イノマーロックフェスティバル @東京ガーデンシアター 7/16
- 2022/07/17
- 21:11
2019年10月に豊洲PITにて主催ライブ「ティッシュタイム」出演。2019年12月、癌によって永眠。あまりにあっという間に会うことが出来なくなってしまった。直後にコロナ禍になったことによって別れを言う機会もなくなってしまった。
それから2年半、そのイノマーの壮大なるお別れ会と言える「イノマーロックフェスティバル」が東京ガーデンシアターで開催。イノマーが大好きだったバンドたちが集結する、もう他では絶対ありえないような、学生時代の自分がこんなフェスに行きたかったなと思うような夢の1日でイノマーを送り出す。
開演前にはイノマー関連のイベントではおなじみのイノマーの1番弟子、フジジュンによる前説が。今回のライブは国と東京都の定めるガイドラインに従って、収容人数を50%に制限していることから「声出しOK」のライブとなっており、その練習としての第一声が
「オナニー!オナニー!」
というあたりが完全にこのイベントがどういうものであるか、イノマーがどういう人だったかということを物語っているが、出演バンドを1組ずつイノマーとの関係性も含めて丁寧に紹介しつつ、トリのオナニーマシーンのライブがどういうものであるかはフジジュンもわかっておらず、オノチンに聞いたところ、
「そろそろリハやらないといけないんだけど、イノマーと連絡取れないんだよね〜。ジュンちゃん最近会った?」
と言われたという天然エピソードを開陳して笑いを誘い、開会宣言をするとステージ背面のスクリーンに出演者紹介とともに生前のイノマーがライブをしている映像が映し出される。オナマシのアー写が3人のものであり続けているように、まるでこの後にイノマーもステージに出てきてライブをやるかのように。
12:00〜 銀杏BOYZ
まさかのトップバッター。昼の12時からの銀杏BOYZ。青いパーカーを着た峯田和伸(ボーカル&ギター)は映像が流れている間にステージに現れると、ステージに置かれた椅子に座ってその映像を見て拍手を送っていた。
映像が終わるとスクリーンには椅子に座ってギターを持った峯田の姿が映し出される。声出しOKということで、峯田への歓声も客席から飛ぶ。それが「ああ、なんかこの歓声というか野次みたいなものがあるのが銀杏BOYZのライブだったな」と懐かしい気分にさせてくれる。戻ってきたわけではないけれど、この感覚をまだ自分は忘れてはいない。なんだかそれだけで、まだライブが始まっていないのに泣きそうになってしまった。
その峯田が椅子に座ったままでアコギを弾きながら歌い始めたのは「光」。いつもは客席の観客の姿を見ながら歌うようなイメージが強い峯田はこの日はどこか上空を見上げるようにして歌っていた気がした。それは間違いなくイノマーに向かって
「光 君を包めよ」
と歌っていたのだ。
1コーラス終わるあたりでおなじみのバンドメンバーたちが合流し、峯田が立ち上がってハンドマイクになると同時にバンドサウンドとなるのだが、今年のツアーはまだ完全にいつものバンドサウンドではない、アコースティックも含めたものだっただけに、久しぶりにこんなに轟音かつ爆音の銀杏BOYZのサウンドを聴くと「こんなに音デカかったのか」とまた驚いてしまう。それでも峯田はなおも空に向かって手を伸ばすようにして歌い、
「君が笑う夢を見たよ」
と何度も繰り返し歌うのは、間違いなくこのライブをどこかで見ていたであろうイノマーに向けて歌っていたのだ。
峯田がエレキギターを持つと、さらにバンドのサウンドは爆音となって、山本幹宗と加藤綾太のギターは強烈なディストーションを鳴らす。そうして始まった「若者たち」によって観客は一斉に腕を上げる。その光景はまるでこの場所に集まったはぐれ者たちの革命のようですらある。
「パンクロックを聴いた 世界が真っ二つに軋んだ」
というフレーズ通りの経験を高校生の時に確かにしてきて、今また久しぶりに銀杏BOYZの轟音を聴いてその感覚を味わうことができている。変わってしまった世界がまた真っ二つに軋んだのだ。
峯田がギターを置くと、マイクスタンドを握り締めながら、どこか切なくもサイケデリックな山本によるサウンドの「アーメン・ザーメン・メリーチェイン」を歌うのであるが、この曲すらもがもはや祈りのようであるかのようにこの広いガーデンシアター中に響いていく。
しかし峯田はこの日の「声を出していい」というルールをちゃんと把握していなかったようで、飛んでくる歓声に対して
「他のアーティストのライブってもうこういう声出していい感じになってるの?」
と少し困惑気味になりながらも、
「ライブが出来なくなって、モッシュやダイブが出来なくなって、それでもなんとか音楽をやる形を模索してきて。もちろん俺もぐわーってなりたいし、みんながぐわーってなってぐちゃぐちゃになるライブがしたいけど、今はまだできないから」
と、バンド側も観客側もやりたい放題にやってきたかつてのような状況ではないことを改めて思い知らされるけれど、あのステージで暴れ過ぎて骨折しまくっていた峯田ですらも今のルールの中でライブをしているということが、我々もそのルールを破ってモッシュやダイブしまくるということをするわけにはいかないなと思う。
その峯田がタンバリンを持つと、ステージを歩き回りながら歌う「ぽあだむ」が演奏されるのだが、岡山健二(ドラム)と藤原寛(ベース)という元andymoriの2人によるリズムが今までよりもさらに速く、そして強くなっているように感じる。それはやはりこの2人もこうして思いっきり爆音を鳴らす銀杏BOYZのライブをやりたかったんだろうなと思わせてくれるのであるが、峯田は歌詞を
「イノマーみたいにポップになれんだ」
と変えて歌う。確かにオナニーマシーンという名前のバンドがこんなにたくさんの人に認知され、支持されていたのはイノマーのポップさがあったからだろうなと思う。
そして峯田はアコギを持つと「BABY BABY」のイントロが鳴る。その瞬間に観客たちが飛び跳ねまくる。その光景を見ていてどうしようもないくらいに感情が極まってきてしまう。自分が確かに銀杏BOYZのライブにいて、周りにも銀杏BOYZを好きな人がたくさんいるということを実感することができるからだ。声を出せるといっても大声を出しまくっている人はほとんどいなかったけれど、マスクの下であってもこの曲を我慢せずに歌うことができる。その事実にまた感極まってしまった。
かつてイノマーが作った雑誌で峯田とイノマーがこの「BABY BABY」の話をしている時に、
イノマー「最後の英語のとこはなんて言ってるの?」
峯田「夢の中で何度君のことを抱きしめたか知ってるかい?みたいな感じですかね」
イノマー「キレイに言ってるけど、要は「オナニーしました」ってことだからね(笑)」
と言っていたことも今でもよく覚えている。何度その雑誌を読んだだろうか。そうした峯田の音楽やイノマーの作った雑誌がそのまま今の自分を形成してくれたのだ。
そして峯田は再び空を見上げるようにして
「向こうには音楽とか流れてんのかな。イノマーさん、俺もそのうちそっちに行くから」
と言った。そんな日が来てしまったら絶対に自分は耐えることができないから、できる限り長生きしてもらって、もう峯田がライブができないくらいの年齢になって、自分もライブに行けなくなってるくらいの年齢になってからの出来事であってほしい。その時までイノマーに会うことはできないけれど、まだまだ自分は銀杏BOYZのライブが見たいし、峯田の作る新しい曲を聴いていたいから。
そして峯田は
「イノマーのことが大好きだから僕は歌うよ」
と口にすると、ハンドマイクでステージ上を転げ回りながら、まさかの「SKOOL KILL」を歌いはじめる。ああ、この日が声を出すことができるライブで本当に良かった。歓声が漏れてしまうどころじゃないくらいに、本当に久しぶりにこの曲を聴くことができる喜びがあって、
「ときめきたいったらありゃしねぇ」
のフレーズを我々も口にすることができる。峯田は歌詞が飛んでいるというか間違えてるところもあったけど、それがわかるくらいに自分の中にこの曲が今でも完全に染み込んでいる。山本はドラムセットに登って岡山と目を合わせながらギターを鳴らし、そうして空いたスペースで峯田は昔の暴れっぷりを思い出すように転がり回っている。その姿を見ていると、どんな状況の世の中であっても、悲しい事件や争いごとが世の中いっぱいあるけど、銀杏BOYZが側にいてくれたらもう平和なのさって思えるんだ。
演奏後、山本と加藤が肩を組んで歩いて行くのを見て、今の銀杏BOYZが本当に良いバランス、関係性でライブができているんだなと思ったし、その姿はイノマーもきっとどこかで見ていたはずだ。
イノマーがGOING STEADYの時からずっと峯田のことを好きで好きで、雑誌でひたすら特集してくれて、そんな記事を読むことで峯田の言葉が「この人の音楽は自分のためのものじゃないか」とより思えるようになった。それは当時の自分が何にもやる気がない虚無そのものだったからこそ、峯田の音楽とイノマーの雑誌がピッタリとその空間に埋まったんだろうなと思う。だからこそ、自分が映っている写真を見るのは当時から今に至るまでずっと苦手だけれど、かつて渋谷ラママで峯田、イノマーと3ショットで撮ってもらった写真は今でもあの頃の自分を肯定してくれているものとして見返すことができている。
1.光
2.若者たち
3.アーメン・ザーメン・メリーチェイン
4.ぽあだむ
5.BABY BABY
6.SKOOL KILL
13:10〜 Theピーズ
Theピーズのはること大木温之(ボーカル)はイノマーの大学の先輩なのだが、バンドにとって間違いなく一つの記念碑的なライブだった日本武道館の後にはるもまた癌に冒されていることがわかり、闘病生活に入った。無事に復帰を果たしたものの、コロナ禍に入ってバンドの形態は変わる。長年の相棒の安孫子義一(ギター)は変わらずに参加し、岡田光史(ベース)、茂木左(ドラム)という若いリズム隊を加えての4人編成となり、はるはベースをギターに持ち替えた。
セッティングをメンバー自身がやっていると、はるはすぐに
「もういいの?まだ時間あるの?」
とスタッフに問いかけ、そのままライブが始まるという実に斬新な、登場とかそういうの何もない形で「ブラボー」からスタート。アビさんのギターのブルース色の強さは変わらないけれど、やはりリズム隊が若返り、かつはるがギターになったことによってリズムに躍動感が増しているようにも感じる。はるも見た目はやはりもう50歳を過ぎているだけに年齢を重ねたことを感じさせるものになっているが、ギター&ボーカルになったことによって歌もかつてよりも伸びやかになっている感じもするのはライブを見るのが久しぶりだからか、それともはるが飲酒するのを断つようにしたからか。
そんな、癌になっても生き延びたはるが歌うからこその説得力の強さを持つ「生きのばし」でははるが
「君の名前はイノマー」
と歌詞を変えて歌う。ピーズのことが大好きだったイノマーへの先輩からの粋な計らいである。
自分がピーズを知ったのはやはり銀杏BOYZの峯田とイノマーがリスペクトするバンドとしてピーズを挙げていたからで、特に峯田がフェイバリットアルバムとして挙げていた「とどめをハデにくれ」は本当にめちゃくちゃ聴いた。だからこそそのアルバムに収録されている「日が暮れても彼女と歩いてた」を聴くと当時のことが蘇ってくるのだが、やはり編成が違うことによってか、どこかサウンドはチープなようにも感じていた音源よりも今のメンバーでのライブの方がハッキリと曲の良さが伝わる。それはピーズは今の世の中、今のロックリスナーにもちゃんと響くバンドなんじゃないかとさえ思う。
その「とどめをハデにくれ」の前にリリースされたアルバム「マスカキザル」収録の「オナニー禁止令」や「やったなんて」という、なかなかにメディアではオンエアできないであろう歌詞の曲が続くのだが、はるいわくこれは
「イノマーは俺のことを崇拝していたから、俺の曲に影響を受けた曲を作ってた。今の曲たちはそのイノマーが影響を受けてた曲」
ということで、このフェスだからこその選曲であることがわかる。もう30年以上前にリリースされた曲であり、技術が全くない頃だったから2分くらいで終わってしまう曲というのも長く活動してきたからこそたくさんのアーティストにリスペクトされているピーズの歴史を感じさせる。
そこに昨年リリースされた会場限定盤に収録された「さらばボディ」と続くことによって、ピーズというバンドのサウンドの変わらなさを感じさせてくれるのであるが、アビさんのギターの躍動感はなんなんだろうかというレベルだ。元々は武道館ライブ後に足を洗おうと思い、音楽以外の仕事を本業としていたのが、はるの病気が判明してバンドに戻ってきたというエピソードがあるように、長年続けてきたピーズのカッコよさを自身のギターで証明しようとしているようにも見える。もちろんそこにははるに少しでも長く音楽を続けて欲しいという思いもあったはずだ。
そのはるはアビさんとともに自分たちが映っているスクリーンを物珍しそうに指差したりと、こうしてライブをやれていることが実に楽しそうで、
「これからもできる限りは続けていきます!」
と宣言する。まだまだ生きのばしは続いていくし、そのバンドが鳴らしている音がやはり終わっていくバンドのものではなくて、これからも続いていくバンドとしての生命力に満ちている。
それは「実験4号」などのバンドの名曲を聴いていても実感することであるが、若いリズム隊の2人がもともとピーズのファンであったということも大きいと思う。だから岡田も茂木もコーラスまでなんなく務めることができるし、その表情は実に楽しそうである。
後半は「ドロ舟」から、アビさんのギターがブルージーでありながらもロックンロール感を強めていくと、実にピーズらしいフレーズによるリズミカルなボーカルの「プリリヤン」から、こうしてメンバー全員でコーラスを重ねることによるバンド感の強さを確かに感じさせてくれるライブでおなじみの「焼めし」と、久しぶりに見たピーズのライブはこんなに素晴らしいものになっていたのかとすら感じられる。
そんなライブの最後はやはり「グライダー」か「とどめをハデにくれ」だろうかと思っているとはるが
「オナマシの最後のアルバム、イノマーが真面目になっちゃったのかな?って思うくらいに長い曲ばっかなんだけど、最後に短い曲が入ってるからその曲を演奏しようかなって。でもさっきオノチンに聞いたら
「ライブでやったことないんじゃないかな」
って言ってた(笑)」
という、つまりはこのピーズで演奏されるのがライブ初披露となるのがオナニーマシーンの「恋する童貞」のカバーで、やはりアビさんもリズム隊の2人も本当に楽しそうに演奏し、コーラスしている。何よりもこんなにもオナマシに合わせた内容のライブをやるというのは、はるの先輩として最後まで面倒見てやるという心意気によるものだろうとも思う。そんなピーズの生きのばしはこれからも続いていく。かつてないほどにそこに確信が持てるような、今のピーズのライブだった。
