LOVE MUSIC FESTIVAL 2022 day2 @ぴあアリーナMM 6/19
- 2022/06/20
- 21:38
前日に続いてのぴあアリーナでのLOVE MUSIC FESTIVAL 2022の2日目。
この日は「リスペクト」をテーマに掲げているだけに、世代が若い方から順番に影響源へと向かっていくという実にわかりやすい流れである。
この日も開演前には主催者の三浦ジュン氏による前説が行われるのだが、今回この4組とした理由をそれぞれの影響と関係性を語りながら、
「いろんなフェスが開催されてるけど、コロナがあって人数制限があって、ステージが減ったりして出演するアーティストが同じような感じになってる。これはディスってるわけじゃないですけど、好きなバンドを観に行くっていうのももちろんなんですけど、なかなかこういうイベントやフェスが新しいアーティストとの出会いの場になれてないんじゃないかって」
と口にする。それは本当によく分かる。複数のステージを作ることができなくて、ほぼメインステージクラスに出るようなアーティストがいないという状況になりつつあるから。そこへこのフェスは「リスペクト」というテーマを持って一石を投じようとしている。
ちなみにこの日はトリのユニコーンにちなんで、番組のセットの象徴であり、このフェスのステージど真ん中に聳えるペガサスのオブジェの翼をたたみ、発光するツノを装着したユニコーンへと変身させるという美術担当スタッフの方々の凄まじい気合いの入りっぷりである。
16:00〜 Cody・Lee(李)
この日も森高千里による映像での注意喚起を経てのトップバッターはCody・Lee(李)。先月メジャーデビューしたばかりの新人と言える存在であるが、すでに2020年のBAYCAMPのオープニングアクトとしてこのぴあアリーナのステージに立っている。
神聖な雰囲気のSEでメンバー5人がステージに登場すると、より見た目の雰囲気がフジファブリックの山内総一郎に似てきている高橋響(ボーカル&ギター)が同期のキーボードのサウンドも取り入れながら歌い始めるのは、先月リリースさればかりのメジャーデビューアルバム「心拍数とラブレター、それと優しさ」の1曲目に収録されている「愛してますっ!」からスタートすると、そうした見た目からもフジファブリックからの影響を強く感じさせるバンドであるけれど、フジファブリックにはない「パンク」の要素も感じさせながら、力毅(ギター)の幾何学的な複雑なギターリフが絡む「W.A.N.」と、やはりリリースされたばかりということもあって新作の曲をメインに演奏していくのだが、ニシマケイ(ベース)と原汰輝(ドラム)のリズムも含めて爆音を鳴らしまくっているというのはやはりフジファブリックの影響だけではないバンドであることを示している。
すると高橋はこうしてフジファブリックと同じライブに出れていることの喜びを語りながら、自身のバンドの原体験が中学生の頃にフジファブリックのコピバンをやったことであり、その頃の気持ちを思い出すようにして、当時コピーしていたという「夜明けのBEAT」を、原のカウントも含めてコピーするのであるが、やはりバンドが違えばサウンドが変わるのは当然のことであり、ギター2本に尾崎リノ(ギター&ボーカル)も加えた音圧でカバーしてみせる。その出で立ちからもわかるように、高橋は志村正彦よりも曲中での叫び方も含めて、むしろ山内の歌い方を真似ているような感じが強いのだが、間奏では力毅がステージ前に出てきて思いっきり感情を込めたギターソロを弾くという、高橋の憧れがそのままバンドにとっての憧れになっていることを感じさせる。
するとそのままニシマのベースソロから、高橋と尾崎のツインボーカルが歌詞に合わせるように男女の情事を想起させるように淫靡に絡み合っていく「悶々」このバンドの名前を広く知れ渡らせた、多国籍的なサウンドを自分たちのロックへと昇華してみせた「我愛你」では間奏で高橋が山内へのリスペクトを演奏で示すと言わんばかりに背面弾きギターを披露する。
しかし
「やっぱり総くんみたいに上手くはできない(笑)」
と、思った通りには弾けなかったみたいなのだが、高橋のフジファブリックのメンバーの呼び方が「総くん」「ダイちゃん」「加藤さん」というものであるのは、ファンの呼び方そのものだ。だからそこには馴れ馴れしさは全く感じないというか、もはやファン代表としてステージに立っているからこそのリスペクトすら感じさせる。
そんな高橋は
「もう好きって言い過ぎて気持ち悪いって3人に思われてるかもしれないですけど(笑)、さっき楽屋に挨拶に行った時にお手紙を渡して(笑)裏面までビッシリ埋まっちゃったんだけど(笑)、気持ち悪かったらすいませんってちゃんと書いておいた(笑)
フジファブリックはライブもしょっちゅう観に行っていて、総くんのアクリルスタンドを2つ持ってて、1つは家にあるんだけどもう1つはあそこに置いてある(笑)」
と言うとスクリーンには高橋のギターアンプの上に置かれた山内のアクリルスタンドがアップで映し出され、思わず観客の笑いを誘う。そして、
「こうやって一緒のライブに出演できたから、もうモチベーションなくなっちゃうと思ったんだけど(笑)、もっと僕たちが大きくなって、いつかZepp以上のライブハウスでフジファブリックと2マンライブができるようにこれからも頑張ります!」
と新たな自分の夢を力強く語る。きっとその夢がこれからのバンドの活動の原動力になっていくのだろう。
そんな言葉の後に演奏されたのは、高橋のポエトリーリーディング的な歌唱から始まり、サビで一気に壮大に高まっていく「LOVE SONG」で、フジファブリックに、このフェスのスタッフや関係者に、そして目の前でこのライブを観てくれた人への愛を音にして鳴らすと、最後にトドメとばかりに演奏された、爆音パンクの「when I was city boy」では高橋がギターを高く掲げながらフジファブリックの全アルバムタイトルの名前を羅列し、
「その全てが今の自分を作ってきた!」
と思いをぶちまける。その一方では力毅もその中性的な、美しい金髪姿からは想像できないくらいに思いっきりギターをぶん回しまくるのだが、その凶暴とも言えるようなパンクサウンドとパフォーマンスは、フジファブリックが何よりも大好きだけれど、フジファブリックと同じことをやっても意味は全くなくて、フジファブリックに影響を受けた自分たちがフジファブリックの音楽を下敷きにしながらも、どれだけこの5人だからこその音楽を鳴らすことができるかということを示しているようだった。
そうして高橋のフジファブリックへの愛を伝えまくる大会みたいですらあったライブであるが、力毅もMCの時には出番前にJUDY & MARY「Over Drive」がBGMとして流れていたことに触れ、
「僕はジュディマリを聴いてギターを始めたんで、それをわかっていたのかわからないですけど、出番前に「Over Drive」が聴けて嬉しかったし、テンションが上がった」
と言っていた。前日にもgo!go!vanillasのライブ前にはTHE BAWDIESやw.o.dというロックンロールバンドの曲が流れていた。それはこのフェスが出演者にどんな流れでバトンを渡すかを考えているからの選曲であり、きっと力毅がジュディマリが原点だということをわかっていたのだ。じゃなきゃこんなピンポイントでジュディマリを流すようなことはしない。そこには出演者への、音楽への愛が確かにあった。それをタイトルに掲げたフェスであり、番組だから。
1.愛してますっ!
2.W.A.N.
