ハルカミライ 「オールニューマニア」 @J:COMホール八王子 7/30
- 2022/07/31
- 20:00
メンバーの体調不良による延期(検査の結果は陰性で先週のMURO FESから復活)という悔し過ぎるであろう経験もしたライブハウスでの対バンを経て辿り着いた、ハルカミライが今年リリースしたアルバム「ニューマニア」ツアーファイナルの地はバンドにとっての地元である八王子はJ:COMホール。先月には川崎クラブチッタでのHEY-SMITHとの対バンも観ているし、イベントやフェスなどにも出演しまくっているからライブを見れる機会はたくさんあるバンドであるが、やはりこの場所で見れるというのはどこか今までのハルカミライのライブに行くよりも胸が高鳴るというか、特別な感覚にしてくれる。
千葉から電車で2時間半ほどという都内とは思えないくらいの時間をかけて到着した八王子の駅からすぐ近くの「え?この中?」と思うビルの中にあるJ:COMホールは規模感こそ各地にあるホールくらいのものかもしれないが、まだ新しい会場なんだろうなと思うくらいにハルカミライがライブをする場所にしてはキレイな内装で、こんなビルの中にこんな会場があるのかと驚いてしまう。
開演時間の18時を少し過ぎた頃に新世界リチウムの「喝さい」がBGMとして流れる中、先に関大地(ギター)、須藤俊(ベース)、小松謙太(ドラム)の3人がステージに登場。須藤は真夏でもいつものモッズコートを着ているというのは変わらないが、関はこの日はTシャツだけではなくてパンツも含めて上下赤で統一し、小松は最初から上半身裸になっている。
その後に橋本学(ボーカル)がアルバムリリース後からは定番になっている巨大フラッグを持ってステージに登場すると、
「よっしゃやるぞー!」
と叫んでおなじみの「君にしか」でスタートし、橋本はマイクスタンドを掴んで飛び跳ねながら歌う。その姿はホールだからといって変わることはないが、客席の観客たちはこの状況でも席の間隔などライブハウスに比べると自由度が低いホールであっても最初から腕を振り上げていて、ライブの楽しみ方が変わってもハルカミライのライブへの熱量は全く変わっていないことがわかる。それは
「君にしか聴こえない 君にしか聴こえない」
という歌詞が、まさに今こうしてハルカミライが目の前で音を鳴らしてくれている我々のためのもののように響くからだ。
そのまま「カントリーロード」へと続くのはおなじみの流れではあるが、普段のライブハウスでは間奏でスピーカーの上に乗ったりする関もホールであるこの日はさすがにそうはできないというか、そうできる場所がないだけにステージ上手から下手へギターを抱えて猛ダッシュしてそのまま転げ回りながらソロを弾きまくる。自身のマイクスタンドを中央に持ってきてコーラスをする須藤もそうだけれど、これだけ激しく動き回ったり暴れ回ったりするバンドが一貫して有線のままでアンプにシールドを挿すことを変えないというあたりにハルカミライのライブハウスバンドっぷりを感じざるを得ない。
八王子にいながらなして
「江ノ島のカモメのように」
という歌詞が爽やかな青春の情景を想起させる「ヨーローホー」では橋本のブルースハープが吹き荒れるのであるが、序盤はあまり慣れていないであろうホールでのサウンドのバランスの問題によるものか、橋本のボーカルがハッキリとは聞き取れないような場面もちょこちょこあり、だからか橋本もいつも以上に丁寧に歌っているというような印象が強かった。
橋本「下の階に市役所あっただろ?あそこに何回も住所変更しにきた(笑)俊が引っ越しするたびにみんなで手伝って、大変だったな〜。そうやって堅苦しいことばかりしてきた場所だけど、今日は堅苦しいことせずに楽しもうぜ!」
と地元だからこそのこの場所への思い出を口にすると、そんな地元であるが故に特別なものを期待してしまう観客に対して
須藤「あんまりレア曲とか過度な期待されても困るけどね(笑)」
と牽制しながらも、この4人のことを曲にした「QUATTRO YOUTH」というみんなが聴きたいであろう曲をやってくれるというのはさすがであるし、客席に飛び込めない関が背中から小松のドラムセットにダイブをしてドラムセットの上で寝そべりながらギターを弾き、小松もそんな状態でもバスドラをちゃんと踏んでリズムをキープしながら関に当たらないようにという配慮からか素手でドラムを叩いているという光景もハルカミライの無茶苦茶さや衝動がホールのステージになっても全く変わらないということを証明している。
そんなバンドの衝動が最大限に炸裂するショートチューン「ファイト!!」から「俺達が呼んでいる」へと至るのはこれまでのライブでもおなじみの、ハルカミライのパンクさを担う部分であり、橋本は早くも脱いだ白のロンTを腕に巻きつけて振り回すようにして歌うのであるが、1つの同じ曲というか「俺達が呼んでいる」の延長部分であるかのように一切の間もなく「ニューマニア」のショートチューンの「フルアイビール」を繋げるというのはこうして新作が生まれることで過去の曲やライブ全体の流れそのものをアップデートすることができるというハルカミライのライブモンスターたる所以が確かに感じられるものである。
しかしながら、
須藤「まだみんなのテンションの高さについていけてない気がしてる」
と、自分たちが観客に比べてまだ完全に100%の状態になっていないことを察知し、トライバルなリズムの「フュージョン」からショートチューンを連発するのだが、「Tough to be a Hugh」で拳を振り上げて飛び跳ねさせまくるなど、バンドもそうだが観客のテンションも相乗的により高くなってしまっている。それは疾走するツービートのパンクサウンドに乗せて
「この指止まれ 止まれ」
と歌われることによって、それまでは拳を振り上げていた観客が人差し指を突き出す「エース」ももちろんそうであるが、メンバー全員が思いっきり声を振り絞るようにして歌っている姿を見てその歌声を聴くと、またコロナ禍になる前のように客席にいる全員でハルカミライの曲を大合唱したくなってしまう。
それでも声を出したりすることなく、今のライブのルールや規制を守って楽しんでいる観客のことを讃えると、ライブでもおなじみの曲が続いた前半からはガラッと変わるように「アワーライフ」からは「ニューマニア」の曲が続いていくのだが、おそらくハルカミライというバンドの音楽的なイメージであろう「ストレートなパンク」という枠には止まらないような曲が多い内容になっている。かといっていきなりR&Bやファンクの要素を取り入れてオシャレになるのではなくて、激しさよりもメロディの力をしっかりと感じさせるようなアレンジになっていることがよくわかるし、そうすることで一筋縄ではいかないというか、「Aメロでこうきたから次はBメロでこうなるだろう」という想像をしているとそれは気持ちよく裏切られるし、ライブを重ねすぎなくらいに重ねてきたからこそ向上した演奏力や技術がそれを可能にしているということもよくわかる。
