フレデリック 「FREDERHYTHM ARENA 2022 〜ミュージックジャンキー〜」 @代々木第一体育館 6/29
- 2022/06/30
- 22:12
フレデリックの初のアリーナワンマンとなった横浜アリーナが開催されたのが2020年の2月。それはこうしてコロナ禍になる前に最後に観た、通常の形での大きな会場でのライブだった。
それを思い出してしまうのはその横浜アリーナ、昨年の日本武道館、そしてこの日の代々木第一体育館と、3年連続でアリーナ規模のライブを行っているからであり、その状況がライブごとにガラッと変わってきたからである。
物販や入場がかなり遅れたという影響によるものなのか、開演予定の19時をかなり遅れての時間に場内が暗転すると拍手が起こる中でBGM的なSEが鳴り、ステージ背面と両サイドの巨大スクリーンには幾何学的な立体図形が次々に映し出されながら形を変えていくと、徐々に流れているBGM的なSEが聴き覚えのある音に変わっていくと同時にステージにメンバー4人が登場。
その音は明らかに「名悪役」のリズムであり、そのSEがそのまま曲に繋がるようにして、緑が混じった髪色は変わらないが、髪型がピシッとした中分けになっている三原健司(ボーカル&ギター)が
「思い出にされるくらいなら
二度とあなたに歌わないよ」
と歌い、そのフレーズが終わった瞬間にバンドの演奏が重なっていく。演出だけでなくこの曲からか、という意外性も含めてその先制攻撃的なスタートに驚きながらも、この曲においては一字一句を逃すことなく噛み締めて欲しいとばかりにスクリーンに歌詞が映し出されるのを追ってしまう。健司の歌い出しのフレーズもそうであるが、それくらいに言葉の、メッセージとしての力が強い曲であるということだ。もちろん健司のボーカルはこの広い代々木体育館に全く違和感を感じないくらいの伸びやかさを冒頭から響かせている。
「我々がフレデリックです。代々木、よろしくお願いします!」
と健司が気合いを込めて挨拶すると、前回のツアーのサブタイトルにもなっていた「朝日も嫉妬するほどに」というフレーズが強いインパクトを残す「TOMOSHI BEAT」の熱いバンドの演奏が健司のボーカルのスケールに負けないくらいにアリーナにふさわしい、この規模を包み込むというか飲み込むような音を鳴らしている。
個人的には何回かこの代々木体育館でライブを見たことがあるのだが、あまり音が良いというイメージがある会場ではない。そもそもがライブをやる目的ではない場所であるだけにそれは仕方のないことであるが、それでもこの日のライブからはそうした印象を全く感じないどころか、むしろ鳴らしてる全ての楽器の音一つ一つが実にクリアに聴こえた。
そこにはすでにアリーナでのワンマンや、それを上回る規模のフェスでのステージに立ってきたという経験はもちろん、フレデリックのメンバーや音響スタッフがこの日のために万全の音作りをしてきた結果とも言えるだろう。そしてそうした音を作ってきたのは間違いなく来てくれる人に最高の体験をしてもらいたいからだ。
そうした気合いが伺えるのは、健司が歌う前に少し気合いを入れるような声を発した「蜃気楼」。おそらくほとんどの人が初めてこうしてライブで聴いた曲だと思われるが、ライブで聴くと音源の煌めくようなサウンドというよりもストレートなギターロックと言えるものになっているが、それは疾走感溢れる高橋武(ドラム)と全身白という衣装でうねりまくるような三原康司(ベース)によるリズムの力強さが大きな要素になっていると思われるが、フレデリックの音楽がこんなに様々なタイプで「踊れる」ものになっているというのはこのリズム隊の強さあってこそのものだ。
「TOMOSHI BEAT」「蜃気楼」はともに3月にリリースされた最新アルバム「フレデリズム3」の収録曲であるが、健司は
「3月に「フレデリズム3」っていうアルバムを出して、その曲たちをどこで鳴らすのが1番似合うかを考えました。ライブハウスでもない、屋外の会場でもない、アリーナで鳴らしたいと思ってこの代々木体育館でやろうと思いました。
それまでに我々にできることは、自分たちの音楽をいろんな場所でしっかり鳴らしていくということ」
という健司の言葉からもこの日のライブが「フレデリズム3」の曲を中心にしたものであることがわかるし、その言葉通りにリリース後に出演した春フェスなどでもそのアルバムの収録曲をライブでいち早く演奏するだけではなく、いろんなフェスやイベントに出れるだけ出まくるというスタンスで自分たちの音を磨き上げてきた。そこからは謙虚なようにも感じるが、確かな今の自分たちへの自信を感じることができる。
すると健司はギターを置いてハンドマイクを持ち、ステージから「こんなに!?」と思ってしまうくらいに鮮やかなレーザーが放たれる「VISION」を歌い始めるのだが、この日会場に入った瞬間に少し驚いた、ステージ中央から伸びる花道を歩いて最先端まで行きながら歌う。その姿に観客も手を振って応えるが、時折様々な角度の客席に向かって頭を下げるような仕草を見せる健司はやはりこうして来てくれた人と1対1で向き合ってくれているんだなということがわかるし、こうしたパフォーマンスをしようと思ったのは健司の言う
「どんな場所で鳴らすべきか」
ということを考えた時にこの景色が見えていたということだろう。エフェクトががったボーカルでタイトルフレーズを歌う康司、煌びやかなダンスミュージックの中にどこかオリエンタルな空気を注入するような赤頭隆児(ギター)という、ステージから離れていっても乱れることなく演奏することができるメンバーがいてくれるからこそでもある。
健司がステージに戻ってギターを手にすると、イントロで高橋のリズムに合わせて他のメンバーが手拍子をし始めるとそれが観客にも広がっていき、広がり切ると観客だけが手を叩き、その手拍子の音だけが鳴り響く光景をメンバーは目と記憶に焼き付けるような表情で見ていた。それはもちろん「かなしいうれしい」であり、曲中にもそうして観客はリズムに合わせて手を叩くのであるが、こんなに凄い景色を見せてくれるフレデリックのライブにおいて我々の手拍子だけが鳴り響く瞬間があるというのは、我々もまたこの凄いライブを作っている一員になれているんじゃないかとすら思える。それはバンドとファンという双方向の真っ直ぐな愛情を確かに感じることができるライブを作ってきたこのバンドだからこそそう思えるのだ。
