sumika Live Tour 2022「花鳥風月」-第二幕- @Zepp Haneda 6/14
- 2022/06/15
- 19:12
もともとこのライブは4月12日に予定されていたものなのだが、片岡健太(ボーカル&ギター)の体調不良によって延期となってしまったことによってこの日に振替に。
その後に開催された、[Alexandros]との対バンや春フェスなどでは元気な姿を見せてくれていただけにもう体調面での心配はないが、ワンマンで観るよりも先に何度も今のsumikaの編成のライブを観ることになっただけに、ようやくワンマンで観れることに。去年の11月のさいたまスーパーアリーナでの第一幕からしたらめちゃくちゃ待った感のあるワンマンはツアーファイナルでもある。
足元に立ち位置が貼られたスタンディングのZepp Hanedaの客席が、ライブハウスでsumikaを観るのは実に久しぶりだなと思わせてくれるのは、もうなかなかライブハウスの規模ではチケットが取れないバンドになったからだろう。
そんな満員の客席の中、19時になるとSEもなしにメンバーが登場するというのが実に意外というか新鮮に感じるのは、これまでは「ピカソからの宅急便」というインスト曲にしてライブのSEで使うためでもあろう曲で登場してきたからなのだが、前列には上手から荒井智之(ドラム)、黒田隼之介(ギター)、片岡、小川貴之(キーボード)とメンバーが横一列に並び、その後ろにまた上手から須藤優(ベース)、George(キーボード)、三浦太郎(コーラス&ギター)のゲストメンバーが並ぶという、この「第二幕」ツアーが始まってからのおなじみの7人編成で、片岡がメンバー1人1人に目を合わせながら「準備はいい?」と言わんばかりに指を差すと、
「Welcome to my home」
という、sumikaというバンド名だからこそであろう、観客を迎え入れるようなフレーズをほぼ全員で合唱するように何度も重ねるという、これがあるからSEがなかったんだな、と思うようなオープニングから、黒田と片岡がギターを刻み始めると、その2人がぴょんぴょん高く飛び跳ねまくり、三浦の動きに合わせて観客が手拍子をする、とびきり爽快なサウンドの「ソーダ」からスタートし、そのメンバーたちの溢れんばかりの笑顔を見るだけでまさに「泣いちゃいそうだ」となってしまうのは、延期を経てようやくやってきたこの日のライブだからという思いが客席からもステージからも溢れ出している。もう全く問題ないのはわかっていても、片岡の歌声が実に伸びやかなのが本当に安心する。そんな状態じゃないと歌い切れないような曲ばかりだから。
すると片岡がギターを置いて歌い上げるようにすると、そこへメンバーが再び一斉に声を重ねて始まったのは、むしろこっちがライブの始まりを告げるような曲だとすら思ってしまうのは、この曲がメジャー1stフルアルバムの1曲目という、これからのsumikaの始まりを告げる曲だったからであった「Answer」で、やはりこの曲を聴くとこれからどんな曲が聴けて、どんなライブが見れるのかと楽しみになる。それくらいにこちらを昂らせてくれる曲であるが、こうしたコーラスが重要な役割を担う曲では、女性コーラスの声すらもカバーできるハイトーンな三浦の存在感が際立つ。まだこうして有観客ライブへ戻れなかったコロナ禍の時に行われた配信ライブにもコーラスのゲストメンバーとして参加してきただけに、もうその存在はすっかりsumikaにとっておなじみである。
そのまま片岡がハンドマイクでステージ上を軽やかに歩き回りながら歌い始めるのは、このライブハウスの規模をはるかに上回る、夏フェスのメインステージで鳴らされることを想定して生み出された「絶叫セレナーデ」であり、当初の予定だった4月に聴くよりも、この6月という時期に聴く方がはるかに夏の到来を感じられる曲だ。
片岡は歌いながら各メンバーの隣や真後ろまで寄っては、コーラス部分で荒井にマイクを向けたり、須藤と肩を組もうとしたりと、この曲における自由さがさらに増しているのはハンドマイクでの歌唱に慣れてきたからだろうか。2コーラス目ではツーステと言えるくらいに軽やかに踊る姿は最初はビックリしたけれど、もはやこの曲ではおなじみの光景である。
片岡がギターを再び手にすると、一気にギターロックバンドならではのダンスロックというくらいに我々の体を踊らせてくれる「1.2.3..4.5.6」では小川がキーボードを弾きながらステージ上方を指差すと、第一幕から使われている垂れ幕に
「揺れる揺れる白い月」
というフレーズに合わせるように照明が白い月のような丸い光を当て、さらには
「ミラーボールを乱反射」
というフレーズでは客席上方のミラーボールが瞬時に輝く。この辺りはさすがアリーナクラスで様々な曲を彩る演出を使ってきたsumikaチームである。そうした広い会場に比べたら音で勝負という形にならざるを得ないライブハウスでも、その規模に見合った形で最大限の効果をもたらす、しかもこの曲だからこその演出を見せてくれる。これはスタッフが曲の細部に至るまでを全て愛しているからこそできることだ。
アルバムのリリースツアーではないからこそ、こうして「初期」と言える頃の曲もたくさん聴けるんだなぁと思うのだが、まだストレートかつシンプルなギターロックバンドというような体制だった頃の曲たちが、この7人編成で演奏されることによって、さらにカラフルに、豊潤なサウンドに生まれ変わっているのだが、ロックバンドのライブにサポートメンバーが増えるとダイナミズムが失われてしまうこともあったりする。スリーピースバンドがサポートギターを入れて音源の再現性を高めるのが決して歓迎されるばかりではないというのはそういうことだし、オリジナルメンバーだけでの演奏が観たいという声が上がるバンドもいたりするけど、sumikaがこれだけの大所帯になっても全くそうは思わないというか、むしろバンドとしてのライブのダイナミズムがさらに増している感すらあるのは、そもそもゲストメンバーの3人がそれぞれサポート稼業だけじゃなくて、自分のバンドという場所があるメンバーだからだ。そうしたメンバーだからこそ、他のバンドのゲストとして参加するというのがどういうことなのかよくわかった上で参加しているというか、きっとゲストやサポートという意識ではなく、この7人でsumikaであるという意識を持ってライブをしているんだろうというのが鳴らしている音からひしひしと伝わってくる。
しかしながらこの序盤で、フェスのトリなどではアンコールで演奏されることすらある、sumikaの代表曲にして必殺曲の一つである「ファンファーレ」を片岡が急に歌い出すので驚いてしまう。
「夜を越えて
闇を抜けて
迎えにゆこう
光る朝に 目背けずに
今 瞬きを繰り返して
何度でも迎えにゆくよ」
というこの曲の歌詞に、コロナ禍になってからのこの2年間でどれだけ支えられてきただろうか。それはこの曲をそうした状況の中で聴いてきた、ライブで観てきたからであり、例えば昨年のJAPAN JAMやCOUNTDOWN JAPANでのライブを思い出して思わず感動してしまい、早くもクライマックスを迎えたようにすら感じてしまう。それは黒田が思いっきり掻き鳴らすエモーショナルなギターのサウンドによるものも大きいだろうけれど、まだこの曲はこの日の5曲目、序盤と言っていいようなタイミングである。