3.夜明けのBEAT (フジファブリックのカバー)
4.悶々
5.我愛你
6.LOVE SONG
7.when I was city boy
17:00〜 マカロニえんぴつ
ステージ登場前の森高千里による映像での紹介で「番組には7回出演している」というのを聞いて「そんなに出てるの!?」と驚いてしまった。もちろんこの2日間の出演者の中でもダントツで最多出演。しかもこのフェスにも2年連続出演という、もはやミスターLOVE MUSICと言ってもいいんじゃないかと思うくらいの存在である、マカロニえんぴつ。
おなじみのビートルズ「Hey Bulldog」のSEでサポートドラマーの高浦"suzzy"充孝を含めた5人でステージに登場すると、長谷川大喜(キーボード)が明らかにマカロニえんぴつの曲ではない、90年代感を感じさせるキーボードのフレーズを弾き始める。それはユニコーン「Maybe Blue」のものであるのだが、そのサウンドがPVの映像でしか拝見したことのない当時のメンバーの向井美音里の姿を想起させると、しかもそこから同じくユニコーンの「I'M A LOSER」へと繋がり、バンドが完璧にコピーしてはっとりも演奏でリスペクトを示すような歌唱を見せるのだが、そもそも編成がユニコーンと同じこともあるのだが、はっとりの歌唱もやはりこうしてユニコーンの曲を歌っていると奥田民生に実に似ているんだなと改めて感じる。もちろんまんま奥田民生ではないけれど、ファルセットをほとんど使わないというあたりも奥田民生歌唱の影響なんだろうかとも思う。
そんな先制攻撃からすぐさま高浦のドラムロールから「洗濯機と君とラヂオ」へと繋がり、フライングVを操る田辺由明(ギター)のシャープなサウンドと高野賢也(ベース)と高浦によるダンサブルなリズムで観客は一気に楽しそうに腕を挙げて体を揺らす。はっとりは間奏に入る前に
「待ってたかい、LOVE MUSIC FESTIVAL!」
と叫ぶと、その言葉に応えるかのように大きな拍手が巻き起こるのだが、最初にユニコーンのカバーを歌ったことによる影響もあるだろうし、ユニコーンのメンバーがこの後に出てくるというのもあるだろうし、気合いに満ち溢れまくっているのがはっとりの歌声からハッキリとわかる。ちなみに曲中の照明がステージ真ん中から赤と青に分かれていたりするのは「hope」のジャケットを彷彿とさせる、愛ある演出である。
長谷川の流麗なピアノによるイントロから手拍子が起こる「レモンパイ」ではタイトルに合わせてステージが黄色い照明で染まり、田辺がブルージーなギターを奏で、さらには「クレヨンしんちゃん」の映画タイアップである「はしりがき」でロックバンド・マカロニえんぴつとしての疾走感溢れるサウンドを響かせてくれる。その音に応えるようにたくさんの観客が腕を挙げるのであるが、その演奏の瑞々しさはもちろん、歌唱に至るまでのスケールの大きさはさすがすでに横浜アリーナなどでもワンマンを行うようになったバンドならではである。
「昨日はジャニーズが出演したということで。凄いですよ、ジャニーズは。だって目指しても絶対なれないもん(笑)どうも、ブサイクです!(笑)」
とはっとりは自虐的に挨拶をしたのだが、そこにはジャニーズにはなれないけれど、ロックバンドである、ロックバンドだからこそこうして一本の糸で繋がった「リスペクト」という1日を作ることができるという矜持を感じさせるものでもあったのだ。
すると長谷川のピアノとはっとりの歌だけという削ぎ落とされたサウンドで始まるからこそ、この曲のメロディの美しさと素晴らしさがこのアリーナ規模の隅々にまで響き渡るような「なんでもないよ、」で一気に会場を聴きいるような空気へとガラッと変えてしまうと、田辺と高野によるカウントから始まり、長谷川がストリングス的なサウンドを重ねる「恋人ごっこ」へと繋がっていくという、凄まじいまでの圧倒的な名曲の連打へ。
しかしながら今の若手バンドの中でアッパーなわけではない、こうしたタイプの曲がこんなにもたくさんの人に受け入れられているのは本当に凄い。フェスなどでの盛り上がりや一体感とは全く違う、ただただメロディの力、歌の力だけでその場を持っていく曲。それはこの日も
「もう一度あなたと居られるのなら
きっともっともっとちゃんと
ちゃんと愛を伝える」
というフレーズでの一気に光に包まれるような照明による演出にふさわしい壮大なメロディで実感することができたものだ。
そんなライブ中であっても余韻に浸りたくなるような空気の中でセッション的なバンドの演奏が曲間を繋いでいると、はっとりは
「日々の色々な気分が沈むようなことを、今日くらいはマカロニえんぴつのライブに置いていってはいかがでしょうか!」
と口にして、その言葉から田辺の切なさを感じずにはいられないギターのイントロによる「ブルーベリー・ナイツ」へと繋がると、やはり照明がタイトルに合わせて紫色に染まり、その色を受けて演奏するメンバーの姿もどこかそれまでよりも大人らしく感じられるようになる。
そして高浦の連打するドラムと、長谷川の走り抜けるようなキーボードのフレーズ、さらにはその長谷川が高野と向かい合ってエアベースを弾くというところに至るまでの全てが楽しく感じられる「ハートロッカー」ではリズムに合わせて観客の手拍子もしっかり決まる。やはりというか何というか、この日はこのバンドを観にきた若い観客が1番多い(首にかけているタオルの色彩などからそれはよくわかる)んだなと思うくらいにばっちり決まっていたし、はっとりも指で○を作るくらいであった。
そんな中で一転してシリアスな空気に包まれるのは、アニメ主題歌になっている最新曲の「星が泳ぐ」。この曲も収録される最新EPももう発売を数日後に控えているけれど、この曲はもはやこうしたアリーナ規模の会場で映像なども使って(実際にJAPAN JAMで演奏された際は映像も使っていた)披露されるべきスケールを持った曲であると思う。そう感じるのはやはりはっとりの歌唱の素晴らしさもありながらも、やりたい放題の限りを尽くしながらも限りなくポップであるというマカロニえんぴつらしさを極めたアルバム「ハッピーエンドへの期待は」を経たからこその、その収録曲たちに比べたら急激に違う曲になったかのような突飛な展開はないからなのだが、EPが発売されて他の曲を聴いたらその思いは根底から覆される可能性があるのもまたマカロニえんぴつの予想がつかないところでもあるのだが。
そしてはっとりは、
「私ごとですが、マカロニえんぴつは結成10周年を迎えました!こうして憧れのバンドと、肩を並べるとまでは言えないけれど、ユニコーンもフジファブリックもめちゃくちゃ聴いてきた青春の音楽だから、そんなカッコいいバンドたちとこうやって一緒にやらせてもらってるのは、続けてきたからこそだと思いますし、目の前にいるあなたがいてくれたからです。僕らは年中ライブをやって生きてます。またどこかのライブで会いましょう」
と、一気に人気になったように見えて実はいろんな困難や苦難がたくさんあっても10年間続けてきたバンドとしての説得力に満ちた言葉を口にする。それは我々もそれぞれに今やっていることをずっと続けていさえすれば、いつかなんらかの形で「やっていて良かったな」と思える時が来るということである。
そうした想いを込めるように最後に鳴らされたのは「ミスター・ブルースカイ」。こうしたフェスやイベントだと最後には「ヤングアダルト」を演奏することが多いけれども、この曲を演奏したのはまだこの曲を作った当時はきっとユニコーンと一緒にライブができるようになるなんて思っていなかったはずで、その頃の自分たちに今のメンバーがメッセージを送るかのようだったからだ。そうした歌の力、音の力が確かに感じられたし、
「泣いてみたのに、ただ泣いてみたのに
捨て切れないの何でだ
捨てられないの何でた
ブルースカイ、いつか届け」
と結んだこの曲は、このバンドの音楽は憧れの存在と言える人たちのところにまで確かに届くようになったのだ。泣いていたのは、そんなこのバンドの想いが見ていて伝わってくるくらいに素晴らしいライブだったからだ。
はっとりは本当にいろんな場所で奥田民生、ユニコーンへの憧れを口にしてきたし、他にもGRAPEVINEからの影響と憧れを口にしてはコラボという形でその憧れを現実のものにしてきたバンドだ。今の若手バンドの中でそうして直接的なリスペクト元をハッキリと公言するバンドはそうそう多いわけではない。(ましてや日本のバンドを)
だからこそ、こうした「リスペクト」というテーマのライブの時に真っ先に思い浮かぶ存在がマカロニえんぴつだったりもする。でもリスペクト元と同じことをやるんじゃなくて、この5人だからこそ、ハードロックな曲だったりサウナの曲だったり(どちらも田辺の曲だけど)が生まれたりする。そのマカロニえんぴつの音楽を今聴いている人がまたこれからマカロニえんぴつに憧れてバンドを始めたりするようになるはず。そういうバンドが出てきた時にはこのバンドはめちゃくちゃ良い兄貴分的なバンドになりそうな気がしている。
1.I'M A LOSER (ユニコーンのカバー)
2.洗濯機と君とラヂオ
