THE 2 「THE 2 man LIVE 2022 -KOI NO JOURNALISM-」 @渋谷CLUB QUATTRO 5/17
- 2022/05/18
- 23:40
赤坂真之介、yuccoというリズム隊のメンバーが次々にバンドから脱退し「このままフェードアウトしていくんだろうか…」とも思ってしまっていた、最近は俳優としても活動する古舘佑太郎と、銀杏BOYZのサポートメンバーでもある加藤綾太による、2はかねてから親交のあった森夏彦(ベース)と歌川菜穂(ドラム)を新メンバーとして迎えて、バンド名も新たにTHE 2として再始動を果たした。
その再始動を華々しく飾るのが、この渋谷CLUB QUATTROでの2マン3days。初日の同年代のOKAMOTO'Sに続いて、この2日目はハルカミライが、そして最終日にはフレデリックという、今やQUATTROの規模でのライブなんてチケットが取れないレベルのバンドが出演するというあたりにTHE 2の友好関係の広さと、そのバンドたちが出ても負けないという今の形での自信の強さを感じる。
・ハルカミライ
まだ開演時間の19時よりもちょっと前。いきなり、
「オイー!」
という雄叫びが場内に響き、今日は客でヤバい奴が来てるのかと思ったら、それは早くもステージに登場した、関大地(ギター)のものだった。その関の気合いとともに須藤俊(ベース)と小松謙太(ドラム)も早くも楽器を手にすると、もう19時になったのかどうかわからないくらいのタイミングで爆音を鳴らし、いつものようにボロボロのTシャツとジーンズを着用した橋本学(ボーカル)もステージに現れ、ステージから身を乗り出すようにして自身の腕を銃のように客席に向けて、
「楽しみにしてきたぜー!」
と言って「君にしか」からスタートするのだが、最近はフェスなどの大きなステージで観る機会が多く、そもそもこんなキャパではチケットも取れないだけに、こんなにライブハウスの中のライブハウスみたいな会場で観るハルカミライがこんなにもメンバーの姿も音そのものも近いとは。かつて高田馬場の小さなライブハウスでもライブを観たことがあるが、その時はまだ今のようなスタイルではなかっただけに、自分が衝撃を受けたハルカミライとしてこんなに小さなライブハウスでライブを観るのは初めてだ。
関がアンプの上ではなくてお立ち台の上に乗ってギターソロを弾き、橋本が早くもTシャツを脱ぎ捨てる「カントリーロード」に続くというのはお決まりの先制攻撃の流れであるが、
橋本「3daysってすごいよな。俺たち3daysはやらないようにしてるから(笑)」
須藤「体力ないから(笑)」
橋本「俺の声がすぐ出なくなる(笑)激弱だから(笑)でもQUATTROで3daysっていうのがいいよね。1番カッコいいライブハウスだからね」
須藤「じゃあ1曲追加しまーす」
と言って演奏されたのはメンバーそれぞれのことを歌った曲であり、このライブハウスにこの4人で立つためにあるかのような「QUATTRO YOUTH」で、橋本は歌詞に合わせてそれぞれのメンバーの顔を見たり、指差したりしながら歌う。そこにはハルカミライはこの4人でなくてはならないし、この4人だからこそこのバンドになっているという絆を確かに感じさせてくれる。それはサビで4人全員の歌声が重なっていくからでもあるだろう。
橋本がブルースハープを吹きまくるイントロから始まる「ヨーローホー」では小松がやはりTシャツを脱ぎ捨てながら疾駆するツービートを打ち鳴らす。この曲でも4人の声が重なるのがよりハッキリと、強く聴こえるのはやはりこの規模のライブハウスだからだろうか。「江ノ島」などの歌詞は壮大な情景を想起させるものであるけれど、やっぱりハルカミライはライブハウスのバンドなんだなと思わざるを得ない。それはやっぱりこの4人が、このバンドが生きてきた場所だからだ。
対バンに招かれた側とは思えないくらいに観客の腕が上がりまくったショートチューン「ファイト!!」で、我々の心をこれさえあれば誰にも、何にも負けないというくらいに燃え上がらせてくれると、橋本はかつて須藤とともに1年だけ通っていた音楽の専門学校主催のライブに赤い公園が出てくれて、そのライブの最後にメンバーがマイクをぶん投げて叩き壊して帰っていった姿に衝撃を受けたといい、バンドを始めて、こうやって続けてきたことによってその赤い公園のメンバーがいるバンドと対バンできるようになったことを本当に嬉しそうに口にする。須藤によると、橋本が今のようになったのはその時の赤い公園のライブの影響らしい。
そんな憧れの人たちに招かれてのライブであるだけに、そこからさらに加速していくように「俺達が呼んでいる」から、曲間全くなしで元から曲と曲が繋がっていたかのように最新アルバム「ニューマニア」収録のショートチューン「フルアイビール」と続くのは先日のJAPAN JAMでもやっていただけにもはや新たなライブの定番アレンジとなりそうであるが、全く生まれた時期が違う曲をこうしてまるで1曲にくっつけてしまい、それによってライブがさらに勢いを増していくというのは、ハルカミライがただ好き勝手に暴れまくるバンドではなくて、どうしたら自分たちのライブがより良いものになるかということを常に考えて曲を練り上げているバンドであるということだ。それはもしかしたらライブをしまくってきた反射神経によって自然とできるようになったのかもしれないが。
さらに新作のショートチューン「To Bring BACK MEMORIES」が続くことによって、ハルカミライの新しい扉を開いたというイメージが強い「ニューマニア」は、それでいてハルカミライのパンクさが失われることなく表出しているアルバムであるなとも思える。何よりも対バンで招かれた側のライブですでにこれで8曲も演奏しているのに、まだまだ全く終わりそうな気配がないし、ここまでの体感時間はまだ5分くらいしか経っていないような感じすらする。
そんな中でもバンドの持つ歌としてのポップさ=メロディの良さと、橋本のボーカリストとしての上手さと説得力を感じさせてくれるのが「predawn」からの流れであり、
「ファンファーレの中」
のフレーズに入る際のキメで一斉に観客の拳が上がると、それが「ウルトラマリン」では
「1番綺麗な君を見てた」
のフレーズに合わせて人差し指を立てるように変化する。ハルカミライは激しい曲ももちろん最高かつ最強であるが、こうした歌を立てるような曲やラブソングも最高にロマンチックであり、最高に優しいのである。橋本がマイクスタンドを立てて自分の声をコントロールしながら、なおかつ観客の思いを受け止めるかのように手を動かしながら歌う「Mayday」でもその思いを確かに感じることができる。
そして橋本はこの客席を笑顔で見渡しながら、
「ライブハウスのキャパが狭まって、モッシュやダイブが出来なくなっても、音楽の素晴らしさは変わることはない。俺たちはこの1〜2年でそれを証明してきたつもりだし、そういうバンドが戻ってきてくれたんだ。おかえり」
と、THE 2への確かなリスペクトを感じさせるようにして復活を祝う。それはコロナ禍になって、バンドとしてのライブのやり方も、我々観客の楽しみ方も変わってしまった中でも、それでもライブを観た時の感動や衝動が変わったり、失われることがなかったハルカミライの言葉だからこそ説得力がある。本当にそれを証明してきてくれたからこそ、今でもこうやってライブハウスに通うのをやめられないでいる。
そんな思いを込めた「世界を終わらせて」で橋本とともに観客が飛び跳ねまくると、
「「明日も頑張ろう」とか、そういうことだけを歌うのがロックバンドじゃない。「逃げ出したっていい」って歌うのがロックバンドだ!辛かったら、逃げてもいいんだぜ」
というメッセージを、
「ねえ逃げ出さない?
