かつて幕張メッセイベントホールにて、「テレビの音楽番組のイベントでこんなに豪華なバンドたちが集まるのか!?」という出演者によって開催されたフェス「LOVE MUSIC FESTIVAL」が今年はぴあアリーナにて開催。
フジテレビで日曜日の夜中に放送されている音楽番組「LOVE MUSIC」のフェスであるのだが、「このバンドが地上波の音楽番組に出るとは!」という内容だったり、ロックフェスを特集したりという攻めた番組であるために、今回のぴあアリーナでのフェスもその番組内容を体現するものになっている。
初日のこの日は「NO BORDER」をテーマに掲げているために、自分が普段からライブを見ているロックバンド3組にジャニーズWESTが入るというまさに異種格闘技なメンツに。
開演前には番組プロデューサーにしてこのフェスの主催者である三浦ジュン氏の挨拶が。
「ロックバンドを観に来た人にもジャニーズWESTのライブを観てみてほしいし、ジャニーズWESTを観にきた人にも他の出演者を見て欲しい」
という言葉はこのラインナップの意義をそのまま口にしたものである。
ちなみに各出演者の登場前には番組のMCとしてもおなじみの森高千里がスクリーンに映ってコロナ禍のライブだからこその注意喚起と出演者紹介を行うのだが、やはり現地には来ないのはスケジュールが忙しいからだろうか。その出演者紹介の際に番組出演回数と出演した際の映像が流れるのはこのフェスならではである。
16:00〜 Saucy Dog
もはや様々なフェスやイベントに出演しまくっているだけに毎月のようにライブで観ている感が継続中のSaucy Dog。今やこの規模でワンマンをやってもおかしくないくらいの存在になった。
4階スタンドの端まで超満員の中でおなじみのSEが鳴ると、せとゆいか(ドラム)を先頭に、秋澤和貴(ベース)、石原慎也(ボーカル&ギター)とメンバーが順番に登場。このフェスのおなじみではあるが、ステージは番組のセットを模したものになっており、せとのドラムセットの真上には巨大なペガサスのオブジェが聳えている。
さすがに今やこのバンドのメンバーが
「晩ご飯は今夜もコンビニの予定です」
ということはないだろうとは思う「猫の背」からスタートすると、サビになると満員の観客が腕を挙げてバンドの鳴らす音に応えている。せとも石原もこの後に
「僕らのライブを初めて見る人もたくさんいると思いますが」
ということを言っていたが、確かに初めて見る人はたくさんいたかもしれないが、少なくともみんなが曲を知っているというか、このバンドの音楽を求めていることは確かであることがわかる。
「楽しんでいこうー!」
と石原が笑顔で叫んでから歌詞に合わせるようにオレンジの照明がメンバーを照らす「雀の欠伸」で手拍子が起こると、サビではせとの美しいコーラスも石原の伸びやかなボーカルに重なっていく。
すると特に何の前触れもなく、今やバンド屈指の代表曲となった「シンデレラボーイ」が演奏されるのだが、どちらかというとバラード曲と言えるようなこの曲の演奏がいわゆるJ-POP的なバラードというよりも完全にロックバンドのミドルテンポの曲というように力強さを増している。心配になるくらいの超多忙なスケジュールで自分たちのツアーを周り、こうしてフェスやイベントにも出まくっているけれど、そうしてひたすらにライブをやりまくってきたことによってバンドが進化していることがよくわかる。
タイトル通りに真っ青な照明にメンバーが染められる「BLUE」ではこの3人であることの青さを感じさせながらも、どこか深く潜っていくような感覚にもなるのはこのアリーナという会場の広さとそれを生かしたそうした演出によるところも大きいだろうけれど、今やこのバンドにとってはこの会場が全く大きく感じることもないようになっている。
せとが2年連続で出演しているこのフェスへの感謝を口にすると、石原は
「俺たちはロックバンドなんだ」
と口にして思いっきり歪んだギターの音を掻き鳴らす。それが秋澤のベースとせとのドラムと合わさることによって、スリーピースバンドのダイナミズムを感じさせながらも、もはやスリーピースの音圧とは思えないような「メトロノウム」へと繋がっていく。
それはこの「NO BORDER」を掲げる日のイベントだからこそ、自分たちの存在と矜持を改めて示すようなものだったのだが、それがまさにこのバンドがロックバンドであることを示すような「ゴーストバスター」から、石原がイントロでステージ上手の前に出てきてギターを掻き鳴らす「バンドワゴンに乗って」というライブではおなじみのロックな曲が続く。満員の観客で埋まった会場の景色を見ると、もはやアリーナクラスのバンドになったんだなと思うけれど、それ以上に石原の伸びやかなボーカルとバンドの瑞々しい演奏がこの規模にふさわしい存在であることを証明している。
