SiM PRESENTS DEAD POP FESTiVAL 2022 day1 6/25 @東扇島公園
- 2022/06/27
- 00:08
昨年の関東圏で開催された数少ない夏の野外フェスとなった、今やラウドロックシーン最大の旗振り役であるSiM主催のDEAD POP FESTiVAL。
昨年に続いて今年も川崎の東扇島公園での2daysでの開催となり、川崎競馬場近くのシャトルバス乗り場の列の長さも、会場に並ぶ様々なブースも、ありとあらゆるものを絞りに絞りまくって開催された昨年よりも明らかに戻ってきているという感覚がある。(なんなら昨年は開催前も開催中も「やるな」「やめろ」みたいな声もたくさんあった)
何よりも昨年までと違うのはこの日あたりから30°を超えるくらいの猛暑日での開催となったことだろうか。
しかしながらキレイとは言えない工業地帯の海辺にある埋め立て地である東扇島公園は風が強く、暑さをうまいこと中和してくれるような心地良さである。とはいえラインナップ的にライブが始まれば暑く、熱くならざるを得ないのがこのフェスなのであるが。
開演前にはメインステージであるCAVE STAGEの左右に設置されたスクリーンに出演者紹介と諸注意的な映像が流れるのだが、
「ペットボトルのゴミを投げたやつは殺す!」
など、注意喚起がやたらと物騒なのもこのフェスならではである。
12:00〜 NOISEMAKER [CAVE STAGE]
この日のトップバッター、つまりは今年のこのフェスの口火を切るのは、自身も先月に地元の北海道で主催フェス「KITAKAZE ROCK FES.」を開催しており、このフェスでもメインステージに登場。
先にHIDE(ギター)、YU-KI(ベース)、UTA(ドラム)の3人が上下ともに黒の服を身に纏ってステージに登場すると、そこに黒と白が混ざり合い、茶髪にサングラスという出で立ちだけでカリスマを感じさせるAG(ボーカル)が合流すると、
「NOISEMAKERです!DEAD POPよろしくお願いします!かっとばせ!」
と言って「Something New」からスタートするのだが、ラウドロックシーンに属する立ち位置のバンドの中でも抜群にメロディアスな音楽を作っているバンドであるということがこの時点でわかるし、そこはさすがラウドロックシーンの首魁的な存在であるSiMのフェスらしく、観客もこの時点で飛び跳ねまくる。待ちに待っていた瞬間が今訪れたというような、ステージと客席双方の感情の爆発っぷりである。
そのメロディアスさはAGのなめらかな英語歌詞の歌唱からも感じられる要素であることがわかる「THIS IS ME」、さらにはリフレイン的な歌唱の「SADVENTURES」と、スクリーンに映ると笑顔を浮かべながらドラムを叩くUTAも、曲によってどちらがコーラスをするかを使い分けるHIDEとYU-KIも、歌唱だけではなくてバンドの鳴らしている音の全てがこの規模感にふさわしいバンドであるということを示してくれる。
AGは3年ぶりのこのフェスへの出演であることを話し始め、その間に様々なことがあったことを語るのだが、バンドの曲が球団に公式に起用され、その球団であるオリックス・バファローズの大ファンであるYU-KIが始球式を務めたこともその3年間の中に入っていたのは、それがバンドにとっては本当に大きなことだったからだろう。というか始球式なんてどれだけ有名な人がやろうとしてもなかなか実現することはできない。このバンドはそれをやってのけたのである。
このバンドのラウドロックに止まらないサウンドというのは他の様々なジャンルのサウンドを吸収して自分たちに取り入れているからであり、「SPEAK UP」ではトラップのリズムを取り入れたりする部分があったりと、それによってAGの歌がより生きるようなアレンジになっている。かと思えば真っ向から自分の、自分たちのラウドバンドとしての存在意義に向き合うかのような「NAME」と、ラウドバンドとしての力強さや芯の強さから全くブレることなくバンドとして進化を遂げてきたということが実によくわかる。それこそオリックスが球団として公式に曲を使っている(その曲「CROWN」はこの日は演奏されなかったけど)ことも含めて、そうしたこのバンドのサウンドがラウドロックシーンやそれを好む人以外の場所にも届く可能性を持っているということである。
するとAGは
「生きるということ。行きたい場所に行くということ。会いたい人に会うということ。顔を合わせて直接話すということ」
と自身の、そして誰もが人間として生きていることを感じられる瞬間がどんなものであるかということを口にして、その思いをそのまま曲にしたかのような「To Live Is」を演奏する。それはコロナ禍になる前に生まれたこの曲が、今の世の中になって新たな意味を帯びたということであり、とかく色で例えると黒になりがちなラウドロックのサウンドのイメージを飛び越えるようにカラフルな照明に彩られたこの曲の景色はトップバッターでありながらもどこか早くも一つのクライマックスを描き出していたかのようだった。
2015年に初めてこの東扇島の会場でこのフェスが開催された時にNOISEMAKERは初日のCHAOS STAGEに出演していて、その時に自分は初めてこのバンドのライブを観たのであるが、観客はもちろんAG本人も客席に突入していたあの頃とは全くこのバンドのライブの景色は変わった。
でもそれ以上に、あの時に「この人にはたくさんの人を引っ張っていくカリスマがあるな」と感じたAGのオーラは、自分たちで音楽だけではなくファッションなどのカルチャーも含めた活動をするようになったことによってさらに進化している。それがそのままバンドとしての進化にもつながっている。SiMにもKITAKAZE ROCK FES.もよろしくと言っていたが、そのフェスはいつかこのフェスくらいに大きなものになるのだろうか。
1.Something New
2.THIS IS ME
3.SADVENTURES
4.SPEAK UP
5.NAME
6.To Live Is
12:45〜 ヤングオオハラ [CHAOS STAGE]
本来ならばもっと早くこのフェスに出ていたんだろうなと思う存在である、ヤングオオハラが今年もその名前のとおりにあらゆるサウンド、ジャンルのアーティストがごった煮になったかのようなラインナップのCHAOS STAGEのトップバッター。沖縄のバンドだけにこの日の真夏的な暑さにもピッタリのバンドである。
しかしこのバンドは今年の4月にギターのヨウヘイギマが脱退しており、3人になってからライブを観るのが初めてであるだけに、どんな体制になっているのかと思っていたら、サポートメンバーも入れずにピンク色のロンTを着たハローユキトモ(ボーカル&ギター)、長袖シャツのミツキング(ベース)、このフェスの物販のタンクトップ姿のノリバルカン(ドラム)という、サポートを入れることのないスリーピースバンドとして生まれ変わり、ライブの1曲目としておなじみの
「太陽にタッチして」
というサビのフレーズが焼け付くような太陽の陽射しが厳しいこの日にピッタリな「キラキラ」から、ギターが1本になったことによって、よりソリッドなサウンドになったことを示してくれる。
それは続く「ラブリー」でもそうなのであるが、とはいえやはりまだユキトモはギターを自分だけが弾く、そしてそれと同時に歌うということに完全に慣れていないのか、エフェクターを踏み忘れたりしているのか、ギターの音が鳴らなくなる瞬間も時々あった。とはいえこの編成でやっていくと決めたからにはこれからはそうしたことも減っていくだろうと思う。
「沖縄から来ました、ヤングオオハラです。みんなもっとこっち来いよ!今日は朝から晩まで音楽浴びて、酒飲んだりして楽しもう。そういうノリの良い曲もあるんで」
と挨拶すると、ノリバルカンの軽快な四つ打ちのリズムが否が応でも観客を踊らせる、このバンド最大の代表曲と言える「サマタイ」はどうしたってこの気候で聴くことによって夏の到来を感じずにはいられない。ユキトモのファルセットを駆使したボーカルはギターが一本になって自分がメインギタリストになっても全く力強さを失うことはない。
かと思いきやユキトモはギターを置くと、
「また違ったノリの曲を」
と言って、チルなサウンドと日常的な生活を切り取った、それがどんなに幸せなことであるかを感じさせてくれる、某バンドの大ヒット曲にも似たタイトルであるが意味合いは全く違う「なんでもないような」をユキトモはステージ上を踊るようにしてハンドマイクで歌い、ウワモノのサウンドは同期に任せるのであるが、そうした編成でもロックバンドらしさをひしひしと感じることができるのはミツキングとノリバルカンによるリズムの力強さあってこそだろう。ノリの良い曲も多いためにあまりそうしたところには目が行き届かないけれど、こうした曲をライブで聴くとそこに気付かせてくれる。
「俺は楽しくて元気なものが好きです。一日中音楽聴いて酒飲んでっていうこのフェスに来ているみんなもきっとそういう人だと思う。そんなみんなの前でライブができて幸せでした」
と言って最後に演奏されたのは、
「シンプルでいい 難しいことは
僕らには無駄なことでしょ」
という歌い出しのフレーズと、
「シンプルでいい単純でいい
言葉より僕ら抱きしめあえるのさ」
というフレーズがユキトモのMCと完全に合致している「essential」。それはそのまま、こうしてギター1本のシンプルなスリーピースギターロックバンドに転生しても、このバンドにとって大事なことは変わることがないということを示しているかのようだった。
2019年に新人としてあらゆるフェスに出演しまくった時からもう3年。コロナ禍の期間はこのバンドを新人から若手へと変えてしまったけれど、そんな1番ライブをやるべき期間にライブが出来なかったというのはバンドとしても忸怩たる思いだろうし、さらにはメンバー脱退もあり、このバンドは終わったと思っている人もいるかもしれない。
でも3人になって初めて観たこのバンドのライブは、まだまだヤングオオハラは終わっていない、むしろここからまた攻め込んでいくという意志と、バンドのライブの良さが全く変わっていないということを証明するものだった。このバンドは終わらなかったけれど、2022年の夏がここから新しく始まったような、そんな感覚すらあった。
1.キラキラ
2.ラブリー
3.サマタイ
4.なんでもないような
5.essential
13:25〜 04 Limited Sazabys [CAVE STAGE]
月初のSATANIC CARNIVALの時もそうだったけれど、自身の主催するYON FESを終えても止まることなくあらゆるフェスやイベントに出まくっているフォーリミ。これからの季節は久しぶりにバンドで体感する夏を満喫するものになっていく。
おなじみの賑やかなオリジナルSEでメンバーがステージに元気良く登場すると、GENの
「DEAD POPいけんのかよ!!」
という声とともに、YON FESでついに解禁された約束の歌「Buster Call」をGENが歌い上げてバンドの音が重なっていく…と思いきや、ライブ定番曲でしっかりとサウンドチェックをしていたにもかかわらず、演奏を一回止めることに。
どうやらKOUHEIが力強くドラムを叩き、バスドラを踏んだ時に機材がズレてしまったらしい。GENはそれをSiMのメンバーのせいにしたり、KOUHEIは
「さっきまさやん(THE ORAL CIGARETTES)のドラムいじってたからバチが当たったのかもしれない(笑)」
と何かと他のバンドのせいにしがちだったのだが、結局メンバーが楽器を手にして音を合わせるところから改めて最初からやり直すことに。なので「またこの曲から始まるライブが見れるとは!」という感動は少し薄れてしまったけれど、やはりこの曲がこうしてまたライブで聴けるようになったことは素直に嬉しいことであるし、そんな曲をやることにした場所(どのライブでもやるわけではないだろうだけに)に居合わせることが出来ているのも嬉しい。
そうしてやり直したことも影響してか、「fiction」の演奏前にはKOUHEIがドラムから身を乗り出すようにしながら中指を立てるという気合いの入りっぷりを見せ、HIROKAZ(ギター)も印象的なギターリフを弾きながら「オイ!オイ!」と観客を煽りまくり、むしろやり直したのはバンド全体の気合いに繋がっているんじゃないかとすら思えてくるくらいだ。
それはYON FES以降のライブでは時折喉の調子が芳しくないというか、明らかに高音を出す(そもそものキーが高いフォーリミの高音が高すぎるということもあるが)のがキツそうな時もあったのだが、そのフォーリミの高音を駆使した曲の最高峰とも言えるパンクサウンドの「fade」をこの日はしっかりと歌いきってみせたあたり、5月後半から今月前半にかけてはたまたま喉の調子が良くなかったと見ていいだろうか。間奏ではメンバーは全く煽っていないにもかかわらず観客が揃ってヘドバンするというのは実にSiMの主催であるこのフェスらしい光景である。
さらにはHIROKAZとRYU-TA(ギター)によるリズミカルなコーラスの「Jumper」でタイトルとおりに観客を飛び跳ねさせまくる。こうしてこの曲がフェスのセトリに残り続けているというのはコロナ禍真っ只中だったリリース時はライブがなかったこともあってあまり想像が出来なかったことである。
「どっからどう見ても光属性の俺たちが闇属性のSiMをやっつけるのを見に来てくれてありがとうございます(笑)
後輩のヤングオオハラから俺たちで、次に名古屋の後輩のサスフォーってこれもう実質YON FESじゃん(笑)」
とSiM主催のフェスを自分たち主催に勝手に変えてしまいながら、こうしてこのフェスに3年ぶりに帰ってきたことによって、去年から続いてきた、繋げてきたこのフェスに光を当てるようにして演奏された「swim」ではRYU-TAが下手の端の方まで行ってギターを弾きながらカメラマンの前で変顔をする中、前方エリアだけではなくて後方エリアまでたくさんの人が腕を交互に伸ばして泳ぐポーズを取る。自分はこのフォーリミの時に初めて前方エリアの中に入ったのだけれど、立ち位置も決まっていないスタンディングでの前方でパンクバンドがライブをやっていてもモッシュみたいになることがないというのは、少しずつ元の形に戻りながらもこのフェスの参加者が決してルールを破らない、SiMの名前を汚すようなことは絶対にしないという強い意志を感じさせてくれる。それこそがこのシーンを守り続けてきたものであると思っている。
さらには曲中のリズムに合わせた手拍子も完璧に決まる「Kitchen」で観客が踊りまくり飛び跳ねまくるのだが、こうした光景とそれを導く曲のサウンドもまたフォーリミの光属性たるポイントだろう。RYU-TAが観客を煽りまくりながらも誰よりも踊るように演奏しているということも含めて。
そうした状態であるだけに、最もモッシュが起きてもおかしくないようなストレートなパンクサウンドの「My HERO」でもそうしたことが起こることはない。それは主催のSiMもそうであるし、こうして今まさにステージに立っているフォーリミの名前や存在も汚すわけにはいかないからである。SATANIC CARNIVALの時にはやや歌うのがキツそうというか、歌いきれていない感じもあったこの曲もこの日のGENは最後まで歌いきっていた。本当に見ているだけで血管が切れそうになるくらいに高いキーの曲だけれど。
するとGENは3年ぶりに出演しているこのフェスもまた自身の主催するYON FESと同様に少しずつライブのあるべき自由さに向かって一歩ずつ前進してきていることに触れ、
「ただ先へ、ただ前へ進め!」
という想いを音に込めるようにして「Feel」を演奏する。GENの口にした言葉を歌詞に持つこの曲もまたコロナ禍になって以降に曲の持つ意味合いが変わった曲だ。自分たちと観客だけではなくて、シーン全体、音楽全体に向けてのものであるかのようなスケールを獲得してきた。それは2020年の秋に愛知の巨大な会場でワンマンをやるなど、フォーリミがコロナ禍になって以降もアリーナクラスでのライブを引き受けるパンクバンドであり続けてきたからである。
そんなライブの最後に
「この曲知ってるやつどんだけいんだよ!」
とGENが叫んでから鳴らされたのは、もちろん誰もがこの曲の存在を知っているであろう「monolith」。RYU-TAはいつものようにGENの歌い出し前に
「かかってこいやー!」
と叫んでいたけれど、それでもやはり自分の位置からは動かない観客の姿がどこか誇らしく思えた。その姿をずっと見てきたから。でもそれももう変わろうとしている。フォーリミがYON FESで「hello」を演奏してささやかな合唱を起こしたように、急には変えられないし、変えても不安になる人もたくさんいる。だから状況を見ながら少しずつ、一歩ずつ。そうして春から繋がってきただけに、YON FESからこのフェスでもう何歩も前進できたような気がしている。本当にあと少しのところまできているような。