くだらない世の中ならば」
という歌詞に込めて、曲の後半からは橋本がアコギを弾きながら歌う「つばさ」へ。ハルカミライのライブや音楽はいつだって我々に生きるためであったり、明日からも頑張っていくための力を与えてくれるけれど、それはただ無闇矢鱈にポジティブなことを歌っているからじゃなくて、ひたすら素直に正直に、「これさえあれば大丈夫なんだよな」と思える音を届けて、その姿を見せてくれるからだ。ハルカミライが
「ねえ逃げ出さない?」
と言ってくれるのならば、どこまでだって逃げ延びれるような気がする。それが生きてまたこうしてライブで会うということに繋がっていく。まるでハルカミライが作った映画のワンシーンを観ているかのようだ。
そして橋本はTHE 2の「土砂降りの雨が降る街」のフレーズを口ずさんでから、
「眠れない夜に私 THE 2を聴くのさ」
と「アストロビスタ」の歌詞を変えて歌い始める。
「俺、本当に眠れない時に聴いてるんだよ!」
というその顔はどこか少し汗というよりも涙を拭っているかのような。それはそのくらいにTHE 2を、何ならその前から古舘佑太郎というミュージシャンの音楽を聴いて生きてきたことを思わせるし、だからこそさらに曲中にも「FALL FALL FALL」のフレーズを口ずさむという場面もあった。ただ聴いてきたんじゃなくて、自分でもTHE 2の曲を歌ってきたということを確かに思わせるような。
そんなライブの最後に橋本は、
「1番幸せなことって知ってる?自分の1番を誰かにあげて、2番になること。そうやって、誰かからも1番を貰うこと。
誰かにあげた1番と誰かから貰った1番が合わさって、THE 2だ!ピース!」
と言って2本指を突き立てた。それは確実にこのTHE 2との対バンであるこの日にしか見れないものであり、聞くことができないもの。
ハルカミライのライブがワンマンやツアーの1本1本や、フェスや対バンのライブまでも全てが特別かつ見逃せないものであるのは、こうしてそのライブでしか観ることができないものを見せてくれるからだ。それが何年経っても「あの日あの場所で観たハルカミライのライブはああだった」という記憶として自分の中に残り続けていく。この日のライブも間違いなくそうした、THE 2の対バンとしてあまりにも完璧すぎたライブだった。
1.君にしか
2.カントリーロード
3.QUATTRO YOUTH
4.ヨーローホー
5.ファイト!!
6.俺達が呼んでいる
7.フルアイビール
8.To Bring BACK MEMORIES
9.predawn
10.ウルトラマリン
11.Mayday
12.世界を終わらせて
13.つばさ
14.アストロビスタ
・THE 2
そして久しぶりに、メンバーが変わってから初めてのTHE 2のライブ。かつてはフェスやサーキットライブなんかでもよく観ていたけれど、古舘佑太郎がステージに立つ姿すら観るのが実に久しぶりである。
どこか中華風な音階のSEでメンバーが登場すると、ライブ以外の割といろんな場所で姿を目にする機会が多い古舘の出で立ちは変わらないが、銀杏BOYZのライブの時以上に加藤綾太の姿が大きく見えるのは体格としては小柄なハルカミライの関を観た直後だからだろう。
新メンバーの森夏彦(ex.Shiggy Jr.)はサングラスをかけており、歌川菜穂(ex.赤い公園)は赤い衣装を着ているが、2人とも若い頃からデビューしていただけに、こうして今にしてTHE 2のメンバーとしてステージに立っているのを観ると、どこか大人になったんだな…としみじみしてしまう。
すると古舘がギターを弾きながら
「友達の彼女に手を出したい
修羅場こそ私の現世の場所」
と「ルシファー」のフレーズを弾き語りのようにして歌い始めるのだが、
「修羅場こそ私の現世の場所」
というフレーズはまるでこうして再びシーンに戻ってきたバンドの声明そのもののようであり、そのフレーズを合図にしてバンドの音が古舘のボーカルに重なっていく。
「Anthem Song」もそうであるが、基本的にメンバーが変わっても曲が変わるわけではないし、古舘の衝動を絞り出すような歌い方も、加藤の思いっきり掻き鳴らすギターも変わらないのだが、前任者は低い位置で鳴らしていたベースは森ならではの高い位置になったのは視覚的にはかなり違うし、森ならではの滑らかさみたいなものをその姿や音からも感じる。歌川のドラムも本当にさすがだなと思うくらいにバンドに溶け込んでいる。かつてのリズム隊の相方の藤本ひかりも秋山黄色のバンドメンバーになったけれど、大きな喪失を経験した彼女たちがこうやって前に進んでいることを目にするだけで感じるものがある。
古舘の、ギターを弾かずに歌う時にリズムに乗って体を左右に揺らすというクセみたいな歌い方も変わらないなと「ケプラー」を観て思っていたのだが、自分が知らないだけかもしれないけれど、ここで音源化されていない曲も演奏される。加藤がエフェクターを使って浮遊感のあるギターサウンドを鳴らすと、森の跳ねるようなビートと歌川のコーラスが華麗に響くというこのメンバーの力を最大限に活かした曲はこの衝動的な曲の流れの中で聴くと落ち着いた感じもあるかもしれないが、それが突っ走るだけではないという良いアクセントになっている。
古舘の持っている切なさのようなものが衝動的なギターロックの中にどうしても滲み出てしまう「急行電車」でその情景を我々の頭の中に浮かび上がらせると、古舘は
「ハルカミライとやれて本当に良かった。めちゃくちゃライブ凄かったね。実は2月22日に再始動するって発表した時に、1番最初に連絡をくれたのがハルカミライで。
「一緒にやりましょう」
って言ってくれたんだけど、本当に誘ったらツアー中なのにこうやって出てくれて。
ハルカミライを見ていると、自分が諦めてしまった音や夢がそのまま鳴ってると思うんです。かつての自分がやりたかったことをやってくれているというか。
でも今の自分じゃやろうとしてもそれはできないから。ハルカミライが豪速球投手でいくんなら、こっちは変化球投手として200勝目指すっていうか」
