ハルカミライ 「オールニューマニア」 GUEST:HEY-SMITH @川崎CLUB CITTA' 6/15
- 2022/06/16
- 21:07
もういつ曲作りなりレコーディングなりしてるのだろうかと思うくらいに毎日のごとくにどこかでライブをしているし、平気で前日に東北や関西でライブをした翌日に関東でライブをしていたりする。
そんな「ザ・ライブバンド」というか、人生そのものがライブであると言えるようなバンドであるハルカミライが今年もアルバム「ニューマニア」をリリースということで、冒頭のとおりにいつ曲作りやレコーディングをしていたんだ、と思うわけである。
そんな「ニューマニア」のリリースツアーはライブハウスとホールを行き来しながら、さらにはあらゆるフェスやイベントに出演しながら行われ、この日と翌日は川崎クラブチッタでの2daysで、しかも初日がHEY-SMITH、2日目がSUPER BEAVERという「アリーナとかじゃなくてこのキャパでいいんだろうか」と思わざるを得ないようなゲストを迎える。果たしてどんな一夜になるのか楽しみでしかない。
クラブチッタの客席は足元にテープでラインが引かれて列管理をするという方式のスタンディングで、徐々にスタンディングでしかも自由度が増してきているのがわかる。
・HEY-SMITH
平日の18時という開演時間、ゲストとして呼ばれた側であれどこのバンドのTシャツを着た人もたくさんいるというのがさすがである、HEY-SMITH。
おなじみの爆音SEが響き始めると、猪狩秀平(ボーカル&ギター)はギターを持って現れ、満(サックス)は何やらキレートレモンのような小瓶を持って観客に見せつけている(はっきりとは見えなかったけど)というやはり挙動不審っぷりであり、先月にはジストニアを抱えていることを公表した、金髪になったかなす(トロンボーン)も表情は実に元気そうだ。やはりライブをやれる、ステージに立てるということが彼女の活力になっているのだろうか。
「オールニューマニアにようこそー!大阪のHEY-SMITHです!」
と猪狩が挨拶すると、その満、かなす、イイカワケン(トランペット)によるホーンサウンドが高らかに鳴り響き、Task-n(ドラム)のツービートが疾走し、猪狩がカッティングギターを刻みまくるというスカパンクな「Living In My Skin」から始まると、ホーン隊のメンバーは一斉に飛び跳ね、それが客席にも広がっていくのだが、こんなに爆音だったっけと思うくらいの爆音っぷりで、それがライブハウスでヘイスミを観ているということを実感させてくれる。まだ基本的には我々が一緒に歌うことはできないが、YUJI(ベース&ボーカル)の爽やかなハイトーンボイスを軸にしたコーラスが高らかに鳴り響くと、それだけで本当に笑顔になれるし、ここにいることができて幸せだなと思える。
「モッシュもダイブもできなくて、コロナになってからまだまだめんどくさいルールがあるけど、踊ることはできる!」
と言うと満が真っ先に1番踊ってるんじゃないかとすら思うくらいにステージを挙動不審に歩き回りながら、でもコーラスは他のメンバーとともにしっかり担う「Radio」から、この日はライブ前には雨は上がっていたけれど天気は悪い日であり、かつ川崎はこの街出身のヒップホップグループのBAD HOPが
「川崎で有名になりたきゃ ラッパーになるか人殺すかだ」
とラップしていたくらいに治安が悪い街なのだが、そんなあらゆる意味において真逆の場所でもこの川崎のライブハウスですらも猪狩が高らかに「California」を歌い、バンドが開放感溢れる音を鳴らせばカリフォルニアであるかのように感じられる。それはこのバンドが持つ陽性のエネルギーによるものであるし、また太陽が照りつけるような野外フェスでもこの曲を聴きたくなる。
さらには春フェスでも毎回演奏されていたので、完全に今のライブには欠かせない曲になったと思える「Fellowship Anthem」と続くと、猪狩は
「ハルカミライと俺たちはやってる音楽は全く違うけど、ライブやライブハウスへの思いっていうところは通じていると思っている」
と、Task-nがリズムを刻み続ける上で口にする。そのMCの最初にギターアンプの前でスタッフと話していたのは何かトラブルがあったのだろうかと思う(YUJIも猪狩の方を指差していたし)が、そんな感じを全く見せないのはさすがである。
その猪狩とYUJIのツインボーカルの掛け合いが全く違う声質と個性が同じバンドの同じ曲で共存できるということを曲のテーマも含めて実感させてくれる「Be The One」から、「California」とは対照的に実にこの日の天候に似合うようなややダークと言えるようなパンクサウンドの「Fogs And Clouds」、さらにはこのバンドがスカパンクバンドでありながらもSiMやcoldrainと共鳴しているのは、そのスカパンクだけではなくラウドなサウンドをも鳴らすことができるバンドだからであるということを、まさに今鳴らしている音で示している「Judgement Day」と、ライブが始まった時に驚くくらいの爆音だったのが、やはり聴いていると慣れてしまうというか、むしろこの後に激しいサウンド以外のバンドのライブを観たら物足りなく感じてしまいそうにすらなる。それをホーンサウンドがない時には基本的にギター一本で感じさせる猪狩はやはり凄いと思う。
再びその猪狩とYUJIの掛け合い的なツインボーカルによる「Truth Inside」の、歌割りを同じメロの繰り返しでも変えることによって歌詞の聞こえ方が全く変わるというあたりの構成も実に見事であるのだが、何よりもヘイスミはライブのテンポが良い。猪狩のMC時にもTask-nがずっとリズムを刻んでいることもあって、絶えず音楽が鳴らされ続けているかのようですらある。
そのMCではハルカミライと初めて会った時にはここまで売れて、シーンの中で巨大な存在になるとは想像していなかったらしく、
「拳振り上げて、俺たちの青春!みたいなバンドって軒並み倒れていったやん(笑)
でもハルカミライは残るどころかグーンと行った。
ライブ観たらめちゃくちゃやっててパンクでカッコええな〜って思ったけど、音源貰って聴いてみたら学の声がめちゃくちゃ甘い声で驚いた(笑)1番キレイな〜って(笑)(「ウルトラマリン」を口ずさむ)」
満「虫歯になっちゃうよ(笑)」
と、独特のハルカミライ評を口にしたのだが、それは猪狩がそうしたいわゆる青春パンクと呼ばれたバンドたちが話題になってはすぐに消えていくというのを観てきたからだろう。
すると猪狩が、
「うちにも甘い声の持ち主がいるんで(笑)」
とYUJIを紹介すると、そのYUJIがメインボーカルを務め、ホーン隊も手拍子をしたり、その歌に聴き入ったりするのは、去年までとは全く違う夏を迎えることができるのが待ち遠しくなる、YUJIメインボーカルだからこそのキャッチーさが炸裂する「Summer Breeze」で、観客もこの曲の時には踊るよりも腕を上げたりしてメロディに浸っていたのだが、YUJIはこの曲を歌う時も、歌い終わった時の「ありがとうー!」の時も、本当に嬉しそうな顔をしている。見た目もそうだけれど、ずっとこうしてライブができることの喜びに溢れたバンドキッズのままというように。
