yonige presents 山手線ツアー2022 @渋谷近未来会館 6/16
- 2022/06/17
- 21:04
本来は2020年の夏に開催予定だったが、時世的に開催することが叶わずに延期になってしまった、yonigeの山手線ツアーが今年ついに開催。
その名の通りに山手線の駅にあるライブ会場を回るというツアーであり、新宿や恵比寿というおなじみの駅はもちろん、巣鴨や上野という、なかなかライブでは訪れないような場所までをも巡るだけに、せっかくなら普段行かないような駅のライブハウスに行きたいと思っていたのだが、スケジュールが合う公演がなかなかなかっただけに、普段からしょっちゅう来ているこの日の渋谷に参加することに。
それでも近未来会館は初めて訪れる会場であり、オープン時から界隈では話題になっていた、会場名通りに渋谷の街中にあるとは思えないくらいのサイバーパンク感と中華感が入り混じるような新たなライブハウスであり、渋谷にいながらにして異世界に来たかのようであり、中華料理店でアー写を撮影していたyonigeに実に良く似合う会場でもある。非常に電波が悪いのがライブ前に暇潰しするのがネットサーフィンしかない身としては辛いところだが。
19時になるとスッと場内が暗転して、おなじみのホリエ(ドラム)と土器大洋(ギター&キーボード)の2人とともに、牛丸ありさ(ボーカル&ギター)とごっきん(ベース)がステージに登場。今はアー写もこの4人で映っているものが使われているし、正式メンバーではないとはいえ、今やもう長い時間を共にしてきたこの4人でyonigeと言っていいのかもしれない。ごっきんは鮮やかな金髪であり、牛丸は対照的に少し伸び気味の黒髪という出で立ち。
ごっきんのうねるようなベースによって冒頭からyonigeだからこそのグルーヴが蠢くのは、配信リリースされたばかりの最新曲「デウス・エクス・マキナ」であり、「健全な社会」や「三千世界」のさらに奥深くへと潜っていくようなサウンドがこの近未来会館の内装の雰囲気も相まって、全く渋谷のライブハウスというような感覚がない。まるでどこか別世界へと連れて行かれているかのようだ。
それは土器がキーボードというかシンセを操る「催眠療法」もそうであるが、このサイケ感は少なからずこの会場だからこそというのを狙ったオープニングであると思われる。それくらいに冒頭からyonigeの最深部に心身ともに引き込まれていくようだ。
土器がギターに持ち替えると、こんなにギターが爆音というか轟音なのかと数え切れないくらいにライブを見てきたにもかかわらずビックリしてしまう「2月の水槽」から、ホリエがアウトロとイントロを繋ぐようにビートをキープする「バッドエンド週末」という流れは、このキャパ300人ほどというyonigeのバンドの規模から考えたらかなり小さいライブハウスでの接近戦だからこそ感じられる音圧であるが、そのギターの音の大きさに負けないくらいに牛丸のボーカルが素晴らしい。どこか頼りないイメージもあった初期の頃とは比べ物にならないくらいに声も歌っている時の姿というか立ち振る舞いも凛としている。
「yonigeです、よろしくお願いします」
とだけ牛丸が挨拶すると、リズミカルな譜割による歌唱の「サイドB」という実に久しぶりにライブで聴く曲が演奏されたために、この後もそうした曲が聴けるんじゃないかと期待が高まる。深い方に潜るだけじゃなくて、こうして過去の曲も今のyonigeで演奏されることによって再現性が上がっているだけではなくて、完成度そのものが大幅に向上しているのがよくわかる。
そんなyonigeのグルーヴの極地という曲はやはり「往生際」で、ごっきんのベースがどっしりとした重さを感じさせながら、サビでは土器とともにコーラスを重ねるのであるが、少しエフェクトをかけた牛丸のボーカルの伸びやかさはこの近未来会館のキャパを突き抜けるかのようなスケール。初めてライブで鳴らされたのは日本武道館でのワンマンだったし、昨年はフジロックのメインステージであるGREEN STAGEでも鳴らされただけに、yonigeが深い方へ潜っていく先鞭になったと言える曲でもあるのだが、そうした場所で鳴るべきスケールを、ライブで鳴らし続けることによってバンドは獲得してきたのだ。
