昨年末に2021年のラスボスであるかのようにリリースされた大名盤アルバムであるa flood of circleの「伝説の夜を君と」。そのアルバムのリリースツアーは春から始まり、自分も3月の水戸、4月のDOESとの2マンの横浜を経てきての、ついにやってきたツアーファイナルはワンマンでのバンド史上最大キャパにして初のホールワンマンとなる、LINE CUBE SHIBUYA。
各地で伝説の夜を生み出してきた今回のツアーであるが、そうした要素たちは間違いなくこの日のライブがこれまでにも毎回が伝説のようですらあったフラッドのライブの中で過去最大の伝説になることを予感させる。
7月2日からはLINE CUBEからほど近い渋谷MODI内でバンドのポップアップストアも開催されており、さらには渋谷マルイでは佐々木亮介(ボーカル&ギター)の弾き語りライブも開催されるなど、バンド内からもこの日のワンマンをかつてない伝説にしようと、渋谷の街のど真ん中の巨大ビジョンに亮介のコメントが映るという驚きの展開もあった。それも全てこの日のためである。
とはいえ完全に会場に着いた時間が19時くらいだったので、客席に入ってみて驚いたのは「3列目」と記載されていた自分の席が紛れもなく1列目だったからであるが、1曲目の「A」をそうして最前列で見ていると、目の前を複数人のカメラマンが忙しなく動きながら動画や写真を撮影しており、このライブは何らかの形で映像化されるんだろうなということがわかるのだが、その初っ端から渡邊一丘(ドラム)の一打一打の音が本当に力強いことがわかる。それはやはりこのツアーを経てきて、一丘自身が進化を果たしてこの場所まで辿り着いたということである。
とはいえライブ自体の流れはツアーの水戸LIGHT HOUSEの時とほとんど変わらないので、その時のレポも参照していただきたい(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-1023.html?sp)のであるが、「Dancing Zombiez」では黒と赤を基調にした、より華やかになった出で立ちのHISAYO(ベース)が手拍子をし、それに合わせて観客も手拍子をする「Dancing Zombiez」では早くも間奏で黒の革ジャンを着た青木テツ(ギター)がステージ前まで出てきてギターソロを弾きまくると、この日は白の革ジャンにこのツアー中はおなじみの金髪姿の亮介も早くも
「ギター、俺!」
と前に出てきてギターを弾きまくる。それはホールという今までに観た経験のない会場でも変わることのない、フラッドのライブそのものである。
そのホールであっても変わることのないフラッドのライブらしさは実に簡素極まりないステージのセッティングにも現れていたのだが、自分の位置が最前列かつテツの目の前だっただけに、最初はやたらとギターの爆音っぷりがメインとなって耳に届いていたのだが、2階席や3階席の人はどんな感じで聴こえていたんだろうかと思ってしまうのは、このLINE CUBEが自分のイメージ的にはそこまで音が良くない会場であるからだ。もし亮介の歌声が良く聞こえなかったとしたら非常にもったいないことであるが、それでも「クレイジー・ギャンブラーズ」を叩いている時の一丘の2階席や3階席にいる人を見渡しての笑顔は、
「最後は俺らが爆笑だぜ」
というフレーズに重なるくらいの良い表情で、それを見ているだけで早くもグッときてしまう。
亮介が
「おはようございます。a flood of circleです」
とおなじみの挨拶をすると、HISAYOの重いベースの音が唸りを上げる「Blood Red Shoes」で、ツアーを回ってさらに練り上がったロックンロールバンドのグルーヴ、アンサンブルを存分に見せつけてくれるのであるが、かつてコロナ禍になる前はダイブや激しいモッシュが起きまくっていたこの曲をこんなにじっくり見ることができるのは、コロナ禍故か、座席指定のホールであるが故か。どちらにしろ、この曲をこんなに湧き上がる衝動を我慢して抑えて見ることができているファンの中の1人であることを自分は少し誇りに思えている。
亮介がギターを置いてハンドマイクになると、タイトル通りにステージを歩き回り、さらには下手側て歌いながらステージを転げ回り、バンドのタオルを後ろ向きに掲げたかと思ったらすぐに投げ捨て、テツと一つのマイクを分け合うようにして歌い、
「ダブルピースで」
というフレーズではハンドマイクだからこそ亮介がマジで歌いながらダブルピースをする「狂乱天国」からはそのまま亮介の自由っぷりを示すパートへと突入していく。