そして再び爆音スカパンクとしてメンバーも観客も踊りまくり、猪狩もギターソロをこれでもかというくらいに弾くことによって、フロントマンだけではなくギタリストとしてもバンドを引っ張る立場であることを示すような「We sing our song」、満がハンドマイクを持ってステージを歩き回りながらタイトルフレーズをコーラスする「Let It Punk」と続くのだが、ヘイスミは自分たちのツアーでは声を出していいというライブへと一歩先へとライブハウスのあるべき姿へいち早く戻そうとしているだけに、この曲たちもきっとヘイスミのツアーならば観客の声が聞こえるんだろうなとも思うのだが、
「オールニューマニア、めちゃくちゃ静かやん(笑)俺たちのツアーはもっとうるさいで(笑)
それはお前らがライブハウスが矢面に立って批判されたくなかったり、ライブを、ライブハウスを守るために静かにしとんのやろ?わかるで。
でも俺はもうそういうライブの在り方にもううんざりしてる。静かにしてるお前らがテンション上がりきって静かにしてられなくなるようなライブをやるし、俺たちのツアーは引くくらいにみんなうるさいから、引きたかったら俺たちのツアーにも来てくれ!」
と、今のライブのルールや在り方について、全く気を遣ったり取り繕うようなことをせずに、言いたいことを言いたいように口にするのだが、それが傍若無人なものではないことがすぐにわかるのは、猪狩が我々がこうして声を出したりしないでライブを楽しんでいる理由をわかっているからだ。2020年の春のような、ライブハウスがメディアなどから総攻撃されるような経験をもう二度としたくない、こうしてライブを観ることができる場所を守りたい。
もちろん猪狩もそうした我々の想いをしっかり理解した上で、それでも少しでも元のライブハウスの姿に近付けようとしている。それはこの形に慣れ切ってしまったら、これが当たり前になってしまうし、ライブ以外のあらゆることが徐々に元に戻れてきているのに、ライブがそうなれていない悔しさがあるのだと思う。メディアの中でも画面の中でもなく、ただただライブハウスで生きてきたバンドだからこそ、その決断を自分は支持することができるし、ヘイスミがツアーをその形でやり切ることができれば、それが他のバンドにも広がっていくはず。猪狩は、ヘイスミは間違いなくそうした想いを持ってライブをやり続けている。
そんな想いを感じさせるようなライブはYUJIの爽やかなボーカルが、ライブが終わって別れてもライブハウスがあればまた再会することができるということを示すような「Goodbye To Say Hello」から、最後は
「俺はパンクバンドとして、今抱えている想いを全てぶつけてライブを終わろうと思う!」
と口にしてから、春フェスでも今この世界の状況に抗うように、戦争に反対するという意見を1人の人間として当たり前に口にできるように演奏されていた「Stop The War」。それは祈りとはまた違う。あくまでパンクは戦うためのもの、闘争の音楽だから。そういう意味でもやはりヘイスミはパンクバンドだ。自分たちの守りたいもののために戦う、パンクバンドだ。
本当なら、この曲を演奏しなくていいような世界や社会の状況に一刻も早くなって欲しいと思うけれど。
ちょうど1年前のこのくらいの時期だっただろうか。各地の夏フェスが次々に中止になっていく中で、それでも京都大作戦に出演できることの喜びと意気込みを猪狩が自身のYouTubeで語っていたのは。その直後に自分たちが出演するはずだった京都大作戦の2週目が中止になってしまったことを受けて、猪狩は見たことがないくらいに落ち込んでいた。
もうあんな猪狩の表情は見たくないと思うし、今年はようやく京都大作戦も、各地の夏フェスも、ヘイスミ主催の「HAZIKETEMAZARE FESTIVAL」も帰ってくる。去年あんなに悔しい想いをしたからこそ、今年の夏は青空の下で思いっきりスカパンクを鳴らすヘイスミの姿を観たいし、その音で踊っていたい。
1.Living In My Skin
2.Radio
3.California
4.Fellowship Anthem
5.Be The One
6.Fogs And Clouds
7.Judgement Day
8.Truth Inside
9.Summer Breeze
10.We sing our song
11.Let It Punk
12.Goodbye To Say Hello
13.Stop The War
・ハルカミライ
そんなヘイスミのライブの後というハルカミライ。もはや普通にチケットが当たるのが幕張メッセくらいしかないだけに、昨年もZepp Tokyoで観ているとはいえ、こうしてライブハウスで見ることができるのが(しかも対バンもヘイスミだし)奇跡のように思えてくる。
いつものように先に関大地(ギター)、須藤俊(ベース)、小松謙太(ドラム)の3人がBGMがまだ流れている中でステージに登場すると、3人で向かい合って音を鳴らす瞬間にBGMは止まり、このバンドによる爆音のパンクサウンドが鳴らされる。その音を合図にするかのように、この日も赤い髪色で巨大なフラッグを手にした橋本学(ボーカル)が登場すると、
「おっしゃ、やるぞー!」
と叫んでフラッグの代わりに拳を掲げ、関がイントロのギターを鳴らすのはおなじみのオープニングナンバー「君にしか」で、橋本はサビで我々が歌えないことをわかっていてマイクを客席に向けるのであるが、それは歌わせようとしているのではなく、そうしても今の状況の中で大声を出したりするような人はいないだろうというように我々を信頼してくれているのだと思う。
もちろん歌うことができたらいいし、それがコロナ禍になる前のハルカミライのライブの当たり前だったのだけれど、橋本は曲の最後のキメで
「本番前にトイレに行ったんだけど、ちょっとついちゃった(笑)」
と、自身のデニムが濡れてしまったのを見せて笑いを巻き起こす。これは漏れてしまった笑い声であり、そうした些細なところからハルカミライは少しずつライブを元の形に戻そうとしているのだろう。
さらにおなじみの「カントリーロード」へのコンボでは早くも橋本が上半身裸になる中で関が間奏で上手側のスピーカーの山の上にまでよじ登ってそこに立ってギターソロを決めると、そのままそこからステージへと大ジャンプしてステージ上を転げ回る。コロナ禍であってもハルカミライのめちゃくちゃっぷりをルールを守りながら、ダサいと思われないような形で体現しているのはこの関なのかもしれないとも思うが、どうか怪我をしないようにだけは気をつけて欲しいと思う。骨折でもしたらライブが出来なくなってしまうし、我々もライブを見れなくなってしまうから。
橋本が曲中にブルースハープを吹き鳴らす姿がどうしても甲本ヒロトを彷彿とさせる「ヨーローホー」も客席の飛び跳ねっぷりも含めてもはやライブですっかりおなじみの曲であるが、メンバー全員によるコーラスがさらにレベルアップしているというか、それぞれの歌唱力と声量が向上しているように感じるのはライブをやりまくってきたのはもちろん、この曲が収録された「ニューマニア」がライブの熱量を損なうことなく音源に封じ込めながらも、より音源としての完成度が高まったものになっているというところもあるだろう。