そんな最初のクライマックスを超えると片岡が2階席や1階の奥の方にいる人にも自分たちの鳴らす音がしっかり届いているかということを問いかけるのであるが、その際の片岡が驚くくらいのあまりの拍手の大きさと強さは、ようやく迎えることができたこの日の大切さを観客1人1人がよくわかっているからだろう。その観客に、
「振替になったから来れたっていう人もいるだろうし、振替になったから行けなくなったっていう人もいると思う」
と、ここにいるだけではない人への配慮を忘れないあたりに片岡の人間性が滲み出ている。
そんな挨拶的なMCから、今の時期にこの曲が聴けるとはと思う、JRのスキーのCMタイアップとして流れていたことを少し懐かしく感じるような「ホワイトマーチ」はしかし、このツアーが今年の1月、つまりは冬から始まったものであるということを思い出させてくれるというのは、ステージ上に置かれたミラーボールに照明が乱反射した白い光がまるで雪景色のように見えからかもしれないとも思う。あくまでライブハウスだけれど、その景色を瞬時に変えてしまうほどの見事な演出である。
するとそんな雪を思わせるような美しい景色から一転して妖しさすら感じるような、タイトル通りにいちごを想起させるような色の照明に包まれるのは、片岡のアコギと黒田の音階的に駆け上がっていくようなギターの音も印象的な「Strawberry Fields」なのだが、その妖しげな照明が2コーラス目ではメンバー7人それぞれのイメージカラーと言ってもいいくらいのバラバラな色に変化して1人1人を照らし、間奏ではそのメンバーたちの個性と鳴らしている音をハッキリと示すかのように荒井からソロ回しが始まるのだが、三浦がスキャット的なコーラスだったり、須藤が思いっきりベースの音を歪ませたりと、短い時間の中でも各々が自身の持ち味をしっかりと観客に伝えている。
そんな音によっての自己紹介から、実際にメンバーの自己紹介的なMCへと移行するというのは、ワンマンではこうして丁寧かつそれぞれのキャラが立ったMCを聞かせてくれるsumikaならではなのだが、
荒井:このツアーから立ち位置が変わったことにより、次のライブからはどこに行くのか気になる。メンバーからは「客席」と言われる
黒田:前日のライブでのMCで「ピーマンの唐揚げ」の話をし、実際に作ろうとしたのだが、片栗粉の代わりに薄力粉を使って大失敗した
と続くと、小川はかつて学生時代にとんねるずの「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」に出演し、とんねるずや関根勤から大絶賛され「モノマネ王子」と呼ばれていたことを思い出させるような、人間ボイスチェンジャーっぷりを発揮する声で挨拶する。それがsumikaとして出会うはるか前に彼にたくさん笑わせてもらったことを思い出させてくれたのだった。
片岡はライブハウスだからこその熱気によって、代謝が悪い体質にもかかわらず、すでに多量の汗をかいており、白いシャツを脱ぐタイミングを伺っていることを口にすると、黒田と荒井が「脱げ〜」とばかりに手拍子を始めるという微笑ましさがメンバーの関係性を表していると言えるだろう。
さらにはゲストメンバーも紹介するのだが、
須藤:納豆が大好き過ぎて、荒井の鞄に勝手に納豆を入れている
George:今日でこのツアーも終わり、新しい始まりを迎えるということで、この日から「New George」となるということをメンバーに「入場時」だと思われる
三浦:このツアー中に「オラ」という一人称と挨拶を流行らせようとするも、空調の音が聞こえるくらいに笑いが全く起こらない
という、須藤とGeorgeはなかなか普段のクールな姿からは想像できないようなエピソードで笑わせてくれるのも、彼らがsumikaの一員としてsumikaのメンバーの空気に染まっているからだろう。
そんなメンバーたちはこのMCの後にラブソングを演奏しようと思ったものの、どの曲を演奏するのか結局決め切れなかったということで、観客に
「現在進行形のラブソング」
「過去を振り返るラブソング」
のどちらが聴きたいかを拍手の大きさで決めてもらうのだが、かなり微妙な判断を迫られる拍手の大きさとなり、メンバーでどちらを演奏するかを審議するのだが、その際にゲストメンバーも含めた7人全員の意見を聴くというあたりが、やはり今の、このツアーのsumikaはこの7人のバンドであるということを感じさせてくれる一幕だった。
そうして決まったのは「現在進行形のラブソング」なのだが、片岡がギターを鳴らしながら歌い始めたその曲が「Late Show」であり、アッパーなギターロックというサウンドであるだけに「この曲、ラブソングだったの?」と思ってしまうのだが、
「こんなん厄介だ
二度と恋なんてもうしないでね
君以外誰か想うなんてのは」
など、そう言われた後に歌詞に注視しながら聴いていると、確かに恋をしているときの心の逡巡を歌っている歌詞なんだなと思う。どこか語感重視と思うくらいにリズミカルな歌詞とメロディなだけに気付かなかったが、逆に「過去を振り返るラブソング」がなんだったのか実に気になるところだが、[Alexandros]との対バンで演奏していた「リグレット」とかだろうか。どちらにせよ、今の状況の中だからこその観客参加型の、一緒にライブを作っていると思わせてくれるあたりもまた実にsumikaらしい。
そんな「Late Show」がsumika屈指の疾走感を誇る曲であるだけに、まさにリズムや曲調は一転して、というような心境になるのは、体をそのゆったりとした、どこか暖かさを感じるような穏やかなサウンドのムードに包まれる「Marry Dance」であり、ノイジーなサウンドで埋められることがないからこそ、ホーン的な音を取り入れたこの曲はキーボードというよりはシンセやプログラミング的なサウンドも担うGeorgeがいるからこそこうしてライブで演奏できるんだろうと思う。「Late Show」のアウトロに浮遊感を感じるような音を入れていたのもこの男である。
その「Marry Dance」は音源作品としては最新作である、昨年リリースのEP「SOUND VILLAGE」収録の曲なのだが、そのEPに収録されたもう1曲の「アンコール」が実にsumikaらしいバラード曲であるというあたりに、今のsumikaがやりたい音楽を何でもやるというモードにいることがわかるのだが、sumikaを始める前はパンク的なサウンドに熱量を思いっきり込めていた片岡はあらゆる音楽を愛するリスナーでもあるからこそ、こうして様々なサウンドを取り入れられることがわかるのだが、やはりストリングス的なサウンドをGeorgeが担う中、間奏ではバラード曲というイメージが消えるくらいに黒田が豪快なギターソロをこれでもかとばかりに弾き倒す。その一心不乱という言葉がこれほど似合う男はいないなとすら思える姿は、sumikaのロックバンドさを最も体現しているのはこの男なんだなと思えるくらいである。