それはこうして最新アルバムのツアーのセトリに入ってくるのが少々意外でもある「Rex Girl」において、HISAYOが2コーラス目のメインボーカルを務めていると、亮介がテツと肩を組みながらその様子を笑顔で見ているというあたりに今のフラッドのバンドとしての調子の良さというか、メンバー同士の関係性の良さを感じることができるのだが、どこかハワイアンというかトロピカルさも感じさせる、
「浦安のとこよりも〜、フロリダのとこよりも〜」
と、某超人気遊園地の所在地を口にしてから、そこに行くよりもはるかに刺激的なものを見せてくれるかのように始まった「Welcome To Wonderland」は亮介がハンドマイクで歌うことによって、ライブが音源よりも遥かに映える曲であるということを示してくれるし、メンバーのコーラスの強さも含めて、ツアーで演奏され続けてきたことによって曲が育ってきたということを実感させてくれる。亮介は今やステージドリンクと化したお茶割りの缶を早くも飲みきろうというくらいの勢いで酒を飲みながら歌っているにもかかわらず、そのロックンロールに選ばれたとしか思えないしゃがれた声は迫力を増すばかり。数年前までは明らかに声が出ていないライブもあったりしたけれど、今の亮介にはそんなことは全くない。
その「Welcome To Wonderland」の前には
「みんな好きなグミはなに?俺はハリボー」
という、今日のまともなMCの第一声それかい、と思うような言葉に観客も少し笑い声が漏れていたのだが、
「ハリボーがハンガリー産だってことを俺はずっと食べてきたのに今まで知らなかった。この世はまだまだ知らないこと、新しいことだらけだ」
と続けた言葉は、こうしてフラッドがホールでワンマンを行っているということ自体が、我々が今まで知らなかった、新しい景色を見せてくれているということのメタファーなんじゃないかとも思えてくる。
亮介が再びギターを持つと、そのギターを爪弾くメロディの切なさに一丘の口笛が重なる「月に吠える」は攻撃的かつアッパーなサウンドというイメージが強いであろうロックンロールバンドというスタイルのフラッドが実は超絶メロディメーカーバンドであることを示す名バラードだ。それはどこか七夕の翌日であるこの日の猥雑さもある渋谷という場所だからこそよりこの曲に滲む孤独さを強く感じることができるし、ライブハウスはもちろんであるが、こうしたホールという会場に実にふさわしい曲であると思う。
そんなフラッドの珠玉の名バラードの最新曲が「世界が変わる日」。
「キラキラ モノクロの街に キラキラ 舞い降りるように
キラキラ 君は現れた
世界が変わる日」
という亮介のファルセット混じりのボーカルで歌われるように、「月に吠える」の孤独さとはまた違う、まさにこの日このライブからフラッドの、フラッドを愛する我々の世界が変わっていくという予感を感じさせてくれる、ポジティブな空気に満ちた曲だ。それはもちろんバンドが初めてホールでこの曲を鳴らしているからこそ感じられることである。
すると一気に再び疾走感を感じさせるロックンロールサウンドへと回帰していくのは「ブレインデッド・ジョー」であり、メンバーの鳴らす音も序盤よりもハッキリと聞こえてくる感じがするのは耳が慣れてきたからかもしれないが、今少年ジャンプアプリで無料公開されているONE PIECEを読み直しているタイミングだったので、
「風になって走れ ブレイン・デッド・ジョー
妄想が現実になるのは お前のせいだぜ
本気のお前のせいだぜ」
と歌うこの曲がONE PIECEのタイアップになってくれたらなと本気で思う。絶対に似合うと思うから。
すると亮介はこのツアーでは対バンだった地方もあり、広島でのDOESとの対バン時に亮介がDOESのメンバーと飲んでからホテルに戻ったらHISAYOがロビーでガンギマリの目をしてビールを飲んでいたというエピソードを明かしてHISAYOも思わず笑いながら頬に指を当てるポーズをして誤魔化そうとすると、WOMCADOLEと対バンした際に飲みすぎて亮介がメンバーに古着を買い与えて生活が苦しくなったという、かつては当たり前だった対バンツアーならではの楽しさを久しぶりに噛み締めることができたことを語るのだが、
「旭川だっけ?帯広だっけ?向こうの空港って羽田とか成田の空港と全然違って、滑走路のコンクリートをぶち破るようにタンポポがいっぱい生えてるのね。だからそのタンポポの生命力の強さを見て、俺も来世はタンポポになりたいと思った(笑)」
