THE BAWDIES 「FREAKS IN THE GARAGE TOUR」 @恵比寿LIQUIDROOM 6/26
- 2022/06/27
- 23:24
昨年にリリースされたアルバム「BLAST OFF!」のツアーを今年の1月にようやく完遂することができた、THE BAWDIES。
その「BLAST OFF!」はバンドのサウンドの広がりを感じさせるアルバムだったけれど、先月にリリースされた新作EP「FREAKS IN THE GARAGE」はここに来てのガレージロック回帰作とあって、果たしてライブはどんなモードになっているのか。そのリリースツアーのセミファイナルとなる東京は恵比寿LIQUIDROOMでの2daysで、この日が2日目。個人的に非常に思い入れの強いこの会場でまたTHE BAWDIESのライブが見れるというのも実に感慨深いところである。
そんなLIQUIDROOMは先月来た時にはまだ存在していた、足元の立ち位置マークすらも消えて完全なるフルキャパでのスタンディング制に戻っている。それができるようになったというのは我々もそうだが、ステージに立つ出演者たちもきっと嬉しいはずだが、どこでも好きな位置に立っていいというライブハウスに来るのはいつ以来だろうか。きっと2020年の3月以来なんじゃないだろうか。
そんな客席が18時を少し過ぎた頃に暗転すると、おなじみのウィルソン・ピケット「ダンス天国」のSEでメンバーがステージに登場。鮮やかな金髪のMARCY(ドラム)がすぐにセットに座る中、TAXMAN(ギター&ボーカル)、JIM(ギター)、そして髪が少しサッパリした感じがするROY(ボーカル&ベース)がリズムに合わせて手拍子をすると観客も手拍子をし、それをJIMが「もっともっと!」という感じで早くも煽りまくり、最後には曲に合わせてROYが強烈なシャウトをかます。この時点でこの日もメンバーがノリにノリまくっているというのがわかる。ちなみにメンバーのスーツは今回のEPのアー写と同じグレーっぽいもの。
そうして登場したメンバーが楽器を手にすると、MARCYがスティックを振り下ろした瞬間のドラムの音の大きさに合わせてJIMと TAXMANのギター、ROYのベースの音が本当に驚くくらいの爆音であり、かつその爆音の荒々しさにビックリする。これまでに毎回ツアーに参加し、数え切れないくらいにライブを見てきたはずなのにこうして一音目を鳴らした瞬間に衝撃を喰らうというのは、それが今の新しいTHE BAWDIESの鳴らす音であるからだ。
その音によって鳴らされるのはやはり「FREAKS IN THE GARAGE」の1曲目である「ROCKIN' FROM THE GRAVE」であり、もうそのサウンドは完全なるガレージロックでありガレージパンク。もはや溢れる衝動がそのまま音になっているとしか言いようがないくらいの荒々しさである。JIMは早くもステージ上で飛び跳ねながらギターを弾きまくっているが、すでにインディーズデビューから15年以上も経っているベテランバンドとは思えないくらいの衝動の炸裂っぷり。バンドを結成してすぐの新人がやるようなことを、今のTHE BAWDIESの技術と知識を持ちながらやっている。それができるバンドはそうそういないというか、こんなに無邪気に、あえて初期衝動に立ち返る的な計算的なものがなくそれができるというのはTHE BAWDIESくらいじゃないなんじゃないかとも思う。
「Go, zombie, go, go!」
というコーラス部分で観客が腕を振り上げるというのも含めてこれからのライブの定番になっていくだろうと思う。
するとROYはSEの「ダンス天国」のリプライズであるかのように
「1-2-3
1-2-3」
と思いっきり叫ぶ。それは実に久しぶりにライブで聴く感じがする「1-2-3」が始まる合図であるのだが、この曲のサウンドまでもが今までよりもはるかにガレージロック化している。どうやら「FREAKS IN THE GARAGE」はその収録曲だけではなくて今のTHE BAWDIESが鳴らす音そのものを変えたようだということがこの時点でわかる。曲中のMARCYのドラムロールも今まで以上の迫力に満ち溢れ、それがROYの声によるガレージロックさを感じさせるシャウトをさらに引き出している。
さらには
「お祭りですんで!打ち上げ花火のように飛び跳ねましょう!」
と言って早くもここで放たれた「YOU GOTTA DANCE」でJIMもTAXMANも飛び跳ねまくりながらギターを弾くと、もちろん我々観客も飛び跳ねまくる。ライブハウスの中は空調が効いているとはいえ、それでもやはりこの時点ですでに暑さを感じざるを得ないし、JIMは早くも長い髪から汗がしたたり落ちている。その様こそがガレージロックバンドである。
ROYが挨拶がてらにEPの告知をすると、言ってもそのEPは4曲しか収録されていないだけに、ここからいろんな曲を演奏していくということを口にしてから実際に演奏されたのは「BLAST OFF!」収録の「OH NO!」であり、曲中の「Hey!」のコーラスをJIMが声は出せないのをわかっていても客席を煽りながらするという、今までのライブと全く変わることのないやり方で熱量を感じさせてくれるというのが実に楽しい。
さらには個人的に今回のEPのサウンドに良く似合うだろうと思っていた「A NEW DAY IS COMIN'」の燃え盛るようなロックンロールサウンドとROYのシャウトはやはりガレージロックサウンドに引っ張られることによってさらに強力になっている。間奏でのMARCYの力強い連打によるソロを聴いていると、このサウンドの変化はROYだけではなくメンバー全員が望んだ方向へ振り切れたんだなということがよくわかる。だからこそ我々もそのメンバーの想いや鳴らす音に応えるかのように高く腕を上げて手拍子を鳴らすのである。