もともとは須田景凪とのコラボ曲であり、2月にはツーマンライブも開催してコラボを披露したのも記憶に新しいのは「ANSWER」であるが、この日は須田景凪は登場しなかっただけに、そのボーカル部分を担うのはもちろん康司であり、三原兄弟でのデュエットとなるのだが、その康司が須田景凪の高いキーのまま歌うその歌唱すらもまたこのアリーナ規模にふさわしいスケールを獲得している。というかそうでないと健司のボーカルと釣り合うわけはないのであるが、こんなに歌えるメンバーがもう1人いるのはこれからのフレデリックにとってさらに大きな武器になるなというのをこの後にも我々は思い知ることになる。
スクリーンに映し出された小さな球体が躍動するように重い四つ打ちのビートが曲間に鳴る中でその康司はボーカル&ベースからシンセベースへと楽器を変えることによって、フレデリックのダンスミュージックがギターロック的なものだけではなく、エレクトロ的なものでもあるということを示すような「Wanderlust」ではスクリーンに映し出されていた球体がバーチャル的に世界中を旅するように海や山などの美しいデジタルな景色が次々に映し出されていく。それはサビで一気に開放感を獲得していく
「爽 Higher Higher Higher 飛び回れ感情を
どこまでも Wander Wander Wander
果てのない表情を探して
Higher」
という一見言葉の響きを重視したかのようなフレーズを視覚的に体現させてくれると言える。聴覚だけではなくて視覚でも刺激的な体験をさせてくれるのがフレデリックのアリーナライブであるというのは形や曲が変わっても横浜アリーナや武道館から地続きになっているものだ。
その「Wanderlust」のアウトロではステージを覆い尽くすかのように大量のスモークが噴き出す。本当にメンバーが見えなくなって、その隙にステージから居なくなっているんじゃないかとすら思ったが、実際にはそのスモークの中にメンバーはおり、その状態で演奏されたのはもちろんこの日のセトリの中では最初期と言っていい時期の「うわさのケムリの女の子」なのだが、そうした曲が経験と技術が増した状態で演奏されてよりアッパーに熱量を増したものになっていくという普通の流れとは対照的に、より音量や音圧を絞り込んでサイケデリックさを強めているというのが実にフレデリックならではだ。そのサイケデリックさはテンポをより落としているように感じることに加えて、メンバーの表情までがはっきりとは見えないくらいに薄暗い照明の中で演奏されたという要素もあるのかもしれない。
すると健司が再びハンドマイクになり、タイトルに合わせたかのような紫色の照明、さらにスクリーンまでもが紫色に発光しているというのは「ラベンダ」のタイトルに合わせたものであるというのがすぐにわかるのだが、そうした視覚効果に加えて、どことなくラベンダーの香りが鼻の中に入ってくる。
かつて米津玄師が幕張メッセでワンマンをやった際に「Lemon」を演奏して柑橘系の香りを漂わせるという演出をやっていたが、ライブを楽しむために必要なのはとかく聴覚と視覚だけだと思ってしまいがちな中で、それ以外も含めた五感をフルに活用してライブを楽しむことができるということをこの日のフレデリックのライブは示してくれていた。観客の熱気による汗の匂いをかき消すかのように華やかな香りが漂っていた。
そんな驚きの演出の後にはメンバーが一旦楽器を置き、赤頭が
「ここ2人、今月誕生日やからな」
と言って、珍しく高橋とともにMCを担当する。赤頭は
「今日は6月29日で「ムジーク」、つまり「ミュージックの日」です。そんな日に「ミュージックジャンキー」っていうタイトルのライブができてるってもはやDestinyやな。ディスってる。Destinyしてるっていう意味で(笑)」
と意外なくらいに上手いことを言ってみせるのであるが、高橋はマイクを通さなくてもアリーナ中に響き渡る、ボーカルじゃないのが不思議になるくらいの驚異的な声量で挨拶をすると、
「僕には憧れのミュージシャンがたくさんいて。でもその人と同じ演奏ができるかっていうとできるはずがなくて。それは人が違うからっていうのはもちろんなんだけど、その人が経験してきたこととか、文化とか価値観とかが音になって出てると思っていて。だから僕らの音からもそういうものを感じてくれたら嬉しいなって」
という実に高橋らしい真面目な話をするというのは同じように拍手を受けるのでも赤頭とは真逆の内容と言えるし、そこにも確かにそれぞれの人間性が感じられる。
するとメンバーは明らかにスタッフが急いで機材をセッティングしている花道の最先端まで歩いていく。それは横浜アリーナや配信ライブなどでも行っていたアコースティック編成での演奏になるかと思いきや、健司は
「次の曲は3人に任せて、俺は袖に引っ込みます」
と言って本当に花道を戻ってステージから捌けてしまう。残されたこの3人でどうするんだ?と思っていると康司が
「この曲を作った時に、健司が「この曲は康司が歌うべきだ」って言ってくれて。でも改めてフレデリックって変な曲が多いなって曲を作ってる自分でも思うんだけど、こうして聴いてくれてる人はそんな変な部分、歪な部分も含めて好きでいてくれるのかなって思う」
と、まるで我々の心の中を見透かしているかのような鋭い分析を口にした後に「フレデリズム3」の中でも屈指の変な曲と言える「YOU RAY」なのであるが、健司を除いた3人という削ぎ落とされた編成になったことでどうしたって歌、メロディーが前面に出ざるを得ないためにこの曲、つまりはフレデリックというバンドが持つ(それは康司が生み出したものである)メロディの美しさが本当によくわかるし、それと同時に康司のボーカリストとしての力量の向上っぷりも「ANSWER」以上によくわかる。
さらにはその3人に向かい合うような形でステージに再度現れた健司が1人で弾き語りという形態で「サイカ」を歌い始める。そこからはダンスミュージックという衣服を脱いだとしてもメロディと歌だけで勝負できるバンド、曲であるということが強く伝わってくるのであるが、その健司の歌唱中にも3人は花道の先のステージからずっと健司の歌う姿を見守っていたのが実に印象的だった。自分たちはこんなに凄いボーカリストのバンドで演奏しているということを改めて深く理解するかのように。
以前インタビューで
「0から1を作るのが康司、その1を2どころか10にするのが健司」