ステージを見た瞬間から天井は高いのに照明の位置は低い会場だなと思っていたのだが、その照明の奥、ステージ背面には照明の当たり方によっては「ニューマニア」のキービジュアルが時折浮かび上がるという演出はホールだからこそなのかもしれないが、そのホールだからこその視覚的な演出をこの日最も感じさせてくれたのは「飛空船「ジュブナイル号」」であり、
「町中が花火を見上げ
閃光が瞳を揺らし
歓声が褒め称える
それが風情だとまだ思えなかった
花火が終わると共に
季節が移り変わり」
という、まさに今だからこそリアリティを感じさせるようなフレーズではステージ上が真っ暗になる中で背面にはまさに花火が打ち上がっているかのような色とりどりの照明が。その光景を見ていたら、いつか広大な野外の会場でハルカミライがワンマンをやって、そこでこの曲が演奏される時に花火が打ち上がるのが見たいと思った。ハルカミライのライブを見ていると、そこまでいける、連れて行ってくれるんじゃないかと思える。それくらいの力がこの4人の鳴らしている音や姿には確かに宿っている。
一転して白一色の照明がまさに光のようにこの会場に放たれていく「ニューマニア」の先行曲である「光インザファミリー」では曲入りの小松の四つ打ちのバスドラのリズムに合わせて観客が手拍子をし、その光景を見た小松は両手の親指をグッと上に突き出す。確かに我々が小松と一緒にリズムを刻んでいて、それをメンバー自身が望んでいたということがわかった瞬間だった。東京は狂っているらしいけれど、それでもこのバンドがいれば心配ないぜと思えるような。
そんな「ニューマニア」の曲の中に挟まれても違和感なく溶け込んでいるのは前作「THE BAND STAR」収録の、この時期にピッタリな選曲であり、ちょうど「ニューマニア」とそれ以前を音楽性的に繋ぐようなメロディアスなパンクサウンドの「夏のまほろ」。この曲を聴いているとどうしても夏の高校野球の地方予選(決して甲子園ではないというところが自分の中ではハルカミライの曲としては実に重要だと思っている。そこまで行けなかった球児たちへの曲として)の光景が思い浮かぶのであるが、もしかしたら今はハルカミライの音楽を聴きながら日々練習に励み、試合に向かっている高校球児もいるんだろうかと思う。そんな思いによって、白球がフェンスを超えたらいいなとも思いながら。
「そうぽつり鼻歌」
と
「そうぽつり放った」
という語感が同じようでいて意味も全く違えば橋本の歌い方もしっかり違うように聞こえるようなものになっているだけに歌詞とボーカルの表現力のさらなる向上を感じさせる「地図」を歌い終わると橋本は徐にマイクスタンドをステージ最前まで持っていき、
「学、外に出ちゃダメだぞ」
と須藤に注意されながらもその最前部分に腰掛けると、
「今日、言いたいことがあってさ。よく「自分は自分でいい」みたいに言われたりするじゃん?それもいいんだけど、俺はちょっと違うっていうか「フリ」をするのも大事だなって思うんだ。
俺はタトゥーとか入ってるけど不良じゃない。めちゃくちゃ幸せな家庭環境で育てられたし。でも不良が見せるピンチの時の強さみたいなのってあるじゃん?「やってやらぁ!」みたいな。そういう「フリ」をしてるからそういう時に力を発揮できるっていうか。
だからみんなも俺たちの音楽を聴いて強くなった「フリ」ができるようになってくれたらいいなって思うんだよな」
と言って「明け星フューチャー」が演奏されるのであるが、きっとこうしてハルカミライのライブに来ている人たちはまさにそうしてハルカミライのライブを見たり音楽を聴くことによって、自分が強くなれるような感覚を得ているような体験をしてきたんだと思う。そうして強くなれた「フリ」を自分自身ですることによって乗り越えることができたことだってあるはず。だからその「フリ」は決して自分を偽るということではない。そこにこそハルカミライのライブでしか得られないものがあると思うし、これからもそうやってこのバンドのライブを見て少しでも強くなれた感覚を得ていたいと思う。そう思えるということは、ハルカミライのライブの力は我々の日常にまでしっかりと波及しているということだ。
で、この辺りで橋本は客席に入ってきた観客の男性に
「あんちゃん、いらっしゃい。お疲れ様。今来てくれたんだろ?あんたのために一生懸命歌うから」
と声をかけた。自分の経験上、ライブに遅刻するというのは少なからず罪悪感を感じざるを得ない。せっかくチケットが取れたのに最初から見れなくて申し訳ありませんと思ってしまう。でも橋本がこうやって声をかけてくれたらきっとそう思わなくて済む。むしろ遅れてでも急いで来てくれたということに感謝してくれているのが伝わる。きっとそれはわざわざ口に出さなくてもいいことかもしれないけれど、それを敢えて口にするあたりにハルカミライのメンバーの優しさを感じざるを得ない。
そんな橋本がステージ上に置かれたままの巨大な旗を登場時同様に手に持ったままで歌うのは
「折れない旗を振り回せ 弱っちい腕で
あんな事して何になると好きなだけ話してろ
折れない旗を振り回せ 弱っちい腕で
どデカいやつ」
というフレーズが、橋本が手にしている旗がONE PIECEのドラム島編でルフィが手にしていた、決して折れることのない海賊旗のようにすら見えてくる「ライダース」。そのフレーズにも確かにハルカミライのバンドとしての生き様が刻まれているのだが、この曲をはじめとして「ニューマニア」の曲には橋本以外のメンバーのコーラス力の圧倒的な向上を感じさせる曲が多い。全員で思いっきり歌うだけではなくて、誰がどんなキーと声量で歌を重ねるのかということをちゃんと考えて作られたコーラスであるというか。だからより一層須藤の高音コーラスも橋本のボーカルとメロディの力を際立たせるものになっているのだ。
「この会場から歩いて5分くらいのところ。上京してきて初めて住んだのがそこだった。そこで作った曲」
と言って演奏されたのは、やはり地元だからこそのレア曲をちゃんと用意してるんじゃないかと思わざるを得ない、自主制作盤収録曲「city」であるが、「ライダース」の直後に演奏されたからこそ、サビでのメンバーのコーラスが重なるメロディの美しさは今のハルカミライの曲に連なる部分が確かにあることを感じるというか、この曲と同時期に作られた曲が今になって「ニューマニア」に収録されたことにも実に納得がいくところである。結局、ハルカミライはハルカミライでしかないままというか。