このフェスでピーズのライブを見ていたら、イノマー、峯田和伸、はるという3人の対談がかつてあったことを思い出した。そこではるは2人に
「でもイノマーも峯田も優しいもんな」
と言っていたのを今でもよく覚えているけれど、こうしてイノマーのためと言っていいようなライブをやってくれるはるだってやっぱり最高に優しいと思う。どうかこれからもずっと元気でバンドを続けていて欲しいと心から思う。
1.ブラボー
2.生きのばし
3.日が暮れても彼女と歩いてた
4.オナニー禁止令
5.やったなんて
6.さらばボディ
7.実験4号
8.ドロ舟
9.プリリヤン
10.焼めし
11.恋する童貞 (オナニーマシーンのカバー)
14:20〜 氣志團
2019年の豊洲PITでのライブにも出演していた、氣志團。この日の出演者の中ではダントツに芸能色が強いし、今はもうなかなかこの日の出演者たちと一緒にライブをしたりはしないけれど、やはり今でも自分たちの出自がこのシーンだったんだと思ってくれているんだと自分は思っている。
おなじみの「BE MY BABY」のSEで学ランを纏ったメンバーがステージに登場すると、
「People in the 房総」
というフレーズが紛れもなく房総地方でずっと生きてきた自分にとっては誇らしく響くダンスチューン「房総魂」でスタートし、早乙女光(ダンス&スクリーム)はバスドラを肩にかけて歩きながらドンドンと鳴らす。サウンド的にもパフォーマンス的にも氣志團がバンドとして進化を重ねていることがよくわかるし、綾小路翔(ボーカル)がバンドのグラフィティーが描かれた銅鑼を最後に思いっきり叩くという締め方も、カッコいいロックバンドとしての氣志團の姿をカッコいいロックバンドしかいないこのフェスで示してくれる。
そのカッコいいロックバンドとしての氣志團の姿を演奏で示すのはダンサーたちと早乙女が巨大な旗を振り回す中で、西園寺瞳と星グランマニエのギター2人がお立ち台の上で激しいタッピングを展開する「NIGHT THE KNIGHTS」であり、イロモノバンドの極み的な見方をされることも多い氣志團のメンバーがそれぞれ確かなプレイヤビリティの高さを持っているということがこうしてライブを見るとよくわかるというか、そうしたバンドであることを自分たちで証明するセクションをちゃんとバンド側が設けている。
すると
「俺たちがなぜこの順番なのかわかるか!?準備運動の先生だからだ!」
と言って手首や足首、首から乳首やカリ首など、ドンドン下ネタに展開していき、
「こういうのは嫌いですか?いや、嫌いな奴はそもそも今日来てないよな(笑)」
と開き直りながら、近年はこうして割とセトリの前半から中盤あたりで演奏されることの多い「One Night Carnival」が早くも演奏され、氣志團ファンの方々がペンライトを光らせながら踊っている姿が実に鮮やかなのだが、ラスサビ前でブレイクが入ると、この日は声出しがOKということもあって観客による合唱が実に久しぶりに響く。それがこんなに感動的なものであるということを我々観客はもちろん、メンバーも噛み締めているかのような瞬間だった。
しかし綾小路はそれでも、
「2年以上ぶりにみんなの声を聞けたけれど、まだまだライブハウスはモッシュもダイブもできないし、キャパを減らしたりしている。そんな俺たちは何もできないのか?いや、そんなことはない!みんな、足を開いて前屈みになってくれ!」
と言って飛沫が飛ばないし歌詞を知らなくても形になるハミングでの大合唱を展開させてから、
「俺はずっと、お前たちに!」
と言ってから
「恋してるのさ お前らに恋してるのさ」
と最後のサビを歌う。この久しぶりの「One Night Carnival」の合唱の瞬間に立ち合うことができて本当に良かったと思っている。
すると近年お約束の、早乙女が理解不能な言語で喋り始め、
「かつて日本武道館や東京ドーム、紅白歌合戦まで俺たちを連れて行った「One Night Carnival」がもう古い、オワコンだって!?」
と言って綾小路VS他メンバーの構図になる小芝居が始まると、白鳥松竹梅(ベース)を
「漁港のメンバーですか?」
とイジりながらも、
「わかってるよ!最前列が誰も振り付けを踊ろうとすらしてなかったのをわかってるよ!もう20年前の曲だってわかってるよ!」
と開き直り、メンバーとともに観客に謝罪してから、
「氣志團、GOING STEADY、サンボマスター、ガガガSPはイノマーチルドレン四天王って言われてた。でも他のバンドたちが偽ることなく自分たちを曝け出しているのを見て、カッコつけてた俺たちは羨ましかった!ゴイステが「童貞、万歳!」って歌った時に俺たちはさも経験ありげに振る舞ってたよ!俺は本当はゴイステみたいになりたかった!」
と胸の内を打ち明けると、今回の「One Night Carnival 2022」はなんとゴイステ「童貞ソー・ヤング」とのマッシュアップとなり、綾小路の曲始まりのセリフも、
「童貞、万歳!」
もあのギターリフもそのまま再現され、その後からメロディに無理矢理「One Night Carnival」の歌詞を乗せるのだが、自分はもう峯田が「童貞ソー・ヤング」を歌うことはないと思っている。この曲は当時のあの4人でのゴイステが鳴らすからこそリアルな曲だった。だから今の銀杏BOYZでは演奏されることはないと思っているから、もうライブで聴ける機会もないと思っていた。
それがまさか氣志團の手によって演奏されるのが聴けるとは。この曲ももう20年前の曲なんですけど、っていうツッコミはさておき、もうライブでは聴けないと思っていたあのメロディが目の前で鳴っていた。形も人も違うけれど、銀杏BOYZを観に来たであろうファンもこの瞬間の熱狂は凄まじかった。思えばかつて峯田はイノマーとの対談で綾小路のことを
「俺は普段あんまり人のことを褒めたりしないけど、あの人は本当に凄い人だと思ってる」
と称していた。そんな凄い人がゴイステの曲を渾身の愛を込めて鳴らし、歌っている。ゴイステのようになりたくてもなれなかったバンドはひたすら自分たちのフェイクっぷりを磨き上げまくることによって、本物以上のフェイクになったのである。
そうした予想だにせぬパフォーマンスの後に演奏された「落陽」の切ないメロディとオレンジ色の照明がどうしたってあの場所のことを想起させる。そう、氣志團主催フェスである氣志團万博が開催されている袖ヶ浦の公園である。今年こそはと3年ぶりの開催に向けて全ての出演者が発表されたばかりであるが、あの会場でまたこの曲を聴きたい。それはきっとこの日会場にいた、あるいはこの日はいないけれど氣志團万博を心から楽しみにしているKISSESの総意だろう。
「君にあの夕陽を見せたい
燃える様に赤い太陽
あの街に行こうよ 海もあるよ
いつか きっと いつか 行こうよ」
の「いつか」が2ヶ月後であることを心から願っている。
そしてラストは豊洲PITの時と同様にあまりにも完璧すぎてもう毎回ライブで演奏しているのかとすら思う、「オナニーマシーンのテーマ」のカバー。何が完璧かって、ダンサーの振り付けもティッシュをぶちまける演出もあまりに完成度が高過ぎたから。
それはさすがイノマーチルドレン四天王の一角のバンドであるし、こうした湿っぽくなりがちな場でのライブをとことんエンタメに昇華するという氣志團のスタンスがどれだけ強いものであるかを改めて示すようでもあった。
氣志團のライブに同じものは全くない。それを知っているからこそ、今年は3年ぶりの氣志團万博に3日通しで行く。そこでは毎日全く違うライブを観ることができるだろうし、ずっとあんなに何もない場所でフェスを続けてきてくれた氣志團が、その三日間だけはあそこを何でもある場所に変えてくれる。それを千葉県民としてちゃんと観に行きたいのだ。
1.房総魂
2.NIGHT THE KNIGHTS
3.One Night Carnival
4.One Night Carnival 2022 -童貞Carnival-
5.落陽
6.オナニーマシーンのテーマ
15:30〜 Hump Back
おそらくこの日の出演者の中で1番意外なバンドであると思われるが、前説でフジジュンが「オナマシが渋谷ラママの自主企画で最後に対バンしたバンド」と紹介していたように、イノマーが近年最も愛していた若手バンドと言っていい存在なのがHump Backである。
サウンドチェックで早くも3人がステージに登場して曲を演奏すると林萌々子(ボーカル&ギター)が
「うちらのライブ、若い女の子のファンが多いから、こんなに「オナニー」って言いまくるライブとは思わなくてビックリしてると思うから優しくしてあげて(笑)」
と普段から自分たちのライブを観に来てくれているファンを気遣うと、そのまま突入した本番では
「うちらは他の出演者に比べたらイノマーさんとの付き合いは短いけど、初めては人伝に手紙を貰って、一言「大好きです」とだけ書いてあって(笑)
それから文通する相手みたいになったんやけど、まだ私は当時実家に住んでて、親から
「あんたまたオナニーマシーンって人から手紙来てる…」
って言われて…あれは迷惑でした(笑)」
というイノマーとの出会いのエピソードを話して笑わせると、
「ああもう泣かないで」
とこの会場にいる我々の心境を歌うかのような「拝啓、少年よ」でスタートし、ぴか(ベース)はぴょんぴょん飛び跳ねながら演奏する。髪がかなり伸びてきた美咲のドラムも実に力強い。
「この曲を聴いたらみんな10代や!」
と、すでにメンバーも20代後半に差し掛かっているからこその説得力を持つ「ティーンエイジサンセット」の
「スリーコード エイトビートに乗って
僕らの歌よ どうか突き抜けておくれよ」
というフレーズを衒いもなくシンプルなロックサウンドに乗せて歌うこのバンドのことをイノマーが好きになったのも実によくわかる。Hump Backは紛れもなく今のバンドであるが、それでもあの頃に活動していてもたくさんの人の心を掴むバンドになっていたんだろうなということがよくわかる。
すでに武道館や大阪城ホールなどの大きな会場でのワンマンも経験しているだけに、林のボーカルも実に気持ち良さそうにこの広いガーデンシアターに響いていく「宣誓」では昂りまくった林がマイクスタンドをぶっ倒しながらステージ上手を転がり回る。まさにこうしたところはイノマーのステージ上のパフォーマンスを彷彿とさせるところである。
その林はギターを鳴らしながら、
「生きてるってことはおるってことや。みんなの心の中にイノマーさんはまだおるやろ。
あの人が最後に愛したこのバンドで僕は少年少女たちの青春を歌う。青春は性じゃなくて青い方の」
とイノマーへの思いを言葉にすると、
「ひっくり返すってことは、誰からもひっくり返されんってことや!」
とバンドのグルーヴがさらに極まる「番狂わせ」へ。決して難しいことをやっているわけではないけれど、これはこのバンドにしか絶対にできないことだよなと思うくらいのこの3人だけが出せるものがここには確かに存在している。
「イノマーさんのための曲!」
と林が称した、ストレートなギターロックサウンドの「HIRO」には
「どうやら僕らは騙されたみたいだ
ロックンロールの神様ってやつに」
というフレーズが存在する。それはまさにロックンロールの神様に最後まで騙され続けるようにステージに立っていたイノマーのことをそのまま歌っているかのようだ。
そんなバンドは8月にEPをリリースすることが決まっているが、ここでそのEPに収録される新曲「僕らの時代」が披露される。林が
「知らんくても楽しいやろ?」
と言うくらいに初めて聴いても体が動き出してしまうロックナンバーで、やはりこの真っ直ぐに青春を歌うメロディはきっとここにいる誰もの僕らの時代と言えるバンドになってくれるという感覚にさせてくれる。
そして「LILLY」のサビでの
「君に会えたらそれでいいや」
というフレーズのキメの林の歌唱とバンドの演奏がバチッとハマると、この長くはない持ち時間の中でも聴かせるタイプのバラードとして「きれいなもの」を演奏するのであるが、その
「君のかわいい その小さな小さな目から
ぽつりと 涙がこぼれたよ」
というフレーズが最後の「星丘公園」の
「君が泣いた夜にロックンロールが死んでしまった」
というフレーズに繋がっていく。そんな曲をこんなにストレートに鳴らしてくれるバンドがいで、きっとこのバンドのことを見て始まったバンドがロックンロールを鳴らす。そうすることでロックンロールが生き続けていく。そう思えるくらいにHump Backはただひたすらにカッコいいバンドであり続けている。
「死ぬまでHump Backを続けるから!」
という言葉は、死ぬまでオナニーマシーンであり続けたイノマーの意志が確かに継承されているのを感じさせてくれた。でもそれはきっと自分が観ることができないくらいにはるか数十年後のことのはずだ。何よりも声を出せるライブだったことでこのバンドの曲を口ずさむだけでなんだか涙が溢れてきてしまったし、林も
「ステージもそっち(客席)もやっぱり元気が良いのが1番ですよ」
と言っていた。もっと客席が元気なこのバンドのワンマンもまた早く観たくなってしまう。
イノマーの好きな音楽というとやっぱり青春パンクだし、オナニーマシーンもそうしたサウンドのバンドだった。でもHump Backは決して青春パンクというようなバンドではない。それはそうだろう、青春パンクのムーブメントはそのシーンの渦中にいた当事者たちでさえ一瞬で終わってしまったと思うものだったが、このバンドの青春はこれからもずっと続いていくからだ。そんなこのバンドのレビューをイノマーにこれから先も書き続けて欲しかったなと思う。
リハ.生きて行く
リハ.オレンジ
1.拝啓、少年よ
2.ティーンエイジサンセット
3.宣誓
4.番狂わせ
5.HIRO
6.僕らの時代
7.LILLY
8.きれいなもの
9.星丘公園
16:40〜 ガガガSP
綾小路翔が口にした「イノマーチルドレン四天王」の一角バンドである、ガガガSP。豊洲PITでのライブに出演した際にもイノマーへの感謝を何度も口にしていたバンドであり、今回もこうして神戸から駆けつけての出演である。
Hump Back同様にメンバーがサウンドチェックの段階でステージに登場してそのまま本番になると、声が出せるということで客席からは「コザックー!」「前田ー!」「山ちゃーん!」という主におっさんによる野太い歓声が上がり、
山本聡(ギター)「なんか、声出せるってなったらいきなり悪口言われてるみたいな気分になりますね(笑)」
と言うと、コザック前田(ボーカル)は
「ガガガSP、25年やってるんでたくさん曲あります。なので今日は昔の曲はやりません」