その「SOUND VILLAGE」の1曲目に収録されており、このツアーの第一幕のファイナルのアンコールで突如として新曲として演奏されて観客を驚愕させたのが「Babel」であるが、他のメンバーたちがいったんステージから捌けて片岡とGeorgeの2人だけで演奏するというのも、最初はsumikaの曲なのか!?と思ってしまったデジタルサウンドも、今では完全にsumikaに欠かせない1曲になっているのは、サビでたくさんの観客が手を挙げる姿からもわかるし、Georgeもそうした手の動きで観客を煽るようにもなっているからだ。何気にこの曲はこれからのsumikaの音楽性のさらなる自由度という意味で、後々振り返ったらターニングポイントになる曲なんじゃないかと思う。この編成で演奏し続けたことによって片岡のボーカルの、切なさと怒りが入り混じったような表現力もさらに向上している。
そんな「Babel」を終えると、先に荒井と須藤のリズム隊がステージに戻ってきて荒井のソロをメインにした、と言えるようなセッション的な演奏が曲間を繋ぐと、黒田、小川、George、三浦も戻ってきてその演奏に重なる形で音を鳴らし、それがそのまま終盤の始まりを告げるような「Jasmine」のイントロへと繋がっていく。片岡は再びハンドマイクで軽やかにステージを動き回りながら歌うのだが、配信リリース時からめちゃ良い曲なのになかなかライブで演奏されないなと思っていたこの曲がこのツアーからこうして演奏されるようになったのは嬉しい事だ。それはサビで歌詞の数字に合わせて指を動かしたりするのが実に楽しく、我々を問答無用で笑顔にしてくれるような曲だからだ。
さらにゲストメンバーも含めて、「パン・パン・パパパン」というリズムの手拍子を全員で観客と一緒に鳴らしてから演奏された、ダンスをせずにはいられない楽しさに溢れる「カルチャーショッカー」では三浦の動きに合わせて観客がサビで腕を左右に振るのであるが、須藤がベースを左右に振りながら演奏しているのもまたより我々を楽しくさせてくれる。そうした姿もまたゲストメンバーたちがsumikaの一員になって、曲を細部に至るまで愛してくれていることの証明である。
そして片岡が
「SNSより、インターネットの中より、あなたの心をバズらせに来ました!」
と言ってさらにバンドの熱量とスピード感が増すのは「ペルソナ・プロムナード」であり、やはり黒田はこれでもかというくらいにギターを弾きまくるのであるが、この曲に込められたネット社会への警鐘的なメッセージの歌詞はただ楽しいというだけではなくて、どこか自分自身の生き方を問い質されているような気分になる。小川と三浦がメインになっているこの曲のコーラスは早く我々も一緒に叫びたいと思ってしまうけれど。
そして片岡は自身の抱える想いを、目の前にいる人に真っ直ぐに、いつも通りに一切の齟齬がないようにゆっくりと、はっきりと聞き取れる口ぶりで伝え始める。
「2020年からのこの2年間でわかったのは、1人だとつまらないっていうこと。1人で曲を作っていても、ギターを練習していてもつまらない。
音楽を誰のために作っているかって、取材の時に「聴いてくれる人のために作ってます」って言う人もいるし、それも間違いではないけれど、俺は紛れもなく自分のために、自分が救われるために作ってます。その自分のために作った曲であなたが笑ってくれたり、楽しんでくれたり、時には泣いてくれたりするのを見るのが何よりの幸せです。それは第三者には伝わらなくていいとも思ってるけど、ライブハウスだから、ライブっていう場だから、目の前にいるあなたにはちゃんと伝えたいと思いました」
というのは、ポップな音楽であるがゆえに舐められたり、誤解されたりすることも多々あるからこそ、誰しもに愛されたいというのではなくて、自分たちのことをわかってくれる人にだけはせめてわかっていてもらいたいということだろう。
sumikaは、片岡は去年からのフェスなどでは、あなたは私なんですか、と言いたくなるくらいにこちらの心境をそのまま言葉にしてステージから発してくれていたが、この日の言葉はそうして我々の気持ちを口にしたのではなくて、sumikaの片岡健太のものでしかないものだった。それはワンマンだからこそ聞けたもの、口にしようと思ってくれたことだろう。
そんな言葉の後に演奏されたのは「SOUND VILLAGE」収録曲の、小川と片岡のフレーズを交互に歌い合うツインボーカルが、似ている声質のようでいて絶妙なコントラストを描く「一閃」。悔しさが滲むようなフレーズは小川の声で歌うことによって、我々が日常の生活や過去に経験してきた悔しさを思い出させるようなものになっているが、そんな中でも
「いつの日か僕らもそこへ
チケットよりパス巻き付けて
いつの日か僕らあのステージへ
上がろう賭けよう
僕らの人生を」
というサビのフレーズは、sumikaがフェスに出た時に口にする喜びは、こう思った経験があるからこそ辿り着いた場所で口にできることなんだろうなと思えるし、
「いつの日か僕らがそこで
メンバーもスタッフも引き連れて
明くる日は僕らあのステージで
叫ぶよ叫ぶよ
聴いていてよ
あなたの名前を呼ぶから
キャッチしてよ」
というフレーズで袖や後ろの方を指差しながら片岡は歌っていた。それはそこにいるスタッフたちを引き連れていくという、チームでさらに良い景色が見える場所へ辿り着こうという意志そのものだった。この曲を、タイテが発表されて大きいステージのトリを務めることが決まった今年のロッキンで聴きたいと思った。
しかしそんな感傷的にも感動的にもなる曲でもまだライブは終わらず、片岡が再度ハンドマイクになると、小川とGeorgeの華やかなキーボードのサウンドに合わせて片岡と観客が手拍子をする、もはやsumikaのライブの締めとして完全におなじみになった「Shake & Shake」へ。
「第一幕」の時はまだリリースされたばかりだったこの曲は、その時は「こんなにライブで映える、幸せにしてくれる曲なのか」と思ったが、それがツアーを経て、様々な場所で演奏され続けてきたことによって、あらゆる想いを受け止めて、それを笑顔や楽しさに昇華してくれる曲へと進化した。
トラックっぽいサウンドになり、荒井までもが演奏しないで手拍子をする2コーラス目での光景も、片岡の自身が最も楽しんでいるかのように踊るようにしてステージ上を歩き回りながら歌う姿も、なんだかんだ言って嫌いじゃないどころか、やっぱり大好きだって思わせてくれるものだ。まだみんなで歌ったことがないこの曲のコーラスを、次のツアーでは歌うことができるように。すでに超キラーチューンとなったこの曲はしかし、ライブにおいてまださらなる進化の余白を残している。
アンコールでは片岡がアコギを持って1人でステージに登場すると、改めてこの日に振替になったことによって今回のツアーを、