その深さとグルーヴは合唱的なメンバーのコーラスが一体感とはかけ離れた妖しさを醸し出す「子どもは見ている」にも引き継がれていたのだが、普通は合唱=観客もみんなで一緒に歌うということになりそうなものであるが、この曲には全くそれがない。コーラスフレーズはキャッチーとはいえ、ほぼごっきんのベースのみという削ぎ落とされたサウンドであり、コロナ禍のルールが緩和されてきて、yonigeのライブでも声を出していいとなったとしても、この曲でメンバーと一緒に歌うような人は間違いなくいないだろう。牛丸が若干歌詞を間違えて歌っていた(1コーラス目と同じフレーズを2コーラス目にも歌っていた)のはもはやご愛嬌である。
すると1stフルアルバム「girls like girls」収録の「各駅停車」という凄まじく久しぶり(アルバムのリリースツアー以来だろうか?)に聴く曲で一気にギターロックバンドとしてのyonigeに回帰する。
「間違って そりゃないって
言われたって逃げられやしない
わたしだって 泣きたいって
でも笑顔で踏ん張るしかないよ」
という韻の踏み方が実にキャッチーなサビではリズムに合わせて軽く手拍子をしたくなるものであるが、yonigeの近年のライブはそうした物音を立てることも憚られるような緊張感に満ちている。
そんな客席の緊張感は曲を演奏することによって和らいでいくのはホリエがイントロでリズミカルに鈴を鳴らす「バイ・マイ・サイ」というキャッチーな曲が続いていくからなのだが、この辺りの曲での牛丸のボーカルを聴いていると、少女っぽさも少しく残していながらも、雰囲気だけではなくて歌声からも確かな大人らしさを感じることができる。そう思えるくらいの年月をyonigeとともに過ごしてきたんだな…となんだか少ししみじみとしてしまうけれど。
yonigeがこれまでに対バンしてきたバンドたちには一瞬で終わるようなショートチューンのキラーチューンを持つようなバンドもいるが、そうしたショートチューンがスピード感溢れるものが多いことに比べると、yonigeのショートチューンと言える「最近のこと」はyonigeだからこその、
「君とうまく話せなくなって3ヶ月が経つけど
その間に僕はさビールが飲めるようになった」
「君とうまく話せなくなったキッカケはわすれたけど
その間に君はさ恋人ができたんだってね」
というフレーズの通りに、最近こんな感じ〜と報告するかのような曲だ。ちなみにこの2つの歌詞で曲全体の半分というあたりからもこの曲のショートチューンっぷりがわかると思われる。
すると牛丸と土器の鳴らすギターのイントロが一気に場内に光が溢れるように、観客の心を昂らせていくのは、前回のツアーではファイナルのアンコールで演奏されて、牛丸が見事に歌詞をぶっ飛ばしまくるという、本当に急遽アンコールに応えてくれたんだなということがわかった「リボルバー」で、この日はこうして本編にしっかりと組み込まれているのだが、11曲目にしてこの日初めてサビでは観客が腕を挙げるという光景が広がり、それが見えるだけでなんだか込み上げてくるものがある。みんなyonigeが、この曲が好きで仕方がない人たちが集まっているということがこの上なく伝わってくるからだ。それはCメロでの観客による手拍子もそうであるが、そんな観客の想いに応えてくれるかのように牛丸は歌詞を間違えることなく、最高と思えるような伸びやかな歌唱で歌い切ってくれる。もうリリースから5年近くも経つけれど、その期間にありとあらゆる音楽の中で自分が1番聴いた夏の曲はおそらくこの曲だと思う。それくらいにたくさんの思い入れが詰まっている曲だからこそ、ライブでの光景を見ると感動してしまうのだ。
そのまま土器のギターサウンドはさらに激しさを増すと、ホリエがドラムを叩く表情もそれまでよりも険しくなるのは速さと強さを求められる「悲しみはいつもの中」で、
「それなりに続けてたバイトはついにこの前辞めた
普通の日常とは?わからないや」
というフレーズは「最近のこと」の
「すぐやめようと思ってた例のバイトは続けてるよ」
というフレーズから繋がっている。牛丸は独特の視点と語彙力によって物語を紡ぐ作詞家でもあるが、それはリリース時期の異なる曲同士を繋げる物語を紡いでいるということが、こうして同じライブの流れで聴くとハッキリとわかるのだ。