と言っておきながらその直後に響いたのは「国道二号線」の切ないギターのイントロで、観客は「昔の曲やらないって言ったのに!?」と思っているとコザックは
「20年前なんて昔じゃないから!」
とこの曲が昔の範疇に入っていないからこそ演奏することにし、
「当時は別れた彼女のことを「幸せになれ」って歌いながら本当は「地獄に堕ちろ」って思ってましたが、今は本当に「幸せになれ」って思ってます。それは皆さんに対してもそう思ってます!」
と、今こそこの曲の歌詞を素直に歌うことができるようになったことを語る。それは年齢と経験を重ねたことによることであるけれど、懐かしいなという気持ちも確かにこの曲に対してはありながらも、やっぱりこの曲の名曲っぷりは20年経っても全く変わっていないというのが、20年がまだまだ昔ではないということが本当なんだなと思わせてくれる。
「イノマーさんの歌う性春じゃないけど!(笑)」
と、図らずもHump Backの林と同じことを口にしたのはガガガSPにも「青春時代」というタイトルの曲があるからであるが、もう40代になってもまだ青春時代は終わっていないんじゃないかとすら思えるのは、このバンドがあの頃と変わらない形で今もこうして音楽を鳴らし続けているからだ。コザックの髪型は変わってはいるけれど、山本も桑原康伸(ベース)も田嶋悟士(ドラム)も出で立ちがあの頃からずっと変わっていないように思える。
しかしながら変わることなく活動しているということはバンドは先に進んでいるというわけで、豊洲PITの時には過去の代表曲、名曲だけでセトリを構成していたが、この日は今年リリースされた最新アルバム「THEガガガSP」の「oiの中の蛙」という選曲で今の自分たちの姿を反映させてみせる。
田嶋の疾走するビートに山本と桑原の全力のコーラス、コザックのがなるようなボーカルが乗るというスタイルは変わらぬガガガSPのものであるが、それでも歌詞の視点に「労働者」というものが入っているのがかつてとは違う、今のガガガSPとしてのものになっている。もうきっと「卒業」みたいな曲を作ることはできない。卒業していく場所がもうないから。でもそうではないガガガSPでしかない曲を作ることはできるということをバンドはステージで示している。
それはコロナ禍にリリースされたアルバム「ストレンジピッチャー」という、このバンドのことを称するのにこんなにふさわしいタイトルはないと思うような(熱狂的オリックスファンとして知られるコザックにとってのストレンジピッチャーはやはり星野伸之あたりだろうか)作品から披露されたのはフォーク色が濃い「イメージの唄」で、そこで歌われている心情は期せずしてコロナ禍を生きるバンドマンや生活者のものにリンクしているというのもまたガガガSPが今を生きているバンドであるからである。
「こんな大きいところでやる機会なんてもう全くないんですけど、銀杏BOYZとか氣志團とかサンボマスターを観に来た人が出演者を見て、「ガガガSPまだやってるんだ?」と思ったと思うんですけど、まだやってます!」
と、今でもずっとバンドを続けている自分たちのことを肯定するかのように近年のバンドの最大のヒット曲と言っていい「これでいいのだ」が演奏される。それはこの肯定的なメッセージが鬱屈としてしまう今の世の中にダイレクトに突き刺さるものだからだろうし、今でもこの曲でこのバンドは生きることと青春のことを歌っている。それはきっとイノマーの姿を見てきたからこそ書けた歌詞なんじゃないかとも思う。
そんなイノマーのステージに立つ姿を見て、時には病院へも顔を出していたからこそ、
「もう、死ぬまで生きてやろうじゃないかと思うわけです」
と言って演奏されたのはもちろんガガガSPの存在を世間に知らしめた大ヒット曲「晩秋」であり、声が出せるライブだからこそ山本と桑原による
「晩秋の夕暮れは」
のコーラスに観客の声が乗っかる。それはいつ以来の経験だろうか。いや、それは間違いなくあの日の豊洲PITのライブ以来の「晩秋」の合唱だ。それはつまりこの日が紛れもなくあの日の続きだということだ。あの日、もう普通なら喋ることも歌うことも演奏することもできない状態でもライブをやったイノマーの姿を見ているからこそ、思いっきり拳を突き上げて
「死ぬまで生きてやろうじゃないか」
と歌うことができる。この日、この瞬間の「晩秋」は過去の懐メロではなくて、今生きている我々のためのテーマソングだったのだ。
その豊洲PITの時と同様にコザックはデビューして初めてリリースした曲をインディーズマガジンでイノマーがレビューを書いてくれたことを嬉しそうに思い返しながら語る。それがバンドにとって初めてメディアに載った瞬間であり、そのレビューがあったからこそ、バンドはこうして今に至るまで続いてきた。イノマーがそのレビューを書いた「線香花火」がこの日最後の曲として演奏される。山本の名曲に名リフありと思わせるギターサウンドも、
「ああ線香花火よ」
というサビのキャッチーなコーラスも。ガガガSPというバンドのスタイルはこの曲の時点で出来上がっていたからこそ、イノマーはこの曲を
「人生において1番大事なのは青春だ。ガガガSPはその青春を正しく鳴らしている」
と評したのだろう。それが今でもずっと続いていると思えてしまうような自分のようなやつのことをこれからも照らしてくれないか。まさに暑い暑い夏の夜という季節だから。
ガガガSPは思いっきり青春パンクムーブメントの荒波に飲まれまくったバンドだと思っている。だからブームが終わると迷走気味に感じてしまう作品もあったし、アップダウンのダウンの方に向かっていくような活動になってしまった。
でもそんなバンドが今でもメンバーが変わることなく続いているというのは本当に奇跡的なことだ。あの頃に爆発的な人気を誇っていたMONGOL800も175Rも同じメンバーで続くことがなかっただけに、ガガガSPがどれだけ凄いのかというかしぶといのかというのが本当によくわかる。
「神戸のゴキブリ、日本最古の青春パンクバンド、ガガガSPでした!」
という言葉にはなんの虚飾も誇張もない。今でもその通りだなって思えるようなライブをこのバンドは続けている。その頼もしさを今になってこそより感じられるし、このバンドが続いている限りは青春パンクという言葉は消えることはない。
リハ.ロックンロール
1.国道二号線
2.青春時代
3.oiの中の蛙
4.イメージの唄
5.これでいいのだ
6.晩秋
7.線香花火
17:50〜 四星球
リハの時点でメンバーが私服で登場して、「この曲リハでやるのか?」と思わざるを得ない「運動会やりたい」で観客を赤組と白組に分けて腿上げ対決をさせるのだが、その時点で自分たちのことを撮影してるカメラマンに
「まだスクリーンに映像映ってないやん!なのになんでずっと撮ってんの!?まさにオナニーやん!(笑)」
と北島康雄(ボーカル)が早くもこのフェスに合わせたパフォーマンスを披露する、四星球。すでに京都大作戦でも2週連続で出演するという大活躍を見せたが、それ以降も怒涛のスケジュールでライブを行いまくっている。
というのも本番では法被に着替えて北島が登場すると、
「今日の朝、長野で焼肉ロックフェスに出演して、焼肉食べないで握り飯食べてこのフェスに来ました!それだけ出たかったフェスなんです!」
と、このライブがこの日2本目のライブであるという凄まじいスケジュールになっていることを明かすと、この日はU太(ベース)は中国のミッキーマウス(つまりは偽物)、モリス(ドラム)はジーニー(ランプの魔神)、まさやん(ギター)はアリエル(人魚)というディズニーで統一されたコスプレで、まさやんは人魚なだけになかなか立ち上がることができなくてスタッフに立ち上がらせてもらうといういきなりの小芝居も展開されるのだが、こうなると焼肉ロックフェスではどんな設定だったのかも気になってくる。
そんなよくわからないディズニー軍団(動きづらすぎてまさやんはすぐにブリーフ姿になっていた)の姿で演奏された1曲目が「クラーク博士と僕」であるというのがこの日の四星球のライブがどんなものであるのかということを物語っている。それは笑いもありながらも、ひたすらにイノマーへの思いを伝える熱いものであるということだ。
しかし北島は
「長野でライブ1本やってきたからもう疲れてる」
という理由でステージに寝転ぶと、その姿が生まれたての仔馬みたいだということで、まさやんが振り付けをしながら歌う新曲「UMA IS A MISSION」を北島が立ち上がるテーマソングとして鳴らすのだが、北島はなかなか立ち上がることができずに何回もやり直すことになり、まさやんも
「君らのパワーが足りないんちゃう!?」
とキレ気味に。
そうした小芝居も経てようやく北島が立ち上がると、イノマーも大好きだったブルーハーツの名曲のオマージュと言えるであろう「リンネリンネ」を、イノマーがまた生まれ変わってバンドをやるだろうという願いを込めるかのように演奏する。四星球のバラードや聴かせるような曲は実は名曲ばかりであるが、それがいつも以上に沁みてくるのは、
「イノマーさんのメールを今でも読み返すことがあるし、返信してみたりする。もちろん返ってこないし、届いてるかどうかもわからないけど、最後のイノマーさんのメールは
「また一緒にやろうね」
で終わってる。今日はその約束を果たしに来ました!」
と熱くイノマーへの想いを放出すると、その熱さがそのまま「夜明け」の歌唱へと繋がっていくのであるが、「Mr.COSMO」では北島が宇宙人の衣装に着替え、バニラの求人のバスまでも登場する中でU太は
「イノマーさんの作ってたSTREET ROCK FILEに初めて載せてもらった時に
「徳島のスリーピースコミックバンド」
って書いてありました(笑)
イノマーさん、俺たちまだあのままずっと続けてますよ」
とイノマーへの想いを口にするのだが、UFOを呼ぶ際に観客にその場でぐるぐる回ってもらうという曲中の儀式をやらない観客もいたのを北島が見つけると
「全然ダメや!」
と中断させ、
「オナニーマシーンから教わったことは、時間は押してもいいっていうことです!あの人たち、O-Westで一緒にやった時に40分も時間押しましたからね!(笑)」
とイノマーのよろしくない部分までも受け継ぐようにしてもう1回演奏をやり直して最上段の席の人までをぐるぐるとその場で回らせると、
「イノマーさんが入院してる時に作っていた曲があります。イノマーさんに聴いて欲しかったですけど、亡くなった日に僕らは高松でライブをやっていて、間に合わなかった。でもイノマーさん、生まれ変わっても絶対またバンドをやるってわかるくらいにバンド大好きな人やから、この曲が届いたらまたこの曲をコピーするバンドやってくれるんじゃないかって思ってます!」
と言って最後に演奏されたのは「薬草」。何度となく聴いてきた
「歌が薬草になってやら」
というフレーズがイノマーの回復を願って綴られたものであるということを知ると、曲に対する思い入れが全く変わってきてしまうな、とも思うのであるが、やっぱり北島は
「せっかく声出していいライブなんだから、サビで「薬草!」って叫んでくれないと!」
と一回中断させながらも最後まで演奏を完遂すると、演奏後にはこの日使った様々な小道具や衣装を使ってボードに
「We love イノマー」
という文字を作ってみせた。それがここにいる全員に伝わったからこそ、始まる前はややいつもよりはアウェー感も感じたライブが、全員が四星球を観に来たライブかと思うくらいの万雷の拍手に包まれていた。このメンツの中でもこれだけ会場の空気を持っていける四星球はやはり最強クラスのライブバンドにして天才の集団であると思わざるを得ない。
北島はこの日、
「STREET ROCK FILEに胸を焦がしていた世代でございます」
と口にしていた。四星球が載っていたのは申し訳ないが覚えていないけれど、四星球がリスペクトしている10-FEETやマキシマム ザ ホルモンという、先週京都大作戦で共演したバンドたちがまだ全然無名だった時代に初めて曲を聴いたのはSTREET ROCK FILEに付属していたコンピCDだった。
四星球のライブを観て、曲を聴いてこんなに毎回楽しいと思えるのは、四星球の音楽の中にそうした自分が夢中になって読み漁っていたあの雑誌に載っていたバンドたちの遺伝子が入っているからだと思う。同じだなんて言えないくらいに四星球は凄い人たち、凄いバンドだけれど、それでも同じ音楽を聴いて育ってきた同士だと思っている。そう思えるのも、イノマーがあの雑誌を作って、たくさんのカッコいいバンドを我々に教えてくれたからである。
リハ.ギンヤンマ
リハ.Teen
リハ.運動会やりたい
1.クラーク博士と僕
2.UMA IS A MISSION
3.リンネリンネ
4.夜明け
5.Mr.COSMO
6.薬草
18:50〜 サンボマスター
長い1日ももう終盤。この日の出演者の中で最も「イノマーに見出されて世の中に登場した」という感が強いサンボマスターがバンドとしてトリ前を担う。イノマーチルドレン四天王であるだけに、こちらも豊洲PITのライブに続いての出演。
おなじみの「モンキー・マジック」のSEでメンバー3人がステージに登場すると、普段はいきなり観客を煽りまくる山口隆(ボーカル&ギター)がそれをせずに、SEが止まると木内泰史(ドラム)が激しくドラムを連打して「輝きだして走ってく」でスタートし、近藤洋一(ベース)に合わせて観客が手拍子をすると、
「負けないでキミの心 輝いていて」
というフレーズが我々1人1人に歌いかけているようでありながらも、このライブを観てくれているであろうイノマーに向けても歌っているかのようにも感じられる。つまりは歌にも演奏にも思いっきり感情を込めたライブをサンボマスターがやっているということである。
「毎朝のおなじみの曲いきますよ!」
と山口が言うと、イノマーによってフックアップされてロックシーンに登場してきた時は、まさか毎朝の情報番組でサンボマスターの曲が流れるなんて1ミリも思っていなかったが、当時「ミュージシャンズ・ミュージシャンズ・ミュージシャン」とも言われていたサンボマスターが今やたくさんの人に求められるようになったということを示す「ヒューマニティ!」がやはり聴き手の我々の背中を強く押す。サンボマスターがここまでたくさんの人に聞かれ、求められるようになったこの状況を見て、イノマーはなんて思ってるだろうか。あいつらこんなに売れやがって!って思いながらも、オイラはこうなることはわかってたけどね、って心の中でほくそ笑んでいる気もする。
「20年前と同じ気持ちで歌っている!」
と、2年前にリリースされた「忘れないで 忘れないで」とここまでは近年リリースの代表曲が続くのだが、その「忘れないで 忘れないで」も、イノマーという男の存在を忘れないでくれと呼びかけているかのように聞こえてくるのだ。
「もう毎日電話してたよ。でももっと話したかったし、もっと笑い合いたかった。あの人はいつもふざけてるから、自分たちがどんな凄いことになってるか全然わかってなかった!そんなイノマーさんにありがとうっていう曲」
