JAPAN JAM 2022 day3 @蘇我スポーツ公園 5/4
- 2022/05/08
- 23:50
3日目。この日も朝から完全に快晴のフェス日和であるのだが、朝から非常に人が多いし、観るからにライブキッズというよりはよそ行きの服の動きやすい格好の延長というような感じの人が多い。それは最初に出演するアーティストの今の人気を示しているということである。
10:30〜 Creepy Nuts [SUNSET STAGE]
その最初に出演する人気アーティストとはこのCreepy Nutsのことであり、前日までと朝イチのSUNSET STAGEの人の集まり方が全く違う、完全に朝から超満員。それくらいにこの2人のライブを観たい人がたくさんいるということである。
SEが鳴る中で少し照れたような表情を浮かべながらR-指定(MC)とDJ松永の2人が登場すると、自分の近くにいた女性2人組からは松永に対して「可愛い〜」という声が上がっており、え?そんな感じなの?と思っていると、R-指定がその観客たちの空気を確かめるように「板の上の魔物」をラップし始め、満員の観客が一斉に腕を上げて応え、「合法的トビ方ノススメ」でリズムに合わせて飛び跳ねまくる。朝イチからのその光景を見たR-指定は
「凄いな〜。みんな朝型ですか?まだ朝10時台ですよ?(笑)」
と驚きを口にしていた。気付けば休憩エリアであるフクダ電子アリーナの通路からライブを見ている人もたくさんいる。それくらいにこの広大なキャパでも収まりきっていないくらいの人がライブを見たがっているということだ。
そんな中で披露された新曲「2way nice guy」は歪んだギターサウンドが印象的な曲であり、この曲ですら盛り上がり方が尋常ではないくらいの受け入れられ方である。もはや恐ろしさすら感じるのだが、昨年は大雨が降るこのステージで新曲として披露された「Bad Orangez」も今ではこのグループのメロディの美しさと、超絶スキルを見せつけるというわけではないが、滑らかなRのフロウが曲に滲む切なさを感じさせてくれる。この曲を聴いていると2人が今でもどこか青春の真っ只中にいるようにも感じられる。
そんな中でRが解けてしまった靴紐を結び直すと、松永はその様子を見ながら、
「マネージャーが履いてるスケートシューズは靴紐が玉状になってて、すごく解けやすいんですよ。改善の余地があると思います(笑)」
と、何故か靴紐にまつわる豆知識を披露してくれるのだが、Rからは
「普通こういう時って相方が違う話題を提供して場を繋げてくれるもんじゃないの?(笑)」
と突っ込まれる。そのやり取りはラジオの中の楽しい2人のトークそのものである。
そして「かつて天才だった俺たちへ」では客席からガンフィンガーも上がると、Rはサビで腕を広げながら本当に気持ち良さそうに歌い、「サントラ」ではRの怒涛のラップの連打に加えて松永のスクラッチも炸裂しまくるという2人の面白いだけではないスキルの高さをこれでもかというくらいに見せつけながらも、それが自己満足的なものではなくて我々を楽しませてくれるエンターテイメントとなっている。
そしてRは昨年同様に、今こうして制限がある中でも楽しんでいるのが、マスクを外して声が出せるようになったら今までをさらに超えるような楽しさになる、それがそのまま我々やこのフェスがまだまだ成長できる余地であるという、実に見事な口上から「のびしろ」へと繋いでみせて、まさにこのフェスや音楽、ライブシーンにまだまだ「のびしろしかないわ」ということを感じさせてくれるし、それはCreepy Nutsというグループもまたそうである。これ以上成長したらどこまで行ってしまうんだと恐ろしさすら感じてしまうけれど。
ロッキンオン社長の渋谷陽一はライブ前の前説で、
「ヒップホップファンだけに届くヒップホップをやっているんじゃなくて、もっとたくさんの人に届くヒップホップをやっている」
とこのグループを評していた。それは時にはコアなヒップホップファンからディスられることにも繋がるのだが、それでも自分はそうしたアンダーグラウンドなヒップホップよりもはるかにCreepy Nutsの方が好きだったりする。それはかつて自分がRIP SLYMEやKICK THE CAN CREWを聴いてヒップホップのカッコよさと面白さを感じたように、今Creepy Nutsを聴いてそう感じているであろう人がたくさんいることがわかるから。気付けば、ロッキンオンのフェスにおいてヒップホップの看板を背負っているのはこの2人になっていた。
1.板の上の魔物
2.合法的トビ方ノススメ
3.2way nice guy (新曲)
4.Bad Orangez
5.かつて天才だった俺たちへ
6.サントラ
7.のびしろ
11:15〜 おいしくるメロンパン [SKY STAGE]
こちらも昨年に続いての出演となる、おいしくるメロンパン。SUNSET STAGEのトップバッターだった昨年に続いて今年はSKY STAGEのトップバッターという早い時間帯での出演である。
