ストレイテナー 「Big City Small Country TOUR」 @豊洲PIT 7/14
- 2022/07/15
- 21:14
特に何のリリースをしたわけでもないのにこうしてツアーを行うというところが、このバンドがひたすらにライブをやって生きてきたということを示している。ストレイテナーの東名阪ツアー、この日の豊洲PITは初日である。
昨年末に行われた、このバンドのライブを数え切れないくらいに見てきた新木場STUDIO COASTでのワンマンはチケットが取れなかったので、久しぶりのワンマン参加となるのだが、ツアー初日ということもあってか、開演前の物販列がめちゃくちゃ並んでいる光景を見て、「武道館とかの特別感の強いライブ以外のテナーの物販ってこんなに並ぶっけ?」と驚かざるを得ない。
徐々にライブハウスも立ち位置指定がなくなってきているとはいえ、豊洲PITの客席は椅子が並べられた指定席。それによってキャパが減っていることもあるだろうけれど、この規模の会場のワンマンが即完しているというのはやはり嬉しいものである。
開演前の場内ではストレイテナーの曲(しかも割とマニアック気味な)がひたすらに流れており、これはライブで演奏するフラグなのか、あるいは今流れてるからやりませんよ、という意味合いなのかと観客の期待が高まる中でおなじみのSE「STNR Rock and Roll」が流れてメンバーが登場すると、髪色が鮮やかな金になったことで年齢よりはるかに若く見える、1人先んじて白のツアーTシャツを着たナカヤマシンペイ(ドラム)がドラムセットの上に立って叫ぶようにして観客を煽ると、そのシンペイがまさに爽やかな風の音のようにウインドチャイムを鳴らしてから始まったのはいきなりの「Melodic Storm」で、かつてのように「オイ!オイ!」と声を出すことはできないけれど、イントロから観客は腕を振り上げる。そのイントロを奏でるホリエアツシ(ボーカル&ギター)も、ひなっち(ベース)も溢れんばかりの笑みを浮かべている。それはまるで言葉にできない想いが溢れて表情に出ているかのように。OJこと大山純(ギター)が演奏しながら端まで見渡す客席の観客たちもそうであるが、ともに見たかった景色が今目の前に広がっているという実感が溢れているのがよくわかる。観客誰もがかつてのように思いっきり大合唱したい最後のコーラスパートを重ねるシンペイのマイクが近年のヘッドセットではなくて、ドラムセットに取り付けられたものになっているというのも実に久しぶりに見る姿である。
ひなっちのうねりまくるベースがイントロからバンドのアンサンブルを引っ張る「原色」ではピンクや紫などの混色も含めた色とりどりの照明がステージを照らす。テナーのワンマンはアリーナクラスにならない限りは映像などの演出を使うことはないストイックなものであるのだが、それは最低限のもので最大限バンドの演奏の力を際立たせるものになっているということがよくわかる。
それは対照的に白単色という照明がモノクロの世界の中でメンバーが演奏しているようにすら感じられるメロから、サビでサウンドとともに一気に華やかに浮上していく感すらある「BIRTHDAY」が続いたからこそよくわかることでもある。かつてはフェスでも演奏されていたこの曲も実に久しぶりにライブで聴けるのは何のリリースでもないこのツアーだからこそであるが、バンドのグルーヴ、アンサンブルは初日とは思えないくらいに極まっているのはさすがテナーである。それはホリエのボーカルの安定感も含めて。
基本的にテナーのライブは機材チェンジもありながらも実にテンポが良い。しかしわずかに存在する曲間にも起こる、長い&大きな拍手の音が声が出せない観客の意思表示とバンドへの感謝であるということがわかる中、バンド側は最新のテナーの姿を見せることで返すのは昨年リリースのミニアルバム「Clank Up」のリード曲であり、ホリエが最初はギターを弾きながら、曲中でキーボードも弾くという二刀流っぷりを見せる「宇宙の夜 二人の朝」であり、アッパーなギターロックサウンドはベテランになっても失われることのないテナーのバンドとしての獰猛さを示しているのであるが、それを見た目的にも音としても支えているのがシンペイによる、あまりに一打一打が強力過ぎるドラムである。もはやスティックがぶち折れたり、ドラムが破れたりしないかと心配になるくらいの力強さは間違いなく今のテナーのロックさを担っていると言えるだろう。
さらにはタイトルフレーズを歌うホリエのボーカルがどうしたって某ドラマを彷彿とさせる「倍で返せ!」もまた「Clank Up」収録のロックな曲であり、それをライブという場で音の圧をダイレクトに感じながら聴いていると、たまに「テナーは丸くなった」と言っている人は新しい作品をちゃんと聴いていないんだろうし、ましてやライブを観に来てもいないんだろうなぁと思う。メンバーの見た目の若々しさも含めて、全然テナーのことを知らない人が見たら20代の若手バンドだと思っても不思議ではないくらいですらある。
イントロでのうねりまくるひなっちのベースは曲の表情を決定づける要素になっているんだなと、これもライブで聴くとよくわかる「CRY」は全英語歌詞の、妖しい雰囲気を纏ったダンスナンバーであるが、この辺りからはもはやイントロクイズ的な感覚すらも覚えるくらいに、最近では珍しい曲が演奏される。しかしこの曲を何度もライブで聴いたことを良く覚えているのは、曲の締めをOJが鳴らすトライアングルの「チーン」という音と姿を何回も見たことがあるのが脳内に刻まれているからである。
