Base Ball Bear 「日比谷ノンフィクションIX」 @日比谷野外大音楽堂 5/15
- 2022/05/15
- 23:45
日比谷野音は基本的に春から秋までの土日にしかライブで使うことができなくて、だからこそどんなに大物アーティストでも若手バンドでも完全抽選制で会場確保となるだけに、やろうと思っただけではなかなかライブができない会場でもあるのだが、そんな日比谷野音で毎年のようにライブを行ってきたバンドがいて、それがBase Ball Bearである。通算9回目となるのがこの「日比谷ノンフィクションIX」というタイトルからもわかるはずだ。
とはいえコロナ禍になったことで、この会場でベボベ主催のライブが行われるのは2019年以来。(今年にドラマストアのゲストとしてこの会場ですでにライブを行っているが)
しかもベボベの野音が特別なのは、これまでにこの会場でライブをやってきて、どんなに雨予報であろうが、かつてシーンきっての雨バンドと言われていたサカナクションをゲストに招こうが、一度も雨が降ったことがないからという、ベボベの太陽神伝説が生まれてきた場所だからでもある。この日も前日が雨、翌日も雨予報なのにこの日だけはライブが終わるまでは雨が降らない予報という太陽神の継続っぷりである。
開演時間が17時というのはかつてこのくらいの時期にこの会場で18時からライブをやったらかなり寒くなったという経験によるものなのかもしれないが、フルキャパに戻った野音の客席を見るだけでなんだか涙が出そうになる。去年までは1席空けだったのが少し寂しい感じがあったからだ。後方には立見の観客もいるくらいの盛況ぶりというのは、これまでに何度もこの会場でのベボベのライブを見てきた人たちが集結しているのだろう。
曇り空の下で17時になると、おなじみのXTCのSEでメンバー3人がステージに登場。堀之内大介(ドラム)が先頭で現れると、いつもよりさらに高いドラムセットの上に立って満員の客席を見渡して頷き、続いて現れた関根史織(ベース)も客席を見て笑顔を浮かべる。おなじみの白シャツ姿の小出祐介(ボーカル&ギター)はあえて敢えて客席を直視しないようにしているように見える。もうその姿を見るだけで「これだ、これなんだ。ずっとこれが見たかったんだ」と思えてくる。
我々の生活もバンド自体も、ライブの在り方や世界そのものも変わり果ててしまったけれど、それでも変わらなかったものが確かにあるというのをこのメンバーが登場した瞬間だけで確信できたのだ。それは観客の長く、そして大きな拍手も含めて。
そんなメンバー3人がドラムセットの上で息を合わせるようにしてから小出がギターを弾きながら
「風になりたくて」
と歌い始めたのはもちろん「BREEEEZE GIRL」。手拍子も起こる中、天気は良くないけれどこの曲をこの野音で聴くとやっぱりもうここが夏になる。駆け出したくなるような蒼さを持った夏。それをずっと感じることができるというのもずっと変わっていない。満員の観客が飛び跳ねまくる姿も。その全てが、美しすぎるんだよと思う。
小出が2人の方を見ながらイントロのギターを刻むのは「いまは僕の目を見て」であるが、自分はベボベのFC会員であり、会員先行でこの日のチケットを取ったので席がめちゃくちゃステージに近かったのだが、堀之内のドラム一打一打が実に力強くて、それによって特にシンバルの音が鼓膜の中にまで響いてくるくらいの音量の大きさなのがわかる。もちろんそれは堀之内のドラムの技術と筋力の向上によるものであり、それがそのままバンドとしての今なお続くレベルアップに繋がっていることがわかる。
そんな中で小出が早くも挨拶的なMCで、
「いやー、降らないなー!今日も最初は雨予報だったのに。しかし日比谷ノンフィクションは実に3年ぶりですか。こうして満キャパの我々のライブも本当に久しぶりですね」
とまたしても雨にこのバンドが勝ったことを宣言すると、大学生の飲み会のコールのように「満キャパ 満キャパ」と言って手を叩き始め、それが客席にも広がっていくのだが、
小出「いやいや、怖っ!集団心理怖っ!そんなノリじゃないし!(笑)」
堀之内「お前がやったからそうなったんだよ!(笑)」
という役割が完全に決まりきっているメンバー間の漫才のようなやり取りもまたベボベのライブの変わらなさである。
そんなメンバー(特に小出)の持つユーモアさがそのまま歌詞とサウンドとなって現れる曲が「そんなに好きじゃなかった」であり、こうしてライブで聴くのも実に久しぶりな感じがするのだが、間奏では小出がこれでもかというくらいにギターを弾きまくる。新作をリリースして、ツアーをして…というサイクルが去年から今年にかけて戻ってきたからこそ、それを経て過去の曲たちも間違いなくビルドアップされているのがよくわかる。
まだまだ夜というには早い時間帯であるが、それでも関根のベースがうねりまくり、スリーピースバンドとしてのベボベのグルーヴを体感させてくれる先鞭的な曲に(バンドの歴史を考えると結果的にであるか)なった「文化祭の夜」ではその関根がベースを弾く手もステージ上を歩き回るようにして体も躍動させながら、間奏では重いグルーヴだけではなく、エフェクターを踏み替えてビュンビュンと低音が飛ぶかのような音を発する。こうした関根のベーシストとしての成長こそがベボベがこの3人だけで続いていく一つの大きな理由になっているということが実によく分かる。