と、実に的確なハルカミライ評と自分の分析を語る。自分は古舘もある意味ではストレートばかり投げるタイプだと思っているが、そのストレートがツーシームのように勝手に変化してしまうのが古舘らしさというか。そんな古舘がここまでハルカミライのことを評価しているというのは、もしかしたらThe SALOVERSのままで続けていたらハルカミライのようなバンドになっていた未来があるのかもしれないとも思う。
そんな古舘が歌う「東狂」は東京で育ってきた男だからこその東京の魔力を感じさせるような曲だ。全く感動的なことが歌われるわけではなくて、様々な困難に直面して自身が狂わされた、でもずっとこの場所で生きているとも言える東京を轟音で鳴らしている。
そして古舘がギターを置いてハンドマイクになって歌うのは真っ赤な照明がステージを照らす「ロボット」。髪から汗がしたたり落ちる古舘の姿はか昔から全く変わらないというか、こういうライブしかできないんだろうなとも思うが、こうしたフィクション的なストーリーの歌詞にも確かに古舘という人間の不器用さは現れていると思う。
そして「SとF」からはさらに疾走感を増していき、クールに見える森がかけていたサングラスを吹っ飛ばすくらいに荒ぶっているのがわかるのだが、思えばオシャレなポップサウンドを鳴らしていたイメージのShiggy Jr.のメンバーだった森はかつて一時期The SALOVERSのサポートをやってくれたこともあった。元相棒の諸石がNAMBA69のドラマーになっていることも含めて、彼らにはこうしたロックの衝動を確かに持ち合わせているミュージシャンであることがわかるが、古舘が
「心の中で叫んでくれ!」
と言っての
「ハイ、やり直し!」
の心の中での大合唱でさらに観客の一体感というか、場内の空気がさらに一つに、さらに熱くなっていったような感覚すらあった。
そしてさらに勢いを増す「DAY BY DAY」では古舘と加藤のツインボーカル的な歌唱になるのだが、加藤が自身のボーカルパートを歌ってから間奏に入る際に思いっきり
「イェー!!!!!」
と叫ぶ。古舘だけではない。加藤もこのバンドでまだまだやりたいことが、見たい景色が、証明したいことがある。その思いの強さを確かに感じさせてくれるような咆哮。それがそのままTHE 2というバンドとしての衝動に繋がっている。
何よりも「Family」を演奏している時の、森と歌川が顔を見合わせて浮かべる笑顔の溢れっぷり。それがこのバンドが今どんな状態であるかを最も示していた。古舘も加藤も、森も歌川も、一度はバンドというものを終えた上で再びこのバンドのメンバーになっている。それはバンドを始めた時の喜びや楽しさをもう一度味わうことができているかのような。その姿が本当に楽しそうであり、何よりTHE 2というバンドが本当にカッコいいバンドだなと思えるくらいにグルーヴがどんどん力強くなっている。
この会場で古舘がやっていたThe SALOVERSのラストライブを観た時、ライブが終わった後にしばらく放心してしまっていた。彼ら4人の青春が終わってしまったと同時に、とっくに青春を通り過ぎた自分にまた青春を感じさせてくれたバンドが居なくなってしまったという喪失感が本当に大きかった。
それがあまりに大きすぎたが故に、2になってからはThe SALOVERSの時のように毎回ツアーに参加するという感じではなくなってしまっていた。でも今、この4人がステージで音を鳴らすTHE 2の姿を見ていて、またThe SALOVERSの時みたいに何度だってライブを観に行きたいと思った。それくらいに4人の生命力が輝いていた。それはどこか感動してしまうくらいに。
そんな感情に包まれた後に演奏されたのはデビューアルバム「VIRGIN」の最後に収録されていた「How many people did you say "GoodBye"」。THE 2のアルバムの最後にはこうした、衝動を放出し切って行き着いた先のロックというような曲がいつも収録されているが、その雛形を作ったと言えるような曲であり、だからこそどこか聴いているとライブがもう終わってしまうような感覚にもなる。
しかしそんな曲が演奏されてもまだライブが終わらないのは、古舘が
「このバンドを始める時にPすけ(加藤)と2人で三軒茶屋の四文屋に飲みに行って、そこでバンドをやる上での三箇条を決めて。
「誰かがやってるからやらないはなし」
「やったことないからやらないはなし」
みたいな。一つは忘れたけど(笑)
それで、なんかとにかく新しいことがしたいと思って。今まで自分がやってなかったことを。でもファンの人のSNSを見たりすると、新しいことをやるとやっぱり微妙に思っている意見も見えてしまったりして。そう思う人がいたとしても、それでも新しいことがやりたい。そう思っていたら、顔が大きくなっちゃった(笑)」
と言って都内を闊歩する恐怖映像がSNSで拡散された、ハルカミライのメンバーに「GANTZに出てくるみたい」と言われた、メガフルタチもステージに現れると、この4人で最初にリリースされた曲である「恋のジャーナル」を、
「もう好きなだけ拡散しまくってくれ!」
と写真撮影も映像撮影も許可した状態で演奏するのだが、まだ翌日もライブがあるのにそうした撮影や拡散を許可したのは、それくらいに見て欲しい、聴いて欲しいという自信に溢れた曲ができたからだ。
今や古舘の兄貴分的な存在になったサカナクションの山口一郎がプロデュースしただけに、今までのTHE 2のものとは全く違う、なんなら「これサカナクションじゃん」と言われてもおかしくないくらいのオリエンタルなダンスチューン。そうしたサウンドにも今は躊躇なく踏み込むことができるのが今のTHE 2だ。古舘の気合いの入った、役者魂が炸裂するかのようなボーカルに曲中の手拍子、カンフー的な合いの手など、フック満載のこの曲は2からTHE 2になったこのバンドの代表曲になっていくのは間違いない。こんなキャッチーな曲をバンドに預けてくれた山口一郎も本当に古舘のことを、THE 2というバンドのことを評価してくれているのがよくわかる。そんな、このバンドにまつわる人たちの想いが生んだ新たな代表曲だ。