「4月から6月に延期になったことで、第一幕から1年ちょっとの長いツアーになりました。その間にもいろんなライブをやってきて、今となってはこの日になって、ここまでを含めてこのツアーだったんだなって思えるようになった。
もちろん延期になってしまった時には申し訳ないと思ったし、悔しいとも思ったし、来れなくなった人がいるのもわかってるけど」
と振り返ると、その延期になってしまった元々のライブの日に隔離された環境の中で思い描いていた光景が今こうして目の前に広がっているということをそのまま曲にしたかのようにすら感じられる「ここから見える景色」を弾き語りで歌い始めるのだが、
「1人1人が2人に変わり
歩いてた道交わり始めた」
というフレーズから始まり、
「君が居て
僕が居て
さらにまだ増えていくんだな
一人二人浮かぶ
想像している未来の中」
というサビへと辿り着くこの曲の歌詞のように2コーラス目では荒井&須藤のリズム隊が、さらに黒田&Georgeが、そして小川&三浦が、というように人数が増えていき、最終的には7人編成になる。それがそのまま「1人じゃつまらない」と言っていた片岡が、最も楽しいと思える音楽の形を作っていくかのように見えた。何よりもメンバーはもちろん、ゲストメンバーすらも全員でそれを示してくれるというのが本当にグッとくる。このツアーが終わってしまったらこの編成でのライブも観れなくなるかもしれないが、もっともっとこの7人でのsumikaのライブが観たいと思った。それはもう終わってしまうのがわかってしまっているからだ。
そんな感傷を楽しさと幸せで吹き飛ばすかのように、片岡と黒田が方向を変えてジャンプしながらイントロのギターを弾く「Lovers」が演奏されると、こうしてワンマンの流れで観るからこそ「Shake & Shake」も「Jasmine」も、源流にはこの曲があるということがわかるし、逆にこの曲があるからこそ、そうした名曲たちを生み出すことができるバンドであるということもわかるのだ。
そんな名曲が須藤のベース、三浦のコーラス、Georgeのシンセ的なフレーズを加えたこの7人による豊潤なサウンドによってさらに多幸感を感じられるようになっている。sumikaのライブはsumikaの音楽を愛する人がたくさんいればいるほど、より楽しくなれるということを示すかのように。この編成でこの曲が演奏されることがこれから先にあるかどうかはまだわからないが、この日聴いたこの曲の音や光景を、ずっとずっと離さぬように。
そんな本編だけでも素晴らしかったにもかかわらず、さらにまだこんなに名曲が残っているということを示すような連打っぷりは、小川のピアノのイントロによって始まった「本音」によって、「そういえばまだこの日はヒットシングルバラードを演奏していなかった」ということに気付かされる。ある意味ではsumikaをそうした曲のバンドだというイメージを持っているであろう人もいるにもかかわらずである。
そんなバラードの中でも最近のライブでは「願い」を聴くことの方が多かったイメージもあるだけに久しぶりに演奏された「本音」は高校サッカーのタイアップとして描かれた曲であるだけに、学生の悔しさや葛藤を感じさせるという曲だったのが、本編後半で演奏された「一閃」が生まれたことによってどこか通じるというか、「一閃」の前にこの「本音」があったと感じられるし、特に
「生きていれば 辛い事の方が多いよ
楽しいのは一瞬だけど それでもいいよ」
という、残酷と言えるくらいに学生に向けて現実を歌うようなこのフレーズは、メンバーたちも実際にこの歌詞の通りの経験をしてきたんだろうなと思うくらいに、よりリアリティが増して聴こえる。新しい曲が生まれることで過去曲がより輝くということは、これから先にsumikaがまた新たな曲を生み出すたびにこれまでに生み出してきた曲がより輝くということだ。片岡のこの曲での伸びやかなボーカルはライブハウスで聴くことによって、包容力だけではない力強さをも感じさせてくれる。だからこそ曲に説得力が宿るのだ。
そして予定されていたライブができなくてもこうして振替公演を行ったこと。それもまたsumikaがやめなかったことの証明でもあり、その「やめない」ということをどんな時だってやめないということを誓うように最後に演奏されたのは「雨天決行」。
「俺の1番大好きなギタリスト!」
と片岡に紹介された黒田がこの日最高にエモーショナルなギターを掻き鳴らすと、須藤もサビでベースを掲げるようにしてそれに応える。三浦に合わせて観客も手拍子をする中、それは片岡が歌う
「やめないやめないんだよまだ 足が進みたがってる
やめないやめないんだよまだ 足が動きたがってる
やめないんやめないんだよまだ
はいはい、理屈は分かっても やめない覚めない夢の中で」
というサビのフレーズがsumikaの意志でありながら、フレンズのものでもあり、Mop Of Headのものでもあり、XIIXのものでもあり、そのバンドを支える人たちのものでもある、つまりはバンドを、音楽を愛する全ての人に向けられたものだったからだ。
アウトロで片岡は、
「延期になった時に1人で家の中で想像していたのはこんな景色だった、いや、それ以上の景色だ!」
と叫んだ。その言葉によってこの曲が現在のsumikaでの完成形となり、このツアーを締めるものとなったのだった。
演奏が終わると7人で観客に向かって挨拶をし、ゲストメンバーを紹介して見送った後にメンバー4人だけがステージに残ると、
「また、おかえりなさいって言える家で待ってます。あなたがまた帰って来れますように!」
というsumikaという名前を持つバンドとしての挨拶をすると、先に荒井、黒田、小川の3人がステージを去った後に片岡がステージの端でマイクを使わずに
「愛してます!」
と観客に想いを伝えたのだが、その瞬間を見計らったように荒井がステージにダッシュしてきて、「愛してます!」と言った瞬間に最上点に達するように思いっきり大ジャンプした。
その最後の最後に思わず笑ってしまうようなことをやってくれる荒井が、sumikaが、なんだかんだ言って嫌いじゃない、むしろ大好きだと改めて思った瞬間だった。
sumikaの曲、音楽には人間が生活していて抱くような様々な感情がある。それは決してポジティブなものばかりではないというのはこの日演奏された曲を聴いてもわかることであるが、ライブに来ると、ライブでその曲たちを聴くとそうした感情を含めた全てが「楽しい」「幸せ」というものに集約されていく。
それはもしかしたら人生というものは楽しいものなのかもしれない、というよりは、この音楽があれば人生に楽しさを見出せるということでもある。その感覚をこれから先も何度だって味わうことができる。それはsumikaという存在が、その音楽を愛する人にとっての帰ることができる場所であり続けているから。
1.ソーダ
2.Answer
3.絶叫セレナーデ
4.1.2.3..4.5.6
5.ファンファーレ
6.ホワイトマーチ
7.Strawberry Fields
8.Late Show
9.Marry Dance
10.アンコール
11.Babel
12.Jasmine
13.カルチャーショッカー