すると小出がギターを刻みまくるのは「(LIKE A)TRANSFER GIRL」からの「Transfer Girl」というコンボであり、やはり堀之内のドラムのリズムが力強く曲を、ライブそのものを牽引するのであるが、「Transfer Girl」は今でもライブで良く演奏されている曲であるが、「(LIKE A)TRANSFER GIRL」とくっつけるというのはほとんどない流れだ。
「いつだってbe with you
見つかったってwith you
いつだってbe with you
見つかったっていい理由」
という曲最後のコーラスを関根と堀之内が重ね、そこに小出が最後にボーカルを重ねてから
「神様、あの子を創ったのは正解だね」
という歌い出しに繋がることによって、また新たなストーリーが頭の中に浮かんでくる。それはまだまだ我々がベボベの音楽に飽きるどころか、新鮮な気持ちで向き合うことができるということだ。
しかし小出は
「満キャパの客席を久しぶりに見て緊張している。っていうか珍しく感慨を感じてる」
と口にすると、
「次の曲のギターを弾くにあたって、俺の中の超高性能AIが「まさか感慨を感じるとは!」ってなってるから、感慨がライブを追い越しちゃってる。それが追いつかないと次の曲のギター弾けないから、ちょっと俺の感慨を落ち着かせてくれ」
と堀之内に頼み、堀之内が変顔を駆使して小出の感慨を抑え込もうとすると、予想以上にその顔が面白かったことで小出が笑ってしまうのだが、それでも今度はライブの緊張感が足りなくなってしまい、早く曲に行きたがっている関根の目線の鋭さで緊張感を感じると、その二つが上手く暖流と寒流が交わって良い漁場になったかのように(この例えがスッと出てくる小出が結構凄いと思う)して「Cross Words」へと入っていく。この日のセトリの中では最も落ち着いたタイプの曲であるし3人になってから生み出されたその曲が最もギターを弾くのに集中力を要する曲だというのは意外であった。
すると青と白が交わった照明がステージを照らす昨年リリースの最新アルバム「DIARY KEY」収録の「_touch」が今でも失われないベボベの瑞々しい蒼さを感じさせてくれるのだが、もっとこれら新作アルバムの曲の比率が多くなるんじゃないかと思っていただけに、この曲がこの日初めて演奏された新作曲であるというのは少々意外であった。
そんな新作から一気に時を戻すかのように、でも曲の持つ蒼さは全く変わっていないようにすら感じるのは、関根のボーカルパートもまたベボベの蒼さの変わらなさを示す上で重要なものであるということを示すような「SIMAITAI」であり、ここまでの曲でもたくさんの腕が上がっていた客席からはより一層たくさんの腕が堀之内のリズムのキメに合わせて振り上げられ、そのこの曲が細胞レベルにまで染み込んでいるであろう人ばかりいるという光景に、ここにいるみんながベボベと一緒に年齢を重ねてきたんだなと実感させてくれて胸が熱くなる。そんなことを思う我々を現実から、どこか遠くに連れ去ってしまってくれないかと思うほどに。
それはもしかしたらベボベに初めて出会った時の感覚なのかもしれないと思うとともに、まさにそれを曲にして表してくれたのが「初恋」だったのだが、この曲もまた実に久しぶりにライブで聴く曲であるし、だからこそ「この曲ってこんなに複雑なリズムだったっけ」と思ってしまう。ベボベはインディーズ時代から非常に演奏が上手いバンドとしてシーンに登場したが、この曲ですらその頃からもう10年くらい経ってから作られた曲であり、それからさらに10年くらい経った今の3人が演奏することによって、そのベボベの演奏力の高さを改めて感じることができるのだ。
そんな久しぶりの選曲も並んだこの日の日比谷野音のライブだからこそ小出は2人に
「2人にとって日比谷ノンフィクションってどういうイメージのもの?」
と問いかけると、
堀之内「お祭りみたいな感覚のライブ」
関根「広い会場だけど、身内感を出してもいいようなライブ」
と口にして、その言葉を具現化するためにここからはゲストがステージに。まずはリリース自体は10年前であるが、こうしてライブで共演するのは意外にも初めてとなる声優の花澤香菜をステージに呼び込むと、
「花澤さんが出てきて、一気になんかイベント感が出てきた(笑)」
ということで、花澤香菜はベボベのライブでは絶対にやらない客席のウェーブを起こし、
「前の野音のライブを客席で見させていただいて。RHYMESTERさんがゲストで出てコラボしてるのを見て、私にも「恋する感覚」っていうカードがあるのにな〜」
と、かねてから本人もライブ出演を熱望していたコラボ曲「恋する感覚」が花澤香菜を迎えて初めてライブで披露される。
リリース時のライブでは花澤香菜のパートを関根が歌うという形でセルフカバーしていたのだが、その関根と花澤のボーカルの掛け合いによって、声質が似ていると思っていた両者がライブで聴くと全然違うということに気付く。その違いによるコントラスト(物凄くざっくり言うと、やはり声優とバンド女子という違いに感じる)を感じさせるのだが、個人的にこのライブの前日に映画「呪術廻戦0」を今更ながら観に行ったので、花澤香菜が演じたヒロインであり呪いである折本里香がベボベと我々に特級の力を与えてくれたかのような。そのくらいに花澤香菜が出てきてガラッと空気が変わったし、変えることができるくらいの超大物声優になったからこそ、花澤香菜が
「これっきりなんてやめてくださいね!またライブに出してください!」
と去り際に言うと、
「いやいや!呼んでいいんならもう毎回のライブで呼びますよ!(笑)」
と小出が恐縮気味になる。そう言ってくれるくらいに花澤香菜がベボベのライブを楽しんでくれて、こうしてこの曲を歌いたいと思ってくれるのは本当に嬉しいことである。