「画面とかじゃなくて、目の前にいるあなたに向かって演奏してる。それであなたの心が動いてくれたら嬉しい。というかそれがライブだと思ってる」
というロックバンドであるとともにライブバンドとしての矜持をも口にしつつ、
「ここにいる皆さんと、またいつか会えたら」
と言って石原がドンドン!と足で床を2回強く踏んでから演奏されたのはもちろん「いつか」であり、やはりこの曲では石原の歌声とメロディの力が全ての人の心を引き寄せていく。昨年ぴあフェスでこのステージに立った時はまだこの規模が早いような感じもしていたが、今は文句なしにこの規模でワンマンすらやるべき、つまりはれっきとしたアリーナバンドへと進化している。曲の力、バンドの演奏力、歌唱力というこの規模に見合う全ての力を今のこのバンドは備えている。
今までは割とフェスやイベントなどでは「いつか」をやったら終わりみたいな感じがあった。それくらいに全てを締め括る力を持った曲であるから。でもこの日はそれでは終わらずに、今の時代や社会だからこそ生まれた曲であることを告げられた、4月にリリースされたばかりの「優しさに溢れた世界で」を演奏する。「Love Music」と同じフジテレビの「めざましどようび」のテーマソングでもあるだけに、
「寝起き頭に飛び込んだ画面
今日の魚座は最下位だね」
という朝の占いコーナーを起きてすぐに目にした時の情景が歌詞に描かれているのであるが、魚座生まれとしてはこのバンドの歌詞で最も共感するのがこの歌詞だったりするくらいには初めて聴いた時にハッとした歌詞であるが、そうした毎日の日常の何気ない風景を石原だからこその視点で丁寧に切り取りながら、
「それとひとつだけお願い
僕ら大袈裟な事じゃなくて
もっと優しさに溢れた世界で
笑ってたいと思ってるだけ」
とサビでは歌うのだが、この曲が実際に作られたのがいつなのかはわからないけれど、最近のこのバンドはメンバーが傷付いたりしているのを見ることも増えた。急激に人気が出てきて、今までよりたくさんの人に聴かれるようになったバンドの宿命であるとも言えるのだが、ファンの民度についてとやかく言われているのをメンバーが目にして落ち込んでしまうということが。
そうして傷付いたり落ち込んだりしてしまうのは、そうしたことなんか知るか、関係ねぇよみたいな尊大な精神ではなくて、優しい心の持ち主だからこそそうなってしまう。そんなメンバーの優しさがこの曲からは滲み出ているし、この曲はそうした社会や世界へと向けられた曲だ。本当に、この曲で歌っている通りの世界になったら、優しい人がもっと生きやすくなると思うし、それを諦めるわけにはいかないと思う。
そう思えるような名曲をまたこのバンドが生み出した。そこにこそ今このバンドがこんなにもたくさんの人に求められている理由がある。それを証明するかのようなライブだった。
1.猫の背
2.雀の欠伸
3.シンデレラボーイ
4.BLUE
5.メトロノウム
6.ゴーストバスター
7.バンドワゴンに乗って
8.いつか
9.優しさに溢れた世界で
17:05〜 go!go!vanillas
こちらはすでに昨年近場の横浜アリーナ(実はぴあアリーナとは同じ横浜ではあれどめちゃくちゃ離れている)でワンマンを行い、名実ともにアリーナバンドの仲間入りを果たした、go!go!vanillas。フェスでもメインステージに出る機会も増えてきており、すっかりこうしたアリーナクラスで1ステージというようなフェスに出てもおかしくないようなバンドになった。
おなじみのSEでジェットセイヤ(ドラム)を先頭にメンバーが元気良くステージに現れると、長谷川プリティ敬祐(ベース)の髪色が緑から赤に変化し、牧達弥(ボーカル&ギター)は水色のシャツにネクタイという爽やかな出で立ち。時に1番派手な衣装を着ることもある柳沢進太郎(ギター&ボーカル)はこの日は大人しめである。
牧がアコギを弾きながら、大きく息を吸い込むようにして弾き語りのようにして歌い始めたのはアイリッシュトラッド的なサウンドをロックンロールに取り入れた、このバンドだからこその「LIFE IS BEAUTIFUL」で、牧が歌い始めた時には指揮者のようにスティックを振るっていたセイヤをはじめとしたメンバーの音も重なると、生きていること=こうしてこの場所に集まれていることを祝福するかのようなメロディを歌う牧のボーカルの伸びやかさは本当に素晴らしい。ロックンロールバンドという、とかくストレートで押して押して押しまくるというイメージが強いスタイルでありながらも、ストレートだけではなくてファルセットなどの変化球のキレ味も抜群というような。そしてそれはやはりこうした規模の会場でライブをやるのに必要なものである。