3.レモンパイ
4.はしりがき
5.なんでもないよ、
6.恋人ごっこ
7.ブルーベリー・ナイツ
8.ハートロッカー
9.星が泳ぐ
10.ミスター・ブルースカイ
18:05〜 フジファブリック
すでにここまでCody・Lee(李)のライブで散々リスペクトの言葉を貰いまくった、フジファブリック。そうした姿を見ていると、もう完全にベテランと言っていい立ち位置のバンドなんだなと思う。
「I Love You」のSEでメンバーが登場すると、この日のサポートドラマーは宮本浩次のツアーにも参加していた、玉田豊夢。最近は伊藤大地であることも多かったが、ドラマーのタイプとしては近しい存在であると思う。山内総一郎(ボーカル&ギター)も加藤慎一(ベース)も手を叩きながらステージに現れ、観客も同じように手拍子することによって、この日は「I Love You」を途中からバンドで演奏することはなく、SEで終わる。
すると玉田が雄大さを感じるドラムの連打を始めると、山内がキャッチーなリフを乗せるオープニング曲は「SUPER!!」なのだが、もう歌い出しの
「洗いたての朝さ」
のフレーズからして山内のボーカルが気合いが入っているというか、漲りまくっているのが凄くよくわかる。あれだけリスペクトを表明されて最高以外のライブを見せないわけにはいかないと言わんばかりの力強いボーカルは、改めて今のフジファブリックがこうしたアリーナ規模の会場でも音を鳴らすべきバンドであることを示している。間奏では山内と加藤がリズムに合わせてギターとベースのネックを左右に振り、観客もその動きに合わせて腕を左右に振るのもアリーナクラスだと壮観である。
金澤ダイスケのキーボードの音色が妖しい雰囲気を醸し出す「楽園」では山内がステージを左右に歩き回りながら歌ったりするのだが、やはりサビでは
「灼熱の衝動 どこにある
掴みたきゃ手を伸ばせ」
というフレーズに見合うような燃え盛る衝動を山内のボーカルから感じることができる。それによってどこか歌謡曲的なサウンドのイメージが強かったこの曲が完全にロックさを感じられるものになっているし、それは山内の
「LOVE MUSIC FESー!」
という叫びもそのイメージを強くしている。
すると山内は
「こっからまだまだ上がっていくぞー!」
と叫ぶのであるが、そう言うということはさぞやアッパーな曲が演奏されるのかと思いきや、まさかの「東京」という選曲であり、思わず「え?そっち?」と思ってしまったりもしたのだけれど、歌詞を
「華やぐLOVE MUSIC FESTIVAL!」
と変えて叫んでいたりしただけに、確かにもはやこの曲は、サビで山内と観客が腕を左右に振る姿も含めてライブにおいては上がる曲と言っていいのかもしれない。
山内「Cody・Lee(李)の真ん中の彼の、1人でフジファブリックへのリスペクトを背負ってくれてるみたいな出で立ち凄かったよね(笑)
でもアクスタはないかなぁ(笑)」
金澤「2つあって、家に1つあるって言ってましたからね(笑)」
加藤「だから僕も今日は置いてみました(笑)」
山内「はぁ!?いつの間に!?」
というやり取りもあり、この日は加藤が自身のベースアンプの上にCody・Lee(李)のアクスタを置いているというお返しを見せたのであるが、山内のリアクションからして完全に加藤が単独で急遽やったことであるということがわかる。
そんなやり取りを経ると山内は
「今日は「リスペクト」がテーマっていうことで、Cody・Lee(李)が僕たちの曲をやってくれたり、マカロニえんぴつがユニコーンの曲をやっていたりして。これは伝説の夜になりますよ。僕らもカバーをやってみようと思ったんですが、好きな曲が多すぎたんで、メドレーにしてみました」
と言うと、金澤が演奏する性急なストリングスのサウンドで始まったのはもちろんユニコーンの「大迷惑」であり、これはフジファブリックの師匠的な存在であるユニコーンの曲で好きな曲がありすぎるからこうしてメドレーにしたんだなと思っていたのだが、その後に繋いだのはなんと自分たちをリスペクトしまくってくれているCody・Lee(李)の「我愛你」であり、やはり原曲よりもさらに研ぎ澄まされたサウンドでのアレンジとなりながらも、これはこの日の出演者全員へのリスペクトを示すメドレーであることがわかる。しかし憧れ過ぎているフジファブリックが自分たちの曲をカバーしてくれたというのはCody・Lee(李)の高橋はどんな顔して見ていたんだろうか。
なので当然次はマカロニえんぴつの曲なのだが、金澤がギターを弾きながら、ストリングスサウンドは同期に任せるという形での「恋人ごっこ」は、まさかフジファブリックがこうしたテーマの曲を歌うとはという驚きもあるのだけれど、それを違和感なく成立させているのはやはり山内のさらに圧倒的に進化した歌唱力あってこそだ。
フジファブリックはもともと対バンライブも定期的に行っており、コロナ禍になる前はゲストのバンドとセッションしたりもしていたのだが、コロナ禍になってからの対バンライブでもゲストの曲をカバーするということをやっていて、昨年はまさかのMy Hair is Badの「味方」すらもやはり山内の歌唱力を生かす形でカバーしていた。実はもうあらゆるタイプのバンドの曲をカバーできるくらいの巧者バンドなのかもしれないし、そこからはこのバンドの音楽技術の高さを改めて感じることができる。
そんなメドレーの最後は山内のイントロのギターのフレーズだけで、この後に出てくるバンドのファンがハッとした感がよくわかったのはもちろんユニコーンの「すばらしい日々」。もはや本家がやらなそうな名曲をフジファブリックがやるという感すらあるが、この曲でも金澤はギターを携えており、その削ぎ落とされた、山内の歌をメインに据えたサウンドはこの曲の、そしてユニコーンの音楽の名曲っぷりと普遍性の高さを感じさせてくれるものだった。
そんなメドレーの後にキャッチーかつ浮遊感のある同期の音が鳴り、加藤が手拍子を始めると観客も合わせるようにして手拍子をするのは「Sugar!!」であり、その加藤はサビ前ではステージ前に出てきて「もっともっと!」とばかりに腕を広げて観客を煽る。普段はバンドを支えるというイメージが強いくらいに控えめな加藤がそうするからこそグッとくる場面なのだが、山内のボーカルも金澤のコーラスも含め、まさに今この瞬間のフジファブリックが全力で走っていることを伝えてくれるかのような熱演だ。
そしてこの日は前置きもなく、金澤のピアノが一瞬鳴っただけでそれとわかるような大名曲のメロディに包まれるのはもちろん「若者のすべて」。どんなバンドのファンであってもそんなことは関係なしに胸に沁み入る歌の力。名曲をより名曲として伝えることのできる力を今の山内のボーカルは獲得している。またこれから来る夏の野外フェスでもこの曲を聴きながら最後の花火を眺めていたいものであるけれど、この日のフジファブリックによるリスペクトを示すメドレーもまた、何年経っても思い出してしまうんだろうなぁ。
すると山内は今のこの世の中の状況だからこそ、それぞれ会社や学校や家庭でいろんな辛いことがあるであろうことを口にしながら、
「僕らにとってはこういうライブの場所こそが生き甲斐なんです。フジファブリックはみんなの居場所を守り続けることを約束します」
という強い意志を口にすると、ここにいるすべての人に光が降り注ぐようにという想いを込めて演奏したのは「光あれ」。
サビでは山内の慈愛を感じるようなボーカルに合わせて観客が左右に腕を振るのであるが、その鳴らしている音が本当にそのままこれからの我々の光になっているかのように輝いているようにすら感じる。今のフジファブリックはこうしたフェスやイベントなどで近年制作された曲を演奏することが多いセトリになりがちだけど、それはその曲たちにメンバーが自信を持っていること、何よりも今の自分たちが伝えたいことが音楽に反映されたり、想いを込めたりしたリアルなものであるからだ。それをこの「光あれ」は最も強く感じさせてくれる。そう思えている限り、これからもフジファブリックは我々の居場所であり続けてくれるはずだ。
この日、すでにCody・Lee(李)がめちゃくちゃフジファブリックへの愛と憧れを口にしていたり、マカロニえんぴつがユニコーンの曲を演奏していたりと、「リスペクト」というと基本的には影響を受けた後輩が影響を与えてくれた先輩へのリスペクトを表明するというイメージが強くなりがちだ。
でもこの日のフジファブリックのライブはそうした後輩から先輩への一方向へのリスペクトだけではなくて、先輩が素晴らしい音楽を作っている後輩へもリスペクトを向けることができるということを示していた。それは音楽シーンに生きる人だけではなくて、我々が日常生きる生活においてもそうできる、そうすべきことでもある。その誰に対しても優しい視点や謙虚さを持ったこのバンドはそうしたライブ以外の我々が生きている場所での生き方のヒントをくれる。
1.SUPER!!
2.楽園
3.東京
4.LOVE MUSIC スペシャルメドレー
大迷惑 〜 我愛你 〜 恋人ごっこ 〜 すばらしい日々
5.Sugar!!