その「恋のジャーナル」を演奏してメンバーは先にステージを去ったが、メガフルタチは前が見えないからか、なかなかステージを去ることができず、その姿が観客の笑いを呼び、それがそのままアンコールを求める手拍子へと繋がっていくというのはメガフルタチによる意外な副産物であったが、その拍手に応えるようにメンバーがステージに戻ってくると、古舘はまずは報告として歌川を紹介する。それは加入の報告だけではなく、この数日前に発表された、第一子妊娠の報告でもあった。加入してからすぐにこうした形で一時離脱してしまうことに申し訳なさも感じていたようだが、古舘も加藤も
「バンドもやりたいし子供も欲しいってい菜穂ちゃんの夢を両方とも叶えて欲しい」
という思いを持っていたという。だからこそ歌川もライブには当面は参加はできなくても、ファンクラブ向けの動画などでメンバーとして活動していくらしい。
まさかデビューした時はまだ10代だった、それこそマイクを破壊したり、いきなりパラパラや暗黒舞踏を踊っていたくらいにめちゃくちゃなことをやっていた赤い公園のメンバーが母親になるとは。時の流れの速さを実感せざるを得ないし、いろんな悲しい経験もした分、歌川にも他の4人にも、自分が生きたいように生きて幸せを感じられる人生になって欲しいなと思う。ハルカミライのメンバーはライブ前にガチガチになって「お、おめでとうございます!」とシャイ感丸出しで言ってくれたらしい。
さらにもう1人の新加入メンバーである森は思いっきりカンペを見ながら、
「お詫びです。このライブは「来場者特典あり」となっておりましたが、政府からのコロナ禍でのイベント助成金の審査に落ちて助成金がもらえなかったために、特典を作ることができませんでした。
その代わりに、本日のライブにはキリンさんがスポンサーとして入ってもらってますので、スプリングバレーという美味しいビールを20歳以上の来場者の方にプレゼントしたいと思います。僕はめちゃ酒飲むんですけど、このビールめちゃくちゃ美味しいですよ。THE 2でCMとかやりたいんで、是非#スプリングバレーでSNSに投稿お願いします(笑)」
という実に事務的な発表を任される。スプリングバレーは確かに家でこんなにクラフトビールみたいな味が堪能できるとは!と思うくらいに美味しいのだが、これ500mlの値段かと思ったら350mlなの?と思ってしまうくらいにお高めなのがネックである。ライブ終わった後の贅沢な一杯という感じだろうか。
そんな各メンバーの発表の後には古舘が、
「最近「武道館でやりたい」って言い過ぎてて、渋谷なのに「武道館ー!」って言いそうになった(笑)
もう本当に色々あった。メンバーが辞めていって、俺とPすけの間にも亀裂が入るくらいのケンカもしたりした。それでも一度活動休止してから「恋のジャーナル」以外にもたくさん曲を作ってて。また今までと違うから微妙って言われるかもしれないけど」
と前置きして演奏された新曲は加藤がゆるやかにギターを刻む、レイドバックしたチルなサウンドの、まぁ一言で言えば完全にTHE 2としてのシティポップ的な曲である。「恋のジャーナル」にも驚いたが、まさかこんなタイプの曲までも出てくるとは全く思わなかった。それはこれからもTHE 2は我々をこうして驚かせるような曲をたくさん作ってくれるということだ。これまでのバンドの曲とは真逆と言える曲かもしれないが、それはこの4人になったからこそ作れたのかもしれない。
そして最後に演奏されたのは、
「この2人でこうなってから初めて作った曲!」
と古舘が口にした、
「あなたはあなたの思う方へ」
と、それを体現しているバンドだからこその説得力を感じさせる、衝動が溢れ出すような「MY FAVORITE THINGS」で額から汗を飛び散らせる古舘の姿を見て、「ああ、やっぱりどんな音楽をやっても芯は変わらないんたな」と思った。そう思えたのが本当に嬉しかった。
全員が2回目のバンド。だからTHE 2。何でこんなに検索しづらいバンド名にするんだ、と思う時もあるけれど、そこにはちゃんと意味や込めた思いが確かにある。2回目だから初期衝動とは違うかもしれないけれど、いろんな人生経験を重ねてきて、バンドというものに絶望したりしてきたとしても、こうして初めて組んだ時のような衝動を掻き立ててくれる。
かつて自分はThe SALOVERSを「ロックが衝動の音楽だとするならば、こんなにロックなバンドは他にいない」と評した。そのバンドのボーカルだった男はバンドが変わっても、メンバーが変わっても、どんなに役者として求められる存在になっても尚、ロックバンドであることに夢を見続けている。その夢をまた自分にも見せてくれて、本当にありがとうと思う。これからは今まで以上にまたずっと先までよろしく。
1.ルシファー
2.Anthem Song
3.ケプラー
4.新曲
5.急行電車
6.東狂
7.ロボット
8.SとF
9.DAY BY DAY
10.Familiy
11.How many people did you say "GoodBye"
12.恋のジャーナル
encore
13.Sunshine (新曲)
14.MY FAVORITE THINGS
その再始動を華々しく飾るのが、この渋谷CLUB QUATTROでの2マン3days。初日の同年代のOKAMOTO'Sに続いて、この2日目はハルカミライが、そして最終日にはフレデリックという、今やQUATTROの規模でのライブなんてチケットが取れないレベルのバンドが出演するというあたりにTHE 2の友好関係の広さと、そのバンドたちが出ても負けないという今の形での自信の強さを感じる。
・ハルカミライ
まだ開演時間の19時よりもちょっと前。いきなり、
「オイー!」
という雄叫びが場内に響き、今日は客でヤバい奴が来てるのかと思ったら、それは早くもステージに登場した、関大地(ギター)のものだった。その関の気合いとともに須藤俊(ベース)と小松謙太(ドラム)も早くも楽器を手にすると、もう19時になったのかどうかわからないくらいのタイミングで爆音を鳴らし、いつものようにボロボロのTシャツとジーンズを着用した橋本学(ボーカル)もステージに現れ、ステージから身を乗り出すようにして自身の腕を銃のように客席に向けて、