そのまま堀之内と関根がリズムを刻み、小出がギターをカッティングさせてステージに招いたのは最新作「DIARY KEY」でコラボした若手ラッパーのvalknee。この野音がヒップホップにとってもかつて「さんぴんキャンプ」が開催された歴史を持つ会場ということで、こうしてヒップホップの曲をやりたくなるという選曲であるが、「DIARY KEY」のリリースツアーの中野サンプラザでのワンマンでもvalkneeはゲスト出演していたが、こうして近い距離で見るとこんなにもギャルだったのか、と思うくらいに見た目的にはベボベと全く関わることがなさそうなタイプである。しかしそんなvalkneeがステージを左右に歩きながら観客を煽るようにして盛り上げてくれている姿を見ていると、小出からしてもそうしたかつての学生時代には交わることがないと思っていたような人とも音楽を通してなら通じ合えるというように精神や考え方が変わってきたのだろうと思う。それが大人になるということだとしたら、それは歳を取ることが悪くないなとベボベの同世代としても改めて思わせてくれる。
そのvalkneeと入れ替わりでステージに現れたのはヒップホップの先輩でもあり、10代の頃からベボベのライブにゲスト参加してきた、バンドの歴史の上では欠かせない存在である、Ryohu。白いキャップを被るというヒップホップスタイルで
「ベボベファンの皆様、お久しぶりです!」
と挨拶すると、かつて初めてゲスト参加した日比谷ノンフィクションIIの時はまだ10代で、渋谷からバスケットボールをドリブルしながら会場まで来たというが、この日はしっかり車で来たというRyohuが参加したのは関根がこの曲で使うのかと少し意外だったチャップマンスティックを演奏する「歌ってるんだBaby.」で、Ryohuの渋みを増したラップもそうであるが、小出と関根のこの曲のボーカルも今になって聴くと当時よりもはるかに説得力を感じることができるのは、2人がベボベとしてずっと歌い続けてきた結果として今があるからだ。かつて確かにRyohuが10代の時に出演した日比谷ノンフィクションのことを覚えているからこそ、本当にそう思える。
そのRyohuは「歌ってるんだBaby.」のコラボが終わってもまだステージに止まっており、小出が
「せっかくRyohuが来てくれたから、違う曲もやりたいんだけど、もう1人いないとこの曲成立しないんだよね〜。そのもう1人のゲストの福岡晃子にももちろん声をかけたんだけど、今日はどうしても仕事で行けないって言われたから、代役として福岡晃子のインターネット友達?チャット友達?に来てもらいました!」
と言ってステージに現れたのは、なんと福岡晃子とともにチャットモンチーとしてベボベと一緒にシーンを駆け抜けてきた、橋本絵莉子という超サプライズで、
「この曲を作った時に、チャットモンチーのボーカルがそのまま歌ったら面白くないから敢えてベースにしたのに、こうやってボーカルが参加することになるとは(笑)」
と言って演奏されたのはもちろん音源では福岡晃子とRyohuが参加していた「クチビル・ディテクティブ」の橋本絵莉子参加バージョンなのだが、入念に練習してきたのもあるだろうけど、かつて福岡晃子がライブに参加していたのを見ていたのであろう、歌唱はもちろん、小出とのユニゾン部分で小出の側に寄って行って歌うのもかつてのアッコのパフォーマンスそのものであり、やっぱりバンドとしての活動が終わってもどこか2人の精神が繋がっているように感じられる。最後に橋本とRyohuがドラムセットの台の上に立って、堀之内のキメでジャンプするのかと思いきや何もしないという橋本らしい天然っぷりに小出はズッコケていたけれど。
しかしチャットモンチーの最後のライブとなった「こなそんフェス」の初日にベボベが出演し、かつてチャットモンチーも含めた3組で「若若男女サマーツアー」を回ったシュノーケルも揃い、最後には3バンド全員で「シャングリラ」を演奏するという「若若男女サマーツアー」に一瞬だけ戻ったような瞬間を見て、もうこれからチャットモンチーとしてベボベと一緒に何かやることはないんだろうなと思っていた。
もちろんアッコはそれまでもそれ以降もいろんな形で小出と交流を持ったり、作品を作ったりしてきたが、まさか橋本絵莉子がまたこうやってベボベと一緒にステージに立つ日が来るなんて全く考えてもいなかった。
それがまた現実になったのは、やっぱりベボベがどんな形になってもバンドを続けてきたからだ。前回のツアーでも小出と関根は顔を見合わせて
「やっぱり続けた者勝ちですな」
と言っていたが、あれは心の底からそう思っていて、今も変わらずにそう思っているからこそ、こうやってこんなにも楽しいと思える瞬間や空間を作ることができるのだ。続けていてくれて本当にありがとうと心から思った瞬間だったけれど、その時に自分の頬が濡れていたのは、ベボベの野音では初めて微妙に雨が降っていたからだということにしておこうと思う。
そんなゲスト総出演の後に小出が
「2人も聞いていて欲しいんだけど、10年くらい前までは曲を作ってる俺がバンドを引っ張ってる、俺のおかげだって思ってた。そんな思い上がっていたところが確かにあった。
でも自分1人じゃ曲は完成しないし、こうやってライブもできない。メンバーがいて、スタッフがいて、こうしてライブに参加してくれる仲間がいて、ずっと応援してくれてる人がいるからこうやってバンドを続けることができている。本当にありがとうございます」