的なことを言っているのを読んだ記憶があるのだが、確かに康司が0から曲を作り、その曲をボーカリストとして、バンドのフロントマンとして我々に伝える健司がその曲をより輝かせているというのはこの3人での演奏→健司の弾き語りという今までやってこなかったことをやっているのを見ると、三原兄弟の、そしてフレデリックのメカニズムがよくわかるし、その双子がこうして一緒にバンドをやっているのが奇跡的なことだよなと思える。きっとどちらかだけではこうしたバンドに、曲にはなっていないだろうから。
そんなこの会場でのライブだからこその初の試みを終えた4人がメインステージに戻ると、赤頭と高橋のトークからは座って観ていた観客が一斉に立ち上がるのだが、まさにここから後半戦だから目を覚ませとばかりにハンドマイクで歌う健司だけならず、間奏では赤頭と康司も花道に駆け出して行って演奏する「Wake Me Up」の音だけではないそうしたパフォーマンスによって目が覚まされていくようだ。
ギターロック的な曲も多かった前半から、後半はここまでほとんどなかった、パブリックイメージとしてのフレデリック通りのダンスミュージックで踊らせまくるという流れになることがわかるのは、観客がリズムに合わせて手拍子する姿がスクリーンに映し出され、歌詞に合わせてミラーボールが輝く「YONA YONA DANCE」なのだが、元は和田アキ子に提供した曲であり、その縁で本人とのコラボも果たしているだけに、健司のボーカルが自身のらしさを感じさせるようなクセのある歌い方に加えて、和田アキ子ならではのコブシを利かせた歌謡曲的な歌唱法をも取り入れたものになっている。それによって健司のボーカルの表現力がさらに多彩に広がっているのである。それはこれからのこのバンドが生み出していく音楽の幅へとそのまま広がっていく要素を感じさせるものである。
そしてさらに加速するグルーヴのイントロの中で健司が
「遊ぼうぜ代々木ー!」
と叫んでから演奏されたのは、これだけ最新作の曲を演奏することによってこれまでの定番曲がセトリに入らなくなる中でも変わらずに演奏され続けており、それはメンバーにとってもこの曲が本当に大事な曲であることがわかる「KITAKU BEATS」であるが、それはやはりこの曲の持つ「遊ぶ」というテーマが今に至るまでずっとフレデリックにとって大事なことであり続けているということである。もちろんリズムに合わせて観客が手拍子をするというのもこの曲にとっては欠かせない遊びの楽しさであり、そうした全ての要素が
「遊び切ってから帰ろうな、代々木ー!」
と健司が叫んでもまだまだ帰りたくない、このままこの音楽に浸り続けていたいと思わせてくれる。
そしてうねりながらも疾走感のある康司のベースが曲間をさらにドライブさせるように繋ぐと、
「8年前にこの曲でメジャーデビューしました!今も色褪せない曲だと思ってます!」
と健司が叫び、高橋のドラムの連打によって始まったのはもちろん、今も再生回数が伸び続けているくらいに色褪せないどころか輝きを増し続ける「オドループ」。
当然観客は踊りまくり、間奏では赤頭が1人で花道を駆け出してきてその先端でギターソロを弾きまくる。昨今「曲を聴いていてもギターソロを飛ばす」という事象が話題になったりしたが、この曲はこのギターソロを飛ばしたら間違いなく曲の良さが全て伝わらない曲であるし、このアリーナ規模でギタリストがギターソロで会場のど真ん中に立って弾いているというのはもはやメタルバンドかハードロックバンドの速弾きギターヒーローくらいのものである。もちろんこうしたパフォーマンスにも一見影響源にはなさそうなそうした音楽の先人に対するリスペクトがあるのだろう。
去年くらいか、この「オドループ」のMVがロシアでバズりまくっているというニュースが流れた。ロシアの人たちがこの曲で踊っている映像もSNS上などで目にする機会もあった。メンバーもそれを心から喜んでいたからこそ、インタビューでは今のロシアの状況に悲痛さを感じているようだった。それは音楽では争いを止めたりすることはできないという無力感を感じてしまうことだったかもしれない。でもロシアの人たちとこの曲を通して分かり合うことができたのもまた事実だ。色褪せずに輝き続けてきた名曲だからこそ、そこに付随する思いも日本だけではないたくさんの人のものが重なるものになった。今この状況の中で聴くこの曲は踊りながらにしてそんなことを考えさせられる。
そしてハンドマイクになった健司が
「本日はどうもありがとうございました。俺たちフレデリックはいつだって今が最高だと思ってライブをやっています。なので今日も最新の我々の新曲でお別れです」
と言って演奏されたのはこの日のライブタイトルにも使用された「ジャンキー」なのであるが、イントロが始まるや否やステージにはMVでダンスを踊っている制服+ジャージの女性2名が登場して花道をあのMVの首と足だけを動かしながらの奇妙な歩行方法を我々の目の前で実演しながらダンスを踊る。
スクリーンには演奏するメンバーや踊るダンサー、さらには我々観客の姿までもが映し出されるのであるが、そこにもMVに登場するウサギの映像が重ねられたりするのだが、スクリーンには仮面をつけたダンサーが踊っている様子も映り、果たしてそのダンサーはどこにいるのかと思ったら、アリーナ席やスタンド席の通路など、会場のあらゆる場所でたくさんの仮面ダンサーが踊っていた。きっと見る位置によっては気付かないし、そもそもステージを観ていたら目が向かない場所であるにもかかわらず、全員が本気でキレのあるダンスを踊っている。それはフレデリックの音楽への愛、このライブへの想いをしっかり汲み取ってくれていたからだろう。そんな光景があまりに楽しくて、楽しすぎて感動してしまうことってあるんだなと思うほどだった。そのダンサーたちも含めた全員が紛れもなくフレデリックの、ミュージックのジャンキーだった。
それだけでも情報量が多いのに、女性ダンサー2人が花道からステージに戻ると健司が入れ替わりで花道を歩きながら歌い、アウトロではスクリーンに9月から始まる次なるツアーの告知が流れ始め、会場からは拍手が起こる。しかもその告知映像が長い=ツアーが長いということなのであるが、その長さに合わせてバンドのアウトロの演奏までもキーと速さを上げて演奏されるというライブアレンジが施され…と思っていたら曲の終わりを告げるように特効の爆発が起こった。その瞬間に場内の各地にいる仮面ダンサーたちは頭を下げるポーズで静止している。メンバーたちだけでなく、そのダンサーたちの方に向けても拍手する観客の姿を見て、フレデリックの音楽が好きな人は立場が違っても音楽を愛する人をリスペクトする素晴らしい人たちが集まっていて、その人たちが集まることによって生まれる空気が我々をこんなにも幸せな気分にしてくれるんだなと思った。演者、スタッフ、ファンの全てがこんなにも音楽を愛していることがわかるのは、フレデリックのメンバーが最もそういう人たちだからなんだと思う。