しかしそんなガレージサウンドに振り切れた「FREAKS IN THE GARAGE」の中でもそれだけにとどまらないTHE BAWDIESらしいキャッチーさを感じさせてくれる曲が「PINCH ME」であるのだが、この曲での全員のコーラスが重なり、それが曲のメロディをよりしっかりと伝えるものになっているというのは「BLAST OFF!」の曲たちで改めて獲得したものがそのまま繋がっていると言っていいだろう。今までのものを全て投げ出してガレージサウンド化したのではなくて、今までにTHE BAWDIESが培ってきたものと地続きになった上でのガレージサウンド。だから荒々しい衝動だけではない部分もしっかりこうして曲に収められているというのがよくわかる曲である。
そんな中で
「ありがとう!」
と挨拶したのはTAXMANであるが、
「その「ありがとう!」の言い方はボーカリストの言い方だからな」
とROYに突っ込まれながらも、自身がボーカリストとして歌うのはメロディアスな始まりからサビで一気に爆発するというガレージさをも含んでいる「MY LITTLE JOE」であり、やはりROYとは違う声質を持ったボーカリストでありながらもそこに宿す熱量はROYのものと変わることはない。TAXMANボーカル曲ではいつも主役を取られて拗ねるようになるROYもなんやかんやでTAXMANのボーカルを引き立てるようなコーラスをしているというのがバンドへの愛を感じる部分である。
そんなTAXMANからROYへとボーカルのバトンが戻ると、ROYが邦題がない曲に自ら
「コンプレックスをぶっ飛ばせ」
という邦題を勝手につけて演奏されたのはMicky Hawksの完全ガレージカバーとなる「BIP BOP BOOM」で、もはやリズムが合っているのかすらわからないレベルの爆音っぷりであるが、カバー曲にもこんなに凄まじい荒々しさを宿すことができるというのは原曲への愛情あってこそだ。というか愛情がなければこうした決して有名ではないような曲をわざわざ取り上げてカバーしたりしないはずであるし、こうしたTHE BAWDIESのカバーはどんな曲でも完全にTHE BAWDIESのものになるため、果たして原曲がどんな曲なのかを掘ってみたくなる。それはTHE BAWDIESの思う壺にハマっているということだろうけれど。
タイトルフレーズの歌唱部分で細かく速く手拍子を打つのが実に疲れるのは「DO IT」であるが、ROYが
「もっとその手を高く挙げて見せて欲しい!」
と言うと疲れすらふっ飛ぶくらいに高くその手を掲げて手拍子をしたくなるから不思議である。
その「DO IT」も「BLAST OFF!」の収録曲であるが、TAXMANがエレアコギターに持ち替えて、
「こういう状況ですけど、光の方に向かって、希望を持って進んでいきましょう。そんな光を感じさせるような曲です」
と、いつものお調子者的な姿とは全く違う、真摯に音楽で我々の明日以降の未来に光を照らすようにメンバー4人のコーラスが重なる「END OF THE SUMMER」は「BLAST OFF!」を象徴する曲だ。昨年に日比谷野音でこの曲を演奏した時の光景と美しさは今でも忘れられないけれど、「DO IT」も含めてMARCYまで加わったメンバーのゴスペル的と言っていいようなコーラスの強さはやはりこれからガレージサウンドを突き詰める方向性に行ったとしてもバンドの大きな武器になっていくのは間違いない。願わくばまだこの日は夏の始まりと言える時期なだけに、8月後半か9月あたりの野外フェスでこの曲を演奏するのを観たいと思った。あまり大きなフェスからはもうお声がかからなくなってきてしまったけれど、SWEET LOVE SHOWERや中津川THE SOLAR BUDOKANあたりの最高なロケーションのフェスにまた戻ってきてこの曲を演奏してくれないだろうか。
そんな感動的な「END OF THE SUMMER」の後にROYが徐にベースを置くと、黒いサングラスをかけて客席の方を向き、
「そうです、私がMr.パニックです」
と自己紹介する。この時点で今回の劇場がMr.マリックのハンドパワーを模したものであることがわかるのだが、
JIM=助手兼サクラ
TAXMAN=ファンだけどやらせを看破ってツッコむ
MARCY=Mr.パニックの信者
という配役で、Mr.マリックの関係者が見たら怒られそうな内容になっているのだが、全員がセリフを完璧に覚えているあたり、ツアーを回ってきたことで演奏だけでなくこの劇場のクオリティも練り上げられてきたようだ。もはやバンド兼劇団みたいになりつつあるけれど。
その着地点はパンの絵とソーセージの絵をくしゃくしゃにして箱の中に入れるとホットドッグの絵になるというもので、
「HOT DOG、召し上がれ!」
と言うとROYがサングラスを吹っ飛ばしながら「HOT DOG」の演奏が始まり、この曲もさらにガレージさを増して荒々しい演奏になったことによってメンバー(特に激しいアクションでギターを弾きまくるJIM)のプレイも観客のリアクションも今まで以上にさらなる熱狂を描き出している。そういう意味では劇場はもはやこの曲をさらに輝かせるための装置と言えるかもしれない。なぜ今になってMr.マリックのネタをやろうとしたのかは全くわからないけれど。
そんなTAXMANも後のMCで
「「END OF THE SUMMER」からの「HOT DOG」の落差が凄い(笑)」
と言っていた流れの後に演奏された「SKIPPIN' STONES」ではリズミカルなボーカルに合わせて観客が指で数字を指し示したり、サビではコーラスフレーズに合わせて腕を振ったりする。それはコロナ禍になる前はメンバーと声を合わせて楽しむことが当たり前だったTHE BAWDIESのライブの今だからこその楽しみ方であるが、溜めた後での最後のサビで急激にテンポが速くなる部分の音の速さだけではない力強さすらも明らかに進化しているのはガレージサウンドに振り切れた今だからだろう。
ここで再びTAXMANがメインボーカルを務めるのは、ROYがベーシストに徹することによってベースソロも披露する「SO LONG SO LONG」。ツアー中にはこのTAXMANボーカル曲は日によって変わっているとのことだが、ツアーを巡ってきた結果として、キャッチーかつポップな曲もあるTAXMANメインボーカル曲がこの日の2曲はアッパーなものになっているのもまたツアーによってより衝動的に練り上げられたガレージサウンドに呼ばれたものと言えるだろうか。当然ながら他の日に演奏されたTAXMANメインボーカル曲も聴きたくなってしまうけれど。