GENはMCで2019年にこのフェスに出た時は突発性難聴が1番酷かった時期であり、ライブでもカンで歌っていたくらいに右耳と左耳で聴こえ方が違ってきていて、音楽の神様に嫌われているんじゃないかとさえ思ったという。
そんな苦しい時期を経験したフェスだからこそ、こうしてこの日のこのフェスで「Buster Call」を1曲目に演奏したのは、3年前の自分たちへ向けて、いろんなことがあったけれどこうして今自分たちは復活することができているということを示しているかのようだった。SiMはフォーリミにとってカッコいい先輩だけれど、その存在が作っているフェスだからこそ、フォーリミが証明しなくてはいけないものがある。この日のライブも、他のどこでもない今ここだった。
リハ.knife
リハ.escape
1.Buster Call
2.fiction
3.fade
4.Jumper
5.swim
6.Kitchen
7.My HERO
8.Feel
9.monolith
14:10〜 Suspended 4th [CHAOS STAGE]
4月には名古屋の先輩であるフォーリミのYON FESにも出演し、ようやく全国のあらゆるフェスにお目見えする機会が巡ってきた感もある、Suspended 4th。どこか似合うようなイメージがあったこの東扇島公園のフェスに初出演である。
このバンドはYON FESの後からツアーを回っており、つい先週にツアーファイナルを終えたばかりなのであるが、そのツアーからライブ時の立ち位置を変更しており、グルーヴの要としてセンターに立っていた、髪の一部を緑に染めている出で立ちも派手なHiromu Fukuda(ベース)とフロントマンのKazuki Washiyama(ボーカル&ギター)の立ち位置を入れ替えたことによって、オーソドックスなバンドの立ち位置になったと言える。
そうした新しい形(スケジュールが合わずにツアーは参加出来なかったので、この立ち位置で観るのは初めてである)でステージに立つメンバーは、常にサングラスをかけているDennis Lwabu(ドラム)だけではなく、Fukudaも、そしてあまりそうしたイメージのないSeiya Sawada(ギター)もサングラスをかけており、サングラスをかけていないのはWashiyamaのみ。そのくらいに陽射しが強いということである。
そんな4人が楽器を持つと早速ジャムセッション的な演奏を始め、いったんFukudaのベースのみになると、立ち位置が下手に変わってもその出で立ちと高速プレイによって目立つのは変わらないベースのイントロにSawadaとWashiyamaのギターが絡み合う「ストラトキャスター・シーサイド」から始まり、そのアッパーなダンスロックサウンドによって観客は踊りまくるのであるが、ツアーを終えたばかり&フェス出演で昂っているからか、バンドのリズムがいつも以上に速く感じられるし、何よりもWashiyamaのボーカリストとしての歌唱がまた一段上の段階に登ったなということがわかる。
それは4人の音の重なり合いがバンドとしてのグルーヴになっていくということを表すお手本であるかのように練り上げられていく演奏の「GIANTSTAMP」(フェスで聴くのは久々な気もする)でもそう感じるというか、テンポが速くはない曲であるとよりWashiyamaの歌唱力の向上が顕著に感じられる。随所に
「DEAD POPー!」
と叫んだりと、歌唱力だけではなくてフロントマンとしての責任感やオーラまでもがさらに増しているような感じもあり、つまりはまたこのバンドが進化を果たしているということである。
そのWashiyamaの言葉数の多いボーカルがさらなるグルーヴを生み出していき、Sawadaに合わせて観客も手拍子をする「97.9hz」も定番曲ではあるけれど今のバンドだからこそのグルーヴで鳴らされると、
「コロナがなかったらもっと早く出てただろうけど、今で良かった。今が1番バンドが仕上がってるから。
楽屋にいても爆音が風に乗って聞こえてくるんだけど、俺たちの音もそこまで届けたい。先輩バンドを驚かせてやりたいし、同世代バンドにも…今日同世代っているのか?(笑)」
というWashiyamaの言葉からも自信が伺えるのだが、確かにそのスキルからは考えると意外なくらいに若いバンドであるだけに、同世代というとこの日はいないかもしれない。(ヤングオオハラはさらに年下で、むしろフォーリミやオーラルの方が歳は近い)
そんな先輩バンドたちに、ジャズなどの影響も自分たちのロックに取り入れているバンドであるということを示すかのような「Vanessa」でもそうした多様な要素が全てこのバンドのロックになっているということを、曲中のセッション的な演奏も含めて示すと、「ブレイクアウト・ジャンキーブルースメン」ではSawadaのギターが鋭いカッティングを刻んで一気にアッパーに振り切れていく。もうその演奏のグルーヴの凄まじさはこんなに暑くて動きたくないとすら思うくらいの状況であっても体が勝手に動いてしまうくらいの凄まじさであり、やはりこのバンドがその鳴らしている音だけでその場を掻っ攫ってしまう力を持っていることがよくわかる。曲最後には実はメンバーで1番歌が上手いブルースマンでもあるDennisがソウルフルに
「DEAD POP FESTiVAL〜!」
と歌い上げる。その歌唱がさらにこのフェスと観客のことを熱くしてくれる。
そして持ち時間的にもMCよりも音で示すとばかりにFukudaのベースとWashiyama、Sawadaのギターが濃厚に絡み合うイントロによって始まるのは「INVERSION」であり、曲が進むごとにさらに高まっていくようなグルーヴがここで極まると、コロナ禍になる前には合唱が起きていた、
「Don't lend me bend my fire
Don't lend me bend my feeling」
というフレーズの繰り返しでWashiyamaはマイクスタンドから離れて歌わなかった。YON FESの時は確かこの部分はWashiyamaがちゃんと歌う形だったはず。そのYON FESや自分たちのツアーを経てきて、このフレーズを観客全員が歌える日がもうすぐそこまで来ているということを示しているかのようだった。全く声を出せなくなった我々が今のこのバンドのグルーヴに敵うような声を響かせることができるだろうかとも思うけれど、やはりこのフレーズの後に訪れるサビの爆発力は持ち時間中常に凄まじかったこのバンドの中でも最高の凄まじさ。それはMVのように夜から新たな夜明けを迎えるかのようであり、腕や楽器を掲げながら弾くSawadaのギターはこの日のこのバンドの勝利を確信しているかのようであり、Washiyamaが観客が掲げた拳を見て笑顔になっていたのが、ただでさえ凄まじすぎるこのバンドはこうした景色を見たことによってさらにとんでもないバンドに進化していくんだろうなと思った。
YON FESもそうだったが、このフェスもライブをやりまくって生きているバンド主催のフェスであるだけに、そこに出演しているバンドたちもライブをやりまくって生きているライブアーティストばかりだ。そんな中でもこのバンドのライブはやっぱり飛び抜けているというか、メインステージに出ている、今のシーンを代表する強者たちに全く負けていない。そんな、新たな世界のモンスターたちは来月には京都大作戦にも出演する。そこでも間違いなく爪痕を残すくらいにぶちかましてくれるはずだ。
1.ストラトキャスター・シーサイド
2.GIANTSTAMP
3.97.9hz
4.Vanessa
5.ブレイクアウト・ジャンキーブルースメン
6.INVERSION
14:50〜 THE ORAL CIGARETTES [CAVE STAGE]
以前にもこのフェスには出演しているのであるが、どこか急速にSiMとのバンドとしての距離が近づいてきている感のある、THE ORAL CIGARETTES。GENが言う「闇属性」の意味では確かにSiMと通じるものがあるバンドである。
おなじみの仰々しいSEでメンバーが1人ずつステージに登場すると、最後にステージに現れた山中拓也(ボーカル&ギター)は闇属性バンドらしく黒い服にサングラスという出で立ちであり、楽器を手にするとバンドで合わせるように音を鳴らして恒例の「一本打って!」の口上へ行くのかと思いきや、すぐに音が止まって山中は
「今度は俺たちがトラブルです(笑)
フォーリミが最初からシクってるのを見て「ONAKAMAとして恥ずかしいわ〜」って思ってたのに(笑)」
という、ここでもフォーリミとの連帯感を感じさせるのであるが、このライブの直前にBLUE ENCOUNTの田邊とフォーリミのGENと山中で会っていたということもまたONAKAMAの結束力を感じさせる。まさか互いにいきなりトラブルが起こるとは思っていなかっただろうけれど。
少し時間がかかってしまったもののなんとか復旧すると(ギタートラブル?)、やはりどこかおなじみの「一本打って!」の口上もなんだかいつもよりも速く感じる。ちなみにこの日は
「SiM、DEAD POP FESTiVALに呼んでくれてありがとうの回」
ということで、1曲目からそんなカッコいい先輩であるSiMに自分たちのカッコいいロックサウンドを見せつけるかのように「Red Criminal」からスタートすると、山中はイントロでギターをぶん回すということはしないものの、日中帯であってもステージを照らす曲に合わせた真っ赤な照明が実にカッコいい。
すると鈴木重伸(ギター)の性急なギターがうなりまくる「5150」という、最近はフェスなどではあまりやらない曲が入ってくるあたりはこのフェスならではのロックモードであると言えるのだろうか。鈴木はこんなに暑い中であっても裸足でステージに立っているのが火傷しないか心配になってしまうけれど。山中はこのあたりではやくもサングラスを外している。
雑多なジャンルを取り入れたバンドであるSiMが作ってくれた遊び場だからこそというのを感じさせてくれるのは、METROCKではKamui本人も登場した「ENEMY」であるが、この日はゲストなしということもあって山中がラップも含めた歌唱をし、1人だけ川崎のラッパーのような出で立ちのあきらかにあきら(ベース)はステージ下手の端まで歩いて行ってベースを弾くのであるが、そのあきらのベースと中西雅哉のドラムによる重いビートがヒップホップを取り入れてもオーラルのロックとしての力強さが全く損なわれないということを示してくれる。
「DEAD POPってもっと地獄じゃないんですか?」
と観客を煽りながら、ロックシーンのダークヒーローっぷりを見せつけるような「BLACK MEMORY」ではやはり観客がまだ声を出して歌ったりすることができないだけに、メンバー全員がフルパワーでマイクに向かって声を出しているということがよくわかる。最後のサビ前にあきらと鈴木が楽器を抱えて思いっきりジャンプをすることによって、改めてこのバンドのライブのダイナミズムとカッコよさを存分に感じさせてくれる。
すると山中がハンドマイクで煽るようにして歌うことによって観客も飛び跳ねまくる「カンタンナコト」では鈴木もあきらもお立ち台の上で寝転がるように演奏しているのが力が抜けているような仕草でありながらもむしろ逆に思いっきり力を込めて演奏しているということが見ていてよくわかるのであるが、
「最近のオーラルとSiMとの共通点〜」
と山中が言って演奏されたのはもちろんSiMのMAHを招いての「CATCH ME」で、MAHは自身の指を悪魔のツノのようにしながら登場すると、ステージを歩き回りながらデスボイスも含めた歌唱で、ソリッドかつ疾走感溢れるギターロックと言えるようなこの曲を声だけでラウドロックへと変貌させてしまう。それくらいにMAHのボーカルというのはそれだけで曲を塗り替える力を持っているということがよくわかるのであるが、曲終わりに山中とハグをするようにしてから去っていく姿には今や互いにリスペクトしあっているバンド同士だからこその絆のようなものを感じさせてくれた。
そんな山中は
「俺は今のテレビとかのメディアが推してるようなバンドがロックバンドだとは思えません。こういうライブハウスの匂いがするこのフェスに出ているようなバンドたちこそが本当のロックバンドだと思ってます!だから今日ここに来ている人も間違ってない!」
とこのフェスとそこに関わっている全ての人を肯定して信頼するような言葉から最後に演奏されたのは「狂乱 Hey Kids!!」であり、中西とあきらのまさに狂乱的なビートも、鈴木の複雑なギターフレーズも山中の艶のある、この男のものでしかないようなボーカルも、全てがここにいる人全員が狂乱するキッズであり、その存在を肯定しているかのようだった。この曲でもメンバー全員が務めているコーラスを観客が歌うことができる、バンドと直接音楽と感情のキャッチボールができる日はもうちょっとのところまできている。
山中はよく「最初はSiMに無視されていた」というようなことをMCなどで口にしている。確かにパンクでもなければラウドでもないだけに、サウンドからしたらフォーリミとは違ってなかなか重なるところはなかったのかもしれない。
でもオーラルが展開してきた様々な活動やコラボレーションは確かにSiMと重なる部分があるし、何より今のオーラルのロックシーンをカッコいいロックバンドが好きな人たちみんなで盛り上げていきたいという想いはSiMがずっと抱えてきたものだ。いつの間にかロックシーンきってのダークヒーロー同士は相思相愛の関係になっていたことを確かに感じさせてくれた時間だった。
1.Red Criminal
2.5150
3.ENEMY
4.BLACK MEMORY
5.カンタンナコト
6.CATCH ME w/ MAH (SiM)
7.狂乱 Hey Kids!!
15:35〜 FIVE NEW OLD [CHAOS STAGE]
CHAOS STAGEというこのステージの名前を象徴するかのように、SiMの音楽のイメージからするとこうして出演者に名を連ねているのが不思議なのがR&Bなどの要素が強いバンドであるFIVE NEW OLDである。
とはいえ実は2018年にもこのフェスには出演していることからもSiMとの深い結びつきを感じさせるのだが、この日はサックスのサポートメンバーも加えた5人編成で、伸びた金髪を風に靡かせるHIROSHI(ボーカル)が歌い始めたのは「By Your Side」で、その上品かつオシャレなサウンドが心地よく吹き抜けていく風にそのまま乗っかって我々に届いているかのようだ。
さらには「What's Gonna Be?」と、WATARU(ギター)、SHUN(ベース)の2人によるコーラスがR&Bだけではなくゴスペルなどのブラックミュージックの素養をも感じさせるのであるが、HIROSHIの滑らかな英語歌詞のボーカルは歌唱力自体もそうした音楽をやるべきバンドのボーカルのそれである。
「ここにはジャンルやサウンドで仲間外れにするような人はいないと思います!」
という言葉は自分たちの鳴らしている音楽がこのフェスにおいては異色のものであることを自覚しながらも、そこに集まっている人たちは良い音楽、良いライブであればちゃんと楽しんでくれるミュージックラバーであるという信頼を感じさせる。
音源では踊Foot Worksとコラボしたことによってヒップホップのビートを取り入れながらも、HAYATO(ドラム)による人力のビートの力強さはあくまでもロックバンドのものであり、このバンドがただ単に流行りの心地良い音楽を鳴らしているだけのバンドではないということを示してくれるのであるが、WATARUがキーボード、SHUNがシンセベースという編成となっての「Chemical Heart」では曲中に柄シャツを着たcoldrainのMasatoがいきなりステージに現れるというコラボが展開される。HIROSHIはもちろんのことであるが、こうしたサウンドの曲を歌うことによってやはりMasatoのボーカルも抜群の歌唱力を持っていることを改めて実感させてくれる。何よりもこのバンドが何故このフェスに出演しているのかということを示すような一幕である。
曲が終わるとすぐにMasatoがステージから去っていくと、HIROSHIはcoldrainやSiMとずっと昔からの知り合いであり、一緒にライブをやってきた仲間であるということを語る。そこにはもともとはパンクバンドとしてシーンを駆け抜けていたこのバンドの歴史を感じさせるのであるが、その後に演奏された、WATARUのキーボードのサウンドも活かした「Ghost In My Place」「Don't Be Someone Else」という2曲はそうした下地を持つバンドが、自分たちの持っているものにふさわしい音楽を追求した結果としてこうしたサウンドになっているということを示すかのようだった。
確かにサウンドだけを聴いたら異色かもしれないけれど、ずっと同じライブハウスで音を鳴らし続けてきたという意味においても、このフェスで見るFIVE NEW OLDのライブはただ穏やかな雰囲気を感じさせてくれるだけではない、SiMとの信頼感の強さを感じさせてくれるようなものだったのだ。
1.By Your Side
2.What's Gonna Be?