曲間では柳沢がクールなカッティングギターを鳴らし、プリティが腕で「EMA」という文字を作るのを観客も全員一緒になって行ってからの「エマ」ではイントロから観客が飛び跳ねまくり、サビでは左右の腕を交互に挙げるというこの曲ならではの楽しみ方がアリーナの4階席まで完全に浸透している。果たしてこのメンツの中でバニラズを観に来たり、曲を知っている人はどれくらいいるんだろうかとも思っていたが、そんな心配をする必要がなかったくらいに、体感的には9割以上の人が知っていた、バニラズのライブを楽しみにしてきたという感すらある。曲中では柳沢とプリティが牧にピッタリと寄り添うようにして演奏するという三位一体なスタイルで、ロックンロールバンドのライブのフォーメーションのカッコ良さを存分に体感させてくれる。
プリティが名前の通りにプリティにタイトルコールをする「クライベイビー」も完全にライブでは欠かせない曲になっているが、この日は牧とともにツインボーカル(というかこの曲ではどちらかというとメイン側)を担う柳沢のボーカルも絶好調なのがすぐにわかる。今年も春フェスはもちろんのこと、地元大分での凱旋ワンマンを開催したりとライブ三昧の日々を送っており、観るたびにバンドと曲がさらに成長しているのがよくわかる。柳沢は牧が歌う部分ではステージ上手の前まで出てきてギターを弾きまくるなど、やはりそうしてライブをやりまくって生きているのがなによりも幸せなんだろうなと思う。
そんなライブをやり続けて生きているこのバンドの蒼さを音楽として体感させてくれるのは、牧がハンドマイクとなって歌う最新シングル「青いの。」であり、やはり曲に合わせて真っ青な照明がメンバーを包むという演出もあるのだが、ステージ両サイドのスクリーンに演奏するメンバーの姿が映る際に、ステージ下から牧を撮影すると、背後に聳えるペガサスのオブジェと重なって、牧に羽根が生えて天使になったかのようにすら見える。それは「ロールプレイ」のMVを牧が主演として再現しているかのように。
すると牧はこの日一緒に出演しているアーティストについて触れるのだが、
「Saucy Dogの秋澤が楽屋で緑色の帽子を被っていて。「ルイージじゃん」って思いながらもその時は言わなかったんだけど、その後にゆいかちゃんが入ってきたら、赤いパンツを履いてたから思わず「マリオブラザーズじゃん!」って言っちゃった(笑)
そしたら慎也は黒い服を着てたから、これは難しいな〜って思ったんだけど、土管ステージの背景だなって(笑)
sumikaは久しぶりに会ったんだけど、健ちゃん(片岡)は会うたびに顔が小さくなってる感じがする(笑)
ジャニーズWESTははじめましてなんだけど、さっき楽屋に挨拶に行かせてもらって。ネトフリで「ゲキカラドウ」(ジャニーズWESTの桐山照史出演ドラマ)を見ていたんで(笑)見たら辛いもの食べたくなったから、すぐにUberEatsで麻婆豆腐を注文しましたよ!(笑)」
と、音楽だけではなくてMCでも我々を楽しませてくれるあたりはさすがであるし、こうして一見すると何の接点もないところに関係性を見出すというのはこの日の「NO BORDER」というテーマを体現しているものだとも言える。
すると牧がギターを鳴らしながらの歌い出しでプリティが手拍子をし、客席もそれに応じて手拍子が広がっていく「お子さまプレート」ではコーラス部分で牧、柳沢、プリティの3人がステップを踏みながら演奏する姿がまた我々を楽しくさせてくれる。きっとこの曲のコーラスを一緒に歌うことができるようになればもっと楽しいんだろうけれど。
そしてプリティのカウントから、そのプリティを先頭にしてメンバーのマイクリレーが展開される「デッドマンズチェイス」はこうしたフェスやイベントの場で、メンバー全員が歌えるバンドであるというバニラズの特殊性を知らしめることができる曲であるのだが、セイヤはやはり
「今日はお前たちとLOVE MUSICでロックンロール!」
と叫び、柳沢とプリティはセイヤが歌っている間にドラムセットの周りを歌いながらぐるぐる回っている。その姿からもメンバーがこのライブを本当に楽しんでいることがわかるし、それと同時に他の出演者には負けられないという気合いを感じることもできる。柳沢→牧と繋がっていくマイクリレーを聴くと、こんなにも歌唱力が高いボーカリスト2人がいるバンドの恐ろしさを改めて感じるけれど。