そうしてベースソロを披露したROYのベースのイントロから始まるのは、この日トップクラスにガレージ的なサウンドとは距離があるラブソングである「I'M IN LOVE WITH YOU」であり、ROYの「Uh」「Ah」というブレスに合わせてJIMはギターを掲げ、観客は腕を上げる。そのとびっきりスウィートなメロディも相まって、この曲をこうしてライブで聴いている時は心から幸せだと思える。THE BAWDIESのメンバーの温かさや優しさが音になって我々に届いているような。だから聴いていて笑顔にならざるを得ないし、演奏しているメンバーの表情もやはり笑顔だ。
するとROYはこうしたコロナ禍の時期であるだけに、バンドによってはソロ活動をする人もいるということを口にし、その標的になったのはまさかの
「稲川淳二さんみたいな怪談士になりたい」
とスタッフに漏らしたというMARCYで、 ROYは勝手にその際のMARCYの怪談ネームを「闇口魔死」と命名するのであるが、なぜか中学生時代にラジオの投稿コーナーにハガキを送りまくっていた頃のラジオネームが「フナヤ魔人」だったというTAXMANがとんでもない流れ弾を被弾することになり、自分がROYにいじられると思っていたMARCYも手を叩きながら爆笑している。TAXMANいわく、
「中学生の頃だったから、リアル厨二病だった(笑)」
という。ラジオネームが明かされただけに、フナヤ魔人がどんな投稿をしていたのかが明かされる日をこれから楽しみに待ちたいと思う。
そんなTAXMANいじりの後にラストスパートとばかりに再び思いっきり爆音でイントロを鳴らすと、冒頭同様にMARCYのドラムの音の凄まじさに驚かされる。もしかしたらこうしてガレージサウンドへと向かったことによって最もプレイヤーとして覚醒したのはこの男なのかもしれない。それくらいにMARCYのドラムがこれまで以上に爆発しているし、バンドの土台を支えるドラムがそうなったことがバンド全体の変化につながっていると言える。
そんな爆音のイントロに続くようにして演奏されたのは、コロナ禍になる前は観客の大合唱がサビのコーラスで驚いていた「LET'S GO BACK」で、ROYはこの状況であるだけにまだ心の中で歌って欲しいと訴えかけていたことにより、その分メンバーのコーラスがバンドの鳴らす爆音に負けないくらいに響き、そのコーラスに合わせて観客は腕を高く挙げる。
THE BAWDIESのライブではおなじみの、TAXMANサイドにはファンキーな出で立ちのQ太郎という様々なバンドやアーティストも担当しているローディーが控えている。いわばTHE BAWDIESのライブをずっと支えてきた裏方スタッフの1人だ。そんなQ太郎がその客席の腕が上がる姿を見て感慨深そうに「うんうん」と頷くような仕草を見せている。ライブがなくなった時は当然こうしたスタッフの仕事もなくなってしまっていたわけだし、客席の楽しみ方の変化をメンバーたちと同じように見てきたのもまたこうしたスタッフたちであるだけに、この客席の光景を見て少しは「見たかった景色が戻ってきたな」と感じてくれていたんだろうか。なんだか客席の光景を含めたそうした姿に少し感動してしまっていた。メンバーと観客だけではなくて、こうした裏方と呼ばれる人たちも一緒に乗り越えてきて、これから先も乗り越えようとしているんだなって。
そしてお祭りと言えば打ち上げ花火ということで、ライブの最後を担うことも多いキラーチューンの「JUST BE COOL」がここで演奏されて観客も飛び跳ねまくると、最後のサビ前には思いっきりタメてからより一気に飛び上がりまくる。サビのコーラスフレーズでも観客が手を振るだけではなくて、早く一緒に歌えるような状況になって欲しいと心から思うのは、この曲がそうしたバンドと観客の力が一体となってより素晴らしい景色を見せてくれた瞬間を脳がしっかり記憶しているからだ。
そうして飛び跳ねまくって熱くなりまくった場内のステージ中央にROYだけでなくJIMとTAXMANも集まって3人が向かい合う。その姿は「ここで「I BEG YOU」か!?」とも思ったのであるが、JIMのギターがラウドな歪みを掻き鳴らし、そこにTAXMANとROYも音を重ねていくEPのリード曲「STAND!」。ROYのシャウトしまくりのボーカルもガレージサウンドかくあるべきというものを我々に示してくれているかのよう。その衝動と熱量がこれからもバンドがこうして歩き続けていくことを証明しながら、我々が歩いていくための力を与えてくれているかのようだ。同じガレージサウンドであっても「ROCKIN' FROM THE GRAVE」とも「BIP BOP BOOM」とも全く違う曲になっているあたりが、上っ面の部分を取り入れるのではなくて、この音楽を愛し続けてきたTHE BAWDIESだからこそである。
そんなライブの最後を締める「BLAST OFF!」のリード曲だった「T.Y.I.A.」もまた凄まじいグルーヴを獲得しており、より獰猛かつ前のめりなサウンドになっている。それは間違いなく今のTHE BAWDIESのモードが反映されているからであり、楽器の音だけではなくてメンバーのコーラスからもそれが確かに感じられるようになっていた。恐ろしいくらいにあっという間に駆け抜けていくようなライブだったからこそ、耳に爆音の余韻が残り続けていた。
するとアンコールではジャケットを脱いで白シャツ姿になったROYが1人で先に登場し、本編のMCでは伝え切れなかったこととして、何故今こうしてガレージロックへと振り切れたのかということについて改めて説明する。
「僕たちが学生の頃はクラブミュージックが流行っていて。そんな時にたまたまレコード店に行ったら、THE SONICSの曲がかかっていて。なんだこれは!?と。この音楽が広がったら絶対に世の中が変わるぞと。それからしばらくずっと海外のチャートをチェックしていたんですけど、全然THE SONICSの曲が流れないんですね。それもそのはずで、その時にすでにTHE SONICSの音楽が40年前のものだとは思ってなかったんですね。メンバーがまだやってるかもわからなかったから、このTHE SONICSの音源をみんなに配って回りたいと。