「楽しみにしてきたぜー!」
と言って「君にしか」からスタートするのだが、最近はフェスなどの大きなステージで観る機会が多く、そもそもこんなキャパではチケットも取れないだけに、こんなにライブハウスの中のライブハウスみたいな会場で観るハルカミライがこんなにもメンバーの姿も音そのものも近いとは。かつて高田馬場の小さなライブハウスでもライブを観たことがあるが、その時はまだ今のようなスタイルではなかっただけに、自分が衝撃を受けたハルカミライとしてこんなに小さなライブハウスでライブを観るのは初めてだ。
関がアンプの上ではなくてお立ち台の上に乗ってギターソロを弾き、橋本が早くもTシャツを脱ぎ捨てる「カントリーロード」に続くというのはお決まりの先制攻撃の流れであるが、
橋本「3daysってすごいよな。俺たち3daysはやらないようにしてるから(笑)」
須藤「体力ないから(笑)」
橋本「俺の声がすぐ出なくなる(笑)激弱だから(笑)でもQUATTROで3daysっていうのがいいよね。1番カッコいいライブハウスだからね」
須藤「じゃあ1曲追加しまーす」
と言って演奏されたのはメンバーそれぞれのことを歌った曲であり、このライブハウスにこの4人で立つためにあるかのような「QUATTRO YOUTH」で、橋本は歌詞に合わせてそれぞれのメンバーの顔を見たり、指差したりしながら歌う。そこにはハルカミライはこの4人でなくてはならないし、この4人だからこそこのバンドになっているという絆を確かに感じさせてくれる。それはサビで4人全員の歌声が重なっていくからでもあるだろう。
橋本がブルースハープを吹きまくるイントロから始まる「ヨーローホー」では小松がやはりTシャツを脱ぎ捨てながら疾駆するツービートを打ち鳴らす。この曲でも4人の声が重なるのがよりハッキリと、強く聴こえるのはやはりこの規模のライブハウスだからだろうか。「江ノ島」などの歌詞は壮大な情景を想起させるものであるけれど、やっぱりハルカミライはライブハウスのバンドなんだなと思わざるを得ない。それはやっぱりこの4人が、このバンドが生きてきた場所だからだ。
対バンに招かれた側とは思えないくらいに観客の腕が上がりまくったショートチューン「ファイト!!」で、我々の心をこれさえあれば誰にも、何にも負けないというくらいに燃え上がらせてくれると、橋本はかつて須藤とともに1年だけ通っていた音楽の専門学校主催のライブに赤い公園が出てくれて、そのライブの最後にメンバーがマイクをぶん投げて叩き壊して帰っていった姿に衝撃を受けたといい、バンドを始めて、こうやって続けてきたことによってその赤い公園のメンバーがいるバンドと対バンできるようになったことを本当に嬉しそうに口にする。須藤によると、橋本が今のようになったのはその時の赤い公園のライブの影響らしい。
そんな憧れの人たちに招かれてのライブであるだけに、そこからさらに加速していくように「俺達が呼んでいる」から、曲間全くなしで元から曲と曲が繋がっていたかのように最新アルバム「ニューマニア」収録のショートチューン「フルアイビール」と続くのは先日のJAPAN JAMでもやっていただけにもはや新たなライブの定番アレンジとなりそうであるが、全く生まれた時期が違う曲をこうしてまるで1曲にくっつけてしまい、それによってライブがさらに勢いを増していくというのは、ハルカミライがただ好き勝手に暴れまくるバンドではなくて、どうしたら自分たちのライブがより良いものになるかということを常に考えて曲を練り上げているバンドであるということだ。それはもしかしたらライブをしまくってきた反射神経によって自然とできるようになったのかもしれないが。
さらに新作のショートチューン「To Bring BACK MEMORIES」が続くことによって、ハルカミライの新しい扉を開いたというイメージが強い「ニューマニア」は、それでいてハルカミライのパンクさが失われることなく表出しているアルバムであるなとも思える。何よりも対バンで招かれた側のライブですでにこれで8曲も演奏しているのに、まだまだ全く終わりそうな気配がないし、ここまでの体感時間はまだ5分くらいしか経っていないような感じすらする。
そんな中でもバンドの持つ歌としてのポップさ=メロディの良さと、橋本のボーカリストとしての上手さと説得力を感じさせてくれるのが「predawn」からの流れであり、
「ファンファーレの中」
のフレーズに入る際のキメで一斉に観客の拳が上がると、それが「ウルトラマリン」では
「1番綺麗な君を見てた」
のフレーズに合わせて人差し指を立てるように変化する。ハルカミライは激しい曲ももちろん最高かつ最強であるが、こうした歌を立てるような曲やラブソングも最高にロマンチックであり、最高に優しいのである。橋本がマイクスタンドを立てて自分の声をコントロールしながら、なおかつ観客の思いを受け止めるかのように手を動かしながら歌う「Mayday」でもその思いを確かに感じることができる。
そして橋本はこの客席を笑顔で見渡しながら、
「ライブハウスのキャパが狭まって、モッシュやダイブが出来なくなっても、音楽の素晴らしさは変わることはない。俺たちはこの1〜2年でそれを証明してきたつもりだし、そういうバンドが戻ってきてくれたんだ。おかえり」
と、THE 2への確かなリスペクトを感じさせるようにして復活を祝う。それはコロナ禍になって、バンドとしてのライブのやり方も、我々観客の楽しみ方も変わってしまった中でも、それでもライブを観た時の感動や衝動が変わったり、失われることがなかったハルカミライの言葉だからこそ説得力がある。本当にそれを証明してきてくれたからこそ、今でもこうやってライブハウスに通うのをやめられないでいる。
そんな思いを込めた「世界を終わらせて」で橋本とともに観客が飛び跳ねまくると、
「「明日も頑張ろう」とか、そういうことだけを歌うのがロックバンドじゃない。「逃げ出したっていい」って歌うのがロックバンドだ!辛かったら、逃げてもいいんだぜ」
というメッセージを、
「ねえ逃げ出さない?