昨年は出演前にド緊張していたらしいが、今年はステージに登場した3人の表情がどこか去年よりも堂々としているというわけではないけれど、落ち着いて見える。そんな中で特に無表情のナカシマ(ボーカル&ギター)がギターを掻き鳴らしながら「look at the sea」を歌い始めると、想像していたより(昨年はそもそも参加者の人数も制限されていたから観客が少ないのは致し方ない部分もあった)多くの人が曲に合わせて腕を上げている。
基本的にサウンドがシンプルな、華やかな同期の音などは一切使わない、シャープなスリーピースのギターロックというのは普遍であるが、その中でも「色水」は歌い始めた瞬間に客席の空気が変わるというか、この曲を待っていたような、聴けて嬉しいというような、そんな空気が確かに充満していた。最も初期の頃の曲であるが、このステージの客席にいた人たちがちゃんとこのバンドのものとしてこの曲を確かに知っているという嬉しくなる驚きが確かにあった。
なのでメンバーのテンションも実に高いというか、峯岸翔雪(ベース)のMCもどこか楽しげであり、それはそのMC中に「フゥー!最高ー!」と声を上げる、金髪の原駿太郎(ドラム)もそうである。それは演奏にも確かに現れていて、峯岸はこの広いステージを端から端までフル活用するかのように袖の近くまで行ってステップを踏むようにしてベースを演奏しているのだが、そうしたライブの見せ方の進化とともにバンドの演奏そのものが実に骨太なものになっている。シンプルなサウンドであるがゆえにそれが本当によくわかる。
そんな骨太になった中で最もイメージ的にも繊細な感じがあるナカシマのボーカルも曲が続くごとに感情が強くこもるようになっていて、後半にいくにつれて声を張り上げるような歌唱が多くなってきている。
特にこの出演日当日に発売された新作ミニアルバム「cubism」収録の「Utopia」に最も強くそれを感じたのは、最新の曲であるがゆえに最も自身が今抱えているものが反映された曲だということだろうか。
そして最後に演奏された「5月の呪い」はまさに5月の象徴であるゴールデンウィークのライブに合わせたかのような選曲であるが、昨年もそうだったけれど、ロッキンオンのフェスの大きなステージに立つたびにとかく「まだ早い」と言われ続けてきたバンドである。
確かに自分もデビュー時に小さいライブハウスでライブを見た時には「まだあんまりライブは良くないな」とも思っていたのだが、今はそんなイメージは全く抱いていない。なんならようやくこの規模のステージに見合うべきバンドになったということはこの日のライブを見ていた人ならばわかるはずだ。
去年のこのフェスのライブで峯岸は
「コロナ禍になっても歩みを止めなかったロックバンドが音を鳴らす姿をとくとご覧あれ」
的なことを言っていた。その止まらずに重ねてきたライブの経験が確かに現れているし、そのライブの中には映像を取り入れて過去にリリースしたアルバムを再現するというこれまでを振り返りながらも新しい試みもあった。そうした経験がこのコロナ禍の中であっても確かにバンドを強く、逞しく成長させたのだ。もう5月は呪いではない。それを来年からもこのフェスのステージで証明してくれるはずだ。
1.look at the sea
2.命日
3.色水
4.透明造花
5.epilogue
6.シュガーサーフ
7.Utopia
8.斜陽
9.5月の呪い
12:00〜 夜の本気ダンス [SUNSET STAGE]
本来ならこの時間のこのステージにはゲスの極み乙女。が出演するはずだったのだが、メンバーがコロナに感染してしまったことにより、急遽出演キャンセルに。そこでピンチヒッターとしてお声がかかったのは「Mr.Jフェス」と称されるくらいに近年のロッキンオンのフェスやイベントに出演しまくってきた、夜の本気ダンスである。
おなじみの「ロシアのビッグマフ」のSEでステージに登場するというのは変わらないが、米田貴紀(ボーカル&ギター)が、
「僕たち、京都のバンド、夜の本気ダンスです」
と挨拶してキメを打つと、西田一紀(ギター)とマイケル(ベース)もステージ前まで歩み出て楽器を掲げ、鈴鹿秋斗(ドラム)がリズムを刻んで「Crazy Dancer」からスタートすると、急遽の出演となっただけに前方エリアは全自由席となったのだが、完全にこのバンドを見たいと思っていた人がたくさん集結して踊りまくっている。その音楽とライブのノリの浸透度はさすがMr.Jフェスと呼ばれるバンドである。
さらに早くも米田がハンドマイクを持って自身を解放させるかのようにステージ上で誰よりも踊りながら歌う「fuckin' so tired」と続くと、鈴鹿のドラムの一打一打がめちゃくちゃ強烈であることに気付く。それによってただ単に踊らせるための四つ打ちではなくて魂の解放としてのダンスロックとして鳴らされているのだが、その音からは初めて見る人たちを掴んでやる、引き込んでやるという気概に満ち溢れている。