「渋谷はしょっちゅうライブしに来てるんですけど、未来館?未来会館?近未来会館は初めて来ました。内装とかこんな感じなんだ〜って」
と、なかなかこの会場の正式名称を牛丸が言えない中、「健全な社会」以降はずっとライブのオープニングを担ってきた、じわじわとバンドの演奏の熱量が高まりながら、牛丸が何度も言い直した「渋谷近未来会館」の会場名のステージ背面のオブジェが照明の効果を発揮しながら輝く「11月24日」がまたここからライブが始まっていくかのような感覚を感じさせてくれる。もうバンドによっては終盤になってもおかしくないくらいの曲数であるが、全然まだ終わりそうな気配はない。
その「11月24日」から「健全な朝」に繋がるというのは「健全な社会」のオープニングと同じ流れであり、それはそのまま近年のyonigeのライブの流れでもあったのだが、その流れがここで演奏されるというのはそのモードが変わってきつつあるのか、あるいはこのツアーは日毎にガラッと流れを変えていて、他の場所ではこの2曲がオープニングを担っているのか。それを確かめるためにはこの後に開催されるこのツアーの他の箇所にも足を運ばないといけないが、どこか淡々とした、毎朝同じ時間に起きて同じように家を出ていくというルーティンを音で表すようなギターのイントロが心地良く感じられる。
そうした穏やかさを感じさせるサウンドはyonige屈指のバラード曲「沙希」へと繋がっていく。美しいメロディと歌詞であることはもちろんであるが、どこか陶酔感を感じさせるのがyonigeならではだ。それは牛丸のボーカルに重なるごっきんのコーラスや幽玄なギターのサウンドがそう思わせるのかもしれない。
リリースなどを伴わないツアーであるだけにある程度様々な時期の曲を演奏するとは思っていたが、この日の中でも屈指のレア曲と言えるのは、FOMARE、街人、KOTORIの3バンドとのスプリット盤に収録された「seed」であろう。収録されていたFOMARE「愛する人」もKOTORI「We Are The Future」もともに今や代表曲になっているが、この曲は「まさか聴けるとは!」とつい驚いてしまう。牛丸の歌詞はどこか哲学的とすら言えるものであるのだが、
「再会を祈るように君を呼ぶ声は遠く
戦争の理由を探す旅はまだ続くのだ」
という、思わずハッとしてしまうような締めのフレーズはyonigeなりの今のこの世界へのメッセージと言えるのかもしれない。
すると牛丸がアコギに持ち替えて演奏されたことによって、yonigeアコースティックバージョンと言えるような削ぎ落とされたサウンドになり、牛丸のボーカルも声量は落ち着かせながらもそこに情感を思いっきり込める「サイケデリックイエスタデイ」から、牛丸がキーボードを弾きながら歌うことによって、これまでとは全く異なるyonigeサウンドを獲得したCDバージョンの「27歳」という変化球的な曲が続く。そうした轟音で埋め尽くさないサウンドであるだけに牛丸の物語的かつ、普通のバンドにはまず出てこないような歌詞をしっかり噛み締めながら聴くことができるのだが、左腕に腕時計をした牛丸の腕が実に美しいことがキーボードを弾くのを見るとよくわかる。
そんな「27歳」をアウトロでぶつっと切るようにすると、牛丸がごっきんに
「どうぞ」
とめちゃくちゃ雑にMCを振る。そのごっきんは
「今日初めてyonigeのライブを見る人〜?…ほぼお得意さんですね(笑)」
と観客に聞きつつ、バンドが独立して会社を設立したことを改めて口にするのだが、
「自分たちがやることがすべて直結してくるから、生活していくためにライブをやりまくってる。ウチと牛丸が社長です!」
と言われると、これから牛丸とごっきんを見るたびに「社長!」と言ってしまいそうになるのだが、かつては「難しいことはわかりません」的な感じもあったyonigeの2人が、今は全ての責任を持ってバンドをやっている。そこには間違いなくこれからもこのバンドとして生きていくという意思があるからこその選択だ。そこにホリエと土器がついてきてくれているのも実に頼もしいし、自分たちがやりたいことを自由にやれる環境を自分たち自身で作り上げたのだ。