関のイントロのギターのメロディだけで名曲確定であるロックなラブソングの「ウルトラマリン」がここで演奏されると、
「1番綺麗な君を見てた」
というサビのフレーズに合わせて「エース」の時と同じように観客は拳ではなくて人差し指を突き上げる。それはまるで今この瞬間に目の前に広がっている光景こそが1番綺麗なものであるかのようであり、曲を歌うにつれて普通なら喉を消耗していくはずなのに橋本は明らかに前半よりも圧倒的に声の調子が良くなっているのがはっきりとわかる。そんな橋本が腕を広げるようにして歌っているのは、我々の抱いている思いを全て受け止めてくれているかのようだ。
すると音源同様に橋本のボーカルがどこか遠くから微かに聴こえてくるかのようなボーカルサウンドの歌い出しではステージ背面からの逆光的な照明が演奏しているメンバーを照らすことによって神聖な瞬間を作り出す「ハッシャダイの丘」は曲後半では橋本のボーカルがハッキリと聞こえるようになるというのもまた音源で聴く以上にライブでは曲と音の立体感を感じさせるような、まるで二部構成の曲であるかのような演出である。そういうバンドができることが広がったという意味でもアルバムの中では重要な位置を担っている曲だと思っている。
「今日、八王子の駅を出て左に歩いてこの会場に来たんだけど、普段左側に出ることってビックカメラに行くくらいしかないんだけど(笑)、その時に俺に
「学さん、今日行きます!1階の14列目です!」
って声をかけてきた男の人がいて。来てる?(上手端側で男性が手を挙げる)いや、その構ってアピール知らん知らんと思ったんだけど(笑)、そういうのも嫌いじゃないっていうか、俺たちのライブに来てる時くらいはちょっとだけ空気が読めない感じでいて欲しいなって思う」
と、結局その男性に会場外だけではなく会場内、ライブ中でも構っているというのがやはり橋本の優しさを感じさせるというか、そうしたファンとの些細な交流やその日に会場にいる人によってその日のライブそのものが変化するという、ハルカミライのライブが毎回全く違うものになる理由となっていることがわかるのだが、そんな話をしてから橋本がアカペラでサビを歌い始め、その後に一気に爆音のバンドサウンドが重なってくる「世界を終わらせて」で橋本の歌声がここまでより圧倒的に開いていくのが確かに感じられた。なんかギアが切り替わるというか違うスイッチが入るというか。そんなライブバンドだからこその覚醒の瞬間がこの曲には確かにあって、その瞬間が「ハルカミライはやっぱりホールとかライブハウスとか関係ないというか、そうした境界や違いを無効化するライブができるバンドなんだな」と思わせてくれる。
その橋本のボーカルの覚醒っぷりはそのまま「ニューマニア」の1曲目に収録され、すでにライブでもおなじみの曲になっている「つばさ」にも繋がっていく。橋本は曲中でアコギを持って弾きながら歌うようになるのだが、そうしてアコギを持ちながら曲終わりでは
「俺たちの音楽は一生、絶対敵にならない!」
と叫ぶ。そこまでハッキリと断言してくれるバンドだからこそ、これからもずっとこうやってライブに行き続けていたいと思うのだし、それはそのまま
「でも君と行けるなら くだらないも
くだらなくなるよ そろそろ時間かもね
ねえ逃げ出さない? ねえここから」
というフレーズがハルカミライと一緒に行けるならどんなくだらない世の中でもそう感じないような場所まで逃げ出していけると思えるのだ。
持ち得るショートチューンも演奏してきたとはいえ、ここまでですでに20曲を超え、しかもバンドも観客も常にフルスロットルで駆け抜けているかのようなハルカミライのライブである。つまりは少なからず互いに疲労もあるはずで、それを察知してか橋本は観客に椅子に座ることを促すと、自身も含めてメンバー全員がステージ上に座り込んで、
「今日、学生の人っていたりする?(手を挙げている人たちを見て)おお、結構いるな。俺が言っても説得力あるかわかんないけど、めちゃくちゃ遊んだ方がいいよ。そういうことからしか得られないものもあるから。金よりも時間の方が大切だって思えるような。
思い出したんだけど、俺ここで就職の合同説明会みたいなやつにも参加したんだよね。もしバンドをやってなくて普通に働いてたりしたらそれもまた胸を張って最高だと言えると思うんだけど、でもこうやってこのバンドをやれているのが最高に楽しいと思ってる」
と言う橋本の後ろで、すでに立ち上がっていた須藤、関、小松がガッチリと握手を交わし合っているという光景にはついつい胸が熱くなってしまうのだが、それもまたハルカミライというバンドの青春が今もずっと続いているということを感じさせるような「青春讃歌」を最初は観客を座らせたままで聞かせるも、小松のビートが一気に加速しての曲後半で橋本のジェスチャーによって観客たちが一斉に立ち上がると、
「この前、中学校の同級生から連絡が来たんだ。結婚するから式で1曲歌ってくれないかって。でもその日ライブの予定あるから行けないわって断って。俺はどこか遠い場所で歌ってるけど、お互い幸せになろうな!」
と間奏部分でピッタリ収まるように青春を過ごした人物とのエピソードを口にする。そこで「ライブだから」と言えるこのバンドの生き方は本当にカッコいいなと思えるし、橋本の年齢になるとなかなか同級生に会うこと、連絡することも少なくなってくるだろうに、それでもそうした連絡が来る、同級生が橋本がバンドで歌っていることを知っているというのは橋本がそうした存在をずっと大切にし続けてきたということだ。
そんな青春の思い出は学生時代だけではなくて、この八王子に来てからもたくさんあるということを伝えるかのように、
「さっき言った、俺が最初に一人暮らしをしたここから5分くらいにあるマンションの一階に住んでて。俊がその頃に八王子のライブハウスで働いてたんだけど、夜中に大きな声で
「学ー!ラウンドワン行こうぜー!」
って声が聞こえてラウンドワンに行ったり。
バンドを始めてからは最初は全然客なんかいなかったけど、これも修行だって言って地元バンド的にずっとライブハウスに出続けて。ライブハウスが空いてる時には謎にたこ焼きバーをやらせてもらったり、小松の家族が整体師やってたからって言って、小松の整体教室みたいのやったりしてた。小松が謎に柔道着を着たりするから妙に本物感が出たりして。
八王子の話ばっかりしちゃったけど、それは八王子で生活してきた俺たちじゃないとできない話だと思っている」