そのOJがステップを踏みながら、誰よりも踊るように演奏するのはホリエが
「東京、踊ろうぜ!」
と言って演奏された「Alternative Dancer」で、2曲目の「原色」も含めて改めて収録アルバム「COLD DISC」に収められた曲たちの名曲っぷりと、アルバム自体の名盤っぷり(リリース時にMUSICAのDISC OF MONTHを獲得している)を改めて思い出させてくれる。序盤のロックサウンドからこうしてダンサブルなサウンドの曲にグラデーションのように徐々に変化していってもシンペイのドラムの強靭さが全く変わらないのはただロックな曲を激しく叩くというのとはまた違った意味での凄まじさすら感じる。
ここまでMCなしで突っ走ってきたし、ホリエはすぐにギターを持って音を鳴らそうとしていただけに、これは今回はそうしたひたすらに曲を聴かせるというようなコンセプトのツアーなんだろうかとも思ったのだが、その予想があっさりと瓦解していくのはホリエが
「ここでMCするんだった(笑)集中し過ぎてすぐに曲行こうとしてしまった(笑)」
と話し始めたからで、今回のツアーは今年まだワンマンをやっていないだけにスタッフたちから急かされるようにして決まったものであることを明かす。てっきりライブがやりたくて仕方がなくて組んだツアーだと思っていただけに、実に意外な理由である。
この日、自分はOJ側のスピーカーの真前最前という席で見ていたのだが、とかく音が良くない豊洲PITであるだけに、ギターの音ばかり聴こえてきたらもったいないなという不安を抱いていたのだが、そこはさすがストレイテナーである。このツアーに向けて観客用にさらにスピーカーを増設したことによって、これまでの豊洲PITの音の悪さを忘れてしまうくらいに4人の鳴らす音がハッキリ聞こえていた理由もここで明かされるのだが、このツアーが特に何も提げていないツアーであることから、
ひなっち「何かを提げないとツアーやっちゃダメなのか?それならお弁当提げてツアーやろうか(笑)
シンペイは鶏のささみ肉とブロッコリーの弁当作りそう(笑)」
シンペイ「最近は炊飯器で鶏を炊いてる(笑)」
とメンバー全員参加(シンペイは立ち上がってマイクを持つという形)でのMCが始まると、
「誰の後継者になりたい?俺は高田純次(笑)」
というひなっちの一言をきっかけに完全に楽屋ノリでしかないトークが展開されていく。かなり長めのMCになったのは久しぶりのこうした時間を設けられるワンマンだからであろうが、ここまでの高い集中力を持った演奏時の姿とは全く別の、愉快なおじさんたちといったような感じだ。ちなみにひなっちいわくOJは「エリック・クラプトンの後継者」らしい。もはやただの大喜利みたいになってきているが、そんなMCから気を取り直すようにホリエが
「じゃあOJのクラプトンのようなギターを」
と繋げるのは実に上手く、しかも次の曲がこうしたツアー初日だからこその新しい始まりという感覚を、シンペイの雄大なイントロのリズムから感じさせてくれる「A LONG WAY TO NOWHERE」で、またここから新たにライブが始まっていくということを示してくれるのであるが、そんな新たな始まりにこれからもこの4人で挑んでいくということを示すような、アニメや映画のタイアップになってもいいくらいにそうした画や情景が浮かんでくるような「群像劇」から、ホリエはギターを下ろすと立ったままでキーボードに向かって、同期のサウンドなんかも取り入れながら「さよならだけがおしえてくれた」を歌い始める。
ある意味では「テナーがポップになった」「丸くなった」と言われるようになった最たるタイプのバラード曲であるとも言えるが、やはりこうして目の前でホリエが歌っているのを聴いていると、それはポップになったわけでも丸くなったわけでもなくて、ただこのバンドの持ち味であるメロディを最も強く感じさせるためのものであるということがよくわかるし、きっともう二度と会うことができないような別れをたくさん経験してきてしまったであろう今の年齢のメンバーが歌い鳴らすからこそ曲から感じられる説得力が確かにある。それは人間としての、バンドとしての表現力の進化であると間違いなく言えるものだ。
するとホリエは今度は椅子に座ってキーボードを弾き、削ぎ落とされたサウンドと低音ボーカル&コーラスの「Lightning」へ。歪んでいないサウンドだからこそ一音一音がハッキリと聴きとることができるし、その音の最適な配置と強さもしっかりと感じることができる。何よりやはりこうしたホリエがキーボードを弾きながら歌う曲のメロディの美しさに酔いしれてしまう。
この日のMCでメンバーは
「オシャレな感じで演奏できるかと思ってセトリに入れたら、めちゃ体力使う熱い曲だったりした」
と体力を消費しまくっていることを口にしていたが、それは間違いなくこの「Cartain Falls」から始まった、バラードから再びバンド感の強さを感じさせるような流れであろう。その体力を間違いなく最も使っているのはやはりシンペイのぶっ叩くと言っていいようなドラムで、そこがただオシャレなサウンドになるのではなくて、ロックバンドとしてテナーがそうした要素を高い演奏力でもって取り入れているということがよくわかる。
それはどちらかというと近年の曲と言っていい「青写真」と「Clank Up」収録の「流星群」でもそうであるというか、そもそも2019年と昨年という時期にリリースされた曲であることから、ほとんどライブで聴いたことがない曲であるだけに、ライブで聴くとこんなにバンド感を感じさせるような曲なのかと思ってしまう。それはライブでのテナーがどれだけ屈強な音を鳴らすバンドであるかということでもある。