それはこの山手線ツアーも自分たちがやりたいことであり、ツアーではスタンプラリーも開催されているということで、そのスタンプラリーを集めると秘蔵ポストカードが貰えたり、スタンプを押す台帳が「山手線ZINE」として前回のツアーのオフショット写真が載っていたりと、そうした細部にまで自分たちがやりたいことにこだわっているということがよくわかる。
そして牛丸が再びエレキを手にして弾き語りのようにしてサビを歌い始めてから4人が呼吸を合わせるように向かい合って音を合わせてイントロを鳴らすのは「さよならアイデンティティー」であり、この曲をライブで聴くと今でもyonigeに出会った頃のことを思い出すのであるが、その頃とは演奏も牛丸の歌唱も完全に別のバンドと言えるくらいの次元だ。ここまでは「リボルバー」以外でそうなる曲がほぼないからこそ、観客の腕を上げる姿に実にグッと来る。
さらにその轟音が凄みを増すのは「ワンルーム」であり、我々の方を向いて音を鳴らしているのは間違いないのだが、どこかメンバー同士が円になって向かい合って演奏しているかのようなグルーヴすら感じることができる。こんな轟音ギターロックな曲でそう感じることができることはほとんどないだけに、今のyonigeのグルーヴが最高潮に達していることがよくわかるのだが、
「君の一番になれないけど
君もわたしの一番じゃないよ」
というフレーズを牛丸が歌い上げた時に、それはラブソングの歌詞でありながらも、どこか我々とyonigeの関係性そのものであることのように感じていた。
「今回のツアーはアンコールをやってないんで、あと2曲楽しんでください。ありがとうございました、yonigeでした」
と挨拶してから演奏されたのは「三千世界」のリード曲である、今のこの鬱屈した世界や社会の状況の中でもyonigeの音楽によって、ライターくらいではあっても微かな光を灯すような「対岸の彼女」。するとこの曲でも腕を高く掲げる観客も何人もいた。それはこの曲の前までの熱気の余韻があったからかもしれないけれど、それ以上に決してアッパーではないこの曲にもそうしたくなるような熱量が確かに宿っていた。
そんなライブの最後に演奏されたのはノイジーなギターのサウンドが重厚なサイケデリアを生み出す「最愛の恋人たち」で、オープニング同様にこの近未来会館の持つ雰囲気が音と相まって別世界に連れていってくれるかのようでもあり、目を閉じてこのサウンドだけに浸っていたいかのようでもあり。元からそうした陶酔感を持った曲だったが、それがさらに強くなっているのは、yonigeがこの4人で大きな進化を果たしてきたからだ。
そんなことを思っていると、まだアウトロでギターのフィードバックノイズが流れている中で4人は颯爽とステージから去っていくという潔さ。これは一瞬だけの夢だったんだろうかとも思ったけれど、スタッフが音を止めた後に巻き起こった観客からの拍手で目が覚めたかのようだった。これは紛れもなく現実だったのだ。
yonigeがこんなバンドになるなんて出会った頃は全く思っていなかった。それはエモーショナルなギターロックを鳴らすシンプルなスリーピースバンドからのサウンドの進化と深化という意味でも、独立して自分たちの足で歩くという選択にしても。
確かに所属していたレーベルの周りのバンドたちとは明らかに音楽性が違いすぎると感じるようになっていただけに、自分たちのやりたいことを自分たちのやりたいように追求することにしたのだろうけれど、それによって明らかにバンドは変わった。さらに逞しくなったことがライブを見れば一瞬でわかる。
そんな強さを持つことも、こんなに素晴らしいライブをするバンドになるということも、出会った当時は想像していなかった。きっと、これから先ももっと我々のことを音楽とライブで驚かせてくれるはず。このツアーは後々振り返った時に、武道館ワンマン以上にバンドにとっての大きなターニングポイントになる予感がしている。
1.デウス・エクス・マキナ
2.催眠療法
3.2月の水槽
4.バッドエンド週末
5.サイドB
6.往生際
7.子どもは見ている
8.各駅停車
9.バイ・マイ・サイ
10.最近のこと
11.リボルバー
12.悲しみはいつもの中
13.11月24日
14.健全な朝
15.沙希
16.seed
17.サイケデリックイエスタデイ
18.27歳 (CD ver.)