でも昔の音楽ってやっぱり音圧が足りなかったりして、スカスカじゃんって思われたりもするんですね。今は音圧とかを全部機械で作って入れたりできますけど、まだ録音技術が発達していなかった頃なので。
だったら我々が今のロックンロールとしてそのTHE SONICSが鳴らしていたような音楽を鳴らせばいいじゃないかと。もちろんそこにはいろんな音楽の要素も入ってますと。
でも今の音楽は完成度が高い、キッチリ作り込まれたものが主流です。ガレージロックっていうのはそれとは正反対の荒々しい、未完成と言ってもいいものです。でもそれを我々がやっていくぞと。きっと我々が受けた衝撃を受ける人がいるぞと思って、こうして「FREAKS IN THE GARAGE」を作ったわけです。どれだけはみ出せるかっていうのがガレージロックだと我々は思っております」
と長々とした、でも思いを込めるだけ込めたMCで伝えるのであるが、確かに自分も完成度が高い、キッチリとした音楽も聴くけれども、こうしてライブを観に行きまくるような生活をしていると、キッチリし過ぎている音楽はライブで見ても音源そのままみたいに感じることが多かったりする。
でもライブを見に来たからには、音源通りのものを聴きたいわけじゃない。音源通りのものが聴きたければ音源を聴いていればいいわけで、そうじゃなくてライブでしか見れないもの、音源を超えるものを見たいからこそこうしてライブに通い詰めている。その音源以上のものを見せてくれるバンドがTHE BAWDIESだと思っているし、音源以上に荒々しい、爆音のガレージロックを聴かせてくれたのがこの日のライブだった。つまりはROYの言葉はそのまま自分がライブに来る理由でもあり、メンバーがTHE SONICSから受けた衝撃を我々は今間違いなくTHE BAWDIESから受けている。それはこのバンドがやろうとしたことが間違っていなかったからであり、今このバンドが売れるためだとかじゃなくて、本当に自分たちのやりたいことをやっているということでもある。それこそがロックバンドであると自分は思っている。
そんなROYのMCの後にメンバーがやはりジャケットを脱いでシャツ姿で出てくると、これまでにも何度も開陳されてきた、学生時代の「JIMが電車の中でバスケ部の顧問に目潰しして控えにされた事件」も話されるのは、それもまたメンバーが共有してきた大事な忘れられない記憶だからであろう。
すると
「大好き過ぎて敢えて今までやってこなかった」
というTHE SONICSのカバーに今こそ挑むことができるのも今回ガレージロックに真っ向から向き合う作品を作ったからであろう。そのTHE SONICSの「Cinderella」のカバーは明らかに原曲をさらに上回る荒々しさであり、それは今の時代を生きる、転がり続けるロックンロールバンドだからこそである。THE SONICSもまだ活動しているだけに、また近い将来にTHE BAWDIESとの2マンを見れる日が来たらなと今だからこそ改めて思う。
そんなライブの最後に演奏されたのは原点に戻るという意味を込めながらも、原点の曲が今のTHE BAWDIESのものとしてさらに進化していることを示すような、ROY、JIM、TAXMANの3人が楽器のネックを合わせるようにして演奏された「I BEG YOU」。THE BAWDIESの始まりを告げたこの曲が、また新しいTHE BAWDIESの始まりとして鳴らされている。その姿を見ていて、これからも何があってもTHE BAWDIESは転がり続けていくんだなと改めて思えるとともに、どれだけ爆音に、荒々しくなってもTHE BAWDIESのライブが心から楽しくて、我々全員が笑顔になれるということが変わることがないということを証明した一夜だった。
しかしこれでは終わらないというのは、恒例の大将ことTAXMANが法被を着て「わっしょい」をするからなのであるが、何とここでMARCYが前に出てきて、
「よく「元気を貰いました」みたいなことを言ってもらえるんですけど、元気をもらえるのは僕らの方です。本当にいつもありがとうございます」
と観客に素直に感謝を告げるという感動的な場面までも見れるのであるが、ROYが茶々を入れまくって台無しになってしまうというのもまたTHE BAWDIESらしさである。
そんなMARCYに向かって「早くわっしょいやらせろ」とばかりにTAXMANはスライディングを仕掛けるのであるが、その際に足を強打してしまい、しかもマイクスタンドまで倒してしまう。起き上がった後もかなり足が痛そうで、満身創痍の状態でも「わっしょい」はやり切るのであるが、去り際に足を引きずっていたのが心配になってしまった。必要のないことをしたことによる自業自得とはいえ。
2009年の5月6日。このリキッドルームで開催された「KINGS」というイベントで初めてTHE BAWDIESのライブを観た。「THIS IS MY STORY」リリース直後、観客のほとんどはthe telephonesのファンという状況の中で「何だこのバンド!?」と思うくらい衝撃的なロックンロールライブを、ただひたすらに自分たちの鳴らす音だけで繰り広げていた。
あれから13年も経った。横浜アリーナや日本武道館のステージに立った姿も見てきた。もう数え切れないくらいの回数のライブを観てきた。それでもまたこのリキッドルームで見たTHE BAWDIESのライブに衝撃を受けている。それは今でも、いやまた新しいロックンロールの魔法にTHE BAWDIESがかかっているということだ。それはきっとこれから先も消えることは決してない。そんな思いを確かにさせた、コロナ禍以降の感傷を突き抜けるかのようなツアーだった。
1.ROCKIN' FROM THE GRAVE
2.1-2-3
3.YOU GOTTA DANCE
4.OH NO!
5.A NEW DAY IS COMIN'
6.PINCH ME
7.MY LITTLE JOE
8.BIP BOP BOOM
9.DO IT
10.END OF THE SUMMER
11.HOT DOG
12.SKIPPIN' STONES
13.SO LONG SO LONG
14.I'M IN LOVE WITH YOU
15.LET'S GO BACK
16.JUST BE COOL
17.STAND!