そんなバンドサウンドがさらにアッパーに展開していくのは、それまではエフェクティブなベースサウンドで浮遊感を感じさせたりしてくれていたひなっちが一気にゴリゴリの重いベースを鳴らす「叫ぶ星」であるのだが、ホリエが少し歌詞を飛ばす部分があり、OJも「どうした?」とばかりにチラッとホリエの方を演奏しながら見ていた。それは決して歌いきれていなかったり声が出ていなかったわけでもないだけに、歌詞を忘れてしまったのか、あるいは感極まったところがあって歌えなくなったのか。何となく自分は後者だと思っているというのは、もはや今のテナーの代表曲と言っていいくらいに客席からたくさんの腕が上がっていたからだ。
するとホリエがギターを掻き鳴らしながら歌い始めた瞬間にシンペイが立ち上がって、オープニング同様に観客を煽るようなアクションを見せる「ROCKSTEADY」が早くもライブのクライマックスが訪れたかのような空気にしてくれる。ひなっちがその場でぐるっと回転しながらベースを弾くというパフォーマンスを見せる中、
「僕らは進まなくちゃ 先を急がなくちゃ
足が言うことを 聞いてくれるうちに」
というサビのフレーズはもはや成熟という言葉がよく似合うような年齢になってもなお、そうして生き急ぐかのように突っ走ろうとしているバンドの変わらぬ生き様を我々に示してくれている。バンドがそうして変わらないから、我々も変わることなくリズムに合わせて飛び跳ねまくることができる。
2回目となるMCタイムではワンマンが久しぶりなので、後半にMCをするのがこんなにも厳しいものかと思い出すように言葉にしながら(特にここまで凄まじいドラムを叩いてきたシンペイは)、
ひなっち「高田純次じゃなければ所ジョージの後継者になりたいけど、俺たちは所ジョージをトコジョーって略したりし過ぎている。
リーダー(ホリエ)の後継者はマカロニえんぴつのはっとりくんっぽいよね(笑)」
OJ「ちょっとよろしいでしょうか?リーダー呼びはいいんですか?(笑)」
ひなっち「天才だから(笑)こんな曲たちをすぐに作れるのは天才でしょ(笑)」
ホリエ「他のバンドからしたら「もうちょっと考えろよ」って思うよね(笑)OJはたまにもっと詰めたそうな感じしてるけど」
OJ「だってスタジオで3〜4回セッションしたらもう曲になってるんだもん(笑)」
ホリエ「そんなOJも最近はレコーディングが早くなりました」
OJ「天才だからじゃない?(笑)」
ひなっち「来年あたり、エリック・クラプトンの後継者マジで来るかもよ(笑)」
OJ「クラプトンから影響受けてないから(笑)」
と、とめどないくらいの話が続いていくのだが、もう話をしたくて仕方ないから長くなっていくということで、観客はMC中は座ることを推奨されるほど。その座ってライブを見るということについても、
ホリエ「俺たち、ライブ観に行くと関係者席で見させてもらうことも多くて。2階の1列目とかですぐにバレるんだよね(笑)」
ひなっち「俺たちのライブでも関係者席にたまにめちゃガラが悪い奴とかいるよね(笑)」
ホリエ「大阪で関係者席で見てるおっさんが途中で帰ってて。俺たちの関係性で途中で帰るやついるのか?って思ってたらその日の打ち上げの店の店長で、仕込みをするために早く会場から出てた(笑)」
というライブにおけるリアルな経験談でも笑わせながら、
「じゃあこの季節にピッタリな曲を」
とホリエが言って終盤の幕を切って落としたのは、バンドには珍しくちょうどこの時期である七夕をテーマにした「七夕の街」。それが難しいのは七夕というのはとかく特別なイベントとか(短冊に願いを書いたりはあるけど)がない日なだけに歌詞も普通の日常の地続き的なものになりがちで、実際に淡々とした日常を描いている歌詞なのだが、それが七夕という日が人々にとってそういう日であるということを見事に描いている。ホリエは普段から「20〜30分くらいで曲ができる」と言っていたが、こうした曲もそうだとすれば本当に天才である。テナーはアンサンブルを練りに練りまくって曲を作っているイメージも強いだけに実に意外であるが。
そんな日常の風景を描いた歌詞というのはかつてはファンタジー的な歌詞が多かっただけに、今のテナーだからこそ書けるものなのかもしれないが、その極みと言えるのがタイトルからしてもその街そのものを描いた「吉祥寺」であり、かつてホリエが暮らしていたであろう、テナーが生まれたと言っていいであろう街のことが、力強さというよりもじっくりと奏でるバンドサウンドによって表現されている。だからこそ描かれているかつての吉祥寺の街並みがすぐに頭に浮かんでくるのであるが、自分としては吉祥寺といえば森田まさのりの名作漫画「ろくでなしBLUES」の舞台というイメージであるだけに、あの舞台でホリエが生活していたのかと思うとより一層思うところがある。というか吉祥寺に久しぶりに行ってみたくなる。
そんなじっくりと丁寧に、しかしやはりシンペイのドラムの一打の重さと強さは確かに残っている「No Cut」は生み出されたのはコロナ禍になる前であろうけれど、
「ありもしないようなこと
でもそれは現実で
紛れもなく 訪れた奇跡で
山も海も空も飛び越えて
会いに行きたい 心からそう思うよ」
というサビの歌詞はコロナ禍でライブが思うように出来なくなるという想像も出来なかったことが現実になり、でも今またこうやって我々が住む場所へテナーがツアーで回ってきてくれているという強い実感を感じさせてくれる曲だ。だからこそこの曲はこれからもバンドにとっても我々にとっても大事な曲になっていくと思う。
