クリープハイプ 全国ホールツアー2022 「今夜は月が綺麗だよ」 @中野サンプラザ 5/18
- 2022/05/19
- 22:41
昨年アルバム「夜にしがみついて、朝で溶かして」をリリースし、尾崎世界観は芥川賞候補の作家にもなるなど、あらゆる面で話題に事欠かない存在である、クリープハイプ。
アルバムリリース後もフェスやイベントに積極的に出演し、JAPAN JAMではついにロッキンオンのフェスのメインステージのトリをも務めたが、先月からスタートしたホールツアーもすでに終盤。すでに東京ではガーデンシアターでもライブを行っているが、この日とその前日はどこかどこの会場よりもホーム感を感じさせる、中野サンプラザでの2days。それはかつてこの会場で観たこのバンドのライブがそう思わせるのかもしれないし、バンドの持つ雰囲気がこの街に似合うように感じるのかもしれない。
開演時間が18時30分という早い時間であるだけに、ギリギリ18時半に到着すると、すでに場内は暗転しており、メンバーが登場してセッション的なインストを演奏していたという意味では微妙に間に合わなかったのかもしれないが、小川幸慈がノイジーなギターの音を鳴らし始め、いつも通りの裸足でステージに立つ尾崎世界観(ボーカル&ギター)もステージ前まで出てきてギターをかき鳴らし、そうしたメンバーの姿を真っ赤な照明が照らす「身も蓋もない水槽」からスタートすると、場内が凄まじい緊張感に包まれる。それは最近はあまり顔を出さなくなったクリープハイプの(というか尾崎の)持つ社会や世間へのキレっぷりがいきなり炸裂しまくっている曲であるだけに、クリープハイプがこうしたバンドだったということを思い出させてくれるからだ。盛り上がるわけでもなく、ただただバンドの発する迫力に圧倒されることで緊張感が増していくような。それを支える長谷川カオナシのうねりまくるようなベースと、まさに「支える」という表現がこんなにピッタリなドラマーもいないと思うような小泉拓によるリズムの安定感と強さはかつて良くこの曲を演奏していた頃とは比べ物にならないくらいに進化している。
そのまま性急なギターとリズム、さらには尾崎の歌詞が次々に押し寄せてくるかのような「君の部屋」の
「僕の喜びの8割以上は僕の悲しみの8割以上は僕の苦しみの8割以上は
やっぱりあなたで出来てた」
というフレーズをあの独特のハイトーンボイスで歌う様は、やはりどこかこうして目の前にいる人に対してそう思っているということを示すかのように思える。きっと自身のそうした感情の8割以上がクリープハイプでできているという人もここにはたくさんいるはずだ。
キャッチーな同期のサウンドが流れて、ステージを黄色い照明が照らすと、メンバーの背面に引く飾られた「クリープハイプ」の文字がリズムに合わせた照明によって明滅するのはカオナシメインボーカル曲の「月の逆襲」であり、今やフェスなどでも毎回のように演奏されるようになった、コロナ禍を経てセトリの組み方が変わったクリープハイプを象徴するような曲であるが、小川はステージ上で踊るようにして躍動的にギターを弾くと、カオナシのボーカルもやはりホールでのワンマンということでフェスでのライブなどよりもハッキリと聞こえてくる。それはつまりこの曲の持つポップさが最大限に発揮される環境であるということだ。
小泉のバスドラの四つ打ちが微妙な手拍子を誘うのはここに来てこの日初の新作収録曲の「四季」。微妙な、というのはもちろんリズムに合わせて手拍子をする人もいるけれど、そうしない人もたくさんいるということであり、つまりはクリープハイプのライブには決まり切った盛り上がり方や楽しみ方は存在せずに、各々が好きな楽しみ方をしているということだ。尾崎のアコギのサウンドも、ガラッと転調する部分も全てが心地よく感じられる。
するとカオナシがイントロに追加するライブならではのアレンジのベースを弾き始めた「イト」では小川もサビでステージ前まで出てきて観客のすぐ近くでギターを弾くのだが、最後のサビでのギターを弾きながら歌う尾崎の両サイドには体を揺らしながら弾く小川とカオナシがいて、その後ろにはどっしりとバンドを支える小泉がいる。今まで何度ライブを観てきたかわからないくらいに観てきたバンドだけれど、クリープハイプはこの4人の佇まいというか、ステージに立っている時のバランスが本当に素晴らしいバンドだなと思う。それはきっと今が今までで1番良い状態だからこそ今になってそう思えているんだと思う。
さらに小川のシャープなギターと小泉のドラムがサウンドをさらに加速させる「しょうもな」ではステージ左右に設置してある「夜にしがみついて、朝で溶かして」のアルバムジャケットをそのまま具現化したかのような星や丸のオブジェが照明に照らされて全貌を表すようにして輝く。基本的にライブハウスでもホールでもいつもド派手な演出は使わないバンドだけれど、それは楽曲の輝かせ方をメンバーだけならずスタッフも含めた全員が知っているバンドだからだ。この日もそのオブジェが派手ではないながらも最高の視覚効果をもたらす演出になっていた。