正直、ハルカミライはライブが音源の数億倍くらい凄まじいバンドであるだけに、知らない人に勧める際はまず「1回ライブを見てくれ」と言うのだが、これからはそれと同じくらいに「「ニューマニア」を聴いてくれ」と言いたくなるくらいに。そんな感触を得たアルバムは初めてだ。
すると早くも須藤が
「こっからセトリ変えまーす。着いてこいよ、お前ら!あ、みんなじゃないからね。メンバーにちゃんと着いてこいよって言ったんだからね(笑)」
と言うと、小松が立ち上がったままでトライバルなビートを叩きまくる「フュージョン」から怒涛のショートチューンラッシュが始まるのだが、「エース」の演奏後にいったん止めて須藤が
「ダイブはさすがにやめよう」
と言った。割と近めにいたので見えていたのだが、ダイブまではしていないけれど、肩車をしている奴がいたのだ。当たり前だがステージからはそれがよく見えてしまう。
正直、ハルカミライの客に今こんなことをする奴がいるのか、と思ってしまったし、メンバーにそういうことを言わせるようなことをするんじゃない、と思ってしまう。それでもすぐさま
橋本「俺がダイブしてないんだから、俺に1番を譲れ!(笑)」
須藤「学さんが1番だからね〜」
と言っていたハルカミライのメンバーたちは本当に優しいと思う。なんならバンドによっては退場させられていてもおかしくないような無責任極まりない、メンバーに迷惑をかけていることだと思うからだ。
そんなことがあったので、自分はこの怒涛のショートチューンラッシュの最中にもついついステージを見ながらではあるのだが、その肩車していた奴らが気になってそっちを見てしまうという実に厄介な性質を持っているだけに、この日の「ファイト!!」は、肩車していたあいつのことを脳内でぶっ飛ばすためのテーマソングとして自分の中では流れていた。それが少しではあるが溜飲を下げてくれただけに、ショートチューンの後のツービートパンク曲「俺達が呼んでいる」からの間髪なく突入していく最新作ショートチューン「フルアイビール」と続いたあたりからはステージに集中できるようになったのであるが。
それはここで再び須藤が
「ここまで飛ばしすぎたから、ここからまたセトリ全部変えよう。全部バラードにしよう(笑)」
と、間を置いてくれたからこちらも落ち着いたのかもしれないが、全部バラードにすると言った直後に演奏されたのがやはり疾走したと思ったら終わるというショートチューンの「To Bring BACK MEMORIES」というあたりが実にハルカミライでしかなくて最高である。
しかしバラードとはいかないまでも、パンクに走り抜けるというよりは壮大なメロディをしっかり聴かせるという流れの起点となったのはやはり最新作収録の「飛空船「ジュブナイル号」」であり、橋本の描くこの曲の歌詞はまるで映画のワンシーンを切り取ったかのように情景を脳内に浮かび上がらせてくれる。「ジュブナイル」とタイトルにあるように、その飛空船は青春の真っ只中を走り抜けているハルカミライの4人と我々を乗せて飛んでいるかのようにも。
そして橋本が
「甘い声で歌うぜ!」
と言ったのはこの「ウルトラマリン」をヘイスミの猪狩が口ずさんでくれて、自身の甘い声の例としてこの曲を挙げてくれたからだろう。他の曲では拳を突き上げる観客もこの曲では人差し指を上に伸ばすのは、それがこの曲の
「1番キレイな君を見てた」
の歌詞と呼応するからである。
この「ウルトラマリン」しかり、次の「Predawn」しかり、猪狩が驚くくらいの声の甘さを活かしたラブソング的な曲をハルカミライは初期の頃から作っていたが、それはこうしてライブで聴いていると声質はもちろんのこと、橋本の歌唱力の高さがあるからこそ成り立つものだ。とかく歌唱力が置き去りになるというか、下手でもいいというのがパンク的な価値観でもあったけれども、ハルカミライがその中で突出した存在になれた要因の一つはこの歌唱力の高さと、それを活かした歌があったということだと思う。
するとメンバーはかつてこのクラブチッタでライブをやったのがもう3年前であり、その時もヘイスミも一緒だったことを口にする。その時はまだ橋本は赤い髪色ではなく、関もツンツンした髪型ではない、いわゆる「イモ」的な見た目であり、そんなバンドがその日のライブでトリを務めていたということを懐かしそうに語る。まだこうしてパンクなライブと出で立ちが合致する前のハルカミライの話である。
そんなヘイスミについて橋本は、
「ただ盛り上がりたいだけだったら、俺が服を脱いでそれをグルグル回してればいい。でもそうじゃなくて、なんかすげぇなあのバンドって思わせたい。ヘイスミが俺たちのことをそう思ってくれたらって思う」
と、ヘイスミのライブを観て思ったこと、自身がこれから先もどんなバンドでありたいかということを口にする。これだけ凄まじいライブをやるバンドであるハルカミライも、対バンやフェスでは先輩や同世代や後輩から多大な刺激を受けて、それを自分たちのライブに昇華している。このツアーでもそうだし、ハルカミライが対バンを多く行っているのはそうして刺激を求めているからでもあり、それが自分たちを見つめ直すことになるともわかっているからだろう。
そんな自分たち自身の折れない芯のようなものを登場時に橋本が持っていたフラッグにして掲げるのは「ライダース」であり、「ニューマニア」の中でも屈指の名曲というか、最近のライブでは橋本が毎回フラッグを持っているのは
「折れない旗を振り回せ 弱っちい腕で」
と歌うこの曲を歌うからこそだと思っていたのだが、フェスでは全く演奏されていなかっただけにこうしてツアーに来ることでようやく聴くことができたのであるが、パンクを標榜するハルカミライの中にはきっと「折れない旗」というものがある。でもそれは今のライブのやり方やルールを無視してまで貫くものではなくて、カッコいい自分たちのままでいるということ。コロナ禍になってからの最初のライブでは思い描いたようなライブにならずに落ち込んだということも口にしていたけれど、自分がこの2年間で見てきたライブの中でそう感じるものが全くなかったのは、ハルカミライがその状況の中でもライブを重ねてきて、モッシュやダイブがお互いにできなくても凄まじいライブができるようなバンドへとさらに進化できたからだ。
そして再びメンバーも観客も拳を振り上げる「PEAK'D YELLOW」でメンバーの声が力強く重なっていくと、関はもはやその姿が見えなくなるくらいにステージ上で転がり回りながらギターを弾いている。ある意味ではステージ上だけで完結するようなダイブである。
そうして我々を鼓舞するような「PEAK'D YELLOW」から続くことによって、家族に愛されて育ってきたんだろうな、だからこんなに優しさを持っているんだろうなと橋本やメンバーのことを思う「光インザファミリー」の「ララララララ」のコーラスもより力強く聞こえてくる。