18.T.Y.I.A.
encore
19.Cinderella (THE SONICS)
20.I BEG YOU
その「BLAST OFF!」はバンドのサウンドの広がりを感じさせるアルバムだったけれど、先月にリリースされた新作EP「FREAKS IN THE GARAGE」はここに来てのガレージロック回帰作とあって、果たしてライブはどんなモードになっているのか。そのリリースツアーのセミファイナルとなる東京は恵比寿LIQUIDROOMでの2daysで、この日が2日目。個人的に非常に思い入れの強いこの会場でまたTHE BAWDIESのライブが見れるというのも実に感慨深いところである。
そんなLIQUIDROOMは先月来た時にはまだ存在していた、足元の立ち位置マークすらも消えて完全なるフルキャパでのスタンディング制に戻っている。それができるようになったというのは我々もそうだが、ステージに立つ出演者たちもきっと嬉しいはずだが、どこでも好きな位置に立っていいというライブハウスに来るのはいつ以来だろうか。きっと2020年の3月以来なんじゃないだろうか。
そんな客席が18時を少し過ぎた頃に暗転すると、おなじみのウィルソン・ピケット「ダンス天国」のSEでメンバーがステージに登場。鮮やかな金髪のMARCY(ドラム)がすぐにセットに座る中、TAXMAN(ギター&ボーカル)、JIM(ギター)、そして髪が少しサッパリした感じがするROY(ボーカル&ベース)がリズムに合わせて手拍子をすると観客も手拍子をし、それをJIMが「もっともっと!」という感じで早くも煽りまくり、最後には曲に合わせてROYが強烈なシャウトをかます。この時点でこの日もメンバーがノリにノリまくっているというのがわかる。ちなみにメンバーのスーツは今回のEPのアー写と同じグレーっぽいもの。
そうして登場したメンバーが楽器を手にすると、MARCYがスティックを振り下ろした瞬間のドラムの音の大きさに合わせてJIMと TAXMANのギター、ROYのベースの音が本当に驚くくらいの爆音であり、かつその爆音の荒々しさにビックリする。これまでに毎回ツアーに参加し、数え切れないくらいにライブを見てきたはずなのにこうして一音目を鳴らした瞬間に衝撃を喰らうというのは、それが今の新しいTHE BAWDIESの鳴らす音であるからだ。
その音によって鳴らされるのはやはり「FREAKS IN THE GARAGE」の1曲目である「ROCKIN' FROM THE GRAVE」であり、もうそのサウンドは完全なるガレージロックでありガレージパンク。もはや溢れる衝動がそのまま音になっているとしか言いようがないくらいの荒々しさである。JIMは早くもステージ上で飛び跳ねながらギターを弾きまくっているが、すでにインディーズデビューから15年以上も経っているベテランバンドとは思えないくらいの衝動の炸裂っぷり。バンドを結成してすぐの新人がやるようなことを、今のTHE BAWDIESの技術と知識を持ちながらやっている。それができるバンドはそうそういないというか、こんなに無邪気に、あえて初期衝動に立ち返る的な計算的なものがなくそれができるというのはTHE BAWDIESくらいじゃないなんじゃないかとも思う。
「Go, zombie, go, go!」
というコーラス部分で観客が腕を振り上げるというのも含めてこれからのライブの定番になっていくだろうと思う。
するとROYはSEの「ダンス天国」のリプライズであるかのように
「1-2-3
1-2-3」
と思いっきり叫ぶ。それは実に久しぶりにライブで聴く感じがする「1-2-3」が始まる合図であるのだが、この曲のサウンドまでもが今までよりもはるかにガレージロック化している。どうやら「FREAKS IN THE GARAGE」はその収録曲だけではなくて今のTHE BAWDIESが鳴らす音そのものを変えたようだということがこの時点でわかる。曲中のMARCYのドラムロールも今まで以上の迫力に満ち溢れ、それがROYの声によるガレージロックさを感じさせるシャウトをさらに引き出している。
さらには
「お祭りですんで!打ち上げ花火のように飛び跳ねましょう!」
と言って早くもここで放たれた「YOU GOTTA DANCE」でJIMもTAXMANも飛び跳ねまくりながらギターを弾くと、もちろん我々観客も飛び跳ねまくる。ライブハウスの中は空調が効いているとはいえ、それでもやはりこの時点ですでに暑さを感じざるを得ないし、JIMは早くも長い髪から汗がしたたり落ちている。その様こそがガレージロックバンドである。
ROYが挨拶がてらにEPの告知をすると、言ってもそのEPは4曲しか収録されていないだけに、ここからいろんな曲を演奏していくということを口にしてから実際に演奏されたのは「BLAST OFF!」収録の「OH NO!」であり、曲中の「Hey!」のコーラスをJIMが声は出せないのをわかっていても客席を煽りながらするという、今までのライブと全く変わることのないやり方で熱量を感じさせてくれるというのが実に楽しい。
さらには個人的に今回のEPのサウンドに良く似合うだろうと思っていた「A NEW DAY IS COMIN'」の燃え盛るようなロックンロールサウンドとROYのシャウトはやはりガレージロックサウンドに引っ張られることによってさらに強力になっている。間奏でのMARCYの力強い連打によるソロを聴いていると、このサウンドの変化はROYだけではなくメンバー全員が望んだ方向へ振り切れたんだなということがよくわかる。だからこそ我々もそのメンバーの想いや鳴らす音に応えるかのように高く腕を上げて手拍子を鳴らすのである。
しかしそんなガレージサウンドに振り切れた「FREAKS IN THE GARAGE」の中でもそれだけにとどまらないTHE BAWDIESらしいキャッチーさを感じさせてくれる曲が「PINCH ME」であるのだが、この曲での全員のコーラスが重なり、それが曲のメロディをよりしっかりと伝えるものになっているというのは「BLAST OFF!」の曲たちで改めて獲得したものがそのまま繋がっていると言っていいだろう。今までのものを全て投げ出してガレージサウンド化したのではなくて、今までにTHE BAWDIESが培ってきたものと地続きになった上でのガレージサウンド。だから荒々しい衝動だけではない部分もしっかりこうして曲に収められているというのがよくわかる曲である。