3.Liberty
4.Chemical Heart w/ Masato (coldrain)
5.Ghost In My Place
6.Don't Be Someone Else
16:15〜 HEY-SMITH [CAVE STAGE]
フォーリミにとってはONAKAMAがあるように、SiMにとってはTRIPLE AXEがある。ということでこの初日には共にそのTRIPLE AXEを形成しているHEY-SMITHが出演。
おなじみのSEが鳴ってメンバーが登場すると、満(サックス)がキレートレモンのようなビン飲料を掲げるというのは先日見たばかりのハルカミライのツアーに招かれた時のクラブチッタでのライブと同様であるが、やはり鮮やかな金髪のかなす(トロンボーン)が元気そうな姿を見せてくれているのはこちらにも元気を与えてくれるのであるが、猪狩秀平(ボーカル&ギター)が
「大阪、HEY-SMITHでーす!」
と挨拶すると、満、かなす、イイカワケン(トランペット)のホーン隊の音が高らかに響き渡る「Living In My Skin」でスタートするというおなじみの展開であるが、さらにそうしたホーン隊のメンバーたち(満はハンドマイクを持ってステージを転がり回りながら歌う)がコーラスを担う「Radio」と、近年のライブ定番曲が続いていくのだが、やはりヘイスミのスカパンクはこうした雲一つないくらいの快晴の空が実によく似合う。YUJI(ベース&ボーカル)は日焼け止めを塗る習慣がないのか、完全に顔が日焼けしているように見える。
するとこの快晴の空がまさにアメリカ西海岸のそれを彷彿とさせるような「California」ではなんと曲中にいきなりステージにまたしてもcoldrainのMasatoが登場し、YUJIのマイクを奪うかのようにしてそのハイトーンボイスでサビを完璧に歌い始める。これは全く打ち合わせなどしていなかったようで、猪狩も歌いながらついつい笑ってしまっていたが、さすがに長年一緒に活動してきて、最近も一緒にツアーを回っていただけあってそれぞれの曲を完璧に歌えるというTRIPLE AXEの結束力の高さを感じさせてくれる瞬間である。
ヘイスミのパンクさのビートを担うTask-n(ドラム)がリズムを刻む上でのMCで猪狩は
「これ打ち合わせなしやで?これこそ音楽やん!ライブやん!
コロナになってから音楽とかライブの形が変わってきてしまったけれど、俺はいつだってどうしようもない、我慢しろって言われていても抑えきれないお前たちの気持ちに向かって歌っている!」
と言ったが、Masatoがこうしてステージに出てきて歌ったのもどうしようもない抑えきれない気持ちが溢れ出した結果としてであろう。
猪狩とYUJIのボーカルが入れ替わりながら絡み合っていく「Be The One」というおなじみの曲から、一気に初期へと時間が巻き戻るようなパンクなサウンドによって観客が飛び跳ね、ヘドバンしまくる「Over」と、持ち時間が短いフェスの中でも多彩な時期、サウンドの曲を組み合わせた選曲を聴かせてくれると、これ以上ないくらいに夏を感じさせてくれるのは猪狩とは違った甘く爽やかな声を持つYUJIがメインボーカルを務める「Summer Breeze」で、それがこれ以上ないくらいに夏の到来を感じさせてくれる。
我々がこうして夏に野外フェスに来るのはエアコンが効いた快適な室内で音楽が聴きたいからとかではなくて、こんな倒れそうなくらいにクソ暑いような夏の空の下で汗をかきながら聴きたい曲があるからであるということを最も感じさせてくれる曲だし、そういう曲を持ったバンドが音を鳴らし続けてくれる限りはきっとこれからもこうした場所がなくなることはない。
とはいえここまでは割と最近のライブではおなじみのフェス的なセトリであるのだが、猪狩は急に
「SiMと俺たちの関係は語り尽くせないくらいに長いから、ここからは出会った当時の1stアルバムと、その前のデモCDに入ってる曲からやるわ!」
と言って「I'M IN DREAM」から「I BELIEVE」「Everlasting」と初期曲を連発するのであるが、こうして今のヘイスミで鳴らされるこの曲たちを聴くと、当時のヘイスミが今よりもストレートなパンクバンドであったということがよくわかる。今のようにホーン隊のサウンドが曲のイメージを決定づけるくらいに前面に出てくるようになったのは今のメンバー、つまりはかなすとイイカワケンの加入によるものが本当に大きかったのだと思える。
しかしそんな中で当時からのメンバーである満がステージ下手のスクリーンが組まれた部分をよじ登るというよくわからないような、でも衝動が溢れかえっていることがよくわかるパフォーマンスを見せるのは、猪狩が
「この曲も当時の抑えきれない気持ちを歌った曲や!」
と言って演奏された「Drug Free Japan」。確かにその抑えきれない気持ちは誰よりもステージにいるメンバーが体現しているのであるが、最後に飛び降りた際は心配になるくらいに高い位置まで満はよじ登っていた。
そんな満が持ち場に戻ってサックスを手にすると、再びホーン隊のサウンドが青空に向かって高らかに響き渡る「We sing our song」であり、すでに1stアルバムの段階でこんなキラーチューンをヘイスミが持っていたということを改めて示してくれるのであるが、そんなライブの最後の曲は、最近のライブでは毎回最後に演奏されている「STOP THE WAR」ではなかった。
それはその曲を歌わなくてもいいような状態に戻ったのではなくて、SiMが主催しているこのフェスだからこそ、これまでに何度もSiMと一緒にやってきたライブでハイライトを生み出してきた「Come back my dog」。そのラウドなサウンドは確かに精神だけではなくて音楽としてもSiMやcoldrainと共振するものであり、ステージ上でのメンバーの暴れっぷりはこの状況が変わったらまた変わってくるんだろうなとも思った。何よりもこの曲のキメに合わせたタイトル曲の歌唱を、ヘイスミのツアーだけではなくてあらゆる場所でのライブで普通にみんなが歌うことができるようになって欲しいと思った。
それはこのフェスじゃなかったら思うこともなかったことであるだけに、やっぱりこのフェスで見るヘイスミのライブはここでしか見れないものだったし、今年の夏はバンド主催のHAZIKETEMAZARE FESをはじめ、去年直前で中止になって悔しさをあらわにしていた京都大作戦など、日本中のあらゆる場所でそれを感じさせてくれるライブを見せてくれるはずだ。
1.Living In My Skin
2.Radio
3.California w/ Masato (coldrain)
4.Be The One
5.Over
6.Summer Breeze
7.I'M IN DREAM
8.I BELIEVE
9.Everlasting
10.Drug Free Japan
11.We sing our song
12.Come back my dog
17:00〜 SHIMA [CHAOS STAGE]
かつて2016年のこのフェスに初出演した時も大きなインパクトを残した、SHIMA。今月はSATANIC CARNIVALにも出演しており、より精力的に様々なフェスに出演するようになってきている。
登場するなりEGACCHO(ボーカル)が、
「外にいる人たちも中に入ってきていいですよー!」
と、前方エリアの枠の外にいる人たちに呼びかけると、もうこの曲を聴いた時点でフェスが終わった後にはラーメンを食べるのが確定する麺讃歌「すすれ -Re麺ber-」でスタートして、そのままアウトロとイントロを繋ぐようにして実に自然に、なんなら同じ曲かと思うくらいに突入した「PARISLOTTE」ではこのバンドの掲げる「ZMS」(ザイマス。ありがとうございますの意)ポーズジャンプを繰り広げるというのはSATANIC CARNIVAL出演時と同じ流れであるが、この日はまさにCHAOSな音楽性のアーティストが多いCHAOS STAGEとなっただけに、ユーモラスな部分はもちろんありながらも、SHIMAの鳴らす音楽が実にストレートなメロコア・パンクサウンドとして聴こえてくる。
それは「FUSUMA」においてもそうなのだが、やはりこのバンドは意外なくらいにと言っては失礼であるが、とかくお笑い芸人のようにも見えるEGACCHOのイメージが強いだけに、ライブを見るとSHINYA SYODAのベースと明生によるドラムのビートがこのパンクサウンドを支えているということがわかるし、歪みだけではないサウンドで曲に変化をつけるYUSUKE HIKIDAのギターもそもそものプレイヤビリティの高さを感じさせてくれる。さすが15年に渡ってライブハウスで生き続けてきたバンドである。
EGACCHO「このフェスの良いところは、空が広い!北九州っていう空が広い田舎から来てるから嬉しいね。あとは向こうに石油備蓄基地が見える!石油備蓄基地が!」
SYODA「石油備蓄基地って言いたいだけやろ!(笑)」
EGACCHO「外にいる人も漫画「BECK」のように中に入ってきていいからね。コユキが歌ってたらいつの間にか客席が満員になってるみたいな感じで(笑)」
とやはり我々を笑わせてくれるEGACCHOの芸人的なMCは健在であるが、バンドは最新アルバム「FREAKS」をリリースしたばかりとあって、ここからはこうした激しいバンドが居並ぶフェスにふさわしい、「モッシュ&ダイブ」をタイトルにした「M.a.D」から新作収録曲も披露されていくのだが、そこにはやはりパンクバンドとしてモッシュやダイブをすることができない今の状況への歯痒さのようなものがこの曲を作らせる原動力になったんじゃないかとも思う。
新作からはEGACCHOのラップ的な歌唱がミクスチャーロック的ですらあるというサウンドの幅の広さを感じさせる「medicine」も演奏されると、
「このフェスに来ると、MAHのコスプレしてる人とかいるじゃん。SiMってめちゃくちゃ愛されてるよね。だってROCK IN JAPAN FES.でROCK IN JAPANのコスプレできないじゃん(笑)
でもSATANIC CARNIVALの時はKen Yokoyamaさんにツイッターのフォロー外されたって言ったけど、SiMのSHOW-HATEにも外されたから、すぐに俺をフォローするように!」
と何故そんなにもフォロー外されるのかと思う自虐的なMCで笑わせると、
「こっちのステージは日陰、向こうのメインステージは日向。いつだって立ってるステージをメインステージにしてやると思ってライブしてるけど、いつかはあっちのステージに立ってみたい。2016年、2019年、そして今年と3回全てこのCHAOS STAGE。それはCAVE STAGEに立つにはまだ何か足りないってことなんだろうけど、SiMに「もっと頑張れ」って言われてるような気がする。じゃなきゃ呼ばれてないだろうし」
と、このステージに出続けていることの悔しさも滲ませながら、そんな思いをも肯定して前向きなものに変えていくかのように「BE ALRIGHT」を演奏するのだが、そこから感じられるのはSHIMAがただ面白いバンドというだけではなくて、自分が好きなヤバTやキュウソネコカミのようなまっすぐな熱い思いを持ったパンクバンドであるということだ。
そんな思いが新作の「MAKE IT MAKE IT」のメッセージにも繋がっていき、そして最後に演奏されたバンド最大の代表曲である「USUAL THINGS」ではではそうしたSHIMAの抱える悔しさが全ててポジティブなパワーを放出しまくるように鳴らされていて、観客が楽しそうに腕を上げて踊っている姿は、2016年に
「SiMの運動会(映像作品収録)に俺も出てるんだけど、俺だけ無名すぎてガチの芸人さんだと思われていた!」
と言って爆笑を巻き起こした時以上に、音楽でSHIMAが確かなインパクトを残した証明であった。
これからも爆発的なヒットやブレイクはしないかもしれない。それでもこうしてライブハウスでパンクバンドとして生き続けているということが、いつかこうしたフェスのメインステージのような場所で実を結んで欲しいバンドだと思っているし、一回ライブを見ればこの楽しさと熱さはきっと伝わると思っている。
1.すすれ -Re麺ber-
2.PARISLOTTE
3.FUSUMA
4.M.a.D
5.medicine
6.BE ALRIGHT
7.MAKE IT MAKE IT
8.USUAL THINGS
17:40〜 10-FEET [CAVE STAGE]
この日の2日前にワンマンツアーのファイナルを迎え、しかも翌週から主催フェスの京都大作戦が始まるということを考えると、もはやフェスの準備に集中してもいいくらいであるにもかかわらず、10-FEETはこのフェスにも出演している。それはそのままかつて京都大作戦で伝説的なMCを残したSiMとこのバンドとの信頼関係そのものであると言える。
おなじみの「そして伝説へ…」のSEが流れ、観客がタオルを掲げて待ち構えると、NAOKI(ベース)はこのフェスのベースボールユニフォームシャツを着ており、その時点で10-FEETがどれだけSiMとこのフェスを大事にしているのかということがわかるのであるが、TAKUMA(ボーカル&ギター)がギターを弾きながら歌い始めた1曲目の「ヒトリセカイ」でそのNAOKIは体操選手かと思うくらいの、おなじみの見事な開脚しながらのベース演奏を披露する。2コーラス目では下手の端まで行ってそれをやるあたりが実にサービス精神旺盛であるが、その開脚っぷりと体の柔らかさを見ていると、人間が歳を重ねてもこうして進化できるということをステージ上で示してくれている…のかもしれないとも思う。
さらに同期の音を大胆に取り入れた「ハローフィクサー」へと続くのであるが、どうにもTAKUMAのボーカルの調子が良くないように感じられる。それはライブが続いているという喉の疲労もあるのかもしれないが、耳を気にするような仕草もあっただけにイヤモニの調子が悪かったりしたのかもしれない。とはいえこれまでにもそうしたライブを何回か見てきたけれど、次に見た時には回復したりしてきただけに、そこまで心配にはならないというのもあるけど。
小芝居を挟むことなくTAKUMAがギターを鳴らし始めた「RIVER」ではTAKUMAが2コーラス目で歌詞を「多摩川」に変えたことによって、この川崎が東京から多摩川を越えた神奈川県であることを改めて実感させてくれるのであるが、間奏ではTAKUMAが観客にスマホライトを点けさせると、まだ暗くなりきってはいない空の色ではありながらも客席の前から後ろへとスマホライトウェーブを展開し、さらには後ろから前へもウェーブを起こすのだが、最前に到達した時にそれまでリズムを刻んでいたKOUICHI(ドラム)が立ち上がってポーズを取ってリズムを止めてしまい、
「もう「RIVER」終わったみたいになってるやん(笑)」
と突っ込まれてしまう。そんなやり取りにはついつい笑い声が漏れてしまう。
そんなやり取りの後には早くもTAKUMAが
「アンコールやります!」
とまだ前半を終えたばかりで早くもアンコールへと突入していくのであるが、
「ネットの誹謗中傷とかがなくなったらいいのになぁ。ケンカすんのとかみっともないで」
と言っておおらかなメロディとメッセージが我々を包み込むかのような「シエラのように」が演奏される。京都大作戦まであと1週間。今年はそのSNSでのキツい言葉の矛先が10-FEETの3人に向かいませんようにと心から願う。
そして待望の新曲「aRIVAL」もフェスではこの日が初披露となったのであるが、先日大きな話題になった格闘技の試合のテーマソングであるだけに、その激しく各楽器がぶつかり合うようなサウンドはこうしたフェスという場も「THE MATCH」と呼べる場所なんじゃないかと思うし、こうして巨大な主催フェスを開催するバンド同士であるだけに、年齢的に10-FEETが武尊でSiMが那須川天心と言えなくもないと思う。もちろんまだまだ10-FEETの背中はめちゃくちゃ大きいものであるけれど。
するとTAKUMAが笑い声を口にしてから演奏されたおなじみの「shoes」ではやはり慣れている曲というか、スカパンクと言っていいくらいのスピード感のある曲であるだけにTAKUMAの喉の調子が整えられてきているのがよくわかる。この辺りはさすがライブをやり過ぎなくらいにやりまくって生きてきたバンドならではである。
すると3人が集まって何やら話してから、TAKUMAは
「多分次が最後の曲や。俺たちSiMが大好きやねん。呼んでくれてありがとう!」
とSiMへの感謝を告げると、なぜかSiMのメンバーに呼び捨てにされているのが芸風になってきているNAOKIは
「殴りたいくらいに大好きやで(笑)」
と、その関係性だからこその屈折した愛情を口にしてから、
「お前らテンション上がりすぎて海の中に飛び込むなよ!」
と「goes on」をやるのかな?と思ってしまうフリをしてからの「VIBES BY VIBES」で肝心なとこで奮迅して観客を踊らせまくって終わりかと思いきや、
「まだ残り2分あるわ」
と言ってショートチューン「DO YOU LIKE…?」を演奏すると、それでもなお微妙に残っている時間で四星球の持ちネタを逆輸入した「時間がない時のRIVER」で見事に時間を使い切ってみせた。そのできるギリギリまで我々を楽しませてくれるというのはどんな時でも変わらない10-FEETらしさ。それが我々が笑顔になれるものであるということを、メンバーはきっとちゃんとわかってくれている。
ついに来週からは京都大作戦が始まる。昨年は2週開催のうちの2週目が残念ながら中止になってしまった。しかし今年こそはという思いを10-FEETや出演者、関わる全ての人が持っているはず。かつて参加した時に行った銭湯や飲食店やお土産屋などの京都の人たちは明らかに関東から来たのがわかる自分にも本当に優しくしてくれた。参加者と街の人たち双方がそう思えるような今年からの京都大作戦であって欲しいと心から思う。
1.ヒトリセカイ
2.ハローフィクサー
3.RIVER
encore
4.シエラのように
5.aRIVAL
6.shoes
7.VIBES BY VIBES
8.DO YOU LIKE…?