この日が2daysの2日目ということで、2日とも来る人もいるだろうから1曲目を変えたという「身も蓋もない水槽」がこの日だからこそのサービス的な選曲であることを明かすと、前日に来た人のツイートなどを「クリープ」でエゴサしていたところ、
「車を運転している時に屁をしたら、下痢が出ちゃって、驚いて前の車に衝突しちゃった。クリープ現象で」
というツイートに巡り合ったことを告げて客席に漂っていた緊張感を解きほぐしてくれる。ちなみにそのツイートをしていたアカウントのプロフィールは「ナンパ師」であり、「チンコは羅針盤」と書かれていたことで、尾崎は隣にいた小川をも笑わせることに成功する。
そうして緊張がほぐれたからか、あるいはすでにフェスなどのあらゆるライブで演奏してきたことによっておなじみの曲となっているからか、過去に自分たちが生み出してきた名曲たちのフレーズがセルフオマージュとして次々に登場する、まさに一生に一度しか使えない手法による「一生に一度愛してるよ」ではこれまでよりもはるかにたくさんの腕が上がる。照明も一気にカラフルになってオブジェを照らすことによって、ライブ自体もより楽しさを増してきているのがよくわかる。
「しょうもな」「一生に一度愛してるよ」という流れはアルバム内と同様のものだが、それをさらに深いアルバムの中の世界へと誘っていくようでいて、駆け抜けるように終わっていくのは「ニガツノナミダ」で、曲が終わるとスタッフがいそいそと暗闇の中でセットをチェンジしているのが見えると、カオナシはこのバンドにおけるアクセント的な楽器であるキーボードの前に座っており、自身の手を動かしながら最新のメインボーカル曲「しらす」を歌うのだが、どこか歌詞の内容も不穏な祭囃子的なサウンドもホラー的な雰囲気を湛えているようにすら感じる。それでもカオナシメインボーカルの曲は口ずさみたくなるわけではないのに頭にこびりついて離れない絶妙な中毒性を持っているな、ということがこの曲を聴いているとよくわかる。
さらに曲間にはレーザー的に放たれる照明が異界的なステージと我々のいる現世的な世界を隔てるようにヴェールに包むかのようにして、さらにはステージ奥からは目には見えない存在に監視されているかのようにカメラのような照明が光り、尾崎の脳内と本人の口から交互に言葉が押し寄せるのが正常ではいられなくなる「なんか出てきちゃてる」はもはやサイコホラーの感すらある。この曲はどうやってライブでやるんだろうかと思ったら、脳内の声的なボーカルは同期にして流すという形。さすがにこれは2役はできないだろうし、尾崎の声は他の誰でもカバーできるものでもないのである。
その不穏さをサウンドとして引っ張るように演奏されたのが、こちらも今やフェスなどでもおなじみの曲となった「キケンナアソビ」で、尾崎による
「危険日だって遊んであげるから」
の歌唱部分は音響の良い中野サンプラザだからこそ、カオナシのずしりと響くようなベースの音と相まって体がゾクっとするかのような感覚を覚える。そうさせるような力が尾崎の声には確かに宿っている。
そんな尾崎は最近バンドでTikTokを始めたことについて語るのだが、
「クリープハイプのファンは変な人ばっかりだから…俺が全部悪いんだけど(笑)変なバンドには変なファンが付くのは、ゴキブリホイホイにゴキブリが集まるのと同じで…いや、この例え変だな(笑)ゴキブリは俺か(笑)
まぁ、だからTikTok始めた時も散々批判的なことを言われて(笑)」
と、なかなかクリープハイプのファンからは評判がよろしくないことを語りつつ、ライブ前に撮ろうとしてもどうしても気が乗らずに、
「やらないでなんか言うのもよくないなと思って始めたんだけど…やっぱりTikTokは嫌だ。好きじゃないっていうかやりたくない(笑)
もっとバンドが大きくなるにはやらなくちゃいけないっていうんなら、そこまでしなくてもこうやってツアーをやればたくさんの人が来てくれて、バンドも本当に楽しくやれてる。
テレビとかに出ても「フル尺」っていう言葉が使われたりするけど、本当にクソみたいな言葉だなって。だってフル尺なのが当たり前なんだから。だからこの後の曲もフル尺でやります」
と、やはり自身もTikTokの動画を撮ることに違和感を感じていたことを、そんなにハッキリ言って大丈夫なのかと思うくらいにハッキリと言うのだが、そこにこそ自分が尾崎世界観を、クリープハイプというバンドを信頼している理由がある。
もしかしたら、というかおそらく尾崎は自分のようにライブに来てやんや言うような奴のことは好きじゃないだろうし、こんなこと言ったらふざけんなと思われるかもしれないけれど、どこか感覚が自分と似ている人たちだと思ってしまうのだ。
それは「銀杏BOYZのCDは音量がめちゃデカいから、他のCDより音量を2つ下げて聴いていた」という、本当にそれなんだよ!と思うくらいに同じように好きなバンドの音楽を聴いて、好きな球団は違うけれどその球団のコアなファンじゃないと知らないような渋いプレーをする野球選手のことを応援したりしている。そんな同じ感覚を持っているというのが、このMCを聴いてより確信を持てた気がした。もちろんTikTokとかを上手く使えるバンドもいるかもしれないけれど、そこには合う、合わないというのも確かにある。何よりやっぱり自分がそういう動画を撮るタイプでは全くないというのが、この尾崎の言葉に歌詞以上に共感してしまう。