そしてホリエがギターを弾きながら歌い始めたのはこうした何も提げていないからこそ、どんな曲が演奏されるかわからない中でもクライマックスを担う、今や問答無用のテナーの代表曲である「シーグラス」。やはりこの時期、ましてや今に聴くこの曲は格別であるというのは、きっと今年はまたいろんな海に近い場所でこの曲を鳴らしているテナーの姿を見ることができるという確信があるからだ。そうやって何回でも「今年最後」を繰り返して、更新していく。それこそが夏を忘れられない、特別なものにしてくれるということをコロナ禍になる前に我々は何度も経験しているから。ひなっちがステージ上でぐるっと回るようにした後の笑顔も、アウトロでシンペイが完璧に演奏が決まったことを確信して客席を見渡す姿も、その全てが本当に愛おしく感じられる。
そしてホリエが
「ラスト!」
と口にすると、もはや鬼神のごときスピードとパワーでパンクと言ってもいいくらいの性急なビートをシンペイが叩き出す「Last Stargazer」。この曲で締めるというのも実に爽快であるが、拳が振り上がりまくる客席を見て、コロナ禍じゃなかったら観客が一斉に前に押し寄せてダイブが起こっていたかもしれないという光景が頭の中に確かに浮かんでくる。それはテナーが今でもそうした衝動を我々に湧き上がらせてくれるくらいにロックな音を鳴らしているカッコいいバンドであるからだ。演奏が終わった後にメンバーが前に出てきて肩を組む姿を見て、より強くそう思った。2人からスタートしてバンドの形は変わってきたけれど、変わらないものがここには確かにあると。それはバンドだけではなくて我々観客側にも。
アンコールではメンバー全員がツアーTシャツに着替えて登場するのであるが、すぐに楽器を持ってその楽器の音がバチバチに激しく鳴らされながらもバンドとしての一つの大きな塊になっていくのは、実に久しぶりかつ「アンコールでこの曲!?」と思ってしまう「SILLY PARADE」。それは本編最後の「Last Stargazer」から連なるような激しさによるものだったのかもしれないが、これは名古屋、大阪でも演奏されるのか、あるいはそこではまた違う久しぶりな曲が演奏されるのかというあたりも実に気になるところである。
たださすがに本編で喋り過ぎたからか、
「ツアー初日だからMC長かったのだけは勘弁して(笑)演奏は良かったと思います!」
とだけ口にしたホリエがアコギに持ち替えて演奏されたのは今やフェスなどでもおなじみの曲になった「彩雲」。
「突然の土砂降り
そこで話は終わる」
というフレーズは開演前に会場に向かう際に強く降っていた雨のことを思い出させながら、またバンドは雲のように日本各地を流れていくような生活を送っていくんだろうなと心地良く体を揺らせるサウンドに乗りながら考えていた。
演奏が終わると本編同様にメンバーは前に出てきて並んで肩を組んで観客に一礼する。その後にシンペイが上手側に歩いてくると、思いっきり目が合った気がした。次の瞬間にはスティックがこちらに飛んできていた。一発でキャッチできずに落としてしまったことを悔やみながらも、叩いて傷がついたシンペイの名前が刻まれたスティックはライブの素晴らしさとともにこの日を絶対に忘れられない記憶にしてくれたのだった。
この、次に何の曲が演奏されるかわからないワクワク感。かつてテナーはフェスやイベントでも毎回セトリをガラッと変えており、「2日連続や2週間連続でライブを見ても全くセトリが違う」というバンドだったことを思い出していた。その時と今では「シーグラス」のような「この曲はどんな時でも演奏すべき」という名曲が生まれたという違いはある。でも本質的には変わらないのは、テナーはいつどんな時でもこうして我々の予想だにしないような曲を演奏できる状態にあるライブバンドであるということだ。だから出会ってから20年くらい経った今でもこうしてライブを見てはドキドキしたり、ワクワクできるバンドなのだ。
そう、出会ってから20年くらい。テナーだけではなくて、アジカンもTHE BACK HORNもACIDMANも。止まらずに最前線を走り続けてきて20年を超える活動歴になったバンドのコロナ禍以降のワンマンライブを観てきて、共通点があるなと思った。
それは他のバンドのライブ以上に、曲間などでの観客の拍手が鳴り止まないくらいに長く大きいということ。その拍手をしている人には自分より全然年上のような人もいる。きっと20年以上ライブに行き続けてきたような人たちだろう。
そんな年齢の人たちがコロナ禍の平日にこうしてライブハウスにたくさん集まっていて、大きな拍手をバンドに送っている。それはもうその人たちにとっては「これがないと生きていけない」と思うくらいのものだからこそ、声が出せない状況の中で想いをありったけの拍手に込めているということ。ライブを観ては翌日からの日々を生きる力をもらい、ライブが決まればその日を楽しみに生きていく。そうやってみんな生きてきたということが確かにわかる。
だからこそ、声が出せるようになった時は、そうやって生きる指針になってくれたバンドたちに真っ先に「ありがとう」っていう思いを伝えたいと思った。それは長く続けてきて、たくさんの思い出をくれたバンドだからこそより強くそう思えるのだ。その日まで、いや、その日を超えてもなおテナーやその同世代のバンドたちのライブに行き続けたいと心から思わせてくれたツアー初日だった。そんな思いをこれからバンドは他の場所にも届けにいく。
1.Melodic Storm
2.原色
3.BIRTHDAY
4.宇宙の夜 二人の朝
5.倍で返せ!