という思い出話には確かにこのバンドの八王子という街への愛情を感じさせる。
「この後、友達とキャバクラばっかの街で呑んで帰る人もいるだろうし、イヤホンして1人ですぐ帰る人もいるだろうし」
という言葉からは、ここに来てくれた人にも八王子という街を少しでも好きになってくれたらという思いも感じられたが、ハルカミライの地元というだけでもうここにいた人にとっては八王子は特別な街なのだ。千葉からはかなり遠いけれど、こうした感染が拡大してしまっている状況じゃなければハルカミライの地元であるこの八王子の街を満喫したかったと思う。
そんな八王子で生きてきた4人の歌、それは今の4人にとっての「QUATTRO YOUTH」のようであり、ポエトリーリーディング的なAメロの歌唱は今の「それいけステアーズ」とも言える「赤青緑で白いうた」が演奏されると、まさにそのタイトルに合わせたようなに照明が切り替わりながらステージを照らしていく。それはそのままメンバーの普段のライブ時に着ている服の色を示しているのであるが、この曲から次の「ベターハーフ」に至るまでには橋本が曲間でライブならではの歌を挟む。その歌唱のあまりの迫力に体が、心が、魂が震えてしまう。それはホールという会場だからこそよりしっかりと感じることができたのかもしれないが、これまでに「アストロビスタ」によって担ってきたその感情を思いっきり抉られるようなハルカミライのライブの醍醐味を、この日は「ベターハーフ」が確かに担っていた。そのスケールはどこかもはやホールという規模さえ飛び越えて、月面全体を使った巨大なライブ空間にいるかのような。つまりは「ニューマニア」の曲たちによってハルカミライのライブはこれまでとはまた違った力を手に入れ、これまでよりもはるかに進化を果たしたのだ。それはまさに東京タワーすらも小さく見えるくらいにバンドがさらに巨大になったことということであり、その後の
「僕の心ずっとさらわれたままだから」
というフレーズのメロディの過去最高の美しさは、そのまま我々がハルカミライに対して抱いている思いを歌詞にしたものであった。
そんなクライマックスを描き出してもまだライブは終わらずに最後にショートチューンの「To Bring BACK MEMORIES」を演奏してパンクに終わるというのが、この地元の会場で演奏することによってこの街で生きてきた思い出を取り戻すかのようだった。
アンコールで再び4人がステージに戻ってくると、
「「ニューマニア」の曲で1曲やってないっていうか、セトリに入れ忘れた曲がある」
と言って演奏されたのは須藤が作詞作曲までを1人で手掛けた「いつでもどこにでもあって」。だからこそどこか橋本の強さと優しさを備えた歌詞よりも優しさの比率を高く感じる歌詞であるのだが、
「俺のいる場所はここでいい
君のいる場所はそこがいい」
という締めのフレーズで橋本が足元や客席を指差していたのは、須藤の書いた歌詞がそのまま橋本の歌とイコールになっていることを示している。それは自分たちのいる場所がライブのステージであり、八王子という街であるということ。我々がいる場所もまたハルカミライのライブの客席であるということ。そんな当たり前でも歌詞にはなかなかできないことを歌詞に、曲にすることができるからハルカミライの音楽とライブは深く胸に刺さってくるのだ。須藤は演奏前に
「大地弾ける?小松叩ける?」
と何故か申し訳なさげであったが。
そんなライブを圧倒的にポジティブなエネルギーで締め括ってみせるのは、まさにこの曲が鳴らされている時はここが世界の真ん中であることを示すかのような「春のテーマ」。これまでのライブでメンバーたちがそうした姿を見せてきてくれたように、観客たちが肩を組んでみんなで大合唱できるような未来が確かに脳内に浮かんでいた。そんなかつては当たり前だった景色すらも見れなくなってからもう2年半くらい。ハルカミライがいればきっとまたそんな景色を見ることができるようになるはずだと思った。
そうして場内に客電が点いてもなおアンコールを求める手拍子は止むことはなく、メンバーが2回目のアンコールに登場すると橋本は、本編中にいじった14列目の観客に、
「兄ちゃん、何やって欲しい?」
と問いかけ、その観客が即答すると須藤も
「やっぱりそうこなくちゃ!」
と待ってましたとばかりに演奏されたのはこの日2回目の「ファイト!!」。それもまた時にはこの曲を3回も4回も同じライブで演奏してきたハルカミライらしさが発揮されているものであるのだが、その本編以上の暴れっぷりこそがどんなに曲やアレンジの幅やクオリティが向上してもやっぱりハルカミライのライブらしさはやっぱりこれなのかもしれないと思わせてくれた。
そして橋本が最後に
「ライブハウスの、こういうホールの、どこかのフェスの会場の光がこれからも俺たちの向かう道標になっていくんだ」
と言って、これからもひたすらにライブをやって生きていくという生き様は変わらないということを示すように演奏されたのは、
「再会 再会の日を楽しみにしてるよ」
と、やはりライブという場所での再会を約束するかのような「春はあけぼの」。自分は翌日にまた再会することができるし、毎回違うライブをやるバンドだからこそ2日間来るという人もたくさんいるだろうけれど、この日しか来れないという人はきっとこの歌詞を胸に秘めてまたライブで会うことができる日まで生きていくはず。
「贈るよ飾ってねスイートピー
優しい思い出にスイートピー」
という今の曲で「スイートピー」という単語を使う人が他にいるだろうかと思うくらいにロマンチックさ極まりない歌詞は、この日のライブがまさに優しい思い出になっていくということを感じさせてくれたのだった。
普通ならばもうこの日このライブを見れればもう大丈夫、もうそれだけでOKとなりがちであるが、ハルカミライのライブがそうはならないのはきっと翌日はもっととんでもないライブを見せてくれるということがわかっているからだ。
だからどんなに遠い場所だって何回だってライブを観に行くし、それがライブハウスだろうがホールだろうがアリーナだろうがフェス会場だろうが、見れるんなら何度だって観たいと思う。きっと翌日のライブを観たらよりそう思うのだろうし、MURO FESで演奏していた「アストロビスタ」も「ヨーロービル、朝」も「パレード」もセトリにないライブでここまで思わせることができるというのがハルカミライというバンドの恐ろしさを示していた八王子凱旋ワンマン初日だった。
1.君にしか
2.カントリーロード
3.ヨーローホー
4.QUATTRO YOUTH
5.ファイト!!