その柳沢による、コロナ禍で声を出すことができないからこそのコール&レスポンスならぬコール&手拍子でも大きな手拍子が返ってくると、そのまま柳沢がステージ前に出てきてギターを弾きまくる「カウンターアクション」でやはり観客は飛び跳ねまくる。セイヤはドラムを叩きながら「オイ!オイ!」と叫びまくるのであるが、牧のボーカルも含めて、何回もライブを見ている身としても驚くくらいの気合いの入りっぷり。それがこのメンツの中であっても「このバンドを好きでいてよかった」となんだか誇らしい気持ちにさせてくれる。それくらいにカッコいいバンドだと感じられるのだ。
そしてこの日は特に牧の言葉もなしに「平成ペイン」が演奏されて、客席ではMVでの振付があちこちで広がっていくのであるが、こうして年号が変わってもバニラズは最前線を走っているというか、むしろ今の令和の時代を担っているのは平成生まれの俺たちであるということを示すかのようだ。そんな自信が牧の美しくも力強さも感じられるファルセットボイスからは滲み出ている。
フェスやイベントでは締めに演奏される「平成ペイン」前に言葉を挟まなかったのは、まだそれではこのライブは終わらないからであり、45分というフェスにしては長い持ち時間を設定してくれた主催者に心から感謝である。それは
「今日出てる出演者たちとみんなで最高の1日を一緒に作ることができたらと思ってる。もちろんバンド同士、仲良くしてるだけじゃダメだと思うけど、争い合うみたいなのは好きじゃないからバチバチし過ぎるのも嫌だし。でもこれからもバンド同士できっと高めあっていくことができるって思ってます!」
と言って牧が高らかに歌い始めると、
「Love Musicの未来に賭けてみよう」
と歌詞を変えて大きく温かい拍手が起こり、さらに
「みんなの未来に賭けてみよう」
とさらに変えると再び大きな拍手が起きて、最後に
「僕らの未来に賭けてみよう」
と歌詞通りに歌ってから演奏されたのは「アメイジングレース」。なんだか「LIFE IS BEAUTIFUL」で始まってこの曲で終わるというのが、歌詞の通りによりこのフェスを、ここに集まった我々への祝福であるかのように聴こえたのだ。それはそのまま明日以降もこの世界を生きていくための力になる。
ひたすらにライブをやって転がり続けてきたバンドだからこそのこのバンドの強さが、この日の出演者の中でも確かに一際輝いていた。牧も口にしていた、9月に開催される2回目の日本武道館でのライブでどんな続きを見せてくれるのか、今から本当に楽しみなくらいに、バニラズの未来に賭けたくなるのだ。
1.LIFE IS BEAUTIFUL
2.エマ
3.クライベイビー
4.青いの。
5.お子さまプレート
6.デッドマンズチェイス
7.カウンターアクション
8.平成ペイン
9.アメイジングレース
18:10〜 ジャニーズWEST
この枠は開催直前まで出演者が明かされていなかった。「NO BORDER」というテーマはすでに明かされていただけに、ロックバンド以外の形態のアーティスト、しかも普段はフェスとかになかなか出ないようなアーティストだろうとは思っていたけれど、まさかジャニーズのグループがこの中に入ってくるとは思っていなかった。かつては関ジャニ∞をフェスで見たこともあるけれど、メンバーは全員知っていたし、曲も少しは知っていたその時とは違い、曲もメンバーも全く知らないという状態、完全にはじめましてである。
転換中にバンドの機材がステージ奥にセッティングされていただけに、バンド編成なのかとここで知るくらいにジャニーズのライブ形態について疎いのだが(関ジャニはメンバーが演奏するバンドだということは知っていた)、実際にバンドメンバーが音を鳴らし始めると、メンバー7人がステージに現れるのだが、その様子からしてやたらと賑やかというか、近年のジャニーズのイメージに「クール」というものがあったくらいにジャニーズに疎い自分からしたらその時点で驚きなのだが、「Big Shot!!」をメンバーが歌い始めると、その曲中にもツッコミというかガヤ的なメンバーの声が入りまくり、しかもそれが観客を鼓舞するようなものであるというのは、どこかWANIMAやかつての青春パンク的なバンドのライブを見に来たかのようであるし、「歌って踊って」というようなイメージのジャニーズのグループではないということがこの段階で早くもわかるのは、バックバンドを従えている編成が必然であるということがわかるくらいに、曲そのものがバンドで演奏される前提のサウンドのものだからである。