6.CRY
7.Alternative Dancer
8.A LONG WAY TO NOWHERE
9.群像劇
10.さよならだけがおしえてくれた
11.Lightning
12.Cartain Falls
13.青写真
14.流星群
15.叫ぶ星
16.ROCKSTEADY
17.七夕の街
18.吉祥寺
19.No Cut
20.シーグラス
21.Last Stargazer
encore
22.Silly Parade
23.彩雲
昨年末に行われた、このバンドのライブを数え切れないくらいに見てきた新木場STUDIO COASTでのワンマンはチケットが取れなかったので、久しぶりのワンマン参加となるのだが、ツアー初日ということもあってか、開演前の物販列がめちゃくちゃ並んでいる光景を見て、「武道館とかの特別感の強いライブ以外のテナーの物販ってこんなに並ぶっけ?」と驚かざるを得ない。
徐々にライブハウスも立ち位置指定がなくなってきているとはいえ、豊洲PITの客席は椅子が並べられた指定席。それによってキャパが減っていることもあるだろうけれど、この規模の会場のワンマンが即完しているというのはやはり嬉しいものである。
開演前の場内ではストレイテナーの曲(しかも割とマニアック気味な)がひたすらに流れており、これはライブで演奏するフラグなのか、あるいは今流れてるからやりませんよ、という意味合いなのかと観客の期待が高まる中でおなじみのSE「STNR Rock and Roll」が流れてメンバーが登場すると、髪色が鮮やかな金になったことで年齢よりはるかに若く見える、1人先んじて白のツアーTシャツを着たナカヤマシンペイ(ドラム)がドラムセットの上に立って叫ぶようにして観客を煽ると、そのシンペイがまさに爽やかな風の音のようにウインドチャイムを鳴らしてから始まったのはいきなりの「Melodic Storm」で、かつてのように「オイ!オイ!」と声を出すことはできないけれど、イントロから観客は腕を振り上げる。そのイントロを奏でるホリエアツシ(ボーカル&ギター)も、ひなっち(ベース)も溢れんばかりの笑みを浮かべている。それはまるで言葉にできない想いが溢れて表情に出ているかのように。OJこと大山純(ギター)が演奏しながら端まで見渡す客席の観客たちもそうであるが、ともに見たかった景色が今目の前に広がっているという実感が溢れているのがよくわかる。観客誰もがかつてのように思いっきり大合唱したい最後のコーラスパートを重ねるシンペイのマイクが近年のヘッドセットではなくて、ドラムセットに取り付けられたものになっているというのも実に久しぶりに見る姿である。
ひなっちのうねりまくるベースがイントロからバンドのアンサンブルを引っ張る「原色」ではピンクや紫などの混色も含めた色とりどりの照明がステージを照らす。テナーのワンマンはアリーナクラスにならない限りは映像などの演出を使うことはないストイックなものであるのだが、それは最低限のもので最大限バンドの演奏の力を際立たせるものになっているということがよくわかる。
それは対照的に白単色という照明がモノクロの世界の中でメンバーが演奏しているようにすら感じられるメロから、サビでサウンドとともに一気に華やかに浮上していく感すらある「BIRTHDAY」が続いたからこそよくわかることでもある。かつてはフェスでも演奏されていたこの曲も実に久しぶりにライブで聴けるのは何のリリースでもないこのツアーだからこそであるが、バンドのグルーヴ、アンサンブルは初日とは思えないくらいに極まっているのはさすがテナーである。それはホリエのボーカルの安定感も含めて。
基本的にテナーのライブは機材チェンジもありながらも実にテンポが良い。しかしわずかに存在する曲間にも起こる、長い&大きな拍手の音が声が出せない観客の意思表示とバンドへの感謝であるということがわかる中、バンド側は最新のテナーの姿を見せることで返すのは昨年リリースのミニアルバム「Clank Up」のリード曲であり、ホリエが最初はギターを弾きながら、曲中でキーボードも弾くという二刀流っぷりを見せる「宇宙の夜 二人の朝」であり、アッパーなギターロックサウンドはベテランになっても失われることのないテナーのバンドとしての獰猛さを示しているのであるが、それを見た目的にも音としても支えているのがシンペイによる、あまりに一打一打が強力過ぎるドラムである。もはやスティックがぶち折れたり、ドラムが破れたりしないかと心配になるくらいの力強さは間違いなく今のテナーのロックさを担っていると言えるだろう。
さらにはタイトルフレーズを歌うホリエのボーカルがどうしたって某ドラマを彷彿とさせる「倍で返せ!」もまた「Clank Up」収録のロックな曲であり、それをライブという場で音の圧をダイレクトに感じながら聴いていると、たまに「テナーは丸くなった」と言っている人は新しい作品をちゃんと聴いていないんだろうし、ましてやライブを観に来てもいないんだろうなぁと思う。メンバーの見た目の若々しさも含めて、全然テナーのことを知らない人が見たら20代の若手バンドだと思っても不思議ではないくらいですらある。
イントロでのうねりまくるひなっちのベースは曲の表情を決定づける要素になっているんだなと、これもライブで聴くとよくわかる「CRY」は全英語歌詞の、妖しい雰囲気を纏ったダンスナンバーであるが、この辺りからはもはやイントロクイズ的な感覚すらも覚えるくらいに、最近では珍しい曲が演奏される。しかしこの曲を何度もライブで聴いたことを良く覚えているのは、曲の締めをOJが鳴らすトライアングルの「チーン」という音と姿を何回も見たことがあるのが脳内に刻まれているからである。
そのOJがステップを踏みながら、誰よりも踊るように演奏するのはホリエが
「東京、踊ろうぜ!」