14.ペルソナ・プロムナード
15.一閃
16.Shake & Shake
encore
17.ここから見える景色
18.Lovers
19.本音
20.雨天決行
その後に開催された、[Alexandros]との対バンや春フェスなどでは元気な姿を見せてくれていただけにもう体調面での心配はないが、ワンマンで観るよりも先に何度も今のsumikaの編成のライブを観ることになっただけに、ようやくワンマンで観れることに。去年の11月のさいたまスーパーアリーナでの第一幕からしたらめちゃくちゃ待った感のあるワンマンはツアーファイナルでもある。
足元に立ち位置が貼られたスタンディングのZepp Hanedaの客席が、ライブハウスでsumikaを観るのは実に久しぶりだなと思わせてくれるのは、もうなかなかライブハウスの規模ではチケットが取れないバンドになったからだろう。
そんな満員の客席の中、19時になるとSEもなしにメンバーが登場するというのが実に意外というか新鮮に感じるのは、これまでは「ピカソからの宅急便」というインスト曲にしてライブのSEで使うためでもあろう曲で登場してきたからなのだが、前列には上手から荒井智之(ドラム)、黒田隼之介(ギター)、片岡、小川貴之(キーボード)とメンバーが横一列に並び、その後ろにまた上手から須藤優(ベース)、George(キーボード)、三浦太郎(コーラス&ギター)のゲストメンバーが並ぶという、この「第二幕」ツアーが始まってからのおなじみの7人編成で、片岡がメンバー1人1人に目を合わせながら「準備はいい?」と言わんばかりに指を差すと、
「Welcome to my home」
という、sumikaというバンド名だからこそであろう、観客を迎え入れるようなフレーズをほぼ全員で合唱するように何度も重ねるという、これがあるからSEがなかったんだな、と思うようなオープニングから、黒田と片岡がギターを刻み始めると、その2人がぴょんぴょん高く飛び跳ねまくり、三浦の動きに合わせて観客が手拍子をする、とびきり爽快なサウンドの「ソーダ」からスタートし、そのメンバーたちの溢れんばかりの笑顔を見るだけでまさに「泣いちゃいそうだ」となってしまうのは、延期を経てようやくやってきたこの日のライブだからという思いが客席からもステージからも溢れ出している。もう全く問題ないのはわかっていても、片岡の歌声が実に伸びやかなのが本当に安心する。そんな状態じゃないと歌い切れないような曲ばかりだから。
すると片岡がギターを置いて歌い上げるようにすると、そこへメンバーが再び一斉に声を重ねて始まったのは、むしろこっちがライブの始まりを告げるような曲だとすら思ってしまうのは、この曲がメジャー1stフルアルバムの1曲目という、これからのsumikaの始まりを告げる曲だったからであった「Answer」で、やはりこの曲を聴くとこれからどんな曲が聴けて、どんなライブが見れるのかと楽しみになる。それくらいにこちらを昂らせてくれる曲であるが、こうしたコーラスが重要な役割を担う曲では、女性コーラスの声すらもカバーできるハイトーンな三浦の存在感が際立つ。まだこうして有観客ライブへ戻れなかったコロナ禍の時に行われた配信ライブにもコーラスのゲストメンバーとして参加してきただけに、もうその存在はすっかりsumikaにとっておなじみである。
そのまま片岡がハンドマイクでステージ上を軽やかに歩き回りながら歌い始めるのは、このライブハウスの規模をはるかに上回る、夏フェスのメインステージで鳴らされることを想定して生み出された「絶叫セレナーデ」であり、当初の予定だった4月に聴くよりも、この6月という時期に聴く方がはるかに夏の到来を感じられる曲だ。
片岡は歌いながら各メンバーの隣や真後ろまで寄っては、コーラス部分で荒井にマイクを向けたり、須藤と肩を組もうとしたりと、この曲における自由さがさらに増しているのはハンドマイクでの歌唱に慣れてきたからだろうか。2コーラス目ではツーステと言えるくらいに軽やかに踊る姿は最初はビックリしたけれど、もはやこの曲ではおなじみの光景である。
片岡がギターを再び手にすると、一気にギターロックバンドならではのダンスロックというくらいに我々の体を踊らせてくれる「1.2.3..4.5.6」では小川がキーボードを弾きながらステージ上方を指差すと、第一幕から使われている垂れ幕に
「揺れる揺れる白い月」
というフレーズに合わせるように照明が白い月のような丸い光を当て、さらには
「ミラーボールを乱反射」
というフレーズでは客席上方のミラーボールが瞬時に輝く。この辺りはさすがアリーナクラスで様々な曲を彩る演出を使ってきたsumikaチームである。そうした広い会場に比べたら音で勝負という形にならざるを得ないライブハウスでも、その規模に見合った形で最大限の効果をもたらす、しかもこの曲だからこその演出を見せてくれる。これはスタッフが曲の細部に至るまでを全て愛しているからこそできることだ。
アルバムのリリースツアーではないからこそ、こうして「初期」と言える頃の曲もたくさん聴けるんだなぁと思うのだが、まだストレートかつシンプルなギターロックバンドというような体制だった頃の曲たちが、この7人編成で演奏されることによって、さらにカラフルに、豊潤なサウンドに生まれ変わっているのだが、ロックバンドのライブにサポートメンバーが増えるとダイナミズムが失われてしまうこともあったりする。スリーピースバンドがサポートギターを入れて音源の再現性を高めるのが決して歓迎されるばかりではないというのはそういうことだし、オリジナルメンバーだけでの演奏が観たいという声が上がるバンドもいたりするけど、sumikaがこれだけの大所帯になっても全くそうは思わないというか、むしろバンドとしてのライブのダイナミズムがさらに増している感すらあるのは、そもそもゲストメンバーの3人がそれぞれサポート稼業だけじゃなくて、自分のバンドという場所があるメンバーだからだ。そうしたメンバーだからこそ、他のバンドのゲストとして参加するというのがどういうことなのかよくわかった上で参加しているというか、きっとゲストやサポートという意識ではなく、この7人でsumikaであるという意識を持ってライブをしているんだろうというのが鳴らしている音からひしひしと伝わってくる。
しかしながらこの序盤で、フェスのトリなどではアンコールで演奏されることすらある、sumikaの代表曲にして必殺曲の一つである「ファンファーレ」を片岡が急に歌い出すので驚いてしまう。
「夜を越えて
闇を抜けて
迎えにゆこう
光る朝に 目背けずに
今 瞬きを繰り返して
何度でも迎えにゆくよ」
というこの曲の歌詞に、コロナ禍になってからのこの2年間でどれだけ支えられてきただろうか。それはこの曲をそうした状況の中で聴いてきた、ライブで観てきたからであり、例えば昨年のJAPAN JAMやCOUNTDOWN JAPANでのライブを思い出して思わず感動してしまい、早くもクライマックスを迎えたようにすら感じてしまう。それは黒田が思いっきり掻き鳴らすエモーショナルなギターのサウンドによるものも大きいだろうけれど、まだこの曲はこの日の5曲目、序盤と言っていいようなタイミングである。