この日は直前のこのステージにCreepy Nutsが出演していたので、もしかしたらコラボが見れるかもしれないとも思っていたのだがそれはなく、「Movin'」のラップパートは普段のライブ同様に鈴鹿がドラムを叩きながら担当する。もはやこの曲はこの形でライブとして完成しており、鈴鹿の面白い人というだけではないカッコよさを示すことができる部分でもあるだけにこの形で良かったのかもしれない。
しかしそんな鈴鹿は
「夜の本気ダンスっていう名前なのに真昼間ですいません!っていうか君たち、なんでここにいるん?俺たちもなんでここにいるん?(笑)
今日は「ロードオブザリング」を家で見る予定だったんやけど、本来ここにいなかったもの同士で指輪を葬りに行こうや〜!」
とよくわからないMCで微妙な笑いを誘うと、華やかなホーンなどの同期の音も取り入れた「SMILE SMILE」へ。コロナ禍になってライブが全然なくなってしまった直後にリリースされ、当時良く聴いていた曲であるだけに、配信ライブばかりだった頃のことを思い出すとこうして野外フェスのステージでこの曲が鳴らされているのを見ることができているのが本当に感慨深い。
「悲しい心に BYE BYE BYE」
というフレーズに合わせて米田と観客が悲しみに別れを告げるように手を振るのもまた、この曲で文字通り笑顔になることができる要因の一つだ。
そして西田のイントロのギターがSUPERCAR「White Surf Style.5」から着想を得ているということを前回の中野サンプラザワンマンの際のライブレポに書いた時にバンドのスタッフさんからそのことにコメントをいただいたので、この曲のイントロのフレーズが鳴らされた時にはこれは自分のための選曲だな、と勝手に思えたからこそ、サビでいつも以上により高くジャンプしたくなったのだった。
すると米田はいったんダンスタイムにブレイクを入れるかのように、
「こうして代打での出演っていうことにネガティブなことを思う人もいるかもしれないですが、こうしてステージで演奏して、みんなが踊っている姿を見たらそういう気持ちが吹っ飛んでいきます。本当にありがとうございます」
と口にした。それはこうして代打で出演できるということは、元からスケジュールが空いていたにもかかわらず、最初はオファーがなかったということだろう。
制作期間とか、自分たちのツアーと被っているんなら出演しなくても仕方がないけれど、そういうわけでもない、「Mr.Jフェス」とまで称してくれていたのにオファーをくれなかったというのはメンバーからしたらさぞかしショックだっただろうし、今年もこのフェスに出演が発表されるのを楽しみに待っていたファンだってたくさんいたはずだ。そこに素直に100%代打で出て嬉しいとはなかなか思うことはできない。
でもロッキンオンのフェスの歴史を考えてみると、夜ダンの先輩であるPOLYSICSもかつては代打として出演した年があり、その出演があったことで2001年から2019年まで毎年出演したフェスの象徴的な存在になった。きっといつか夜ダンもこの年にそうして出演したからこそ、ずっと出演し続けることができたという未来につながると信じている。
そうした思いを全て音とダンスで放出するかのように「とっておきの曲」として演奏されたのは、気付けばスクリーンには後ろの方まで踊りまくっている人が映る、もはや代打出演バンドのものとは思えない景色が広がった「WHERE?」でマイケルも
「踊れJAPAN JAM!」
と叫んでから、最後は再び同期のサウンドを取り入れた、新しい夜ダンのダンスサウンドを手に入れた「GIVE & TAKE」が最後を担った。それはこれから先も夜ダンが高速四つ打ちだけではなくて、あらゆるスタイルやサウンドの曲で我々を踊らせてくれるということを予感させるものだった。
演奏が終わると西田がすぐにステージから去る中で、米田、マイケル、鈴鹿の3人が前に並ぶと、
米田「告知があります。5月11日にゲスの極み乙女。のベストアルバムが発売されます!」
マイケル「そっちかい!」
と、本来出演するはずだったゲスの極み乙女。の告知をするという素晴らしい心意気を見せるのだが、
鈴鹿「それを携えて全国ツアーもまわります!」
マイケル「なんで他人の褌で全国回ろうとするねん!」
と、まるでトリオ漫才のようにすらなる中、同じ日に発売される夜ダンの新曲「審美眼」の告知もしっかりしていった。その際の楽しそうな3人の表情を見ていて、本当に出演できて良かったなと思えた。もちろん、ここにいた我々もみんなが出演してくれて本当に良かったと思っていたはず。
見事な代打での決勝打は、もはやこのバンドはロックシーンの川端慎吾(ヤクルト)である。
1.Crazy Dancer
2.fuckin' so tired
3.Movin'
4.SMILE SMILE
5.Magical Feelin'
6.WHERE?
