(ボーカル)も登場すると、
「今日もやるぞー!」
と叫んで「君にしか」から始まるというのは前日と変わらないスタートであるだけに、本当に昨日と同じ?と一瞬思う…ということは全くないというのは、この曲で始まるのはハルカミライのライブの定番でもあるのだが、その直後に演奏されたのが「デイドリーム」というあたりからしてもう前日とは全く違うということがわかるし、そもそも「ニューマニア」のツアーファイナルだった前日とは違って、この日のライブタイトルは「ヨーロー劇場2022 -10-」となっている。その段階でもはや違うライブになるということはわかりきっているのだが、前日の序盤はどこか響きを確かめるように歌っていた橋本もこの日は最初からその喉に宿る力をぶっ放すかのような歌唱で、
「今すぐ会いに行けたなら
時間も場所も飛び越えて行けたなら」
という歌詞を歌うことによって、ハルカミライが本当にその通りに我々に会いに来てくれたんだなと思えてくる。
その橋本の絶好調っぷりは「カントリーロード」で関がこの日はアンプの上に登ってギターソロを決めて大ジャンプする様を
「うちのスーパーギタリスト!」
と紹介した後に橋本が
「今日ライブ終わったら貸切で打ち上げやるから。みんな来ていいよ(笑)
今日も余裕で昨日を超えてる!」
と叫んだことからもわかるのだが、つまり昨日すでにここでライブをやって感覚を掴んでいるだけに、この日は絶好調ということである。
自分はこの日は2階席の1列目で見ていたのだが、早くも演奏されたショートチューン「ファイト!!」で2階席がぐらんぐらん揺れているのが確かにわかる。それくらいに観客が熱狂して飛び跳ねまくっているということであるが、「俺達が呼んでいる」では関がギターを抱えたままで前回り受け身を取るようにステージ下手側に走り出して回転。パンクなサウンドに合わせてメンバーの暴れっぷりも明らかにパンクになっていくのであるが、前日も含めて最近のライブでは定番になっている曲間一切なしでショートチューン「フルアイビール」へと繋がるライブアレンジはこの日はなかったために、やはり前日とは全く違う内容のライブになるのがわかる。
なので少し曲間を作ってから演奏されたのは、
「ここが世界の真ん中!」
と橋本が口にしてから始まる「春のテーマ」なのだが、曲が始まった瞬間に場内は客電が点くくらいに一気に明るくなる。それはまるで日本武道館のアンコールの最後の曲であるかのような演出であり、会場の至る部分までもがハッキリ見えるようになることでより一層ここが世界の真ん中であるように感じられる。
すると橋本はこのライブの2日後が自身の誕生日であることを明かすと、
「誕生日プレゼント持ってきた?」
と観客に問いかけるのであるが、その際に客席からはこの日が自身の誕生日であるという観客が手を挙げると、
須藤「君、MURO FESの時もいたよね?」
とすぐに1週間前のライブの時も客席にいたことがわかるというあたり、このメンバーは本当によく観客の1人1人を見ているし、その人をよく覚えている。それくらいに目の前にいる人に向き合ってライブをしているということだ。
橋本「誕生日の日に劇団四季を見に行く予定だったんだけど、その公演が中止になっちゃって。自分のライブが延期になったりしても「もうしょうがない!」みたいにあんまり気にしないんだけど…」
須藤「いやいや、この前めちゃくちゃ落ち込んでたから!(笑)」
橋本「(笑)予定なくなったから、誕生日の分の体力まで前借りしてやります!」
とさらにパワーを込めてから「八王子」というワードが入ったボーカル部分をイントロに追加しながら関がギターを刻んで始まったのは「星世界航行曲」であり、サビのファルセット混じりの橋本のボーカルの安定感もリリース当時とは比べ物にならないくらいの歌唱力の向上を感じさせるが、
「携帯の電波じゃ君を探せない」
という締めのフレーズは本当に大事なものがなんなのかということを我々に問いかけてきているかのように響く。
前日にも演奏された曲ではあるけれど、「ニューマニア」の曲たちの中に挟むように後半で演奏した前日とこの流れで演奏されたこの日とではまた全く曲の響き方が違うというか、よりロマンチックに感じられるような「ウルトラマリン」ではやはりこの日も観客が
「1番綺麗な君を見てた」