くだらない世の中ならば」
という歌詞に込めて、曲の後半からは橋本がアコギを弾きながら歌う「つばさ」へ。ハルカミライのライブや音楽はいつだって我々に生きるためであったり、明日からも頑張っていくための力を与えてくれるけれど、それはただ無闇矢鱈にポジティブなことを歌っているからじゃなくて、ひたすら素直に正直に、「これさえあれば大丈夫なんだよな」と思える音を届けて、その姿を見せてくれるからだ。ハルカミライが
「ねえ逃げ出さない?」
と言ってくれるのならば、どこまでだって逃げ延びれるような気がする。それが生きてまたこうしてライブで会うということに繋がっていく。まるでハルカミライが作った映画のワンシーンを観ているかのようだ。
そして橋本はTHE 2の「土砂降りの雨が降る街」のフレーズを口ずさんでから、
「眠れない夜に私 THE 2を聴くのさ」
と「アストロビスタ」の歌詞を変えて歌い始める。
「俺、本当に眠れない時に聴いてるんだよ!」
というその顔はどこか少し汗というよりも涙を拭っているかのような。それはそのくらいにTHE 2を、何ならその前から古舘佑太郎というミュージシャンの音楽を聴いて生きてきたことを思わせるし、だからこそさらに曲中にも「FALL FALL FALL」のフレーズを口ずさむという場面もあった。ただ聴いてきたんじゃなくて、自分でもTHE 2の曲を歌ってきたということを確かに思わせるような。
そんなライブの最後に橋本は、
「1番幸せなことって知ってる?自分の1番を誰かにあげて、2番になること。そうやって、誰かからも1番を貰うこと。
誰かにあげた1番と誰かから貰った1番が合わさって、THE 2だ!ピース!」
と言って2本指を突き立てた。それは確実にこのTHE 2との対バンであるこの日にしか見れないものであり、聞くことができないもの。
ハルカミライのライブがワンマンやツアーの1本1本や、フェスや対バンのライブまでも全てが特別かつ見逃せないものであるのは、こうしてそのライブでしか観ることができないものを見せてくれるからだ。それが何年経っても「あの日あの場所で観たハルカミライのライブはああだった」という記憶として自分の中に残り続けていく。この日のライブも間違いなくそうした、THE 2の対バンとしてあまりにも完璧すぎたライブだった。
1.君にしか
2.カントリーロード
3.QUATTRO YOUTH
4.ヨーローホー
5.ファイト!!
6.俺達が呼んでいる
7.フルアイビール
8.To Bring BACK MEMORIES
9.predawn
10.ウルトラマリン
11.Mayday
12.世界を終わらせて
13.つばさ
14.アストロビスタ
・THE 2
そして久しぶりに、メンバーが変わってから初めてのTHE 2のライブ。かつてはフェスやサーキットライブなんかでもよく観ていたけれど、古舘佑太郎がステージに立つ姿すら観るのが実に久しぶりである。
どこか中華風な音階のSEでメンバーが登場すると、ライブ以外の割といろんな場所で姿を目にする機会が多い古舘の出で立ちは変わらないが、銀杏BOYZのライブの時以上に加藤綾太の姿が大きく見えるのは体格としては小柄なハルカミライの関を観た直後だからだろう。
新メンバーの森夏彦(ex.Shiggy Jr.)はサングラスをかけており、歌川菜穂(ex.赤い公園)は赤い衣装を着ているが、2人とも若い頃からデビューしていただけに、こうして今にしてTHE 2のメンバーとしてステージに立っているのを観ると、どこか大人になったんだな…としみじみしてしまう。
すると古舘がギターを弾きながら
「友達の彼女に手を出したい
修羅場こそ私の現世の場所」
と「ルシファー」のフレーズを弾き語りのようにして歌い始めるのだが、
「修羅場こそ私の現世の場所」
というフレーズはまるでこうして再びシーンに戻ってきたバンドの声明そのもののようであり、そのフレーズを合図にしてバンドの音が古舘のボーカルに重なっていく。
「Anthem Song」もそうであるが、基本的にメンバーが変わっても曲が変わるわけではないし、古舘の衝動を絞り出すような歌い方も、加藤の思いっきり掻き鳴らすギターも変わらないのだが、前任者は低い位置で鳴らしていたベースは森ならではの高い位置になったのは視覚的にはかなり違うし、森ならではの滑らかさみたいなものをその姿や音からも感じる。歌川のドラムも本当にさすがだなと思うくらいにバンドに溶け込んでいる。かつてのリズム隊の相方の藤本ひかりも秋山黄色のバンドメンバーになったけれど、大きな喪失を経験した彼女たちがこうやって前に進んでいることを目にするだけで感じるものがある。
古舘の、ギターを弾かずに歌う時にリズムに乗って体を左右に揺らすというクセみたいな歌い方も変わらないなと「ケプラー」を観て思っていたのだが、自分が知らないだけかもしれないけれど、ここで音源化されていない曲も演奏される。加藤がエフェクターを使って浮遊感のあるギターサウンドを鳴らすと、森の跳ねるようなビートと歌川のコーラスが華麗に響くというこのメンバーの力を最大限に活かした曲はこの衝動的な曲の流れの中で聴くと落ち着いた感じもあるかもしれないが、それが突っ走るだけではないという良いアクセントになっている。
古舘の持っている切なさのようなものが衝動的なギターロックの中にどうしても滲み出てしまう「急行電車」でその情景を我々の頭の中に浮かび上がらせると、古舘は
「ハルカミライとやれて本当に良かった。めちゃくちゃライブ凄かったね。実は2月22日に再始動するって発表した時に、1番最初に連絡をくれたのがハルカミライで。
「一緒にやりましょう」
って言ってくれたんだけど、本当に誘ったらツアー中なのにこうやって出てくれて。