6.俺達が呼んでいる
7.フルアイビール
8.フュージョン
9.Tough to be a Hugh
10.エース
11.アワーライフ
12.飛空船「ジュブナイル号」
13.光インザファミリー
14.夏のまほろ
15.地図
16.明け星フューチャー
17.ライダース
18.city
19.ウルトラマリン
20.ハッシャダイの丘
21.世界を終わらせて
22.つばさ
23.青春讃歌
24.赤青緑で白いうた
導入に歌あり
25.ベターハーフ
26.To Bring BACK MEMORIES
encore
27.いつでもどこにでもあって
28.春のテーマ
encore2
29.ファイト!!
30.春はあけぼの
千葉から電車で2時間半ほどという都内とは思えないくらいの時間をかけて到着した八王子の駅からすぐ近くの「え?この中?」と思うビルの中にあるJ:COMホールは規模感こそ各地にあるホールくらいのものかもしれないが、まだ新しい会場なんだろうなと思うくらいにハルカミライがライブをする場所にしてはキレイな内装で、こんなビルの中にこんな会場があるのかと驚いてしまう。
開演時間の18時を少し過ぎた頃に新世界リチウムの「喝さい」がBGMとして流れる中、先に関大地(ギター)、須藤俊(ベース)、小松謙太(ドラム)の3人がステージに登場。須藤は真夏でもいつものモッズコートを着ているというのは変わらないが、関はこの日はTシャツだけではなくてパンツも含めて上下赤で統一し、小松は最初から上半身裸になっている。
その後に橋本学(ボーカル)がアルバムリリース後からは定番になっている巨大フラッグを持ってステージに登場すると、
「よっしゃやるぞー!」
と叫んでおなじみの「君にしか」でスタートし、橋本はマイクスタンドを掴んで飛び跳ねながら歌う。その姿はホールだからといって変わることはないが、客席の観客たちはこの状況でも席の間隔などライブハウスに比べると自由度が低いホールであっても最初から腕を振り上げていて、ライブの楽しみ方が変わってもハルカミライのライブへの熱量は全く変わっていないことがわかる。それは
「君にしか聴こえない 君にしか聴こえない」
という歌詞が、まさに今こうしてハルカミライが目の前で音を鳴らしてくれている我々のためのもののように響くからだ。
そのまま「カントリーロード」へと続くのはおなじみの流れではあるが、普段のライブハウスでは間奏でスピーカーの上に乗ったりする関もホールであるこの日はさすがにそうはできないというか、そうできる場所がないだけにステージ上手から下手へギターを抱えて猛ダッシュしてそのまま転げ回りながらソロを弾きまくる。自身のマイクスタンドを中央に持ってきてコーラスをする須藤もそうだけれど、これだけ激しく動き回ったり暴れ回ったりするバンドが一貫して有線のままでアンプにシールドを挿すことを変えないというあたりにハルカミライのライブハウスバンドっぷりを感じざるを得ない。
八王子にいながらなして
「江ノ島のカモメのように」
という歌詞が爽やかな青春の情景を想起させる「ヨーローホー」では橋本のブルースハープが吹き荒れるのであるが、序盤はあまり慣れていないであろうホールでのサウンドのバランスの問題によるものか、橋本のボーカルがハッキリとは聞き取れないような場面もちょこちょこあり、だからか橋本もいつも以上に丁寧に歌っているというような印象が強かった。
橋本「下の階に市役所あっただろ?あそこに何回も住所変更しにきた(笑)俊が引っ越しするたびにみんなで手伝って、大変だったな〜。そうやって堅苦しいことばかりしてきた場所だけど、今日は堅苦しいことせずに楽しもうぜ!」
と地元だからこそのこの場所への思い出を口にすると、そんな地元であるが故に特別なものを期待してしまう観客に対して
須藤「あんまりレア曲とか過度な期待されても困るけどね(笑)」
と牽制しながらも、この4人のことを曲にした「QUATTRO YOUTH」というみんなが聴きたいであろう曲をやってくれるというのはさすがであるし、客席に飛び込めない関が背中から小松のドラムセットにダイブをしてドラムセットの上で寝そべりながらギターを弾き、小松もそんな状態でもバスドラをちゃんと踏んでリズムをキープしながら関に当たらないようにという配慮からか素手でドラムを叩いているという光景もハルカミライの無茶苦茶さや衝動がホールのステージになっても全く変わらないということを証明している。
そんなバンドの衝動が最大限に炸裂するショートチューン「ファイト!!」から「俺達が呼んでいる」へと至るのはこれまでのライブでもおなじみの、ハルカミライのパンクさを担う部分であり、橋本は早くも脱いだ白のロンTを腕に巻きつけて振り回すようにして歌うのであるが、1つの同じ曲というか「俺達が呼んでいる」の延長部分であるかのように一切の間もなく「ニューマニア」のショートチューンの「フルアイビール」を繋げるというのはこうして新作が生まれることで過去の曲やライブ全体の流れそのものをアップデートすることができるというハルカミライのライブモンスターたる所以が確かに感じられるものである。
しかしながら、
須藤「まだみんなのテンションの高さについていけてない気がしてる」
と、自分たちが観客に比べてまだ完全に100%の状態になっていないことを察知し、トライバルなリズムの「フュージョン」からショートチューンを連発するのだが、「Tough to be a Hugh」で拳を振り上げて飛び跳ねさせまくるなど、バンドもそうだが観客のテンションも相乗的により高くなってしまっている。それは疾走するツービートのパンクサウンドに乗せて
「この指止まれ 止まれ」
と歌われることによって、それまでは拳を振り上げていた観客が人差し指を突き出す「エース」ももちろんそうであるが、メンバー全員が思いっきり声を振り絞るようにして歌っている姿を見てその歌声を聴くと、またコロナ禍になる前のように客席にいる全員でハルカミライの曲を大合唱したくなってしまう。
それでも声を出したりすることなく、今のライブのルールや規制を守って楽しんでいる観客のことを讃えると、ライブでもおなじみの曲が続いた前半からはガラッと変わるように「アワーライフ」からは「ニューマニア」の曲が続いていくのだが、おそらくハルカミライというバンドの音楽的なイメージであろう「ストレートなパンク」という枠には止まらないような曲が多い内容になっている。かといっていきなりR&Bやファンクの要素を取り入れてオシャレになるのではなくて、激しさよりもメロディの力をしっかりと感じさせるようなアレンジになっていることがよくわかるし、そうすることで一筋縄ではいかないというか、「Aメロでこうきたから次はBメロでこうなるだろう」という想像をしているとそれは気持ちよく裏切られるし、ライブを重ねすぎなくらいに重ねてきたからこそ向上した演奏力や技術がそれを可能にしているということもよくわかる。