客席にはペンライトを振りかざす、このグループを観に来たであろう(他のバンドのライブで使ったらめちゃネット上で叩かれるであろうだけに、ペンライトを持っていた方々は実に弁えてらっしゃる)人もいたとはいえ、やはりどんなにメンバーが出ていてもこの出演者の中では最初はアウェー感は否めなかったのだけれど、それぞれが入れ替わり立ち替わりステージを端から端まで(きっと彼らにとってはこのアリーナのステージすら小さいだろう)歩き回っては観客を先導するようにメンバーが腕を挙げたりすることによって、客席もその動きに合わせて腕を挙げることでアウェー感はみるみるうちになくなっていく。
そんな力技の極みというべきが一度聴いたら忘れられそうもない「ズンドコパラダイス」の「ズンズン」というフレーズであり、そのフレーズに合わせて腕を振るというアクションはほぼ9割以上が初見という状況の中であっても、気付いたら全員が腕を振っている。なんだかやってみたら楽しそうだし、そもそもライブ自体が楽しいなという感じなのはこの段階ですでに完全に伝わっていただろう。
すると観客のリアクションからして、おそらくは最も浸透していたであろう「ええじゃないか」が早くも演奏され、フェスらしいお祭り騒ぎになるのであるが、江戸時代に「ええじゃないか」が事件として広まった起源を改めて振り返ってみると、コロナ禍や物価の高騰などによってヤケになっても致し方ないような状況だからこそ、このタイトルのこの曲が今の世の中で広く受け入れられて、こんなにもたくさんの人が踊っているのがわかるような。一種の世直し的なニュアンスも含まれている言葉だけれど、このグループは人間の持つポジティブなパワーでそれを成し遂げようとしているのかもしれないとすら思う。
「ここまでいきなり「ズンズン」言ったりしてビックリしてる方もいらっしゃると思うんですけど、ここからは僕らもジャニーズっぽいことができるんだぞ!っていうことをちょっとだけ見せたいと思います!」
というMCに
「ちょっとだけかい!」
というメンバーのツッコミが飛ぶという、バンドのライブではまず見れないようなやり取りが交わされる中で、いわゆるジャニーズ的なイメージの「揃ったメンバーのダンスとカラオケ歌唱」というスタイルの「W Trouble」「YSSB」という曲がメドレー的に披露されると、トラックを流すという形での歌唱だったためにバンドメンバーは裏に一回引っ込んだりしてもおかしくないのに、そのまま演奏しないのに真顔でずっとステージに止まっていたのが面白かったのだが、それ以上にメンバーのダンスと歌唱力がめちゃくちゃ上手くてビックリしてしまう。アクロバティックなアクションを見せるメンバーもいれば、今すぐにグループと並行してソロで歌った方がいいんじゃないかと思うくらいに伸びやかな歌唱力を持つメンバーもおり、この辺りは各々のセンスと計り知れないくらいの努力を感じさせるところである。
するとステージ両サイドのスクリーンには
「2022年最高の名曲にあなたはきっと涙する!」
という有名映画の新作のCM的な煽り文が映し出されるのだが、その後にしれっと
「知らんけど」
という文字が追加され、その間のわずかな時間でそれまでストリート的なファッションに身を包んでいたメンバーが揃いのコートを着用して「しらんけど」を歌い始めるのだが、シティポップ的なオシャレなサウンドであるのにメンバーが歌うたびに最後に
「しらんけど」
とつけ、ツッコミ担当であろうメンバーが
「しらんのかーい!」
とツッコむという、大名曲かどうかはさておいても、間違いなく今までに聴いたことがないタイプの曲が展開されていく。しかも途中でメンバー全員が真顔で「しらんけど」と口にしたり、ツッコミ担当が1人1人の横まで行って
「しらんのかーい!」
とツッコんで回るという忙しなさを見せたりと、よしもと興業が悔しがりそうな凄まじい曲になっている。これはきっとジャニーズの中でもこのグループでしか成立しない曲であろう。
そんな関西人っぽさ全開の曲で笑わせてくれた後にメンバーが暑がりながらコートを脱ぐと、急に神山智洋がエレキギターを持ち、自身が作曲し、藤井流星とともに作詞をしたという、メンバーの手によって作られた「ANS」をバンドメンバーとともにギターを弾きながら演奏する。もちろん他のメンバーとともに歌唱もするのであるが、あらゆる方面の豪華なアーティストが曲を提供するイメージが強いジャニーズの中にあって音源化しているというのはこの2人が作った曲がそうした提供曲と比べても遜色ないと判断されたからだろうし、実際にライブを観ていても先にそう言われなかったらメンバーが作った曲だとは思わなかっただろう。でもそれを敢えて口にしたということはこの曲に自信を持っていて、こうして音源化されたこと、こうして自分たちのファン以外の人がたくさんいる場所で演奏できることが本当に嬉しかったんだろうなと思う。その想いがまた新たな自分たちの作る曲に繋がっていくのかもしれない。