19.さよならアイデンティティー
20.ワンルーム
21.対岸の彼女
22.最愛の恋人たち
その名の通りに山手線の駅にあるライブ会場を回るというツアーであり、新宿や恵比寿というおなじみの駅はもちろん、巣鴨や上野という、なかなかライブでは訪れないような場所までをも巡るだけに、せっかくなら普段行かないような駅のライブハウスに行きたいと思っていたのだが、スケジュールが合う公演がなかなかなかっただけに、普段からしょっちゅう来ているこの日の渋谷に参加することに。
それでも近未来会館は初めて訪れる会場であり、オープン時から界隈では話題になっていた、会場名通りに渋谷の街中にあるとは思えないくらいのサイバーパンク感と中華感が入り混じるような新たなライブハウスであり、渋谷にいながらにして異世界に来たかのようであり、中華料理店でアー写を撮影していたyonigeに実に良く似合う会場でもある。非常に電波が悪いのがライブ前に暇潰しするのがネットサーフィンしかない身としては辛いところだが。
19時になるとスッと場内が暗転して、おなじみのホリエ(ドラム)と土器大洋(ギター&キーボード)の2人とともに、牛丸ありさ(ボーカル&ギター)とごっきん(ベース)がステージに登場。今はアー写もこの4人で映っているものが使われているし、正式メンバーではないとはいえ、今やもう長い時間を共にしてきたこの4人でyonigeと言っていいのかもしれない。ごっきんは鮮やかな金髪であり、牛丸は対照的に少し伸び気味の黒髪という出で立ち。
ごっきんのうねるようなベースによって冒頭からyonigeだからこそのグルーヴが蠢くのは、配信リリースされたばかりの最新曲「デウス・エクス・マキナ」であり、「健全な社会」や「三千世界」のさらに奥深くへと潜っていくようなサウンドがこの近未来会館の内装の雰囲気も相まって、全く渋谷のライブハウスというような感覚がない。まるでどこか別世界へと連れて行かれているかのようだ。
それは土器がキーボードというかシンセを操る「催眠療法」もそうであるが、このサイケ感は少なからずこの会場だからこそというのを狙ったオープニングであると思われる。それくらいに冒頭からyonigeの最深部に心身ともに引き込まれていくようだ。
土器がギターに持ち替えると、こんなにギターが爆音というか轟音なのかと数え切れないくらいにライブを見てきたにもかかわらずビックリしてしまう「2月の水槽」から、ホリエがアウトロとイントロを繋ぐようにビートをキープする「バッドエンド週末」という流れは、このキャパ300人ほどというyonigeのバンドの規模から考えたらかなり小さいライブハウスでの接近戦だからこそ感じられる音圧であるが、そのギターの音の大きさに負けないくらいに牛丸のボーカルが素晴らしい。どこか頼りないイメージもあった初期の頃とは比べ物にならないくらいに声も歌っている時の姿というか立ち振る舞いも凛としている。
「yonigeです、よろしくお願いします」
とだけ牛丸が挨拶すると、リズミカルな譜割による歌唱の「サイドB」という実に久しぶりにライブで聴く曲が演奏されたために、この後もそうした曲が聴けるんじゃないかと期待が高まる。深い方に潜るだけじゃなくて、こうして過去の曲も今のyonigeで演奏されることによって再現性が上がっているだけではなくて、完成度そのものが大幅に向上しているのがよくわかる。
そんなyonigeのグルーヴの極地という曲はやはり「往生際」で、ごっきんのベースがどっしりとした重さを感じさせながら、サビでは土器とともにコーラスを重ねるのであるが、少しエフェクトをかけた牛丸のボーカルの伸びやかさはこの近未来会館のキャパを突き抜けるかのようなスケール。初めてライブで鳴らされたのは日本武道館でのワンマンだったし、昨年はフジロックのメインステージであるGREEN STAGEでも鳴らされただけに、yonigeが深い方へ潜っていく先鞭になったと言える曲でもあるのだが、そうした場所で鳴るべきスケールを、ライブで鳴らし続けることによってバンドは獲得してきたのだ。