9.時間がない時のRIVER
18:25〜 ヒグチアイ [CHAOS STAGE]
まさにジャンルもサウンドも世代もバラバラな、カオスという名そのものな出演者が並んだこの日のCHAOS STAGEのトリはまさかこのSiM主催のフェスに名を連ねることになるなんて全く想像していなかった、ヒグチアイ。しかしそこにはSiMのフェスだからこその確固たる理由がある。それを自身で示すための、普段のワンマンには絶対来ないであろう人の前でのライブである。
ピアノ弾き語りでライブをすることも多いし、かつて自分が見たライブもその形態でのものだったのだが、この日のライブはギター、ベース、ドラムとのフルバンド編成で、ヒグチアイがステージ真ん中で客席に向かい合うようにピアノに座り、その周りをバンドメンバーが囲むという立ち位置でヒグチアイがピアノを弾きながら歌い始めたのは今年3月にリリースされたばかりの最新アルバム「最悪最愛」の1曲目に収録されている「やめるなら今」。
それはタイトルだけ見ると諦念的な歌詞の曲に感じられるけれども、その実じっくり聴いていると
「見えない未来を 言い訳にすんなよ
あてのない旅を始めたあの日に
誰の足跡もない場所へ行こうと決めた
恐れていいんだよ 怖がっていいよ
飛び降りる勇気すらなくていい
その弱さはいつかの強みになるから
おまえを信じてるわたしを 信じてるから
なんでも良い そのままで良いから
続けろ 続けろ やめんなよ 続けようよ」
というやめることなく歩き続けていくための曲であることがわかる。それは我々に力を与えるものでありながらもヒグチアイが自身を鼓舞するようなものでもあるし、このステージで聴くことによって、そうして続けてきたからこそこの場所に立つことができているということを示しているものにもなっている。そしてさらに先へ進むための
「続けようよ」
という歌詞の歌唱に滲む凛とした力強さ。それはこの強者バンドしかいないようなこのフェスの中でもそのバンドたちの音圧に負けることは全くなく、聴き手の心に真っ直ぐに突き刺さってくる。
日常の風景を丁寧に詳細に、しかしヒグチアイの視点だからこそのもので描写した「前線」もまた
「おまえに言ってるんじゃなくて
わたしに叫んでるんだよ
逃げるな 逃げなければ
その場所が前線だ」
という歌詞がこのアウェーと言っていい場所に立っている自身を鼓舞しているかのようでもあるが、それがヒグチアイの個人的なものではなくて、最後には
「隣を追い越していく人も
遠く離れていく人も
誰もが立っているんだよ
自分だけの前線へ」
という歌詞に着地することによって、我々が生きている日常の生活そのものが「前線」であり、自分1人が誰か1人になり、それが連なることで我々に向けて歌っているということを感じさせてくれる。それはどうしたって我々が「1人」であることを実感せざるを得ないものでもあるけれど、でも自分だけではなくて誰もが1人であるということを同時に感じさせてくれる。それはもちろん歌っているヒグチアイも含めて。
で、なぜそんなヒグチアイがこのフェスに出演しているのかというと、アニメ「進撃の巨人」のテーマソングをSiMとともに務めているからであり、そうした縁を大切にしてくれているとSiMのことを評するのだが、その際にテーマソングを担当するという発表をするタイミングを、自身の方が先輩だからSiMのタイミングに合わせたことによって、その謝罪もかねてこのステージのトリにしてくれたんじゃないかと邪推していたらしいが、この日実際にSiMのメンバーと会話した際にはそうした意図はなかったという。そしてこの日がメンバーと会ったのはまだ2回目だという。
そんな始まったばかりの関係性を開陳したところで、やはり日常のなんでもないようなことを歌詞の中に見事に落とし込み、それが人生を総括するような歌詞へと展開されるというのが実に見事な「ラジオ体操」、新作からの生命や人生の儚さと力強さをバンドサウンドの力強さも伴うことで同時に感じさせてくれるような「まっさらな大地」と、この短い時間の中でもこれでもかというくらいに完全にヒグチアイの世界の中に引き込まれていく。気付けば空も完全に暗くなっているというシチュエーションがより一層その世界に浸らせてくれるのは、照りつける日光の下がとても似合うような音楽ではないからで、そうしたところもSiMからのリスペクトの形と言えるだろう。
するとヒグチアイは
「今日はこうしてバンドメンバーがいてくれるけれど、普段は1人でライブをやることが多くて。こういうフェスに出ると仲間がいるバンドっていう存在を羨ましく感じることもあるけれど、でも孤独というのは誰しもに存在していて、その1人の孤独が集まっているだけなんだなって」
という言葉もどこかSiMの持っている世界観と通じるところがあるのだが、その言葉の後に最後に演奏された、ヒグチアイとSiMを繋ぐきっかけになったことによって、バラードと言っていいような曲であるのに観客の腕が上がる光景が広がった、ウッドベースのサウンドも用いられた「悪魔の子」に宿る情念とともに存在する愛の深さこそがSiMと最も通じるものなのかもしれないと思え、そんな存在を繋ぎ合わせた「進撃の巨人」という作品やそのスタッフの凄さを改めて実感させられた。「悪魔の子」ってタイトルだけ見たらMAHのこととも取れてしまうだけに。
演奏が終わってからヒグチアイはバンドメンバーを1人ずつ丁寧に紹介してステージを去っていった。この日のこのステージをヒグチアイが務めたということが、このフェスがラウドバンドばかりのフェスではなくて、形態やサウンドやジャンルは全く違えど、曲げない信念の強さを持って活動しているアーティストが集まるフェスであるということを示していた。このフェスで見れるとは思っていなかったヒグチアイのライブは誰よりもそのことを証明していたという意味で、今年のこのフェスになくてはならない存在だったのだ。
1.やめるなら今
2.前線
3.ラジオ体操
4.まっさらな大地
5.悪魔の子
19:05〜 SiM [CAVE STAGE]
そしていよいよこの日のトリ。SiMが今年のこのフェスの初日を締めるべく登場。すでにMAH(ボーカル)はオーラルのライブに登場しているが、それでもやはりバンドそのものが持つオーラも相まって、どこかラスボスを待ち受けるかのような独特の緊張感があるのもまたこのフェスでのSiMのライブならではだ。
そんな空気に包まれる中でメンバーが登場すると、GODRi(ドラム)がまさにゴリラのように自身の胸をバンバン叩く中、そのままステージ左右のスクリーンにはメンバーの姿だけではない映像が映し出される。それは「進撃の巨人」の巨人そのものであり、ということはもちろん最初に演奏されたのはその主題歌として国境を越えた大ヒット曲となり、地上波のゴールデンタイムの音楽番組にも出演することになった「The Rumbling」。すでにみんな曲を耳にしているとは思うけれど、やはりこのフェスでついにライブ解禁である。MAHのデスボイスの連発も含めたその音の重さはまさにスクリーンに映し出される巨人たちがこちらに迫ってくるかのような迫力を感じさせる、紛れもなく新しいSiMの代表曲である。
そうした主催者ならではの演出から、「レゲエパンクバンド」としてのSiMらしさを全開にする「CAPTAiN HOOK」で一気に演奏とライブそのもののスピードを上げ、客席はヘドバンの嵐が起こる。その光景を見ていて、去年はまだ人数制限がある中での開催だっただけに、気を使わなくても自ずと人と人との距離が空きまくっていたことを思い出す。それだけに今年のこの人数でのヘドバンはようやくこのフェスらしい光景が去年よりも戻ってきてるんだなと感じざるを得ない。それはアルバムとしては最新作となる通称「神盤」収録の、どこか去年こうしてフェスを開催することを批判していた人への皮肉のようにも感じられる歌詞の「SiCK」も同様で、いつもと変わらぬ革ジャンというロックスタイルのSHOW-HATE(ギター)も、オレンジ色に伸びた髪型のSHIN(ベース)も時には楽器をぶん回すように飛び跳ねまくる激しい演奏が繰り広げられている中ではあれど、このフェスが去年から前に進めていることがハッキリと実感できて少しうるっとしてしまう。
そんな感慨を本人も感じているのか、MAHも
「このフェスが時期的に夏フェスの先駆け的に開催されるフェスだからこそ、この後に開催されるフェスが今年は続くように開催されてくれたらなと思っています」
と、各地の夏フェスへの思いを口にしたかと思いきや、
「なんて思うわけないだろ!雨がめちゃ降ったり、いきなり中止になる京都大作戦とか。あれはもうあのフェスの持ってる業だな!」
と悪魔らしく急に毒づいてみせるのだが、MAHの本心はもちろんこれからの夏フェスの開催と成功を祈っているはずだ。じゃなきゃそもそも自分たちがそうした他のフェスに出演しないわけなだけに。
するとここで早くもMAHによる
「死ねー!」
の絶叫とともに「KiLLiNG ME」が演奏されることによって早くもライブの、なんならこのフェスの一つのクライマックスが刻まれた感すらあるのだが、それはこの曲が紛れもなくこのフェスの歴史を作ってきた曲だからだ。それがある意味では万感の思いを持って鳴らされた去年よりもフラットに演奏することができている。まぁやっぱり昔みたいにこの曲でダイブが起こる光景を見たくなるけれど。
するとステージに電話の着信音が流れて、MAHがその電話を取るというアクションを見せてから始まる「Fall In Love With You」もまたこのフェスで何度も聴いてきた曲である。そうした曲たちをやたらと感傷的かつ感動的に思わないように聴くことができている。それはこのフェスに至るまでにもSiMがいろんな場所でライブをやって、いろんな曲を鳴らしてきたからだろう。
そんな中でMAHは
「あのSiMがですよ?何とメンバー全員父親になりました!」
と告げるのだが、それはSHINに子供が生まれたからであり、MAHは自身に子供ができた時に作った曲である「FATHERS」を、当時は子供がいなかったSHINは複雑な感情だっただろうなと気を遣いながら、こうしてSHINも父親になったことで久しぶりに演奏する。その際にマイクスタンドを持ってくるのを忘れたスタッフを睨みつけるという一幕もあったが、そんな笑えるような瞬間がこの曲のシリアスなバラードという曲調と中和しあって、程よく浸れる感じで聴くことができるようになっていたのは狙ったものなのかもしれない。かつてバンジージャンプをさせられた時にはまだ実家で親と暮らしていることをバラされたSHINが父親になったというのは年月の経過を感じざるを得ないけれど。
ここまでにMAHはこの日やたらと「アリガトウゴザイマス」を外人っぽい発音で口にしていたのだが、それは「The Rumbling」が国を超えて大ヒットしたことによって、アメリカのレーベルから声がかかり、アメリカ進出を果たすことになったことを発表する。しかしながらアメリカでばかり活動するわけではないことをしっかり口にして観客を安心させてくれるあたりが優しさを感じるけれど、ヒップホップとR&Bが音楽シーンのメインストリームになっているという今のアメリカでSiMの音楽がどう響くのだろうか。しかしそれにしても「進撃の巨人」の影響力は凄いんだなと改めて思うばかりである。そのアメリカ進出に向けてすでにレコーディングをしているという新曲を急にやろうとしてSHOW-HATEが慌てるという一幕もあったけれど。
そんなSiMの自身のバンドをストレートなラウドロックで存在証明するとも言えるような「EXiSTENCE」で観客をさらに歓喜、狂喜させて再びヘドバンの嵐を巻き起こすと、
「去年の俺のこの曲のMCが変な風に解釈されてしまったんだけど、俺は本当にこの曲でみんなに思いっきり歌って欲しいと思っている!」
と叫んで演奏された、スクリーンが4分割されてメンバー一人一人の演奏する姿が同時に映し出される演出もまた恒例の大合唱アンセムの「Blah Blah Blah」でも響くのはやはりメンバーのコーラスだけ。それは観客が今この状況で歌いまくってしまうと、必ずそれが拡散されて来ていない人に叩かれることになってしまう。みんな自分たちが好きなバンドを、そのバンドが作ってくれているフェスを守るために歌うのを我慢している。MAHはもしかしたらそれすらも違う解釈だと言うかもしれないけれど、自分は見ていて確かに観客のそうした思いを感じていたし、それこそがこのフェスがこうして2年連続で開催することができている理由であると思う。
しかしMAHはそんな観客の姿を見ながら、
「この形でのDEAD POPは今年で最後な気がする。この形に慣れてしまったらみんながロボットみたいになってしまう。そうなったらダメだ。だから来年はモッシュしたりしようぜ!」
と口にする。去年より今年が確実に前に進めたことを実感できたからこそ、そうして来年への確かな希望を描くことができるのだろう。モッシュやダイブが必ずしもなきゃいけないわけではないけれど、MAHはかつてブログに
「ロックバンドは自分たちの見たい景色がそれぞれある」
と記していたことがある。SiMにとっての見たい景色がそうしたものであるということはきっと今でも変わっていないし、だからこそこうしてそれを取り戻すために少しずつでも先へ進もうとしているのだ。来年はそういう景色が見れるだろうからこそ、「f.a.i.t.h.」での前髪を分けての「前髪ウォールオブデス」もまた今年で最後なのだろう。
そんな「f.a.i.t.h.」はアンコールやライブの最後に演奏されるのがお決まりであっただけに、早くもこれで本編は終わりかな?と思っているとMAHはその姿が自身のかつてのヒーローである清原和博をも彷彿とさせる黒いバットを持つと、
「でもまだみんなが歌えない代わりに俺たちが全員で歌うから!みんな力を貸してくれ!」
と言ってこの日の出演者がステージ上に集合しての「BASEBALL BAT」へ。coldrainのMasatoというこの日の出演バンドではないメンバーが率先してマイクを取って歌い、ヘイスミ猪狩はMAHの前に立って被ろうとするというその光景は去年は見ることが出来なかったもの。中にはフェスのフラッグを持って振っているメンバーもいて、そのSiMの愛されっぷりと、こうしてステージ上で出演者たちがわちゃわちゃすることができるくらいにまで確かにこのフェスが、ライブシーンが戻ってきているということがあまりにも感動的すぎて、ついつい涙が出てきてしまった。それは去年このフェスで浮かんでしまった涙とは全く違う、見れて嬉しいものが見れたからこそのものだった。そのまま出演者全員(なぜかNOISEMAKERが音頭を取らされる)での写真撮影も含めて、去年とは全く違った、心の底から本当に楽しかったDEAD POP FESTiVALの初日だった。
去年のMAHのMCは映像を見るまでもなく今でもちゃんと覚えている。
「音楽やライブが明日にでも消えてなくなってもいいっていう奴がこの外には大勢いる。でも俺はどうだ?お前はどうだ?俺は音楽が、ライブがあったからこそ、このクソみたいなこの国で今日まで生きて来れた!」
その言葉を反芻して今年の自分に問いかけてみる。自分は今でもどうだろうか?やっぱり音楽が、こういう場所がなければ生きている実感を得ることができない。それは人それぞれそう感じるものは違うだろうけれど、自分にとっては音楽でありライブだった。きっとそれはこれからも変わることがないからこそ、来年もまたここでこうしてSiMのライブを観ているんだろうなと思うのだ。
去年は夏フェスの雲行きが怪しくなってきた時期の開催だった。だから夏フェス感みたいなのは全然なくて、むしろ厳戒態勢的な感すらあった。でも今年はこの暑さも含めて、一歩ずつでも夏フェスらしさが戻ってきている感覚があった。来月からまたいろんな場所でそう思うことができるように。今年はきっとその夏フェスの起点がこのフェスになるはず。まだ全てではないけれど、最高に熱くて最高に楽しい夏フェスが、ようやく我々に戻ってきたんだ。
1.The Rumbling
2.CAPTAiN HOOK
3.SiCK
4.KiLLiNG ME
5.Fall In Love With You
6.FATHERS
7.EXiSTENCE
8.Blah Blah Blah
9.f.a.i.t.h.