と、びっくりするくらいに素直に心境を口にした。ひねくれていて、心の内を素直に出すことがなかった小出がそんなことを言うもんだから、なんだか感慨を飛び越えて一瞬で感動させられてしまったというか、本当にベボベがこの3人とスタッフの皆さんとゲストの方々と一緒に続いてきてくれて本当に良かったなと改めて思わされたし、自分は心の底からベボベは本当に良いバンドだと思ってきたけれど、そんな自分の評価すら上回るくらいに、やっぱりベボベは最高に良いバンドなんだよなと思ったのだ。
そんな小出の言葉の演奏されたのが、小出の歌い出しに関根のベースが乗り、さらに堀之内のドラムが乗るという形で、1人が2人になり、2人が3人になるという、小出の言葉を演奏で示すかのような「Tabibito In The Dark」で、サビ前では堀之内が思いっきりドラムを連打して音源よりもさらに焦らす時間を作ることにより、サビでのさらなる爆発を生み出す。これもまたライブをやりまくってきたことによって会得してきたアレンジであるし、すっかり夜の暗闇になった状況だからこそ、この曲のテーマの通りにバンドも我々もまたここから再び歩き出して行こうと思えるのだ。
そしてそんなライブの最後に演奏されたのは、堀之内のビートが祭囃子のようにも感じられる「レモンスカッシュ感覚」で、ステージを照らすタイトルに合わせた黄色い照明を含めて、ベボベのライブを見て得られるこの感覚は本当に、一生消えぬ感覚なんだよなと思った。そう思えるのは、これからも一生、どちらかが死ぬまでベボベのライブを見ていられるという確信があるからだ。それをこの「日比谷ノンフィクション」は他のライブよりも圧倒的な説得力でもって示してくれる。ただ回数をやってきたからじゃなくて、毎回毎回のライブで見せてきたものがあまりに特別なものだったから、ベボベの野音はやっぱり特別なものだったのだ。
アンコールで再びメンバーが登場すると、小出は改まったような口調と表情で、
「我々バンド結成20周年を迎えまして、メンバー、スタッフとともに何度も話し合って、一つの決断をしました」
と言い始める。いや、まさか。ベボベに限って辞めるとか止まるなんてことはない。確かに今のところこの後のライブ予定は何もないけど、続けるということがベボベの生存証明であり、世の中への抗い方だったはずだ。だからそんなことを発表するわけがー。
と考えてしまったのだが、
「それがこちらです。ドン!」
と言ってステージ背面のこの日のライブビジュアルに被さるような形で出現したのは、実に10年ぶりとなる3度目の日本武道館ライブが11月10日に開催されるという告知だった。小出の話のトーンの作り方があまりに上手過ぎて心配になってしまったが、やっぱりベボベは続いていくのだ。この瞬間を写真に撮ってもいいということで、メンバーもドラムセットの台の上に立ってポーズを取ると、そのまま観客のスマホのライトをつけてもらうことを提案する。
「この光景が似合う曲をやるから」
と言ったので、夜らしい「ドライブ」あたりだろうかと思っていたら、関根の重いベースのイントロが鳴って始まったのは「Stairway Generation」という、この光景が似合う曲だろうか?と思ってしまう選曲だったのだが、それはつまり20周年を超えてもなお、ベボベは上がるしかないようだ、ということを示すものである。
そして小出が
「ありがとうございました、Base Ball Bearでした!」
と言ってギターを鳴らし始めたのは「PERFECT BLUE」。それはこの蒼さが今もベボベのものであり、そのバンドをずっと見てきた我々のものであるということを感じさせるにはこれ以上ないくらいの曲だった。曲の本来の意味合いとしては暗いものかもしれないが、今はそうじゃない。この先へ向かって、前へ向かって我々はベボベと一緒に翔ぶことができる。
「会いたいよまた君に」
というフレーズが武道館での再会を、
「もうすぐ夏が来る」
というフレーズが今年こそはかつてのように夏フェスでベボベの夏ソングが聴けますように、と思わせてくれた。それはこれからも我々がベボベと一緒に歳を重ねていくということだ。去り際に堀之内がマイクを使わずに元気良く
「ありがとうございました!」
と言って去っていくのも、もう40代が見えてきているとは思えないくらいに、初めて会った20歳くらいの時と変わらないように感じていた。
冒頭で書いた通りに、バンドも変わったし、我々1人1人の状況や環境も変わった。ライブの在り方も、世界の状況も変わらざるを得ないこの数年だった。でも一つだけずっと変わらないことがあると思った。それは我々がこうやって毎年ベボベの野音を観に来るということだ。
バンドの引きの良さからそれが当たり前のようにも感じていたけれど、それは特別なことだったということが改めて実感したからこそ、また来年も必ずここで10回目を祝いたいと思う。きっとその時にも小出が最初のMCで
「降らないね〜!」
って言う姿が見れるはずだし、ベボベのファンは拍手に全ての思いを込めるように長くて大きい音を鳴らすことができる人たちだけれど、その時には大歓声を上げて応えられるようになっていたら、と心から思う。
1.BREEEEZE GIRL
2.いまは僕の目を見て
3.そんなに好きじゃなかった
4.文化祭の夜
5.(LIKE A) TRANSFER GIRL
6.Transfer Girl
7.Cross Words
8._touch
9.SIMAITAI
10.初恋
11.恋する感覚 w/ 花澤香菜
12.生活PRISM w/ valknee
13.歌ってるんだBaby. w/ Ryohu
14.クチビル・ディテクティブ w/ 橋本絵莉子、Ryohu