と言って演奏された「Alternative Dancer」で、2曲目の「原色」も含めて改めて収録アルバム「COLD DISC」に収められた曲たちの名曲っぷりと、アルバム自体の名盤っぷり(リリース時にMUSICAのDISC OF MONTHを獲得している)を改めて思い出させてくれる。序盤のロックサウンドからこうしてダンサブルなサウンドの曲にグラデーションのように徐々に変化していってもシンペイのドラムの強靭さが全く変わらないのはただロックな曲を激しく叩くというのとはまた違った意味での凄まじさすら感じる。
ここまでMCなしで突っ走ってきたし、ホリエはすぐにギターを持って音を鳴らそうとしていただけに、これは今回はそうしたひたすらに曲を聴かせるというようなコンセプトのツアーなんだろうかとも思ったのだが、その予想があっさりと瓦解していくのはホリエが
「ここでMCするんだった(笑)集中し過ぎてすぐに曲行こうとしてしまった(笑)」
と話し始めたからで、今回のツアーは今年まだワンマンをやっていないだけにスタッフたちから急かされるようにして決まったものであることを明かす。てっきりライブがやりたくて仕方がなくて組んだツアーだと思っていただけに、実に意外な理由である。
この日、自分はOJ側のスピーカーの真前最前という席で見ていたのだが、とかく音が良くない豊洲PITであるだけに、ギターの音ばかり聴こえてきたらもったいないなという不安を抱いていたのだが、そこはさすがストレイテナーである。このツアーに向けて観客用にさらにスピーカーを増設したことによって、これまでの豊洲PITの音の悪さを忘れてしまうくらいに4人の鳴らす音がハッキリ聞こえていた理由もここで明かされるのだが、このツアーが特に何も提げていないツアーであることから、
ひなっち「何かを提げないとツアーやっちゃダメなのか?それならお弁当提げてツアーやろうか(笑)
シンペイは鶏のささみ肉とブロッコリーの弁当作りそう(笑)」
シンペイ「最近は炊飯器で鶏を炊いてる(笑)」
とメンバー全員参加(シンペイは立ち上がってマイクを持つという形)でのMCが始まると、
「誰の後継者になりたい?俺は高田純次(笑)」
というひなっちの一言をきっかけに完全に楽屋ノリでしかないトークが展開されていく。かなり長めのMCになったのは久しぶりのこうした時間を設けられるワンマンだからであろうが、ここまでの高い集中力を持った演奏時の姿とは全く別の、愉快なおじさんたちといったような感じだ。ちなみにひなっちいわくOJは「エリック・クラプトンの後継者」らしい。もはやただの大喜利みたいになってきているが、そんなMCから気を取り直すようにホリエが
「じゃあOJのクラプトンのようなギターを」
と繋げるのは実に上手く、しかも次の曲がこうしたツアー初日だからこその新しい始まりという感覚を、シンペイの雄大なイントロのリズムから感じさせてくれる「A LONG WAY TO NOWHERE」で、またここから新たにライブが始まっていくということを示してくれるのであるが、そんな新たな始まりにこれからもこの4人で挑んでいくということを示すような、アニメや映画のタイアップになってもいいくらいにそうした画や情景が浮かんでくるような「群像劇」から、ホリエはギターを下ろすと立ったままでキーボードに向かって、同期のサウンドなんかも取り入れながら「さよならだけがおしえてくれた」を歌い始める。
ある意味では「テナーがポップになった」「丸くなった」と言われるようになった最たるタイプのバラード曲であるとも言えるが、やはりこうして目の前でホリエが歌っているのを聴いていると、それはポップになったわけでも丸くなったわけでもなくて、ただこのバンドの持ち味であるメロディを最も強く感じさせるためのものであるということがよくわかるし、きっともう二度と会うことができないような別れをたくさん経験してきてしまったであろう今の年齢のメンバーが歌い鳴らすからこそ曲から感じられる説得力が確かにある。それは人間としての、バンドとしての表現力の進化であると間違いなく言えるものだ。
するとホリエは今度は椅子に座ってキーボードを弾き、削ぎ落とされたサウンドと低音ボーカル&コーラスの「Lightning」へ。歪んでいないサウンドだからこそ一音一音がハッキリと聴きとることができるし、その音の最適な配置と強さもしっかりと感じることができる。何よりやはりこうしたホリエがキーボードを弾きながら歌う曲のメロディの美しさに酔いしれてしまう。
この日のMCでメンバーは
「オシャレな感じで演奏できるかと思ってセトリに入れたら、めちゃ体力使う熱い曲だったりした」
と体力を消費しまくっていることを口にしていたが、それは間違いなくこの「Cartain Falls」から始まった、バラードから再びバンド感の強さを感じさせるような流れであろう。その体力を間違いなく最も使っているのはやはりシンペイのぶっ叩くと言っていいようなドラムで、そこがただオシャレなサウンドになるのではなくて、ロックバンドとしてテナーがそうした要素を高い演奏力でもって取り入れているということがよくわかる。
それはどちらかというと近年の曲と言っていい「青写真」と「Clank Up」収録の「流星群」でもそうであるというか、そもそも2019年と昨年という時期にリリースされた曲であることから、ほとんどライブで聴いたことがない曲であるだけに、ライブで聴くとこんなにバンド感を感じさせるような曲なのかと思ってしまう。それはライブでのテナーがどれだけ屈強な音を鳴らすバンドであるかということでもある。