華やかな照明に照らされる中で、ラップ的な歌唱も披露される「週間うまくいく曜日」はなんとサンボマスターの山口隆提供曲であり、確かにこのグループのポジティブなパワーはサンボマスターに通じるものがあると思うし、近年のサンボマスターの新曲として山口が歌ってもおかしくないとすら感じられる曲だ。
しかしながらインディーズの頃に「東日本一のブサイク」というありがたくなさ過ぎる異名を授けられていたサンボマスターがまさかジャニーズに曲を提供することになるなんて1ミリも思っていなかったが、かつてはTHE BAWDIESのROYとドレスコーズの志磨遼平が共作したり、サカナクションが作った曲をSMAPが歌ったりしていた。ジャニーズファンの皆さんはそうして提供してくれたバンドの曲を掘り下げたりするものなのだろうか。この曲がきっかけでサンボマスターの音楽に触れてくれたりする人がいるのならば、こうして曲提供できたことをサンボマスターのファンとして心から嬉しく思う。
「いやー、なんか、青春やなぁ。青春してるなぁ」
としみじみと口にするようにしてから演奏された「証拠」と、メンバーの歌唱やアクションはさらに熱を帯びていくと、「僕らの理由」はなんとSUPER BEAVERの柳沢亮太提供曲なのだが、もうこれは聴いてすぐに「ビーバーだな」と思うくらいに柳沢節に満ちた曲であるのだが、この曲を歌う時には
「あなたのために歌っています!」
と言い、歌い終わった後には
「僕らがこんなに一生懸命歌っているのは、あなたの心の支えになりたいからです!」
と汗にまみれながら叫ぶ。きっとこれまでにこの会場よりも何倍もの規模の場所でライブをしてきたことだろう。それこそ3万人とか5万人とか動員したことだってあるかもしれない。でもそんなグループがあくまで「1対1」で我々と対峙して歌を届けようとしている。それはSUPER BEAVERがいつも口にしてきたことだ。もしかしたら曲を提供してもらったことによって彼らにビーバーイズムが注入されたのかもしれないが、それは彼らがビーバーの音楽や言葉に共感するくらいに熱い人間であるということだ。そんな熱さを持ったグループだったなんて、こうしてライブを見てみるまでは全く知らなかった。その言葉を叫んでいた短髪に白いフェスTシャツを着ていたメンバーの名前が誰だったのかは知りたいところである。
そしてもう飛び跳ねすぎて足がパンパンだったり、汗をかきすぎている中でもまだまだ終わらないとばかりに「ムーンライト」を歌うのであるが、その姿を見ていて、高い歌唱力を持っていても、もう上手く歌おうとか思っていなくて、ただただ目の前にいる人の心に届くように思いっきり感情を込めて歌っているんだろうなと思った。その歌っている表情がそれを物語っていたし、数あるジャニーズのグループの中でこのフェスが何故このグループをこのフェスに呼んだのかというのがもうこの辺りでちゃんとわかるようになっていた。
そして最後に、あいみょんが自分たちに曲を提供してくれて、その曲に至上の愛を感じていると言い、だからこそさらに最後の力を振り絞るようにして歌ったのは、あいみょんが
「僕らは最強なんだぜ」
というフレーズをこのグループに贈った「サムシング・ニュー」。確かに、この曲はあいみょんの曲ではあるけれど、あいみょんが歌って成立するような曲じゃない。このグループが歌うからこそ成立する曲だ。それをちゃんとわかっているからこそ、
「愛を感じる」
と口にしたのだろう。歌い終わると去り際に
「sumika先輩のライブをみんなで楽しみましょう!」
と言いながら名残惜しそうにステージから去って行った。そこには確かに他の出演者に対する愛と、このフェスに対する愛があった。それは今年のMETROCK大阪に出ていたこのグループが、こうしていろんなフェスに出るようになってもおかしくないことを示していた。
こんなに熱いグループだとは知らなかったと書いたが、知らない身からするととかく「ジャニーズ」というジャンルで一括りにしてしまうところがある。なかなかTVを見ないとメンバーのこともわからないし、曲を耳にする機会もないから。
でもきっとこのグループの曲やライブはこのグループだからこそ、いや、このメンバーが集まったこのグループだからこそのものであるはずだ。その人間性によって音楽が生まれてライブが作られていくというのは、自分が好きなロックバンドたちと同じだなと思った。「NO BORDER」を掲げたこの日、元からそこに境界線なんてなかったんじゃないかと思わせてくれた、ジャニーズWESTとの初対峙だった。
1.Big Shot!!