7.GIVE & TAKE
12:45〜 ハンブレッダーズ [SKY STAGE]
去年も出演しているかと思っていたが、意外にもこのフェス初出演。今やすでにあらゆるフェスに出演するようになった、ハンブレッダーズである。
メンバーがステージに現れると、表情は驚くくらいにいつもと変わらない。(そもそもムツムロアキラ(ボーカル&ギター)は常に無表情であるが)
そのムツムロがお馴染みの
「スクールカーストの最底辺から青春を歌いに来ました、ハンブレッダーズです」
と挨拶して最初に演奏されたのは昨年リリースの傑作最新アルバム「ギター」の1曲目に収録されている「再生」。それが2年前は開催することができず、昨年は何かと叩かれまくったこのフェスのステージで鳴らされることによって、このフェスが、ひいては音楽シーン、ライブシーンそのものが再生しているような感覚にさせてくれる。
「僕は時代遅れなものばかり愛してしまう」
と口にして演奏された「ユースレスマシン」はその言葉通りのことを歌った曲であるが、それは時代遅れかもしれないけれど決して色褪せない、普遍性を持っているものをムツムロが愛してきたという意味でもある。それはこのギター、ベース、ドラムだけを鳴らすロックバンドという形態もそうである。
金髪に短パンというスタイルのベーシストのでらしが身軽にステージ上を歩き回ったり、時にはお立ち台の上に足をかけたりし、木島(ドラム)もまさに高速を疾走するかのようなリズム隊の強さを見せてくれる「銀河高速」のサビの
「続けてみることにしたよ」
のフレーズを歌う瞬間に、スクリーンにはステージから見る客席の景色が映る。こんなにたくさんの人たちがこの曲で腕を上げている。それはギタリストが離れるというバンドの形が変わる経験をしてもバンドをやめなかったからこそ見れたものだ。メンバーの表情は本当に変わらない(でも音にはちゃんと感情がこもりまくっている)けれど、最底辺にいた自分たちがこんなに素晴らしい景色を見れていることをメンバーはどう思っていたのだろうか。
このフェス初出演ということで、初めてライブを見る人も多いであろうことを考慮して、
「首振らせるよりも頷かせる音楽をやりたいんで。名前と顔と、ドラムが教員免許を持ってることだけ覚えて帰ってください」
と抜群の掴みを見せる挨拶で笑わせてくれるのだが、そんな紹介をされるとは思っていなかったのであろう木島は
「それは言わなくていいだろ(笑)」
と照れるようにしてツッコミを入れていた。
そんなメンバーのキャラクターも発揮しながら演奏されたのは「ギター」収録のラブソング「プロポーズ」なのだが、ここまでの曲が全て音楽のこと、音楽への愛を歌っているものであるため、この曲も音楽への永遠の愛を誓っているようにも聞こえるというのはこのバンドだからこそだ。
まだ真昼間でありながらも色鮮やかな照明がステージを照らす「COLORS」の
「僕らは敵じゃない
それって素敵じゃない?