ステージを見た瞬間から天井は高いのに照明の位置は低い会場だなと思っていたのだが、その照明の奥、ステージ背面には照明の当たり方によっては「ニューマニア」のキービジュアルが時折浮かび上がるという演出はホールだからこそなのかもしれないが、そのホールだからこその視覚的な演出をこの日最も感じさせてくれたのは「飛空船「ジュブナイル号」」であり、
「町中が花火を見上げ
閃光が瞳を揺らし
歓声が褒め称える
それが風情だとまだ思えなかった
花火が終わると共に
季節が移り変わり」
という、まさに今だからこそリアリティを感じさせるようなフレーズではステージ上が真っ暗になる中で背面にはまさに花火が打ち上がっているかのような色とりどりの照明が。その光景を見ていたら、いつか広大な野外の会場でハルカミライがワンマンをやって、そこでこの曲が演奏される時に花火が打ち上がるのが見たいと思った。ハルカミライのライブを見ていると、そこまでいける、連れて行ってくれるんじゃないかと思える。それくらいの力がこの4人の鳴らしている音や姿には確かに宿っている。
一転して白一色の照明がまさに光のようにこの会場に放たれていく「ニューマニア」の先行曲である「光インザファミリー」では曲入りの小松の四つ打ちのバスドラのリズムに合わせて観客が手拍子をし、その光景を見た小松は両手の親指をグッと上に突き出す。確かに我々が小松と一緒にリズムを刻んでいて、それをメンバー自身が望んでいたということがわかった瞬間だった。東京は狂っているらしいけれど、それでもこのバンドがいれば心配ないぜと思えるような。
そんな「ニューマニア」の曲の中に挟まれても違和感なく溶け込んでいるのは前作「THE BAND STAR」収録の、この時期にピッタリな選曲であり、ちょうど「ニューマニア」とそれ以前を音楽性的に繋ぐようなメロディアスなパンクサウンドの「夏のまほろ」。この曲を聴いているとどうしても夏の高校野球の地方予選(決して甲子園ではないというところが自分の中ではハルカミライの曲としては実に重要だと思っている。そこまで行けなかった球児たちへの曲として)の光景が思い浮かぶのであるが、もしかしたら今はハルカミライの音楽を聴きながら日々練習に励み、試合に向かっている高校球児もいるんだろうかと思う。そんな思いによって、白球がフェンスを超えたらいいなとも思いながら。
「そうぽつり鼻歌」
と
「そうぽつり放った」
という語感が同じようでいて意味も全く違えば橋本の歌い方もしっかり違うように聞こえるようなものになっているだけに歌詞とボーカルの表現力のさらなる向上を感じさせる「地図」を歌い終わると橋本は徐にマイクスタンドをステージ最前まで持っていき、
「学、外に出ちゃダメだぞ」
と須藤に注意されながらもその最前部分に腰掛けると、
「今日、言いたいことがあってさ。よく「自分は自分でいい」みたいに言われたりするじゃん?それもいいんだけど、俺はちょっと違うっていうか「フリ」をするのも大事だなって思うんだ。
俺はタトゥーとか入ってるけど不良じゃない。めちゃくちゃ幸せな家庭環境で育てられたし。でも不良が見せるピンチの時の強さみたいなのってあるじゃん?「やってやらぁ!」みたいな。そういう「フリ」をしてるからそういう時に力を発揮できるっていうか。
だからみんなも俺たちの音楽を聴いて強くなった「フリ」ができるようになってくれたらいいなって思うんだよな」
と言って「明け星フューチャー」が演奏されるのであるが、きっとこうしてハルカミライのライブに来ている人たちはまさにそうしてハルカミライのライブを見たり音楽を聴くことによって、自分が強くなれるような感覚を得ているような体験をしてきたんだと思う。そうして強くなれた「フリ」を自分自身ですることによって乗り越えることができたことだってあるはず。だからその「フリ」は決して自分を偽るということではない。そこにこそハルカミライのライブでしか得られないものがあると思うし、これからもそうやってこのバンドのライブを見て少しでも強くなれた感覚を得ていたいと思う。そう思えるということは、ハルカミライのライブの力は我々の日常にまでしっかりと波及しているということだ。
で、この辺りで橋本は客席に入ってきた観客の男性に
「あんちゃん、いらっしゃい。お疲れ様。今来てくれたんだろ?あんたのために一生懸命歌うから」
と声をかけた。自分の経験上、ライブに遅刻するというのは少なからず罪悪感を感じざるを得ない。せっかくチケットが取れたのに最初から見れなくて申し訳ありませんと思ってしまう。でも橋本がこうやって声をかけてくれたらきっとそう思わなくて済む。むしろ遅れてでも急いで来てくれたということに感謝してくれているのが伝わる。きっとそれはわざわざ口に出さなくてもいいことかもしれないけれど、それを敢えて口にするあたりにハルカミライのメンバーの優しさを感じざるを得ない。
そんな橋本がステージ上に置かれたままの巨大な旗を登場時同様に手に持ったままで歌うのは
「折れない旗を振り回せ 弱っちい腕で
あんな事して何になると好きなだけ話してろ
折れない旗を振り回せ 弱っちい腕で
どデカいやつ」
というフレーズが、橋本が手にしている旗がONE PIECEのドラム島編でルフィが手にしていた、決して折れることのない海賊旗のようにすら見えてくる「ライダース」。そのフレーズにも確かにハルカミライのバンドとしての生き様が刻まれているのだが、この曲をはじめとして「ニューマニア」の曲には橋本以外のメンバーのコーラス力の圧倒的な向上を感じさせる曲が多い。全員で思いっきり歌うだけではなくて、誰がどんなキーと声量で歌を重ねるのかということをちゃんと考えて作られたコーラスであるというか。だからより一層須藤の高音コーラスも橋本のボーカルとメロディの力を際立たせるものになっているのだ。
「この会場から歩いて5分くらいのところ。上京してきて初めて住んだのがそこだった。そこで作った曲」
と言って演奏されたのは、やはり地元だからこそのレア曲をちゃんと用意してるんじゃないかと思わざるを得ない、自主制作盤収録曲「city」であるが、「ライダース」の直後に演奏されたからこそ、サビでのメンバーのコーラスが重なるメロディの美しさは今のハルカミライの曲に連なる部分が確かにあることを感じるというか、この曲と同時期に作られた曲が今になって「ニューマニア」に収録されたことにも実に納得がいくところである。結局、ハルカミライはハルカミライでしかないままというか。
関のイントロのギターのメロディだけで名曲確定であるロックなラブソングの「ウルトラマリン」がここで演奏されると、
「1番綺麗な君を見てた」