ハルカミライを見ていると、自分が諦めてしまった音や夢がそのまま鳴ってると思うんです。かつての自分がやりたかったことをやってくれているというか。
でも今の自分じゃやろうとしてもそれはできないから。ハルカミライが豪速球投手でいくんなら、こっちは変化球投手として200勝目指すっていうか」
と、実に的確なハルカミライ評と自分の分析を語る。自分は古舘もある意味ではストレートばかり投げるタイプだと思っているが、そのストレートがツーシームのように勝手に変化してしまうのが古舘らしさというか。そんな古舘がここまでハルカミライのことを評価しているというのは、もしかしたらThe SALOVERSのままで続けていたらハルカミライのようなバンドになっていた未来があるのかもしれないとも思う。
そんな古舘が歌う「東狂」は東京で育ってきた男だからこその東京の魔力を感じさせるような曲だ。全く感動的なことが歌われるわけではなくて、様々な困難に直面して自身が狂わされた、でもずっとこの場所で生きているとも言える東京を轟音で鳴らしている。
そして古舘がギターを置いてハンドマイクになって歌うのは真っ赤な照明がステージを照らす「ロボット」。髪から汗がしたたり落ちる古舘の姿はか昔から全く変わらないというか、こういうライブしかできないんだろうなとも思うが、こうしたフィクション的なストーリーの歌詞にも確かに古舘という人間の不器用さは現れていると思う。
そして「SとF」からはさらに疾走感を増していき、クールに見える森がかけていたサングラスを吹っ飛ばすくらいに荒ぶっているのがわかるのだが、思えばオシャレなポップサウンドを鳴らしていたイメージのShiggy Jr.のメンバーだった森はかつて一時期The SALOVERSのサポートをやってくれたこともあった。元相棒の諸石がNAMBA69のドラマーになっていることも含めて、彼らにはこうしたロックの衝動を確かに持ち合わせているミュージシャンであることがわかるが、古舘が
「心の中で叫んでくれ!」
と言っての
「ハイ、やり直し!」
の心の中での大合唱でさらに観客の一体感というか、場内の空気がさらに一つに、さらに熱くなっていったような感覚すらあった。
そしてさらに勢いを増す「DAY BY DAY」では古舘と加藤のツインボーカル的な歌唱になるのだが、加藤が自身のボーカルパートを歌ってから間奏に入る際に思いっきり
「イェー!!!!!」
と叫ぶ。古舘だけではない。加藤もこのバンドでまだまだやりたいことが、見たい景色が、証明したいことがある。その思いの強さを確かに感じさせてくれるような咆哮。それがそのままTHE 2というバンドとしての衝動に繋がっている。
何よりも「Family」を演奏している時の、森と歌川が顔を見合わせて浮かべる笑顔の溢れっぷり。それがこのバンドが今どんな状態であるかを最も示していた。古舘も加藤も、森も歌川も、一度はバンドというものを終えた上で再びこのバンドのメンバーになっている。それはバンドを始めた時の喜びや楽しさをもう一度味わうことができているかのような。その姿が本当に楽しそうであり、何よりTHE 2というバンドが本当にカッコいいバンドだなと思えるくらいにグルーヴがどんどん力強くなっている。
この会場で古舘がやっていたThe SALOVERSのラストライブを観た時、ライブが終わった後にしばらく放心してしまっていた。彼ら4人の青春が終わってしまったと同時に、とっくに青春を通り過ぎた自分にまた青春を感じさせてくれたバンドが居なくなってしまったという喪失感が本当に大きかった。
それがあまりに大きすぎたが故に、2になってからはThe SALOVERSの時のように毎回ツアーに参加するという感じではなくなってしまっていた。でも今、この4人がステージで音を鳴らすTHE 2の姿を見ていて、またThe SALOVERSの時みたいに何度だってライブを観に行きたいと思った。それくらいに4人の生命力が輝いていた。それはどこか感動してしまうくらいに。
そんな感情に包まれた後に演奏されたのはデビューアルバム「VIRGIN」の最後に収録されていた「How many people did you say "GoodBye"」。THE 2のアルバムの最後にはこうした、衝動を放出し切って行き着いた先のロックというような曲がいつも収録されているが、その雛形を作ったと言えるような曲であり、だからこそどこか聴いているとライブがもう終わってしまうような感覚にもなる。
しかしそんな曲が演奏されてもまだライブが終わらないのは、古舘が
「このバンドを始める時にPすけ(加藤)と2人で三軒茶屋の四文屋に飲みに行って、そこでバンドをやる上での三箇条を決めて。
「誰かがやってるからやらないはなし」
「やったことないからやらないはなし」
みたいな。一つは忘れたけど(笑)
それで、なんかとにかく新しいことがしたいと思って。今まで自分がやってなかったことを。でもファンの人のSNSを見たりすると、新しいことをやるとやっぱり微妙に思っている意見も見えてしまったりして。そう思う人がいたとしても、それでも新しいことがやりたい。そう思っていたら、顔が大きくなっちゃった(笑)」
と言って都内を闊歩する恐怖映像がSNSで拡散された、ハルカミライのメンバーに「GANTZに出てくるみたい」と言われた、メガフルタチもステージに現れると、この4人で最初にリリースされた曲である「恋のジャーナル」を、
「もう好きなだけ拡散しまくってくれ!」
と写真撮影も映像撮影も許可した状態で演奏するのだが、まだ翌日もライブがあるのにそうした撮影や拡散を許可したのは、それくらいに見て欲しい、聴いて欲しいという自信に溢れた曲ができたからだ。