15.Tabibito In The Dark
16.レモンスカッシュ感覚
encore
17.Stairway Generation
18.PERFECT BLUE
とはいえコロナ禍になったことで、この会場でベボベ主催のライブが行われるのは2019年以来。(今年にドラマストアのゲストとしてこの会場ですでにライブを行っているが)
しかもベボベの野音が特別なのは、これまでにこの会場でライブをやってきて、どんなに雨予報であろうが、かつてシーンきっての雨バンドと言われていたサカナクションをゲストに招こうが、一度も雨が降ったことがないからという、ベボベの太陽神伝説が生まれてきた場所だからでもある。この日も前日が雨、翌日も雨予報なのにこの日だけはライブが終わるまでは雨が降らない予報という太陽神の継続っぷりである。
開演時間が17時というのはかつてこのくらいの時期にこの会場で18時からライブをやったらかなり寒くなったという経験によるものなのかもしれないが、フルキャパに戻った野音の客席を見るだけでなんだか涙が出そうになる。去年までは1席空けだったのが少し寂しい感じがあったからだ。後方には立見の観客もいるくらいの盛況ぶりというのは、これまでに何度もこの会場でのベボベのライブを見てきた人たちが集結しているのだろう。
曇り空の下で17時になると、おなじみのXTCのSEでメンバー3人がステージに登場。堀之内大介(ドラム)が先頭で現れると、いつもよりさらに高いドラムセットの上に立って満員の客席を見渡して頷き、続いて現れた関根史織(ベース)も客席を見て笑顔を浮かべる。おなじみの白シャツ姿の小出祐介(ボーカル&ギター)はあえて敢えて客席を直視しないようにしているように見える。もうその姿を見るだけで「これだ、これなんだ。ずっとこれが見たかったんだ」と思えてくる。
我々の生活もバンド自体も、ライブの在り方や世界そのものも変わり果ててしまったけれど、それでも変わらなかったものが確かにあるというのをこのメンバーが登場した瞬間だけで確信できたのだ。それは観客の長く、そして大きな拍手も含めて。
そんなメンバー3人がドラムセットの上で息を合わせるようにしてから小出がギターを弾きながら
「風になりたくて」
と歌い始めたのはもちろん「BREEEEZE GIRL」。手拍子も起こる中、天気は良くないけれどこの曲をこの野音で聴くとやっぱりもうここが夏になる。駆け出したくなるような蒼さを持った夏。それをずっと感じることができるというのもずっと変わっていない。満員の観客が飛び跳ねまくる姿も。その全てが、美しすぎるんだよと思う。
小出が2人の方を見ながらイントロのギターを刻むのは「いまは僕の目を見て」であるが、自分はベボベのFC会員であり、会員先行でこの日のチケットを取ったので席がめちゃくちゃステージに近かったのだが、堀之内のドラム一打一打が実に力強くて、それによって特にシンバルの音が鼓膜の中にまで響いてくるくらいの音量の大きさなのがわかる。もちろんそれは堀之内のドラムの技術と筋力の向上によるものであり、それがそのままバンドとしての今なお続くレベルアップに繋がっていることがわかる。
そんな中で小出が早くも挨拶的なMCで、
「いやー、降らないなー!今日も最初は雨予報だったのに。しかし日比谷ノンフィクションは実に3年ぶりですか。こうして満キャパの我々のライブも本当に久しぶりですね」
とまたしても雨にこのバンドが勝ったことを宣言すると、大学生の飲み会のコールのように「満キャパ 満キャパ」と言って手を叩き始め、それが客席にも広がっていくのだが、
小出「いやいや、怖っ!集団心理怖っ!そんなノリじゃないし!(笑)」
堀之内「お前がやったからそうなったんだよ!(笑)」
という役割が完全に決まりきっているメンバー間の漫才のようなやり取りもまたベボベのライブの変わらなさである。
そんなメンバー(特に小出)の持つユーモアさがそのまま歌詞とサウンドとなって現れる曲が「そんなに好きじゃなかった」であり、こうしてライブで聴くのも実に久しぶりな感じがするのだが、間奏では小出がこれでもかというくらいにギターを弾きまくる。新作をリリースして、ツアーをして…というサイクルが去年から今年にかけて戻ってきたからこそ、それを経て過去の曲たちも間違いなくビルドアップされているのがよくわかる。
まだまだ夜というには早い時間帯であるが、それでも関根のベースがうねりまくり、スリーピースバンドとしてのベボベのグルーヴを体感させてくれる先鞭的な曲に(バンドの歴史を考えると結果的にであるか)なった「文化祭の夜」ではその関根がベースを弾く手もステージ上を歩き回るようにして体も躍動させながら、間奏では重いグルーヴだけではなく、エフェクターを踏み替えてビュンビュンと低音が飛ぶかのような音を発する。こうした関根のベーシストとしての成長こそがベボベがこの3人だけで続いていく一つの大きな理由になっているということが実によく分かる。
すると小出がギターを刻みまくるのは「(LIKE A)TRANSFER GIRL」からの「Transfer Girl」というコンボであり、やはり堀之内のドラムのリズムが力強く曲を、ライブそのものを牽引するのであるが、「Transfer Girl」は今でもライブで良く演奏されている曲であるが、「(LIKE A)TRANSFER GIRL」とくっつけるというのはほとんどない流れだ。
「いつだってbe with you
見つかったってwith you
いつだってbe with you
見つかったっていい理由」