そんなMCの後だからこそ、小泉の激しい連打と小川のエモーショナルなギターから始まる「栞」がいつにも増して強く心に響いてきた。それはバンドの演奏が完全に強力な一枚岩になっているからであるが、クリープハイプの演奏の強さ=メンバーの絆の強さであると同時に、目の前にいる人たちを信用しているからこそだなとも思う。
それにしてもTikTokのくだりの
「やらないで文句言うのもなんだなって」
という尾崎の姿勢はやらないで拒絶してしまいがちなことも多くなってきているだけに見習いたいと思う。
さらには文字通りにオレンジ色の照明がステージを照らし、小泉の四つ打ちのリズムに合わせて手拍子が起きる「オレンジ」はクリープハイプの代表曲の一つでありながら、今ではなかなかワンマンにまで来ないと聴くことが出来なくなった曲だ。だからこそよりこの曲を聴けていることが愛おしく思えるのであるが、
「きっと二人なら全部上手くいくってさ」
というフレーズを聴いていて、ああ、この音楽があればきっと全てが上手くいくんだなと思えたのだ。
そんな代表曲の連発の後にカオナシが歌い始めたのは「愛の点滅」のカップリング曲である「すぐに」という実にレアな曲であるが、素朴なサウンドとメロディ、さらにはカオナシの歌唱が「良い曲だな…」としみじみとさせてくれるような曲だ。例えば「月の逆襲」もそうだけれど、クリープハイプはカップリング曲に全く手を抜かないバンドだったからこそ、こうやってワンマンで演奏できるカップリング曲がたくさんある。尾崎はアルバム発売時のインタビューで
「単曲配信は自分たちには向いてないなとやってみて思った」
と言っていたが、それはこうしたカップリング曲たちを入れることができないというのもあるんじゃないかと少し思った。
そんな歌唱を終えたカオナシは先月の東京ガーデンシアターでのライブ時に
「SNSでたくさん反応をもらえる投稿がどういうものかを研究している」
と言ったらそれが「カオナシがバズりたいと思ってる」として伝わってしまったことに、
「言葉にする、と届ける、の二つの言葉にある隔たりを感じています」
と彼らしい言葉でまとめ、それを聞いていた尾崎は
「だからツイッターなんてやらない方がいいんだよ。俺ももう本当にここぞ!という時だけツイートするようにしてるもん。でも「屁をしたと思ったら下痢だった」のツイートは良かったな(笑)」
と冒頭のMCでのナンパ師のツイートを蒸し返し、カオナシとの間に微妙な空気が流れるのだが、
「この微妙な間も楽しんでください(笑)」
と言って演奏されたのはお笑い芸人のダイアンに向けて書かれた「二人の間」で、パーカッション的な音などを同期として流すサウンドが実にカラフルかつキャッチーだし、ベテランの芸人同士の関係性というのはこの曲の歌詞の通りなんだろうな、と思うし、それは長く続いているバンドのメンバー同士の関係性もそうなのかもしれないとも思う。
さらに
「シャンプーの泡 頭に乗せるから ふざけるから」
という歌い出しのフレーズと爽やかなギターサウンドがどうしたってかつての「ボーイズENDガールズ」を彷彿とさせる「モノマネ」。それはこの曲がかつての自分たち自身のモノマネ?とも思ってしまうのであるが、そんな曲の後に最初期の「ヒッカキキズ」が演奏されることによって、同じようにテレビを見ていた2人が
「もし今日の約束が嘘になったら爪を立ててよ」
と約束しあっているかのような。そんなストーリーが頭に浮かぶくらいに近年の曲と初期の曲が一直線に並んでいる。それはクリープハイプが様々な音楽的なトライアルを試みながらも、本質の部分が変わらないからこそそう感じるんだろうと思う。
すると尾崎はハンドマイク、カオナシは再びキーボードの前に座って演奏されたのは、実質アルバムのタイトルトラックと言えるような「ナイトオンザプラネット」。昨年の東京ガーデンシアターでの「クリープハイプの日」で披露された時に驚きを呼んだこの曲も今では完全に新しいクリープハイプの代表曲になっているが、どこか落ち着かないというか、ハンドマイクであるために所在なさげに、でもカッコつけたポーズやアクションを取ることはしないでフラフラと歩きながら歌う尾崎の姿は変わらないが、キーの低いこの曲の歌唱を終えた後に尾崎は普段通りのハイトーンボイスでフェイクを入れた。それくらいに感情が昂っているのだろうし、それはロマンチックなこの曲の中からもしっかり感じることができる感情だ。
そして尾崎がギターを持ち、カオナシがベースに戻ると、先ほどまでとは一転してイントロのギターサウンドが鳴らされた瞬間にそれとわかる、ギターロックバンドとしてのクリープハイプを決定付けた曲と言ってもいいような「左耳」が演奏される。まさか新作アルバムのリリースツアーでこんなに昔の曲が聴けるとは思っていなかったが、それは尾崎も口にしていたように、メジャーデビュー10周年を迎えたことによる総括的な内容という面もあるのだろうか。この曲でのカオナシのコーラスはピアスを刺す女性の切なさを想起させてくれる。