そんな最初のクライマックスを超えると片岡が2階席や1階の奥の方にいる人にも自分たちの鳴らす音がしっかり届いているかということを問いかけるのであるが、その際の片岡が驚くくらいのあまりの拍手の大きさと強さは、ようやく迎えることができたこの日の大切さを観客1人1人がよくわかっているからだろう。その観客に、
「振替になったから来れたっていう人もいるだろうし、振替になったから行けなくなったっていう人もいると思う」
と、ここにいるだけではない人への配慮を忘れないあたりに片岡の人間性が滲み出ている。
そんな挨拶的なMCから、今の時期にこの曲が聴けるとはと思う、JRのスキーのCMタイアップとして流れていたことを少し懐かしく感じるような「ホワイトマーチ」はしかし、このツアーが今年の1月、つまりは冬から始まったものであるということを思い出させてくれるというのは、ステージ上に置かれたミラーボールに照明が乱反射した白い光がまるで雪景色のように見えからかもしれないとも思う。あくまでライブハウスだけれど、その景色を瞬時に変えてしまうほどの見事な演出である。
するとそんな雪を思わせるような美しい景色から一転して妖しさすら感じるような、タイトル通りにいちごを想起させるような色の照明に包まれるのは、片岡のアコギと黒田の音階的に駆け上がっていくようなギターの音も印象的な「Strawberry Fields」なのだが、その妖しげな照明が2コーラス目ではメンバー7人それぞれのイメージカラーと言ってもいいくらいのバラバラな色に変化して1人1人を照らし、間奏ではそのメンバーたちの個性と鳴らしている音をハッキリと示すかのように荒井からソロ回しが始まるのだが、三浦がスキャット的なコーラスだったり、須藤が思いっきりベースの音を歪ませたりと、短い時間の中でも各々が自身の持ち味をしっかりと観客に伝えている。
そんな音によっての自己紹介から、実際にメンバーの自己紹介的なMCへと移行するというのは、ワンマンではこうして丁寧かつそれぞれのキャラが立ったMCを聞かせてくれるsumikaならではなのだが、
荒井:このツアーから立ち位置が変わったことにより、次のライブからはどこに行くのか気になる。メンバーからは「客席」と言われる
黒田:前日のライブでのMCで「ピーマンの唐揚げ」の話をし、実際に作ろうとしたのだが、片栗粉の代わりに薄力粉を使って大失敗した
と続くと、小川はかつて学生時代にとんねるずの「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」に出演し、とんねるずや関根勤から大絶賛され「モノマネ王子」と呼ばれていたことを思い出させるような、人間ボイスチェンジャーっぷりを発揮する声で挨拶する。それがsumikaとして出会うはるか前に彼にたくさん笑わせてもらったことを思い出させてくれたのだった。
片岡はライブハウスだからこその熱気によって、代謝が悪い体質にもかかわらず、すでに多量の汗をかいており、白いシャツを脱ぐタイミングを伺っていることを口にすると、黒田と荒井が「脱げ〜」とばかりに手拍子を始めるという微笑ましさがメンバーの関係性を表していると言えるだろう。
さらにはゲストメンバーも紹介するのだが、
須藤:納豆が大好き過ぎて、荒井の鞄に勝手に納豆を入れている
George:今日でこのツアーも終わり、新しい始まりを迎えるということで、この日から「New George」となるということをメンバーに「入場時」だと思われる
三浦:このツアー中に「オラ」という一人称と挨拶を流行らせようとするも、空調の音が聞こえるくらいに笑いが全く起こらない
という、須藤とGeorgeはなかなか普段のクールな姿からは想像できないようなエピソードで笑わせてくれるのも、彼らがsumikaの一員としてsumikaのメンバーの空気に染まっているからだろう。
そんなメンバーたちはこのMCの後にラブソングを演奏しようと思ったものの、どの曲を演奏するのか結局決め切れなかったということで、観客に
「現在進行形のラブソング」
「過去を振り返るラブソング」
のどちらが聴きたいかを拍手の大きさで決めてもらうのだが、かなり微妙な判断を迫られる拍手の大きさとなり、メンバーでどちらを演奏するかを審議するのだが、その際にゲストメンバーも含めた7人全員の意見を聴くというあたりが、やはり今の、このツアーのsumikaはこの7人のバンドであるということを感じさせてくれる一幕だった。
そうして決まったのは「現在進行形のラブソング」なのだが、片岡がギターを鳴らしながら歌い始めたその曲が「Late Show」であり、アッパーなギターロックというサウンドであるだけに「この曲、ラブソングだったの?」と思ってしまうのだが、
「こんなん厄介だ
二度と恋なんてもうしないでね
君以外誰か想うなんてのは」
など、そう言われた後に歌詞に注視しながら聴いていると、確かに恋をしているときの心の逡巡を歌っている歌詞なんだなと思う。どこか語感重視と思うくらいにリズミカルな歌詞とメロディなだけに気付かなかったが、逆に「過去を振り返るラブソング」がなんだったのか実に気になるところだが、[Alexandros]との対バンで演奏していた「リグレット」とかだろうか。どちらにせよ、今の状況の中だからこその観客参加型の、一緒にライブを作っていると思わせてくれるあたりもまた実にsumikaらしい。
そんな「Late Show」がsumika屈指の疾走感を誇る曲であるだけに、まさにリズムや曲調は一転して、というような心境になるのは、体をそのゆったりとした、どこか暖かさを感じるような穏やかなサウンドのムードに包まれる「Marry Dance」であり、ノイジーなサウンドで埋められることがないからこそ、ホーン的な音を取り入れたこの曲はキーボードというよりはシンセやプログラミング的なサウンドも担うGeorgeがいるからこそこうしてライブで演奏できるんだろうと思う。「Late Show」のアウトロに浮遊感を感じるような音を入れていたのもこの男である。
その「Marry Dance」は音源作品としては最新作である、昨年リリースのEP「SOUND VILLAGE」収録の曲なのだが、そのEPに収録されたもう1曲の「アンコール」が実にsumikaらしいバラード曲であるというあたりに、今のsumikaがやりたい音楽を何でもやるというモードにいることがわかるのだが、sumikaを始める前はパンク的なサウンドに熱量を思いっきり込めていた片岡はあらゆる音楽を愛するリスナーでもあるからこそ、こうして様々なサウンドを取り入れられることがわかるのだが、やはりストリングス的なサウンドをGeorgeが担う中、間奏ではバラード曲というイメージが消えるくらいに黒田が豪快なギターソロをこれでもかとばかりに弾き倒す。その一心不乱という言葉がこれほど似合う男はいないなとすら思える姿は、sumikaのロックバンドさを最も体現しているのはこの男なんだなと思えるくらいである。