ロックスターの人生についてのインタビューを読むと、幼少期から何か欠落していたり、それが家族からの愛情であったりすることもあるのだけれど、橋本にはそうした要素が全くない。全くないのにこうして紛れもなくロックスターと言えるような存在になれる。誰しもがなれるわけではないが、その愛情と優しさに溢れることでロックスターになれるということを橋本の姿は示してくれている。
そのまま前奏に入ったのは「世界を終わらせて」であるのだが、ライブで毎回演奏されるこの曲がこうして原曲通りの形で始まるというのは実は貴重だ。いつもは橋本がアカペラでサビのフレーズを歌い、その横にはメンバーが立っていて、という形で演奏が始まることが多いだけに。この曲が持つ飛び跳ねたくなるような幸福感は全く変わらないけれど、何度も聴いてきた曲でも入り方を変えることで全く違って聞こえてくる。それはハルカミライが同じ曲を演奏しても同じライブになることはない、毎回全く違うライブをしているということだ。だから何回観てももっともっと何回でも観たいと思うのだし、ここにいた人もみんなそうだと思う。
そしてすでにフェスなどでも演奏されている「ニューマニア」のリード曲である「つばさ」を橋本が歌い始めた時に、体がゾクッとしたというか、震えたのがわかった。実際にその体から発されていた歌声がそれまでとはまた明らかに変わったのがわかったからである。どこかゾーンに入ったというか、歌声とそこから発されるオーラの凄まじさ。かつて橋本は「化け物みたいなバンドだ」と形容されることについて、
「俺たちは化け物なんかじゃない。本物なだけだー!」
と言っていたが、本物のバンドだけが発することができるオーラを確かにこのバンドは纏っている。それはシーンや時代すらもこのバンドが変えてしまうんじゃないかと思うくらいに。曲後半では橋本がアコギを弾きながら歌うことによってその歌が乗るメロディがより際立つ。やっぱり凄まじいバンドだなと何度となくライブを見てもさらに圧倒され続けている。
しかもそれはこの「つばさ」だけでは終わらない。真っ白な光を背後から受けながら音を鳴らすことによって、メンバーが天界からやってきた選ばれしロックの民のような神聖さすら感じる「僕らは街を光らせた」での、轟音が重なっていく様は橋本の歌唱だけではなくてやはりこのバンドはこの4人の演奏や、4人でいること自体がそれだけで特別なことであり、このバンドを本物たらしめているということがわかる凄まじいオーラ。その曲の中で橋本は
「もっと人気者になりたいし、もっとちやほやされたりもしたい。でも、嘘はつきたくない!」
と歌詞を変えて叫ぶ。ハルカミライの表現に嘘が全く介在していないということはライブを見ればすぐにわかる。嘘があったらこんなにも響かないし、こんなにも毎回感動して涙が出てきたりしない。本心で我々にぶつかってきて、我々も本心で受け止めるからこそ、
「希望の果てを
音楽の果てを
この歌の果てを
歓声の果てを」
の「果て」に何があるのかをハルカミライとともに確かめに行きたくなるし、
「俺たち強く生きていかなきゃね」
と思えるのだ。
そんなハルカミライもちょっと前までは普通の青年だった。だから須藤は地方に行った時にヤンキーにボコボコにされ、小松は酔い潰れて財布や携帯をなくし、関はすぐに寝ていたというエピソードを口にする。
橋本は常に体調を整えておきたい健康オタクでありながらも、
「基本的には家にずっといたいし、ちゃんと寝たいけど、それでもカッコいい先輩や仲間と朝まで飲みに行くってこともしたい。カッコいい人たちと一緒にいれるんならそうしたい」
と口にする。そのカッコいい人たちとこうしてツアーで対バンしたり、ライブ後に飲みに行ったりすることでその人たちからまた新しいカッコ良さを学ぶ。そうしてハルカミライはさらにカッコよくなっていくのだろう。早くまた対バンライブをした後に朝まで何にも気にせずに打ち上げができるような世の中になって欲しいと思う。自重している人だってたくさんいるだろうから。
そんな想いを全てひっくるめるかのように、橋本のヒップホップというよりはポエトリー的な歌唱と、タイトルに合わせて照明の色が赤、青、緑、白と変化していく「赤青緑で白いうた」はこれまでにハルカミライのライブのクライマックスを担ってきた「それいけステアーズ」の最新系と言える曲だろう。
その色をメンバーそれぞれのテーマカラーとするならば、普段の服装からして関は赤、須藤は緑、小松は青だろうか。そうなると髪色は赤だけど橋本は白。つまりはこの曲は「QUATTRO YOUTH」のようにこのバンド自身のテーマソングとも言える。その緑のコートを決して脱ごうとしない須藤はその色が黒く変わるくらいに汗にまみれているのがよくわかる。それくらいに暑く、熱いライブだということだ。
そして橋本が「ミラーボール輝いて」などの即興的な歌詞をイントロで口にしながら演奏された最後の曲は「ベターハーフ」。シンプルかつストレートな構成のパンク、ロックソングを生み出してきたハルカミライにとっては異質というか、大きな変化を果たしたことがよくわかる、Aメロ、Bメロ、サビが全て違う曲なんじゃないかというくらいに変化していく曲。だからこそサビの壮大なメロディが今まで以上に引き立つし、感動的に響く。
「振り向いて車窓から
見える東京タワーってさ
小さいんだね
私たちおもちゃ箱で
遊んでたみたいね」
というサビの歌詞もその光景が目に浮かぶようだ。ハルカミライは売れたし、人気になった。それでもハルカミライらしさは全く失うことのないまま、新たに素晴らしい曲を自分たちで生み出した。猪狩が言ったように、いわゆる「青春パンク」と呼ばれるバンドで長続きした存在は少ない。というかほぼいないと言ってもいい。でもハルカミライの存在がそんな歴史に終止符を打つ。そんな確信が溢れていた。
BGMが流れてもなおアンコールを待っていると、橋本が1人でステージに現れて、
「今日はアンコールをやらなくていいくらいに、本編だけで最高だと思えたライブだった。そんなライブにアンコールはなくていいと思う」
と、これでライブが終わるということを口にした。「アストロビスタ」も「ヨーロービル、朝」も聴きたかったけれど、確かにアンコールの本来の意味合いを考えると、あるのが当たり前、アンコールありきみたいになるのもおかしな話だと思う。それが毎回違うライブを見せてくれるハルカミライなら尚更であるし、確かにこの日は本編の後にまた引っ込んでから曲をやるのは蛇足のようにも思えた。この続きじゃなくて、また全く違う新しいハルカミライのライブがすぐに見れる。そのバンドの選択に1ミリ足りとも不満は感じないくらいのライブだった。
猪狩も言っていたが、ヘイスミとハルカミライは音楽性は全く違う。それでも両者はともに「パンク」を標榜している。パンクはサウンドやスタイルではなく精神や姿勢であるということはパンク勃興期から言われてきたことであるが、ハルカミライとヘイスミを観ていると、カッコいい自分であり続けるというのがパンクであると思える。どちらも音楽だけではなく、鳴らしている人間がカッコいいバンドだから。そんな、自分にとってのパンク観を確かめさせてくれる2マンだった。
1.君にしか
2.カントリーロード
3.ヨーローホー
4.フュージョン
5.エース
6.Tough to be a Hugh
7.ファイト!!