さらにはバンドのサウンドがイントロの段階から燃え上がるようによりラウドになる「手と手」へと続くことによって、両腕を高く挙げる人もいれば、顔を手で覆うような人までもが目に入ってくる。それくらいにそれぞれがいろんな思いを重ねてきた曲であり、こうしてライブで演奏されるのを待ち望んでいた曲ということだ。小川は自身のエモーショナルなギターを見せつけるかのようにステージ前まで出てきて演奏すると、尾崎はアウトロに
「夜中の3時が朝になった時 君はきっと仕事を休むだろう」
というこの曲における象徴的なフレーズを再度被せる。それはやはり今の尾崎が歌いたくて仕方ないという状態に入っていることを感じさせるとともに、そうなるくらいにバンドが、ライブが楽しくて仕方がないということでもある。元からひたすらにライブをやり続けてきたバンドだったけれど、ここに来てクリープハイプはさらにライブバンドと化している。それがこうした珠玉の名曲たちにさらに強い力を与えて輝かせている。もしかしたら、いや、間違いなく今が1番良いライブをしている。そんな確信が持てるほどに。
さらには青い結晶が飛び散るような照明の演出が我々を曲の中の世界に連れて行ってくれるかのような「ABCDC」と、ここに来てのメジャーファーストアルバム「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」の収録曲の連発っぷり。それはあのアルバムがリリースされてから10年を迎えたということも影響している選曲だと思われるが、あのアルバムをリリースしたツアーの、今はなき赤坂BLITZワンマンの「これからもっととんでもないことになるんだろうな…」と思ったほどの熱狂っぷりを思い出さざるを得ないし、10年間で実際にそうなっていると言える状況にまでバンドは来たんじゃないだろうかと思う。
そんなメジャーデビューからの10年間を尾崎は改めて
「本当に、皆さんのおかげです。ありがとうございます」
と感謝すると、
「さっきのTikTokのやつは言い過ぎたかな…。戻りづらいから帰りたくないな…」
と、先程の発言を気にしているあたりが実に尾崎らしい。帰りたくないというのはもちろんこのライブが終わって欲しくないという意味合いも含んでいるだろうけれど、カオナシはその尾崎の発言を
「ロックミュージシャンぽくて良いと思います」
と評していた。それを聞いて、ロックミュージシャンぽいし、クリープハイプぽいよなと改めて思う。
そんな会話の後に演奏された「exダーリン」はこちらも「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」に尾崎の弾き語りで収録されていた曲だ。それが10周年を迎えてバンドサウンドでアレンジされて、こうしてライブで演奏されている。歌詞には10年間の時間の経過を感じさせる部分もある(「麻美ゆまと柚木ティナの違いとか」)けれど、それも含めて10年間クリープハイプがこの4人で続いてきたということを実感させてくれるなと思っていると、
「ねぇダーリン ねぇダーリン 今夜は月が綺麗だよ」
のフレーズとともに、ステージ上方には照明によって月が描かれていた。もちろんそれは本物月ではないけれど、この曲をこの場所で、このバンドを愛する人たちと見たこの月は本当に綺麗だった。そう思わせてくれるこの曲とクリープハイプが、今でもまだ愛しい。
そしてそんなライブの最後を担うのは尾崎と小川のギターがイントロから絡み合い、サビで一気に尾崎のボーカルが開かれていくように響く「風にふかれて」。このサビを聴いていると、かつては自身でも自虐的に歌詞にしていたくらいに特徴的なこの声だからこそこんなにも響くのだし、かつて声が出ていないと言われていた時期があったのが幻だったように、本当に最後の最後まで力強さを失うことがない歌唱だった。
「風にふかれて」の最後には
「君はまだ 生きる 生きる 生きる 生きるよ」
というフレーズがある。その歌詞に強い説得力と生きる力をもらえるのは、こうして生きていることを実感させてくれるバンドがいるからだ。
そのフレーズに続くように尾崎は去り際に、
「また普通に、当たり前に会いましょう」
と言って、深く長く頭を下げた。そう言えるのは、クリープハイプがこれからも普通に、当たり前に続いていくからだ。10年経っても、というよりも10年経ったからこそそう思えるライブが見れるのが本当に嬉しくて、愛しかった。
1.身も蓋もない水槽
2.君の部屋
3.月の逆襲
4.四季
5.イト
6.しょうもな
7.一生に一度愛してるよ
8.ニガツノナミダ
9.しらす
10.なんか出てきちゃってる
11.キケンナアソビ
12.栞
13.オレンジ
14.すぐに
15.二人の間
16.モノマネ
17.ヒッカキキズ
18.ナイトオンザプラネット
19.左耳
20.手と手
21.ABCDC