その「SOUND VILLAGE」の1曲目に収録されており、このツアーの第一幕のファイナルのアンコールで突如として新曲として演奏されて観客を驚愕させたのが「Babel」であるが、他のメンバーたちがいったんステージから捌けて片岡とGeorgeの2人だけで演奏するというのも、最初はsumikaの曲なのか!?と思ってしまったデジタルサウンドも、今では完全にsumikaに欠かせない1曲になっているのは、サビでたくさんの観客が手を挙げる姿からもわかるし、Georgeもそうした手の動きで観客を煽るようにもなっているからだ。何気にこの曲はこれからのsumikaの音楽性のさらなる自由度という意味で、後々振り返ったらターニングポイントになる曲なんじゃないかと思う。この編成で演奏し続けたことによって片岡のボーカルの、切なさと怒りが入り混じったような表現力もさらに向上している。
そんな「Babel」を終えると、先に荒井と須藤のリズム隊がステージに戻ってきて荒井のソロをメインにした、と言えるようなセッション的な演奏が曲間を繋ぐと、黒田、小川、George、三浦も戻ってきてその演奏に重なる形で音を鳴らし、それがそのまま終盤の始まりを告げるような「Jasmine」のイントロへと繋がっていく。片岡は再びハンドマイクで軽やかにステージを動き回りながら歌うのだが、配信リリース時からめちゃ良い曲なのになかなかライブで演奏されないなと思っていたこの曲がこのツアーからこうして演奏されるようになったのは嬉しい事だ。それはサビで歌詞の数字に合わせて指を動かしたりするのが実に楽しく、我々を問答無用で笑顔にしてくれるような曲だからだ。
さらにゲストメンバーも含めて、「パン・パン・パパパン」というリズムの手拍子を全員で観客と一緒に鳴らしてから演奏された、ダンスをせずにはいられない楽しさに溢れる「カルチャーショッカー」では三浦の動きに合わせて観客がサビで腕を左右に振るのであるが、須藤がベースを左右に振りながら演奏しているのもまたより我々を楽しくさせてくれる。そうした姿もまたゲストメンバーたちがsumikaの一員になって、曲を細部に至るまで愛してくれていることの証明である。
そして片岡が
「SNSより、インターネットの中より、あなたの心をバズらせに来ました!」
と言ってさらにバンドの熱量とスピード感が増すのは「ペルソナ・プロムナード」であり、やはり黒田はこれでもかというくらいにギターを弾きまくるのであるが、この曲に込められたネット社会への警鐘的なメッセージの歌詞はただ楽しいというだけではなくて、どこか自分自身の生き方を問い質されているような気分になる。小川と三浦がメインになっているこの曲のコーラスは早く我々も一緒に叫びたいと思ってしまうけれど。
そして片岡は自身の抱える想いを、目の前にいる人に真っ直ぐに、いつも通りに一切の齟齬がないようにゆっくりと、はっきりと聞き取れる口ぶりで伝え始める。
「2020年からのこの2年間でわかったのは、1人だとつまらないっていうこと。1人で曲を作っていても、ギターを練習していてもつまらない。
音楽を誰のために作っているかって、取材の時に「聴いてくれる人のために作ってます」って言う人もいるし、それも間違いではないけれど、俺は紛れもなく自分のために、自分が救われるために作ってます。その自分のために作った曲であなたが笑ってくれたり、楽しんでくれたり、時には泣いてくれたりするのを見るのが何よりの幸せです。それは第三者には伝わらなくていいとも思ってるけど、ライブハウスだから、ライブっていう場だから、目の前にいるあなたにはちゃんと伝えたいと思いました」
というのは、ポップな音楽であるがゆえに舐められたり、誤解されたりすることも多々あるからこそ、誰しもに愛されたいというのではなくて、自分たちのことをわかってくれる人にだけはせめてわかっていてもらいたいということだろう。
sumikaは、片岡は去年からのフェスなどでは、あなたは私なんですか、と言いたくなるくらいにこちらの心境をそのまま言葉にしてステージから発してくれていたが、この日の言葉はそうして我々の気持ちを口にしたのではなくて、sumikaの片岡健太のものでしかないものだった。それはワンマンだからこそ聞けたもの、口にしようと思ってくれたことだろう。
そんな言葉の後に演奏されたのは「SOUND VILLAGE」収録曲の、小川と片岡のフレーズを交互に歌い合うツインボーカルが、似ている声質のようでいて絶妙なコントラストを描く「一閃」。悔しさが滲むようなフレーズは小川の声で歌うことによって、我々が日常の生活や過去に経験してきた悔しさを思い出させるようなものになっているが、そんな中でも
「いつの日か僕らもそこへ
チケットよりパス巻き付けて
いつの日か僕らあのステージへ
上がろう賭けよう
僕らの人生を」
というサビのフレーズは、sumikaがフェスに出た時に口にする喜びは、こう思った経験があるからこそ辿り着いた場所で口にできることなんだろうなと思えるし、
「いつの日か僕らがそこで
メンバーもスタッフも引き連れて
明くる日は僕らあのステージで
叫ぶよ叫ぶよ
聴いていてよ
あなたの名前を呼ぶから
キャッチしてよ」
というフレーズで袖や後ろの方を指差しながら片岡は歌っていた。それはそこにいるスタッフたちを引き連れていくという、チームでさらに良い景色が見える場所へ辿り着こうという意志そのものだった。この曲を、タイテが発表されて大きいステージのトリを務めることが決まった今年のロッキンで聴きたいと思った。
しかしそんな感傷的にも感動的にもなる曲でもまだライブは終わらず、片岡が再度ハンドマイクになると、小川とGeorgeの華やかなキーボードのサウンドに合わせて片岡と観客が手拍子をする、もはやsumikaのライブの締めとして完全におなじみになった「Shake & Shake」へ。
「第一幕」の時はまだリリースされたばかりだったこの曲は、その時は「こんなにライブで映える、幸せにしてくれる曲なのか」と思ったが、それがツアーを経て、様々な場所で演奏され続けてきたことによって、あらゆる想いを受け止めて、それを笑顔や楽しさに昇華してくれる曲へと進化した。
トラックっぽいサウンドになり、荒井までもが演奏しないで手拍子をする2コーラス目での光景も、片岡の自身が最も楽しんでいるかのように踊るようにしてステージ上を歩き回りながら歌う姿も、なんだかんだ言って嫌いじゃないどころか、やっぱり大好きだって思わせてくれるものだ。まだみんなで歌ったことがないこの曲のコーラスを、次のツアーでは歌うことができるように。すでに超キラーチューンとなったこの曲はしかし、ライブにおいてまださらなる進化の余白を残している。
アンコールでは片岡がアコギを持って1人でステージに登場すると、改めてこの日に振替になったことによって今回のツアーを、
「4月から6月に延期になったことで、第一幕から1年ちょっとの長いツアーになりました。その間にもいろんなライブをやってきて、今となってはこの日になって、ここまでを含めてこのツアーだったんだなって思えるようになった。