と言って山口が「ラブソング」のイントロのギターを弾くと、木内はライトをつけて腕を振る。それが観客のスマホライトの光になって広がっていく。それはイノマーはもういないけれど、こうしてイノマーを愛している人の生命が輝いているということを感じさせてくれるのだが、山口は
「もう一度 もう一度だけ」
というフレーズを絶唱すると、その後に長い沈黙が訪れる。何度となく聴いてきたこの曲の中でもトップクラスに長かったそれは、間違いなく山口の中でイノマーを偲ぶ時間そのものだった。それくらいにイノマーはサンボマスターにとっては最大の恩人と言える人だからだ。その沈黙の最中に観客も物音一つ立てずに山口の姿に向き合っていたのは、観客全員が山口の心情をしっかり理解していたからだ。声が出せるライブであっても声を出すことができないくらいの張り詰めた集中力。それはサンボマスターとそのファンたちでないと発揮することができないものと言っていいかもしれない。
そんな「ラブソング」の後に山口がイントロのギターを鳴らすだけで拍手と歓声が起こるのはそれが「そのぬくもりに用がある」のものだからで、山口は
「初めまして、僕の名前は山口隆、ベースは近藤洋一、ドラムは木内泰史」
と自己紹介するのであるが、曲中に放たれる言葉は
「ティッシュタイム」「渋谷ラママ」
というものであり、何か勘違いしてるのか?と思いきや、それはサンボマスターがオナマシに呼ばれて初めて対バンした時のことを再現していたのだ。「20年前と同じように〜」という山口の言葉は嘘ではなくて、本当にその時を思い出すようにしてライブをやっている。そのライブがサンボマスターにとっての最大の転換点と言えるものだったということを今でも山口たちはわかっているからだ。
「お前ら、イノマーさんがいないからできねぇと思ってんだろ!でも俺たちはできるんだ!」
と山口が言葉を並べてから演奏されたのはもちろん今やサンボマスターのライブ最大の熱狂を生み出す「できっこないを やらなくちゃ」であるのだが、
「アイワナビーア キミのすべて!」
というフレーズをバンドと一緒に叫ぶことができることの喜びと感動。それも2年半ぶりくらいのことであるだけに、コロナ禍になっても木内が
「こうしてライブに来てくれるってことは、みんなライブを守りたいって思ってくれてるんだと思う」
と我々のことを理解してくれていた思いがようやく繋がってくれたんだと思えた。やっぱりみんなで歌うサンボマスターのライブが本当に楽しいと改めて思えた瞬間だった。
そんなライブの最後は木内がリズムを刻む中で山口と近藤が煽りまくる「花束」で、山口はイノマーという男が、そしてここにいる1人1人こそが花束であると告げ、そんな花束である1人1人を
「お前らがクソだったことなんて1回もねぇんだからな!」
とここにいる我々を肯定する。イノマーの好きな音楽を好きになった我々はついつい卑屈になってしまいがちだ。というか、自分大好きみたいな人だったらオナマシやサンボマスターや銀杏BOYZを聴く必要のない人生だと思う。そんな我々のことを山口はきっとわかっているのは、山口がずっと目の前にいる我々のことを見てきたからだ。
そのファン層はきっとだいぶ変わってきた。イノマーに見出された頃はサンボマスターのライブに来てるのはメンバーより年上のおっさんばかりだったけれど、サンボマスターの音楽はその層だけに刺さるようなものではなかった。
「イノマーさん、初めてイベントに呼んでくれた時、俺たち全然ウケなかったけど、また次は渋谷ラママでやろうな」
と山口は最後に言っていたけれど、その時にウケなかったのも、サンボマスターがそこに止まるような存在ではなかったことを示しているエピソードと言えるかもしれない。でも今のサンボマスターがラママでやったら、絶対チケット取れないだろうなぁ。
この出演者の中でもサンボマスターは最もイノマーがいなかったらこうして今我々の前にいなかったであろうバンドだ。イノマーが自分のレーベルからオナマシと一緒にCDにして、半ば強引にサンボマスターをデビューさせた。それくらいにイノマーはサンボマスターを世に出さなきゃいけないと思っていただろうし、そうでもしなかったらずっと誰に見つかることもなく細々と小さいライブハウスで数人の前でライブをやるバンドのままだっただろう。
そんなサンボマスターの音楽やライブに我々は何度背中を押されて生きてきただろうか。そんなバンドを世に送り出したことによって救われた命だって大袈裟じゃなくてたくさんあるはずだ。もうこのバンドに出逢わせてくれたというだけでもイノマーには一生感謝し続けなくてはいけないなと思うし、こうしてサンボマスターのライブを観ていれば、山口のことを
「東日本一のブサイク」
と言っていた、だからこそ自分が世に出さなきゃいけないと思っていたイノマーのことを思い出すことができる。
1.輝きだして走ってく
2.ヒューマニティ!
3.忘れないで 忘れないで
4.ラブソング
5.そのぬくもりに用がある
6.できっこないを やらなくちゃ
7.花束
19:30〜 空気階段
この錚々たる出演者にはみんなこのフェスに出演する意味や理由がある。唯一バンドではない、キングオブコントのチャンピオンでもあるお笑いコンビの空気階段にも紛れもなくこのフェスに出演する理由がある。
とはいえやはりやるのはコントであり、水川かたまりがサウナに入っていると、そこに後から来た髭の生えたおっさんである鈴木もぐらは実は女性であり、かたまりの前に立ってタオルを取ることでそれを見せつける…というネタなのであるが、本人たちもコントが終わった後に
「サンボマスターのライブの後に我々のコントって、タイムテーブル作った人はバカでしょ!」
と言っていたが、こんなに見る人によっては訳の分からないネタをこのタイミングでぶっ込んでくるというあたりがやはりこのコンビは只者じゃないなと思う。
このコンビがこのフェスに名を連ねている理由。それはもぐらがかつて毎回銀杏BOYZのライブに足を運んでいた、名物ファンであり、間違いなくイノマーの薫陶を受けていた、つまりは我々と同じように音楽を聴いていた人間だからである。
そんなもぐらがバンドではない形でこのフェスのステージに立っている。それは憧れの人と同じ形ではなくても、同じステージに立つことができる、夢は叶うということを示していたと言える。そんな記念すべき場面に立ち会うことができたし、やっぱりこのフェスに出るお笑い芸人は空気階段じゃなきゃいけなかったのだ。
19:45〜 オナニーマシーン
そんな空気階段と司会のフジジュンによる「オナニー」コールで迎える準備が整ったところで、ついにこの日のトリのオナニーマシーンへ。フジジュンですらもどんなライブになるのか全く知らないというだけに、我々もいろんな想いを持って臨むライブでもある。
SEが鳴ってステージには赤いツナギを着たオノチン(ギター)とガンガン(ドラム)が登場すると、オノチンはいきなりステージにローションでも塗ってあるかのようにステージ上を転げ回るもんだから全然ライブが始まりそうにないのであるが、その間にスクリーンにはステージ上にセッティングされたイノマーのベースが映しだされていたので、もしかしたらそれを長い時間映すための配慮だったんだろうかともほんの少し思ったりもしていた。
「もう目が見えんから若いもんを呼んどくれ」
と、ふざけてるんだかリアルにぼろぼろな状態なのかわからないオノチンがようやくギターを持って鳴らすと、ガンガンが力強いビートを刻み、しかもそのガンガンがドラムを叩きながら歌うというスタイルで「あのコがチンポを食べてる」を演奏する。まさかのオナマシの2人だけでのライブのスタイルがこうしたものになるとは思っていなかったけれど、ベースの音が聞こえていたのはイノマーの鳴らしていた音を同時に流していたんじゃないかと思う。
そのまま「ドーテー島」もそのスタイルで演奏されるのだが、ガンガンがサビでキーを落として歌っているのを聴くと、イノマーのボーカルのキーが実はかなり高かったということに今になって気付く。そのガンガンがイノマー、オノチンという変人2人の後ろでしっかりとしたドラムを叩いているからこそオナマシのライブが成り立っていたんだなということも。
すると急に聞き馴染みのあるBGMが場内に流れて客席を走ってステージに乱入してきたのは、出演者の中に名前はあったがいつどんな形で出てくるか不明だった、江頭2:50。
なのだが、あの奇人・江頭が
「誰か救急車呼んでー!」
とツッコミに回らざるを得ないぐらいにオノチンがまぁ意味不明な言動を繰り返している。それゆえに江頭が実は常識人であり、決していつものパフォーマンスもめちゃくちゃにやってるわけではないということもオノチンがめちゃくちゃすぎるせいでよくわかってしまう。
その江頭はまさかの「恋のABC」のボーカリストという形での参加となるのだが、まぁ歌唱力もパフォーマンスも素人レベルなのはもう致し方ないところもあるけれど、何よりもこの日の出演者の中で誰よりも有名人である江頭がこうしてこのフェスに出演してこの曲を歌っているということこそが、イノマーがどれだけたくさんの人に慕われていたかということを示しているのだ。確かに曲やバンドのコンセプトにこの上なく合う人物であるというのもあるけれど。
その江頭はオノチンの様子を見て、
「袖にギター弾ける人いっぱいいるぞ!?」
と言っていたけれど、実際にここでガンガンが紹介したのはベースを弾ける人物である、The ピーズのはる。そのはるはステージに置かれたイノマーのベースを持つのだが、そのままはるがベース&ボーカルになるのかと思いきや、ボーカルとして呼ばれたのは銀杏BOYZの峯田和伸。つまりは峯田とイノマーがリスペクトするはるがイノマーのバンドで峯田と一緒に音を鳴らすという夢のような編成となるのだが、歌う曲は「チキチキバンバン」を全て下ネタへと変え去った「チンチンマンマン」(でもこの歌詞をはめるイノマーのセンスは実は凄いと思う)であるのだが、イノマーが崇拝するはると、イノマーが1番好きなバンドだった峯田がイノマーのバンドでイノマーの作った曲を演奏している。それこそイノマーが1番見たかったものだったのかもしれないと思うし、そんな場所をイノマーは作り上げていたのだ。
しかし曲終わりではドラムセットの前でオノチンが峯田と抱き合ったままで全然動こうとしない。そのオノチンと峯田は顔が近すぎてキスしそうなくらいなのだが、峯田はオノチンに強めの表情で何やら言葉をかけている。その姿を見て、オノチンがこんなにも挙動不審になっているのは、実際にステージに立ったことによって、本当にもうイノマーがいないという現実に直面してしまって、それを受け止めきれていないんじゃないかと思った。だから峯田はオノチンに「大丈夫だから」と言っていたんじゃないかと。
そう考えるとオノチンは豊洲PITの時はこんなに挙動不審じゃなかった。なんなら最後にはマイクに向かってハッキリと、
「イノマー、俺よりも年下だからもっともっと長生きして欲しい!」
としっかりした口調で話していた。それからイノマーが居なくなってしまって、この日2人だけでオナマシとしてステージに立っているという現実がこんなに重いものであるとようやくわかったかのような。
そんなオノチンはTENGAから貰ったという世界に一本しかないTENGAデザインのギターを掲げると、この日の出演者を全員ステージに呼び込んで、イノマーが初めて作ったという「I LOVE オナニー」を全員で歌うのであるが、こんなに「オナニー」と連呼するような曲をみんながこんなに楽しそうな表情で歌っている。オノチンは何故かステージから落下して峯田や綾小路に引き上げられ、それでもなおギターはちゃんと弾き、しかもガンガンに「もう1曲」とお願いして「オナニーマシーンのテーマ」までをも演奏している。
空気階段やHump Backまでもがこんなにバカバカしい曲を笑顔で歌っているというのは、オナマシがこんなにバカみたいな曲を作り続けてきたのは、こうやってバカみたいな音楽だからこそバカみたいに笑い合うことができる。それをきっとイノマーはわかっていた。本来めちゃくちゃ頭が良くて、オリコンの編集長までを務めていたくらいの男が何の意味もなくこんな曲を作って歌うわけがない。そこにはこういうバカみたいなことをするからこそ笑える人間がいて、それでしか救われないようなどうしようもない人間がいるということをわかっているからだ。ここに集まった人はきっとそういう人たちばかりだったはずだからこそ、またこうやってバカみたいなことで笑い合いたい。イノマーの名前を冠したこの日がそう思える場所であったということが、本当にイノマーのお別れ会らしかった。きっと、イノマーはこの様子を見て笑ってくれてるはずだから、毎年とは言わないまでも、こういう場所を作り続けて欲しいと思う。
それはこのフェスが高校生の頃の自分が「こういうバンドたちが出るフェスがあったらいいな」と思い描いていたものそのものであるし、それを叶えてくれるのはイノマーだと思っていたからだ。
1.あのコがチンポを食べてる
2.ドーテー島
3.恋のABC w/ 江頭2:50
4.チンチンマンマン w/ 峯田和伸、大木温之
5.I LOVE オナニー w/ 出演者全員
6.オナニーマシーンのテーマ w/ 出演者全員
高校生の時にパンクばかり聴いていたのは、GOING STEADYが表紙になっていたSTREET ROCK FILEやオフステというイノマーが作っていた雑誌を買ってインタビューやレビューを読んで、その雑誌についているコンピレーションCDを聴いて(この日場内BGMで流れていて、久しぶりに聴くことができたバンドや曲がたくさんあった)、その雑誌に載っているバンドばかりを聴いていたからだ。
つまり、高校生の頃の自分にはGOING STEADYとイノマーが作っていた雑誌に載っていたバンドの曲を聴くことこそが全てと言っていいような生活だった。
そしてGOING STEADYの「童貞ソー・ヤング」の歌詞カードに載っていたイノマーの短編小説的なライナーノーツを読んで、自分もあんな文章が書けて、カッコいいバンドを紹介できるような人になりたいと思った。それがこうしてライブに行ってはライブレポを書くという生活に今でも続いている。
でも、きっと一生続けてもイノマーのような文章を書けるようにはなれない。指すらもかからないくらいに文章力、発想力というレベルが違いすぎることもよくわかっている。だからこそ自分にとってはこれからもずっとイノマーは憧れの存在であるし、イノマーみたいな影響力があるわけないけれど、自分の書く文章にほんの少しでもイノマーみたいなバンドへの愛が含まれていたら本当に幸せだと思う。
規制退場を待ちながらスクリーンに流れていた、若かりし頃の峯田和伸(髪型がアフロ)や山口隆(痩せている)も出演しているオナニーマシーンの「ソーシキ」のMVを見て、好きな音楽が流れまくって送り出してくれるなんて、まさにこんな最高な葬式の日だったんだな、自分の葬式も誰かがこんな風にしてくれたなと思っていた。