その深さとグルーヴは合唱的なメンバーのコーラスが一体感とはかけ離れた妖しさを醸し出す「子どもは見ている」にも引き継がれていたのだが、普通は合唱=観客もみんなで一緒に歌うということになりそうなものであるが、この曲には全くそれがない。コーラスフレーズはキャッチーとはいえ、ほぼごっきんのベースのみという削ぎ落とされたサウンドであり、コロナ禍のルールが緩和されてきて、yonigeのライブでも声を出していいとなったとしても、この曲でメンバーと一緒に歌うような人は間違いなくいないだろう。牛丸が若干歌詞を間違えて歌っていた(1コーラス目と同じフレーズを2コーラス目にも歌っていた)のはもはやご愛嬌である。
すると1stフルアルバム「girls like girls」収録の「各駅停車」という凄まじく久しぶり(アルバムのリリースツアー以来だろうか?)に聴く曲で一気にギターロックバンドとしてのyonigeに回帰する。
「間違って そりゃないって
言われたって逃げられやしない
わたしだって 泣きたいって
でも笑顔で踏ん張るしかないよ」
という韻の踏み方が実にキャッチーなサビではリズムに合わせて軽く手拍子をしたくなるものであるが、yonigeの近年のライブはそうした物音を立てることも憚られるような緊張感に満ちている。
そんな客席の緊張感は曲を演奏することによって和らいでいくのはホリエがイントロでリズミカルに鈴を鳴らす「バイ・マイ・サイ」というキャッチーな曲が続いていくからなのだが、この辺りの曲での牛丸のボーカルを聴いていると、少女っぽさも少しく残していながらも、雰囲気だけではなくて歌声からも確かな大人らしさを感じることができる。そう思えるくらいの年月をyonigeとともに過ごしてきたんだな…となんだか少ししみじみとしてしまうけれど。
yonigeがこれまでに対バンしてきたバンドたちには一瞬で終わるようなショートチューンのキラーチューンを持つようなバンドもいるが、そうしたショートチューンがスピード感溢れるものが多いことに比べると、yonigeのショートチューンと言える「最近のこと」はyonigeだからこその、
「君とうまく話せなくなって3ヶ月が経つけど
その間に僕はさビールが飲めるようになった」
「君とうまく話せなくなったキッカケはわすれたけど
その間に君はさ恋人ができたんだってね」
というフレーズの通りに、最近こんな感じ〜と報告するかのような曲だ。ちなみにこの2つの歌詞で曲全体の半分というあたりからもこの曲のショートチューンっぷりがわかると思われる。
すると牛丸と土器の鳴らすギターのイントロが一気に場内に光が溢れるように、観客の心を昂らせていくのは、前回のツアーではファイナルのアンコールで演奏されて、牛丸が見事に歌詞をぶっ飛ばしまくるという、本当に急遽アンコールに応えてくれたんだなということがわかった「リボルバー」で、この日はこうして本編にしっかりと組み込まれているのだが、11曲目にしてこの日初めてサビでは観客が腕を挙げるという光景が広がり、それが見えるだけでなんだか込み上げてくるものがある。みんなyonigeが、この曲が好きで仕方がない人たちが集まっているということがこの上なく伝わってくるからだ。それはCメロでの観客による手拍子もそうであるが、そんな観客の想いに応えてくれるかのように牛丸は歌詞を間違えることなく、最高と思えるような伸びやかな歌唱で歌い切ってくれる。もうリリースから5年近くも経つけれど、その期間にありとあらゆる音楽の中で自分が1番聴いた夏の曲はおそらくこの曲だと思う。それくらいにたくさんの思い入れが詰まっている曲だからこそ、ライブでの光景を見ると感動してしまうのだ。
そのまま土器のギターサウンドはさらに激しさを増すと、ホリエがドラムを叩く表情もそれまでよりも険しくなるのは速さと強さを求められる「悲しみはいつもの中」で、
「それなりに続けてたバイトはついにこの前辞めた
普通の日常とは?わからないや」
というフレーズは「最近のこと」の
「すぐやめようと思ってた例のバイトは続けてるよ」
というフレーズから繋がっている。牛丸は独特の視点と語彙力によって物語を紡ぐ作詞家でもあるが、それはリリース時期の異なる曲同士を繋げる物語を紡いでいるということが、こうして同じライブの流れで聴くとハッキリとわかるのだ。
「渋谷はしょっちゅうライブしに来てるんですけど、未来館?未来会館?近未来会館は初めて来ました。内装とかこんな感じなんだ〜って」