8.俺達が呼んでいる
9.フルアイビール
10.To Bring BACK MEMORIES
11.飛空船「ジュブナイル号」
12.ウルトラマリン
13.Predawn
14.ライダース
15.PEAK'D YELLOW
16.光インザファミリー
17.世界を終わらせて
18.つばさ
19.僕らは街を光らせた
20.赤青緑で白いうた
21.ベターハーフ
そんな「ザ・ライブバンド」というか、人生そのものがライブであると言えるようなバンドであるハルカミライが今年もアルバム「ニューマニア」をリリースということで、冒頭のとおりにいつ曲作りやレコーディングをしていたんだ、と思うわけである。
そんな「ニューマニア」のリリースツアーはライブハウスとホールを行き来しながら、さらにはあらゆるフェスやイベントに出演しながら行われ、この日と翌日は川崎クラブチッタでの2daysで、しかも初日がHEY-SMITH、2日目がSUPER BEAVERという「アリーナとかじゃなくてこのキャパでいいんだろうか」と思わざるを得ないようなゲストを迎える。果たしてどんな一夜になるのか楽しみでしかない。
クラブチッタの客席は足元にテープでラインが引かれて列管理をするという方式のスタンディングで、徐々にスタンディングでしかも自由度が増してきているのがわかる。
・HEY-SMITH
平日の18時という開演時間、ゲストとして呼ばれた側であれどこのバンドのTシャツを着た人もたくさんいるというのがさすがである、HEY-SMITH。
おなじみの爆音SEが響き始めると、猪狩秀平(ボーカル&ギター)はギターを持って現れ、満(サックス)は何やらキレートレモンのような小瓶を持って観客に見せつけている(はっきりとは見えなかったけど)というやはり挙動不審っぷりであり、先月にはジストニアを抱えていることを公表した、金髪になったかなす(トロンボーン)も表情は実に元気そうだ。やはりライブをやれる、ステージに立てるということが彼女の活力になっているのだろうか。
「オールニューマニアにようこそー!大阪のHEY-SMITHです!」
と猪狩が挨拶すると、その満、かなす、イイカワケン(トランペット)によるホーンサウンドが高らかに鳴り響き、Task-n(ドラム)のツービートが疾走し、猪狩がカッティングギターを刻みまくるというスカパンクな「Living In My Skin」から始まると、ホーン隊のメンバーは一斉に飛び跳ね、それが客席にも広がっていくのだが、こんなに爆音だったっけと思うくらいの爆音っぷりで、それがライブハウスでヘイスミを観ているということを実感させてくれる。まだ基本的には我々が一緒に歌うことはできないが、YUJI(ベース&ボーカル)の爽やかなハイトーンボイスを軸にしたコーラスが高らかに鳴り響くと、それだけで本当に笑顔になれるし、ここにいることができて幸せだなと思える。
「モッシュもダイブもできなくて、コロナになってからまだまだめんどくさいルールがあるけど、踊ることはできる!」
と言うと満が真っ先に1番踊ってるんじゃないかとすら思うくらいにステージを挙動不審に歩き回りながら、でもコーラスは他のメンバーとともにしっかり担う「Radio」から、この日はライブ前には雨は上がっていたけれど天気は悪い日であり、かつ川崎はこの街出身のヒップホップグループのBAD HOPが
「川崎で有名になりたきゃ ラッパーになるか人殺すかだ」
とラップしていたくらいに治安が悪い街なのだが、そんなあらゆる意味において真逆の場所でもこの川崎のライブハウスですらも猪狩が高らかに「California」を歌い、バンドが開放感溢れる音を鳴らせばカリフォルニアであるかのように感じられる。それはこのバンドが持つ陽性のエネルギーによるものであるし、また太陽が照りつけるような野外フェスでもこの曲を聴きたくなる。
さらには春フェスでも毎回演奏されていたので、完全に今のライブには欠かせない曲になったと思える「Fellowship Anthem」と続くと、猪狩は
「ハルカミライと俺たちはやってる音楽は全く違うけど、ライブやライブハウスへの思いっていうところは通じていると思っている」
と、Task-nがリズムを刻み続ける上で口にする。そのMCの最初にギターアンプの前でスタッフと話していたのは何かトラブルがあったのだろうかと思う(YUJIも猪狩の方を指差していたし)が、そんな感じを全く見せないのはさすがである。
その猪狩とYUJIのツインボーカルの掛け合いが全く違う声質と個性が同じバンドの同じ曲で共存できるということを曲のテーマも含めて実感させてくれる「Be The One」から、「California」とは対照的に実にこの日の天候に似合うようなややダークと言えるようなパンクサウンドの「Fogs And Clouds」、さらにはこのバンドがスカパンクバンドでありながらもSiMやcoldrainと共鳴しているのは、そのスカパンクだけではなくラウドなサウンドをも鳴らすことができるバンドだからであるということを、まさに今鳴らしている音で示している「Judgement Day」と、ライブが始まった時に驚くくらいの爆音だったのが、やはり聴いていると慣れてしまうというか、むしろこの後に激しいサウンド以外のバンドのライブを観たら物足りなく感じてしまいそうにすらなる。それをホーンサウンドがない時には基本的にギター一本で感じさせる猪狩はやはり凄いと思う。
再びその猪狩とYUJIの掛け合い的なツインボーカルによる「Truth Inside」の、歌割りを同じメロの繰り返しでも変えることによって歌詞の聞こえ方が全く変わるというあたりの構成も実に見事であるのだが、何よりもヘイスミはライブのテンポが良い。猪狩のMC時にもTask-nがずっとリズムを刻んでいることもあって、絶えず音楽が鳴らされ続けているかのようですらある。
そのMCではハルカミライと初めて会った時にはここまで売れて、シーンの中で巨大な存在になるとは想像していなかったらしく、
「拳振り上げて、俺たちの青春!みたいなバンドって軒並み倒れていったやん(笑)
でもハルカミライは残るどころかグーンと行った。
ライブ観たらめちゃくちゃやっててパンクでカッコええな〜って思ったけど、音源貰って聴いてみたら学の声がめちゃくちゃ甘い声で驚いた(笑)1番キレイな〜って(笑)(「ウルトラマリン」を口ずさむ)」
満「虫歯になっちゃうよ(笑)」
と、独特のハルカミライ評を口にしたのだが、それは猪狩がそうしたいわゆる青春パンクと呼ばれたバンドたちが話題になってはすぐに消えていくというのを観てきたからだろう。
すると猪狩が、
「うちにも甘い声の持ち主がいるんで(笑)」
とYUJIを紹介すると、そのYUJIがメインボーカルを務め、ホーン隊も手拍子をしたり、その歌に聴き入ったりするのは、去年までとは全く違う夏を迎えることができるのが待ち遠しくなる、YUJIメインボーカルだからこそのキャッチーさが炸裂する「Summer Breeze」で、観客もこの曲の時には踊るよりも腕を上げたりしてメロディに浸っていたのだが、YUJIはこの曲を歌う時も、歌い終わった時の「ありがとうー!」の時も、本当に嬉しそうな顔をしている。見た目もそうだけれど、ずっとこうしてライブができることの喜びに溢れたバンドキッズのままというように。