10.BASEBALL BAT 全員集合ver.
昨年に続いて今年も川崎の東扇島公園での2daysでの開催となり、川崎競馬場近くのシャトルバス乗り場の列の長さも、会場に並ぶ様々なブースも、ありとあらゆるものを絞りに絞りまくって開催された昨年よりも明らかに戻ってきているという感覚がある。(なんなら昨年は開催前も開催中も「やるな」「やめろ」みたいな声もたくさんあった)
何よりも昨年までと違うのはこの日あたりから30°を超えるくらいの猛暑日での開催となったことだろうか。
しかしながらキレイとは言えない工業地帯の海辺にある埋め立て地である東扇島公園は風が強く、暑さをうまいこと中和してくれるような心地良さである。とはいえラインナップ的にライブが始まれば暑く、熱くならざるを得ないのがこのフェスなのであるが。
開演前にはメインステージであるCAVE STAGEの左右に設置されたスクリーンに出演者紹介と諸注意的な映像が流れるのだが、
「ペットボトルのゴミを投げたやつは殺す!」
など、注意喚起がやたらと物騒なのもこのフェスならではである。
12:00〜 NOISEMAKER [CAVE STAGE]
この日のトップバッター、つまりは今年のこのフェスの口火を切るのは、自身も先月に地元の北海道で主催フェス「KITAKAZE ROCK FES.」を開催しており、このフェスでもメインステージに登場。
先にHIDE(ギター)、YU-KI(ベース)、UTA(ドラム)の3人が上下ともに黒の服を身に纏ってステージに登場すると、そこに黒と白が混ざり合い、茶髪にサングラスという出で立ちだけでカリスマを感じさせるAG(ボーカル)が合流すると、
「NOISEMAKERです!DEAD POPよろしくお願いします!かっとばせ!」
と言って「Something New」からスタートするのだが、ラウドロックシーンに属する立ち位置のバンドの中でも抜群にメロディアスな音楽を作っているバンドであるということがこの時点でわかるし、そこはさすがラウドロックシーンの首魁的な存在であるSiMのフェスらしく、観客もこの時点で飛び跳ねまくる。待ちに待っていた瞬間が今訪れたというような、ステージと客席双方の感情の爆発っぷりである。
そのメロディアスさはAGのなめらかな英語歌詞の歌唱からも感じられる要素であることがわかる「THIS IS ME」、さらにはリフレイン的な歌唱の「SADVENTURES」と、スクリーンに映ると笑顔を浮かべながらドラムを叩くUTAも、曲によってどちらがコーラスをするかを使い分けるHIDEとYU-KIも、歌唱だけではなくてバンドの鳴らしている音の全てがこの規模感にふさわしいバンドであるということを示してくれる。
AGは3年ぶりのこのフェスへの出演であることを話し始め、その間に様々なことがあったことを語るのだが、バンドの曲が球団に公式に起用され、その球団であるオリックス・バファローズの大ファンであるYU-KIが始球式を務めたこともその3年間の中に入っていたのは、それがバンドにとっては本当に大きなことだったからだろう。というか始球式なんてどれだけ有名な人がやろうとしてもなかなか実現することはできない。このバンドはそれをやってのけたのである。
このバンドのラウドロックに止まらないサウンドというのは他の様々なジャンルのサウンドを吸収して自分たちに取り入れているからであり、「SPEAK UP」ではトラップのリズムを取り入れたりする部分があったりと、それによってAGの歌がより生きるようなアレンジになっている。かと思えば真っ向から自分の、自分たちのラウドバンドとしての存在意義に向き合うかのような「NAME」と、ラウドバンドとしての力強さや芯の強さから全くブレることなくバンドとして進化を遂げてきたということが実によくわかる。それこそオリックスが球団として公式に曲を使っている(その曲「CROWN」はこの日は演奏されなかったけど)ことも含めて、そうしたこのバンドのサウンドがラウドロックシーンやそれを好む人以外の場所にも届く可能性を持っているということである。
するとAGは
「生きるということ。行きたい場所に行くということ。会いたい人に会うということ。顔を合わせて直接話すということ」
と自身の、そして誰もが人間として生きていることを感じられる瞬間がどんなものであるかということを口にして、その思いをそのまま曲にしたかのような「To Live Is」を演奏する。それはコロナ禍になる前に生まれたこの曲が、今の世の中になって新たな意味を帯びたということであり、とかく色で例えると黒になりがちなラウドロックのサウンドのイメージを飛び越えるようにカラフルな照明に彩られたこの曲の景色はトップバッターでありながらもどこか早くも一つのクライマックスを描き出していたかのようだった。
2015年に初めてこの東扇島の会場でこのフェスが開催された時にNOISEMAKERは初日のCHAOS STAGEに出演していて、その時に自分は初めてこのバンドのライブを観たのであるが、観客はもちろんAG本人も客席に突入していたあの頃とは全くこのバンドのライブの景色は変わった。
でもそれ以上に、あの時に「この人にはたくさんの人を引っ張っていくカリスマがあるな」と感じたAGのオーラは、自分たちで音楽だけではなくファッションなどのカルチャーも含めた活動をするようになったことによってさらに進化している。それがそのままバンドとしての進化にもつながっている。SiMにもKITAKAZE ROCK FES.もよろしくと言っていたが、そのフェスはいつかこのフェスくらいに大きなものになるのだろうか。
1.Something New
2.THIS IS ME
3.SADVENTURES
4.SPEAK UP
5.NAME
6.To Live Is
12:45〜 ヤングオオハラ [CHAOS STAGE]
本来ならばもっと早くこのフェスに出ていたんだろうなと思う存在である、ヤングオオハラが今年もその名前のとおりにあらゆるサウンド、ジャンルのアーティストがごった煮になったかのようなラインナップのCHAOS STAGEのトップバッター。沖縄のバンドだけにこの日の真夏的な暑さにもピッタリのバンドである。
しかしこのバンドは今年の4月にギターのヨウヘイギマが脱退しており、3人になってからライブを観るのが初めてであるだけに、どんな体制になっているのかと思っていたら、サポートメンバーも入れずにピンク色のロンTを着たハローユキトモ(ボーカル&ギター)、長袖シャツのミツキング(ベース)、このフェスの物販のタンクトップ姿のノリバルカン(ドラム)という、サポートを入れることのないスリーピースバンドとして生まれ変わり、ライブの1曲目としておなじみの
「太陽にタッチして」
というサビのフレーズが焼け付くような太陽の陽射しが厳しいこの日にピッタリな「キラキラ」から、ギターが1本になったことによって、よりソリッドなサウンドになったことを示してくれる。
それは続く「ラブリー」でもそうなのであるが、とはいえやはりまだユキトモはギターを自分だけが弾く、そしてそれと同時に歌うということに完全に慣れていないのか、エフェクターを踏み忘れたりしているのか、ギターの音が鳴らなくなる瞬間も時々あった。とはいえこの編成でやっていくと決めたからにはこれからはそうしたことも減っていくだろうと思う。
「沖縄から来ました、ヤングオオハラです。みんなもっとこっち来いよ!今日は朝から晩まで音楽浴びて、酒飲んだりして楽しもう。そういうノリの良い曲もあるんで」
と挨拶すると、ノリバルカンの軽快な四つ打ちのリズムが否が応でも観客を踊らせる、このバンド最大の代表曲と言える「サマタイ」はどうしたってこの気候で聴くことによって夏の到来を感じずにはいられない。ユキトモのファルセットを駆使したボーカルはギターが一本になって自分がメインギタリストになっても全く力強さを失うことはない。
かと思いきやユキトモはギターを置くと、
「また違ったノリの曲を」
と言って、チルなサウンドと日常的な生活を切り取った、それがどんなに幸せなことであるかを感じさせてくれる、某バンドの大ヒット曲にも似たタイトルであるが意味合いは全く違う「なんでもないような」をユキトモはステージ上を踊るようにしてハンドマイクで歌い、ウワモノのサウンドは同期に任せるのであるが、そうした編成でもロックバンドらしさをひしひしと感じることができるのはミツキングとノリバルカンによるリズムの力強さあってこそだろう。ノリの良い曲も多いためにあまりそうしたところには目が行き届かないけれど、こうした曲をライブで聴くとそこに気付かせてくれる。
「俺は楽しくて元気なものが好きです。一日中音楽聴いて酒飲んでっていうこのフェスに来ているみんなもきっとそういう人だと思う。そんなみんなの前でライブができて幸せでした」
と言って最後に演奏されたのは、
「シンプルでいい 難しいことは
僕らには無駄なことでしょ」
という歌い出しのフレーズと、
「シンプルでいい単純でいい
言葉より僕ら抱きしめあえるのさ」
というフレーズがユキトモのMCと完全に合致している「essential」。それはそのまま、こうしてギター1本のシンプルなスリーピースギターロックバンドに転生しても、このバンドにとって大事なことは変わることがないということを示しているかのようだった。
2019年に新人としてあらゆるフェスに出演しまくった時からもう3年。コロナ禍の期間はこのバンドを新人から若手へと変えてしまったけれど、そんな1番ライブをやるべき期間にライブが出来なかったというのはバンドとしても忸怩たる思いだろうし、さらにはメンバー脱退もあり、このバンドは終わったと思っている人もいるかもしれない。
でも3人になって初めて観たこのバンドのライブは、まだまだヤングオオハラは終わっていない、むしろここからまた攻め込んでいくという意志と、バンドのライブの良さが全く変わっていないということを証明するものだった。このバンドは終わらなかったけれど、2022年の夏がここから新しく始まったような、そんな感覚すらあった。
1.キラキラ
2.ラブリー
3.サマタイ
4.なんでもないような
5.essential
13:25〜 04 Limited Sazabys [CAVE STAGE]
月初のSATANIC CARNIVALの時もそうだったけれど、自身の主催するYON FESを終えても止まることなくあらゆるフェスやイベントに出まくっているフォーリミ。これからの季節は久しぶりにバンドで体感する夏を満喫するものになっていく。
おなじみの賑やかなオリジナルSEでメンバーがステージに元気良く登場すると、GENの
「DEAD POPいけんのかよ!!」
という声とともに、YON FESでついに解禁された約束の歌「Buster Call」をGENが歌い上げてバンドの音が重なっていく…と思いきや、ライブ定番曲でしっかりとサウンドチェックをしていたにもかかわらず、演奏を一回止めることに。
どうやらKOUHEIが力強くドラムを叩き、バスドラを踏んだ時に機材がズレてしまったらしい。GENはそれをSiMのメンバーのせいにしたり、KOUHEIは
「さっきまさやん(THE ORAL CIGARETTES)のドラムいじってたからバチが当たったのかもしれない(笑)」
と何かと他のバンドのせいにしがちだったのだが、結局メンバーが楽器を手にして音を合わせるところから改めて最初からやり直すことに。なので「またこの曲から始まるライブが見れるとは!」という感動は少し薄れてしまったけれど、やはりこの曲がこうしてまたライブで聴けるようになったことは素直に嬉しいことであるし、そんな曲をやることにした場所(どのライブでもやるわけではないだろうだけに)に居合わせることが出来ているのも嬉しい。
そうしてやり直したことも影響してか、「fiction」の演奏前にはKOUHEIがドラムから身を乗り出すようにしながら中指を立てるという気合いの入りっぷりを見せ、HIROKAZ(ギター)も印象的なギターリフを弾きながら「オイ!オイ!」と観客を煽りまくり、むしろやり直したのはバンド全体の気合いに繋がっているんじゃないかとすら思えてくるくらいだ。
それはYON FES以降のライブでは時折喉の調子が芳しくないというか、明らかに高音を出す(そもそものキーが高いフォーリミの高音が高すぎるということもあるが)のがキツそうな時もあったのだが、そのフォーリミの高音を駆使した曲の最高峰とも言えるパンクサウンドの「fade」をこの日はしっかりと歌いきってみせたあたり、5月後半から今月前半にかけてはたまたま喉の調子が良くなかったと見ていいだろうか。間奏ではメンバーは全く煽っていないにもかかわらず観客が揃ってヘドバンするというのは実にSiMの主催であるこのフェスらしい光景である。
さらにはHIROKAZとRYU-TA(ギター)によるリズミカルなコーラスの「Jumper」でタイトルとおりに観客を飛び跳ねさせまくる。こうしてこの曲がフェスのセトリに残り続けているというのはコロナ禍真っ只中だったリリース時はライブがなかったこともあってあまり想像が出来なかったことである。
「どっからどう見ても光属性の俺たちが闇属性のSiMをやっつけるのを見に来てくれてありがとうございます(笑)
後輩のヤングオオハラから俺たちで、次に名古屋の後輩のサスフォーってこれもう実質YON FESじゃん(笑)」
とSiM主催のフェスを自分たち主催に勝手に変えてしまいながら、こうしてこのフェスに3年ぶりに帰ってきたことによって、去年から続いてきた、繋げてきたこのフェスに光を当てるようにして演奏された「swim」ではRYU-TAが下手の端の方まで行ってギターを弾きながらカメラマンの前で変顔をする中、前方エリアだけではなくて後方エリアまでたくさんの人が腕を交互に伸ばして泳ぐポーズを取る。自分はこのフォーリミの時に初めて前方エリアの中に入ったのだけれど、立ち位置も決まっていないスタンディングでの前方でパンクバンドがライブをやっていてもモッシュみたいになることがないというのは、少しずつ元の形に戻りながらもこのフェスの参加者が決してルールを破らない、SiMの名前を汚すようなことは絶対にしないという強い意志を感じさせてくれる。それこそがこのシーンを守り続けてきたものであると思っている。
さらには曲中のリズムに合わせた手拍子も完璧に決まる「Kitchen」で観客が踊りまくり飛び跳ねまくるのだが、こうした光景とそれを導く曲のサウンドもまたフォーリミの光属性たるポイントだろう。RYU-TAが観客を煽りまくりながらも誰よりも踊るように演奏しているということも含めて。
そうした状態であるだけに、最もモッシュが起きてもおかしくないようなストレートなパンクサウンドの「My HERO」でもそうしたことが起こることはない。それは主催のSiMもそうであるし、こうして今まさにステージに立っているフォーリミの名前や存在も汚すわけにはいかないからである。SATANIC CARNIVALの時にはやや歌うのがキツそうというか、歌いきれていない感じもあったこの曲もこの日のGENは最後まで歌いきっていた。本当に見ているだけで血管が切れそうになるくらいに高いキーの曲だけれど。
するとGENは3年ぶりに出演しているこのフェスもまた自身の主催するYON FESと同様に少しずつライブのあるべき自由さに向かって一歩ずつ前進してきていることに触れ、
「ただ先へ、ただ前へ進め!」
という想いを音に込めるようにして「Feel」を演奏する。GENの口にした言葉を歌詞に持つこの曲もまたコロナ禍になって以降に曲の持つ意味合いが変わった曲だ。自分たちと観客だけではなくて、シーン全体、音楽全体に向けてのものであるかのようなスケールを獲得してきた。それは2020年の秋に愛知の巨大な会場でワンマンをやるなど、フォーリミがコロナ禍になって以降もアリーナクラスでのライブを引き受けるパンクバンドであり続けてきたからである。
そんなライブの最後に
「この曲知ってるやつどんだけいんだよ!」
とGENが叫んでから鳴らされたのは、もちろん誰もがこの曲の存在を知っているであろう「monolith」。RYU-TAはいつものようにGENの歌い出し前に
「かかってこいやー!」
と叫んでいたけれど、それでもやはり自分の位置からは動かない観客の姿がどこか誇らしく思えた。その姿をずっと見てきたから。でもそれももう変わろうとしている。フォーリミがYON FESで「hello」を演奏してささやかな合唱を起こしたように、急には変えられないし、変えても不安になる人もたくさんいる。だから状況を見ながら少しずつ、一歩ずつ。そうして春から繋がってきただけに、YON FESからこのフェスでもう何歩も前進できたような気がしている。本当にあと少しのところまできているような。
GENはMCで2019年にこのフェスに出た時は突発性難聴が1番酷かった時期であり、ライブでもカンで歌っていたくらいに右耳と左耳で聴こえ方が違ってきていて、音楽の神様に嫌われているんじゃないかとさえ思ったという。