2.Mixed Juice
3.ズンドコパラダイス
4.ええじゃないか
5.W Trouble
6.YSSB
7.しらんけど
8.ANS
9.週刊うまくいく曜日
10.証拠
11.僕らの理由
12.ムーンライト
13.サムシング・ニュー
19:15〜 sumika
延期になった公演とはいえ、この4日前に自分たちのツアーファイナルを終えたばかりのsumikaがこの日のこのフェスのトリを務める。昨年にはさいたまスーパーアリーナでもワンマンを開催し、JAPAN JAMなどの巨大なフェスでもトリを務めているだけに、もはやこの規模のこのメンツでもトリを務めるのが順当であるとすら思える存在である。
最後まで満員の人が残ってこのバンドを待ち受ける中で、ツアーファイナルではなかったSE「ピカソからの宅急便」で観客が手拍子を始める中でメンバーが登場。セッティングからしてツアー同様の7人編成だということはわかるのだが、キーボード&DJの登場時からのはしゃぎっぷりは明らかにツアーに参加していたGeorge(Mop Of Head)ではなく、かつてはベーシストとしてもゲストメンバーで参加していた宮田"レフティ"リョウ。どんな形でも参加できるマルチプレイヤーというのが恐ろしくもあるが、三浦太郎(コーラス&ギター)と須藤優(ベース)はツアーに続いての登板である。
片岡健太(ボーカル&ギター)がギターを手にすると、いきなり歌いはじめたのは
「晴れのち雨になってもゆく
悪足掻き尽くすまで」
という歌詞が、この時にすでに会場の外では雨が降っていたのを知っての選曲なんだろうかと思うような、そしてツアーが終わってもまたこうして止まることなく走り続けていくという意志を示すかのような「祝祭」であるが、去年まではこうしてライブのオープニングとして鳴らされていたこの曲もツアーファイナルでは演奏していなかったため、すでにバンドは新たなモードに突入したということなのだろうか。
それはこちらも代表曲の一つでありながらもツアーファイナルのセトリにはなかった「フィクション」が演奏されるということからも感じられるが、片岡の伸びやかなボーカルに三浦のコーラスが重なることによって、また新たなこの曲の爽やかさを感じることができるのはこの編成によってリアレンジされているからこそだ。宮田が短パンTシャツ姿で楽しそうに飛び跳ねまくっているのが前任のGeorgeのクールさとは全く違っていて見ていて面白いけれど。
すると片岡はギターを置いてハンドマイクになると、こちらもまたツアーのセトリにはなかった「Flower」で、ステージを左右に動き回りながらサビのタイトルフレーズの前には
「行けるか!」「ラブミュの!」
と観客を煽るような言葉を追加する。もちろん我々がタイトルフレーズを叫ぶことはできないのだが、小川貴之(キーボード)をはじめとするメンバーがコーラスを重ねることによって、我々の代わりにメンバーが歌ってくれている頼もしさを感じることができる。黒田隼之介(ギター)は体を大きく揺さぶるようにしてこの曲のオリエンタルな要素を含んだギターリフを思いっきり鳴らし、下手でメンバーの方を向いたドラムセットというセッティングがツアー中と変わらない荒井智之(ドラム)はスクリーンに叩く姿が映ると、客席の方を見ながら歌詞を口ずさんで叩いているのがよくわかる。そうした姿がこのライブをより楽しい雰囲気にしてくれている。
先に出演した3組に触れつつ、
「最後のsumika以外はカッコ良かったとはならないようなライブをして帰ります!」
と意気込みを新たにすると、ダンサブルなギターロックの「ふっかつのじゅもん」で片岡と黒田はそれぞれステージ左右に走って行ってギターを鳴らし、小川は合いの手的なコーラスフレーズで客席の方を煽るような仕草をする。それら全てが本当に楽しそうであり、かなり長丁場かつ1組1組が濃厚なライブをしただけに疲労も感じてもおかしくない我々をふっかつさせてくれるかのようだ。
片岡がアコギに持ち替えると、荒井のジャジーなドラムと須藤のうねるようなベース、さらには黒田の音階を駆け上がっていくようなギターが絡み合う「Strawberry Fields」へ。ツアーと同じようにそれぞれに違う色の照明が当たる中、間奏ではゲストメンバーも含めたソロ回しが行われるのだが、この曲はツアーでも演奏されていただけにハミングソロの三浦、ベースを思いっきり歪ませる須藤というあたりは変わらないが、宮田のキーボードソロは顔が映らずに演奏している手元のみが映るというのは本人の意向によるものなのだろうか。
するとここでステージからメンバーたちが去っていき、片岡と宮田だけになる形で演奏されたのはもちろんトラック的なサウンドの「Babel」なのであるが、Georgeはこの曲でも客席の正面を向くようなセッティングだったのが、宮田は割と上手を向くようなセッティングであるというのが、同じ曲でもメンバーによって機材や演奏が全く変わるというのを示してくれる。そもそもこの7人編成が今後も続いていくのかはまだ不透明であるが、この曲はこれからもこうしてライブで演奏されるのだろうか。あるいはゲストを宮田だけにして、普段はベースを弾いてこの曲だけDJ、キーボードになるという5人編成もあるかもしれない。そうした想像ができるくらいに、今のsumikaは自由に自分たちの音楽を鳴らせるライブを楽しんでいる。