そして再び爆音スカパンクとしてメンバーも観客も踊りまくり、猪狩もギターソロをこれでもかというくらいに弾くことによって、フロントマンだけではなくギタリストとしてもバンドを引っ張る立場であることを示すような「We sing our song」、満がハンドマイクを持ってステージを歩き回りながらタイトルフレーズをコーラスする「Let It Punk」と続くのだが、ヘイスミは自分たちのツアーでは声を出していいというライブへと一歩先へとライブハウスのあるべき姿へいち早く戻そうとしているだけに、この曲たちもきっとヘイスミのツアーならば観客の声が聞こえるんだろうなとも思うのだが、
「オールニューマニア、めちゃくちゃ静かやん(笑)俺たちのツアーはもっとうるさいで(笑)
それはお前らがライブハウスが矢面に立って批判されたくなかったり、ライブを、ライブハウスを守るために静かにしとんのやろ?わかるで。
でも俺はもうそういうライブの在り方にもううんざりしてる。静かにしてるお前らがテンション上がりきって静かにしてられなくなるようなライブをやるし、俺たちのツアーは引くくらいにみんなうるさいから、引きたかったら俺たちのツアーにも来てくれ!」
と、今のライブのルールや在り方について、全く気を遣ったり取り繕うようなことをせずに、言いたいことを言いたいように口にするのだが、それが傍若無人なものではないことがすぐにわかるのは、猪狩が我々がこうして声を出したりしないでライブを楽しんでいる理由をわかっているからだ。2020年の春のような、ライブハウスがメディアなどから総攻撃されるような経験をもう二度としたくない、こうしてライブを観ることができる場所を守りたい。
もちろん猪狩もそうした我々の想いをしっかり理解した上で、それでも少しでも元のライブハウスの姿に近付けようとしている。それはこの形に慣れ切ってしまったら、これが当たり前になってしまうし、ライブ以外のあらゆることが徐々に元に戻れてきているのに、ライブがそうなれていない悔しさがあるのだと思う。メディアの中でも画面の中でもなく、ただただライブハウスで生きてきたバンドだからこそ、その決断を自分は支持することができるし、ヘイスミがツアーをその形でやり切ることができれば、それが他のバンドにも広がっていくはず。猪狩は、ヘイスミは間違いなくそうした想いを持ってライブをやり続けている。
そんな想いを感じさせるようなライブはYUJIの爽やかなボーカルが、ライブが終わって別れてもライブハウスがあればまた再会することができるということを示すような「Goodbye To Say Hello」から、最後は
「俺はパンクバンドとして、今抱えている想いを全てぶつけてライブを終わろうと思う!」
と口にしてから、春フェスでも今この世界の状況に抗うように、戦争に反対するという意見を1人の人間として当たり前に口にできるように演奏されていた「Stop The War」。それは祈りとはまた違う。あくまでパンクは戦うためのもの、闘争の音楽だから。そういう意味でもやはりヘイスミはパンクバンドだ。自分たちの守りたいもののために戦う、パンクバンドだ。
本当なら、この曲を演奏しなくていいような世界や社会の状況に一刻も早くなって欲しいと思うけれど。
ちょうど1年前のこのくらいの時期だっただろうか。各地の夏フェスが次々に中止になっていく中で、それでも京都大作戦に出演できることの喜びと意気込みを猪狩が自身のYouTubeで語っていたのは。その直後に自分たちが出演するはずだった京都大作戦の2週目が中止になってしまったことを受けて、猪狩は見たことがないくらいに落ち込んでいた。
もうあんな猪狩の表情は見たくないと思うし、今年はようやく京都大作戦も、各地の夏フェスも、ヘイスミ主催の「HAZIKETEMAZARE FESTIVAL」も帰ってくる。去年あんなに悔しい想いをしたからこそ、今年の夏は青空の下で思いっきりスカパンクを鳴らすヘイスミの姿を観たいし、その音で踊っていたい。
1.Living In My Skin
2.Radio
3.California
4.Fellowship Anthem
5.Be The One
6.Fogs And Clouds
7.Judgement Day
8.Truth Inside
9.Summer Breeze
10.We sing our song
11.Let It Punk
12.Goodbye To Say Hello
13.Stop The War
・ハルカミライ
そんなヘイスミのライブの後というハルカミライ。もはや普通にチケットが当たるのが幕張メッセくらいしかないだけに、昨年もZepp Tokyoで観ているとはいえ、こうしてライブハウスで見ることができるのが(しかも対バンもヘイスミだし)奇跡のように思えてくる。
いつものように先に関大地(ギター)、須藤俊(ベース)、小松謙太(ドラム)の3人がBGMがまだ流れている中でステージに登場すると、3人で向かい合って音を鳴らす瞬間にBGMは止まり、このバンドによる爆音のパンクサウンドが鳴らされる。その音を合図にするかのように、この日も赤い髪色で巨大なフラッグを手にした橋本学(ボーカル)が登場すると、
「おっしゃ、やるぞー!」
と叫んでフラッグの代わりに拳を掲げ、関がイントロのギターを鳴らすのはおなじみのオープニングナンバー「君にしか」で、橋本はサビで我々が歌えないことをわかっていてマイクを客席に向けるのであるが、それは歌わせようとしているのではなく、そうしても今の状況の中で大声を出したりするような人はいないだろうというように我々を信頼してくれているのだと思う。
もちろん歌うことができたらいいし、それがコロナ禍になる前のハルカミライのライブの当たり前だったのだけれど、橋本は曲の最後のキメで
「本番前にトイレに行ったんだけど、ちょっとついちゃった(笑)」
と、自身のデニムが濡れてしまったのを見せて笑いを巻き起こす。これは漏れてしまった笑い声であり、そうした些細なところからハルカミライは少しずつライブを元の形に戻そうとしているのだろう。
さらにおなじみの「カントリーロード」へのコンボでは早くも橋本が上半身裸になる中で関が間奏で上手側のスピーカーの山の上にまでよじ登ってそこに立ってギターソロを決めると、そのままそこからステージへと大ジャンプしてステージ上を転げ回る。コロナ禍であってもハルカミライのめちゃくちゃっぷりをルールを守りながら、ダサいと思われないような形で体現しているのはこの関なのかもしれないとも思うが、どうか怪我をしないようにだけは気をつけて欲しいと思う。骨折でもしたらライブが出来なくなってしまうし、我々もライブを見れなくなってしまうから。
橋本が曲中にブルースハープを吹き鳴らす姿がどうしても甲本ヒロトを彷彿とさせる「ヨーローホー」も客席の飛び跳ねっぷりも含めてもはやライブですっかりおなじみの曲であるが、メンバー全員によるコーラスがさらにレベルアップしているというか、それぞれの歌唱力と声量が向上しているように感じるのはライブをやりまくってきたのはもちろん、この曲が収録された「ニューマニア」がライブの熱量を損なうことなく音源に封じ込めながらも、より音源としての完成度が高まったものになっているというところもあるだろう。