そんな苦しい時期を経験したフェスだからこそ、こうしてこの日のこのフェスで「Buster Call」を1曲目に演奏したのは、3年前の自分たちへ向けて、いろんなことがあったけれどこうして今自分たちは復活することができているということを示しているかのようだった。SiMはフォーリミにとってカッコいい先輩だけれど、その存在が作っているフェスだからこそ、フォーリミが証明しなくてはいけないものがある。この日のライブも、他のどこでもない今ここだった。
リハ.knife
リハ.escape
1.Buster Call
2.fiction
3.fade
4.Jumper
5.swim
6.Kitchen
7.My HERO
8.Feel
9.monolith
14:10〜 Suspended 4th [CHAOS STAGE]
4月には名古屋の先輩であるフォーリミのYON FESにも出演し、ようやく全国のあらゆるフェスにお目見えする機会が巡ってきた感もある、Suspended 4th。どこか似合うようなイメージがあったこの東扇島公園のフェスに初出演である。
このバンドはYON FESの後からツアーを回っており、つい先週にツアーファイナルを終えたばかりなのであるが、そのツアーからライブ時の立ち位置を変更しており、グルーヴの要としてセンターに立っていた、髪の一部を緑に染めている出で立ちも派手なHiromu Fukuda(ベース)とフロントマンのKazuki Washiyama(ボーカル&ギター)の立ち位置を入れ替えたことによって、オーソドックスなバンドの立ち位置になったと言える。
そうした新しい形(スケジュールが合わずにツアーは参加出来なかったので、この立ち位置で観るのは初めてである)でステージに立つメンバーは、常にサングラスをかけているDennis Lwabu(ドラム)だけではなく、Fukudaも、そしてあまりそうしたイメージのないSeiya Sawada(ギター)もサングラスをかけており、サングラスをかけていないのはWashiyamaのみ。そのくらいに陽射しが強いということである。
そんな4人が楽器を持つと早速ジャムセッション的な演奏を始め、いったんFukudaのベースのみになると、立ち位置が下手に変わってもその出で立ちと高速プレイによって目立つのは変わらないベースのイントロにSawadaとWashiyamaのギターが絡み合う「ストラトキャスター・シーサイド」から始まり、そのアッパーなダンスロックサウンドによって観客は踊りまくるのであるが、ツアーを終えたばかり&フェス出演で昂っているからか、バンドのリズムがいつも以上に速く感じられるし、何よりもWashiyamaのボーカリストとしての歌唱がまた一段上の段階に登ったなということがわかる。
それは4人の音の重なり合いがバンドとしてのグルーヴになっていくということを表すお手本であるかのように練り上げられていく演奏の「GIANTSTAMP」(フェスで聴くのは久々な気もする)でもそう感じるというか、テンポが速くはない曲であるとよりWashiyamaの歌唱力の向上が顕著に感じられる。随所に
「DEAD POPー!」
と叫んだりと、歌唱力だけではなくてフロントマンとしての責任感やオーラまでもがさらに増しているような感じもあり、つまりはまたこのバンドが進化を果たしているということである。
そのWashiyamaの言葉数の多いボーカルがさらなるグルーヴを生み出していき、Sawadaに合わせて観客も手拍子をする「97.9hz」も定番曲ではあるけれど今のバンドだからこそのグルーヴで鳴らされると、
「コロナがなかったらもっと早く出てただろうけど、今で良かった。今が1番バンドが仕上がってるから。
楽屋にいても爆音が風に乗って聞こえてくるんだけど、俺たちの音もそこまで届けたい。先輩バンドを驚かせてやりたいし、同世代バンドにも…今日同世代っているのか?(笑)」
というWashiyamaの言葉からも自信が伺えるのだが、確かにそのスキルからは考えると意外なくらいに若いバンドであるだけに、同世代というとこの日はいないかもしれない。(ヤングオオハラはさらに年下で、むしろフォーリミやオーラルの方が歳は近い)
そんな先輩バンドたちに、ジャズなどの影響も自分たちのロックに取り入れているバンドであるということを示すかのような「Vanessa」でもそうした多様な要素が全てこのバンドのロックになっているということを、曲中のセッション的な演奏も含めて示すと、「ブレイクアウト・ジャンキーブルースメン」ではSawadaのギターが鋭いカッティングを刻んで一気にアッパーに振り切れていく。もうその演奏のグルーヴの凄まじさはこんなに暑くて動きたくないとすら思うくらいの状況であっても体が勝手に動いてしまうくらいの凄まじさであり、やはりこのバンドがその鳴らしている音だけでその場を掻っ攫ってしまう力を持っていることがよくわかる。曲最後には実はメンバーで1番歌が上手いブルースマンでもあるDennisがソウルフルに
「DEAD POP FESTiVAL〜!」
と歌い上げる。その歌唱がさらにこのフェスと観客のことを熱くしてくれる。
そして持ち時間的にもMCよりも音で示すとばかりにFukudaのベースとWashiyama、Sawadaのギターが濃厚に絡み合うイントロによって始まるのは「INVERSION」であり、曲が進むごとにさらに高まっていくようなグルーヴがここで極まると、コロナ禍になる前には合唱が起きていた、
「Don't lend me bend my fire
Don't lend me bend my feeling」
というフレーズの繰り返しでWashiyamaはマイクスタンドから離れて歌わなかった。YON FESの時は確かこの部分はWashiyamaがちゃんと歌う形だったはず。そのYON FESや自分たちのツアーを経てきて、このフレーズを観客全員が歌える日がもうすぐそこまで来ているということを示しているかのようだった。全く声を出せなくなった我々が今のこのバンドのグルーヴに敵うような声を響かせることができるだろうかとも思うけれど、やはりこのフレーズの後に訪れるサビの爆発力は持ち時間中常に凄まじかったこのバンドの中でも最高の凄まじさ。それはMVのように夜から新たな夜明けを迎えるかのようであり、腕や楽器を掲げながら弾くSawadaのギターはこの日のこのバンドの勝利を確信しているかのようであり、Washiyamaが観客が掲げた拳を見て笑顔になっていたのが、ただでさえ凄まじすぎるこのバンドはこうした景色を見たことによってさらにとんでもないバンドに進化していくんだろうなと思った。
YON FESもそうだったが、このフェスもライブをやりまくって生きているバンド主催のフェスであるだけに、そこに出演しているバンドたちもライブをやりまくって生きているライブアーティストばかりだ。そんな中でもこのバンドのライブはやっぱり飛び抜けているというか、メインステージに出ている、今のシーンを代表する強者たちに全く負けていない。そんな、新たな世界のモンスターたちは来月には京都大作戦にも出演する。そこでも間違いなく爪痕を残すくらいにぶちかましてくれるはずだ。
1.ストラトキャスター・シーサイド
2.GIANTSTAMP
3.97.9hz
4.Vanessa
5.ブレイクアウト・ジャンキーブルースメン
6.INVERSION
14:50〜 THE ORAL CIGARETTES [CAVE STAGE]
以前にもこのフェスには出演しているのであるが、どこか急速にSiMとのバンドとしての距離が近づいてきている感のある、THE ORAL CIGARETTES。GENが言う「闇属性」の意味では確かにSiMと通じるものがあるバンドである。
おなじみの仰々しいSEでメンバーが1人ずつステージに登場すると、最後にステージに現れた山中拓也(ボーカル&ギター)は闇属性バンドらしく黒い服にサングラスという出で立ちであり、楽器を手にするとバンドで合わせるように音を鳴らして恒例の「一本打って!」の口上へ行くのかと思いきや、すぐに音が止まって山中は
「今度は俺たちがトラブルです(笑)
フォーリミが最初からシクってるのを見て「ONAKAMAとして恥ずかしいわ〜」って思ってたのに(笑)」
という、ここでもフォーリミとの連帯感を感じさせるのであるが、このライブの直前にBLUE ENCOUNTの田邊とフォーリミのGENと山中で会っていたということもまたONAKAMAの結束力を感じさせる。まさか互いにいきなりトラブルが起こるとは思っていなかっただろうけれど。
少し時間がかかってしまったもののなんとか復旧すると(ギタートラブル?)、やはりどこかおなじみの「一本打って!」の口上もなんだかいつもよりも速く感じる。ちなみにこの日は
「SiM、DEAD POP FESTiVALに呼んでくれてありがとうの回」
ということで、1曲目からそんなカッコいい先輩であるSiMに自分たちのカッコいいロックサウンドを見せつけるかのように「Red Criminal」からスタートすると、山中はイントロでギターをぶん回すということはしないものの、日中帯であってもステージを照らす曲に合わせた真っ赤な照明が実にカッコいい。
すると鈴木重伸(ギター)の性急なギターがうなりまくる「5150」という、最近はフェスなどではあまりやらない曲が入ってくるあたりはこのフェスならではのロックモードであると言えるのだろうか。鈴木はこんなに暑い中であっても裸足でステージに立っているのが火傷しないか心配になってしまうけれど。山中はこのあたりではやくもサングラスを外している。
雑多なジャンルを取り入れたバンドであるSiMが作ってくれた遊び場だからこそというのを感じさせてくれるのは、METROCKではKamui本人も登場した「ENEMY」であるが、この日はゲストなしということもあって山中がラップも含めた歌唱をし、1人だけ川崎のラッパーのような出で立ちのあきらかにあきら(ベース)はステージ下手の端まで歩いて行ってベースを弾くのであるが、そのあきらのベースと中西雅哉のドラムによる重いビートがヒップホップを取り入れてもオーラルのロックとしての力強さが全く損なわれないということを示してくれる。
「DEAD POPってもっと地獄じゃないんですか?」
と観客を煽りながら、ロックシーンのダークヒーローっぷりを見せつけるような「BLACK MEMORY」ではやはり観客がまだ声を出して歌ったりすることができないだけに、メンバー全員がフルパワーでマイクに向かって声を出しているということがよくわかる。最後のサビ前にあきらと鈴木が楽器を抱えて思いっきりジャンプをすることによって、改めてこのバンドのライブのダイナミズムとカッコよさを存分に感じさせてくれる。
すると山中がハンドマイクで煽るようにして歌うことによって観客も飛び跳ねまくる「カンタンナコト」では鈴木もあきらもお立ち台の上で寝転がるように演奏しているのが力が抜けているような仕草でありながらもむしろ逆に思いっきり力を込めて演奏しているということが見ていてよくわかるのであるが、
「最近のオーラルとSiMとの共通点〜」
と山中が言って演奏されたのはもちろんSiMのMAHを招いての「CATCH ME」で、MAHは自身の指を悪魔のツノのようにしながら登場すると、ステージを歩き回りながらデスボイスも含めた歌唱で、ソリッドかつ疾走感溢れるギターロックと言えるようなこの曲を声だけでラウドロックへと変貌させてしまう。それくらいにMAHのボーカルというのはそれだけで曲を塗り替える力を持っているということがよくわかるのであるが、曲終わりに山中とハグをするようにしてから去っていく姿には今や互いにリスペクトしあっているバンド同士だからこその絆のようなものを感じさせてくれた。
そんな山中は
「俺は今のテレビとかのメディアが推してるようなバンドがロックバンドだとは思えません。こういうライブハウスの匂いがするこのフェスに出ているようなバンドたちこそが本当のロックバンドだと思ってます!だから今日ここに来ている人も間違ってない!」
とこのフェスとそこに関わっている全ての人を肯定して信頼するような言葉から最後に演奏されたのは「狂乱 Hey Kids!!」であり、中西とあきらのまさに狂乱的なビートも、鈴木の複雑なギターフレーズも山中の艶のある、この男のものでしかないようなボーカルも、全てがここにいる人全員が狂乱するキッズであり、その存在を肯定しているかのようだった。この曲でもメンバー全員が務めているコーラスを観客が歌うことができる、バンドと直接音楽と感情のキャッチボールができる日はもうちょっとのところまできている。
山中はよく「最初はSiMに無視されていた」というようなことをMCなどで口にしている。確かにパンクでもなければラウドでもないだけに、サウンドからしたらフォーリミとは違ってなかなか重なるところはなかったのかもしれない。
でもオーラルが展開してきた様々な活動やコラボレーションは確かにSiMと重なる部分があるし、何より今のオーラルのロックシーンをカッコいいロックバンドが好きな人たちみんなで盛り上げていきたいという想いはSiMがずっと抱えてきたものだ。いつの間にかロックシーンきってのダークヒーロー同士は相思相愛の関係になっていたことを確かに感じさせてくれた時間だった。
1.Red Criminal
2.5150
3.ENEMY
4.BLACK MEMORY
5.カンタンナコト
6.CATCH ME w/ MAH (SiM)
7.狂乱 Hey Kids!!
15:35〜 FIVE NEW OLD [CHAOS STAGE]
CHAOS STAGEというこのステージの名前を象徴するかのように、SiMの音楽のイメージからするとこうして出演者に名を連ねているのが不思議なのがR&Bなどの要素が強いバンドであるFIVE NEW OLDである。
とはいえ実は2018年にもこのフェスには出演していることからもSiMとの深い結びつきを感じさせるのだが、この日はサックスのサポートメンバーも加えた5人編成で、伸びた金髪を風に靡かせるHIROSHI(ボーカル)が歌い始めたのは「By Your Side」で、その上品かつオシャレなサウンドが心地よく吹き抜けていく風にそのまま乗っかって我々に届いているかのようだ。
さらには「What's Gonna Be?」と、WATARU(ギター)、SHUN(ベース)の2人によるコーラスがR&Bだけではなくゴスペルなどのブラックミュージックの素養をも感じさせるのであるが、HIROSHIの滑らかな英語歌詞のボーカルは歌唱力自体もそうした音楽をやるべきバンドのボーカルのそれである。
「ここにはジャンルやサウンドで仲間外れにするような人はいないと思います!」
という言葉は自分たちの鳴らしている音楽がこのフェスにおいては異色のものであることを自覚しながらも、そこに集まっている人たちは良い音楽、良いライブであればちゃんと楽しんでくれるミュージックラバーであるという信頼を感じさせる。
音源では踊Foot Worksとコラボしたことによってヒップホップのビートを取り入れながらも、HAYATO(ドラム)による人力のビートの力強さはあくまでもロックバンドのものであり、このバンドがただ単に流行りの心地良い音楽を鳴らしているだけのバンドではないということを示してくれるのであるが、WATARUがキーボード、SHUNがシンセベースという編成となっての「Chemical Heart」では曲中に柄シャツを着たcoldrainのMasatoがいきなりステージに現れるというコラボが展開される。HIROSHIはもちろんのことであるが、こうしたサウンドの曲を歌うことによってやはりMasatoのボーカルも抜群の歌唱力を持っていることを改めて実感させてくれる。何よりもこのバンドが何故このフェスに出演しているのかということを示すような一幕である。
曲が終わるとすぐにMasatoがステージから去っていくと、HIROSHIはcoldrainやSiMとずっと昔からの知り合いであり、一緒にライブをやってきた仲間であるということを語る。そこにはもともとはパンクバンドとしてシーンを駆け抜けていたこのバンドの歴史を感じさせるのであるが、その後に演奏された、WATARUのキーボードのサウンドも活かした「Ghost In My Place」「Don't Be Someone Else」という2曲はそうした下地を持つバンドが、自分たちの持っているものにふさわしい音楽を追求した結果としてこうしたサウンドになっているということを示すかのようだった。
確かにサウンドだけを聴いたら異色かもしれないけれど、ずっと同じライブハウスで音を鳴らし続けてきたという意味においても、このフェスで見るFIVE NEW OLDのライブはただ穏やかな雰囲気を感じさせてくれるだけではない、SiMとの信頼感の強さを感じさせてくれるようなものだったのだ。
1.By Your Side
2.What's Gonna Be?