22.exダーリン
23.風にふかれて
アルバムリリース後もフェスやイベントに積極的に出演し、JAPAN JAMではついにロッキンオンのフェスのメインステージのトリをも務めたが、先月からスタートしたホールツアーもすでに終盤。すでに東京ではガーデンシアターでもライブを行っているが、この日とその前日はどこかどこの会場よりもホーム感を感じさせる、中野サンプラザでの2days。それはかつてこの会場で観たこのバンドのライブがそう思わせるのかもしれないし、バンドの持つ雰囲気がこの街に似合うように感じるのかもしれない。
開演時間が18時30分という早い時間であるだけに、ギリギリ18時半に到着すると、すでに場内は暗転しており、メンバーが登場してセッション的なインストを演奏していたという意味では微妙に間に合わなかったのかもしれないが、小川幸慈がノイジーなギターの音を鳴らし始め、いつも通りの裸足でステージに立つ尾崎世界観(ボーカル&ギター)もステージ前まで出てきてギターをかき鳴らし、そうしたメンバーの姿を真っ赤な照明が照らす「身も蓋もない水槽」からスタートすると、場内が凄まじい緊張感に包まれる。それは最近はあまり顔を出さなくなったクリープハイプの(というか尾崎の)持つ社会や世間へのキレっぷりがいきなり炸裂しまくっている曲であるだけに、クリープハイプがこうしたバンドだったということを思い出させてくれるからだ。盛り上がるわけでもなく、ただただバンドの発する迫力に圧倒されることで緊張感が増していくような。それを支える長谷川カオナシのうねりまくるようなベースと、まさに「支える」という表現がこんなにピッタリなドラマーもいないと思うような小泉拓によるリズムの安定感と強さはかつて良くこの曲を演奏していた頃とは比べ物にならないくらいに進化している。
そのまま性急なギターとリズム、さらには尾崎の歌詞が次々に押し寄せてくるかのような「君の部屋」の
「僕の喜びの8割以上は僕の悲しみの8割以上は僕の苦しみの8割以上は
やっぱりあなたで出来てた」
というフレーズをあの独特のハイトーンボイスで歌う様は、やはりどこかこうして目の前にいる人に対してそう思っているということを示すかのように思える。きっと自身のそうした感情の8割以上がクリープハイプでできているという人もここにはたくさんいるはずだ。
キャッチーな同期のサウンドが流れて、ステージを黄色い照明が照らすと、メンバーの背面に引く飾られた「クリープハイプ」の文字がリズムに合わせた照明によって明滅するのはカオナシメインボーカル曲の「月の逆襲」であり、今やフェスなどでも毎回のように演奏されるようになった、コロナ禍を経てセトリの組み方が変わったクリープハイプを象徴するような曲であるが、小川はステージ上で踊るようにして躍動的にギターを弾くと、カオナシのボーカルもやはりホールでのワンマンということでフェスでのライブなどよりもハッキリと聞こえてくる。それはつまりこの曲の持つポップさが最大限に発揮される環境であるということだ。
小泉のバスドラの四つ打ちが微妙な手拍子を誘うのはここに来てこの日初の新作収録曲の「四季」。微妙な、というのはもちろんリズムに合わせて手拍子をする人もいるけれど、そうしない人もたくさんいるということであり、つまりはクリープハイプのライブには決まり切った盛り上がり方や楽しみ方は存在せずに、各々が好きな楽しみ方をしているということだ。尾崎のアコギのサウンドも、ガラッと転調する部分も全てが心地よく感じられる。
するとカオナシがイントロに追加するライブならではのアレンジのベースを弾き始めた「イト」では小川もサビでステージ前まで出てきて観客のすぐ近くでギターを弾くのだが、最後のサビでのギターを弾きながら歌う尾崎の両サイドには体を揺らしながら弾く小川とカオナシがいて、その後ろにはどっしりとバンドを支える小泉がいる。今まで何度ライブを観てきたかわからないくらいに観てきたバンドだけれど、クリープハイプはこの4人の佇まいというか、ステージに立っている時のバランスが本当に素晴らしいバンドだなと思う。それはきっと今が今までで1番良い状態だからこそ今になってそう思えているんだと思う。
さらに小川のシャープなギターと小泉のドラムがサウンドをさらに加速させる「しょうもな」ではステージ左右に設置してある「夜にしがみついて、朝で溶かして」のアルバムジャケットをそのまま具現化したかのような星や丸のオブジェが照明に照らされて全貌を表すようにして輝く。基本的にライブハウスでもホールでもいつもド派手な演出は使わないバンドだけれど、それは楽曲の輝かせ方をメンバーだけならずスタッフも含めた全員が知っているバンドだからだ。この日もそのオブジェが派手ではないながらも最高の視覚効果をもたらす演出になっていた。
この日が2daysの2日目ということで、2日とも来る人もいるだろうから1曲目を変えたという「身も蓋もない水槽」がこの日だからこそのサービス的な選曲であることを明かすと、前日に来た人のツイートなどを「クリープ」でエゴサしていたところ、