「オドループ」がこんなにも長い年月に渡って愛され続ける一大アンセムになったのは、ライブで数え切れないくらいに演奏してはそのライブの記憶を焼き付けるような場面を曲が作ってきたからだ。言わば年月を重ねてきたことによって、そこにはたくさんの人の様々な思い入れが重なることによって、ただの名曲ではなくてこんなにも特別な曲になったのだ。
でもこの日の「ジャンキー」はフレデリックの持ちうるものを総動員することによって、この日の「オドループ」を圧倒的に超えていた。それは「オドループ」というあまりに大きすぎる存在の曲を生み出したフレデリックが、ついにこれからそれを超える可能性のある曲を生み出したということだ。だからこそ、この日のライブを締めるのはこの曲でなくてはいけなかった。そんな曲を生み出した今のフレデリックはやはり過去最高のフレデリックをはるかに更新していたのだ。
そんな余韻に浸らざるを得ないというか、呆然とするくらいの余韻の強さに包まれる中でメンバーがアンコールに再び登場すると、健司は先程公開されたばかりの新たなツアーがバンド史上最多の30本にも上ることについて、
「20代のバンドみたいなことを33歳になってからやるっていう(笑)
でもこれからも俺たちはいろんなフェスとかにも出ます。みんなもいろんなバンドのワンマンや対バンライブやフェスに行って、いろんな音楽に触れてください。そうやっていろんなライブを見た上でまた俺たちのライブに帰ってきて、やっぱりフレデリックが1番カッコいいなって思わせるんで!」
と、自分たち以外のアーティストのライブを観ることを勧めるミュージックラバーっぷりと、そうしたアーティストたちにも自分たちは負けないということを同時に感じさせるあたりが実にフレデリックらしいし、その言葉はそのままこの日鳴らしてきた音楽や発してきた言葉や空気、見せてくれた景色と直結しているものだ。
そうして走り続けていくという意志を示すかのようにして演奏されたのはこちらも「フレデリズム3」からの選曲となる「サーチライトランナー」。まさに光に包まれるというよりも、バンドそのものが光を発しているかのように見える照明と、その道筋を音楽で照らすかのような疾走感溢れるバンドサウンド。高橋の叫ぶかのような表情で叩くドラムがそのサウンドを牽引しているのだが、
「間違ってなかったんだ」
というサビを締めるフレーズはバンドが自身と自身のこれまでに辿ってきた道、これから進んでいく道を肯定するかのようでもありながら、ここにいた全員が心から「本当に間違ってなさすぎるんだよな」と思うくらいにこうしてこの日ここに来ることを選んだこと、これまでフレデリックの音楽を聴いてきてライブに行ってきたことの全てを肯定してくれるかのようだった。
そんなライブの最後の最後に演奏されたのは健司がハンドマイクになり、図らずも今の気候とこれ以上ないくらいにシンクロすることとなった「熱帯夜」。
「言葉じゃ上等かパーテーション越しの討論会」
というフレーズはシュールなようでいて実は世相や社会への自分たちなりのメッセージに満ちたフレデリックの最新系とも言える曲であるが、イントロから花道を歩いている健司が腕を左右に振ると、観客も同じように腕を振る。それはどこか暑さを和らげるために腕で風を起こすかのようでありながらも、異常とも言えるような、6月とは思えない暑さに見舞われる気候になっているのは、この日にこの曲をこの上ないくらいにリアルに感じさせるためだったんじゃないだろうかとすら思える。
スクリーンにはメンバーが演奏する姿や観客の笑顔の姿とともにエンドロールが流れるのもフレデリックのワンマンならではであるが、その最後の「Special Thanks」の中に家族や友達に加えて「You!!」、つまりは我々のことが連なっていたのが本当に嬉しかった。それはここに自分がいることができたということを刻み込んでくれるかのようだったから。アウトロで歌詞にはならないような「Ah〜!」という歌唱を腕をいっぱいに広げて歌っていた健司の姿は、メンバーもまた自分たちが見ている客席、立っているこのステージの光景と記憶を自分たちの脳内に刻み込もうとしているようだった。
演奏が終わると楽器を下ろした4人は並んで花道を進み、その最先端で健司はアンコールで出てきた時と同様に
「これからもいろんなライブに足を運んでください!」
と言ってから、少し恥ずかしがりながら4人で手を繋いで客席に一礼した。終演SEとして流れて観客が踊りながらメンバーに手を振っていたのはやはり「ジャンキー」。健司は
「今日、みんなは帰りにどんなフレデリックの曲を聴くんかな?」
とこの日終盤に言っていたが、多くの人が聴いていたのは間違いなくこの曲だったはずだ。それはこの日のタイトルが「ミュージックジャンキー」だったこともあるし、この日の「ジャンキー」の光景を自分の中で反芻するかのように。
「熱帯夜」のアウトロで健司はおなじみの
「音楽大好きな人は両手を挙げてもらっていいですか!」
と問いかけてたくさんの両手が上がるとさらに
「これからも身も心も音楽に捧げられるっていう人はどれだけいますか!」
と問いかけた。その言葉に自分が一点の曇りもなく高々と両手を挙げることができたのは、そうした人生を送ってきたという自負が少なからずあるから。
そしてそういう人生にしたくなるような、フレデリックのようなひたすらに音楽への愛を鳴らし続けているバンドがいるから。「ミュージックジャンキー」でいることができていることをこんなに誇りに思える日は他にないんじゃないだろうか。それくらい、永久に厄介なジャンキーで結構です。
なんて思いながら会場から出ようと思ったら、出口でフライヤーを配っていたのは「ジャンキー」の時に踊っていた仮面ダンサーの方々だった。もうこんなサプライズは思わず笑顔にならざるを得ないし、仮面であっても配っていた人たちも笑顔に見えた。最後の最後までフレデリックにもてなされ、笑顔にしてもらった1日だった。
1.名悪役
2.TOMOSHI BEAT
3.蜃気楼
4.VISION
5.かなしいうれしい
6.ANSWER
7.Wanderlust
8.うわさのケムリの女の子
9.ラベンダ
10.YOU RAY
11.サイカ
12.Wake Me Up
13.YONA YONA DANCE
14.KITAKU BEATS
15.オドループ
16.ジャンキー
encore