6.若者のすべて
7.光あれ
19:10〜 ユニコーン
こちらもすでにマカロニえんぴつとフジファブリックからのリスペクトを浴びまくった中でのトリとしての登場となる、ユニコーン。「Love Music」の番組には出演したことはないが、主催者は解散前からずっと自身の大好きな青春のバンドであることを口にしていただけに、待望の出演である。
おなじみの揃いの衣装を着てステージに登場した5人がそれぞれの立ち位置に立って楽器を手にすると、川西幸一(ドラム)のスティックを筆頭に、ステージ背面に聳えるユニコーンのオブジェを全員が指差し、ユニコーンのツノが光るというのはわざわざペガサスから変身させてくれたこのフェスへの感謝を感じさせる。もうこの段階で特別なライブになることはすぐにわかるというか、なんならユニコーンのワンマンなんじゃないかと思うくらいの演出である。
ABEDON(ギター、キーボード、ボーカルetc)、奥田民生(ボーカル&ギター)、手島いさむ(ギター&ボーカル)の順番にギターを鳴らすと、髪色が赤くなったことによって若返ったようなABEDONがメインボーカルを務める、昨年リリースの最新アルバム「ツイス島&シャウ島」のタイトル曲でスタートするのだが、驚くのは客席で前日のジャニーズWESTの時を上回るくらいのリングライトが客席で輝いていたこと。確かにユニコーンは今でこそ完全なるおっさんバンドであるが、かつてはアイドル的な人気も誇っていたということを考えると納得するところもなくはないのだが、しばらくライブを見ていない間にユニコーンのライブの光景がこうなっているとは思ってなかった。
すると最新作から一気に1990年という、そんなに昔の作品、曲である感じが全くしないくらいに違和感なく最新の曲から繋がる形で演奏された「ケダモノの嵐」収録の「スターな男」では見るたびにパーマの当て具合が強くなっている気がする奥田民生の歌唱する姿が飄々としながらもやはりロックスターのオーラを感じさせる。というか手島のギターソロを聴いたりしているとやはり抜群に演奏が上手いし、その上手さを大袈裟にひけらかしたりすることなく、あくまで自然体にやってのけている。それが実に再結成後のユニコーンらしい部分である。
するとここまでは前に出ずにバンドを支えるベースに徹していた、恐ろしいくらいに見た目が全く老けない男・EBIのタイトルコールによって始まった「スペースカーボーイズ」ではそのEBIが
「リフトアップ」「ローダウン」「ナビゲーション」
などの車やそのメンテナンスにまつわるコーラスをするのだが、普段のライブでは噛んでなかなか言えない
「火が出る赤いやつ」
を完璧に言えたのだが、完璧に言えたら言えたで笑えてしまうという理由で奥田民生が吹き出してしまう。この曲はかつて「車」をテーマにした作品をソロでリリースするくらいに車好きである奥田民生ならではのユーモアが炸裂しながらロックンロールと融合している。
すると今度は手島がメインボーカルを取る、
「運まかせ 風まかせ」
という旅の行き先を決めないで流れていくというのが手島らしさでもありユニコーンらしさにもなっている「7th Ave.」、
「ロックンロールバンドは奏でるよ この地球の仕組みを
今日は海 明日は風
波のリズムは毎日違うよ よーく見て 耳すまして」
というフレーズが単純なようでいてロックバンドの真理を言い当てているかのような雄大なメロディによる奥田民生の「ロックンローラーのバラード」と、曲ごとにボーカルも作者もコロコロと入れ替わっていくのだが、この全員が優れたソングライターでありボーカリストでありながらプレイヤーであるというのは、ユニコーンから強い影響を受け、アルバム内でメンバーそれぞれが作曲をしているマカロニえんぴつに受け継がれている。そこに曲を作った人の人間性が現れるという意味でも。
するとABEDONがピアノを弾きながらソウルフルに叫ぶ、もろにリトル・リチャード(THE BAWDIESにも多大な影響を与えている)な「ミレー」は今人気の女性シンガーのことを歌っているのではなくて、
「やってミレー やってミレー よーくミレー よーくミレー」
という「みろ」を方言的に言っているものであるというのがユニコーンなりの言葉遊びであるが、なんとこの曲では奥田民生がサックスを吹くという、かつてスカパラのゲストボーカルを務めた男がホーン楽器でスカパラに参加できそうな演奏を見せると、間奏ではABEDONのピアノの上に立ってサックスを吹きまくる。もともと奥田民生はソロですべての楽器を自身で演奏するというスタイルで曲を作っていたが、まさかホーンまで演奏するようになるとは。その姿はもう50代後半、還暦も見えてきている年齢であってもまだまだ新しいことに挑戦できるし、ミュージシャンとして、人間として進化していけるんだということを伝えてくれる。感動とはかけ離れた空気を醸し出すバンドだけれど、そのあまりのカッコよさにはどうしたって感動してしまう。
さらに今度はマイクスタンドを手にしてステージ前に出てきたのはEBIであり、個人的にはどうしてもキュウソネコカミの「米米米米」(「ベイマイベイベー」)を思い出してしまう「米米米」(マイベイベー)」が披露され、EBIは自分でクラッカーをステージ上で発射するというパフォーマンスでもってこの曲では完全に主役になってみせるのだが、EBIがボーカルになってもベースレスにはならないのはABEDONがこの曲でベースを弾いているからである。マルチプレイヤーが揃うバンドは数あれど、やはりユニコーンはその技術、経験、発想がずば抜けまくっているバンドだと思うし、クラッカーを発射した後のゴミをEBIが慌てながら自分で片付けるというユーモアも忘れないあたりがさすがすぎる。
すると奥田民生がカウベルを持ち、手島とABEDONと3人で集まってそれを打ち鳴らすようにして始まったのは、再結成後のユニコーン最大のアンセムの1つであり、当時CMでめちゃくちゃ流れていて「WAO!」で、ABEDONのユーモアを含めた歌唱もリリースの13年前から全く加齢を感じさせないくらいに、手島のタッピングギターも含めて瑞々しさしか感じないのだが、サビで観客が腕を左右に振り、奥田民生が
「Love Music!」
と叫ぶ光景は今なお最高の一体感を生み出してくれる。そんなサビが1回しかないという構成も今でも不思議だと思う。
そして一気にギターサウンドが重厚なものに変化するのはバンドの代表曲の一つである「服部」であり、であるならばこの男の出番とばかりに、タイトルを叫ぶとマカロニえんぴつのはっとりが首にスカーフを巻くという奥田民生の衣装を着こなしてステージに登場し、奥田民生とボーカルを分け合うようにして(時にはボーカルを譲り合うようにして)歌うのだが、こうして2人で歌っているとはっとりは見た目も歌声も若い頃、それこそこの曲をリリースした当時の奥田民生が時空を超えてここにやってきたかのように感じる。それははっとりのあまりにも完璧すぎる歌唱による部分も大きいからか、奥田民生は1人ステージ袖の方に行って隠れてはっとりの歌う姿を見守るという構図には思わず笑ってしまうし、はっとりはもちろんユニコーンのメンバー全員が本当に楽しそうだった。ユニコーンへの憧れから始まったはっとりは、今では紛れもなく世代を超えたユニコーンの音楽仲間になっている。フジファブリックと同じように、先輩と後輩の双方向へのリスペクトが確かに感じられた一幕だった。
「もうこの曲やる時は毎回歌いに来ていいよ。っていうかもうこの曲あいつにあげるよ。だって俺、服部じゃないし」
とコラボ後に奥田民生は言っていたが、はっとりも勝手にそう名乗っているだけで、決して服部ではないのである。
そんな奥田民生は最後には
「初めてこの会場に来ましたけれど、またこの会場でここにいる皆さんとお会いできる時が来ると思っております」
と、ここにいた人との再会の約束をここまでのユーモラスさとは全く違う真摯な言葉で口にすると、演奏されたのはまたこうして再会するためにロックンロールし続けるということを歌う「KEEP ON ROCK'N ROLL」。
「あいつに会えば 他には何も要らないんじゃない?
ROCK ME NOW!
あいつがいれば 汚れた世界も悪かないんじゃない?
ROCK ME SHOUT!」
というフレーズで始まり、全てがロックを愛する者への金言で埋め尽くされた歌詞のうち、
「欲しいものはここにある KEEP ON ROCK'N ROLL」
というフレーズで奥田民生はステージを指差しながら歌った。それはこれからもユニコーンがライブをやって生き続けていくということの意思表示だった。
決して大ヒット曲ばかりを演奏することもなく、もはやそれを狙った曲を作ることもない。でも自分たちがやりたいこと、楽しめる音楽を好きなように鳴らし続ける。それこそが還暦近くなってもこうしてロックバンドを楽しく続けることができる秘訣なのかもしれない。どんなに酔っ払って周りの人に迷惑をかけようとも、やっぱりこういう大人になりたいと思う。それは同じように酔っ払って周りに迷惑をかけがちな自分を無理矢理肯定したいだけかもしれないけれど。
もちろんはっとりという自分たちに憧れてきた後輩へのリスペクトもあったけれど、ユニコーンがこの日演奏した「ツイス島&シャウ島」の曲はユニコーンのメンバーが影響を受けてきたロックへの憧れをそのまま自分たちのユーモアと技術によって鳴らしているものだ。
それはユニコーンよりもはるかに年下である、僕らが生まれる遥かずっと前から鳴らされ、受け継がれてきたものが今もこうして受け継がれ続けていて、古びたり時代遅れになることはないということを証明しているようだった。
1.ツイス島&シャウ島
2.スターな男
3.スペースカーボーイズ
4.7th Ave.
5.ロックンローラーのバラード
6.ミレー
7.米米米
8.WAO!