3.Liberty
4.Chemical Heart w/ Masato (coldrain)
5.Ghost In My Place
6.Don't Be Someone Else
16:15〜 HEY-SMITH [CAVE STAGE]
フォーリミにとってはONAKAMAがあるように、SiMにとってはTRIPLE AXEがある。ということでこの初日には共にそのTRIPLE AXEを形成しているHEY-SMITHが出演。
おなじみのSEが鳴ってメンバーが登場すると、満(サックス)がキレートレモンのようなビン飲料を掲げるというのは先日見たばかりのハルカミライのツアーに招かれた時のクラブチッタでのライブと同様であるが、やはり鮮やかな金髪のかなす(トロンボーン)が元気そうな姿を見せてくれているのはこちらにも元気を与えてくれるのであるが、猪狩秀平(ボーカル&ギター)が
「大阪、HEY-SMITHでーす!」
と挨拶すると、満、かなす、イイカワケン(トランペット)のホーン隊の音が高らかに響き渡る「Living In My Skin」でスタートするというおなじみの展開であるが、さらにそうしたホーン隊のメンバーたち(満はハンドマイクを持ってステージを転がり回りながら歌う)がコーラスを担う「Radio」と、近年のライブ定番曲が続いていくのだが、やはりヘイスミのスカパンクはこうした雲一つないくらいの快晴の空が実によく似合う。YUJI(ベース&ボーカル)は日焼け止めを塗る習慣がないのか、完全に顔が日焼けしているように見える。
するとこの快晴の空がまさにアメリカ西海岸のそれを彷彿とさせるような「California」ではなんと曲中にいきなりステージにまたしてもcoldrainのMasatoが登場し、YUJIのマイクを奪うかのようにしてそのハイトーンボイスでサビを完璧に歌い始める。これは全く打ち合わせなどしていなかったようで、猪狩も歌いながらついつい笑ってしまっていたが、さすがに長年一緒に活動してきて、最近も一緒にツアーを回っていただけあってそれぞれの曲を完璧に歌えるというTRIPLE AXEの結束力の高さを感じさせてくれる瞬間である。
ヘイスミのパンクさのビートを担うTask-n(ドラム)がリズムを刻む上でのMCで猪狩は
「これ打ち合わせなしやで?これこそ音楽やん!ライブやん!
コロナになってから音楽とかライブの形が変わってきてしまったけれど、俺はいつだってどうしようもない、我慢しろって言われていても抑えきれないお前たちの気持ちに向かって歌っている!」
と言ったが、Masatoがこうしてステージに出てきて歌ったのもどうしようもない抑えきれない気持ちが溢れ出した結果としてであろう。
猪狩とYUJIのボーカルが入れ替わりながら絡み合っていく「Be The One」というおなじみの曲から、一気に初期へと時間が巻き戻るようなパンクなサウンドによって観客が飛び跳ね、ヘドバンしまくる「Over」と、持ち時間が短いフェスの中でも多彩な時期、サウンドの曲を組み合わせた選曲を聴かせてくれると、これ以上ないくらいに夏を感じさせてくれるのは猪狩とは違った甘く爽やかな声を持つYUJIがメインボーカルを務める「Summer Breeze」で、それがこれ以上ないくらいに夏の到来を感じさせてくれる。
我々がこうして夏に野外フェスに来るのはエアコンが効いた快適な室内で音楽が聴きたいからとかではなくて、こんな倒れそうなくらいにクソ暑いような夏の空の下で汗をかきながら聴きたい曲があるからであるということを最も感じさせてくれる曲だし、そういう曲を持ったバンドが音を鳴らし続けてくれる限りはきっとこれからもこうした場所がなくなることはない。
とはいえここまでは割と最近のライブではおなじみのフェス的なセトリであるのだが、猪狩は急に
「SiMと俺たちの関係は語り尽くせないくらいに長いから、ここからは出会った当時の1stアルバムと、その前のデモCDに入ってる曲からやるわ!」
と言って「I'M IN DREAM」から「I BELIEVE」「Everlasting」と初期曲を連発するのであるが、こうして今のヘイスミで鳴らされるこの曲たちを聴くと、当時のヘイスミが今よりもストレートなパンクバンドであったということがよくわかる。今のようにホーン隊のサウンドが曲のイメージを決定づけるくらいに前面に出てくるようになったのは今のメンバー、つまりはかなすとイイカワケンの加入によるものが本当に大きかったのだと思える。
しかしそんな中で当時からのメンバーである満がステージ下手のスクリーンが組まれた部分をよじ登るというよくわからないような、でも衝動が溢れかえっていることがよくわかるパフォーマンスを見せるのは、猪狩が
「この曲も当時の抑えきれない気持ちを歌った曲や!」
と言って演奏された「Drug Free Japan」。確かにその抑えきれない気持ちは誰よりもステージにいるメンバーが体現しているのであるが、最後に飛び降りた際は心配になるくらいに高い位置まで満はよじ登っていた。
そんな満が持ち場に戻ってサックスを手にすると、再びホーン隊のサウンドが青空に向かって高らかに響き渡る「We sing our song」であり、すでに1stアルバムの段階でこんなキラーチューンをヘイスミが持っていたということを改めて示してくれるのであるが、そんなライブの最後の曲は、最近のライブでは毎回最後に演奏されている「STOP THE WAR」ではなかった。
それはその曲を歌わなくてもいいような状態に戻ったのではなくて、SiMが主催しているこのフェスだからこそ、これまでに何度もSiMと一緒にやってきたライブでハイライトを生み出してきた「Come back my dog」。そのラウドなサウンドは確かに精神だけではなくて音楽としてもSiMやcoldrainと共振するものであり、ステージ上でのメンバーの暴れっぷりはこの状況が変わったらまた変わってくるんだろうなとも思った。何よりもこの曲のキメに合わせたタイトル曲の歌唱を、ヘイスミのツアーだけではなくてあらゆる場所でのライブで普通にみんなが歌うことができるようになって欲しいと思った。
それはこのフェスじゃなかったら思うこともなかったことであるだけに、やっぱりこのフェスで見るヘイスミのライブはここでしか見れないものだったし、今年の夏はバンド主催のHAZIKETEMAZARE FESをはじめ、去年直前で中止になって悔しさをあらわにしていた京都大作戦など、日本中のあらゆる場所でそれを感じさせてくれるライブを見せてくれるはずだ。
1.Living In My Skin
2.Radio
3.California w/ Masato (coldrain)
4.Be The One
5.Over
6.Summer Breeze
7.I'M IN DREAM
8.I BELIEVE
9.Everlasting
10.Drug Free Japan
11.We sing our song
12.Come back my dog
17:00〜 SHIMA [CHAOS STAGE]
かつて2016年のこのフェスに初出演した時も大きなインパクトを残した、SHIMA。今月はSATANIC CARNIVALにも出演しており、より精力的に様々なフェスに出演するようになってきている。
登場するなりEGACCHO(ボーカル)が、
「外にいる人たちも中に入ってきていいですよー!」
と、前方エリアの枠の外にいる人たちに呼びかけると、もうこの曲を聴いた時点でフェスが終わった後にはラーメンを食べるのが確定する麺讃歌「すすれ -Re麺ber-」でスタートして、そのままアウトロとイントロを繋ぐようにして実に自然に、なんなら同じ曲かと思うくらいに突入した「PARISLOTTE」ではこのバンドの掲げる「ZMS」(ザイマス。ありがとうございますの意)ポーズジャンプを繰り広げるというのはSATANIC CARNIVAL出演時と同じ流れであるが、この日はまさにCHAOSな音楽性のアーティストが多いCHAOS STAGEとなっただけに、ユーモラスな部分はもちろんありながらも、SHIMAの鳴らす音楽が実にストレートなメロコア・パンクサウンドとして聴こえてくる。
それは「FUSUMA」においてもそうなのだが、やはりこのバンドは意外なくらいにと言っては失礼であるが、とかくお笑い芸人のようにも見えるEGACCHOのイメージが強いだけに、ライブを見るとSHINYA SYODAのベースと明生によるドラムのビートがこのパンクサウンドを支えているということがわかるし、歪みだけではないサウンドで曲に変化をつけるYUSUKE HIKIDAのギターもそもそものプレイヤビリティの高さを感じさせてくれる。さすが15年に渡ってライブハウスで生き続けてきたバンドである。
EGACCHO「このフェスの良いところは、空が広い!北九州っていう空が広い田舎から来てるから嬉しいね。あとは向こうに石油備蓄基地が見える!石油備蓄基地が!」
SYODA「石油備蓄基地って言いたいだけやろ!(笑)」
EGACCHO「外にいる人も漫画「BECK」のように中に入ってきていいからね。コユキが歌ってたらいつの間にか客席が満員になってるみたいな感じで(笑)」
とやはり我々を笑わせてくれるEGACCHOの芸人的なMCは健在であるが、バンドは最新アルバム「FREAKS」をリリースしたばかりとあって、ここからはこうした激しいバンドが居並ぶフェスにふさわしい、「モッシュ&ダイブ」をタイトルにした「M.a.D」から新作収録曲も披露されていくのだが、そこにはやはりパンクバンドとしてモッシュやダイブをすることができない今の状況への歯痒さのようなものがこの曲を作らせる原動力になったんじゃないかとも思う。
新作からはEGACCHOのラップ的な歌唱がミクスチャーロック的ですらあるというサウンドの幅の広さを感じさせる「medicine」も演奏されると、
「このフェスに来ると、MAHのコスプレしてる人とかいるじゃん。SiMってめちゃくちゃ愛されてるよね。だってROCK IN JAPAN FES.でROCK IN JAPANのコスプレできないじゃん(笑)
でもSATANIC CARNIVALの時はKen Yokoyamaさんにツイッターのフォロー外されたって言ったけど、SiMのSHOW-HATEにも外されたから、すぐに俺をフォローするように!」
と何故そんなにもフォロー外されるのかと思う自虐的なMCで笑わせると、
「こっちのステージは日陰、向こうのメインステージは日向。いつだって立ってるステージをメインステージにしてやると思ってライブしてるけど、いつかはあっちのステージに立ってみたい。2016年、2019年、そして今年と3回全てこのCHAOS STAGE。それはCAVE STAGEに立つにはまだ何か足りないってことなんだろうけど、SiMに「もっと頑張れ」って言われてるような気がする。じゃなきゃ呼ばれてないだろうし」
と、このステージに出続けていることの悔しさも滲ませながら、そんな思いをも肯定して前向きなものに変えていくかのように「BE ALRIGHT」を演奏するのだが、そこから感じられるのはSHIMAがただ面白いバンドというだけではなくて、自分が好きなヤバTやキュウソネコカミのようなまっすぐな熱い思いを持ったパンクバンドであるということだ。
そんな思いが新作の「MAKE IT MAKE IT」のメッセージにも繋がっていき、そして最後に演奏されたバンド最大の代表曲である「USUAL THINGS」ではではそうしたSHIMAの抱える悔しさが全ててポジティブなパワーを放出しまくるように鳴らされていて、観客が楽しそうに腕を上げて踊っている姿は、2016年に
「SiMの運動会(映像作品収録)に俺も出てるんだけど、俺だけ無名すぎてガチの芸人さんだと思われていた!」
と言って爆笑を巻き起こした時以上に、音楽でSHIMAが確かなインパクトを残した証明であった。
これからも爆発的なヒットやブレイクはしないかもしれない。それでもこうしてライブハウスでパンクバンドとして生き続けているということが、いつかこうしたフェスのメインステージのような場所で実を結んで欲しいバンドだと思っているし、一回ライブを見ればこの楽しさと熱さはきっと伝わると思っている。
1.すすれ -Re麺ber-
2.PARISLOTTE
3.FUSUMA
4.M.a.D
5.medicine
6.BE ALRIGHT
7.MAKE IT MAKE IT
8.USUAL THINGS
17:40〜 10-FEET [CAVE STAGE]
この日の2日前にワンマンツアーのファイナルを迎え、しかも翌週から主催フェスの京都大作戦が始まるということを考えると、もはやフェスの準備に集中してもいいくらいであるにもかかわらず、10-FEETはこのフェスにも出演している。それはそのままかつて京都大作戦で伝説的なMCを残したSiMとこのバンドとの信頼関係そのものであると言える。
おなじみの「そして伝説へ…」のSEが流れ、観客がタオルを掲げて待ち構えると、NAOKI(ベース)はこのフェスのベースボールユニフォームシャツを着ており、その時点で10-FEETがどれだけSiMとこのフェスを大事にしているのかということがわかるのであるが、TAKUMA(ボーカル&ギター)がギターを弾きながら歌い始めた1曲目の「ヒトリセカイ」でそのNAOKIは体操選手かと思うくらいの、おなじみの見事な開脚しながらのベース演奏を披露する。2コーラス目では下手の端まで行ってそれをやるあたりが実にサービス精神旺盛であるが、その開脚っぷりと体の柔らかさを見ていると、人間が歳を重ねてもこうして進化できるということをステージ上で示してくれている…のかもしれないとも思う。
さらに同期の音を大胆に取り入れた「ハローフィクサー」へと続くのであるが、どうにもTAKUMAのボーカルの調子が良くないように感じられる。それはライブが続いているという喉の疲労もあるのかもしれないが、耳を気にするような仕草もあっただけにイヤモニの調子が悪かったりしたのかもしれない。とはいえこれまでにもそうしたライブを何回か見てきたけれど、次に見た時には回復したりしてきただけに、そこまで心配にはならないというのもあるけど。
小芝居を挟むことなくTAKUMAがギターを鳴らし始めた「RIVER」ではTAKUMAが2コーラス目で歌詞を「多摩川」に変えたことによって、この川崎が東京から多摩川を越えた神奈川県であることを改めて実感させてくれるのであるが、間奏ではTAKUMAが観客にスマホライトを点けさせると、まだ暗くなりきってはいない空の色ではありながらも客席の前から後ろへとスマホライトウェーブを展開し、さらには後ろから前へもウェーブを起こすのだが、最前に到達した時にそれまでリズムを刻んでいたKOUICHI(ドラム)が立ち上がってポーズを取ってリズムを止めてしまい、
「もう「RIVER」終わったみたいになってるやん(笑)」
と突っ込まれてしまう。そんなやり取りにはついつい笑い声が漏れてしまう。
そんなやり取りの後には早くもTAKUMAが
「アンコールやります!」
とまだ前半を終えたばかりで早くもアンコールへと突入していくのであるが、
「ネットの誹謗中傷とかがなくなったらいいのになぁ。ケンカすんのとかみっともないで」
と言っておおらかなメロディとメッセージが我々を包み込むかのような「シエラのように」が演奏される。京都大作戦まであと1週間。今年はそのSNSでのキツい言葉の矛先が10-FEETの3人に向かいませんようにと心から願う。
そして待望の新曲「aRIVAL」もフェスではこの日が初披露となったのであるが、先日大きな話題になった格闘技の試合のテーマソングであるだけに、その激しく各楽器がぶつかり合うようなサウンドはこうしたフェスという場も「THE MATCH」と呼べる場所なんじゃないかと思うし、こうして巨大な主催フェスを開催するバンド同士であるだけに、年齢的に10-FEETが武尊でSiMが那須川天心と言えなくもないと思う。もちろんまだまだ10-FEETの背中はめちゃくちゃ大きいものであるけれど。
するとTAKUMAが笑い声を口にしてから演奏されたおなじみの「shoes」ではやはり慣れている曲というか、スカパンクと言っていいくらいのスピード感のある曲であるだけにTAKUMAの喉の調子が整えられてきているのがよくわかる。この辺りはさすがライブをやり過ぎなくらいにやりまくって生きてきたバンドならではである。
すると3人が集まって何やら話してから、TAKUMAは
「多分次が最後の曲や。俺たちSiMが大好きやねん。呼んでくれてありがとう!」
とSiMへの感謝を告げると、なぜかSiMのメンバーに呼び捨てにされているのが芸風になってきているNAOKIは
「殴りたいくらいに大好きやで(笑)」
と、その関係性だからこその屈折した愛情を口にしてから、
「お前らテンション上がりすぎて海の中に飛び込むなよ!」
と「goes on」をやるのかな?と思ってしまうフリをしてからの「VIBES BY VIBES」で肝心なとこで奮迅して観客を踊らせまくって終わりかと思いきや、
「まだ残り2分あるわ」
と言ってショートチューン「DO YOU LIKE…?」を演奏すると、それでもなお微妙に残っている時間で四星球の持ちネタを逆輸入した「時間がない時のRIVER」で見事に時間を使い切ってみせた。そのできるギリギリまで我々を楽しませてくれるというのはどんな時でも変わらない10-FEETらしさ。それが我々が笑顔になれるものであるということを、メンバーはきっとちゃんとわかってくれている。
ついに来週からは京都大作戦が始まる。昨年は2週開催のうちの2週目が残念ながら中止になってしまった。しかし今年こそはという思いを10-FEETや出演者、関わる全ての人が持っているはず。かつて参加した時に行った銭湯や飲食店やお土産屋などの京都の人たちは明らかに関東から来たのがわかる自分にも本当に優しくしてくれた。参加者と街の人たち双方がそう思えるような今年からの京都大作戦であって欲しいと心から思う。
1.ヒトリセカイ
2.ハローフィクサー
3.RIVER
encore
4.シエラのように
5.aRIVAL
6.shoes
7.VIBES BY VIBES
8.DO YOU LIKE…?