17.サーチライトランナー
18.熱帯夜
それを思い出してしまうのはその横浜アリーナ、昨年の日本武道館、そしてこの日の代々木第一体育館と、3年連続でアリーナ規模のライブを行っているからであり、その状況がライブごとにガラッと変わってきたからである。
物販や入場がかなり遅れたという影響によるものなのか、開演予定の19時をかなり遅れての時間に場内が暗転すると拍手が起こる中でBGM的なSEが鳴り、ステージ背面と両サイドの巨大スクリーンには幾何学的な立体図形が次々に映し出されながら形を変えていくと、徐々に流れているBGM的なSEが聴き覚えのある音に変わっていくと同時にステージにメンバー4人が登場。
その音は明らかに「名悪役」のリズムであり、そのSEがそのまま曲に繋がるようにして、緑が混じった髪色は変わらないが、髪型がピシッとした中分けになっている三原健司(ボーカル&ギター)が
「思い出にされるくらいなら
二度とあなたに歌わないよ」
と歌い、そのフレーズが終わった瞬間にバンドの演奏が重なっていく。演出だけでなくこの曲からか、という意外性も含めてその先制攻撃的なスタートに驚きながらも、この曲においては一字一句を逃すことなく噛み締めて欲しいとばかりにスクリーンに歌詞が映し出されるのを追ってしまう。健司の歌い出しのフレーズもそうであるが、それくらいに言葉の、メッセージとしての力が強い曲であるということだ。もちろん健司のボーカルはこの広い代々木体育館に全く違和感を感じないくらいの伸びやかさを冒頭から響かせている。
「我々がフレデリックです。代々木、よろしくお願いします!」
と健司が気合いを込めて挨拶すると、前回のツアーのサブタイトルにもなっていた「朝日も嫉妬するほどに」というフレーズが強いインパクトを残す「TOMOSHI BEAT」の熱いバンドの演奏が健司のボーカルのスケールに負けないくらいにアリーナにふさわしい、この規模を包み込むというか飲み込むような音を鳴らしている。
個人的には何回かこの代々木体育館でライブを見たことがあるのだが、あまり音が良いというイメージがある会場ではない。そもそもがライブをやる目的ではない場所であるだけにそれは仕方のないことであるが、それでもこの日のライブからはそうした印象を全く感じないどころか、むしろ鳴らしてる全ての楽器の音一つ一つが実にクリアに聴こえた。
そこにはすでにアリーナでのワンマンや、それを上回る規模のフェスでのステージに立ってきたという経験はもちろん、フレデリックのメンバーや音響スタッフがこの日のために万全の音作りをしてきた結果とも言えるだろう。そしてそうした音を作ってきたのは間違いなく来てくれる人に最高の体験をしてもらいたいからだ。
そうした気合いが伺えるのは、健司が歌う前に少し気合いを入れるような声を発した「蜃気楼」。おそらくほとんどの人が初めてこうしてライブで聴いた曲だと思われるが、ライブで聴くと音源の煌めくようなサウンドというよりもストレートなギターロックと言えるものになっているが、それは疾走感溢れる高橋武(ドラム)と全身白という衣装でうねりまくるような三原康司(ベース)によるリズムの力強さが大きな要素になっていると思われるが、フレデリックの音楽がこんなに様々なタイプで「踊れる」ものになっているというのはこのリズム隊の強さあってこそのものだ。
「TOMOSHI BEAT」「蜃気楼」はともに3月にリリースされた最新アルバム「フレデリズム3」の収録曲であるが、健司は
「3月に「フレデリズム3」っていうアルバムを出して、その曲たちをどこで鳴らすのが1番似合うかを考えました。ライブハウスでもない、屋外の会場でもない、アリーナで鳴らしたいと思ってこの代々木体育館でやろうと思いました。
それまでに我々にできることは、自分たちの音楽をいろんな場所でしっかり鳴らしていくということ」
という健司の言葉からもこの日のライブが「フレデリズム3」の曲を中心にしたものであることがわかるし、その言葉通りにリリース後に出演した春フェスなどでもそのアルバムの収録曲をライブでいち早く演奏するだけではなく、いろんなフェスやイベントに出れるだけ出まくるというスタンスで自分たちの音を磨き上げてきた。そこからは謙虚なようにも感じるが、確かな今の自分たちへの自信を感じることができる。
すると健司はギターを置いてハンドマイクを持ち、ステージから「こんなに!?」と思ってしまうくらいに鮮やかなレーザーが放たれる「VISION」を歌い始めるのだが、この日会場に入った瞬間に少し驚いた、ステージ中央から伸びる花道を歩いて最先端まで行きながら歌う。その姿に観客も手を振って応えるが、時折様々な角度の客席に向かって頭を下げるような仕草を見せる健司はやはりこうして来てくれた人と1対1で向き合ってくれているんだなということがわかるし、こうしたパフォーマンスをしようと思ったのは健司の言う
「どんな場所で鳴らすべきか」
ということを考えた時にこの景色が見えていたということだろう。エフェクトががったボーカルでタイトルフレーズを歌う康司、煌びやかなダンスミュージックの中にどこかオリエンタルな空気を注入するような赤頭隆児(ギター)という、ステージから離れていっても乱れることなく演奏することができるメンバーがいてくれるからこそでもある。
健司がステージに戻ってギターを手にすると、イントロで高橋のリズムに合わせて他のメンバーが手拍子をし始めるとそれが観客にも広がっていき、広がり切ると観客だけが手を叩き、その手拍子の音だけが鳴り響く光景をメンバーは目と記憶に焼き付けるような表情で見ていた。それはもちろん「かなしいうれしい」であり、曲中にもそうして観客はリズムに合わせて手を叩くのであるが、こんなに凄い景色を見せてくれるフレデリックのライブにおいて我々の手拍子だけが鳴り響く瞬間があるというのは、我々もまたこの凄いライブを作っている一員になれているんじゃないかとすら思える。それはバンドとファンという双方向の真っ直ぐな愛情を確かに感じることができるライブを作ってきたこのバンドだからこそそう思えるのだ。
もともとは須田景凪とのコラボ曲であり、2月にはツーマンライブも開催してコラボを披露したのも記憶に新しいのは「ANSWER」であるが、この日は須田景凪は登場しなかっただけに、そのボーカル部分を担うのはもちろん康司であり、三原兄弟でのデュエットとなるのだが、その康司が須田景凪の高いキーのまま歌うその歌唱すらもまたこのアリーナ規模にふさわしいスケールを獲得している。というかそうでないと健司のボーカルと釣り合うわけはないのであるが、こんなに歌えるメンバーがもう1人いるのはこれからのフレデリックにとってさらに大きな武器になるなというのをこの後にも我々は思い知ることになる。