9.服部 w/ はっとり (マカロニえんぴつ)
10.KEEP ON ROCK'N ROLL
ライブが終わるとこの日もbonobosの「THANK YOU FOR THE MUSIC」がBGMとして流れる。この音楽が不要と言われることもあった数年間でも音楽が鳴り止むことはなかった。ライブがなくなってもずっと家の中で、頭の中で鳴っていた。鳴り続けてくれた。今聴くこの曲はそんなことを感じさせてくれるし、そんな音楽への愛に満ちたこのフェスのエンディングにはやっぱりこの曲しかないよなと思った。
昔、10代の頃とかは好きなバンドがテレビに出ることにまだ不信感が強かった。口パクだったりあて振りだったり、曲の尺が短かったりで、そのバンドのカッコよさを伝えるものにはならなかったテレビ出演を何度も経験してきたから。
それはきっとその番組や作っている人がそこまでそのバンドに愛情を持っていなくて、今人気っぽいからくらいの感じで番組に呼んだりしていたんだろうなと思うこともあった。
でもこの「Love Music」にはそうした感情を全く抱かないのは年間150本くらいライブを観に行っていても、自分よりも多くライブに行っている人を知っていて、それがこの番組とフェスを作っている人だからである。
大きいフェスから小さなライブハウスまで、今日来てるだろうなというライブには本当にいつもいるし、しかも普通に我々と同じように客席で腕を振り上げている。そんな姿を見ているから、自分が大好きなa flood of circleや東京初期衝動を番組に出してくれると、心から「ありがとうございます」と思える。このバンドをちゃんと世の中に広めたいと思ってくれているのが本当によくわかる。
そういうバンドたちがこのフェスに出れるようになるくらいにフェスも番組も続いていて欲しいし、こういう音楽への愛に溢れた場所があるから、ライブに行くのがやめられないのだ。今回も、「Love Music」というタイトルが本当にピッタリなフェスだった。
この日は「リスペクト」をテーマに掲げているだけに、世代が若い方から順番に影響源へと向かっていくという実にわかりやすい流れである。
この日も開演前には主催者の三浦ジュン氏による前説が行われるのだが、今回この4組とした理由をそれぞれの影響と関係性を語りながら、
「いろんなフェスが開催されてるけど、コロナがあって人数制限があって、ステージが減ったりして出演するアーティストが同じような感じになってる。これはディスってるわけじゃないですけど、好きなバンドを観に行くっていうのももちろんなんですけど、なかなかこういうイベントやフェスが新しいアーティストとの出会いの場になれてないんじゃないかって」
と口にする。それは本当によく分かる。複数のステージを作ることができなくて、ほぼメインステージクラスに出るようなアーティストがいないという状況になりつつあるから。そこへこのフェスは「リスペクト」というテーマを持って一石を投じようとしている。
ちなみにこの日はトリのユニコーンにちなんで、番組のセットの象徴であり、このフェスのステージど真ん中に聳えるペガサスのオブジェの翼をたたみ、発光するツノを装着したユニコーンへと変身させるという美術担当スタッフの方々の凄まじい気合いの入りっぷりである。
16:00〜 Cody・Lee(李)
この日も森高千里による映像での注意喚起を経てのトップバッターはCody・Lee(李)。先月メジャーデビューしたばかりの新人と言える存在であるが、すでに2020年のBAYCAMPのオープニングアクトとしてこのぴあアリーナのステージに立っている。
神聖な雰囲気のSEでメンバー5人がステージに登場すると、より見た目の雰囲気がフジファブリックの山内総一郎に似てきている高橋響(ボーカル&ギター)が同期のキーボードのサウンドも取り入れながら歌い始めるのは、先月リリースさればかりのメジャーデビューアルバム「心拍数とラブレター、それと優しさ」の1曲目に収録されている「愛してますっ!」からスタートすると、そうした見た目からもフジファブリックからの影響を強く感じさせるバンドであるけれど、フジファブリックにはない「パンク」の要素も感じさせながら、力毅(ギター)の幾何学的な複雑なギターリフが絡む「W.A.N.」と、やはりリリースされたばかりということもあって新作の曲をメインに演奏していくのだが、ニシマケイ(ベース)と原汰輝(ドラム)のリズムも含めて爆音を鳴らしまくっているというのはやはりフジファブリックの影響だけではないバンドであることを示している。
すると高橋はこうしてフジファブリックと同じライブに出れていることの喜びを語りながら、自身のバンドの原体験が中学生の頃にフジファブリックのコピバンをやったことであり、その頃の気持ちを思い出すようにして、当時コピーしていたという「夜明けのBEAT」を、原のカウントも含めてコピーするのであるが、やはりバンドが違えばサウンドが変わるのは当然のことであり、ギター2本に尾崎リノ(ギター&ボーカル)も加えた音圧でカバーしてみせる。その出で立ちからもわかるように、高橋は志村正彦よりも曲中での叫び方も含めて、むしろ山内の歌い方を真似ているような感じが強いのだが、間奏では力毅がステージ前に出てきて思いっきり感情を込めたギターソロを弾くという、高橋の憧れがそのままバンドにとっての憧れになっていることを感じさせる。
するとそのままニシマのベースソロから、高橋と尾崎のツインボーカルが歌詞に合わせるように男女の情事を想起させるように淫靡に絡み合っていく「悶々」このバンドの名前を広く知れ渡らせた、多国籍的なサウンドを自分たちのロックへと昇華してみせた「我愛你」では間奏で高橋が山内へのリスペクトを演奏で示すと言わんばかりに背面弾きギターを披露する。
しかし
「やっぱり総くんみたいに上手くはできない(笑)」
と、思った通りには弾けなかったみたいなのだが、高橋のフジファブリックのメンバーの呼び方が「総くん」「ダイちゃん」「加藤さん」というものであるのは、ファンの呼び方そのものだ。だからそこには馴れ馴れしさは全く感じないというか、もはやファン代表としてステージに立っているからこそのリスペクトすら感じさせる。
そんな高橋は
「もう好きって言い過ぎて気持ち悪いって3人に思われてるかもしれないですけど(笑)、さっき楽屋に挨拶に行った時にお手紙を渡して(笑)裏面までビッシリ埋まっちゃったんだけど(笑)、気持ち悪かったらすいませんってちゃんと書いておいた(笑)
フジファブリックはライブもしょっちゅう観に行っていて、総くんのアクリルスタンドを2つ持ってて、1つは家にあるんだけどもう1つはあそこに置いてある(笑)」
と言うとスクリーンには高橋のギターアンプの上に置かれた山内のアクリルスタンドがアップで映し出され、思わず観客の笑いを誘う。そして、
「こうやって一緒のライブに出演できたから、もうモチベーションなくなっちゃうと思ったんだけど(笑)、もっと僕たちが大きくなって、いつかZepp以上のライブハウスでフジファブリックと2マンライブができるようにこれからも頑張ります!」
と新たな自分の夢を力強く語る。きっとその夢がこれからのバンドの活動の原動力になっていくのだろう。
そんな言葉の後に演奏されたのは、高橋のポエトリーリーディング的な歌唱から始まり、サビで一気に壮大に高まっていく「LOVE SONG」で、フジファブリックに、このフェスのスタッフや関係者に、そして目の前でこのライブを観てくれた人への愛を音にして鳴らすと、最後にトドメとばかりに演奏された、爆音パンクの「when I was city boy」では高橋がギターを高く掲げながらフジファブリックの全アルバムタイトルの名前を羅列し、
「その全てが今の自分を作ってきた!」
と思いをぶちまける。その一方では力毅もその中性的な、美しい金髪姿からは想像できないくらいに思いっきりギターをぶん回しまくるのだが、その凶暴とも言えるようなパンクサウンドとパフォーマンスは、フジファブリックが何よりも大好きだけれど、フジファブリックと同じことをやっても意味は全くなくて、フジファブリックに影響を受けた自分たちがフジファブリックの音楽を下敷きにしながらも、どれだけこの5人だからこその音楽を鳴らすことができるかということを示しているようだった。
そうして高橋のフジファブリックへの愛を伝えまくる大会みたいですらあったライブであるが、力毅もMCの時には出番前にJUDY & MARY「Over Drive」がBGMとして流れていたことに触れ、
「僕はジュディマリを聴いてギターを始めたんで、それをわかっていたのかわからないですけど、出番前に「Over Drive」が聴けて嬉しかったし、テンションが上がった」
と言っていた。前日にもgo!go!vanillasのライブ前にはTHE BAWDIESやw.o.dというロックンロールバンドの曲が流れていた。それはこのフェスが出演者にどんな流れでバトンを渡すかを考えているからの選曲であり、きっと力毅がジュディマリが原点だということをわかっていたのだ。じゃなきゃこんなピンポイントでジュディマリを流すようなことはしない。そこには出演者への、音楽への愛が確かにあった。それをタイトルに掲げたフェスであり、番組だから。
1.愛してますっ!
2.W.A.N.