という、着地点それかいというようなMCで笑わせるのだが、それがそのまま
「吹けば飛びそうな綿毛
舞い上がって
こんな可愛いなんてね
ギザギザなでる滴
きれいさ」
というタンポポの綿毛が風に舞って飛んでいく情景を想起させる「バタフライソング」へと繋がることによって、個人的にアルバム屈指の名曲だと思っているこの曲をさらに特別なものにしてくれるし、それが亮介、テツ、HISAYOがイントロでステージ前に出てきて演奏し、一丘は手数を増やすという形で曲を進化させた「春の嵐」と繋がることによって、「バタフライソング」は今のフラッドによる「春の嵐」なんだなと思えるものになっている。だからこそこれからも毎年春のライブではどちらもが演奏されるようになっていて欲しいと思う。
そんな手数を増したり、一打の強さを増したりしている一丘が軽快なリズムを叩き出すと、一聴すると「I LOVE YOU」かと思うような「R.A.D.I.O.」が早くもこの日のクライマックスを描くように幸福な雰囲気を生み出す。曲中の随所には掛け合い的なコーラス部分もあるのだが、今はメンバーしか口にすることができないそのフレーズを我々も一緒に口にできるような日がもう少しで来ることを信じているからこそ、観客が声が出せるようになったらまたこのアルバムのツアーをやって欲しいとも思う。もちろん「2020」も含めて。ワルツ的なリズムで歌われる
「最高と最低を繰り返しながら 辿り着いた今日
最高と最低を繰り返しながら ちゃんと君に出会えた」
というフレーズはこの日この場所に辿り着いた我々の心境そのものだ。
そんな新たなパーティーロックンロールチューンから一転して、こうしてロックンロールバンドとして転がり続ける意味を己に問うようにして
「ロックンロールを歌っている
バカげたセイラー 手を伸ばす
沈む視界の先 かかる虹
永遠に触れない幻」
と歌う「テンペスト」はツアー中盤からセトリに入ってきた曲であり、まだ他のアルバム曲に比べるとそこまでライブでの演奏回数は多くないにもかかわらず、このアルバムがどれだけライブでさらに高く跳ねるものかということを示してくれる曲である。それは同時にフラッドがライブでより曲を輝かせることができるバンドであるということも。
そんな「テンペスト」から一変して真っ青な照明がステージを包む中、曲間でテツがギターを鳴らし、一丘もドラムを叩いて音を確かめるようにしてからメンバーがドラムセットの前に集まって音を鳴らし始めたのは、フラッドのライブのクライマックスをこれまでに何度も作り上げて来た「プシケ」。だからこそ自分もこれまでに数え切れないくらいに聴いてきた曲であるのだが、それでもやはり
「2022年7月8日。ツアー「伝説の夜を君と」ファイナル、LINE CUBE SHIBUYAにお集まりの親愛なる皆様に、俺の大事なメンバー紹介します!」
と言って、一丘から順番に音が重なっていき、最後に亮介は自身を紹介した後に思いっきり溜めてから、
「a flood of circle!」
と叫ぶ。その瞬間に鳴らされるテツのブルージーなギターソロ。こんなに広い会場の広いステージで、いつだって「今、ここ」を感じさせてくれたこの曲が確かに鳴らされている。ああ、ついにこんな場所まで一緒に来ることができたんだなと思ったら、いろんな感情が溢れ出しそうになってしまった。そうした数え切れないくらいに聴いてきたこの曲の中でも、間違いなく今聴いているこの曲が1番カッコ良かったからだ。
そんな「プシケ」から間髪入れずに鳴らされた「北極星のメロディー」の有無を問わさぬ名曲っぷりはこのツアーで確かにさらに磨き上げられた。
「ポラリス 君と最高の景色を探している
初めての道 選び続けて
何度止まっても 光へ向かって」
というサビのフレーズのように転がり続けてきたバンドだからこそ見ることができているこの景色。一丘のドラムも、HISAYOのベースも、テツのギターも、亮介のボーカルとギターも全ての音が笑っているかのようでいて、その音がこの場所に辿り着いたこと、この場所で鳴っていることを本当に喜んでいるようにすら聞こえる。リリース前に公開された時からすでに「これはまた素晴らしい曲が生まれたな」とファンを驚かせた曲であるが、その曲はやはりツアーファイナルという場で見事に大輪の花を咲かせたのである。
さらには
「渋谷!俺たちとあんたらの明日に捧げる!」