「車を運転している時に屁をしたら、下痢が出ちゃって、驚いて前の車に衝突しちゃった。クリープ現象で」
というツイートに巡り合ったことを告げて客席に漂っていた緊張感を解きほぐしてくれる。ちなみにそのツイートをしていたアカウントのプロフィールは「ナンパ師」であり、「チンコは羅針盤」と書かれていたことで、尾崎は隣にいた小川をも笑わせることに成功する。
そうして緊張がほぐれたからか、あるいはすでにフェスなどのあらゆるライブで演奏してきたことによっておなじみの曲となっているからか、過去に自分たちが生み出してきた名曲たちのフレーズがセルフオマージュとして次々に登場する、まさに一生に一度しか使えない手法による「一生に一度愛してるよ」ではこれまでよりもはるかにたくさんの腕が上がる。照明も一気にカラフルになってオブジェを照らすことによって、ライブ自体もより楽しさを増してきているのがよくわかる。
「しょうもな」「一生に一度愛してるよ」という流れはアルバム内と同様のものだが、それをさらに深いアルバムの中の世界へと誘っていくようでいて、駆け抜けるように終わっていくのは「ニガツノナミダ」で、曲が終わるとスタッフがいそいそと暗闇の中でセットをチェンジしているのが見えると、カオナシはこのバンドにおけるアクセント的な楽器であるキーボードの前に座っており、自身の手を動かしながら最新のメインボーカル曲「しらす」を歌うのだが、どこか歌詞の内容も不穏な祭囃子的なサウンドもホラー的な雰囲気を湛えているようにすら感じる。それでもカオナシメインボーカルの曲は口ずさみたくなるわけではないのに頭にこびりついて離れない絶妙な中毒性を持っているな、ということがこの曲を聴いているとよくわかる。
さらに曲間にはレーザー的に放たれる照明が異界的なステージと我々のいる現世的な世界を隔てるようにヴェールに包むかのようにして、さらにはステージ奥からは目には見えない存在に監視されているかのようにカメラのような照明が光り、尾崎の脳内と本人の口から交互に言葉が押し寄せるのが正常ではいられなくなる「なんか出てきちゃてる」はもはやサイコホラーの感すらある。この曲はどうやってライブでやるんだろうかと思ったら、脳内の声的なボーカルは同期にして流すという形。さすがにこれは2役はできないだろうし、尾崎の声は他の誰でもカバーできるものでもないのである。
その不穏さをサウンドとして引っ張るように演奏されたのが、こちらも今やフェスなどでもおなじみの曲となった「キケンナアソビ」で、尾崎による
「危険日だって遊んであげるから」
の歌唱部分は音響の良い中野サンプラザだからこそ、カオナシのずしりと響くようなベースの音と相まって体がゾクっとするかのような感覚を覚える。そうさせるような力が尾崎の声には確かに宿っている。
そんな尾崎は最近バンドでTikTokを始めたことについて語るのだが、
「クリープハイプのファンは変な人ばっかりだから…俺が全部悪いんだけど(笑)変なバンドには変なファンが付くのは、ゴキブリホイホイにゴキブリが集まるのと同じで…いや、この例え変だな(笑)ゴキブリは俺か(笑)
まぁ、だからTikTok始めた時も散々批判的なことを言われて(笑)」
と、なかなかクリープハイプのファンからは評判がよろしくないことを語りつつ、ライブ前に撮ろうとしてもどうしても気が乗らずに、
「やらないでなんか言うのもよくないなと思って始めたんだけど…やっぱりTikTokは嫌だ。好きじゃないっていうかやりたくない(笑)
もっとバンドが大きくなるにはやらなくちゃいけないっていうんなら、そこまでしなくてもこうやってツアーをやればたくさんの人が来てくれて、バンドも本当に楽しくやれてる。
テレビとかに出ても「フル尺」っていう言葉が使われたりするけど、本当にクソみたいな言葉だなって。だってフル尺なのが当たり前なんだから。だからこの後の曲もフル尺でやります」
と、やはり自身もTikTokの動画を撮ることに違和感を感じていたことを、そんなにハッキリ言って大丈夫なのかと思うくらいにハッキリと言うのだが、そこにこそ自分が尾崎世界観を、クリープハイプというバンドを信頼している理由がある。
もしかしたら、というかおそらく尾崎は自分のようにライブに来てやんや言うような奴のことは好きじゃないだろうし、こんなこと言ったらふざけんなと思われるかもしれないけれど、どこか感覚が自分と似ている人たちだと思ってしまうのだ。
それは「銀杏BOYZのCDは音量がめちゃデカいから、他のCDより音量を2つ下げて聴いていた」という、本当にそれなんだよ!と思うくらいに同じように好きなバンドの音楽を聴いて、好きな球団は違うけれどその球団のコアなファンじゃないと知らないような渋いプレーをする野球選手のことを応援したりしている。そんな同じ感覚を持っているというのが、このMCを聴いてより確信を持てた気がした。もちろんTikTokとかを上手く使えるバンドもいるかもしれないけれど、そこには合う、合わないというのも確かにある。何よりやっぱり自分がそういう動画を撮るタイプでは全くないというのが、この尾崎の言葉に歌詞以上に共感してしまう。