スクリーンに映し出された小さな球体が躍動するように重い四つ打ちのビートが曲間に鳴る中でその康司はボーカル&ベースからシンセベースへと楽器を変えることによって、フレデリックのダンスミュージックがギターロック的なものだけではなく、エレクトロ的なものでもあるということを示すような「Wanderlust」ではスクリーンに映し出されていた球体がバーチャル的に世界中を旅するように海や山などの美しいデジタルな景色が次々に映し出されていく。それはサビで一気に開放感を獲得していく
「爽 Higher Higher Higher 飛び回れ感情を
どこまでも Wander Wander Wander
果てのない表情を探して
Higher」
という一見言葉の響きを重視したかのようなフレーズを視覚的に体現させてくれると言える。聴覚だけではなくて視覚でも刺激的な体験をさせてくれるのがフレデリックのアリーナライブであるというのは形や曲が変わっても横浜アリーナや武道館から地続きになっているものだ。
その「Wanderlust」のアウトロではステージを覆い尽くすかのように大量のスモークが噴き出す。本当にメンバーが見えなくなって、その隙にステージから居なくなっているんじゃないかとすら思ったが、実際にはそのスモークの中にメンバーはおり、その状態で演奏されたのはもちろんこの日のセトリの中では最初期と言っていい時期の「うわさのケムリの女の子」なのだが、そうした曲が経験と技術が増した状態で演奏されてよりアッパーに熱量を増したものになっていくという普通の流れとは対照的に、より音量や音圧を絞り込んでサイケデリックさを強めているというのが実にフレデリックならではだ。そのサイケデリックさはテンポをより落としているように感じることに加えて、メンバーの表情までがはっきりとは見えないくらいに薄暗い照明の中で演奏されたという要素もあるのかもしれない。
すると健司が再びハンドマイクになり、タイトルに合わせたかのような紫色の照明、さらにスクリーンまでもが紫色に発光しているというのは「ラベンダ」のタイトルに合わせたものであるというのがすぐにわかるのだが、そうした視覚効果に加えて、どことなくラベンダーの香りが鼻の中に入ってくる。
かつて米津玄師が幕張メッセでワンマンをやった際に「Lemon」を演奏して柑橘系の香りを漂わせるという演出をやっていたが、ライブを楽しむために必要なのはとかく聴覚と視覚だけだと思ってしまいがちな中で、それ以外も含めた五感をフルに活用してライブを楽しむことができるということをこの日のフレデリックのライブは示してくれていた。観客の熱気による汗の匂いをかき消すかのように華やかな香りが漂っていた。
そんな驚きの演出の後にはメンバーが一旦楽器を置き、赤頭が
「ここ2人、今月誕生日やからな」
と言って、珍しく高橋とともにMCを担当する。赤頭は
「今日は6月29日で「ムジーク」、つまり「ミュージックの日」です。そんな日に「ミュージックジャンキー」っていうタイトルのライブができてるってもはやDestinyやな。ディスってる。Destinyしてるっていう意味で(笑)」
と意外なくらいに上手いことを言ってみせるのであるが、高橋はマイクを通さなくてもアリーナ中に響き渡る、ボーカルじゃないのが不思議になるくらいの驚異的な声量で挨拶をすると、
「僕には憧れのミュージシャンがたくさんいて。でもその人と同じ演奏ができるかっていうとできるはずがなくて。それは人が違うからっていうのはもちろんなんだけど、その人が経験してきたこととか、文化とか価値観とかが音になって出てると思っていて。だから僕らの音からもそういうものを感じてくれたら嬉しいなって」
という実に高橋らしい真面目な話をするというのは同じように拍手を受けるのでも赤頭とは真逆の内容と言えるし、そこにも確かにそれぞれの人間性が感じられる。
するとメンバーは明らかにスタッフが急いで機材をセッティングしている花道の最先端まで歩いていく。それは横浜アリーナや配信ライブなどでも行っていたアコースティック編成での演奏になるかと思いきや、健司は
「次の曲は3人に任せて、俺は袖に引っ込みます」
と言って本当に花道を戻ってステージから捌けてしまう。残されたこの3人でどうするんだ?と思っていると康司が
「この曲を作った時に、健司が「この曲は康司が歌うべきだ」って言ってくれて。でも改めてフレデリックって変な曲が多いなって曲を作ってる自分でも思うんだけど、こうして聴いてくれてる人はそんな変な部分、歪な部分も含めて好きでいてくれるのかなって思う」
と、まるで我々の心の中を見透かしているかのような鋭い分析を口にした後に「フレデリズム3」の中でも屈指の変な曲と言える「YOU RAY」なのであるが、健司を除いた3人という削ぎ落とされた編成になったことでどうしたって歌、メロディーが前面に出ざるを得ないためにこの曲、つまりはフレデリックというバンドが持つ(それは康司が生み出したものである)メロディの美しさが本当によくわかるし、それと同時に康司のボーカリストとしての力量の向上っぷりも「ANSWER」以上によくわかる。
さらにはその3人に向かい合うような形でステージに再度現れた健司が1人で弾き語りという形態で「サイカ」を歌い始める。そこからはダンスミュージックという衣服を脱いだとしてもメロディと歌だけで勝負できるバンド、曲であるということが強く伝わってくるのであるが、その健司の歌唱中にも3人は花道の先のステージからずっと健司の歌う姿を見守っていたのが実に印象的だった。自分たちはこんなに凄いボーカリストのバンドで演奏しているということを改めて深く理解するかのように。
以前インタビューで
「0から1を作るのが康司、その1を2どころか10にするのが健司」
的なことを言っているのを読んだ記憶があるのだが、確かに康司が0から曲を作り、その曲をボーカリストとして、バンドのフロントマンとして我々に伝える健司がその曲をより輝かせているというのはこの3人での演奏→健司の弾き語りという今までやってこなかったことをやっているのを見ると、三原兄弟の、そしてフレデリックのメカニズムがよくわかるし、その双子がこうして一緒にバンドをやっているのが奇跡的なことだよなと思える。きっとどちらかだけではこうしたバンドに、曲にはなっていないだろうから。