正直、ハルカミライはライブが音源の数億倍くらい凄まじいバンドであるだけに、知らない人に勧める際はまず「1回ライブを見てくれ」と言うのだが、これからはそれと同じくらいに「「ニューマニア」を聴いてくれ」と言いたくなるくらいに。そんな感触を得たアルバムは初めてだ。
すると早くも須藤が
「こっからセトリ変えまーす。着いてこいよ、お前ら!あ、みんなじゃないからね。メンバーにちゃんと着いてこいよって言ったんだからね(笑)」
と言うと、小松が立ち上がったままでトライバルなビートを叩きまくる「フュージョン」から怒涛のショートチューンラッシュが始まるのだが、「エース」の演奏後にいったん止めて須藤が
「ダイブはさすがにやめよう」
と言った。割と近めにいたので見えていたのだが、ダイブまではしていないけれど、肩車をしている奴がいたのだ。当たり前だがステージからはそれがよく見えてしまう。
正直、ハルカミライの客に今こんなことをする奴がいるのか、と思ってしまったし、メンバーにそういうことを言わせるようなことをするんじゃない、と思ってしまう。それでもすぐさま
橋本「俺がダイブしてないんだから、俺に1番を譲れ!(笑)」
須藤「学さんが1番だからね〜」
と言っていたハルカミライのメンバーたちは本当に優しいと思う。なんならバンドによっては退場させられていてもおかしくないような無責任極まりない、メンバーに迷惑をかけていることだと思うからだ。
そんなことがあったので、自分はこの怒涛のショートチューンラッシュの最中にもついついステージを見ながらではあるのだが、その肩車していた奴らが気になってそっちを見てしまうという実に厄介な性質を持っているだけに、この日の「ファイト!!」は、肩車していたあいつのことを脳内でぶっ飛ばすためのテーマソングとして自分の中では流れていた。それが少しではあるが溜飲を下げてくれただけに、ショートチューンの後のツービートパンク曲「俺達が呼んでいる」からの間髪なく突入していく最新作ショートチューン「フルアイビール」と続いたあたりからはステージに集中できるようになったのであるが。
それはここで再び須藤が
「ここまで飛ばしすぎたから、ここからまたセトリ全部変えよう。全部バラードにしよう(笑)」
と、間を置いてくれたからこちらも落ち着いたのかもしれないが、全部バラードにすると言った直後に演奏されたのがやはり疾走したと思ったら終わるというショートチューンの「To Bring BACK MEMORIES」というあたりが実にハルカミライでしかなくて最高である。
しかしバラードとはいかないまでも、パンクに走り抜けるというよりは壮大なメロディをしっかり聴かせるという流れの起点となったのはやはり最新作収録の「飛空船「ジュブナイル号」」であり、橋本の描くこの曲の歌詞はまるで映画のワンシーンを切り取ったかのように情景を脳内に浮かび上がらせてくれる。「ジュブナイル」とタイトルにあるように、その飛空船は青春の真っ只中を走り抜けているハルカミライの4人と我々を乗せて飛んでいるかのようにも。
そして橋本が
「甘い声で歌うぜ!」
と言ったのはこの「ウルトラマリン」をヘイスミの猪狩が口ずさんでくれて、自身の甘い声の例としてこの曲を挙げてくれたからだろう。他の曲では拳を突き上げる観客もこの曲では人差し指を上に伸ばすのは、それがこの曲の
「1番キレイな君を見てた」
の歌詞と呼応するからである。
この「ウルトラマリン」しかり、次の「Predawn」しかり、猪狩が驚くくらいの声の甘さを活かしたラブソング的な曲をハルカミライは初期の頃から作っていたが、それはこうしてライブで聴いていると声質はもちろんのこと、橋本の歌唱力の高さがあるからこそ成り立つものだ。とかく歌唱力が置き去りになるというか、下手でもいいというのがパンク的な価値観でもあったけれども、ハルカミライがその中で突出した存在になれた要因の一つはこの歌唱力の高さと、それを活かした歌があったということだと思う。
するとメンバーはかつてこのクラブチッタでライブをやったのがもう3年前であり、その時もヘイスミも一緒だったことを口にする。その時はまだ橋本は赤い髪色ではなく、関もツンツンした髪型ではない、いわゆる「イモ」的な見た目であり、そんなバンドがその日のライブでトリを務めていたということを懐かしそうに語る。まだこうしてパンクなライブと出で立ちが合致する前のハルカミライの話である。
そんなヘイスミについて橋本は、
「ただ盛り上がりたいだけだったら、俺が服を脱いでそれをグルグル回してればいい。でもそうじゃなくて、なんかすげぇなあのバンドって思わせたい。ヘイスミが俺たちのことをそう思ってくれたらって思う」
と、ヘイスミのライブを観て思ったこと、自身がこれから先もどんなバンドでありたいかということを口にする。これだけ凄まじいライブをやるバンドであるハルカミライも、対バンやフェスでは先輩や同世代や後輩から多大な刺激を受けて、それを自分たちのライブに昇華している。このツアーでもそうだし、ハルカミライが対バンを多く行っているのはそうして刺激を求めているからでもあり、それが自分たちを見つめ直すことになるともわかっているからだろう。
そんな自分たち自身の折れない芯のようなものを登場時に橋本が持っていたフラッグにして掲げるのは「ライダース」であり、「ニューマニア」の中でも屈指の名曲というか、最近のライブでは橋本が毎回フラッグを持っているのは
「折れない旗を振り回せ 弱っちい腕で」
と歌うこの曲を歌うからこそだと思っていたのだが、フェスでは全く演奏されていなかっただけにこうしてツアーに来ることでようやく聴くことができたのであるが、パンクを標榜するハルカミライの中にはきっと「折れない旗」というものがある。でもそれは今のライブのやり方やルールを無視してまで貫くものではなくて、カッコいい自分たちのままでいるということ。コロナ禍になってからの最初のライブでは思い描いたようなライブにならずに落ち込んだということも口にしていたけれど、自分がこの2年間で見てきたライブの中でそう感じるものが全くなかったのは、ハルカミライがその状況の中でもライブを重ねてきて、モッシュやダイブがお互いにできなくても凄まじいライブができるようなバンドへとさらに進化できたからだ。
そして再びメンバーも観客も拳を振り上げる「PEAK'D YELLOW」でメンバーの声が力強く重なっていくと、関はもはやその姿が見えなくなるくらいにステージ上で転がり回りながらギターを弾いている。ある意味ではステージ上だけで完結するようなダイブである。
そうして我々を鼓舞するような「PEAK'D YELLOW」から続くことによって、家族に愛されて育ってきたんだろうな、だからこんなに優しさを持っているんだろうなと橋本やメンバーのことを思う「光インザファミリー」の「ララララララ」のコーラスもより力強く聞こえてくる。
ロックスターの人生についてのインタビューを読むと、幼少期から何か欠落していたり、それが家族からの愛情であったりすることもあるのだけれど、橋本にはそうした要素が全くない。全くないのにこうして紛れもなくロックスターと言えるような存在になれる。誰しもがなれるわけではないが、その愛情と優しさに溢れることでロックスターになれるということを橋本の姿は示してくれている。