それから2年半、そのイノマーの壮大なるお別れ会と言える「イノマーロックフェスティバル」が東京ガーデンシアターで開催。イノマーが大好きだったバンドたちが集結する、もう他では絶対ありえないような、学生時代の自分がこんなフェスに行きたかったなと思うような夢の1日でイノマーを送り出す。
開演前にはイノマー関連のイベントではおなじみのイノマーの1番弟子、フジジュンによる前説が。今回のライブは国と東京都の定めるガイドラインに従って、収容人数を50%に制限していることから「声出しOK」のライブとなっており、その練習としての第一声が
「オナニー!オナニー!」
というあたりが完全にこのイベントがどういうものであるか、イノマーがどういう人だったかということを物語っているが、出演バンドを1組ずつイノマーとの関係性も含めて丁寧に紹介しつつ、トリのオナニーマシーンのライブがどういうものであるかはフジジュンもわかっておらず、オノチンに聞いたところ、
「そろそろリハやらないといけないんだけど、イノマーと連絡取れないんだよね〜。ジュンちゃん最近会った?」
と言われたという天然エピソードを開陳して笑いを誘い、開会宣言をするとステージ背面のスクリーンに出演者紹介とともに生前のイノマーがライブをしている映像が映し出される。オナマシのアー写が3人のものであり続けているように、まるでこの後にイノマーもステージに出てきてライブをやるかのように。
12:00〜 銀杏BOYZ
まさかのトップバッター。昼の12時からの銀杏BOYZ。青いパーカーを着た峯田和伸(ボーカル&ギター)は映像が流れている間にステージに現れると、ステージに置かれた椅子に座ってその映像を見て拍手を送っていた。
映像が終わるとスクリーンには椅子に座ってギターを持った峯田の姿が映し出される。声出しOKということで、峯田への歓声も客席から飛ぶ。それが「ああ、なんかこの歓声というか野次みたいなものがあるのが銀杏BOYZのライブだったな」と懐かしい気分にさせてくれる。戻ってきたわけではないけれど、この感覚をまだ自分は忘れてはいない。なんだかそれだけで、まだライブが始まっていないのに泣きそうになってしまった。
その峯田が椅子に座ったままでアコギを弾きながら歌い始めたのは「光」。いつもは客席の観客の姿を見ながら歌うようなイメージが強い峯田はこの日はどこか上空を見上げるようにして歌っていた気がした。それは間違いなくイノマーに向かって
「光 君を包めよ」
と歌っていたのだ。
1コーラス終わるあたりでおなじみのバンドメンバーたちが合流し、峯田が立ち上がってハンドマイクになると同時にバンドサウンドとなるのだが、今年のツアーはまだ完全にいつものバンドサウンドではない、アコースティックも含めたものだっただけに、久しぶりにこんなに轟音かつ爆音の銀杏BOYZのサウンドを聴くと「こんなに音デカかったのか」とまた驚いてしまう。それでも峯田はなおも空に向かって手を伸ばすようにして歌い、
「君が笑う夢を見たよ」
と何度も繰り返し歌うのは、間違いなくこのライブをどこかで見ていたであろうイノマーに向けて歌っていたのだ。
峯田がエレキギターを持つと、さらにバンドのサウンドは爆音となって、山本幹宗と加藤綾太のギターは強烈なディストーションを鳴らす。そうして始まった「若者たち」によって観客は一斉に腕を上げる。その光景はまるでこの場所に集まったはぐれ者たちの革命のようですらある。
「パンクロックを聴いた 世界が真っ二つに軋んだ」
というフレーズ通りの経験を高校生の時に確かにしてきて、今また久しぶりに銀杏BOYZの轟音を聴いてその感覚を味わうことができている。変わってしまった世界がまた真っ二つに軋んだのだ。
峯田がギターを置くと、マイクスタンドを握り締めながら、どこか切なくもサイケデリックな山本によるサウンドの「アーメン・ザーメン・メリーチェイン」を歌うのであるが、この曲すらもがもはや祈りのようであるかのようにこの広いガーデンシアター中に響いていく。
しかし峯田はこの日の「声を出していい」というルールをちゃんと把握していなかったようで、飛んでくる歓声に対して
「他のアーティストのライブってもうこういう声出していい感じになってるの?」
と少し困惑気味になりながらも、
「ライブが出来なくなって、モッシュやダイブが出来なくなって、それでもなんとか音楽をやる形を模索してきて。もちろん俺もぐわーってなりたいし、みんながぐわーってなってぐちゃぐちゃになるライブがしたいけど、今はまだできないから」
と、バンド側も観客側もやりたい放題にやってきたかつてのような状況ではないことを改めて思い知らされるけれど、あのステージで暴れ過ぎて骨折しまくっていた峯田ですらも今のルールの中でライブをしているということが、我々もそのルールを破ってモッシュやダイブしまくるということをするわけにはいかないなと思う。
その峯田がタンバリンを持つと、ステージを歩き回りながら歌う「ぽあだむ」が演奏されるのだが、岡山健二(ドラム)と藤原寛(ベース)という元andymoriの2人によるリズムが今までよりもさらに速く、そして強くなっているように感じる。それはやはりこの2人もこうして思いっきり爆音を鳴らす銀杏BOYZのライブをやりたかったんだろうなと思わせてくれるのであるが、峯田は歌詞を
「イノマーみたいにポップになれんだ」
と変えて歌う。確かにオナニーマシーンという名前のバンドがこんなにたくさんの人に認知され、支持されていたのはイノマーのポップさがあったからだろうなと思う。
そして峯田はアコギを持つと「BABY BABY」のイントロが鳴る。その瞬間に観客たちが飛び跳ねまくる。その光景を見ていてどうしようもないくらいに感情が極まってきてしまう。自分が確かに銀杏BOYZのライブにいて、周りにも銀杏BOYZを好きな人がたくさんいるということを実感することができるからだ。声を出せるといっても大声を出しまくっている人はほとんどいなかったけれど、マスクの下であってもこの曲を我慢せずに歌うことができる。その事実にまた感極まってしまった。
かつてイノマーが作った雑誌で峯田とイノマーがこの「BABY BABY」の話をしている時に、
イノマー「最後の英語のとこはなんて言ってるの?」
峯田「夢の中で何度君のことを抱きしめたか知ってるかい?みたいな感じですかね」
イノマー「キレイに言ってるけど、要は「オナニーしました」ってことだからね(笑)」
と言っていたことも今でもよく覚えている。何度その雑誌を読んだだろうか。そうした峯田の音楽やイノマーの作った雑誌がそのまま今の自分を形成してくれたのだ。
そして峯田は再び空を見上げるようにして
「向こうには音楽とか流れてんのかな。イノマーさん、俺もそのうちそっちに行くから」
と言った。そんな日が来てしまったら絶対に自分は耐えることができないから、できる限り長生きしてもらって、もう峯田がライブができないくらいの年齢になって、自分もライブに行けなくなってるくらいの年齢になってからの出来事であってほしい。その時までイノマーに会うことはできないけれど、まだまだ自分は銀杏BOYZのライブが見たいし、峯田の作る新しい曲を聴いていたいから。
そして峯田は
「イノマーのことが大好きだから僕は歌うよ」
と口にすると、ハンドマイクでステージ上を転げ回りながら、まさかの「SKOOL KILL」を歌いはじめる。ああ、この日が声を出すことができるライブで本当に良かった。歓声が漏れてしまうどころじゃないくらいに、本当に久しぶりにこの曲を聴くことができる喜びがあって、
「ときめきたいったらありゃしねぇ」
のフレーズを我々も口にすることができる。峯田は歌詞が飛んでいるというか間違えてるところもあったけど、それがわかるくらいに自分の中にこの曲が今でも完全に染み込んでいる。山本はドラムセットに登って岡山と目を合わせながらギターを鳴らし、そうして空いたスペースで峯田は昔の暴れっぷりを思い出すように転がり回っている。その姿を見ていると、どんな状況の世の中であっても、悲しい事件や争いごとが世の中いっぱいあるけど、銀杏BOYZが側にいてくれたらもう平和なのさって思えるんだ。
演奏後、山本と加藤が肩を組んで歩いて行くのを見て、今の銀杏BOYZが本当に良いバランス、関係性でライブができているんだなと思ったし、その姿はイノマーもきっとどこかで見ていたはずだ。
イノマーがGOING STEADYの時からずっと峯田のことを好きで好きで、雑誌でひたすら特集してくれて、そんな記事を読むことで峯田の言葉が「この人の音楽は自分のためのものじゃないか」とより思えるようになった。それは当時の自分が何にもやる気がない虚無そのものだったからこそ、峯田の音楽とイノマーの雑誌がピッタリとその空間に埋まったんだろうなと思う。だからこそ、自分が映っている写真を見るのは当時から今に至るまでずっと苦手だけれど、かつて渋谷ラママで峯田、イノマーと3ショットで撮ってもらった写真は今でもあの頃の自分を肯定してくれているものとして見返すことができている。
1.光
2.若者たち
3.アーメン・ザーメン・メリーチェイン
4.ぽあだむ
5.BABY BABY
6.SKOOL KILL
13:10〜 Theピーズ
Theピーズのはること大木温之(ボーカル)はイノマーの大学の先輩なのだが、バンドにとって間違いなく一つの記念碑的なライブだった日本武道館の後にはるもまた癌に冒されていることがわかり、闘病生活に入った。無事に復帰を果たしたものの、コロナ禍に入ってバンドの形態は変わる。長年の相棒の安孫子義一(ギター)は変わらずに参加し、岡田光史(ベース)、茂木左(ドラム)という若いリズム隊を加えての4人編成となり、はるはベースをギターに持ち替えた。
セッティングをメンバー自身がやっていると、はるはすぐに
「もういいの?まだ時間あるの?」
とスタッフに問いかけ、そのままライブが始まるという実に斬新な、登場とかそういうの何もない形で「ブラボー」からスタート。アビさんのギターのブルース色の強さは変わらないけれど、やはりリズム隊が若返り、かつはるがギターになったことによってリズムに躍動感が増しているようにも感じる。はるも見た目はやはりもう50歳を過ぎているだけに年齢を重ねたことを感じさせるものになっているが、ギター&ボーカルになったことによって歌もかつてよりも伸びやかになっている感じもするのはライブを見るのが久しぶりだからか、それともはるが飲酒するのを断つようにしたからか。
そんな、癌になっても生き延びたはるが歌うからこその説得力の強さを持つ「生きのばし」でははるが
「君の名前はイノマー」
と歌詞を変えて歌う。ピーズのことが大好きだったイノマーへの先輩からの粋な計らいである。
自分がピーズを知ったのはやはり銀杏BOYZの峯田とイノマーがリスペクトするバンドとしてピーズを挙げていたからで、特に峯田がフェイバリットアルバムとして挙げていた「とどめをハデにくれ」は本当にめちゃくちゃ聴いた。だからこそそのアルバムに収録されている「日が暮れても彼女と歩いてた」を聴くと当時のことが蘇ってくるのだが、やはり編成が違うことによってか、どこかサウンドはチープなようにも感じていた音源よりも今のメンバーでのライブの方がハッキリと曲の良さが伝わる。それはピーズは今の世の中、今のロックリスナーにもちゃんと響くバンドなんじゃないかとさえ思う。
その「とどめをハデにくれ」の前にリリースされたアルバム「マスカキザル」収録の「オナニー禁止令」や「やったなんて」という、なかなかにメディアではオンエアできないであろう歌詞の曲が続くのだが、はるいわくこれは
「イノマーは俺のことを崇拝していたから、俺の曲に影響を受けた曲を作ってた。今の曲たちはそのイノマーが影響を受けてた曲」
ということで、このフェスだからこその選曲であることがわかる。もう30年以上前にリリースされた曲であり、技術が全くない頃だったから2分くらいで終わってしまう曲というのも長く活動してきたからこそたくさんのアーティストにリスペクトされているピーズの歴史を感じさせる。
そこに昨年リリースされた会場限定盤に収録された「さらばボディ」と続くことによって、ピーズというバンドのサウンドの変わらなさを感じさせてくれるのであるが、アビさんのギターの躍動感はなんなんだろうかというレベルだ。元々は武道館ライブ後に足を洗おうと思い、音楽以外の仕事を本業としていたのが、はるの病気が判明してバンドに戻ってきたというエピソードがあるように、長年続けてきたピーズのカッコよさを自身のギターで証明しようとしているようにも見える。もちろんそこにははるに少しでも長く音楽を続けて欲しいという思いもあったはずだ。
そのはるはアビさんとともに自分たちが映っているスクリーンを物珍しそうに指差したりと、こうしてライブをやれていることが実に楽しそうで、
「これからもできる限りは続けていきます!」
と宣言する。まだまだ生きのばしは続いていくし、そのバンドが鳴らしている音がやはり終わっていくバンドのものではなくて、これからも続いていくバンドとしての生命力に満ちている。
それは「実験4号」などのバンドの名曲を聴いていても実感することであるが、若いリズム隊の2人がもともとピーズのファンであったということも大きいと思う。だから岡田も茂木もコーラスまでなんなく務めることができるし、その表情は実に楽しそうである。
後半は「ドロ舟」から、アビさんのギターがブルージーでありながらもロックンロール感を強めていくと、実にピーズらしいフレーズによるリズミカルなボーカルの「プリリヤン」から、こうしてメンバー全員でコーラスを重ねることによるバンド感の強さを確かに感じさせてくれるライブでおなじみの「焼めし」と、久しぶりに見たピーズのライブはこんなに素晴らしいものになっていたのかとすら感じられる。
そんなライブの最後はやはり「グライダー」か「とどめをハデにくれ」だろうかと思っているとはるが
「オナマシの最後のアルバム、イノマーが真面目になっちゃったのかな?って思うくらいに長い曲ばっかなんだけど、最後に短い曲が入ってるからその曲を演奏しようかなって。でもさっきオノチンに聞いたら
「ライブでやったことないんじゃないかな」
って言ってた(笑)」
という、つまりはこのピーズで演奏されるのがライブ初披露となるのがオナニーマシーンの「恋する童貞」のカバーで、やはりアビさんもリズム隊の2人も本当に楽しそうに演奏し、コーラスしている。何よりもこんなにもオナマシに合わせた内容のライブをやるというのは、はるの先輩として最後まで面倒見てやるという心意気によるものだろうとも思う。そんなピーズの生きのばしはこれからも続いていく。かつてないほどにそこに確信が持てるような、今のピーズのライブだった。
このフェスでピーズのライブを見ていたら、イノマー、峯田和伸、はるという3人の対談がかつてあったことを思い出した。そこではるは2人に