そんなこの会場でのライブだからこその初の試みを終えた4人がメインステージに戻ると、赤頭と高橋のトークからは座って観ていた観客が一斉に立ち上がるのだが、まさにここから後半戦だから目を覚ませとばかりにハンドマイクで歌う健司だけならず、間奏では赤頭と康司も花道に駆け出して行って演奏する「Wake Me Up」の音だけではないそうしたパフォーマンスによって目が覚まされていくようだ。
ギターロック的な曲も多かった前半から、後半はここまでほとんどなかった、パブリックイメージとしてのフレデリック通りのダンスミュージックで踊らせまくるという流れになることがわかるのは、観客がリズムに合わせて手拍子する姿がスクリーンに映し出され、歌詞に合わせてミラーボールが輝く「YONA YONA DANCE」なのだが、元は和田アキ子に提供した曲であり、その縁で本人とのコラボも果たしているだけに、健司のボーカルが自身のらしさを感じさせるようなクセのある歌い方に加えて、和田アキ子ならではのコブシを利かせた歌謡曲的な歌唱法をも取り入れたものになっている。それによって健司のボーカルの表現力がさらに多彩に広がっているのである。それはこれからのこのバンドが生み出していく音楽の幅へとそのまま広がっていく要素を感じさせるものである。
そしてさらに加速するグルーヴのイントロの中で健司が
「遊ぼうぜ代々木ー!」
と叫んでから演奏されたのは、これだけ最新作の曲を演奏することによってこれまでの定番曲がセトリに入らなくなる中でも変わらずに演奏され続けており、それはメンバーにとってもこの曲が本当に大事な曲であることがわかる「KITAKU BEATS」であるが、それはやはりこの曲の持つ「遊ぶ」というテーマが今に至るまでずっとフレデリックにとって大事なことであり続けているということである。もちろんリズムに合わせて観客が手拍子をするというのもこの曲にとっては欠かせない遊びの楽しさであり、そうした全ての要素が
「遊び切ってから帰ろうな、代々木ー!」
と健司が叫んでもまだまだ帰りたくない、このままこの音楽に浸り続けていたいと思わせてくれる。
そしてうねりながらも疾走感のある康司のベースが曲間をさらにドライブさせるように繋ぐと、
「8年前にこの曲でメジャーデビューしました!今も色褪せない曲だと思ってます!」
と健司が叫び、高橋のドラムの連打によって始まったのはもちろん、今も再生回数が伸び続けているくらいに色褪せないどころか輝きを増し続ける「オドループ」。
当然観客は踊りまくり、間奏では赤頭が1人で花道を駆け出してきてその先端でギターソロを弾きまくる。昨今「曲を聴いていてもギターソロを飛ばす」という事象が話題になったりしたが、この曲はこのギターソロを飛ばしたら間違いなく曲の良さが全て伝わらない曲であるし、このアリーナ規模でギタリストがギターソロで会場のど真ん中に立って弾いているというのはもはやメタルバンドかハードロックバンドの速弾きギターヒーローくらいのものである。もちろんこうしたパフォーマンスにも一見影響源にはなさそうなそうした音楽の先人に対するリスペクトがあるのだろう。
去年くらいか、この「オドループ」のMVがロシアでバズりまくっているというニュースが流れた。ロシアの人たちがこの曲で踊っている映像もSNS上などで目にする機会もあった。メンバーもそれを心から喜んでいたからこそ、インタビューでは今のロシアの状況に悲痛さを感じているようだった。それは音楽では争いを止めたりすることはできないという無力感を感じてしまうことだったかもしれない。でもロシアの人たちとこの曲を通して分かり合うことができたのもまた事実だ。色褪せずに輝き続けてきた名曲だからこそ、そこに付随する思いも日本だけではないたくさんの人のものが重なるものになった。今この状況の中で聴くこの曲は踊りながらにしてそんなことを考えさせられる。
そしてハンドマイクになった健司が
「本日はどうもありがとうございました。俺たちフレデリックはいつだって今が最高だと思ってライブをやっています。なので今日も最新の我々の新曲でお別れです」
と言って演奏されたのはこの日のライブタイトルにも使用された「ジャンキー」なのであるが、イントロが始まるや否やステージにはMVでダンスを踊っている制服+ジャージの女性2名が登場して花道をあのMVの首と足だけを動かしながらの奇妙な歩行方法を我々の目の前で実演しながらダンスを踊る。
スクリーンには演奏するメンバーや踊るダンサー、さらには我々観客の姿までもが映し出されるのであるが、そこにもMVに登場するウサギの映像が重ねられたりするのだが、スクリーンには仮面をつけたダンサーが踊っている様子も映り、果たしてそのダンサーはどこにいるのかと思ったら、アリーナ席やスタンド席の通路など、会場のあらゆる場所でたくさんの仮面ダンサーが踊っていた。きっと見る位置によっては気付かないし、そもそもステージを観ていたら目が向かない場所であるにもかかわらず、全員が本気でキレのあるダンスを踊っている。それはフレデリックの音楽への愛、このライブへの想いをしっかり汲み取ってくれていたからだろう。そんな光景があまりに楽しくて、楽しすぎて感動してしまうことってあるんだなと思うほどだった。そのダンサーたちも含めた全員が紛れもなくフレデリックの、ミュージックのジャンキーだった。
それだけでも情報量が多いのに、女性ダンサー2人が花道からステージに戻ると健司が入れ替わりで花道を歩きながら歌い、アウトロではスクリーンに9月から始まる次なるツアーの告知が流れ始め、会場からは拍手が起こる。しかもその告知映像が長い=ツアーが長いということなのであるが、その長さに合わせてバンドのアウトロの演奏までもキーと速さを上げて演奏されるというライブアレンジが施され…と思っていたら曲の終わりを告げるように特効の爆発が起こった。その瞬間に場内の各地にいる仮面ダンサーたちは頭を下げるポーズで静止している。メンバーたちだけでなく、そのダンサーたちの方に向けても拍手する観客の姿を見て、フレデリックの音楽が好きな人は立場が違っても音楽を愛する人をリスペクトする素晴らしい人たちが集まっていて、その人たちが集まることによって生まれる空気が我々をこんなにも幸せな気分にしてくれるんだなと思った。演者、スタッフ、ファンの全てがこんなにも音楽を愛していることがわかるのは、フレデリックのメンバーが最もそういう人たちだからなんだと思う。