そのまま前奏に入ったのは「世界を終わらせて」であるのだが、ライブで毎回演奏されるこの曲がこうして原曲通りの形で始まるというのは実は貴重だ。いつもは橋本がアカペラでサビのフレーズを歌い、その横にはメンバーが立っていて、という形で演奏が始まることが多いだけに。この曲が持つ飛び跳ねたくなるような幸福感は全く変わらないけれど、何度も聴いてきた曲でも入り方を変えることで全く違って聞こえてくる。それはハルカミライが同じ曲を演奏しても同じライブになることはない、毎回全く違うライブをしているということだ。だから何回観てももっともっと何回でも観たいと思うのだし、ここにいた人もみんなそうだと思う。
そしてすでにフェスなどでも演奏されている「ニューマニア」のリード曲である「つばさ」を橋本が歌い始めた時に、体がゾクッとしたというか、震えたのがわかった。実際にその体から発されていた歌声がそれまでとはまた明らかに変わったのがわかったからである。どこかゾーンに入ったというか、歌声とそこから発されるオーラの凄まじさ。かつて橋本は「化け物みたいなバンドだ」と形容されることについて、
「俺たちは化け物なんかじゃない。本物なだけだー!」
と言っていたが、本物のバンドだけが発することができるオーラを確かにこのバンドは纏っている。それはシーンや時代すらもこのバンドが変えてしまうんじゃないかと思うくらいに。曲後半では橋本がアコギを弾きながら歌うことによってその歌が乗るメロディがより際立つ。やっぱり凄まじいバンドだなと何度となくライブを見てもさらに圧倒され続けている。
しかもそれはこの「つばさ」だけでは終わらない。真っ白な光を背後から受けながら音を鳴らすことによって、メンバーが天界からやってきた選ばれしロックの民のような神聖さすら感じる「僕らは街を光らせた」での、轟音が重なっていく様は橋本の歌唱だけではなくてやはりこのバンドはこの4人の演奏や、4人でいること自体がそれだけで特別なことであり、このバンドを本物たらしめているということがわかる凄まじいオーラ。その曲の中で橋本は
「もっと人気者になりたいし、もっとちやほやされたりもしたい。でも、嘘はつきたくない!」
と歌詞を変えて叫ぶ。ハルカミライの表現に嘘が全く介在していないということはライブを見ればすぐにわかる。嘘があったらこんなにも響かないし、こんなにも毎回感動して涙が出てきたりしない。本心で我々にぶつかってきて、我々も本心で受け止めるからこそ、
「希望の果てを
音楽の果てを
この歌の果てを
歓声の果てを」
の「果て」に何があるのかをハルカミライとともに確かめに行きたくなるし、
「俺たち強く生きていかなきゃね」
と思えるのだ。
そんなハルカミライもちょっと前までは普通の青年だった。だから須藤は地方に行った時にヤンキーにボコボコにされ、小松は酔い潰れて財布や携帯をなくし、関はすぐに寝ていたというエピソードを口にする。
橋本は常に体調を整えておきたい健康オタクでありながらも、
「基本的には家にずっといたいし、ちゃんと寝たいけど、それでもカッコいい先輩や仲間と朝まで飲みに行くってこともしたい。カッコいい人たちと一緒にいれるんならそうしたい」
と口にする。そのカッコいい人たちとこうしてツアーで対バンしたり、ライブ後に飲みに行ったりすることでその人たちからまた新しいカッコ良さを学ぶ。そうしてハルカミライはさらにカッコよくなっていくのだろう。早くまた対バンライブをした後に朝まで何にも気にせずに打ち上げができるような世の中になって欲しいと思う。自重している人だってたくさんいるだろうから。
そんな想いを全てひっくるめるかのように、橋本のヒップホップというよりはポエトリー的な歌唱と、タイトルに合わせて照明の色が赤、青、緑、白と変化していく「赤青緑で白いうた」はこれまでにハルカミライのライブのクライマックスを担ってきた「それいけステアーズ」の最新系と言える曲だろう。
その色をメンバーそれぞれのテーマカラーとするならば、普段の服装からして関は赤、須藤は緑、小松は青だろうか。そうなると髪色は赤だけど橋本は白。つまりはこの曲は「QUATTRO YOUTH」のようにこのバンド自身のテーマソングとも言える。その緑のコートを決して脱ごうとしない須藤はその色が黒く変わるくらいに汗にまみれているのがよくわかる。それくらいに暑く、熱いライブだということだ。
そして橋本が「ミラーボール輝いて」などの即興的な歌詞をイントロで口にしながら演奏された最後の曲は「ベターハーフ」。シンプルかつストレートな構成のパンク、ロックソングを生み出してきたハルカミライにとっては異質というか、大きな変化を果たしたことがよくわかる、Aメロ、Bメロ、サビが全て違う曲なんじゃないかというくらいに変化していく曲。だからこそサビの壮大なメロディが今まで以上に引き立つし、感動的に響く。
「振り向いて車窓から
見える東京タワーってさ
小さいんだね
私たちおもちゃ箱で
遊んでたみたいね」
というサビの歌詞もその光景が目に浮かぶようだ。ハルカミライは売れたし、人気になった。それでもハルカミライらしさは全く失うことのないまま、新たに素晴らしい曲を自分たちで生み出した。猪狩が言ったように、いわゆる「青春パンク」と呼ばれるバンドで長続きした存在は少ない。というかほぼいないと言ってもいい。でもハルカミライの存在がそんな歴史に終止符を打つ。そんな確信が溢れていた。
BGMが流れてもなおアンコールを待っていると、橋本が1人でステージに現れて、
「今日はアンコールをやらなくていいくらいに、本編だけで最高だと思えたライブだった。そんなライブにアンコールはなくていいと思う」
と、これでライブが終わるということを口にした。「アストロビスタ」も「ヨーロービル、朝」も聴きたかったけれど、確かにアンコールの本来の意味合いを考えると、あるのが当たり前、アンコールありきみたいになるのもおかしな話だと思う。それが毎回違うライブを見せてくれるハルカミライなら尚更であるし、確かにこの日は本編の後にまた引っ込んでから曲をやるのは蛇足のようにも思えた。この続きじゃなくて、また全く違う新しいハルカミライのライブがすぐに見れる。そのバンドの選択に1ミリ足りとも不満は感じないくらいのライブだった。
猪狩も言っていたが、ヘイスミとハルカミライは音楽性は全く違う。それでも両者はともに「パンク」を標榜している。パンクはサウンドやスタイルではなく精神や姿勢であるということはパンク勃興期から言われてきたことであるが、ハルカミライとヘイスミを観ていると、カッコいい自分であり続けるというのがパンクであると思える。どちらも音楽だけではなく、鳴らしている人間がカッコいいバンドだから。そんな、自分にとってのパンク観を確かめさせてくれる2マンだった。
1.君にしか
2.カントリーロード
3.ヨーローホー
4.フュージョン
5.エース
6.Tough to be a Hugh
7.ファイト!!
8.俺達が呼んでいる
9.フルアイビール
10.To Bring BACK MEMORIES
11.飛空船「ジュブナイル号」
12.ウルトラマリン
13.Predawn
14.ライダース
15.PEAK'D YELLOW
16.光インザファミリー
17.世界を終わらせて
18.つばさ
19.僕らは街を光らせた
20.赤青緑で白いうた
21.ベターハーフ