3.夜明けのBEAT (フジファブリックのカバー)
4.悶々
5.我愛你
6.LOVE SONG
7.when I was city boy
17:00〜 マカロニえんぴつ
ステージ登場前の森高千里による映像での紹介で「番組には7回出演している」というのを聞いて「そんなに出てるの!?」と驚いてしまった。もちろんこの2日間の出演者の中でもダントツで最多出演。しかもこのフェスにも2年連続出演という、もはやミスターLOVE MUSICと言ってもいいんじゃないかと思うくらいの存在である、マカロニえんぴつ。
おなじみのビートルズ「Hey Bulldog」のSEでサポートドラマーの高浦"suzzy"充孝を含めた5人でステージに登場すると、長谷川大喜(キーボード)が明らかにマカロニえんぴつの曲ではない、90年代感を感じさせるキーボードのフレーズを弾き始める。それはユニコーン「Maybe Blue」のものであるのだが、そのサウンドがPVの映像でしか拝見したことのない当時のメンバーの向井美音里の姿を想起させると、しかもそこから同じくユニコーンの「I'M A LOSER」へと繋がり、バンドが完璧にコピーしてはっとりも演奏でリスペクトを示すような歌唱を見せるのだが、そもそも編成がユニコーンと同じこともあるのだが、はっとりの歌唱もやはりこうしてユニコーンの曲を歌っていると奥田民生に実に似ているんだなと改めて感じる。もちろんまんま奥田民生ではないけれど、ファルセットをほとんど使わないというあたりも奥田民生歌唱の影響なんだろうかとも思う。
そんな先制攻撃からすぐさま高浦のドラムロールから「洗濯機と君とラヂオ」へと繋がり、フライングVを操る田辺由明(ギター)のシャープなサウンドと高野賢也(ベース)と高浦によるダンサブルなリズムで観客は一気に楽しそうに腕を挙げて体を揺らす。はっとりは間奏に入る前に
「待ってたかい、LOVE MUSIC FESTIVAL!」
と叫ぶと、その言葉に応えるかのように大きな拍手が巻き起こるのだが、最初にユニコーンのカバーを歌ったことによる影響もあるだろうし、ユニコーンのメンバーがこの後に出てくるというのもあるだろうし、気合いに満ち溢れまくっているのがはっとりの歌声からハッキリとわかる。ちなみに曲中の照明がステージ真ん中から赤と青に分かれていたりするのは「hope」のジャケットを彷彿とさせる、愛ある演出である。
長谷川の流麗なピアノによるイントロから手拍子が起こる「レモンパイ」ではタイトルに合わせてステージが黄色い照明で染まり、田辺がブルージーなギターを奏で、さらには「クレヨンしんちゃん」の映画タイアップである「はしりがき」でロックバンド・マカロニえんぴつとしての疾走感溢れるサウンドを響かせてくれる。その音に応えるようにたくさんの観客が腕を挙げるのであるが、その演奏の瑞々しさはもちろん、歌唱に至るまでのスケールの大きさはさすがすでに横浜アリーナなどでもワンマンを行うようになったバンドならではである。
「昨日はジャニーズが出演したということで。凄いですよ、ジャニーズは。だって目指しても絶対なれないもん(笑)どうも、ブサイクです!(笑)」
とはっとりは自虐的に挨拶をしたのだが、そこにはジャニーズにはなれないけれど、ロックバンドである、ロックバンドだからこそこうして一本の糸で繋がった「リスペクト」という1日を作ることができるという矜持を感じさせるものでもあったのだ。
すると長谷川のピアノとはっとりの歌だけという削ぎ落とされたサウンドで始まるからこそ、この曲のメロディの美しさと素晴らしさがこのアリーナ規模の隅々にまで響き渡るような「なんでもないよ、」で一気に会場を聴きいるような空気へとガラッと変えてしまうと、田辺と高野によるカウントから始まり、長谷川がストリングス的なサウンドを重ねる「恋人ごっこ」へと繋がっていくという、凄まじいまでの圧倒的な名曲の連打へ。
しかしながら今の若手バンドの中でアッパーなわけではない、こうしたタイプの曲がこんなにもたくさんの人に受け入れられているのは本当に凄い。フェスなどでの盛り上がりや一体感とは全く違う、ただただメロディの力、歌の力だけでその場を持っていく曲。それはこの日も
「もう一度あなたと居られるのなら
きっともっともっとちゃんと
ちゃんと愛を伝える」
というフレーズでの一気に光に包まれるような照明による演出にふさわしい壮大なメロディで実感することができたものだ。
そんなライブ中であっても余韻に浸りたくなるような空気の中でセッション的なバンドの演奏が曲間を繋いでいると、はっとりは
「日々の色々な気分が沈むようなことを、今日くらいはマカロニえんぴつのライブに置いていってはいかがでしょうか!」
と口にして、その言葉から田辺の切なさを感じずにはいられないギターのイントロによる「ブルーベリー・ナイツ」へと繋がると、やはり照明がタイトルに合わせて紫色に染まり、その色を受けて演奏するメンバーの姿もどこかそれまでよりも大人らしく感じられるようになる。
そして高浦の連打するドラムと、長谷川の走り抜けるようなキーボードのフレーズ、さらにはその長谷川が高野と向かい合ってエアベースを弾くというところに至るまでの全てが楽しく感じられる「ハートロッカー」ではリズムに合わせて観客の手拍子もしっかり決まる。やはりというか何というか、この日はこのバンドを観にきた若い観客が1番多い(首にかけているタオルの色彩などからそれはよくわかる)んだなと思うくらいにばっちり決まっていたし、はっとりも指で○を作るくらいであった。
そんな中で一転してシリアスな空気に包まれるのは、アニメ主題歌になっている最新曲の「星が泳ぐ」。この曲も収録される最新EPももう発売を数日後に控えているけれど、この曲はもはやこうしたアリーナ規模の会場で映像なども使って(実際にJAPAN JAMで演奏された際は映像も使っていた)披露されるべきスケールを持った曲であると思う。そう感じるのはやはりはっとりの歌唱の素晴らしさもありながらも、やりたい放題の限りを尽くしながらも限りなくポップであるというマカロニえんぴつらしさを極めたアルバム「ハッピーエンドへの期待は」を経たからこその、その収録曲たちに比べたら急激に違う曲になったかのような突飛な展開はないからなのだが、EPが発売されて他の曲を聴いたらその思いは根底から覆される可能性があるのもまたマカロニえんぴつの予想がつかないところでもあるのだが。
そしてはっとりは、
「私ごとですが、マカロニえんぴつは結成10周年を迎えました!こうして憧れのバンドと、肩を並べるとまでは言えないけれど、ユニコーンもフジファブリックもめちゃくちゃ聴いてきた青春の音楽だから、そんなカッコいいバンドたちとこうやって一緒にやらせてもらってるのは、続けてきたからこそだと思いますし、目の前にいるあなたがいてくれたからです。僕らは年中ライブをやって生きてます。またどこかのライブで会いましょう」
と、一気に人気になったように見えて実はいろんな困難や苦難がたくさんあっても10年間続けてきたバンドとしての説得力に満ちた言葉を口にする。それは我々もそれぞれに今やっていることをずっと続けていさえすれば、いつかなんらかの形で「やっていて良かったな」と思える時が来るということである。
そうした想いを込めるように最後に鳴らされたのは「ミスター・ブルースカイ」。こうしたフェスやイベントだと最後には「ヤングアダルト」を演奏することが多いけれども、この曲を演奏したのはまだこの曲を作った当時はきっとユニコーンと一緒にライブができるようになるなんて思っていなかったはずで、その頃の自分たちに今のメンバーがメッセージを送るかのようだったからだ。そうした歌の力、音の力が確かに感じられたし、
「泣いてみたのに、ただ泣いてみたのに
捨て切れないの何でだ
捨てられないの何でた
ブルースカイ、いつか届け」
と結んだこの曲は、このバンドの音楽は憧れの存在と言える人たちのところにまで確かに届くようになったのだ。泣いていたのは、そんなこのバンドの想いが見ていて伝わってくるくらいに素晴らしいライブだったからだ。
はっとりは本当にいろんな場所で奥田民生、ユニコーンへの憧れを口にしてきたし、他にもGRAPEVINEからの影響と憧れを口にしてはコラボという形でその憧れを現実のものにしてきたバンドだ。今の若手バンドの中でそうして直接的なリスペクト元をハッキリと公言するバンドはそうそう多いわけではない。(ましてや日本のバンドを)
だからこそ、こうした「リスペクト」というテーマのライブの時に真っ先に思い浮かぶ存在がマカロニえんぴつだったりもする。でもリスペクト元と同じことをやるんじゃなくて、この5人だからこそ、ハードロックな曲だったりサウナの曲だったり(どちらも田辺の曲だけど)が生まれたりする。そのマカロニえんぴつの音楽を今聴いている人がまたこれからマカロニえんぴつに憧れてバンドを始めたりするようになるはず。そういうバンドが出てきた時にはこのバンドはめちゃくちゃ良い兄貴分的なバンドになりそうな気がしている。
1.I'M A LOSER (ユニコーンのカバー)
2.洗濯機と君とラヂオ