9.時間がない時のRIVER
18:25〜 ヒグチアイ [CHAOS STAGE]
まさにジャンルもサウンドも世代もバラバラな、カオスという名そのものな出演者が並んだこの日のCHAOS STAGEのトリはまさかこのSiM主催のフェスに名を連ねることになるなんて全く想像していなかった、ヒグチアイ。しかしそこにはSiMのフェスだからこその確固たる理由がある。それを自身で示すための、普段のワンマンには絶対来ないであろう人の前でのライブである。
ピアノ弾き語りでライブをすることも多いし、かつて自分が見たライブもその形態でのものだったのだが、この日のライブはギター、ベース、ドラムとのフルバンド編成で、ヒグチアイがステージ真ん中で客席に向かい合うようにピアノに座り、その周りをバンドメンバーが囲むという立ち位置でヒグチアイがピアノを弾きながら歌い始めたのは今年3月にリリースされたばかりの最新アルバム「最悪最愛」の1曲目に収録されている「やめるなら今」。
それはタイトルだけ見ると諦念的な歌詞の曲に感じられるけれども、その実じっくり聴いていると
「見えない未来を 言い訳にすんなよ
あてのない旅を始めたあの日に
誰の足跡もない場所へ行こうと決めた
恐れていいんだよ 怖がっていいよ
飛び降りる勇気すらなくていい
その弱さはいつかの強みになるから
おまえを信じてるわたしを 信じてるから
なんでも良い そのままで良いから
続けろ 続けろ やめんなよ 続けようよ」
というやめることなく歩き続けていくための曲であることがわかる。それは我々に力を与えるものでありながらもヒグチアイが自身を鼓舞するようなものでもあるし、このステージで聴くことによって、そうして続けてきたからこそこの場所に立つことができているということを示しているものにもなっている。そしてさらに先へ進むための
「続けようよ」
という歌詞の歌唱に滲む凛とした力強さ。それはこの強者バンドしかいないようなこのフェスの中でもそのバンドたちの音圧に負けることは全くなく、聴き手の心に真っ直ぐに突き刺さってくる。
日常の風景を丁寧に詳細に、しかしヒグチアイの視点だからこそのもので描写した「前線」もまた
「おまえに言ってるんじゃなくて
わたしに叫んでるんだよ
逃げるな 逃げなければ
その場所が前線だ」
という歌詞がこのアウェーと言っていい場所に立っている自身を鼓舞しているかのようでもあるが、それがヒグチアイの個人的なものではなくて、最後には
「隣を追い越していく人も
遠く離れていく人も
誰もが立っているんだよ
自分だけの前線へ」
という歌詞に着地することによって、我々が生きている日常の生活そのものが「前線」であり、自分1人が誰か1人になり、それが連なることで我々に向けて歌っているということを感じさせてくれる。それはどうしたって我々が「1人」であることを実感せざるを得ないものでもあるけれど、でも自分だけではなくて誰もが1人であるということを同時に感じさせてくれる。それはもちろん歌っているヒグチアイも含めて。
で、なぜそんなヒグチアイがこのフェスに出演しているのかというと、アニメ「進撃の巨人」のテーマソングをSiMとともに務めているからであり、そうした縁を大切にしてくれているとSiMのことを評するのだが、その際にテーマソングを担当するという発表をするタイミングを、自身の方が先輩だからSiMのタイミングに合わせたことによって、その謝罪もかねてこのステージのトリにしてくれたんじゃないかと邪推していたらしいが、この日実際にSiMのメンバーと会話した際にはそうした意図はなかったという。そしてこの日がメンバーと会ったのはまだ2回目だという。
そんな始まったばかりの関係性を開陳したところで、やはり日常のなんでもないようなことを歌詞の中に見事に落とし込み、それが人生を総括するような歌詞へと展開されるというのが実に見事な「ラジオ体操」、新作からの生命や人生の儚さと力強さをバンドサウンドの力強さも伴うことで同時に感じさせてくれるような「まっさらな大地」と、この短い時間の中でもこれでもかというくらいに完全にヒグチアイの世界の中に引き込まれていく。気付けば空も完全に暗くなっているというシチュエーションがより一層その世界に浸らせてくれるのは、照りつける日光の下がとても似合うような音楽ではないからで、そうしたところもSiMからのリスペクトの形と言えるだろう。
するとヒグチアイは
「今日はこうしてバンドメンバーがいてくれるけれど、普段は1人でライブをやることが多くて。こういうフェスに出ると仲間がいるバンドっていう存在を羨ましく感じることもあるけれど、でも孤独というのは誰しもに存在していて、その1人の孤独が集まっているだけなんだなって」
という言葉もどこかSiMの持っている世界観と通じるところがあるのだが、その言葉の後に最後に演奏された、ヒグチアイとSiMを繋ぐきっかけになったことによって、バラードと言っていいような曲であるのに観客の腕が上がる光景が広がった、ウッドベースのサウンドも用いられた「悪魔の子」に宿る情念とともに存在する愛の深さこそがSiMと最も通じるものなのかもしれないと思え、そんな存在を繋ぎ合わせた「進撃の巨人」という作品やそのスタッフの凄さを改めて実感させられた。「悪魔の子」ってタイトルだけ見たらMAHのこととも取れてしまうだけに。
演奏が終わってからヒグチアイはバンドメンバーを1人ずつ丁寧に紹介してステージを去っていった。この日のこのステージをヒグチアイが務めたということが、このフェスがラウドバンドばかりのフェスではなくて、形態やサウンドやジャンルは全く違えど、曲げない信念の強さを持って活動しているアーティストが集まるフェスであるということを示していた。このフェスで見れるとは思っていなかったヒグチアイのライブは誰よりもそのことを証明していたという意味で、今年のこのフェスになくてはならない存在だったのだ。
1.やめるなら今
2.前線
3.ラジオ体操
4.まっさらな大地
5.悪魔の子
19:05〜 SiM [CAVE STAGE]
そしていよいよこの日のトリ。SiMが今年のこのフェスの初日を締めるべく登場。すでにMAH(ボーカル)はオーラルのライブに登場しているが、それでもやはりバンドそのものが持つオーラも相まって、どこかラスボスを待ち受けるかのような独特の緊張感があるのもまたこのフェスでのSiMのライブならではだ。
そんな空気に包まれる中でメンバーが登場すると、GODRi(ドラム)がまさにゴリラのように自身の胸をバンバン叩く中、そのままステージ左右のスクリーンにはメンバーの姿だけではない映像が映し出される。それは「進撃の巨人」の巨人そのものであり、ということはもちろん最初に演奏されたのはその主題歌として国境を越えた大ヒット曲となり、地上波のゴールデンタイムの音楽番組にも出演することになった「The Rumbling」。すでにみんな曲を耳にしているとは思うけれど、やはりこのフェスでついにライブ解禁である。MAHのデスボイスの連発も含めたその音の重さはまさにスクリーンに映し出される巨人たちがこちらに迫ってくるかのような迫力を感じさせる、紛れもなく新しいSiMの代表曲である。
そうした主催者ならではの演出から、「レゲエパンクバンド」としてのSiMらしさを全開にする「CAPTAiN HOOK」で一気に演奏とライブそのもののスピードを上げ、客席はヘドバンの嵐が起こる。その光景を見ていて、去年はまだ人数制限がある中での開催だっただけに、気を使わなくても自ずと人と人との距離が空きまくっていたことを思い出す。それだけに今年のこの人数でのヘドバンはようやくこのフェスらしい光景が去年よりも戻ってきてるんだなと感じざるを得ない。それはアルバムとしては最新作となる通称「神盤」収録の、どこか去年こうしてフェスを開催することを批判していた人への皮肉のようにも感じられる歌詞の「SiCK」も同様で、いつもと変わらぬ革ジャンというロックスタイルのSHOW-HATE(ギター)も、オレンジ色に伸びた髪型のSHIN(ベース)も時には楽器をぶん回すように飛び跳ねまくる激しい演奏が繰り広げられている中ではあれど、このフェスが去年から前に進めていることがハッキリと実感できて少しうるっとしてしまう。
そんな感慨を本人も感じているのか、MAHも
「このフェスが時期的に夏フェスの先駆け的に開催されるフェスだからこそ、この後に開催されるフェスが今年は続くように開催されてくれたらなと思っています」
と、各地の夏フェスへの思いを口にしたかと思いきや、
「なんて思うわけないだろ!雨がめちゃ降ったり、いきなり中止になる京都大作戦とか。あれはもうあのフェスの持ってる業だな!」
と悪魔らしく急に毒づいてみせるのだが、MAHの本心はもちろんこれからの夏フェスの開催と成功を祈っているはずだ。じゃなきゃそもそも自分たちがそうした他のフェスに出演しないわけなだけに。
するとここで早くもMAHによる
「死ねー!」
の絶叫とともに「KiLLiNG ME」が演奏されることによって早くもライブの、なんならこのフェスの一つのクライマックスが刻まれた感すらあるのだが、それはこの曲が紛れもなくこのフェスの歴史を作ってきた曲だからだ。それがある意味では万感の思いを持って鳴らされた去年よりもフラットに演奏することができている。まぁやっぱり昔みたいにこの曲でダイブが起こる光景を見たくなるけれど。
するとステージに電話の着信音が流れて、MAHがその電話を取るというアクションを見せてから始まる「Fall In Love With You」もまたこのフェスで何度も聴いてきた曲である。そうした曲たちをやたらと感傷的かつ感動的に思わないように聴くことができている。それはこのフェスに至るまでにもSiMがいろんな場所でライブをやって、いろんな曲を鳴らしてきたからだろう。
そんな中でMAHは
「あのSiMがですよ?何とメンバー全員父親になりました!」
と告げるのだが、それはSHINに子供が生まれたからであり、MAHは自身に子供ができた時に作った曲である「FATHERS」を、当時は子供がいなかったSHINは複雑な感情だっただろうなと気を遣いながら、こうしてSHINも父親になったことで久しぶりに演奏する。その際にマイクスタンドを持ってくるのを忘れたスタッフを睨みつけるという一幕もあったが、そんな笑えるような瞬間がこの曲のシリアスなバラードという曲調と中和しあって、程よく浸れる感じで聴くことができるようになっていたのは狙ったものなのかもしれない。かつてバンジージャンプをさせられた時にはまだ実家で親と暮らしていることをバラされたSHINが父親になったというのは年月の経過を感じざるを得ないけれど。
ここまでにMAHはこの日やたらと「アリガトウゴザイマス」を外人っぽい発音で口にしていたのだが、それは「The Rumbling」が国を超えて大ヒットしたことによって、アメリカのレーベルから声がかかり、アメリカ進出を果たすことになったことを発表する。しかしながらアメリカでばかり活動するわけではないことをしっかり口にして観客を安心させてくれるあたりが優しさを感じるけれど、ヒップホップとR&Bが音楽シーンのメインストリームになっているという今のアメリカでSiMの音楽がどう響くのだろうか。しかしそれにしても「進撃の巨人」の影響力は凄いんだなと改めて思うばかりである。そのアメリカ進出に向けてすでにレコーディングをしているという新曲を急にやろうとしてSHOW-HATEが慌てるという一幕もあったけれど。
そんなSiMの自身のバンドをストレートなラウドロックで存在証明するとも言えるような「EXiSTENCE」で観客をさらに歓喜、狂喜させて再びヘドバンの嵐を巻き起こすと、
「去年の俺のこの曲のMCが変な風に解釈されてしまったんだけど、俺は本当にこの曲でみんなに思いっきり歌って欲しいと思っている!」
と叫んで演奏された、スクリーンが4分割されてメンバー一人一人の演奏する姿が同時に映し出される演出もまた恒例の大合唱アンセムの「Blah Blah Blah」でも響くのはやはりメンバーのコーラスだけ。それは観客が今この状況で歌いまくってしまうと、必ずそれが拡散されて来ていない人に叩かれることになってしまう。みんな自分たちが好きなバンドを、そのバンドが作ってくれているフェスを守るために歌うのを我慢している。MAHはもしかしたらそれすらも違う解釈だと言うかもしれないけれど、自分は見ていて確かに観客のそうした思いを感じていたし、それこそがこのフェスがこうして2年連続で開催することができている理由であると思う。
しかしMAHはそんな観客の姿を見ながら、
「この形でのDEAD POPは今年で最後な気がする。この形に慣れてしまったらみんながロボットみたいになってしまう。そうなったらダメだ。だから来年はモッシュしたりしようぜ!」
と口にする。去年より今年が確実に前に進めたことを実感できたからこそ、そうして来年への確かな希望を描くことができるのだろう。モッシュやダイブが必ずしもなきゃいけないわけではないけれど、MAHはかつてブログに
「ロックバンドは自分たちの見たい景色がそれぞれある」
と記していたことがある。SiMにとっての見たい景色がそうしたものであるということはきっと今でも変わっていないし、だからこそこうしてそれを取り戻すために少しずつでも先へ進もうとしているのだ。来年はそういう景色が見れるだろうからこそ、「f.a.i.t.h.」での前髪を分けての「前髪ウォールオブデス」もまた今年で最後なのだろう。
そんな「f.a.i.t.h.」はアンコールやライブの最後に演奏されるのがお決まりであっただけに、早くもこれで本編は終わりかな?と思っているとMAHはその姿が自身のかつてのヒーローである清原和博をも彷彿とさせる黒いバットを持つと、
「でもまだみんなが歌えない代わりに俺たちが全員で歌うから!みんな力を貸してくれ!」
と言ってこの日の出演者がステージ上に集合しての「BASEBALL BAT」へ。coldrainのMasatoというこの日の出演バンドではないメンバーが率先してマイクを取って歌い、ヘイスミ猪狩はMAHの前に立って被ろうとするというその光景は去年は見ることが出来なかったもの。中にはフェスのフラッグを持って振っているメンバーもいて、そのSiMの愛されっぷりと、こうしてステージ上で出演者たちがわちゃわちゃすることができるくらいにまで確かにこのフェスが、ライブシーンが戻ってきているということがあまりにも感動的すぎて、ついつい涙が出てきてしまった。それは去年このフェスで浮かんでしまった涙とは全く違う、見れて嬉しいものが見れたからこそのものだった。そのまま出演者全員(なぜかNOISEMAKERが音頭を取らされる)での写真撮影も含めて、去年とは全く違った、心の底から本当に楽しかったDEAD POP FESTiVALの初日だった。
去年のMAHのMCは映像を見るまでもなく今でもちゃんと覚えている。
「音楽やライブが明日にでも消えてなくなってもいいっていう奴がこの外には大勢いる。でも俺はどうだ?お前はどうだ?俺は音楽が、ライブがあったからこそ、このクソみたいなこの国で今日まで生きて来れた!」
その言葉を反芻して今年の自分に問いかけてみる。自分は今でもどうだろうか?やっぱり音楽が、こういう場所がなければ生きている実感を得ることができない。それは人それぞれそう感じるものは違うだろうけれど、自分にとっては音楽でありライブだった。きっとそれはこれからも変わることがないからこそ、来年もまたここでこうしてSiMのライブを観ているんだろうなと思うのだ。
去年は夏フェスの雲行きが怪しくなってきた時期の開催だった。だから夏フェス感みたいなのは全然なくて、むしろ厳戒態勢的な感すらあった。でも今年はこの暑さも含めて、一歩ずつでも夏フェスらしさが戻ってきている感覚があった。来月からまたいろんな場所でそう思うことができるように。今年はきっとその夏フェスの起点がこのフェスになるはず。まだ全てではないけれど、最高に熱くて最高に楽しい夏フェスが、ようやく我々に戻ってきたんだ。
1.The Rumbling
2.CAPTAiN HOOK
3.SiCK
4.KiLLiNG ME
5.Fall In Love With You
6.FATHERS
7.EXiSTENCE
8.Blah Blah Blah
9.f.a.i.t.h.
10.BASEBALL BAT 全員集合ver.
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