そんなバンドサウンドがさらにアッパーに展開していくのは、それまではエフェクティブなベースサウンドで浮遊感を感じさせたりしてくれていたひなっちが一気にゴリゴリの重いベースを鳴らす「叫ぶ星」であるのだが、ホリエが少し歌詞を飛ばす部分があり、OJも「どうした?」とばかりにチラッとホリエの方を演奏しながら見ていた。それは決して歌いきれていなかったり声が出ていなかったわけでもないだけに、歌詞を忘れてしまったのか、あるいは感極まったところがあって歌えなくなったのか。何となく自分は後者だと思っているというのは、もはや今のテナーの代表曲と言っていいくらいに客席からたくさんの腕が上がっていたからだ。
するとホリエがギターを掻き鳴らしながら歌い始めた瞬間にシンペイが立ち上がって、オープニング同様に観客を煽るようなアクションを見せる「ROCKSTEADY」が早くもライブのクライマックスが訪れたかのような空気にしてくれる。ひなっちがその場でぐるっと回転しながらベースを弾くというパフォーマンスを見せる中、
「僕らは進まなくちゃ 先を急がなくちゃ
足が言うことを 聞いてくれるうちに」
というサビのフレーズはもはや成熟という言葉がよく似合うような年齢になってもなお、そうして生き急ぐかのように突っ走ろうとしているバンドの変わらぬ生き様を我々に示してくれている。バンドがそうして変わらないから、我々も変わることなくリズムに合わせて飛び跳ねまくることができる。
2回目となるMCタイムではワンマンが久しぶりなので、後半にMCをするのがこんなにも厳しいものかと思い出すように言葉にしながら(特にここまで凄まじいドラムを叩いてきたシンペイは)、
ひなっち「高田純次じゃなければ所ジョージの後継者になりたいけど、俺たちは所ジョージをトコジョーって略したりし過ぎている。
リーダー(ホリエ)の後継者はマカロニえんぴつのはっとりくんっぽいよね(笑)」
OJ「ちょっとよろしいでしょうか?リーダー呼びはいいんですか?(笑)」
ひなっち「天才だから(笑)こんな曲たちをすぐに作れるのは天才でしょ(笑)」
ホリエ「他のバンドからしたら「もうちょっと考えろよ」って思うよね(笑)OJはたまにもっと詰めたそうな感じしてるけど」
OJ「だってスタジオで3〜4回セッションしたらもう曲になってるんだもん(笑)」
ホリエ「そんなOJも最近はレコーディングが早くなりました」
OJ「天才だからじゃない?(笑)」
ひなっち「来年あたり、エリック・クラプトンの後継者マジで来るかもよ(笑)」
OJ「クラプトンから影響受けてないから(笑)」
と、とめどないくらいの話が続いていくのだが、もう話をしたくて仕方ないから長くなっていくということで、観客はMC中は座ることを推奨されるほど。その座ってライブを見るということについても、
ホリエ「俺たち、ライブ観に行くと関係者席で見させてもらうことも多くて。2階の1列目とかですぐにバレるんだよね(笑)」
ひなっち「俺たちのライブでも関係者席にたまにめちゃガラが悪い奴とかいるよね(笑)」
ホリエ「大阪で関係者席で見てるおっさんが途中で帰ってて。俺たちの関係性で途中で帰るやついるのか?って思ってたらその日の打ち上げの店の店長で、仕込みをするために早く会場から出てた(笑)」
というライブにおけるリアルな経験談でも笑わせながら、
「じゃあこの季節にピッタリな曲を」
とホリエが言って終盤の幕を切って落としたのは、バンドには珍しくちょうどこの時期である七夕をテーマにした「七夕の街」。それが難しいのは七夕というのはとかく特別なイベントとか(短冊に願いを書いたりはあるけど)がない日なだけに歌詞も普通の日常の地続き的なものになりがちで、実際に淡々とした日常を描いている歌詞なのだが、それが七夕という日が人々にとってそういう日であるということを見事に描いている。ホリエは普段から「20〜30分くらいで曲ができる」と言っていたが、こうした曲もそうだとすれば本当に天才である。テナーはアンサンブルを練りに練りまくって曲を作っているイメージも強いだけに実に意外であるが。
そんな日常の風景を描いた歌詞というのはかつてはファンタジー的な歌詞が多かっただけに、今のテナーだからこそ書けるものなのかもしれないが、その極みと言えるのがタイトルからしてもその街そのものを描いた「吉祥寺」であり、かつてホリエが暮らしていたであろう、テナーが生まれたと言っていいであろう街のことが、力強さというよりもじっくりと奏でるバンドサウンドによって表現されている。だからこそ描かれているかつての吉祥寺の街並みがすぐに頭に浮かんでくるのであるが、自分としては吉祥寺といえば森田まさのりの名作漫画「ろくでなしBLUES」の舞台というイメージであるだけに、あの舞台でホリエが生活していたのかと思うとより一層思うところがある。というか吉祥寺に久しぶりに行ってみたくなる。
そんなじっくりと丁寧に、しかしやはりシンペイのドラムの一打の重さと強さは確かに残っている「No Cut」は生み出されたのはコロナ禍になる前であろうけれど、
「ありもしないようなこと
でもそれは現実で
紛れもなく 訪れた奇跡で
山も海も空も飛び越えて
会いに行きたい 心からそう思うよ」
というサビの歌詞はコロナ禍でライブが思うように出来なくなるという想像も出来なかったことが現実になり、でも今またこうやって我々が住む場所へテナーがツアーで回ってきてくれているという強い実感を感じさせてくれる曲だ。だからこそこの曲はこれからもバンドにとっても我々にとっても大事な曲になっていくと思う。
そしてホリエがギターを弾きながら歌い始めたのはこうした何も提げていないからこそ、どんな曲が演奏されるかわからない中でもクライマックスを担う、今や問答無用のテナーの代表曲である「シーグラス」。やはりこの時期、ましてや今に聴くこの曲は格別であるというのは、きっと今年はまたいろんな海に近い場所でこの曲を鳴らしているテナーの姿を見ることができるという確信があるからだ。そうやって何回でも「今年最後」を繰り返して、更新していく。それこそが夏を忘れられない、特別なものにしてくれるということをコロナ禍になる前に我々は何度も経験しているから。ひなっちがステージ上でぐるっと回るようにした後の笑顔も、アウトロでシンペイが完璧に演奏が決まったことを確信して客席を見渡す姿も、その全てが本当に愛おしく感じられる。