「でもイノマーも峯田も優しいもんな」
と言っていたのを今でもよく覚えているけれど、こうしてイノマーのためと言っていいようなライブをやってくれるはるだってやっぱり最高に優しいと思う。どうかこれからもずっと元気でバンドを続けていて欲しいと心から思う。
1.ブラボー
2.生きのばし
3.日が暮れても彼女と歩いてた
4.オナニー禁止令
5.やったなんて
6.さらばボディ
7.実験4号
8.ドロ舟
9.プリリヤン
10.焼めし
11.恋する童貞 (オナニーマシーンのカバー)
14:20〜 氣志團
2019年の豊洲PITでのライブにも出演していた、氣志團。この日の出演者の中ではダントツに芸能色が強いし、今はもうなかなかこの日の出演者たちと一緒にライブをしたりはしないけれど、やはり今でも自分たちの出自がこのシーンだったんだと思ってくれているんだと自分は思っている。
おなじみの「BE MY BABY」のSEで学ランを纏ったメンバーがステージに登場すると、
「People in the 房総」
というフレーズが紛れもなく房総地方でずっと生きてきた自分にとっては誇らしく響くダンスチューン「房総魂」でスタートし、早乙女光(ダンス&スクリーム)はバスドラを肩にかけて歩きながらドンドンと鳴らす。サウンド的にもパフォーマンス的にも氣志團がバンドとして進化を重ねていることがよくわかるし、綾小路翔(ボーカル)がバンドのグラフィティーが描かれた銅鑼を最後に思いっきり叩くという締め方も、カッコいいロックバンドとしての氣志團の姿をカッコいいロックバンドしかいないこのフェスで示してくれる。
そのカッコいいロックバンドとしての氣志團の姿を演奏で示すのはダンサーたちと早乙女が巨大な旗を振り回す中で、西園寺瞳と星グランマニエのギター2人がお立ち台の上で激しいタッピングを展開する「NIGHT THE KNIGHTS」であり、イロモノバンドの極み的な見方をされることも多い氣志團のメンバーがそれぞれ確かなプレイヤビリティの高さを持っているということがこうしてライブを見るとよくわかるというか、そうしたバンドであることを自分たちで証明するセクションをちゃんとバンド側が設けている。
すると
「俺たちがなぜこの順番なのかわかるか!?準備運動の先生だからだ!」
と言って手首や足首、首から乳首やカリ首など、ドンドン下ネタに展開していき、
「こういうのは嫌いですか?いや、嫌いな奴はそもそも今日来てないよな(笑)」
と開き直りながら、近年はこうして割とセトリの前半から中盤あたりで演奏されることの多い「One Night Carnival」が早くも演奏され、氣志團ファンの方々がペンライトを光らせながら踊っている姿が実に鮮やかなのだが、ラスサビ前でブレイクが入ると、この日は声出しがOKということもあって観客による合唱が実に久しぶりに響く。それがこんなに感動的なものであるということを我々観客はもちろん、メンバーも噛み締めているかのような瞬間だった。
しかし綾小路はそれでも、
「2年以上ぶりにみんなの声を聞けたけれど、まだまだライブハウスはモッシュもダイブもできないし、キャパを減らしたりしている。そんな俺たちは何もできないのか?いや、そんなことはない!みんな、足を開いて前屈みになってくれ!」
と言って飛沫が飛ばないし歌詞を知らなくても形になるハミングでの大合唱を展開させてから、
「俺はずっと、お前たちに!」
と言ってから
「恋してるのさ お前らに恋してるのさ」
と最後のサビを歌う。この久しぶりの「One Night Carnival」の合唱の瞬間に立ち合うことができて本当に良かったと思っている。
すると近年お約束の、早乙女が理解不能な言語で喋り始め、
「かつて日本武道館や東京ドーム、紅白歌合戦まで俺たちを連れて行った「One Night Carnival」がもう古い、オワコンだって!?」
と言って綾小路VS他メンバーの構図になる小芝居が始まると、白鳥松竹梅(ベース)を
「漁港のメンバーですか?」
とイジりながらも、
「わかってるよ!最前列が誰も振り付けを踊ろうとすらしてなかったのをわかってるよ!もう20年前の曲だってわかってるよ!」
と開き直り、メンバーとともに観客に謝罪してから、
「氣志團、GOING STEADY、サンボマスター、ガガガSPはイノマーチルドレン四天王って言われてた。でも他のバンドたちが偽ることなく自分たちを曝け出しているのを見て、カッコつけてた俺たちは羨ましかった!ゴイステが「童貞、万歳!」って歌った時に俺たちはさも経験ありげに振る舞ってたよ!俺は本当はゴイステみたいになりたかった!」
と胸の内を打ち明けると、今回の「One Night Carnival 2022」はなんとゴイステ「童貞ソー・ヤング」とのマッシュアップとなり、綾小路の曲始まりのセリフも、
「童貞、万歳!」
もあのギターリフもそのまま再現され、その後からメロディに無理矢理「One Night Carnival」の歌詞を乗せるのだが、自分はもう峯田が「童貞ソー・ヤング」を歌うことはないと思っている。この曲は当時のあの4人でのゴイステが鳴らすからこそリアルな曲だった。だから今の銀杏BOYZでは演奏されることはないと思っているから、もうライブで聴ける機会もないと思っていた。
それがまさか氣志團の手によって演奏されるのが聴けるとは。この曲ももう20年前の曲なんですけど、っていうツッコミはさておき、もうライブでは聴けないと思っていたあのメロディが目の前で鳴っていた。形も人も違うけれど、銀杏BOYZを観に来たであろうファンもこの瞬間の熱狂は凄まじかった。思えばかつて峯田はイノマーとの対談で綾小路のことを
「俺は普段あんまり人のことを褒めたりしないけど、あの人は本当に凄い人だと思ってる」
と称していた。そんな凄い人がゴイステの曲を渾身の愛を込めて鳴らし、歌っている。ゴイステのようになりたくてもなれなかったバンドはひたすら自分たちのフェイクっぷりを磨き上げまくることによって、本物以上のフェイクになったのである。
そうした予想だにせぬパフォーマンスの後に演奏された「落陽」の切ないメロディとオレンジ色の照明がどうしたってあの場所のことを想起させる。そう、氣志團主催フェスである氣志團万博が開催されている袖ヶ浦の公園である。今年こそはと3年ぶりの開催に向けて全ての出演者が発表されたばかりであるが、あの会場でまたこの曲を聴きたい。それはきっとこの日会場にいた、あるいはこの日はいないけれど氣志團万博を心から楽しみにしているKISSESの総意だろう。
「君にあの夕陽を見せたい
燃える様に赤い太陽
あの街に行こうよ 海もあるよ
いつか きっと いつか 行こうよ」
の「いつか」が2ヶ月後であることを心から願っている。
そしてラストは豊洲PITの時と同様にあまりにも完璧すぎてもう毎回ライブで演奏しているのかとすら思う、「オナニーマシーンのテーマ」のカバー。何が完璧かって、ダンサーの振り付けもティッシュをぶちまける演出もあまりに完成度が高過ぎたから。
それはさすがイノマーチルドレン四天王の一角のバンドであるし、こうした湿っぽくなりがちな場でのライブをとことんエンタメに昇華するという氣志團のスタンスがどれだけ強いものであるかを改めて示すようでもあった。
氣志團のライブに同じものは全くない。それを知っているからこそ、今年は3年ぶりの氣志團万博に3日通しで行く。そこでは毎日全く違うライブを観ることができるだろうし、ずっとあんなに何もない場所でフェスを続けてきてくれた氣志團が、その三日間だけはあそこを何でもある場所に変えてくれる。それを千葉県民としてちゃんと観に行きたいのだ。
1.房総魂
2.NIGHT THE KNIGHTS
3.One Night Carnival
4.One Night Carnival 2022 -童貞Carnival-
5.落陽
6.オナニーマシーンのテーマ
15:30〜 Hump Back
おそらくこの日の出演者の中で1番意外なバンドであると思われるが、前説でフジジュンが「オナマシが渋谷ラママの自主企画で最後に対バンしたバンド」と紹介していたように、イノマーが近年最も愛していた若手バンドと言っていい存在なのがHump Backである。
サウンドチェックで早くも3人がステージに登場して曲を演奏すると林萌々子(ボーカル&ギター)が
「うちらのライブ、若い女の子のファンが多いから、こんなに「オナニー」って言いまくるライブとは思わなくてビックリしてると思うから優しくしてあげて(笑)」
と普段から自分たちのライブを観に来てくれているファンを気遣うと、そのまま突入した本番では
「うちらは他の出演者に比べたらイノマーさんとの付き合いは短いけど、初めては人伝に手紙を貰って、一言「大好きです」とだけ書いてあって(笑)
それから文通する相手みたいになったんやけど、まだ私は当時実家に住んでて、親から
「あんたまたオナニーマシーンって人から手紙来てる…」
って言われて…あれは迷惑でした(笑)」
というイノマーとの出会いのエピソードを話して笑わせると、
「ああもう泣かないで」
とこの会場にいる我々の心境を歌うかのような「拝啓、少年よ」でスタートし、ぴか(ベース)はぴょんぴょん飛び跳ねながら演奏する。髪がかなり伸びてきた美咲のドラムも実に力強い。
「この曲を聴いたらみんな10代や!」
と、すでにメンバーも20代後半に差し掛かっているからこその説得力を持つ「ティーンエイジサンセット」の
「スリーコード エイトビートに乗って
僕らの歌よ どうか突き抜けておくれよ」
というフレーズを衒いもなくシンプルなロックサウンドに乗せて歌うこのバンドのことをイノマーが好きになったのも実によくわかる。Hump Backは紛れもなく今のバンドであるが、それでもあの頃に活動していてもたくさんの人の心を掴むバンドになっていたんだろうなということがよくわかる。
すでに武道館や大阪城ホールなどの大きな会場でのワンマンも経験しているだけに、林のボーカルも実に気持ち良さそうにこの広いガーデンシアターに響いていく「宣誓」では昂りまくった林がマイクスタンドをぶっ倒しながらステージ上手を転がり回る。まさにこうしたところはイノマーのステージ上のパフォーマンスを彷彿とさせるところである。
その林はギターを鳴らしながら、
「生きてるってことはおるってことや。みんなの心の中にイノマーさんはまだおるやろ。
あの人が最後に愛したこのバンドで僕は少年少女たちの青春を歌う。青春は性じゃなくて青い方の」
とイノマーへの思いを言葉にすると、
「ひっくり返すってことは、誰からもひっくり返されんってことや!」
とバンドのグルーヴがさらに極まる「番狂わせ」へ。決して難しいことをやっているわけではないけれど、これはこのバンドにしか絶対にできないことだよなと思うくらいのこの3人だけが出せるものがここには確かに存在している。
「イノマーさんのための曲!」
と林が称した、ストレートなギターロックサウンドの「HIRO」には
「どうやら僕らは騙されたみたいだ
ロックンロールの神様ってやつに」
というフレーズが存在する。それはまさにロックンロールの神様に最後まで騙され続けるようにステージに立っていたイノマーのことをそのまま歌っているかのようだ。
そんなバンドは8月にEPをリリースすることが決まっているが、ここでそのEPに収録される新曲「僕らの時代」が披露される。林が
「知らんくても楽しいやろ?」
と言うくらいに初めて聴いても体が動き出してしまうロックナンバーで、やはりこの真っ直ぐに青春を歌うメロディはきっとここにいる誰もの僕らの時代と言えるバンドになってくれるという感覚にさせてくれる。
そして「LILLY」のサビでの
「君に会えたらそれでいいや」
というフレーズのキメの林の歌唱とバンドの演奏がバチッとハマると、この長くはない持ち時間の中でも聴かせるタイプのバラードとして「きれいなもの」を演奏するのであるが、その
「君のかわいい その小さな小さな目から
ぽつりと 涙がこぼれたよ」
というフレーズが最後の「星丘公園」の
「君が泣いた夜にロックンロールが死んでしまった」
というフレーズに繋がっていく。そんな曲をこんなにストレートに鳴らしてくれるバンドがいで、きっとこのバンドのことを見て始まったバンドがロックンロールを鳴らす。そうすることでロックンロールが生き続けていく。そう思えるくらいにHump Backはただひたすらにカッコいいバンドであり続けている。
「死ぬまでHump Backを続けるから!」
という言葉は、死ぬまでオナニーマシーンであり続けたイノマーの意志が確かに継承されているのを感じさせてくれた。でもそれはきっと自分が観ることができないくらいにはるか数十年後のことのはずだ。何よりも声を出せるライブだったことでこのバンドの曲を口ずさむだけでなんだか涙が溢れてきてしまったし、林も
「ステージもそっち(客席)もやっぱり元気が良いのが1番ですよ」
と言っていた。もっと客席が元気なこのバンドのワンマンもまた早く観たくなってしまう。
イノマーの好きな音楽というとやっぱり青春パンクだし、オナニーマシーンもそうしたサウンドのバンドだった。でもHump Backは決して青春パンクというようなバンドではない。それはそうだろう、青春パンクのムーブメントはそのシーンの渦中にいた当事者たちでさえ一瞬で終わってしまったと思うものだったが、このバンドの青春はこれからもずっと続いていくからだ。そんなこのバンドのレビューをイノマーにこれから先も書き続けて欲しかったなと思う。
リハ.生きて行く
リハ.オレンジ
1.拝啓、少年よ
2.ティーンエイジサンセット
3.宣誓
4.番狂わせ
5.HIRO
6.僕らの時代
7.LILLY
8.きれいなもの
9.星丘公園
16:40〜 ガガガSP
綾小路翔が口にした「イノマーチルドレン四天王」の一角バンドである、ガガガSP。豊洲PITでのライブに出演した際にもイノマーへの感謝を何度も口にしていたバンドであり、今回もこうして神戸から駆けつけての出演である。
Hump Back同様にメンバーがサウンドチェックの段階でステージに登場してそのまま本番になると、声が出せるということで客席からは「コザックー!」「前田ー!」「山ちゃーん!」という主におっさんによる野太い歓声が上がり、
山本聡(ギター)「なんか、声出せるってなったらいきなり悪口言われてるみたいな気分になりますね(笑)」
と言うと、コザック前田(ボーカル)は
「ガガガSP、25年やってるんでたくさん曲あります。なので今日は昔の曲はやりません」
と言っておきながらその直後に響いたのは「国道二号線」の切ないギターのイントロで、観客は「昔の曲やらないって言ったのに!?」と思っているとコザックは
「20年前なんて昔じゃないから!」
とこの曲が昔の範疇に入っていないからこそ演奏することにし、