夢みたいな無敵の愛」
という韻の踏み方の見事さも、「ワールドイズマイン」のギターリフと、サポートメンバーとは思えない貢献度と目立ちっぷりのうきによるギターソロも一度観たり聴いたりしたら頭から離れなくなるくらいのキャッチーさを持っている。またすぐにこの曲たちを聴きたくなるし、ライブで見たくなるというか。
「この世の中で1番ヤバい発明ってなんだか知ってますか?俺は知ってます。ギターです」
と言って演奏された「ギター」の
「錆び付いたギターでぶっ壊す
もう全部 全部 全部
暗闇の中で微かな光を見た
ギター ギター ギター」
という歌詞の通りに、そう言えるのは本人たちが青春期の鬱屈した感情をギターの歪んだ音でぶっ飛ばされてきたからだ。そんな彼らだからギターという楽器の発する音が人生を変えてしまうに足るものであるということをわかっている。この曲で鳴らされているのは、そんな時代遅れかもしれないけど変わることはないという信念だ。
しかしそんなムツムロはこうして動員の規制が緩和されるようにはなったが、コロナ禍になった当初は完全に心がやられてしまって、曲が書けなくなってしまったということを口にした。それはそうだろう。これだけ音楽のことだけを歌ってきたバンドが、あんなに音楽が不要不急と言われまくってしまったらそうなってしまうのもよくわかる。
しかしそんな状況だからこそ、この日はリハで演奏した「ライブハウスで会おうぜ」という大名曲が生まれた。自分たちが何を鳴らしたいのか、鳴らすべきなのかが定まった。ムツムロはこのフェスを主催するロッキンオンジャパンのインタビューで、
「心地良いBGMみたいな音楽で何が変わるんだろうって思う」
と口にしていた。それがそのまま「ギター」の収録曲たちにつながっているし、ラストに演奏された「BGMになるなよ」はその象徴とも言える曲だ。何かをしながら聞き流せる音楽ではない。目の前で鳴っている音に心で向き合い、その音を鳴らしている姿を見て、ロックバンドがどれだけ素晴らしいものであるかを感じさせてくれる。
新しいロックシーンのヒーローが見せた、万年弱小帰宅部の逆転サヨナラ勝利。それがついに訪れた、ハンブレッダーズのロッキンオンのフェスデビュー戦だった。
ずっとこうしたフェスに出てきたベテランバンドたちがだんだんと少なくなってきているのは寂しさもあるけれど、そのバンドたちと入れ替わるように出てくるのがこのバンドであるならば、その新陳代謝は本当に健全なものだと思う。
リハ.弱者のための騒音を
リハ.ライブハウスで会おうぜ
1.再生
2.ユースレスマシン
3.銀河高速
4.プロポーズ
5.COLORS
6.ワールドイズマイン
7.ギター
8.BGMになるなよ
13:30〜 ハルカミライ [SUNSET STAGE]
昨年に続いての出演となる、ハルカミライ。そのライブも今でも忘れられないくらいに素晴らしいとともに自分たちに力を与えてくれたが、それくらいに鮮明に覚えているだけに、あのライブがもう1年前のことなのか、とも思ってしまう。
サウンドチェックの段階から関大地(ギター)、須藤俊(ベース)、小松謙太(ドラム)の3人で曲を連発しまくっていると(須藤が歌ったりする)、本番ではそこに巨大な旗を持った橋本学(ボーカル)が登場し、「君にしか」「カントリーロード」というオープニング2連発のおなじみの流れで関は間奏で思いっきりギターを掻き鳴らす。
「やっぱり野外って最高に気持ちいいなぁ!」
と叫ぶ橋本学は早くもTシャツを脱いで上半身裸になっている。もう完全に夏フェスのような光景になっている。
そんな中で橋本が甲本ヒロトを彷彿とさせるようなブルースハープを吹きまくる、江ノ島の海を想起させる歌詞がこの気持ちいいシチュエーションに実によく似合う「ヨーローホー」と、バンドは今年アルバム「ニューマニア」をリリースし、すでにそのアルバムをもってライブをやりまくっているだけに、フェスでのセトリにもそのアルバムの曲が入ってくるという変化が起きてきている。それは元からどんなセトリだろうと毎回忘れられない伝説のライブを見せてくれてきたハルカミライのライブがよりその日でしかないセトリになるということである。
そんな中でも変わらずに「ファイト!!」というショートチューンを挟み、須藤はベースを置いて体を揺らしているだけというアイドルグループのダンス担当みたいになっているのが面白いが、関もステージ上でスライディングをかますようにしてギターを弾く「俺達が呼んでいる」と、規制が未だに多い(ロッキンオンのフェスはコロナ禍になる前から)状況の中であってもハルカミライのやりたい放題なパンクのライブは全く変わることはない。