そんな中で
「ありがとう!」
と挨拶したのはTAXMANであるが、
「その「ありがとう!」の言い方はボーカリストの言い方だからな」
とROYに突っ込まれながらも、自身がボーカリストとして歌うのはメロディアスな始まりからサビで一気に爆発するというガレージさをも含んでいる「MY LITTLE JOE」であり、やはりROYとは違う声質を持ったボーカリストでありながらもそこに宿す熱量はROYのものと変わることはない。TAXMANボーカル曲ではいつも主役を取られて拗ねるようになるROYもなんやかんやでTAXMANのボーカルを引き立てるようなコーラスをしているというのがバンドへの愛を感じる部分である。
そんなTAXMANからROYへとボーカルのバトンが戻ると、ROYが邦題がない曲に自ら
「コンプレックスをぶっ飛ばせ」
という邦題を勝手につけて演奏されたのはMicky Hawksの完全ガレージカバーとなる「BIP BOP BOOM」で、もはやリズムが合っているのかすらわからないレベルの爆音っぷりであるが、カバー曲にもこんなに凄まじい荒々しさを宿すことができるというのは原曲への愛情あってこそだ。というか愛情がなければこうした決して有名ではないような曲をわざわざ取り上げてカバーしたりしないはずであるし、こうしたTHE BAWDIESのカバーはどんな曲でも完全にTHE BAWDIESのものになるため、果たして原曲がどんな曲なのかを掘ってみたくなる。それはTHE BAWDIESの思う壺にハマっているということだろうけれど。
タイトルフレーズの歌唱部分で細かく速く手拍子を打つのが実に疲れるのは「DO IT」であるが、ROYが
「もっとその手を高く挙げて見せて欲しい!」
と言うと疲れすらふっ飛ぶくらいに高くその手を掲げて手拍子をしたくなるから不思議である。
その「DO IT」も「BLAST OFF!」の収録曲であるが、TAXMANがエレアコギターに持ち替えて、
「こういう状況ですけど、光の方に向かって、希望を持って進んでいきましょう。そんな光を感じさせるような曲です」
と、いつものお調子者的な姿とは全く違う、真摯に音楽で我々の明日以降の未来に光を照らすようにメンバー4人のコーラスが重なる「END OF THE SUMMER」は「BLAST OFF!」を象徴する曲だ。昨年に日比谷野音でこの曲を演奏した時の光景と美しさは今でも忘れられないけれど、「DO IT」も含めてMARCYまで加わったメンバーのゴスペル的と言っていいようなコーラスの強さはやはりこれからガレージサウンドを突き詰める方向性に行ったとしてもバンドの大きな武器になっていくのは間違いない。願わくばまだこの日は夏の始まりと言える時期なだけに、8月後半か9月あたりの野外フェスでこの曲を演奏するのを観たいと思った。あまり大きなフェスからはもうお声がかからなくなってきてしまったけれど、SWEET LOVE SHOWERや中津川THE SOLAR BUDOKANあたりの最高なロケーションのフェスにまた戻ってきてこの曲を演奏してくれないだろうか。
そんな感動的な「END OF THE SUMMER」の後にROYが徐にベースを置くと、黒いサングラスをかけて客席の方を向き、
「そうです、私がMr.パニックです」
と自己紹介する。この時点で今回の劇場がMr.マリックのハンドパワーを模したものであることがわかるのだが、
JIM=助手兼サクラ
TAXMAN=ファンだけどやらせを看破ってツッコむ
MARCY=Mr.パニックの信者
という配役で、Mr.マリックの関係者が見たら怒られそうな内容になっているのだが、全員がセリフを完璧に覚えているあたり、ツアーを回ってきたことで演奏だけでなくこの劇場のクオリティも練り上げられてきたようだ。もはやバンド兼劇団みたいになりつつあるけれど。
その着地点はパンの絵とソーセージの絵をくしゃくしゃにして箱の中に入れるとホットドッグの絵になるというもので、
「HOT DOG、召し上がれ!」
と言うとROYがサングラスを吹っ飛ばしながら「HOT DOG」の演奏が始まり、この曲もさらにガレージさを増して荒々しい演奏になったことによってメンバー(特に激しいアクションでギターを弾きまくるJIM)のプレイも観客のリアクションも今まで以上にさらなる熱狂を描き出している。そういう意味では劇場はもはやこの曲をさらに輝かせるための装置と言えるかもしれない。なぜ今になってMr.マリックのネタをやろうとしたのかは全くわからないけれど。
そんなTAXMANも後のMCで
「「END OF THE SUMMER」からの「HOT DOG」の落差が凄い(笑)」
と言っていた流れの後に演奏された「SKIPPIN' STONES」ではリズミカルなボーカルに合わせて観客が指で数字を指し示したり、サビではコーラスフレーズに合わせて腕を振ったりする。それはコロナ禍になる前はメンバーと声を合わせて楽しむことが当たり前だったTHE BAWDIESのライブの今だからこその楽しみ方であるが、溜めた後での最後のサビで急激にテンポが速くなる部分の音の速さだけではない力強さすらも明らかに進化しているのはガレージサウンドに振り切れた今だからだろう。
ここで再びTAXMANがメインボーカルを務めるのは、ROYがベーシストに徹することによってベースソロも披露する「SO LONG SO LONG」。ツアー中にはこのTAXMANボーカル曲は日によって変わっているとのことだが、ツアーを巡ってきた結果として、キャッチーかつポップな曲もあるTAXMANメインボーカル曲がこの日の2曲はアッパーなものになっているのもまたツアーによってより衝動的に練り上げられたガレージサウンドに呼ばれたものと言えるだろうか。当然ながら他の日に演奏されたTAXMANメインボーカル曲も聴きたくなってしまうけれど。