そんなMCの後だからこそ、小泉の激しい連打と小川のエモーショナルなギターから始まる「栞」がいつにも増して強く心に響いてきた。それはバンドの演奏が完全に強力な一枚岩になっているからであるが、クリープハイプの演奏の強さ=メンバーの絆の強さであると同時に、目の前にいる人たちを信用しているからこそだなとも思う。
それにしてもTikTokのくだりの
「やらないで文句言うのもなんだなって」
という尾崎の姿勢はやらないで拒絶してしまいがちなことも多くなってきているだけに見習いたいと思う。
さらには文字通りにオレンジ色の照明がステージを照らし、小泉の四つ打ちのリズムに合わせて手拍子が起きる「オレンジ」はクリープハイプの代表曲の一つでありながら、今ではなかなかワンマンにまで来ないと聴くことが出来なくなった曲だ。だからこそよりこの曲を聴けていることが愛おしく思えるのであるが、
「きっと二人なら全部上手くいくってさ」
というフレーズを聴いていて、ああ、この音楽があればきっと全てが上手くいくんだなと思えたのだ。
そんな代表曲の連発の後にカオナシが歌い始めたのは「愛の点滅」のカップリング曲である「すぐに」という実にレアな曲であるが、素朴なサウンドとメロディ、さらにはカオナシの歌唱が「良い曲だな…」としみじみとさせてくれるような曲だ。例えば「月の逆襲」もそうだけれど、クリープハイプはカップリング曲に全く手を抜かないバンドだったからこそ、こうやってワンマンで演奏できるカップリング曲がたくさんある。尾崎はアルバム発売時のインタビューで
「単曲配信は自分たちには向いてないなとやってみて思った」
と言っていたが、それはこうしたカップリング曲たちを入れることができないというのもあるんじゃないかと少し思った。
そんな歌唱を終えたカオナシは先月の東京ガーデンシアターでのライブ時に
「SNSでたくさん反応をもらえる投稿がどういうものかを研究している」
と言ったらそれが「カオナシがバズりたいと思ってる」として伝わってしまったことに、
「言葉にする、と届ける、の二つの言葉にある隔たりを感じています」
と彼らしい言葉でまとめ、それを聞いていた尾崎は
「だからツイッターなんてやらない方がいいんだよ。俺ももう本当にここぞ!という時だけツイートするようにしてるもん。でも「屁をしたと思ったら下痢だった」のツイートは良かったな(笑)」
と冒頭のMCでのナンパ師のツイートを蒸し返し、カオナシとの間に微妙な空気が流れるのだが、
「この微妙な間も楽しんでください(笑)」
と言って演奏されたのはお笑い芸人のダイアンに向けて書かれた「二人の間」で、パーカッション的な音などを同期として流すサウンドが実にカラフルかつキャッチーだし、ベテランの芸人同士の関係性というのはこの曲の歌詞の通りなんだろうな、と思うし、それは長く続いているバンドのメンバー同士の関係性もそうなのかもしれないとも思う。
さらに
「シャンプーの泡 頭に乗せるから ふざけるから」
という歌い出しのフレーズと爽やかなギターサウンドがどうしたってかつての「ボーイズENDガールズ」を彷彿とさせる「モノマネ」。それはこの曲がかつての自分たち自身のモノマネ?とも思ってしまうのであるが、そんな曲の後に最初期の「ヒッカキキズ」が演奏されることによって、同じようにテレビを見ていた2人が
「もし今日の約束が嘘になったら爪を立ててよ」
と約束しあっているかのような。そんなストーリーが頭に浮かぶくらいに近年の曲と初期の曲が一直線に並んでいる。それはクリープハイプが様々な音楽的なトライアルを試みながらも、本質の部分が変わらないからこそそう感じるんだろうと思う。
すると尾崎はハンドマイク、カオナシは再びキーボードの前に座って演奏されたのは、実質アルバムのタイトルトラックと言えるような「ナイトオンザプラネット」。昨年の東京ガーデンシアターでの「クリープハイプの日」で披露された時に驚きを呼んだこの曲も今では完全に新しいクリープハイプの代表曲になっているが、どこか落ち着かないというか、ハンドマイクであるために所在なさげに、でもカッコつけたポーズやアクションを取ることはしないでフラフラと歩きながら歌う尾崎の姿は変わらないが、キーの低いこの曲の歌唱を終えた後に尾崎は普段通りのハイトーンボイスでフェイクを入れた。それくらいに感情が昂っているのだろうし、それはロマンチックなこの曲の中からもしっかり感じることができる感情だ。
そして尾崎がギターを持ち、カオナシがベースに戻ると、先ほどまでとは一転してイントロのギターサウンドが鳴らされた瞬間にそれとわかる、ギターロックバンドとしてのクリープハイプを決定付けた曲と言ってもいいような「左耳」が演奏される。まさか新作アルバムのリリースツアーでこんなに昔の曲が聴けるとは思っていなかったが、それは尾崎も口にしていたように、メジャーデビュー10周年を迎えたことによる総括的な内容という面もあるのだろうか。この曲でのカオナシのコーラスはピアスを刺す女性の切なさを想起させてくれる。