しかもアルバムがリリースされたことによって「俺達が呼んでいる」から間髪入れずに「フルアイビール」という代表曲から最新の曲に繋がるというライブならではのアレンジも生まれている。この曲はタイトル通りにビールのことを歌った曲であるだけに橋本は客席の楽しそうな様子を見て、
「青空の下で音楽聴いて、ビール飲んで飯食って。これがフェスだぜー!」
と、おそらくコロナ禍になる前は自身もそうやって過ごしていたであろう(ハルカミライは基本的に自分たちの出番がどれだけ遅くても朝早くから会場に来て他の出演者のライブを見ている)だけに、そうした楽しさを味わうことができるフェスの状況が戻ってきていることを心から喜んでいる。そのライブができる場所が戻ってきているというのが、今でもどんな規模のフェスでも呼ばれたら出るというスタンスのバンドの生きる場所になっている。
ここにいる我々全員の拳を振り上げさせて、バンドの持っている生命力を分け与えてくれるかのような「PEAK'D YELLOW」から、こちらも上半身裸になった小松がドラムセットからステージ前まで出てきてメンバー全員で歌って始まる「世界を終わらせて」では橋本が、
「時代がどうとか関係ねぇ!音楽はいつだって自由だ!」
と叫ぶ。本当にその通りだよなと思うのは、それをステージ上で示し続けてきたバンドだからだ。制限があったとしても、そのルールを守りながら自由にライブをやる。そんなハルカミライの姿や生き様が本当にカッコいいと思う。壊すためのパンクじゃなくて、守るためのパンク。このバンドはそれを体現している。
そんな橋本が珍しくアコギを弾きながら歌うのはアルバムからの新曲「つばさ」で、この曲を筆頭に「ニューマニア」はこれまでのようにパンクにぶっ飛ばすというような曲が並んでいるアルバムではない。だからこそ、このバンドの持っているメロディの力の強さと美しさを感じることができる。結局のところは曲が良いからこそ、こうやってライブを観に来ているんだよな、ということがわかるというか。
コロナ禍になる前は大合唱が起きていたのがハルカミライのライブであるが、その最たる曲であるのはメンバー全員が声を合わせて歌う「春のテーマ」であり、それはまさに今この瞬間が歌詞の通りに「世界の真ん中」であるかのようであり、その世界の真ん中から放たれるように橋本が、
「眠れない夜に俺たちJAPAN JAMに来たんだ」
と歌い始めたのは「アストロビスタ」で、橋本は曲中の歌詞を
「音楽ってどこまで現実かな?上手い下手、見た目。それだけじゃ足りねぇ!汗と涙とハートだ!」
と変えて歌う。その汗と涙とハートというのはハルカミライの音楽とライブそのものだ。感動するようなライブも、上手いとか下手とか見た目がいいで決まるわけじゃない。そこにどれだけ感情を込めることができているかだ。ハルカミライのライブには最大限にそれが詰まっている。
そしてYON FESの時にも最後に演奏されていた新作ショートチューン「To Bring BACK MEMORIES」を鳴らして終わりかと思いきや、まだ3分も時間が余ってるということで「Tough to be a Hugh」を演奏するのだが、そもそもこれも1分に満たないショートチューンであるだけに、結局3分の中で次々にショートチューンを連発しまくり、最後には橋本が
「カメラマンの兄ちゃん、客席を撮ってくれ!」
と言ってベテランオフィシャルカメラマンの岸田哲平氏をステージに引っ張り上げて、演奏しているメンバーになったかのようにステージ上から客席の写真を撮らせる。ギリギリまで、楽しませられる最大限まで観客を楽しませてくれる。こんなに絶対事前に決めていなかったであろう曲数を連打するようなバンドは他に絶対いないと思う。それはそのまま、どんなフェスのライブであっても、ハルカミライのライブが伝説的な、決して見逃せないものであるということだ。6月からも様々なフェスが開催されるが、ハルカミライがいるかどうかで行く日を決めるくらいにはこのバンドのライブに夢中になり続けている。
橋本は去年のこのフェスで、厳戒態勢の中で観に来た我々に
「勇気出して来てくれてありがとう。勇気もらったぜ」
という言葉をかけてくれた。ハルカミライのライブから元気や勇気を貰っている我々が、その選択によってハルカミライにも勇気を与えることができている。この場所はそんな幸福なキャッチボールがバンドと我々の間で繰り返されていることを教えてくれた場所だ。これから先もきっとそうした素晴らしいハルカミライのライブの思い出が増えていく場所にもなるはずだ。
リハ.フュージョン
リハ.ファイト!!
リハ.エース
リハ.ウルトラマリン
1.君にしか
2.カントリーロード
3.ヨーローホー
4.ファイト!!