そうしてベースソロを披露したROYのベースのイントロから始まるのは、この日トップクラスにガレージ的なサウンドとは距離があるラブソングである「I'M IN LOVE WITH YOU」であり、ROYの「Uh」「Ah」というブレスに合わせてJIMはギターを掲げ、観客は腕を上げる。そのとびっきりスウィートなメロディも相まって、この曲をこうしてライブで聴いている時は心から幸せだと思える。THE BAWDIESのメンバーの温かさや優しさが音になって我々に届いているような。だから聴いていて笑顔にならざるを得ないし、演奏しているメンバーの表情もやはり笑顔だ。
するとROYはこうしたコロナ禍の時期であるだけに、バンドによってはソロ活動をする人もいるということを口にし、その標的になったのはまさかの
「稲川淳二さんみたいな怪談士になりたい」
とスタッフに漏らしたというMARCYで、 ROYは勝手にその際のMARCYの怪談ネームを「闇口魔死」と命名するのであるが、なぜか中学生時代にラジオの投稿コーナーにハガキを送りまくっていた頃のラジオネームが「フナヤ魔人」だったというTAXMANがとんでもない流れ弾を被弾することになり、自分がROYにいじられると思っていたMARCYも手を叩きながら爆笑している。TAXMANいわく、
「中学生の頃だったから、リアル厨二病だった(笑)」
という。ラジオネームが明かされただけに、フナヤ魔人がどんな投稿をしていたのかが明かされる日をこれから楽しみに待ちたいと思う。
そんなTAXMANいじりの後にラストスパートとばかりに再び思いっきり爆音でイントロを鳴らすと、冒頭同様にMARCYのドラムの音の凄まじさに驚かされる。もしかしたらこうしてガレージサウンドへと向かったことによって最もプレイヤーとして覚醒したのはこの男なのかもしれない。それくらいにMARCYのドラムがこれまで以上に爆発しているし、バンドの土台を支えるドラムがそうなったことがバンド全体の変化につながっていると言える。
そんな爆音のイントロに続くようにして演奏されたのは、コロナ禍になる前は観客の大合唱がサビのコーラスで驚いていた「LET'S GO BACK」で、ROYはこの状況であるだけにまだ心の中で歌って欲しいと訴えかけていたことにより、その分メンバーのコーラスがバンドの鳴らす爆音に負けないくらいに響き、そのコーラスに合わせて観客は腕を高く挙げる。
THE BAWDIESのライブではおなじみの、TAXMANサイドにはファンキーな出で立ちのQ太郎という様々なバンドやアーティストも担当しているローディーが控えている。いわばTHE BAWDIESのライブをずっと支えてきた裏方スタッフの1人だ。そんなQ太郎がその客席の腕が上がる姿を見て感慨深そうに「うんうん」と頷くような仕草を見せている。ライブがなくなった時は当然こうしたスタッフの仕事もなくなってしまっていたわけだし、客席の楽しみ方の変化をメンバーたちと同じように見てきたのもまたこうしたスタッフたちであるだけに、この客席の光景を見て少しは「見たかった景色が戻ってきたな」と感じてくれていたんだろうか。なんだか客席の光景を含めたそうした姿に少し感動してしまっていた。メンバーと観客だけではなくて、こうした裏方と呼ばれる人たちも一緒に乗り越えてきて、これから先も乗り越えようとしているんだなって。
そしてお祭りと言えば打ち上げ花火ということで、ライブの最後を担うことも多いキラーチューンの「JUST BE COOL」がここで演奏されて観客も飛び跳ねまくると、最後のサビ前には思いっきりタメてからより一気に飛び上がりまくる。サビのコーラスフレーズでも観客が手を振るだけではなくて、早く一緒に歌えるような状況になって欲しいと心から思うのは、この曲がそうしたバンドと観客の力が一体となってより素晴らしい景色を見せてくれた瞬間を脳がしっかり記憶しているからだ。
そうして飛び跳ねまくって熱くなりまくった場内のステージ中央にROYだけでなくJIMとTAXMANも集まって3人が向かい合う。その姿は「ここで「I BEG YOU」か!?」とも思ったのであるが、JIMのギターがラウドな歪みを掻き鳴らし、そこにTAXMANとROYも音を重ねていくEPのリード曲「STAND!」。ROYのシャウトしまくりのボーカルもガレージサウンドかくあるべきというものを我々に示してくれているかのよう。その衝動と熱量がこれからもバンドがこうして歩き続けていくことを証明しながら、我々が歩いていくための力を与えてくれているかのようだ。同じガレージサウンドであっても「ROCKIN' FROM THE GRAVE」とも「BIP BOP BOOM」とも全く違う曲になっているあたりが、上っ面の部分を取り入れるのではなくて、この音楽を愛し続けてきたTHE BAWDIESだからこそである。
そんなライブの最後を締める「BLAST OFF!」のリード曲だった「T.Y.I.A.」もまた凄まじいグルーヴを獲得しており、より獰猛かつ前のめりなサウンドになっている。それは間違いなく今のTHE BAWDIESのモードが反映されているからであり、楽器の音だけではなくてメンバーのコーラスからもそれが確かに感じられるようになっていた。恐ろしいくらいにあっという間に駆け抜けていくようなライブだったからこそ、耳に爆音の余韻が残り続けていた。
するとアンコールではジャケットを脱いで白シャツ姿になったROYが1人で先に登場し、本編のMCでは伝え切れなかったこととして、何故今こうしてガレージロックへと振り切れたのかということについて改めて説明する。
「僕たちが学生の頃はクラブミュージックが流行っていて。そんな時にたまたまレコード店に行ったら、THE SONICSの曲がかかっていて。なんだこれは!?と。この音楽が広がったら絶対に世の中が変わるぞと。それからしばらくずっと海外のチャートをチェックしていたんですけど、全然THE SONICSの曲が流れないんですね。それもそのはずで、その時にすでにTHE SONICSの音楽が40年前のものだとは思ってなかったんですね。メンバーがまだやってるかもわからなかったから、このTHE SONICSの音源をみんなに配って回りたいと。
でも昔の音楽ってやっぱり音圧が足りなかったりして、スカスカじゃんって思われたりもするんですね。今は音圧とかを全部機械で作って入れたりできますけど、まだ録音技術が発達していなかった頃なので。