3.レモンパイ
4.はしりがき
5.なんでもないよ、
6.恋人ごっこ
7.ブルーベリー・ナイツ
8.ハートロッカー
9.星が泳ぐ
10.ミスター・ブルースカイ
18:05〜 フジファブリック
すでにここまでCody・Lee(李)のライブで散々リスペクトの言葉を貰いまくった、フジファブリック。そうした姿を見ていると、もう完全にベテランと言っていい立ち位置のバンドなんだなと思う。
「I Love You」のSEでメンバーが登場すると、この日のサポートドラマーは宮本浩次のツアーにも参加していた、玉田豊夢。最近は伊藤大地であることも多かったが、ドラマーのタイプとしては近しい存在であると思う。山内総一郎(ボーカル&ギター)も加藤慎一(ベース)も手を叩きながらステージに現れ、観客も同じように手拍子することによって、この日は「I Love You」を途中からバンドで演奏することはなく、SEで終わる。
すると玉田が雄大さを感じるドラムの連打を始めると、山内がキャッチーなリフを乗せるオープニング曲は「SUPER!!」なのだが、もう歌い出しの
「洗いたての朝さ」
のフレーズからして山内のボーカルが気合いが入っているというか、漲りまくっているのが凄くよくわかる。あれだけリスペクトを表明されて最高以外のライブを見せないわけにはいかないと言わんばかりの力強いボーカルは、改めて今のフジファブリックがこうしたアリーナ規模の会場でも音を鳴らすべきバンドであることを示している。間奏では山内と加藤がリズムに合わせてギターとベースのネックを左右に振り、観客もその動きに合わせて腕を左右に振るのもアリーナクラスだと壮観である。
金澤ダイスケのキーボードの音色が妖しい雰囲気を醸し出す「楽園」では山内がステージを左右に歩き回りながら歌ったりするのだが、やはりサビでは
「灼熱の衝動 どこにある
掴みたきゃ手を伸ばせ」
というフレーズに見合うような燃え盛る衝動を山内のボーカルから感じることができる。それによってどこか歌謡曲的なサウンドのイメージが強かったこの曲が完全にロックさを感じられるものになっているし、それは山内の
「LOVE MUSIC FESー!」
という叫びもそのイメージを強くしている。
すると山内は
「こっからまだまだ上がっていくぞー!」
と叫ぶのであるが、そう言うということはさぞやアッパーな曲が演奏されるのかと思いきや、まさかの「東京」という選曲であり、思わず「え?そっち?」と思ってしまったりもしたのだけれど、歌詞を
「華やぐLOVE MUSIC FESTIVAL!」
と変えて叫んでいたりしただけに、確かにもはやこの曲は、サビで山内と観客が腕を左右に振る姿も含めてライブにおいては上がる曲と言っていいのかもしれない。
山内「Cody・Lee(李)の真ん中の彼の、1人でフジファブリックへのリスペクトを背負ってくれてるみたいな出で立ち凄かったよね(笑)
でもアクスタはないかなぁ(笑)」
金澤「2つあって、家に1つあるって言ってましたからね(笑)」
加藤「だから僕も今日は置いてみました(笑)」
山内「はぁ!?いつの間に!?」
というやり取りもあり、この日は加藤が自身のベースアンプの上にCody・Lee(李)のアクスタを置いているというお返しを見せたのであるが、山内のリアクションからして完全に加藤が単独で急遽やったことであるということがわかる。
そんなやり取りを経ると山内は
「今日は「リスペクト」がテーマっていうことで、Cody・Lee(李)が僕たちの曲をやってくれたり、マカロニえんぴつがユニコーンの曲をやっていたりして。これは伝説の夜になりますよ。僕らもカバーをやってみようと思ったんですが、好きな曲が多すぎたんで、メドレーにしてみました」
と言うと、金澤が演奏する性急なストリングスのサウンドで始まったのはもちろんユニコーンの「大迷惑」であり、これはフジファブリックの師匠的な存在であるユニコーンの曲で好きな曲がありすぎるからこうしてメドレーにしたんだなと思っていたのだが、その後に繋いだのはなんと自分たちをリスペクトしまくってくれているCody・Lee(李)の「我愛你」であり、やはり原曲よりもさらに研ぎ澄まされたサウンドでのアレンジとなりながらも、これはこの日の出演者全員へのリスペクトを示すメドレーであることがわかる。しかし憧れ過ぎているフジファブリックが自分たちの曲をカバーしてくれたというのはCody・Lee(李)の高橋はどんな顔して見ていたんだろうか。
なので当然次はマカロニえんぴつの曲なのだが、金澤がギターを弾きながら、ストリングスサウンドは同期に任せるという形での「恋人ごっこ」は、まさかフジファブリックがこうしたテーマの曲を歌うとはという驚きもあるのだけれど、それを違和感なく成立させているのはやはり山内のさらに圧倒的に進化した歌唱力あってこそだ。
フジファブリックはもともと対バンライブも定期的に行っており、コロナ禍になる前はゲストのバンドとセッションしたりもしていたのだが、コロナ禍になってからの対バンライブでもゲストの曲をカバーするということをやっていて、昨年はまさかのMy Hair is Badの「味方」すらもやはり山内の歌唱力を生かす形でカバーしていた。実はもうあらゆるタイプのバンドの曲をカバーできるくらいの巧者バンドなのかもしれないし、そこからはこのバンドの音楽技術の高さを改めて感じることができる。
そんなメドレーの最後は山内のイントロのギターのフレーズだけで、この後に出てくるバンドのファンがハッとした感がよくわかったのはもちろんユニコーンの「すばらしい日々」。もはや本家がやらなそうな名曲をフジファブリックがやるという感すらあるが、この曲でも金澤はギターを携えており、その削ぎ落とされた、山内の歌をメインに据えたサウンドはこの曲の、そしてユニコーンの音楽の名曲っぷりと普遍性の高さを感じさせてくれるものだった。
そんなメドレーの後にキャッチーかつ浮遊感のある同期の音が鳴り、加藤が手拍子を始めると観客も合わせるようにして手拍子をするのは「Sugar!!」であり、その加藤はサビ前ではステージ前に出てきて「もっともっと!」とばかりに腕を広げて観客を煽る。普段はバンドを支えるというイメージが強いくらいに控えめな加藤がそうするからこそグッとくる場面なのだが、山内のボーカルも金澤のコーラスも含め、まさに今この瞬間のフジファブリックが全力で走っていることを伝えてくれるかのような熱演だ。
そしてこの日は前置きもなく、金澤のピアノが一瞬鳴っただけでそれとわかるような大名曲のメロディに包まれるのはもちろん「若者のすべて」。どんなバンドのファンであってもそんなことは関係なしに胸に沁み入る歌の力。名曲をより名曲として伝えることのできる力を今の山内のボーカルは獲得している。またこれから来る夏の野外フェスでもこの曲を聴きながら最後の花火を眺めていたいものであるけれど、この日のフジファブリックによるリスペクトを示すメドレーもまた、何年経っても思い出してしまうんだろうなぁ。
すると山内は今のこの世の中の状況だからこそ、それぞれ会社や学校や家庭でいろんな辛いことがあるであろうことを口にしながら、
「僕らにとってはこういうライブの場所こそが生き甲斐なんです。フジファブリックはみんなの居場所を守り続けることを約束します」
という強い意志を口にすると、ここにいるすべての人に光が降り注ぐようにという想いを込めて演奏したのは「光あれ」。
サビでは山内の慈愛を感じるようなボーカルに合わせて観客が左右に腕を振るのであるが、その鳴らしている音が本当にそのままこれからの我々の光になっているかのように輝いているようにすら感じる。今のフジファブリックはこうしたフェスやイベントなどで近年制作された曲を演奏することが多いセトリになりがちだけど、それはその曲たちにメンバーが自信を持っていること、何よりも今の自分たちが伝えたいことが音楽に反映されたり、想いを込めたりしたリアルなものであるからだ。それをこの「光あれ」は最も強く感じさせてくれる。そう思えている限り、これからもフジファブリックは我々の居場所であり続けてくれるはずだ。
この日、すでにCody・Lee(李)がめちゃくちゃフジファブリックへの愛と憧れを口にしていたり、マカロニえんぴつがユニコーンの曲を演奏していたりと、「リスペクト」というと基本的には影響を受けた後輩が影響を与えてくれた先輩へのリスペクトを表明するというイメージが強くなりがちだ。
でもこの日のフジファブリックのライブはそうした後輩から先輩への一方向へのリスペクトだけではなくて、先輩が素晴らしい音楽を作っている後輩へもリスペクトを向けることができるということを示していた。それは音楽シーンに生きる人だけではなくて、我々が日常生きる生活においてもそうできる、そうすべきことでもある。その誰に対しても優しい視点や謙虚さを持ったこのバンドはそうしたライブ以外の我々が生きている場所での生き方のヒントをくれる。
1.SUPER!!
2.楽園
3.東京
4.LOVE MUSIC スペシャルメドレー
大迷惑 〜 我愛你 〜 恋人ごっこ 〜 すばらしい日々
5.Sugar!!