のフレーズに合わせて拳ではなくて人差し指を突き上げるのであるが、その際に1階の最前列中央にいた女性2人組が橋本に声をかけられて肩を抱き合っていた。その表情は後ろにいた自分からはわからないけれど、配信の画面には映ることはないであろうその表情こそが1番綺麗なものなんじゃないかと思う。橋本はその2人を見てどう思っていたのだろうか。目の前で2人が号泣していたりしたらもらってしまって歌えなくなってしまいそうなものでもあるけど。
そんなライブだからこそ見ることができる、感じることができるものを曲として、音楽として封じ込めたのが「Predawn」であり、
「それなら夜は煌めくだろう
そのうち夜は明けるだろう」
という歌詞が真っ直ぐに、かつ高い天井にまで伸びていく。きっと八王子のライブハウスで夜に何度も響き渡っていたこの曲が八王子の大きなホールで鳴っている。きっとMatch Boxとかの八王子のライブハウスでこの曲たちを聴くことができていたらもっと感じることは変わっていたんだろうなと思う。
前日には怒涛のショートチューンラッシュの中で演奏された「Tough to be a Hugh」はこの日は橋本がアカペラで歌い始めると、そこにメンバーの歌声が重なるという形の入り方に。そうして同じ曲でもライブごとに流れが変われば曲の形もガラッと変わる。これはセトリを見るだけでは決してわからないハルカミライのライブの魅力だ。最後のコーラス部分ではやはり観客が飛び跳ねまくったことによって、2階席はめちゃくちゃ揺れていたのが、もうこの段階ではそうなることを嬉しくすら思っていた。コロナ禍のホールでのライブでもハルカミライのライブの力も観客の熱狂も全く変わっていないことがその揺れによってわかるからだ。
「昔「21世紀」っていう曲を作って。21世紀もあと80年くらい?22世紀になるときには俺らはもうくたばってるだろうけど、そうして終わることによってまた新しく始まる。このライブが終わったらまた新しいことが始まる。卒業すればまた新しい生活や人生が始まる」
という思いを込めるように関がギターを鳴らして演奏されたのはまさにそうした「終わりと始まり」を切なさを感じさせるメロディとサウンドによって描く「21世紀」。
でもなんだかこうしてライブを観ていると、ハルカミライのメンバーたちは22世紀になってもこうして変わることなくライブをやっているんじゃないかとすら思える。もちろん現実的には生きていても100歳を超えているだけに不可能なことだろうけど、でもこの4人はそう思わせてくれるオーラのようなものが確かにある。それを感じられるバンドは他にいないと言っていい。(それこそヒロト&マーシーくらいか)
「俺達が居なくなっても、俺達の曲は22世紀になっても残っていく」
と橋本は口にしたが、それは間違いなくそうなる。今ですら新しいものとは言えないハルカミライのパンクサウンドはこんなにたくさんの人に突き刺さっているのだから。それは100年後、200年後でもずっと変わることがないもの。そんな時代でもみんなモッシュやダイブをしながらハルカミライの曲を大合唱しているんだろうなという変わらない景色が確かに脳内に浮かんでくる。
そんな切なさをさらに加速させる「Mayday」の橋本のファルセット混じりのボーカルはより一層切なさを加速させるというか、自分の中から過ぎ去っていったものを思い出させるのであるが、この曲を今音源で聴くとパンクさはほとんど感じられず、むしろストレートな歌モノギターロックという印象を感じる。それでもライブではやっぱりパンクさを感じるのは小松のぶっ叩くドラムなどのバンドの鳴らす音の強さによるものだ。だから単なる切なさではなくてそれを超えて先に進んでいく強さを与えてくれているような感覚になるのだ。
さらには真っ赤な照明がステージを照らすのは橋本のボーカルとそこに重なるメンバーのコーラスが
「君には全てをあげるよ
愛も憎しみも歓喜も悲哀も
だから君の全てをくれよ」
という歌詞にまさに真っ赤に燃え盛るような激情や情念を宿らせる「ラブソング」。鳴らしているサウンドこそ轟音ではあるが、テンポはハルカミライの曲の中では遅めと言っていい曲。そんな曲ですら聴いているこちらの体と心が奥底から震えて、どうしても感情が溢れ出てきてしまう。そんな力をハルカミライのライブと鳴らす音は確かに持っている。