5.俺達が呼んでいる
6.フルアイビール
7.PEAK'D YELLOW
8.世界を終わらせて
9.つばさ
10.春のテーマ
11.アストロビスタ
12.To Bring BACK MEMORIES
13.Tough to be a Hugh
14.ファイト!!
15.エース
16.To Bring BACK MEMORIES
14:15〜 DISH// [SKY STAGE]
もともとは中止になってしまったCDJ 20/21に出演予定だったということもあり、俳優の北村匠海がボーカルを務めるバンドであるDISH//は本気でフェスシーンに挑んでいこうとしているのがこうして多忙であろう中でもこのフェスに出演することを決めたことによって、よくわかる。初のJAPAN JAM出演であり、まだ希少なフェスでのライブである。
ハンドマイクを持った北村匠海、矢部昌暉(ギター)、泉大智(ドラム)、橘柊生(DJ、キーボード)にギターとベースのサポートメンバーを加えた編成であるのだが、最初はやはりハルカミライのライブバンドの極みっぷりを見てしまった直後であっただけに、ライブバンドとしてはまだって感じなのかな、とも思っていたのだが、それが北村匠海がアコギを弾きながら歌う、あいみょん提供曲にしてTHE FIRST TAKEで歌ったことによってバズった「猫」からは会場の「北村匠海を見たい」的な感じだった空気も確かに変わっていく。汗を首元にしたたらせながら歌うその姿は確実にロックバンドのそれである。
「ずっと出たかったフェスにようやく出ることができました!」
と喜びを炸裂させる言葉を口にすると、北村匠海が絶賛ハマりまくっているというサウナ愛をまんま曲にした「SAUNA SONG」というタイトルもそのまんまの曲はトラップ的なビートによる、トラック的なサウンドの曲であり、こうした曲では橘のDJとしての存在がよく生きていると言えるのだが、こんな曲もあるのかと少し驚いてしまう。ロックバンドの音や形態にとらわれないからこそ、こうした挑戦もできているというか。
しかしその後はバンドサウンドとなり、北村匠海もギターを弾きながら歌う曲が多くなるのだが、MCをほとんどしないで曲を連発するというスタイルだからこそ、こうしてようやく出れているフェスで自分たちが何を伝えたいのか、それは音楽であるということに照準が定まっているし、そうして演奏を続ける中でどんどんライブにバンド感が増していく。泉も矢部もしっかりした演奏技術を持っているプレイヤーであるということがたくさん曲を演奏することによってわかってくる。特に「Seagull」は歌詞からしても完全にDISH//がロックバンドであることを示すような曲だ。
そして最後の「沈丁花」では北村匠海がハンドマイクを持って歌うと間奏で、
「ありがとうって伝えたい人には伝えられるうちにちゃんと伝えましょう。俺は昨日父親が還暦の誕生日を迎えたから、高校に行かせてくれてありがとう。大学まで行かせてくれて本当にありがとうって伝えました。みなさんも家族や友達やペットや仲間や恋人とか、ありがとうを伝えたい人にはありがとうって伝えてください!」
と、曲の持つメッセージを自身の言葉でも口にする。その姿を見ていて北村匠海は本当に良い子なんだなと思うと同時に、伝えないでいたことによって伝えられなかった経験もあるんじゃないだろうかとも思っていた。だからこそ伝えられる時に伝えないといけないということをこんなにも強く我々に訴えていると。
そんなフェスデビューを飾ったDISH//はメンバーの今の状況を考えたらわざわざフェスに出る必要性はない存在とも言える。TVの音楽番組に出て、自分たちのワンマンをやって…というだけでも全然活動していけるだろう。
それでもこうしてフェスという場所に挑んでいこうというのは、北村匠海もMCで口にしていたとおりに、音楽が鳴らされる場所がどれだけ大事なものかということをこのバンドがわかっているからだ。その大事な場所で他のアーティストと並んで生きていこうとしている。成り立ちやオーラはライブハウス叩き上げというものではないけれど、だからこそ全く違う角度から今後注目していくべきバンドが出て来たのだ。
1.No.1
2.Get Power
3.猫
4.SAUNA SONG
5.DAWN
6.勝手にMY SOUL
7.Seagull
8.沈丁花
15:00〜 SHE'S [SUNSET STAGE]
今年初頭に幕張メッセイベントホールで開催されたスペシャ主催のイベントでようやくライブを見ることができたのだが、その時には服部栞汰(ギター)が参加することができずに急遽他の3人でのアコースティック編成になったため、こうして4人揃ったライブをようやく見ることができるようになったピアノロックバンド、SHE'S。昨年に続いての出演である。