と言って演奏された「シーガル」では座席があるホールであっても、最前列には前を遮るものはカメラくらいしかないとばかりに亮介の「Yeah」の掛け声に合わせて高くジャンプした。そうせざるを得ないくらいにここまでの曲で昂りまくっていた。果たして後ろで見ていた人たちはどうだっただろうか。映像で見返した時にホールとは思えないくらいにみんなが高く跳んでる姿が見れたらいいなと思うし、それは我々がこの日に至るまでに何回も、
「明日がやって来る それを知ってるからまた この手を伸ばす」
というフレーズを聴いて、明日に向かって手を伸ばし続けてこの日に辿り着いた同士だからだ。
それをきっと亮介もわかっているからこそ、
「ここにいる人たちは俺たちと似ている部分が少しくらいはあると思っている」
と話し始めたんだろうけれど、ライブ開始時からステージ下手端に置いてあったピアノの前に亮介が移動して座るというだけで少し観客の間には驚きが広がるのだが、
「ここのピアノ、2万円で借りられるから、音楽やってる人はここでライブやった方がいいよ(笑)」
と、何故か簡単そうに言いつつ、
「俺が言えることは、明後日選挙だから投票行こうぜってことくらい。俺は今まで一回も自民党に票を入れたことがないんだけど(客席から拍手が起こる)、それでも安倍さんが死んでいいとは思ってない。俺はガンジーと誕生日が一緒だから、非暴力、非服従な世の中であって欲しいと思っている。
さっき、ハリボーがハンガリーで作られてるって言ったじゃん?ハンガリーの端はウクライナと繋がってる」
と、「繋げるつもりじゃなかった」と言いながらも、前半の突然のハリボーを見事にこのMCに着地させてみせる。
もしかしたら、この話は聴きたくなかったという人もいたかもしれない。でも起こってしまったことはどうあっても切り離すことができない現実である。もしかしたら亮介じゃなかったらもっとそういうことが口にされていたかもしれないような日だ。自分は亮介と政治・社会観がある程度同じ(世代的に亮介に合わせてそうなったわけじゃなくて、たまたま同じだった)だけに、むしろ亮介がこの日起きた事件を非暴力を訴える形で口にしてくれたのは、やっぱり亮介は、フラッドは優しい人間たちのバンドだと思うことができた。
「綺麗事かもしれないけれど、綺麗事を言えなくなったら終わりだと思うから」
という言葉は、前にACIDMANの大木伸夫も口にしていた言葉だ。その綺麗事をこの上ないくらいの強い意志で信じ続けているからこそ、彼らの音楽は深く刺さってくる。
それは亮介がピアノ弾き語りで歌い始め(もちろんちゃんと弾けている)、ワンコーラス終わるとピアノから元の位置に戻り、テツ、HISAYO、一丘の順番に音が重なっていく「白状」という曲にそのまま現れている。タイトル通りに、自ら「スーパーハッピー」みたいなことを口にするような亮介でさえも、己の内面に抱えるものを吐き出すように歌詞にしながらも、
「もう疲れたんだ
そう疲れたのは
本気で信じてるから
これが生きる理由だ
行けるとこまで
行こうぜ
これが生きる理由だ
くたばるとこまで
行こうぜ」
と、最後にはそれを転がっていくロックンロールバンドの意思として反転させてみせる。それもまた綺麗事かもしれないけれど、綺麗事を信じることができるからこその強さが確かに宿っているし、綺麗事は叶わなくても目指すものにもなる。それを見失ってしまったら確かに終わりだと思うからこそ、そんな綺麗事を歌うフラッドを信じ続けているのかもしれない。
そして最後に演奏されたのは、前回のツアーの最後に亮介の弾き語り的に演奏された、今回のアルバムとツアーのタイトルである「伝説の夜を君と」。
「俺たち 無敵さ
ピークのようで始まりに過ぎない夜を
伝説の夜を
今夜も君と」
ということを証明するのがこのツアーであり、このライブだったのかもしれない。だからこそ、アルバムでは1曲目だったこの曲がこうして最後に演奏されているのだ。ホールでもライブハウスでも全く変わらない、無敵のa flood of circleと、そのバンドを愛するファンが作り上げた、辿り着いた伝説の夜だったのだ。
しかしさすがにこれではまだ終わらずにメンバーがアンコールで再登場すると、
「時間過ぎると延長料金取られちゃうから(笑)」