「当時は別れた彼女のことを「幸せになれ」って歌いながら本当は「地獄に堕ちろ」って思ってましたが、今は本当に「幸せになれ」って思ってます。それは皆さんに対してもそう思ってます!」
と、今こそこの曲の歌詞を素直に歌うことができるようになったことを語る。それは年齢と経験を重ねたことによることであるけれど、懐かしいなという気持ちも確かにこの曲に対してはありながらも、やっぱりこの曲の名曲っぷりは20年経っても全く変わっていないというのが、20年がまだまだ昔ではないということが本当なんだなと思わせてくれる。
「イノマーさんの歌う性春じゃないけど!(笑)」
と、図らずもHump Backの林と同じことを口にしたのはガガガSPにも「青春時代」というタイトルの曲があるからであるが、もう40代になってもまだ青春時代は終わっていないんじゃないかとすら思えるのは、このバンドがあの頃と変わらない形で今もこうして音楽を鳴らし続けているからだ。コザックの髪型は変わってはいるけれど、山本も桑原康伸(ベース)も田嶋悟士(ドラム)も出で立ちがあの頃からずっと変わっていないように思える。
しかしながら変わることなく活動しているということはバンドは先に進んでいるというわけで、豊洲PITの時には過去の代表曲、名曲だけでセトリを構成していたが、この日は今年リリースされた最新アルバム「THEガガガSP」の「oiの中の蛙」という選曲で今の自分たちの姿を反映させてみせる。
田嶋の疾走するビートに山本と桑原の全力のコーラス、コザックのがなるようなボーカルが乗るというスタイルは変わらぬガガガSPのものであるが、それでも歌詞の視点に「労働者」というものが入っているのがかつてとは違う、今のガガガSPとしてのものになっている。もうきっと「卒業」みたいな曲を作ることはできない。卒業していく場所がもうないから。でもそうではないガガガSPでしかない曲を作ることはできるということをバンドはステージで示している。
それはコロナ禍にリリースされたアルバム「ストレンジピッチャー」という、このバンドのことを称するのにこんなにふさわしいタイトルはないと思うような(熱狂的オリックスファンとして知られるコザックにとってのストレンジピッチャーはやはり星野伸之あたりだろうか)作品から披露されたのはフォーク色が濃い「イメージの唄」で、そこで歌われている心情は期せずしてコロナ禍を生きるバンドマンや生活者のものにリンクしているというのもまたガガガSPが今を生きているバンドであるからである。
「こんな大きいところでやる機会なんてもう全くないんですけど、銀杏BOYZとか氣志團とかサンボマスターを観に来た人が出演者を見て、「ガガガSPまだやってるんだ?」と思ったと思うんですけど、まだやってます!」
と、今でもずっとバンドを続けている自分たちのことを肯定するかのように近年のバンドの最大のヒット曲と言っていい「これでいいのだ」が演奏される。それはこの肯定的なメッセージが鬱屈としてしまう今の世の中にダイレクトに突き刺さるものだからだろうし、今でもこの曲でこのバンドは生きることと青春のことを歌っている。それはきっとイノマーの姿を見てきたからこそ書けた歌詞なんじゃないかとも思う。
そんなイノマーのステージに立つ姿を見て、時には病院へも顔を出していたからこそ、
「もう、死ぬまで生きてやろうじゃないかと思うわけです」
と言って演奏されたのはもちろんガガガSPの存在を世間に知らしめた大ヒット曲「晩秋」であり、声が出せるライブだからこそ山本と桑原による
「晩秋の夕暮れは」
のコーラスに観客の声が乗っかる。それはいつ以来の経験だろうか。いや、それは間違いなくあの日の豊洲PITのライブ以来の「晩秋」の合唱だ。それはつまりこの日が紛れもなくあの日の続きだということだ。あの日、もう普通なら喋ることも歌うことも演奏することもできない状態でもライブをやったイノマーの姿を見ているからこそ、思いっきり拳を突き上げて
「死ぬまで生きてやろうじゃないか」
と歌うことができる。この日、この瞬間の「晩秋」は過去の懐メロではなくて、今生きている我々のためのテーマソングだったのだ。
その豊洲PITの時と同様にコザックはデビューして初めてリリースした曲をインディーズマガジンでイノマーがレビューを書いてくれたことを嬉しそうに思い返しながら語る。それがバンドにとって初めてメディアに載った瞬間であり、そのレビューがあったからこそ、バンドはこうして今に至るまで続いてきた。イノマーがそのレビューを書いた「線香花火」がこの日最後の曲として演奏される。山本の名曲に名リフありと思わせるギターサウンドも、
「ああ線香花火よ」
というサビのキャッチーなコーラスも。ガガガSPというバンドのスタイルはこの曲の時点で出来上がっていたからこそ、イノマーはこの曲を
「人生において1番大事なのは青春だ。ガガガSPはその青春を正しく鳴らしている」
と評したのだろう。それが今でもずっと続いていると思えてしまうような自分のようなやつのことをこれからも照らしてくれないか。まさに暑い暑い夏の夜という季節だから。
ガガガSPは思いっきり青春パンクムーブメントの荒波に飲まれまくったバンドだと思っている。だからブームが終わると迷走気味に感じてしまう作品もあったし、アップダウンのダウンの方に向かっていくような活動になってしまった。
でもそんなバンドが今でもメンバーが変わることなく続いているというのは本当に奇跡的なことだ。あの頃に爆発的な人気を誇っていたMONGOL800も175Rも同じメンバーで続くことがなかっただけに、ガガガSPがどれだけ凄いのかというかしぶといのかというのが本当によくわかる。
「神戸のゴキブリ、日本最古の青春パンクバンド、ガガガSPでした!」
という言葉にはなんの虚飾も誇張もない。今でもその通りだなって思えるようなライブをこのバンドは続けている。その頼もしさを今になってこそより感じられるし、このバンドが続いている限りは青春パンクという言葉は消えることはない。
リハ.ロックンロール
1.国道二号線
2.青春時代
3.oiの中の蛙
4.イメージの唄
5.これでいいのだ
6.晩秋
7.線香花火
17:50〜 四星球
リハの時点でメンバーが私服で登場して、「この曲リハでやるのか?」と思わざるを得ない「運動会やりたい」で観客を赤組と白組に分けて腿上げ対決をさせるのだが、その時点で自分たちのことを撮影してるカメラマンに
「まだスクリーンに映像映ってないやん!なのになんでずっと撮ってんの!?まさにオナニーやん!(笑)」
と北島康雄(ボーカル)が早くもこのフェスに合わせたパフォーマンスを披露する、四星球。すでに京都大作戦でも2週連続で出演するという大活躍を見せたが、それ以降も怒涛のスケジュールでライブを行いまくっている。
というのも本番では法被に着替えて北島が登場すると、
「今日の朝、長野で焼肉ロックフェスに出演して、焼肉食べないで握り飯食べてこのフェスに来ました!それだけ出たかったフェスなんです!」
と、このライブがこの日2本目のライブであるという凄まじいスケジュールになっていることを明かすと、この日はU太(ベース)は中国のミッキーマウス(つまりは偽物)、モリス(ドラム)はジーニー(ランプの魔神)、まさやん(ギター)はアリエル(人魚)というディズニーで統一されたコスプレで、まさやんは人魚なだけになかなか立ち上がることができなくてスタッフに立ち上がらせてもらうといういきなりの小芝居も展開されるのだが、こうなると焼肉ロックフェスではどんな設定だったのかも気になってくる。
そんなよくわからないディズニー軍団(動きづらすぎてまさやんはすぐにブリーフ姿になっていた)の姿で演奏された1曲目が「クラーク博士と僕」であるというのがこの日の四星球のライブがどんなものであるのかということを物語っている。それは笑いもありながらも、ひたすらにイノマーへの思いを伝える熱いものであるということだ。
しかし北島は
「長野でライブ1本やってきたからもう疲れてる」
という理由でステージに寝転ぶと、その姿が生まれたての仔馬みたいだということで、まさやんが振り付けをしながら歌う新曲「UMA IS A MISSION」を北島が立ち上がるテーマソングとして鳴らすのだが、北島はなかなか立ち上がることができずに何回もやり直すことになり、まさやんも
「君らのパワーが足りないんちゃう!?」
とキレ気味に。
そうした小芝居も経てようやく北島が立ち上がると、イノマーも大好きだったブルーハーツの名曲のオマージュと言えるであろう「リンネリンネ」を、イノマーがまた生まれ変わってバンドをやるだろうという願いを込めるかのように演奏する。四星球のバラードや聴かせるような曲は実は名曲ばかりであるが、それがいつも以上に沁みてくるのは、
「イノマーさんのメールを今でも読み返すことがあるし、返信してみたりする。もちろん返ってこないし、届いてるかどうかもわからないけど、最後のイノマーさんのメールは
「また一緒にやろうね」
で終わってる。今日はその約束を果たしに来ました!」
と熱くイノマーへの想いを放出すると、その熱さがそのまま「夜明け」の歌唱へと繋がっていくのであるが、「Mr.COSMO」では北島が宇宙人の衣装に着替え、バニラの求人のバスまでも登場する中でU太は
「イノマーさんの作ってたSTREET ROCK FILEに初めて載せてもらった時に
「徳島のスリーピースコミックバンド」
って書いてありました(笑)
イノマーさん、俺たちまだあのままずっと続けてますよ」
とイノマーへの想いを口にするのだが、UFOを呼ぶ際に観客にその場でぐるぐる回ってもらうという曲中の儀式をやらない観客もいたのを北島が見つけると
「全然ダメや!」
と中断させ、
「オナニーマシーンから教わったことは、時間は押してもいいっていうことです!あの人たち、O-Westで一緒にやった時に40分も時間押しましたからね!(笑)」
とイノマーのよろしくない部分までも受け継ぐようにしてもう1回演奏をやり直して最上段の席の人までをぐるぐるとその場で回らせると、
「イノマーさんが入院してる時に作っていた曲があります。イノマーさんに聴いて欲しかったですけど、亡くなった日に僕らは高松でライブをやっていて、間に合わなかった。でもイノマーさん、生まれ変わっても絶対またバンドをやるってわかるくらいにバンド大好きな人やから、この曲が届いたらまたこの曲をコピーするバンドやってくれるんじゃないかって思ってます!」
と言って最後に演奏されたのは「薬草」。何度となく聴いてきた
「歌が薬草になってやら」
というフレーズがイノマーの回復を願って綴られたものであるということを知ると、曲に対する思い入れが全く変わってきてしまうな、とも思うのであるが、やっぱり北島は
「せっかく声出していいライブなんだから、サビで「薬草!」って叫んでくれないと!」
と一回中断させながらも最後まで演奏を完遂すると、演奏後にはこの日使った様々な小道具や衣装を使ってボードに
「We love イノマー」
という文字を作ってみせた。それがここにいる全員に伝わったからこそ、始まる前はややいつもよりはアウェー感も感じたライブが、全員が四星球を観に来たライブかと思うくらいの万雷の拍手に包まれていた。このメンツの中でもこれだけ会場の空気を持っていける四星球はやはり最強クラスのライブバンドにして天才の集団であると思わざるを得ない。
北島はこの日、
「STREET ROCK FILEに胸を焦がしていた世代でございます」
と口にしていた。四星球が載っていたのは申し訳ないが覚えていないけれど、四星球がリスペクトしている10-FEETやマキシマム ザ ホルモンという、先週京都大作戦で共演したバンドたちがまだ全然無名だった時代に初めて曲を聴いたのはSTREET ROCK FILEに付属していたコンピCDだった。
四星球のライブを観て、曲を聴いてこんなに毎回楽しいと思えるのは、四星球の音楽の中にそうした自分が夢中になって読み漁っていたあの雑誌に載っていたバンドたちの遺伝子が入っているからだと思う。同じだなんて言えないくらいに四星球は凄い人たち、凄いバンドだけれど、それでも同じ音楽を聴いて育ってきた同士だと思っている。そう思えるのも、イノマーがあの雑誌を作って、たくさんのカッコいいバンドを我々に教えてくれたからである。
リハ.ギンヤンマ
リハ.Teen
リハ.運動会やりたい
1.クラーク博士と僕
2.UMA IS A MISSION
3.リンネリンネ
4.夜明け
5.Mr.COSMO
6.薬草
18:50〜 サンボマスター
長い1日ももう終盤。この日の出演者の中で最も「イノマーに見出されて世の中に登場した」という感が強いサンボマスターがバンドとしてトリ前を担う。イノマーチルドレン四天王であるだけに、こちらも豊洲PITのライブに続いての出演。
おなじみの「モンキー・マジック」のSEでメンバー3人がステージに登場すると、普段はいきなり観客を煽りまくる山口隆(ボーカル&ギター)がそれをせずに、SEが止まると木内泰史(ドラム)が激しくドラムを連打して「輝きだして走ってく」でスタートし、近藤洋一(ベース)に合わせて観客が手拍子をすると、
「負けないでキミの心 輝いていて」
というフレーズが我々1人1人に歌いかけているようでありながらも、このライブを観てくれているであろうイノマーに向けても歌っているかのようにも感じられる。つまりは歌にも演奏にも思いっきり感情を込めたライブをサンボマスターがやっているということである。
「毎朝のおなじみの曲いきますよ!」
と山口が言うと、イノマーによってフックアップされてロックシーンに登場してきた時は、まさか毎朝の情報番組でサンボマスターの曲が流れるなんて1ミリも思っていなかったが、当時「ミュージシャンズ・ミュージシャンズ・ミュージシャン」とも言われていたサンボマスターが今やたくさんの人に求められるようになったということを示す「ヒューマニティ!」がやはり聴き手の我々の背中を強く押す。サンボマスターがここまでたくさんの人に聞かれ、求められるようになったこの状況を見て、イノマーはなんて思ってるだろうか。あいつらこんなに売れやがって!って思いながらも、オイラはこうなることはわかってたけどね、って心の中でほくそ笑んでいる気もする。
「20年前と同じ気持ちで歌っている!」
と、2年前にリリースされた「忘れないで 忘れないで」とここまでは近年リリースの代表曲が続くのだが、その「忘れないで 忘れないで」も、イノマーという男の存在を忘れないでくれと呼びかけているかのように聞こえてくるのだ。
「もう毎日電話してたよ。でももっと話したかったし、もっと笑い合いたかった。あの人はいつもふざけてるから、自分たちがどんな凄いことになってるか全然わかってなかった!そんなイノマーさんにありがとうっていう曲」
と言って山口が「ラブソング」のイントロのギターを弾くと、木内はライトをつけて腕を振る。それが観客のスマホライトの光になって広がっていく。それはイノマーはもういないけれど、こうしてイノマーを愛している人の生命が輝いているということを感じさせてくれるのだが、山口は