そしてホリエが
「ラスト!」
と口にすると、もはや鬼神のごときスピードとパワーでパンクと言ってもいいくらいの性急なビートをシンペイが叩き出す「Last Stargazer」。この曲で締めるというのも実に爽快であるが、拳が振り上がりまくる客席を見て、コロナ禍じゃなかったら観客が一斉に前に押し寄せてダイブが起こっていたかもしれないという光景が頭の中に確かに浮かんでくる。それはテナーが今でもそうした衝動を我々に湧き上がらせてくれるくらいにロックな音を鳴らしているカッコいいバンドであるからだ。演奏が終わった後にメンバーが前に出てきて肩を組む姿を見て、より強くそう思った。2人からスタートしてバンドの形は変わってきたけれど、変わらないものがここには確かにあると。それはバンドだけではなくて我々観客側にも。
アンコールではメンバー全員がツアーTシャツに着替えて登場するのであるが、すぐに楽器を持ってその楽器の音がバチバチに激しく鳴らされながらもバンドとしての一つの大きな塊になっていくのは、実に久しぶりかつ「アンコールでこの曲!?」と思ってしまう「SILLY PARADE」。それは本編最後の「Last Stargazer」から連なるような激しさによるものだったのかもしれないが、これは名古屋、大阪でも演奏されるのか、あるいはそこではまた違う久しぶりな曲が演奏されるのかというあたりも実に気になるところである。
たださすがに本編で喋り過ぎたからか、
「ツアー初日だからMC長かったのだけは勘弁して(笑)演奏は良かったと思います!」
とだけ口にしたホリエがアコギに持ち替えて演奏されたのは今やフェスなどでもおなじみの曲になった「彩雲」。
「突然の土砂降り
そこで話は終わる」
というフレーズは開演前に会場に向かう際に強く降っていた雨のことを思い出させながら、またバンドは雲のように日本各地を流れていくような生活を送っていくんだろうなと心地良く体を揺らせるサウンドに乗りながら考えていた。
演奏が終わると本編同様にメンバーは前に出てきて並んで肩を組んで観客に一礼する。その後にシンペイが上手側に歩いてくると、思いっきり目が合った気がした。次の瞬間にはスティックがこちらに飛んできていた。一発でキャッチできずに落としてしまったことを悔やみながらも、叩いて傷がついたシンペイの名前が刻まれたスティックはライブの素晴らしさとともにこの日を絶対に忘れられない記憶にしてくれたのだった。
この、次に何の曲が演奏されるかわからないワクワク感。かつてテナーはフェスやイベントでも毎回セトリをガラッと変えており、「2日連続や2週間連続でライブを見ても全くセトリが違う」というバンドだったことを思い出していた。その時と今では「シーグラス」のような「この曲はどんな時でも演奏すべき」という名曲が生まれたという違いはある。でも本質的には変わらないのは、テナーはいつどんな時でもこうして我々の予想だにしないような曲を演奏できる状態にあるライブバンドであるということだ。だから出会ってから20年くらい経った今でもこうしてライブを見てはドキドキしたり、ワクワクできるバンドなのだ。
そう、出会ってから20年くらい。テナーだけではなくて、アジカンもTHE BACK HORNもACIDMANも。止まらずに最前線を走り続けてきて20年を超える活動歴になったバンドのコロナ禍以降のワンマンライブを観てきて、共通点があるなと思った。
それは他のバンドのライブ以上に、曲間などでの観客の拍手が鳴り止まないくらいに長く大きいということ。その拍手をしている人には自分より全然年上のような人もいる。きっと20年以上ライブに行き続けてきたような人たちだろう。
そんな年齢の人たちがコロナ禍の平日にこうしてライブハウスにたくさん集まっていて、大きな拍手をバンドに送っている。それはもうその人たちにとっては「これがないと生きていけない」と思うくらいのものだからこそ、声が出せない状況の中で想いをありったけの拍手に込めているということ。ライブを観ては翌日からの日々を生きる力をもらい、ライブが決まればその日を楽しみに生きていく。そうやってみんな生きてきたということが確かにわかる。
だからこそ、声が出せるようになった時は、そうやって生きる指針になってくれたバンドたちに真っ先に「ありがとう」っていう思いを伝えたいと思った。それは長く続けてきて、たくさんの思い出をくれたバンドだからこそより強くそう思えるのだ。その日まで、いや、その日を超えてもなおテナーやその同世代のバンドたちのライブに行き続けたいと心から思わせてくれたツアー初日だった。そんな思いをこれからバンドは他の場所にも届けにいく。
1.Melodic Storm
2.原色
3.BIRTHDAY
4.宇宙の夜 二人の朝
5.倍で返せ!
6.CRY
7.Alternative Dancer
8.A LONG WAY TO NOWHERE
9.群像劇
10.さよならだけがおしえてくれた
11.Lightning
12.Cartain Falls
13.青写真
14.流星群
15.叫ぶ星
16.ROCKSTEADY
17.七夕の街
18.吉祥寺
19.No Cut
20.シーグラス
21.Last Stargazer
encore
22.Silly Parade
23.彩雲
ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2022 「プラネットフォークス」 @市川市文化会館 7/15 ホーム
京都大作戦2022 〜今年こそ全フェス開祭り!〜 day4 @京都府立山城総合運動公園 太陽が丘特設野外ステージ 7/10