「オドループ」がこんなにも長い年月に渡って愛され続ける一大アンセムになったのは、ライブで数え切れないくらいに演奏してはそのライブの記憶を焼き付けるような場面を曲が作ってきたからだ。言わば年月を重ねてきたことによって、そこにはたくさんの人の様々な思い入れが重なることによって、ただの名曲ではなくてこんなにも特別な曲になったのだ。
でもこの日の「ジャンキー」はフレデリックの持ちうるものを総動員することによって、この日の「オドループ」を圧倒的に超えていた。それは「オドループ」というあまりに大きすぎる存在の曲を生み出したフレデリックが、ついにこれからそれを超える可能性のある曲を生み出したということだ。だからこそ、この日のライブを締めるのはこの曲でなくてはいけなかった。そんな曲を生み出した今のフレデリックはやはり過去最高のフレデリックをはるかに更新していたのだ。
そんな余韻に浸らざるを得ないというか、呆然とするくらいの余韻の強さに包まれる中でメンバーがアンコールに再び登場すると、健司は先程公開されたばかりの新たなツアーがバンド史上最多の30本にも上ることについて、
「20代のバンドみたいなことを33歳になってからやるっていう(笑)
でもこれからも俺たちはいろんなフェスとかにも出ます。みんなもいろんなバンドのワンマンや対バンライブやフェスに行って、いろんな音楽に触れてください。そうやっていろんなライブを見た上でまた俺たちのライブに帰ってきて、やっぱりフレデリックが1番カッコいいなって思わせるんで!」
と、自分たち以外のアーティストのライブを観ることを勧めるミュージックラバーっぷりと、そうしたアーティストたちにも自分たちは負けないということを同時に感じさせるあたりが実にフレデリックらしいし、その言葉はそのままこの日鳴らしてきた音楽や発してきた言葉や空気、見せてくれた景色と直結しているものだ。
そうして走り続けていくという意志を示すかのようにして演奏されたのはこちらも「フレデリズム3」からの選曲となる「サーチライトランナー」。まさに光に包まれるというよりも、バンドそのものが光を発しているかのように見える照明と、その道筋を音楽で照らすかのような疾走感溢れるバンドサウンド。高橋の叫ぶかのような表情で叩くドラムがそのサウンドを牽引しているのだが、
「間違ってなかったんだ」
というサビを締めるフレーズはバンドが自身と自身のこれまでに辿ってきた道、これから進んでいく道を肯定するかのようでもありながら、ここにいた全員が心から「本当に間違ってなさすぎるんだよな」と思うくらいにこうしてこの日ここに来ることを選んだこと、これまでフレデリックの音楽を聴いてきてライブに行ってきたことの全てを肯定してくれるかのようだった。
そんなライブの最後の最後に演奏されたのは健司がハンドマイクになり、図らずも今の気候とこれ以上ないくらいにシンクロすることとなった「熱帯夜」。
「言葉じゃ上等かパーテーション越しの討論会」
というフレーズはシュールなようでいて実は世相や社会への自分たちなりのメッセージに満ちたフレデリックの最新系とも言える曲であるが、イントロから花道を歩いている健司が腕を左右に振ると、観客も同じように腕を振る。それはどこか暑さを和らげるために腕で風を起こすかのようでありながらも、異常とも言えるような、6月とは思えない暑さに見舞われる気候になっているのは、この日にこの曲をこの上ないくらいにリアルに感じさせるためだったんじゃないだろうかとすら思える。
スクリーンにはメンバーが演奏する姿や観客の笑顔の姿とともにエンドロールが流れるのもフレデリックのワンマンならではであるが、その最後の「Special Thanks」の中に家族や友達に加えて「You!!」、つまりは我々のことが連なっていたのが本当に嬉しかった。それはここに自分がいることができたということを刻み込んでくれるかのようだったから。アウトロで歌詞にはならないような「Ah〜!」という歌唱を腕をいっぱいに広げて歌っていた健司の姿は、メンバーもまた自分たちが見ている客席、立っているこのステージの光景と記憶を自分たちの脳内に刻み込もうとしているようだった。
演奏が終わると楽器を下ろした4人は並んで花道を進み、その最先端で健司はアンコールで出てきた時と同様に
「これからもいろんなライブに足を運んでください!」
と言ってから、少し恥ずかしがりながら4人で手を繋いで客席に一礼した。終演SEとして流れて観客が踊りながらメンバーに手を振っていたのはやはり「ジャンキー」。健司は
「今日、みんなは帰りにどんなフレデリックの曲を聴くんかな?」
とこの日終盤に言っていたが、多くの人が聴いていたのは間違いなくこの曲だったはずだ。それはこの日のタイトルが「ミュージックジャンキー」だったこともあるし、この日の「ジャンキー」の光景を自分の中で反芻するかのように。
「熱帯夜」のアウトロで健司はおなじみの
「音楽大好きな人は両手を挙げてもらっていいですか!」
と問いかけてたくさんの両手が上がるとさらに
「これからも身も心も音楽に捧げられるっていう人はどれだけいますか!」
と問いかけた。その言葉に自分が一点の曇りもなく高々と両手を挙げることができたのは、そうした人生を送ってきたという自負が少なからずあるから。
そしてそういう人生にしたくなるような、フレデリックのようなひたすらに音楽への愛を鳴らし続けているバンドがいるから。「ミュージックジャンキー」でいることができていることをこんなに誇りに思える日は他にないんじゃないだろうか。それくらい、永久に厄介なジャンキーで結構です。
なんて思いながら会場から出ようと思ったら、出口でフライヤーを配っていたのは「ジャンキー」の時に踊っていた仮面ダンサーの方々だった。もうこんなサプライズは思わず笑顔にならざるを得ないし、仮面であっても配っていた人たちも笑顔に見えた。最後の最後までフレデリックにもてなされ、笑顔にしてもらった1日だった。
1.名悪役
2.TOMOSHI BEAT
3.蜃気楼
4.VISION
5.かなしいうれしい
6.ANSWER
7.Wanderlust
8.うわさのケムリの女の子
9.ラベンダ
10.YOU RAY
11.サイカ
12.Wake Me Up
13.YONA YONA DANCE
14.KITAKU BEATS
15.オドループ
16.ジャンキー
encore
17.サーチライトランナー
18.熱帯夜
GRAPEVINE 「in a lifetime presents another sky 追加公演」 @昭和女子大学人見記念講堂 7/2 ホーム
THE BAWDIES 「FREAKS IN THE GARAGE TOUR」 @恵比寿LIQUIDROOM 6/26