もちろん延期になってしまった時には申し訳ないと思ったし、悔しいとも思ったし、来れなくなった人がいるのもわかってるけど」
と振り返ると、その延期になってしまった元々のライブの日に隔離された環境の中で思い描いていた光景が今こうして目の前に広がっているということをそのまま曲にしたかのようにすら感じられる「ここから見える景色」を弾き語りで歌い始めるのだが、
「1人1人が2人に変わり
歩いてた道交わり始めた」
というフレーズから始まり、
「君が居て
僕が居て
さらにまだ増えていくんだな
一人二人浮かぶ
想像している未来の中」
というサビへと辿り着くこの曲の歌詞のように2コーラス目では荒井&須藤のリズム隊が、さらに黒田&Georgeが、そして小川&三浦が、というように人数が増えていき、最終的には7人編成になる。それがそのまま「1人じゃつまらない」と言っていた片岡が、最も楽しいと思える音楽の形を作っていくかのように見えた。何よりもメンバーはもちろん、ゲストメンバーすらも全員でそれを示してくれるというのが本当にグッとくる。このツアーが終わってしまったらこの編成でのライブも観れなくなるかもしれないが、もっともっとこの7人でのsumikaのライブが観たいと思った。それはもう終わってしまうのがわかってしまっているからだ。
そんな感傷を楽しさと幸せで吹き飛ばすかのように、片岡と黒田が方向を変えてジャンプしながらイントロのギターを弾く「Lovers」が演奏されると、こうしてワンマンの流れで観るからこそ「Shake & Shake」も「Jasmine」も、源流にはこの曲があるということがわかるし、逆にこの曲があるからこそ、そうした名曲たちを生み出すことができるバンドであるということもわかるのだ。
そんな名曲が須藤のベース、三浦のコーラス、Georgeのシンセ的なフレーズを加えたこの7人による豊潤なサウンドによってさらに多幸感を感じられるようになっている。sumikaのライブはsumikaの音楽を愛する人がたくさんいればいるほど、より楽しくなれるということを示すかのように。この編成でこの曲が演奏されることがこれから先にあるかどうかはまだわからないが、この日聴いたこの曲の音や光景を、ずっとずっと離さぬように。
そんな本編だけでも素晴らしかったにもかかわらず、さらにまだこんなに名曲が残っているということを示すような連打っぷりは、小川のピアノのイントロによって始まった「本音」によって、「そういえばまだこの日はヒットシングルバラードを演奏していなかった」ということに気付かされる。ある意味ではsumikaをそうした曲のバンドだというイメージを持っているであろう人もいるにもかかわらずである。
そんなバラードの中でも最近のライブでは「願い」を聴くことの方が多かったイメージもあるだけに久しぶりに演奏された「本音」は高校サッカーのタイアップとして描かれた曲であるだけに、学生の悔しさや葛藤を感じさせるという曲だったのが、本編後半で演奏された「一閃」が生まれたことによってどこか通じるというか、「一閃」の前にこの「本音」があったと感じられるし、特に
「生きていれば 辛い事の方が多いよ
楽しいのは一瞬だけど それでもいいよ」
という、残酷と言えるくらいに学生に向けて現実を歌うようなこのフレーズは、メンバーたちも実際にこの歌詞の通りの経験をしてきたんだろうなと思うくらいに、よりリアリティが増して聴こえる。新しい曲が生まれることで過去曲がより輝くということは、これから先にsumikaがまた新たな曲を生み出すたびにこれまでに生み出してきた曲がより輝くということだ。片岡のこの曲での伸びやかなボーカルはライブハウスで聴くことによって、包容力だけではない力強さをも感じさせてくれる。だからこそ曲に説得力が宿るのだ。
そして予定されていたライブができなくてもこうして振替公演を行ったこと。それもまたsumikaがやめなかったことの証明でもあり、その「やめない」ということをどんな時だってやめないということを誓うように最後に演奏されたのは「雨天決行」。
「俺の1番大好きなギタリスト!」
と片岡に紹介された黒田がこの日最高にエモーショナルなギターを掻き鳴らすと、須藤もサビでベースを掲げるようにしてそれに応える。三浦に合わせて観客も手拍子をする中、それは片岡が歌う
「やめないやめないんだよまだ 足が進みたがってる
やめないやめないんだよまだ 足が動きたがってる
やめないんやめないんだよまだ
はいはい、理屈は分かっても やめない覚めない夢の中で」
というサビのフレーズがsumikaの意志でありながら、フレンズのものでもあり、Mop Of Headのものでもあり、XIIXのものでもあり、そのバンドを支える人たちのものでもある、つまりはバンドを、音楽を愛する全ての人に向けられたものだったからだ。
アウトロで片岡は、
「延期になった時に1人で家の中で想像していたのはこんな景色だった、いや、それ以上の景色だ!」
と叫んだ。その言葉によってこの曲が現在のsumikaでの完成形となり、このツアーを締めるものとなったのだった。
演奏が終わると7人で観客に向かって挨拶をし、ゲストメンバーを紹介して見送った後にメンバー4人だけがステージに残ると、
「また、おかえりなさいって言える家で待ってます。あなたがまた帰って来れますように!」
というsumikaという名前を持つバンドとしての挨拶をすると、先に荒井、黒田、小川の3人がステージを去った後に片岡がステージの端でマイクを使わずに
「愛してます!」
と観客に想いを伝えたのだが、その瞬間を見計らったように荒井がステージにダッシュしてきて、「愛してます!」と言った瞬間に最上点に達するように思いっきり大ジャンプした。
その最後の最後に思わず笑ってしまうようなことをやってくれる荒井が、sumikaが、なんだかんだ言って嫌いじゃない、むしろ大好きだと改めて思った瞬間だった。
sumikaの曲、音楽には人間が生活していて抱くような様々な感情がある。それは決してポジティブなものばかりではないというのはこの日演奏された曲を聴いてもわかることであるが、ライブに来ると、ライブでその曲たちを聴くとそうした感情を含めた全てが「楽しい」「幸せ」というものに集約されていく。
それはもしかしたら人生というものは楽しいものなのかもしれない、というよりは、この音楽があれば人生に楽しさを見出せるということでもある。その感覚をこれから先も何度だって味わうことができる。それはsumikaという存在が、その音楽を愛する人にとっての帰ることができる場所であり続けているから。
1.ソーダ
2.Answer
3.絶叫セレナーデ
4.1.2.3..4.5.6
5.ファンファーレ
6.ホワイトマーチ
7.Strawberry Fields
8.Late Show
9.Marry Dance
10.アンコール
11.Babel
12.Jasmine
13.カルチャーショッカー
14.ペルソナ・プロムナード
15.一閃
16.Shake & Shake
encore
17.ここから見える景色
18.Lovers
19.本音
20.雨天決行