というサビのフレーズに合わせて「エース」の時と同じように観客は拳ではなくて人差し指を突き上げる。それはまるで今この瞬間に目の前に広がっている光景こそが1番綺麗なものであるかのようであり、曲を歌うにつれて普通なら喉を消耗していくはずなのに橋本は明らかに前半よりも圧倒的に声の調子が良くなっているのがはっきりとわかる。そんな橋本が腕を広げるようにして歌っているのは、我々の抱いている思いを全て受け止めてくれているかのようだ。
すると音源同様に橋本のボーカルがどこか遠くから微かに聴こえてくるかのようなボーカルサウンドの歌い出しではステージ背面からの逆光的な照明が演奏しているメンバーを照らすことによって神聖な瞬間を作り出す「ハッシャダイの丘」は曲後半では橋本のボーカルがハッキリと聞こえるようになるというのもまた音源で聴く以上にライブでは曲と音の立体感を感じさせるような、まるで二部構成の曲であるかのような演出である。そういうバンドができることが広がったという意味でもアルバムの中では重要な位置を担っている曲だと思っている。
「今日、八王子の駅を出て左に歩いてこの会場に来たんだけど、普段左側に出ることってビックカメラに行くくらいしかないんだけど(笑)、その時に俺に
「学さん、今日行きます!1階の14列目です!」
って声をかけてきた男の人がいて。来てる?(上手端側で男性が手を挙げる)いや、その構ってアピール知らん知らんと思ったんだけど(笑)、そういうのも嫌いじゃないっていうか、俺たちのライブに来てる時くらいはちょっとだけ空気が読めない感じでいて欲しいなって思う」
と、結局その男性に会場外だけではなく会場内、ライブ中でも構っているというのがやはり橋本の優しさを感じさせるというか、そうしたファンとの些細な交流やその日に会場にいる人によってその日のライブそのものが変化するという、ハルカミライのライブが毎回全く違うものになる理由となっていることがわかるのだが、そんな話をしてから橋本がアカペラでサビを歌い始め、その後に一気に爆音のバンドサウンドが重なってくる「世界を終わらせて」で橋本の歌声がここまでより圧倒的に開いていくのが確かに感じられた。なんかギアが切り替わるというか違うスイッチが入るというか。そんなライブバンドだからこその覚醒の瞬間がこの曲には確かにあって、その瞬間が「ハルカミライはやっぱりホールとかライブハウスとか関係ないというか、そうした境界や違いを無効化するライブができるバンドなんだな」と思わせてくれる。
その橋本のボーカルの覚醒っぷりはそのまま「ニューマニア」の1曲目に収録され、すでにライブでもおなじみの曲になっている「つばさ」にも繋がっていく。橋本は曲中でアコギを持って弾きながら歌うようになるのだが、そうしてアコギを持ちながら曲終わりでは
「俺たちの音楽は一生、絶対敵にならない!」
と叫ぶ。そこまでハッキリと断言してくれるバンドだからこそ、これからもずっとこうやってライブに行き続けていたいと思うのだし、それはそのまま
「でも君と行けるなら くだらないも
くだらなくなるよ そろそろ時間かもね
ねえ逃げ出さない? ねえここから」
というフレーズがハルカミライと一緒に行けるならどんなくだらない世の中でもそう感じないような場所まで逃げ出していけると思えるのだ。
持ち得るショートチューンも演奏してきたとはいえ、ここまでですでに20曲を超え、しかもバンドも観客も常にフルスロットルで駆け抜けているかのようなハルカミライのライブである。つまりは少なからず互いに疲労もあるはずで、それを察知してか橋本は観客に椅子に座ることを促すと、自身も含めてメンバー全員がステージ上に座り込んで、
「今日、学生の人っていたりする?(手を挙げている人たちを見て)おお、結構いるな。俺が言っても説得力あるかわかんないけど、めちゃくちゃ遊んだ方がいいよ。そういうことからしか得られないものもあるから。金よりも時間の方が大切だって思えるような。
思い出したんだけど、俺ここで就職の合同説明会みたいなやつにも参加したんだよね。もしバンドをやってなくて普通に働いてたりしたらそれもまた胸を張って最高だと言えると思うんだけど、でもこうやってこのバンドをやれているのが最高に楽しいと思ってる」
と言う橋本の後ろで、すでに立ち上がっていた須藤、関、小松がガッチリと握手を交わし合っているという光景にはついつい胸が熱くなってしまうのだが、それもまたハルカミライというバンドの青春が今もずっと続いているということを感じさせるような「青春讃歌」を最初は観客を座らせたままで聞かせるも、小松のビートが一気に加速しての曲後半で橋本のジェスチャーによって観客たちが一斉に立ち上がると、
「この前、中学校の同級生から連絡が来たんだ。結婚するから式で1曲歌ってくれないかって。でもその日ライブの予定あるから行けないわって断って。俺はどこか遠い場所で歌ってるけど、お互い幸せになろうな!」
と間奏部分でピッタリ収まるように青春を過ごした人物とのエピソードを口にする。そこで「ライブだから」と言えるこのバンドの生き方は本当にカッコいいなと思えるし、橋本の年齢になるとなかなか同級生に会うこと、連絡することも少なくなってくるだろうに、それでもそうした連絡が来る、同級生が橋本がバンドで歌っていることを知っているというのは橋本がそうした存在をずっと大切にし続けてきたということだ。
そんな青春の思い出は学生時代だけではなくて、この八王子に来てからもたくさんあるということを伝えるかのように、
「さっき言った、俺が最初に一人暮らしをしたここから5分くらいにあるマンションの一階に住んでて。俊がその頃に八王子のライブハウスで働いてたんだけど、夜中に大きな声で
「学ー!ラウンドワン行こうぜー!」
って声が聞こえてラウンドワンに行ったり。
バンドを始めてからは最初は全然客なんかいなかったけど、これも修行だって言って地元バンド的にずっとライブハウスに出続けて。ライブハウスが空いてる時には謎にたこ焼きバーをやらせてもらったり、小松の家族が整体師やってたからって言って、小松の整体教室みたいのやったりしてた。小松が謎に柔道着を着たりするから妙に本物感が出たりして。
八王子の話ばっかりしちゃったけど、それは八王子で生活してきた俺たちじゃないとできない話だと思っている」
という思い出話には確かにこのバンドの八王子という街への愛情を感じさせる。
「この後、友達とキャバクラばっかの街で呑んで帰る人もいるだろうし、イヤホンして1人ですぐ帰る人もいるだろうし」
という言葉からは、ここに来てくれた人にも八王子という街を少しでも好きになってくれたらという思いも感じられたが、ハルカミライの地元というだけでもうここにいた人にとっては八王子は特別な街なのだ。千葉からはかなり遠いけれど、こうした感染が拡大してしまっている状況じゃなければハルカミライの地元であるこの八王子の街を満喫したかったと思う。