という曲最後のコーラスを関根と堀之内が重ね、そこに小出が最後にボーカルを重ねてから
「神様、あの子を創ったのは正解だね」
という歌い出しに繋がることによって、また新たなストーリーが頭の中に浮かんでくる。それはまだまだ我々がベボベの音楽に飽きるどころか、新鮮な気持ちで向き合うことができるということだ。
しかし小出は
「満キャパの客席を久しぶりに見て緊張している。っていうか珍しく感慨を感じてる」
と口にすると、
「次の曲のギターを弾くにあたって、俺の中の超高性能AIが「まさか感慨を感じるとは!」ってなってるから、感慨がライブを追い越しちゃってる。それが追いつかないと次の曲のギター弾けないから、ちょっと俺の感慨を落ち着かせてくれ」
と堀之内に頼み、堀之内が変顔を駆使して小出の感慨を抑え込もうとすると、予想以上にその顔が面白かったことで小出が笑ってしまうのだが、それでも今度はライブの緊張感が足りなくなってしまい、早く曲に行きたがっている関根の目線の鋭さで緊張感を感じると、その二つが上手く暖流と寒流が交わって良い漁場になったかのように(この例えがスッと出てくる小出が結構凄いと思う)して「Cross Words」へと入っていく。この日のセトリの中では最も落ち着いたタイプの曲であるし3人になってから生み出されたその曲が最もギターを弾くのに集中力を要する曲だというのは意外であった。
すると青と白が交わった照明がステージを照らす昨年リリースの最新アルバム「DIARY KEY」収録の「_touch」が今でも失われないベボベの瑞々しい蒼さを感じさせてくれるのだが、もっとこれら新作アルバムの曲の比率が多くなるんじゃないかと思っていただけに、この曲がこの日初めて演奏された新作曲であるというのは少々意外であった。
そんな新作から一気に時を戻すかのように、でも曲の持つ蒼さは全く変わっていないようにすら感じるのは、関根のボーカルパートもまたベボベの蒼さの変わらなさを示す上で重要なものであるということを示すような「SIMAITAI」であり、ここまでの曲でもたくさんの腕が上がっていた客席からはより一層たくさんの腕が堀之内のリズムのキメに合わせて振り上げられ、そのこの曲が細胞レベルにまで染み込んでいるであろう人ばかりいるという光景に、ここにいるみんながベボベと一緒に年齢を重ねてきたんだなと実感させてくれて胸が熱くなる。そんなことを思う我々を現実から、どこか遠くに連れ去ってしまってくれないかと思うほどに。
それはもしかしたらベボベに初めて出会った時の感覚なのかもしれないと思うとともに、まさにそれを曲にして表してくれたのが「初恋」だったのだが、この曲もまた実に久しぶりにライブで聴く曲であるし、だからこそ「この曲ってこんなに複雑なリズムだったっけ」と思ってしまう。ベボベはインディーズ時代から非常に演奏が上手いバンドとしてシーンに登場したが、この曲ですらその頃からもう10年くらい経ってから作られた曲であり、それからさらに10年くらい経った今の3人が演奏することによって、そのベボベの演奏力の高さを改めて感じることができるのだ。
そんな久しぶりの選曲も並んだこの日の日比谷野音のライブだからこそ小出は2人に
「2人にとって日比谷ノンフィクションってどういうイメージのもの?」
と問いかけると、
堀之内「お祭りみたいな感覚のライブ」
関根「広い会場だけど、身内感を出してもいいようなライブ」
と口にして、その言葉を具現化するためにここからはゲストがステージに。まずはリリース自体は10年前であるが、こうしてライブで共演するのは意外にも初めてとなる声優の花澤香菜をステージに呼び込むと、
「花澤さんが出てきて、一気になんかイベント感が出てきた(笑)」
ということで、花澤香菜はベボベのライブでは絶対にやらない客席のウェーブを起こし、
「前の野音のライブを客席で見させていただいて。RHYMESTERさんがゲストで出てコラボしてるのを見て、私にも「恋する感覚」っていうカードがあるのにな〜」
と、かねてから本人もライブ出演を熱望していたコラボ曲「恋する感覚」が花澤香菜を迎えて初めてライブで披露される。
リリース時のライブでは花澤香菜のパートを関根が歌うという形でセルフカバーしていたのだが、その関根と花澤のボーカルの掛け合いによって、声質が似ていると思っていた両者がライブで聴くと全然違うということに気付く。その違いによるコントラスト(物凄くざっくり言うと、やはり声優とバンド女子という違いに感じる)を感じさせるのだが、個人的にこのライブの前日に映画「呪術廻戦0」を今更ながら観に行ったので、花澤香菜が演じたヒロインであり呪いである折本里香がベボベと我々に特級の力を与えてくれたかのような。そのくらいに花澤香菜が出てきてガラッと空気が変わったし、変えることができるくらいの超大物声優になったからこそ、花澤香菜が
「これっきりなんてやめてくださいね!またライブに出してください!」
と去り際に言うと、
「いやいや!呼んでいいんならもう毎回のライブで呼びますよ!(笑)」
と小出が恐縮気味になる。そう言ってくれるくらいに花澤香菜がベボベのライブを楽しんでくれて、こうしてこの曲を歌いたいと思ってくれるのは本当に嬉しいことである。