今や古舘の兄貴分的な存在になったサカナクションの山口一郎がプロデュースしただけに、今までのTHE 2のものとは全く違う、なんなら「これサカナクションじゃん」と言われてもおかしくないくらいのオリエンタルなダンスチューン。そうしたサウンドにも今は躊躇なく踏み込むことができるのが今のTHE 2だ。古舘の気合いの入った、役者魂が炸裂するかのようなボーカルに曲中の手拍子、カンフー的な合いの手など、フック満載のこの曲は2からTHE 2になったこのバンドの代表曲になっていくのは間違いない。こんなキャッチーな曲をバンドに預けてくれた山口一郎も本当に古舘のことを、THE 2というバンドのことを評価してくれているのがよくわかる。そんな、このバンドにまつわる人たちの想いが生んだ新たな代表曲だ。
その「恋のジャーナル」を演奏してメンバーは先にステージを去ったが、メガフルタチは前が見えないからか、なかなかステージを去ることができず、その姿が観客の笑いを呼び、それがそのままアンコールを求める手拍子へと繋がっていくというのはメガフルタチによる意外な副産物であったが、その拍手に応えるようにメンバーがステージに戻ってくると、古舘はまずは報告として歌川を紹介する。それは加入の報告だけではなく、この数日前に発表された、第一子妊娠の報告でもあった。加入してからすぐにこうした形で一時離脱してしまうことに申し訳なさも感じていたようだが、古舘も加藤も
「バンドもやりたいし子供も欲しいってい菜穂ちゃんの夢を両方とも叶えて欲しい」
という思いを持っていたという。だからこそ歌川もライブには当面は参加はできなくても、ファンクラブ向けの動画などでメンバーとして活動していくらしい。
まさかデビューした時はまだ10代だった、それこそマイクを破壊したり、いきなりパラパラや暗黒舞踏を踊っていたくらいにめちゃくちゃなことをやっていた赤い公園のメンバーが母親になるとは。時の流れの速さを実感せざるを得ないし、いろんな悲しい経験もした分、歌川にも他の4人にも、自分が生きたいように生きて幸せを感じられる人生になって欲しいなと思う。ハルカミライのメンバーはライブ前にガチガチになって「お、おめでとうございます!」とシャイ感丸出しで言ってくれたらしい。
さらにもう1人の新加入メンバーである森は思いっきりカンペを見ながら、
「お詫びです。このライブは「来場者特典あり」となっておりましたが、政府からのコロナ禍でのイベント助成金の審査に落ちて助成金がもらえなかったために、特典を作ることができませんでした。
その代わりに、本日のライブにはキリンさんがスポンサーとして入ってもらってますので、スプリングバレーという美味しいビールを20歳以上の来場者の方にプレゼントしたいと思います。僕はめちゃ酒飲むんですけど、このビールめちゃくちゃ美味しいですよ。THE 2でCMとかやりたいんで、是非#スプリングバレーでSNSに投稿お願いします(笑)」
という実に事務的な発表を任される。スプリングバレーは確かに家でこんなにクラフトビールみたいな味が堪能できるとは!と思うくらいに美味しいのだが、これ500mlの値段かと思ったら350mlなの?と思ってしまうくらいにお高めなのがネックである。ライブ終わった後の贅沢な一杯という感じだろうか。
そんな各メンバーの発表の後には古舘が、
「最近「武道館でやりたい」って言い過ぎてて、渋谷なのに「武道館ー!」って言いそうになった(笑)
もう本当に色々あった。メンバーが辞めていって、俺とPすけの間にも亀裂が入るくらいのケンカもしたりした。それでも一度活動休止してから「恋のジャーナル」以外にもたくさん曲を作ってて。また今までと違うから微妙って言われるかもしれないけど」
と前置きして演奏された新曲は加藤がゆるやかにギターを刻む、レイドバックしたチルなサウンドの、まぁ一言で言えば完全にTHE 2としてのシティポップ的な曲である。「恋のジャーナル」にも驚いたが、まさかこんなタイプの曲までも出てくるとは全く思わなかった。それはこれからもTHE 2は我々をこうして驚かせるような曲をたくさん作ってくれるということだ。これまでのバンドの曲とは真逆と言える曲かもしれないが、それはこの4人になったからこそ作れたのかもしれない。
そして最後に演奏されたのは、
「この2人でこうなってから初めて作った曲!」
と古舘が口にした、
「あなたはあなたの思う方へ」
と、それを体現しているバンドだからこその説得力を感じさせる、衝動が溢れ出すような「MY FAVORITE THINGS」で額から汗を飛び散らせる古舘の姿を見て、「ああ、やっぱりどんな音楽をやっても芯は変わらないんたな」と思った。そう思えたのが本当に嬉しかった。
全員が2回目のバンド。だからTHE 2。何でこんなに検索しづらいバンド名にするんだ、と思う時もあるけれど、そこにはちゃんと意味や込めた思いが確かにある。2回目だから初期衝動とは違うかもしれないけれど、いろんな人生経験を重ねてきて、バンドというものに絶望したりしてきたとしても、こうして初めて組んだ時のような衝動を掻き立ててくれる。
かつて自分はThe SALOVERSを「ロックが衝動の音楽だとするならば、こんなにロックなバンドは他にいない」と評した。そのバンドのボーカルだった男はバンドが変わっても、メンバーが変わっても、どんなに役者として求められる存在になっても尚、ロックバンドであることに夢を見続けている。その夢をまた自分にも見せてくれて、本当にありがとうと思う。これからは今まで以上にまたずっと先までよろしく。
1.ルシファー
2.Anthem Song
3.ケプラー
4.新曲
5.急行電車
6.東狂
7.ロボット
8.SとF
9.DAY BY DAY
10.Familiy
11.How many people did you say "GoodBye"
12.恋のジャーナル
encore
13.Sunshine (新曲)
14.MY FAVORITE THINGS