6.若者のすべて
7.光あれ
19:10〜 ユニコーン
こちらもすでにマカロニえんぴつとフジファブリックからのリスペクトを浴びまくった中でのトリとしての登場となる、ユニコーン。「Love Music」の番組には出演したことはないが、主催者は解散前からずっと自身の大好きな青春のバンドであることを口にしていただけに、待望の出演である。
おなじみの揃いの衣装を着てステージに登場した5人がそれぞれの立ち位置に立って楽器を手にすると、川西幸一(ドラム)のスティックを筆頭に、ステージ背面に聳えるユニコーンのオブジェを全員が指差し、ユニコーンのツノが光るというのはわざわざペガサスから変身させてくれたこのフェスへの感謝を感じさせる。もうこの段階で特別なライブになることはすぐにわかるというか、なんならユニコーンのワンマンなんじゃないかと思うくらいの演出である。
ABEDON(ギター、キーボード、ボーカルetc)、奥田民生(ボーカル&ギター)、手島いさむ(ギター&ボーカル)の順番にギターを鳴らすと、髪色が赤くなったことによって若返ったようなABEDONがメインボーカルを務める、昨年リリースの最新アルバム「ツイス島&シャウ島」のタイトル曲でスタートするのだが、驚くのは客席で前日のジャニーズWESTの時を上回るくらいのリングライトが客席で輝いていたこと。確かにユニコーンは今でこそ完全なるおっさんバンドであるが、かつてはアイドル的な人気も誇っていたということを考えると納得するところもなくはないのだが、しばらくライブを見ていない間にユニコーンのライブの光景がこうなっているとは思ってなかった。
すると最新作から一気に1990年という、そんなに昔の作品、曲である感じが全くしないくらいに違和感なく最新の曲から繋がる形で演奏された「ケダモノの嵐」収録の「スターな男」では見るたびにパーマの当て具合が強くなっている気がする奥田民生の歌唱する姿が飄々としながらもやはりロックスターのオーラを感じさせる。というか手島のギターソロを聴いたりしているとやはり抜群に演奏が上手いし、その上手さを大袈裟にひけらかしたりすることなく、あくまで自然体にやってのけている。それが実に再結成後のユニコーンらしい部分である。
するとここまでは前に出ずにバンドを支えるベースに徹していた、恐ろしいくらいに見た目が全く老けない男・EBIのタイトルコールによって始まった「スペースカーボーイズ」ではそのEBIが
「リフトアップ」「ローダウン」「ナビゲーション」
などの車やそのメンテナンスにまつわるコーラスをするのだが、普段のライブでは噛んでなかなか言えない
「火が出る赤いやつ」
を完璧に言えたのだが、完璧に言えたら言えたで笑えてしまうという理由で奥田民生が吹き出してしまう。この曲はかつて「車」をテーマにした作品をソロでリリースするくらいに車好きである奥田民生ならではのユーモアが炸裂しながらロックンロールと融合している。
すると今度は手島がメインボーカルを取る、
「運まかせ 風まかせ」
という旅の行き先を決めないで流れていくというのが手島らしさでもありユニコーンらしさにもなっている「7th Ave.」、
「ロックンロールバンドは奏でるよ この地球の仕組みを
今日は海 明日は風
波のリズムは毎日違うよ よーく見て 耳すまして」
というフレーズが単純なようでいてロックバンドの真理を言い当てているかのような雄大なメロディによる奥田民生の「ロックンローラーのバラード」と、曲ごとにボーカルも作者もコロコロと入れ替わっていくのだが、この全員が優れたソングライターでありボーカリストでありながらプレイヤーであるというのは、ユニコーンから強い影響を受け、アルバム内でメンバーそれぞれが作曲をしているマカロニえんぴつに受け継がれている。そこに曲を作った人の人間性が現れるという意味でも。
するとABEDONがピアノを弾きながらソウルフルに叫ぶ、もろにリトル・リチャード(THE BAWDIESにも多大な影響を与えている)な「ミレー」は今人気の女性シンガーのことを歌っているのではなくて、
「やってミレー やってミレー よーくミレー よーくミレー」
という「みろ」を方言的に言っているものであるというのがユニコーンなりの言葉遊びであるが、なんとこの曲では奥田民生がサックスを吹くという、かつてスカパラのゲストボーカルを務めた男がホーン楽器でスカパラに参加できそうな演奏を見せると、間奏ではABEDONのピアノの上に立ってサックスを吹きまくる。もともと奥田民生はソロですべての楽器を自身で演奏するというスタイルで曲を作っていたが、まさかホーンまで演奏するようになるとは。その姿はもう50代後半、還暦も見えてきている年齢であってもまだまだ新しいことに挑戦できるし、ミュージシャンとして、人間として進化していけるんだということを伝えてくれる。感動とはかけ離れた空気を醸し出すバンドだけれど、そのあまりのカッコよさにはどうしたって感動してしまう。
さらに今度はマイクスタンドを手にしてステージ前に出てきたのはEBIであり、個人的にはどうしてもキュウソネコカミの「米米米米」(「ベイマイベイベー」)を思い出してしまう「米米米」(マイベイベー)」が披露され、EBIは自分でクラッカーをステージ上で発射するというパフォーマンスでもってこの曲では完全に主役になってみせるのだが、EBIがボーカルになってもベースレスにはならないのはABEDONがこの曲でベースを弾いているからである。マルチプレイヤーが揃うバンドは数あれど、やはりユニコーンはその技術、経験、発想がずば抜けまくっているバンドだと思うし、クラッカーを発射した後のゴミをEBIが慌てながら自分で片付けるというユーモアも忘れないあたりがさすがすぎる。
すると奥田民生がカウベルを持ち、手島とABEDONと3人で集まってそれを打ち鳴らすようにして始まったのは、再結成後のユニコーン最大のアンセムの1つであり、当時CMでめちゃくちゃ流れていて「WAO!」で、ABEDONのユーモアを含めた歌唱もリリースの13年前から全く加齢を感じさせないくらいに、手島のタッピングギターも含めて瑞々しさしか感じないのだが、サビで観客が腕を左右に振り、奥田民生が
「Love Music!」
と叫ぶ光景は今なお最高の一体感を生み出してくれる。そんなサビが1回しかないという構成も今でも不思議だと思う。
そして一気にギターサウンドが重厚なものに変化するのはバンドの代表曲の一つである「服部」であり、であるならばこの男の出番とばかりに、タイトルを叫ぶとマカロニえんぴつのはっとりが首にスカーフを巻くという奥田民生の衣装を着こなしてステージに登場し、奥田民生とボーカルを分け合うようにして(時にはボーカルを譲り合うようにして)歌うのだが、こうして2人で歌っているとはっとりは見た目も歌声も若い頃、それこそこの曲をリリースした当時の奥田民生が時空を超えてここにやってきたかのように感じる。それははっとりのあまりにも完璧すぎる歌唱による部分も大きいからか、奥田民生は1人ステージ袖の方に行って隠れてはっとりの歌う姿を見守るという構図には思わず笑ってしまうし、はっとりはもちろんユニコーンのメンバー全員が本当に楽しそうだった。ユニコーンへの憧れから始まったはっとりは、今では紛れもなく世代を超えたユニコーンの音楽仲間になっている。フジファブリックと同じように、先輩と後輩の双方向へのリスペクトが確かに感じられた一幕だった。
「もうこの曲やる時は毎回歌いに来ていいよ。っていうかもうこの曲あいつにあげるよ。だって俺、服部じゃないし」
とコラボ後に奥田民生は言っていたが、はっとりも勝手にそう名乗っているだけで、決して服部ではないのである。
そんな奥田民生は最後には
「初めてこの会場に来ましたけれど、またこの会場でここにいる皆さんとお会いできる時が来ると思っております」
と、ここにいた人との再会の約束をここまでのユーモラスさとは全く違う真摯な言葉で口にすると、演奏されたのはまたこうして再会するためにロックンロールし続けるということを歌う「KEEP ON ROCK'N ROLL」。
「あいつに会えば 他には何も要らないんじゃない?
ROCK ME NOW!
あいつがいれば 汚れた世界も悪かないんじゃない?
ROCK ME SHOUT!」
というフレーズで始まり、全てがロックを愛する者への金言で埋め尽くされた歌詞のうち、
「欲しいものはここにある KEEP ON ROCK'N ROLL」
というフレーズで奥田民生はステージを指差しながら歌った。それはこれからもユニコーンがライブをやって生き続けていくということの意思表示だった。
決して大ヒット曲ばかりを演奏することもなく、もはやそれを狙った曲を作ることもない。でも自分たちがやりたいこと、楽しめる音楽を好きなように鳴らし続ける。それこそが還暦近くなってもこうしてロックバンドを楽しく続けることができる秘訣なのかもしれない。どんなに酔っ払って周りの人に迷惑をかけようとも、やっぱりこういう大人になりたいと思う。それは同じように酔っ払って周りに迷惑をかけがちな自分を無理矢理肯定したいだけかもしれないけれど。
もちろんはっとりという自分たちに憧れてきた後輩へのリスペクトもあったけれど、ユニコーンがこの日演奏した「ツイス島&シャウ島」の曲はユニコーンのメンバーが影響を受けてきたロックへの憧れをそのまま自分たちのユーモアと技術によって鳴らしているものだ。
それはユニコーンよりもはるかに年下である、僕らが生まれる遥かずっと前から鳴らされ、受け継がれてきたものが今もこうして受け継がれ続けていて、古びたり時代遅れになることはないということを証明しているようだった。
1.ツイス島&シャウ島
2.スターな男
3.スペースカーボーイズ
4.7th Ave.
5.ロックンローラーのバラード
6.ミレー
7.米米米
8.WAO!
9.服部 w/ はっとり (マカロニえんぴつ)
10.KEEP ON ROCK'N ROLL
ライブが終わるとこの日もbonobosの「THANK YOU FOR THE MUSIC」がBGMとして流れる。この音楽が不要と言われることもあった数年間でも音楽が鳴り止むことはなかった。ライブがなくなってもずっと家の中で、頭の中で鳴っていた。鳴り続けてくれた。今聴くこの曲はそんなことを感じさせてくれるし、そんな音楽への愛に満ちたこのフェスのエンディングにはやっぱりこの曲しかないよなと思った。
昔、10代の頃とかは好きなバンドがテレビに出ることにまだ不信感が強かった。口パクだったりあて振りだったり、曲の尺が短かったりで、そのバンドのカッコよさを伝えるものにはならなかったテレビ出演を何度も経験してきたから。
それはきっとその番組や作っている人がそこまでそのバンドに愛情を持っていなくて、今人気っぽいからくらいの感じで番組に呼んだりしていたんだろうなと思うこともあった。
でもこの「Love Music」にはそうした感情を全く抱かないのは年間150本くらいライブを観に行っていても、自分よりも多くライブに行っている人を知っていて、それがこの番組とフェスを作っている人だからである。
大きいフェスから小さなライブハウスまで、今日来てるだろうなというライブには本当にいつもいるし、しかも普通に我々と同じように客席で腕を振り上げている。そんな姿を見ているから、自分が大好きなa flood of circleや東京初期衝動を番組に出してくれると、心から「ありがとうございます」と思える。このバンドをちゃんと世の中に広めたいと思ってくれているのが本当によくわかる。
そういうバンドたちがこのフェスに出れるようになるくらいにフェスも番組も続いていて欲しいし、こういう音楽への愛に溢れた場所があるから、ライブに行くのがやめられないのだ。今回も、「Love Music」というタイトルが本当にピッタリなフェスだった。
SiM PRESENTS DEAD POP FESTiVAL 2022 day1 6/25 @東扇島公園 ホーム
LOVE MUSIC FESTIVAL 2022 day1 @ぴあアリーナMM 6/18