そのまま堀之内と関根がリズムを刻み、小出がギターをカッティングさせてステージに招いたのは最新作「DIARY KEY」でコラボした若手ラッパーのvalknee。この野音がヒップホップにとってもかつて「さんぴんキャンプ」が開催された歴史を持つ会場ということで、こうしてヒップホップの曲をやりたくなるという選曲であるが、「DIARY KEY」のリリースツアーの中野サンプラザでのワンマンでもvalkneeはゲスト出演していたが、こうして近い距離で見るとこんなにもギャルだったのか、と思うくらいに見た目的にはベボベと全く関わることがなさそうなタイプである。しかしそんなvalkneeがステージを左右に歩きながら観客を煽るようにして盛り上げてくれている姿を見ていると、小出からしてもそうしたかつての学生時代には交わることがないと思っていたような人とも音楽を通してなら通じ合えるというように精神や考え方が変わってきたのだろうと思う。それが大人になるということだとしたら、それは歳を取ることが悪くないなとベボベの同世代としても改めて思わせてくれる。
そのvalkneeと入れ替わりでステージに現れたのはヒップホップの先輩でもあり、10代の頃からベボベのライブにゲスト参加してきた、バンドの歴史の上では欠かせない存在である、Ryohu。白いキャップを被るというヒップホップスタイルで
「ベボベファンの皆様、お久しぶりです!」
と挨拶すると、かつて初めてゲスト参加した日比谷ノンフィクションIIの時はまだ10代で、渋谷からバスケットボールをドリブルしながら会場まで来たというが、この日はしっかり車で来たというRyohuが参加したのは関根がこの曲で使うのかと少し意外だったチャップマンスティックを演奏する「歌ってるんだBaby.」で、Ryohuの渋みを増したラップもそうであるが、小出と関根のこの曲のボーカルも今になって聴くと当時よりもはるかに説得力を感じることができるのは、2人がベボベとしてずっと歌い続けてきた結果として今があるからだ。かつて確かにRyohuが10代の時に出演した日比谷ノンフィクションのことを覚えているからこそ、本当にそう思える。
そのRyohuは「歌ってるんだBaby.」のコラボが終わってもまだステージに止まっており、小出が
「せっかくRyohuが来てくれたから、違う曲もやりたいんだけど、もう1人いないとこの曲成立しないんだよね〜。そのもう1人のゲストの福岡晃子にももちろん声をかけたんだけど、今日はどうしても仕事で行けないって言われたから、代役として福岡晃子のインターネット友達?チャット友達?に来てもらいました!」
と言ってステージに現れたのは、なんと福岡晃子とともにチャットモンチーとしてベボベと一緒にシーンを駆け抜けてきた、橋本絵莉子という超サプライズで、
「この曲を作った時に、チャットモンチーのボーカルがそのまま歌ったら面白くないから敢えてベースにしたのに、こうやってボーカルが参加することになるとは(笑)」
と言って演奏されたのはもちろん音源では福岡晃子とRyohuが参加していた「クチビル・ディテクティブ」の橋本絵莉子参加バージョンなのだが、入念に練習してきたのもあるだろうけど、かつて福岡晃子がライブに参加していたのを見ていたのであろう、歌唱はもちろん、小出とのユニゾン部分で小出の側に寄って行って歌うのもかつてのアッコのパフォーマンスそのものであり、やっぱりバンドとしての活動が終わってもどこか2人の精神が繋がっているように感じられる。最後に橋本とRyohuがドラムセットの台の上に立って、堀之内のキメでジャンプするのかと思いきや何もしないという橋本らしい天然っぷりに小出はズッコケていたけれど。
しかしチャットモンチーの最後のライブとなった「こなそんフェス」の初日にベボベが出演し、かつてチャットモンチーも含めた3組で「若若男女サマーツアー」を回ったシュノーケルも揃い、最後には3バンド全員で「シャングリラ」を演奏するという「若若男女サマーツアー」に一瞬だけ戻ったような瞬間を見て、もうこれからチャットモンチーとしてベボベと一緒に何かやることはないんだろうなと思っていた。
もちろんアッコはそれまでもそれ以降もいろんな形で小出と交流を持ったり、作品を作ったりしてきたが、まさか橋本絵莉子がまたこうやってベボベと一緒にステージに立つ日が来るなんて全く考えてもいなかった。
それがまた現実になったのは、やっぱりベボベがどんな形になってもバンドを続けてきたからだ。前回のツアーでも小出と関根は顔を見合わせて
「やっぱり続けた者勝ちですな」
と言っていたが、あれは心の底からそう思っていて、今も変わらずにそう思っているからこそ、こうやってこんなにも楽しいと思える瞬間や空間を作ることができるのだ。続けていてくれて本当にありがとうと心から思った瞬間だったけれど、その時に自分の頬が濡れていたのは、ベボベの野音では初めて微妙に雨が降っていたからだということにしておこうと思う。
そんなゲスト総出演の後に小出が
「2人も聞いていて欲しいんだけど、10年くらい前までは曲を作ってる俺がバンドを引っ張ってる、俺のおかげだって思ってた。そんな思い上がっていたところが確かにあった。
でも自分1人じゃ曲は完成しないし、こうやってライブもできない。メンバーがいて、スタッフがいて、こうしてライブに参加してくれる仲間がいて、ずっと応援してくれてる人がいるからこうやってバンドを続けることができている。本当にありがとうございます」
と、びっくりするくらいに素直に心境を口にした。ひねくれていて、心の内を素直に出すことがなかった小出がそんなことを言うもんだから、なんだか感慨を飛び越えて一瞬で感動させられてしまったというか、本当にベボベがこの3人とスタッフの皆さんとゲストの方々と一緒に続いてきてくれて本当に良かったなと改めて思わされたし、自分は心の底からベボベは本当に良いバンドだと思ってきたけれど、そんな自分の評価すら上回るくらいに、やっぱりベボベは最高に良いバンドなんだよなと思ったのだ。