と少し急ぎ気味に亮介がアコギを持って演奏されたのは、ポップアップストアで販売されている新曲「花火を見に行こう」。横浜で「新曲を作っている」と言っていた曲は間違いなくこの曲であろうけれど、本編では一切使う素振りがなかったステージ背面に現れたスクリーンには曲の歌詞が大きく映し出されており、ステージに置かれた照明もフレーズによって黄色く光るというのが花火を想起させる、ホールならではの演出になっている。そこには確かに、今フラッドがホールでワンマンをやる意味が確かにあったし、先日の弾き語りで聴いた時よりもバンドで聴く方が当たり前だが「フラッドの曲」になっているこの曲のタイトルフレーズを聴いて、今年の夏こそはいろんな夏フェスの会場へ花火を見に行きたいし、そのタイミングでステージに立っていたバンドがフラッドだったらこの上ない幸せだ。フラッドには数々の夏の名曲もあるけれど、この日のこの瞬間だけでその曲たちを上回るような名曲が誕生したんだなと思えたのだった。
そんな新曲を演奏してもなおライブは終わらずに、一丘が軽快なビートを鳴らし始めたのは「I LOVE YOU」。それはどんなに凶悪だったり悲しかったりする事件が起きようとも、ロックンロールがあれば、こうしてフラッドがいてくれて、そのライブが観れていれば大丈夫なんじゃないかと思うくらいに、亮介が「新宿東口」のフレーズを
「渋谷ハチ公口」
に変えてから歌った
「濁った風がまた
悲しみを運んでくる前に キスをしよう」
のフレーズは、やっぱりこの場所が、この瞬間が1番幸せなんだなと思わせてくれたのだった。去り際に亮介がピアノの鍵盤を触ってから去っていくという微笑ましい姿も含めて。
するとスクリーンには会場の外で昼間に撮影したと思しき、缶ビールを手に持った亮介が
「今日は来てくれてありがとう。次のパーティーをやる場所をもう決めた。ここから歩いてすぐに行ける場所だから、案内する」
と言った時に、「この会場の近くと言えば道の反対側にあるeggmanだが…」と思ったのだが、あっさり代々木方面へ向かったために「代々木体育館はないだろうから、まさかのNHKホール!?」と思ったら、その隣の代々木公園でのフリーライブが発表され、さらには「I'M FREE」「FUCK FOREVER」の再現ツアーの開催、クラウドファンディングの開催と、あまりにも一気に情報量が多すぎる!と思っている最中にメンバーが再びステージに現れるとトドメとばかりに「Beast Mode」が演奏されて、亮介はマイクスタンドをステージ最前まで持ってきて歌い始めると、テツがギターソロをかますのを横目に途中で歌うのを放棄してステージ上を転がり回り、ギターの弦が切れると最後には愛機ブラックファルコンを思いっきりステージに叩きつけた。
それはTHE WHOのピート・タウンゼントか、あるいはThe Clashのポール・シムノンへのオマージュなのか。いや、亮介のこの瞬間に湧き上がった衝動によるものでしかないだろう。ホールでワンマンをやれるバンドになっても、大人しくなったり、行儀良くなったりすることはない。つまりはフラッドはどこまでいっても変わることはないということを、最後に亮介は示していたのだ。それはきっとこれから先に武道館に立った時にもそう思わせてくれるはず。
ホールだからこそのフラッドのライブであったのは確かだ。でも紛れもなく、フラッドのライブでしかない、初のホールワンマンだったのだ。最後には今度は一丘がせっかくだからとばかりにピアノの鍵盤を押して帰るのがなんだか可愛らしくもあった。
2022年7月8日。きっとこの日は後に良くない意味で歴史の教科書に載ることになるだろうし、何年経ってもTVなどでは「あれから○年…」という報道がされることになると思う。
でもそれを見た時に思い出すのはきっと、その日にa flood of circleがLINE CUBE SHIBUYAのステージに立っていたということだ。自分にとっては2022年7月8日は誰にどう言われようともそんなどデカい花火が打ち上った瞬間を見ることができた記念日になったのだ。スクリーンに映った
「THANK YOU」
の文字を見て、こちらこそ今日も、これまでも本当にありがとう。これからもどうかずっとよろしく、と思っていた。
1.A
2.Dancing Zombiez
3.クレイジー・ギャンブラーズ
4.Blood Red Shoes
5.狂乱天国
6.Rex Girl
7.Welcome To Wonderland
8.月に吠える
9.世界が変わる日
10.ブレインデッド・ジョー
11.バタフライソング
12.春の嵐
13.R.A.D.I.O.
14.テンペスト
15.プシケ
16.北極星のメロディー
17.シーガル
18.白状
19.伝説の夜を君と
encore
20.花火を見に行こう
21.I LOVE YOU
encore2
22.Beast Mode