だったら我々が今のロックンロールとしてそのTHE SONICSが鳴らしていたような音楽を鳴らせばいいじゃないかと。もちろんそこにはいろんな音楽の要素も入ってますと。
でも今の音楽は完成度が高い、キッチリ作り込まれたものが主流です。ガレージロックっていうのはそれとは正反対の荒々しい、未完成と言ってもいいものです。でもそれを我々がやっていくぞと。きっと我々が受けた衝撃を受ける人がいるぞと思って、こうして「FREAKS IN THE GARAGE」を作ったわけです。どれだけはみ出せるかっていうのがガレージロックだと我々は思っております」
と長々とした、でも思いを込めるだけ込めたMCで伝えるのであるが、確かに自分も完成度が高い、キッチリとした音楽も聴くけれども、こうしてライブを観に行きまくるような生活をしていると、キッチリし過ぎている音楽はライブで見ても音源そのままみたいに感じることが多かったりする。
でもライブを見に来たからには、音源通りのものを聴きたいわけじゃない。音源通りのものが聴きたければ音源を聴いていればいいわけで、そうじゃなくてライブでしか見れないもの、音源を超えるものを見たいからこそこうしてライブに通い詰めている。その音源以上のものを見せてくれるバンドがTHE BAWDIESだと思っているし、音源以上に荒々しい、爆音のガレージロックを聴かせてくれたのがこの日のライブだった。つまりはROYの言葉はそのまま自分がライブに来る理由でもあり、メンバーがTHE SONICSから受けた衝撃を我々は今間違いなくTHE BAWDIESから受けている。それはこのバンドがやろうとしたことが間違っていなかったからであり、今このバンドが売れるためだとかじゃなくて、本当に自分たちのやりたいことをやっているということでもある。それこそがロックバンドであると自分は思っている。
そんなROYのMCの後にメンバーがやはりジャケットを脱いでシャツ姿で出てくると、これまでにも何度も開陳されてきた、学生時代の「JIMが電車の中でバスケ部の顧問に目潰しして控えにされた事件」も話されるのは、それもまたメンバーが共有してきた大事な忘れられない記憶だからであろう。
すると
「大好き過ぎて敢えて今までやってこなかった」
というTHE SONICSのカバーに今こそ挑むことができるのも今回ガレージロックに真っ向から向き合う作品を作ったからであろう。そのTHE SONICSの「Cinderella」のカバーは明らかに原曲をさらに上回る荒々しさであり、それは今の時代を生きる、転がり続けるロックンロールバンドだからこそである。THE SONICSもまだ活動しているだけに、また近い将来にTHE BAWDIESとの2マンを見れる日が来たらなと今だからこそ改めて思う。
そんなライブの最後に演奏されたのは原点に戻るという意味を込めながらも、原点の曲が今のTHE BAWDIESのものとしてさらに進化していることを示すような、ROY、JIM、TAXMANの3人が楽器のネックを合わせるようにして演奏された「I BEG YOU」。THE BAWDIESの始まりを告げたこの曲が、また新しいTHE BAWDIESの始まりとして鳴らされている。その姿を見ていて、これからも何があってもTHE BAWDIESは転がり続けていくんだなと改めて思えるとともに、どれだけ爆音に、荒々しくなってもTHE BAWDIESのライブが心から楽しくて、我々全員が笑顔になれるということが変わることがないということを証明した一夜だった。
しかしこれでは終わらないというのは、恒例の大将ことTAXMANが法被を着て「わっしょい」をするからなのであるが、何とここでMARCYが前に出てきて、
「よく「元気を貰いました」みたいなことを言ってもらえるんですけど、元気をもらえるのは僕らの方です。本当にいつもありがとうございます」
と観客に素直に感謝を告げるという感動的な場面までも見れるのであるが、ROYが茶々を入れまくって台無しになってしまうというのもまたTHE BAWDIESらしさである。
そんなMARCYに向かって「早くわっしょいやらせろ」とばかりにTAXMANはスライディングを仕掛けるのであるが、その際に足を強打してしまい、しかもマイクスタンドまで倒してしまう。起き上がった後もかなり足が痛そうで、満身創痍の状態でも「わっしょい」はやり切るのであるが、去り際に足を引きずっていたのが心配になってしまった。必要のないことをしたことによる自業自得とはいえ。
2009年の5月6日。このリキッドルームで開催された「KINGS」というイベントで初めてTHE BAWDIESのライブを観た。「THIS IS MY STORY」リリース直後、観客のほとんどはthe telephonesのファンという状況の中で「何だこのバンド!?」と思うくらい衝撃的なロックンロールライブを、ただひたすらに自分たちの鳴らす音だけで繰り広げていた。
あれから13年も経った。横浜アリーナや日本武道館のステージに立った姿も見てきた。もう数え切れないくらいの回数のライブを観てきた。それでもまたこのリキッドルームで見たTHE BAWDIESのライブに衝撃を受けている。それは今でも、いやまた新しいロックンロールの魔法にTHE BAWDIESがかかっているということだ。それはきっとこれから先も消えることは決してない。そんな思いを確かにさせた、コロナ禍以降の感傷を突き抜けるかのようなツアーだった。
1.ROCKIN' FROM THE GRAVE
2.1-2-3
3.YOU GOTTA DANCE
4.OH NO!
5.A NEW DAY IS COMIN'
6.PINCH ME
7.MY LITTLE JOE
8.BIP BOP BOOM
9.DO IT
10.END OF THE SUMMER
11.HOT DOG
12.SKIPPIN' STONES
13.SO LONG SO LONG
14.I'M IN LOVE WITH YOU
15.LET'S GO BACK
16.JUST BE COOL
17.STAND!
18.T.Y.I.A.
encore
19.Cinderella (THE SONICS)
20.I BEG YOU
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