そんな小出の言葉の演奏されたのが、小出の歌い出しに関根のベースが乗り、さらに堀之内のドラムが乗るという形で、1人が2人になり、2人が3人になるという、小出の言葉を演奏で示すかのような「Tabibito In The Dark」で、サビ前では堀之内が思いっきりドラムを連打して音源よりもさらに焦らす時間を作ることにより、サビでのさらなる爆発を生み出す。これもまたライブをやりまくってきたことによって会得してきたアレンジであるし、すっかり夜の暗闇になった状況だからこそ、この曲のテーマの通りにバンドも我々もまたここから再び歩き出して行こうと思えるのだ。
そしてそんなライブの最後に演奏されたのは、堀之内のビートが祭囃子のようにも感じられる「レモンスカッシュ感覚」で、ステージを照らすタイトルに合わせた黄色い照明を含めて、ベボベのライブを見て得られるこの感覚は本当に、一生消えぬ感覚なんだよなと思った。そう思えるのは、これからも一生、どちらかが死ぬまでベボベのライブを見ていられるという確信があるからだ。それをこの「日比谷ノンフィクション」は他のライブよりも圧倒的な説得力でもって示してくれる。ただ回数をやってきたからじゃなくて、毎回毎回のライブで見せてきたものがあまりに特別なものだったから、ベボベの野音はやっぱり特別なものだったのだ。
アンコールで再びメンバーが登場すると、小出は改まったような口調と表情で、
「我々バンド結成20周年を迎えまして、メンバー、スタッフとともに何度も話し合って、一つの決断をしました」
と言い始める。いや、まさか。ベボベに限って辞めるとか止まるなんてことはない。確かに今のところこの後のライブ予定は何もないけど、続けるということがベボベの生存証明であり、世の中への抗い方だったはずだ。だからそんなことを発表するわけがー。
と考えてしまったのだが、
「それがこちらです。ドン!」
と言ってステージ背面のこの日のライブビジュアルに被さるような形で出現したのは、実に10年ぶりとなる3度目の日本武道館ライブが11月10日に開催されるという告知だった。小出の話のトーンの作り方があまりに上手過ぎて心配になってしまったが、やっぱりベボベは続いていくのだ。この瞬間を写真に撮ってもいいということで、メンバーもドラムセットの台の上に立ってポーズを取ると、そのまま観客のスマホのライトをつけてもらうことを提案する。
「この光景が似合う曲をやるから」
と言ったので、夜らしい「ドライブ」あたりだろうかと思っていたら、関根の重いベースのイントロが鳴って始まったのは「Stairway Generation」という、この光景が似合う曲だろうか?と思ってしまう選曲だったのだが、それはつまり20周年を超えてもなお、ベボベは上がるしかないようだ、ということを示すものである。
そして小出が
「ありがとうございました、Base Ball Bearでした!」
と言ってギターを鳴らし始めたのは「PERFECT BLUE」。それはこの蒼さが今もベボベのものであり、そのバンドをずっと見てきた我々のものであるということを感じさせるにはこれ以上ないくらいの曲だった。曲の本来の意味合いとしては暗いものかもしれないが、今はそうじゃない。この先へ向かって、前へ向かって我々はベボベと一緒に翔ぶことができる。
「会いたいよまた君に」
というフレーズが武道館での再会を、
「もうすぐ夏が来る」
というフレーズが今年こそはかつてのように夏フェスでベボベの夏ソングが聴けますように、と思わせてくれた。それはこれからも我々がベボベと一緒に歳を重ねていくということだ。去り際に堀之内がマイクを使わずに元気良く
「ありがとうございました!」
と言って去っていくのも、もう40代が見えてきているとは思えないくらいに、初めて会った20歳くらいの時と変わらないように感じていた。
冒頭で書いた通りに、バンドも変わったし、我々1人1人の状況や環境も変わった。ライブの在り方も、世界の状況も変わらざるを得ないこの数年だった。でも一つだけずっと変わらないことがあると思った。それは我々がこうやって毎年ベボベの野音を観に来るということだ。
バンドの引きの良さからそれが当たり前のようにも感じていたけれど、それは特別なことだったということが改めて実感したからこそ、また来年も必ずここで10回目を祝いたいと思う。きっとその時にも小出が最初のMCで
「降らないね〜!」
って言う姿が見れるはずだし、ベボベのファンは拍手に全ての思いを込めるように長くて大きい音を鳴らすことができる人たちだけれど、その時には大歓声を上げて応えられるようになっていたら、と心から思う。
1.BREEEEZE GIRL
2.いまは僕の目を見て
3.そんなに好きじゃなかった
4.文化祭の夜
5.(LIKE A) TRANSFER GIRL
6.Transfer Girl
7.Cross Words
8._touch
9.SIMAITAI
10.初恋
11.恋する感覚 w/ 花澤香菜
12.生活PRISM w/ valknee
13.歌ってるんだBaby. w/ Ryohu
14.クチビル・ディテクティブ w/ 橋本絵莉子、Ryohu
15.Tabibito In The Dark
16.レモンスカッシュ感覚
encore
17.Stairway Generation
18.PERFECT BLUE
THE 2 「THE 2 man LIVE 2022 -KOI NO JOURNALISM-」 @渋谷CLUB QUATTRO 5/17 ホーム
JAPAN JAM 2022 day5 @蘇我スポーツ公園 5/7