再びメンバー全員がステージに戻ってくると、小川のキーボードに宮田のストリングス的なサウンドが重なる壮大なバラード曲は「願い」。ツアーファイナルではバラード枠は「本音」だったが、どんな持ち時間のライブであってもこうした1曲が長めの曲を欠かさずに演奏するというのが、sumikaのサウンドの幅広さを知ってもらおう、こうした曲で知ってくれた人にも「Babel」や「Strawberry Fields」みたいな曲があるんだよということを示そうという意思を感じさせる。ただバラードとは言えないくらいにエモーショナルさを感じるのは、曲後半からの黒田のこれでもかというくらいのギターの弾きっぷりがあるからである。
そしてここまでは言葉少なめだった片岡は、
「結局は1対1なんですよ。このフェスに出る時はフジテレビの音楽番組のイベントとは思ってません。毎日毎日いろんなバンドのライブを観にライブハウスを駆け回って、紙1枚じゃ足りなくて2枚分になっちゃう思いを綴って楽屋に置いてくれる番組制作者がいて、どうやったらカッコよく映せるだろう?って考えてくれる大道具さんや美術さんたちがいる。俺はその人たちと1対1で向き合って番組に出てる。その1対1が広がって、結果的にチームとチームになる。だからテレビに出る時はいつも本当に楽しませてもらってる。
それは、目の前にいるあなたもそうです。俺は「みんな」に向かって曲を作ってない。「あなた」だけに向かって曲を作ってる。そんな「あなた」が集まって、結果的に1万人くらいの人が集まってる。前に「みんな」に向けたライブをしてみようと思ったこともあったけど、上手くいかなかった。っていうかそういうのは向いてなかった。
SNSとかでこれを書いても、わかってくれる人ばかりじゃないと思ってる。でも、今目の前にいる「あなた」にはわかって欲しいと思って言いました」
と、番組やこのフェス、そして「あなた」が集まった我々に対しての言葉を口にする。そこに込められた愛情の強さと深さこそが、こうしたフェスやイベントでsumikaがトリをやってくれて本当に良かったと思える要素の一つになっている。
その愛情がそのまま音楽、曲になって鳴らされているのが、
「最後は俺たちらしく笑って終わりたい!」
と言って、きらびやかなポップサウンドに合わせて片岡がハンドマイクで手拍子しながら歌う「Shake & Shake」で、黒田も宮田もステージ上をぴょんぴょんと飛び跳ねまくり、2コーラス目のトラック的なサウンドになる部分では荒井も手拍子をし、間奏の小川のキーボードソロでは片岡と黒田が小川のすぐ近くまで寄っていって、その華麗なキーボードプレイを凝視する。そして最後にはステージから客席に向かって金テープが発射されたのも、番組から、フェスからのこのバンドへの愛だった。そんな楽し過ぎる光景の全てが、やっぱり
「なんだかんだ言って嫌いじゃない、むしろ愛してるぜLove Music!」
と全員が思えるようなものになっていたのだ。
アンコールで再びメンバーが登場すると、
「バンドとかアイドルとか、誰のファンとか関係ないよね。同じ音楽なんだから。ボーダーなんて最初からない。音楽が好きならそれでいい!
今日あなたが来てくれるという選択をしてくれたおかげで、来年またこのフェスが開催されると思います!ライブに来てくれてありがとうございます!」
と片岡がこの日のテーマを改めて口にしてから最後に演奏されたのは「Lovers」。片岡も黒田もイントロで向きを変えながらジャンプしてギターを鳴らし、満員の観客の無数の腕が上がる。その光景はこの幸せな感覚を、ずっとずっと離さぬようにと思えるものでありながら、やっぱりsumikaがトリで本当に良かったと思えるものでもあった。
sumikaはこうしてトリとしてフェスやイベントに出演すると、全てを纏めるような言葉を口にし、それに見合うような楽曲とパフォーマンスを見せてくれる。それはやはりこのバンドが「目に見えないけどいるであろうたくさんの人」じゃなくて、あくまで1対1で人と対峙しているからこそ、その人に向けた言葉を言うことができるからだ。それが結果としてたくさんの1人に届くものになっているし、それは我々がフェスに、ライブに、音楽に、それらを作っている人に向けて抱いている想いそのものだ。sumikaというバンドはその想いを音楽として具現化してくれる存在なのかもしれない。
1.祝祭
2.フィクション
3.Flower
4.ふっかつのじゅもん
5.Strawberry Fields
6.Babel
7.願い
8.Shake & Shake
encore
9.Lovers
ライブが終わって規制退場を待っていると、QUEEN的なフットスタンプと手拍子のイントロの曲が流れた。それはbonobosの「THANK YOU FOR THE MUSIC」であり、かつて幕張メッセでこのフェスが開催した時にも終演後に流れていて、それを聴いた時に
「主催者が本当に音楽が好きじゃなかったら、この曲を流さないし、なんならこの曲自体を知らないだろう」
と思った。それからこのフェスを、この番組を、それを作っている人を心から信頼するようになった。それがずっと変わっていないからこそ、翌日の2日目がさらに楽しみになった。