と、なかなかこの会場の正式名称を牛丸が言えない中、「健全な社会」以降はずっとライブのオープニングを担ってきた、じわじわとバンドの演奏の熱量が高まりながら、牛丸が何度も言い直した「渋谷近未来会館」の会場名のステージ背面のオブジェが照明の効果を発揮しながら輝く「11月24日」がまたここからライブが始まっていくかのような感覚を感じさせてくれる。もうバンドによっては終盤になってもおかしくないくらいの曲数であるが、全然まだ終わりそうな気配はない。
その「11月24日」から「健全な朝」に繋がるというのは「健全な社会」のオープニングと同じ流れであり、それはそのまま近年のyonigeのライブの流れでもあったのだが、その流れがここで演奏されるというのはそのモードが変わってきつつあるのか、あるいはこのツアーは日毎にガラッと流れを変えていて、他の場所ではこの2曲がオープニングを担っているのか。それを確かめるためにはこの後に開催されるこのツアーの他の箇所にも足を運ばないといけないが、どこか淡々とした、毎朝同じ時間に起きて同じように家を出ていくというルーティンを音で表すようなギターのイントロが心地良く感じられる。
そうした穏やかさを感じさせるサウンドはyonige屈指のバラード曲「沙希」へと繋がっていく。美しいメロディと歌詞であることはもちろんであるが、どこか陶酔感を感じさせるのがyonigeならではだ。それは牛丸のボーカルに重なるごっきんのコーラスや幽玄なギターのサウンドがそう思わせるのかもしれない。
リリースなどを伴わないツアーであるだけにある程度様々な時期の曲を演奏するとは思っていたが、この日の中でも屈指のレア曲と言えるのは、FOMARE、街人、KOTORIの3バンドとのスプリット盤に収録された「seed」であろう。収録されていたFOMARE「愛する人」もKOTORI「We Are The Future」もともに今や代表曲になっているが、この曲は「まさか聴けるとは!」とつい驚いてしまう。牛丸の歌詞はどこか哲学的とすら言えるものであるのだが、
「再会を祈るように君を呼ぶ声は遠く
戦争の理由を探す旅はまだ続くのだ」
という、思わずハッとしてしまうような締めのフレーズはyonigeなりの今のこの世界へのメッセージと言えるのかもしれない。
すると牛丸がアコギに持ち替えて演奏されたことによって、yonigeアコースティックバージョンと言えるような削ぎ落とされたサウンドになり、牛丸のボーカルも声量は落ち着かせながらもそこに情感を思いっきり込める「サイケデリックイエスタデイ」から、牛丸がキーボードを弾きながら歌うことによって、これまでとは全く異なるyonigeサウンドを獲得したCDバージョンの「27歳」という変化球的な曲が続く。そうした轟音で埋め尽くさないサウンドであるだけに牛丸の物語的かつ、普通のバンドにはまず出てこないような歌詞をしっかり噛み締めながら聴くことができるのだが、左腕に腕時計をした牛丸の腕が実に美しいことがキーボードを弾くのを見るとよくわかる。
そんな「27歳」をアウトロでぶつっと切るようにすると、牛丸がごっきんに
「どうぞ」
とめちゃくちゃ雑にMCを振る。そのごっきんは
「今日初めてyonigeのライブを見る人〜?…ほぼお得意さんですね(笑)」
と観客に聞きつつ、バンドが独立して会社を設立したことを改めて口にするのだが、
「自分たちがやることがすべて直結してくるから、生活していくためにライブをやりまくってる。ウチと牛丸が社長です!」
と言われると、これから牛丸とごっきんを見るたびに「社長!」と言ってしまいそうになるのだが、かつては「難しいことはわかりません」的な感じもあったyonigeの2人が、今は全ての責任を持ってバンドをやっている。そこには間違いなくこれからもこのバンドとして生きていくという意思があるからこその選択だ。そこにホリエと土器がついてきてくれているのも実に頼もしいし、自分たちがやりたいことを自由にやれる環境を自分たち自身で作り上げたのだ。
それはこの山手線ツアーも自分たちがやりたいことであり、ツアーではスタンプラリーも開催されているということで、そのスタンプラリーを集めると秘蔵ポストカードが貰えたり、スタンプを押す台帳が「山手線ZINE」として前回のツアーのオフショット写真が載っていたりと、そうした細部にまで自分たちがやりたいことにこだわっているということがよくわかる。