さらにはバンドのサウンドがイントロの段階から燃え上がるようによりラウドになる「手と手」へと続くことによって、両腕を高く挙げる人もいれば、顔を手で覆うような人までもが目に入ってくる。それくらいにそれぞれがいろんな思いを重ねてきた曲であり、こうしてライブで演奏されるのを待ち望んでいた曲ということだ。小川は自身のエモーショナルなギターを見せつけるかのようにステージ前まで出てきて演奏すると、尾崎はアウトロに
「夜中の3時が朝になった時 君はきっと仕事を休むだろう」
というこの曲における象徴的なフレーズを再度被せる。それはやはり今の尾崎が歌いたくて仕方ないという状態に入っていることを感じさせるとともに、そうなるくらいにバンドが、ライブが楽しくて仕方がないということでもある。元からひたすらにライブをやり続けてきたバンドだったけれど、ここに来てクリープハイプはさらにライブバンドと化している。それがこうした珠玉の名曲たちにさらに強い力を与えて輝かせている。もしかしたら、いや、間違いなく今が1番良いライブをしている。そんな確信が持てるほどに。
さらには青い結晶が飛び散るような照明の演出が我々を曲の中の世界に連れて行ってくれるかのような「ABCDC」と、ここに来てのメジャーファーストアルバム「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」の収録曲の連発っぷり。それはあのアルバムがリリースされてから10年を迎えたということも影響している選曲だと思われるが、あのアルバムをリリースしたツアーの、今はなき赤坂BLITZワンマンの「これからもっととんでもないことになるんだろうな…」と思ったほどの熱狂っぷりを思い出さざるを得ないし、10年間で実際にそうなっていると言える状況にまでバンドは来たんじゃないだろうかと思う。
そんなメジャーデビューからの10年間を尾崎は改めて
「本当に、皆さんのおかげです。ありがとうございます」
と感謝すると、
「さっきのTikTokのやつは言い過ぎたかな…。戻りづらいから帰りたくないな…」
と、先程の発言を気にしているあたりが実に尾崎らしい。帰りたくないというのはもちろんこのライブが終わって欲しくないという意味合いも含んでいるだろうけれど、カオナシはその尾崎の発言を
「ロックミュージシャンぽくて良いと思います」
と評していた。それを聞いて、ロックミュージシャンぽいし、クリープハイプぽいよなと改めて思う。
そんな会話の後に演奏された「exダーリン」はこちらも「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」に尾崎の弾き語りで収録されていた曲だ。それが10周年を迎えてバンドサウンドでアレンジされて、こうしてライブで演奏されている。歌詞には10年間の時間の経過を感じさせる部分もある(「麻美ゆまと柚木ティナの違いとか」)けれど、それも含めて10年間クリープハイプがこの4人で続いてきたということを実感させてくれるなと思っていると、
「ねぇダーリン ねぇダーリン 今夜は月が綺麗だよ」
のフレーズとともに、ステージ上方には照明によって月が描かれていた。もちろんそれは本物月ではないけれど、この曲をこの場所で、このバンドを愛する人たちと見たこの月は本当に綺麗だった。そう思わせてくれるこの曲とクリープハイプが、今でもまだ愛しい。
そしてそんなライブの最後を担うのは尾崎と小川のギターがイントロから絡み合い、サビで一気に尾崎のボーカルが開かれていくように響く「風にふかれて」。このサビを聴いていると、かつては自身でも自虐的に歌詞にしていたくらいに特徴的なこの声だからこそこんなにも響くのだし、かつて声が出ていないと言われていた時期があったのが幻だったように、本当に最後の最後まで力強さを失うことがない歌唱だった。
「風にふかれて」の最後には
「君はまだ 生きる 生きる 生きる 生きるよ」
というフレーズがある。その歌詞に強い説得力と生きる力をもらえるのは、こうして生きていることを実感させてくれるバンドがいるからだ。
そのフレーズに続くように尾崎は去り際に、
「また普通に、当たり前に会いましょう」
と言って、深く長く頭を下げた。そう言えるのは、クリープハイプがこれからも普通に、当たり前に続いていくからだ。10年経っても、というよりも10年経ったからこそそう思えるライブが見れるのが本当に嬉しくて、愛しかった。
1.身も蓋もない水槽
2.君の部屋
3.月の逆襲
4.四季
5.イト
6.しょうもな
7.一生に一度愛してるよ
8.ニガツノナミダ
9.しらす
10.なんか出てきちゃってる
11.キケンナアソビ
12.栞
13.オレンジ
14.すぐに
15.二人の間
16.モノマネ
17.ヒッカキキズ
18.ナイトオンザプラネット
19.左耳
20.手と手
21.ABCDC
22.exダーリン
23.風にふかれて
日食なつこ 蒐集行脚 @LINE CUBE SHIBUYA 5/20 ホーム
THE 2 「THE 2 man LIVE 2022 -KOI NO JOURNALISM-」 @渋谷CLUB QUATTRO 5/17