「もう一度 もう一度だけ」
というフレーズを絶唱すると、その後に長い沈黙が訪れる。何度となく聴いてきたこの曲の中でもトップクラスに長かったそれは、間違いなく山口の中でイノマーを偲ぶ時間そのものだった。それくらいにイノマーはサンボマスターにとっては最大の恩人と言える人だからだ。その沈黙の最中に観客も物音一つ立てずに山口の姿に向き合っていたのは、観客全員が山口の心情をしっかり理解していたからだ。声が出せるライブであっても声を出すことができないくらいの張り詰めた集中力。それはサンボマスターとそのファンたちでないと発揮することができないものと言っていいかもしれない。
そんな「ラブソング」の後に山口がイントロのギターを鳴らすだけで拍手と歓声が起こるのはそれが「そのぬくもりに用がある」のものだからで、山口は
「初めまして、僕の名前は山口隆、ベースは近藤洋一、ドラムは木内泰史」
と自己紹介するのであるが、曲中に放たれる言葉は
「ティッシュタイム」「渋谷ラママ」
というものであり、何か勘違いしてるのか?と思いきや、それはサンボマスターがオナマシに呼ばれて初めて対バンした時のことを再現していたのだ。「20年前と同じように〜」という山口の言葉は嘘ではなくて、本当にその時を思い出すようにしてライブをやっている。そのライブがサンボマスターにとっての最大の転換点と言えるものだったということを今でも山口たちはわかっているからだ。
「お前ら、イノマーさんがいないからできねぇと思ってんだろ!でも俺たちはできるんだ!」
と山口が言葉を並べてから演奏されたのはもちろん今やサンボマスターのライブ最大の熱狂を生み出す「できっこないを やらなくちゃ」であるのだが、
「アイワナビーア キミのすべて!」
というフレーズをバンドと一緒に叫ぶことができることの喜びと感動。それも2年半ぶりくらいのことであるだけに、コロナ禍になっても木内が
「こうしてライブに来てくれるってことは、みんなライブを守りたいって思ってくれてるんだと思う」
と我々のことを理解してくれていた思いがようやく繋がってくれたんだと思えた。やっぱりみんなで歌うサンボマスターのライブが本当に楽しいと改めて思えた瞬間だった。
そんなライブの最後は木内がリズムを刻む中で山口と近藤が煽りまくる「花束」で、山口はイノマーという男が、そしてここにいる1人1人こそが花束であると告げ、そんな花束である1人1人を
「お前らがクソだったことなんて1回もねぇんだからな!」
とここにいる我々を肯定する。イノマーの好きな音楽を好きになった我々はついつい卑屈になってしまいがちだ。というか、自分大好きみたいな人だったらオナマシやサンボマスターや銀杏BOYZを聴く必要のない人生だと思う。そんな我々のことを山口はきっとわかっているのは、山口がずっと目の前にいる我々のことを見てきたからだ。
そのファン層はきっとだいぶ変わってきた。イノマーに見出された頃はサンボマスターのライブに来てるのはメンバーより年上のおっさんばかりだったけれど、サンボマスターの音楽はその層だけに刺さるようなものではなかった。
「イノマーさん、初めてイベントに呼んでくれた時、俺たち全然ウケなかったけど、また次は渋谷ラママでやろうな」
と山口は最後に言っていたけれど、その時にウケなかったのも、サンボマスターがそこに止まるような存在ではなかったことを示しているエピソードと言えるかもしれない。でも今のサンボマスターがラママでやったら、絶対チケット取れないだろうなぁ。
この出演者の中でもサンボマスターは最もイノマーがいなかったらこうして今我々の前にいなかったであろうバンドだ。イノマーが自分のレーベルからオナマシと一緒にCDにして、半ば強引にサンボマスターをデビューさせた。それくらいにイノマーはサンボマスターを世に出さなきゃいけないと思っていただろうし、そうでもしなかったらずっと誰に見つかることもなく細々と小さいライブハウスで数人の前でライブをやるバンドのままだっただろう。
そんなサンボマスターの音楽やライブに我々は何度背中を押されて生きてきただろうか。そんなバンドを世に送り出したことによって救われた命だって大袈裟じゃなくてたくさんあるはずだ。もうこのバンドに出逢わせてくれたというだけでもイノマーには一生感謝し続けなくてはいけないなと思うし、こうしてサンボマスターのライブを観ていれば、山口のことを
「東日本一のブサイク」
と言っていた、だからこそ自分が世に出さなきゃいけないと思っていたイノマーのことを思い出すことができる。
1.輝きだして走ってく
2.ヒューマニティ!
3.忘れないで 忘れないで
4.ラブソング
5.そのぬくもりに用がある
6.できっこないを やらなくちゃ
7.花束
19:30〜 空気階段
この錚々たる出演者にはみんなこのフェスに出演する意味や理由がある。唯一バンドではない、キングオブコントのチャンピオンでもあるお笑いコンビの空気階段にも紛れもなくこのフェスに出演する理由がある。
とはいえやはりやるのはコントであり、水川かたまりがサウナに入っていると、そこに後から来た髭の生えたおっさんである鈴木もぐらは実は女性であり、かたまりの前に立ってタオルを取ることでそれを見せつける…というネタなのであるが、本人たちもコントが終わった後に
「サンボマスターのライブの後に我々のコントって、タイムテーブル作った人はバカでしょ!」
と言っていたが、こんなに見る人によっては訳の分からないネタをこのタイミングでぶっ込んでくるというあたりがやはりこのコンビは只者じゃないなと思う。
このコンビがこのフェスに名を連ねている理由。それはもぐらがかつて毎回銀杏BOYZのライブに足を運んでいた、名物ファンであり、間違いなくイノマーの薫陶を受けていた、つまりは我々と同じように音楽を聴いていた人間だからである。
そんなもぐらがバンドではない形でこのフェスのステージに立っている。それは憧れの人と同じ形ではなくても、同じステージに立つことができる、夢は叶うということを示していたと言える。そんな記念すべき場面に立ち会うことができたし、やっぱりこのフェスに出るお笑い芸人は空気階段じゃなきゃいけなかったのだ。
19:45〜 オナニーマシーン
そんな空気階段と司会のフジジュンによる「オナニー」コールで迎える準備が整ったところで、ついにこの日のトリのオナニーマシーンへ。フジジュンですらもどんなライブになるのか全く知らないというだけに、我々もいろんな想いを持って臨むライブでもある。
SEが鳴ってステージには赤いツナギを着たオノチン(ギター)とガンガン(ドラム)が登場すると、オノチンはいきなりステージにローションでも塗ってあるかのようにステージ上を転げ回るもんだから全然ライブが始まりそうにないのであるが、その間にスクリーンにはステージ上にセッティングされたイノマーのベースが映しだされていたので、もしかしたらそれを長い時間映すための配慮だったんだろうかともほんの少し思ったりもしていた。
「もう目が見えんから若いもんを呼んどくれ」
と、ふざけてるんだかリアルにぼろぼろな状態なのかわからないオノチンがようやくギターを持って鳴らすと、ガンガンが力強いビートを刻み、しかもそのガンガンがドラムを叩きながら歌うというスタイルで「あのコがチンポを食べてる」を演奏する。まさかのオナマシの2人だけでのライブのスタイルがこうしたものになるとは思っていなかったけれど、ベースの音が聞こえていたのはイノマーの鳴らしていた音を同時に流していたんじゃないかと思う。
そのまま「ドーテー島」もそのスタイルで演奏されるのだが、ガンガンがサビでキーを落として歌っているのを聴くと、イノマーのボーカルのキーが実はかなり高かったということに今になって気付く。そのガンガンがイノマー、オノチンという変人2人の後ろでしっかりとしたドラムを叩いているからこそオナマシのライブが成り立っていたんだなということも。
すると急に聞き馴染みのあるBGMが場内に流れて客席を走ってステージに乱入してきたのは、出演者の中に名前はあったがいつどんな形で出てくるか不明だった、江頭2:50。
なのだが、あの奇人・江頭が
「誰か救急車呼んでー!」
とツッコミに回らざるを得ないぐらいにオノチンがまぁ意味不明な言動を繰り返している。それゆえに江頭が実は常識人であり、決していつものパフォーマンスもめちゃくちゃにやってるわけではないということもオノチンがめちゃくちゃすぎるせいでよくわかってしまう。
その江頭はまさかの「恋のABC」のボーカリストという形での参加となるのだが、まぁ歌唱力もパフォーマンスも素人レベルなのはもう致し方ないところもあるけれど、何よりもこの日の出演者の中で誰よりも有名人である江頭がこうしてこのフェスに出演してこの曲を歌っているということこそが、イノマーがどれだけたくさんの人に慕われていたかということを示しているのだ。確かに曲やバンドのコンセプトにこの上なく合う人物であるというのもあるけれど。
その江頭はオノチンの様子を見て、
「袖にギター弾ける人いっぱいいるぞ!?」
と言っていたけれど、実際にここでガンガンが紹介したのはベースを弾ける人物である、The ピーズのはる。そのはるはステージに置かれたイノマーのベースを持つのだが、そのままはるがベース&ボーカルになるのかと思いきや、ボーカルとして呼ばれたのは銀杏BOYZの峯田和伸。つまりは峯田とイノマーがリスペクトするはるがイノマーのバンドで峯田と一緒に音を鳴らすという夢のような編成となるのだが、歌う曲は「チキチキバンバン」を全て下ネタへと変え去った「チンチンマンマン」(でもこの歌詞をはめるイノマーのセンスは実は凄いと思う)であるのだが、イノマーが崇拝するはると、イノマーが1番好きなバンドだった峯田がイノマーのバンドでイノマーの作った曲を演奏している。それこそイノマーが1番見たかったものだったのかもしれないと思うし、そんな場所をイノマーは作り上げていたのだ。
しかし曲終わりではドラムセットの前でオノチンが峯田と抱き合ったままで全然動こうとしない。そのオノチンと峯田は顔が近すぎてキスしそうなくらいなのだが、峯田はオノチンに強めの表情で何やら言葉をかけている。その姿を見て、オノチンがこんなにも挙動不審になっているのは、実際にステージに立ったことによって、本当にもうイノマーがいないという現実に直面してしまって、それを受け止めきれていないんじゃないかと思った。だから峯田はオノチンに「大丈夫だから」と言っていたんじゃないかと。
そう考えるとオノチンは豊洲PITの時はこんなに挙動不審じゃなかった。なんなら最後にはマイクに向かってハッキリと、
「イノマー、俺よりも年下だからもっともっと長生きして欲しい!」
としっかりした口調で話していた。それからイノマーが居なくなってしまって、この日2人だけでオナマシとしてステージに立っているという現実がこんなに重いものであるとようやくわかったかのような。
そんなオノチンはTENGAから貰ったという世界に一本しかないTENGAデザインのギターを掲げると、この日の出演者を全員ステージに呼び込んで、イノマーが初めて作ったという「I LOVE オナニー」を全員で歌うのであるが、こんなに「オナニー」と連呼するような曲をみんながこんなに楽しそうな表情で歌っている。オノチンは何故かステージから落下して峯田や綾小路に引き上げられ、それでもなおギターはちゃんと弾き、しかもガンガンに「もう1曲」とお願いして「オナニーマシーンのテーマ」までをも演奏している。
空気階段やHump Backまでもがこんなにバカバカしい曲を笑顔で歌っているというのは、オナマシがこんなにバカみたいな曲を作り続けてきたのは、こうやってバカみたいな音楽だからこそバカみたいに笑い合うことができる。それをきっとイノマーはわかっていた。本来めちゃくちゃ頭が良くて、オリコンの編集長までを務めていたくらいの男が何の意味もなくこんな曲を作って歌うわけがない。そこにはこういうバカみたいなことをするからこそ笑える人間がいて、それでしか救われないようなどうしようもない人間がいるということをわかっているからだ。ここに集まった人はきっとそういう人たちばかりだったはずだからこそ、またこうやってバカみたいなことで笑い合いたい。イノマーの名前を冠したこの日がそう思える場所であったということが、本当にイノマーのお別れ会らしかった。きっと、イノマーはこの様子を見て笑ってくれてるはずだから、毎年とは言わないまでも、こういう場所を作り続けて欲しいと思う。
それはこのフェスが高校生の頃の自分が「こういうバンドたちが出るフェスがあったらいいな」と思い描いていたものそのものであるし、それを叶えてくれるのはイノマーだと思っていたからだ。
1.あのコがチンポを食べてる
2.ドーテー島
3.恋のABC w/ 江頭2:50
4.チンチンマンマン w/ 峯田和伸、大木温之
5.I LOVE オナニー w/ 出演者全員
6.オナニーマシーンのテーマ w/ 出演者全員
高校生の時にパンクばかり聴いていたのは、GOING STEADYが表紙になっていたSTREET ROCK FILEやオフステというイノマーが作っていた雑誌を買ってインタビューやレビューを読んで、その雑誌についているコンピレーションCDを聴いて(この日場内BGMで流れていて、久しぶりに聴くことができたバンドや曲がたくさんあった)、その雑誌に載っているバンドばかりを聴いていたからだ。
つまり、高校生の頃の自分にはGOING STEADYとイノマーが作っていた雑誌に載っていたバンドの曲を聴くことこそが全てと言っていいような生活だった。
そしてGOING STEADYの「童貞ソー・ヤング」の歌詞カードに載っていたイノマーの短編小説的なライナーノーツを読んで、自分もあんな文章が書けて、カッコいいバンドを紹介できるような人になりたいと思った。それがこうしてライブに行ってはライブレポを書くという生活に今でも続いている。
でも、きっと一生続けてもイノマーのような文章を書けるようにはなれない。指すらもかからないくらいに文章力、発想力というレベルが違いすぎることもよくわかっている。だからこそ自分にとってはこれからもずっとイノマーは憧れの存在であるし、イノマーみたいな影響力があるわけないけれど、自分の書く文章にほんの少しでもイノマーみたいなバンドへの愛が含まれていたら本当に幸せだと思う。
規制退場を待ちながらスクリーンに流れていた、若かりし頃の峯田和伸(髪型がアフロ)や山口隆(痩せている)も出演しているオナニーマシーンの「ソーシキ」のMVを見て、好きな音楽が流れまくって送り出してくれるなんて、まさにこんな最高な葬式の日だったんだな、自分の葬式も誰かがこんな風にしてくれたなと思っていた。
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