そして牛丸が再びエレキを手にして弾き語りのようにしてサビを歌い始めてから4人が呼吸を合わせるように向かい合って音を合わせてイントロを鳴らすのは「さよならアイデンティティー」であり、この曲をライブで聴くと今でもyonigeに出会った頃のことを思い出すのであるが、その頃とは演奏も牛丸の歌唱も完全に別のバンドと言えるくらいの次元だ。ここまでは「リボルバー」以外でそうなる曲がほぼないからこそ、観客の腕を上げる姿に実にグッと来る。
さらにその轟音が凄みを増すのは「ワンルーム」であり、我々の方を向いて音を鳴らしているのは間違いないのだが、どこかメンバー同士が円になって向かい合って演奏しているかのようなグルーヴすら感じることができる。こんな轟音ギターロックな曲でそう感じることができることはほとんどないだけに、今のyonigeのグルーヴが最高潮に達していることがよくわかるのだが、
「君の一番になれないけど
君もわたしの一番じゃないよ」
というフレーズを牛丸が歌い上げた時に、それはラブソングの歌詞でありながらも、どこか我々とyonigeの関係性そのものであることのように感じていた。
「今回のツアーはアンコールをやってないんで、あと2曲楽しんでください。ありがとうございました、yonigeでした」
と挨拶してから演奏されたのは「三千世界」のリード曲である、今のこの鬱屈した世界や社会の状況の中でもyonigeの音楽によって、ライターくらいではあっても微かな光を灯すような「対岸の彼女」。するとこの曲でも腕を高く掲げる観客も何人もいた。それはこの曲の前までの熱気の余韻があったからかもしれないけれど、それ以上に決してアッパーではないこの曲にもそうしたくなるような熱量が確かに宿っていた。
そんなライブの最後に演奏されたのはノイジーなギターのサウンドが重厚なサイケデリアを生み出す「最愛の恋人たち」で、オープニング同様にこの近未来会館の持つ雰囲気が音と相まって別世界に連れていってくれるかのようでもあり、目を閉じてこのサウンドだけに浸っていたいかのようでもあり。元からそうした陶酔感を持った曲だったが、それがさらに強くなっているのは、yonigeがこの4人で大きな進化を果たしてきたからだ。
そんなことを思っていると、まだアウトロでギターのフィードバックノイズが流れている中で4人は颯爽とステージから去っていくという潔さ。これは一瞬だけの夢だったんだろうかとも思ったけれど、スタッフが音を止めた後に巻き起こった観客からの拍手で目が覚めたかのようだった。これは紛れもなく現実だったのだ。
yonigeがこんなバンドになるなんて出会った頃は全く思っていなかった。それはエモーショナルなギターロックを鳴らすシンプルなスリーピースバンドからのサウンドの進化と深化という意味でも、独立して自分たちの足で歩くという選択にしても。
確かに所属していたレーベルの周りのバンドたちとは明らかに音楽性が違いすぎると感じるようになっていただけに、自分たちのやりたいことを自分たちのやりたいように追求することにしたのだろうけれど、それによって明らかにバンドは変わった。さらに逞しくなったことがライブを見れば一瞬でわかる。
そんな強さを持つことも、こんなに素晴らしいライブをするバンドになるということも、出会った当時は想像していなかった。きっと、これから先ももっと我々のことを音楽とライブで驚かせてくれるはず。このツアーは後々振り返った時に、武道館ワンマン以上にバンドにとっての大きなターニングポイントになる予感がしている。
1.デウス・エクス・マキナ
2.催眠療法
3.2月の水槽
4.バッドエンド週末
5.サイドB
6.往生際
7.子どもは見ている
8.各駅停車
9.バイ・マイ・サイ
10.最近のこと
11.リボルバー
12.悲しみはいつもの中
13.11月24日
14.健全な朝
15.沙希
16.seed
17.サイケデリックイエスタデイ
18.27歳 (CD ver.)
19.さよならアイデンティティー
20.ワンルーム
21.対岸の彼女
22.最愛の恋人たち
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