そんな八王子で生きてきた4人の歌、それは今の4人にとっての「QUATTRO YOUTH」のようであり、ポエトリーリーディング的なAメロの歌唱は今の「それいけステアーズ」とも言える「赤青緑で白いうた」が演奏されると、まさにそのタイトルに合わせたようなに照明が切り替わりながらステージを照らしていく。それはそのままメンバーの普段のライブ時に着ている服の色を示しているのであるが、この曲から次の「ベターハーフ」に至るまでには橋本が曲間でライブならではの歌を挟む。その歌唱のあまりの迫力に体が、心が、魂が震えてしまう。それはホールという会場だからこそよりしっかりと感じることができたのかもしれないが、これまでに「アストロビスタ」によって担ってきたその感情を思いっきり抉られるようなハルカミライのライブの醍醐味を、この日は「ベターハーフ」が確かに担っていた。そのスケールはどこかもはやホールという規模さえ飛び越えて、月面全体を使った巨大なライブ空間にいるかのような。つまりは「ニューマニア」の曲たちによってハルカミライのライブはこれまでとはまた違った力を手に入れ、これまでよりもはるかに進化を果たしたのだ。それはまさに東京タワーすらも小さく見えるくらいにバンドがさらに巨大になったことということであり、その後の
「僕の心ずっとさらわれたままだから」
というフレーズのメロディの過去最高の美しさは、そのまま我々がハルカミライに対して抱いている思いを歌詞にしたものであった。
そんなクライマックスを描き出してもまだライブは終わらずに最後にショートチューンの「To Bring BACK MEMORIES」を演奏してパンクに終わるというのが、この地元の会場で演奏することによってこの街で生きてきた思い出を取り戻すかのようだった。
アンコールで再び4人がステージに戻ってくると、
「「ニューマニア」の曲で1曲やってないっていうか、セトリに入れ忘れた曲がある」
と言って演奏されたのは須藤が作詞作曲までを1人で手掛けた「いつでもどこにでもあって」。だからこそどこか橋本の強さと優しさを備えた歌詞よりも優しさの比率を高く感じる歌詞であるのだが、
「俺のいる場所はここでいい
君のいる場所はそこがいい」
という締めのフレーズで橋本が足元や客席を指差していたのは、須藤の書いた歌詞がそのまま橋本の歌とイコールになっていることを示している。それは自分たちのいる場所がライブのステージであり、八王子という街であるということ。我々がいる場所もまたハルカミライのライブの客席であるということ。そんな当たり前でも歌詞にはなかなかできないことを歌詞に、曲にすることができるからハルカミライの音楽とライブは深く胸に刺さってくるのだ。須藤は演奏前に
「大地弾ける?小松叩ける?」
と何故か申し訳なさげであったが。
そんなライブを圧倒的にポジティブなエネルギーで締め括ってみせるのは、まさにこの曲が鳴らされている時はここが世界の真ん中であることを示すかのような「春のテーマ」。これまでのライブでメンバーたちがそうした姿を見せてきてくれたように、観客たちが肩を組んでみんなで大合唱できるような未来が確かに脳内に浮かんでいた。そんなかつては当たり前だった景色すらも見れなくなってからもう2年半くらい。ハルカミライがいればきっとまたそんな景色を見ることができるようになるはずだと思った。
そうして場内に客電が点いてもなおアンコールを求める手拍子は止むことはなく、メンバーが2回目のアンコールに登場すると橋本は、本編中にいじった14列目の観客に、
「兄ちゃん、何やって欲しい?」
と問いかけ、その観客が即答すると須藤も
「やっぱりそうこなくちゃ!」
と待ってましたとばかりに演奏されたのはこの日2回目の「ファイト!!」。それもまた時にはこの曲を3回も4回も同じライブで演奏してきたハルカミライらしさが発揮されているものであるのだが、その本編以上の暴れっぷりこそがどんなに曲やアレンジの幅やクオリティが向上してもやっぱりハルカミライのライブらしさはやっぱりこれなのかもしれないと思わせてくれた。
そして橋本が最後に
「ライブハウスの、こういうホールの、どこかのフェスの会場の光がこれからも俺たちの向かう道標になっていくんだ」
と言って、これからもひたすらにライブをやって生きていくという生き様は変わらないということを示すように演奏されたのは、
「再会 再会の日を楽しみにしてるよ」
と、やはりライブという場所での再会を約束するかのような「春はあけぼの」。自分は翌日にまた再会することができるし、毎回違うライブをやるバンドだからこそ2日間来るという人もたくさんいるだろうけれど、この日しか来れないという人はきっとこの歌詞を胸に秘めてまたライブで会うことができる日まで生きていくはず。
「贈るよ飾ってねスイートピー
優しい思い出にスイートピー」
という今の曲で「スイートピー」という単語を使う人が他にいるだろうかと思うくらいにロマンチックさ極まりない歌詞は、この日のライブがまさに優しい思い出になっていくということを感じさせてくれたのだった。
普通ならばもうこの日このライブを見れればもう大丈夫、もうそれだけでOKとなりがちであるが、ハルカミライのライブがそうはならないのはきっと翌日はもっととんでもないライブを見せてくれるということがわかっているからだ。
だからどんなに遠い場所だって何回だってライブを観に行くし、それがライブハウスだろうがホールだろうがアリーナだろうがフェス会場だろうが、見れるんなら何度だって観たいと思う。きっと翌日のライブを観たらよりそう思うのだろうし、MURO FESで演奏していた「アストロビスタ」も「ヨーロービル、朝」も「パレード」もセトリにないライブでここまで思わせることができるというのがハルカミライというバンドの恐ろしさを示していた八王子凱旋ワンマン初日だった。
1.君にしか
2.カントリーロード
3.ヨーローホー
4.QUATTRO YOUTH
5.ファイト!!
6.俺達が呼んでいる
7.フルアイビール
8.フュージョン
9.Tough to be a Hugh
10.エース
11.アワーライフ
12.飛空船「ジュブナイル号」
13.光インザファミリー
14.夏のまほろ
15.地図
16.明け星フューチャー
17.ライダース
18.city
19.ウルトラマリン
20.ハッシャダイの丘
21.世界を終わらせて
22.つばさ
23.青春讃歌
24.赤青緑で白いうた
導入に歌あり
25.ベターハーフ
26.To Bring BACK MEMORIES
encore
27.いつでもどこにでもあって
28.春のテーマ
encore2
29.ファイト!!
30.春はあけぼの