MURO FESで演奏されて来場者を歓喜させた「パレード」はやはり直前までの切なさとは全く違う、まさにこのライブ、この瞬間こそが「愛のパレード」であるかのような祝祭感を感じさせてくれるように響く。それはきっとこれからもこの曲が演奏された場所や瞬間がそうなっていくということを示しているのだが、前日は終盤で演奏された「世界を終わらせて」も橋本によるアカペラ歌唱から爆音のバンドサウンドへと展開することによって、その瞬間に両腕を突き上げて叫びたくなるようなカタルシスをもたらしてくれる。やはりサビでは拳を振り上げながら歓喜が飛び跳ねることによって、地震が起こってるのかと思うくらいに2階席は揺れる。その全てが幸せだと感じることができている。
そして前日は演奏されなかった「PEAK'D YELLOW」での小松によるパンクなビートのみになったりするというサウンドの押し引きがクライマックスへ向けてのさらなる興奮と熱狂を生み出していく。それはまさに、拾って集めた名言も意味がなくなってしまうくらいに、ただただ目の前で鳴っている音と、はしゃぐようにして楽しそうにそれを鳴らしているメンバーの姿に我々は明かりの先を感じているのだ。
すると何故かこのタイミングで小松が素肌に青いジャケットを着てドラムセットからステージ前へと出てくる。4人がステージ前に並んで歌うという始まり方をやりがちな「春のテーマ」も「世界を終わらせて」もすでに演奏しているだけにこのタイミングで何を?と思ったら、このタイミングで2月1日に日本武道館ワンマンを行うことを発表し、会場は大きな拍手に包まれる。すでに対バンライブで2回武道館に立っているし、武道館よりキャパが大きい幕張メッセでもワンマンをやっている。それでも武道館でワンマンをやるということが特別なことであるということをわかっているからこそ、こうして敢えて4人で並んだ状態で発表することにしたんだろう。
「武道館でワンマンやるときに武道館の建物の前で写真撮るじゃん?宣伝用に。俺らもこの前その写真を撮ってきたんだけど、普通に通りがかった兄ちゃんに「ハルカミライの皆さんですよね?」って声かけられて。ずっと黙ってたあいつ凄えよ!(笑)」
と自分たちが武道館でワンマンをやること以上に、内緒にしてくれていた自分たちのファンを称える。それはそんな自分たちのファンを誇りに思っているからというのもあるだろうけれど、今からその武道館の照明などで演奏されるのを見るのが楽しみになる「赤青緑で白いうた」では橋本のポエトリー的なボーカルに合わせてやはりステージをタイトル通りの色の照明が照らしていく。小松がここにきて青いジャケットを着たのもこの曲のためだったんだなということもわかるけれど、
「俺たちも嬉しいし、発表することでみんなが嬉しくなってくれるのがわかるのが本当に幸せだ」
というセリフは、橋本学という人間は、このバンドはそうしてあらゆる人を幸せに笑顔にする宿命を持って生まれてきたんじゃないかと思ってしまうほど。それは本当に我々にとってのスーパーヒーローそのものだ。
するとイントロで関が哀切なギターのサウンドを鳴らすと、ステージ背面には星空というよりはもっと近く、我々が宇宙空間の中にいるかのような星たちの煌めきを想起させるような照明の光が。思わず橋本もそれを見て「キレイだ」と口にしていたのだが、そんなキレイな空間の中で演奏されるのはもちろん「宇宙飛行士」。マイクスタンドに向かって祈るような表情で歌う橋本のボーカルが宇宙にまで伸びていくかのような照明。アウトロ部分では橋本は
「写真はまだ見れないけどさ」
と「アストロビスタ」の中の、ライブではこの「宇宙飛行士」の
「生まれ変わったら会いに行くよ 今度は私から」
というフレーズに変えて歌うフレーズを口にした。それはその2曲が紛れもなく繋がりあっている物語であり、視点が違う2人の曲であることを示していて、だからこそ次にはもちろん「アストロビスタ」が演奏される。
宇宙の空のような照明ではなくなったのは視点が地球に移ったからだろうけれど、そこではやはりいつものように「宇宙飛行士」のフレーズに入れ換えて歌われるのであるが、さらに橋本は曲中に
「俺、頑張るよ。あいつら、やっぱりすげぇって言われたいから。いろんな先輩もいるけど、俺たちは俺たちの道を行く」
と口にする。それは階段を1つずつ順番に登っていくのではなく、もう武道館以上の場所に立ってきたハルカミライというバンドだからこその歩き方をそのまま示しているし、そんな自分たちだけの歩き方をするバンドだからこそアウトロでは
「俊のベースは、小松のドラムは、大地のギターは、俺のボーカルは、きっとお前の人生を救うよ」
と付け足した。ああ、きっとじゃなくて、出会ってからこの日までの数年間でこのバンドに救われ続けているんだけどな、と思ったのは自分だけじゃないはず。それを橋本はわかっているだろうから、これから先の人生をもっと救ってやるという意志を込めてその言葉を口にしたんじゃないかと思う。
そんな橋本は今、この2日間はもう八王子のホテルに泊まるようになったという地元との微妙な距離感を口にし、同じホテルに泊まっていた女性の観客(2階席で手を振っていた2人組だろう)に声をかけられてもコミュ障を発揮して上手く対応出来なかったという八王子エピソードを口にすると、最後にメンバーが円陣を組んで気合いを入れてから、須藤、関、小松がステージ中央で向かい合うようにして
「今日も駐輪場を通ってきたな」
と言って演奏されたのはもちろん「ヨーロービル、朝」。
その爆音であり轟音の、でもその中に優しさを感じさせるサウンドと橋本の自分の抱えている、今伝えたい思いを100%素直にそのまま絞り出すような鬼気迫るボーカル。目が悪くなりそうなくらいに明滅する照明。その全てに震わされるような、一瞬たりとも目を離すことができないくらいの光景を見ていて、やっぱりこの曲はこの街を歌った曲なんだなと思った。だからこのライブで他のどの曲よりも突き刺さるように響いてくる。この街でこの曲を鳴らしているということをここに刻み込むかのように。
「形のないものに必死に名前と意味を付け足して 息をしている」
という歌詞は、まさにこうして音楽を聴くことによって息をしている=生きていることを実感することができる我々のための歌詞のようだ。この曲はこの街の曲であり、そしてここにいる1人1人のための曲だった。
アンコールを待つ観客が手拍子をしてメンバーを招くと、4人は楽器を持たずにステージに並び、
「今日はこれで完璧だった。だからアンコールはやらないで終わりにする」
と、この日はアンコールをやらないことを告げて1人1人がまさに一言ずつというくらいに短い挨拶をして去っていく。
自分が行ったツアーの川崎クラブチッタの初日もそうしてアンコールをやらなかったが、確かにこの日の「ヨーロービル、朝」の後にどんな曲をやってもそれは蛇足になってしまうかもしれないし、あの曲の余韻を消してしまうことになる。決して音楽でも言葉でも嘘をついたり取り繕ったり、必要以上に良いことを言おうとしない、ただただ自分たちが本当に今考えていることだけを音楽や言葉にしてきたハルカミライだからこそ、その選択で間違いないと思った。
しかしそれでも止むことのないアンコールを求める手拍子に応えてメンバーはダッシュで登場して「ファイト!!」を演奏して高速で去って行った。そのあまりの見事さにはもう笑うしかなかった。どうすればこの瞬間に最も自分たちがやりたいことで観客を熱狂させることができるかというのを本能的に理解することができている。やはりハルカミライは今の日本最強のライブバンドの一つだなと思わざるを得なかった。
「ホールでまたやることがあるかもしれないけど」
と橋本は言っていたが、それはモッシュもダイブも封じられたコロナ禍という状況だからこその選択だったかもしれないし、本質的にはハルカミライが1番生きる状況はメンバーも客席に突入しまくることができるようなライブハウスと言っていいだろう。
でもそれができない今だからこそ、そうじゃない場所で見るハルカミライのライブもやっぱり最高で最強だということを確かめることができる。果たして武道館のワンマンの時にはどんな光景を我々に見せてくれるのだろうか。それを見たいという思いだけで、少なくとも2月までは絶対くたばることはできない。その日までも、それ以降もずっと、わがままでいようぜ。
1.君にしか
2.デイドリーム
3.カントリーロード
4.ファイト!!
5.俺達が呼んでいる
6.春のテーマ
7.星世界航行曲
8.ウルトラマリン
9.Predawn
10.Tough to be a Hugh
11.21世紀
12.Mayday
13.ラブソング
14.パレード
15.世界を終わらせて
16.PEAK'D YELLOW
17.赤青緑で白いうた
18.宇宙飛行士
19.アストロビスタ
八王子に泊まった
20.ヨーロービル、朝
encore
21.ファイト!!