4人がステージに登場すると、EDM的な要素も取り入れた、情熱的なダンスミュージックの「Masquarade」からスタートし、井上龍馬(ボーカル&ピアノ)の歌声にメンバーのコーラスが重なっていく。その堂々たる歌唱や立ち振る舞いはさすが日本武道館でワンマンを行ったバンドである。
あどけない金髪の木村雅人(ドラム)のビートが一気にロックバンドらしい強さを発揮し、ワイルドな髭を蓄えた広瀬臣吾(ベース)がそれに合わせながらも、やはり観客の合いの手的なコーラスも聴きたいなと思ってしまう「Over You」はバンドのポップさ、キャッチーさを感じさせてくれる曲であるが、やはりメンバーのコーラスが曲において重要な役割を果たす「Un-science」と、どちらかというと初期と言える曲が続いたのは少し意外だったが、SHE'Sの音楽は観客も参加する、声や思いの交換の場でもあったんだな、ということが今はメンバーしかコーラスができないのを聴くと実感する。
そんな中で井上の奏でるピアノの音色が実に美しい「Letter」は抑制されたバンドのサウンドの中で歌われる
「僕らは大切な人から順番に
傷つけてしまっては
後悔を重ねていく
それでも愛したり
愛されたいと願っている」
というフレーズが何度聴いても人生の真理を言い当てているかのようで、聴いていて胸がギュッとなる。それは思い当たるような節が自分にも確かにあるからだ。
すると井上がピアノセットから立ち上がり、茶色のセットアップ姿でハンドマイクを持ってステージを歩き回りながら歌うのはR&B的な要素も取り入れた「Blowing in the wind」であり、井上はまるでアメリカのシンガーのような動きでステージを練り歩きながら歌うのであるが、時にはカメラに目線を向けながら歌う様がスクリーンに映し出されるのには井上の持つ華の部分を強く感じられるし、それはアイドルや芸能人にも決して負けていないと思う。
服部が
「去年はLOTUS STAGEっていう、今年はないステージのトリをやらせてもらったり、前に先輩のTOTALFATとコラボして龍馬がタンクトップを着てライブをしたり。JAPAN JAMには本当に思い出深いライブが多いです」
とこのフェスでの思い出を口にすると、その「Blowing in the Wind」と同じように風をテーマにしたこのバンドの代表曲である「追い風」へ。箱根駅伝のタイアップとしてこのバンドの名前を多くの人に知らしめた曲であるが、この会場には常に風が吹いている。そのためにこの曲はこの会場のテーマソングにも聞こえてくるし、そうしてこの会場に風が吹いているのは、この状況の中でも諦めることなく、生きていくものだけに吹く追い風だからなのかもしれない。
木村の緊張してるのか天然なのか(多分後者)という同じことを繰り返すような感謝のMCから演奏された「Blue Thermal」はその「追い風」を更新するべき新たなバンドの代表曲である。映画の主題歌としてのスケール感を確かに持ちながら、この青空の下で演奏されるのが本当によく似合う曲だ。SHE'Sがこんなにも野外に似合うバンドであるということは、こうして実際にそこでのライブを見ないとわからないことだった。
そんなライブの最後に演奏されたのは「Dance With Me」であり、この状況になるはるか前に書かれた曲がこの状況に生きる我々の背中を強く押しながら、やはり「wow」というコーラスフレーズは早くみんなで歌えるようになりたいな、とコーラスをするメンバーの姿を見て思っていた。
結構インタビューなどでは「もっとバンド感が出ないと…」みたいに言われていたり、自分たちで言っていたりもしているが、こうして今のライブを見ているとしっかりライブ感を感じることができる。それは自分がかつてのライブを見ていないからかもしれないが、そこからはなぜこのバンドが武道館でワンマンをできるような存在になったのかということを感じさせてくれるのだ。
リハ.Chained
1.Masquarade
2.Over You
3.Un-science
4.Letter
5.Blowing in the Wind
6.追い風
7.Blue Thermal
8.Dance With Me
15:45〜 Saucy Dog [SKY STAGE]
様々なフェスやイベントにひたすら出演しまくっているだけに、毎月のようにライブを見ているSaucy Dog。昨年も出演しているが、まだ大抜擢のこのフェス出演という感じもあった昨年からわずか1年で、このステージの客席は超満員になっているくらいに取り巻く状況は変わった。
いつものように3人が順番にステージに登場すると、この日は今年リリースされたばかりの「ノンフィクション」から始まるという、おなじみのライブの流れというよりは今の、最新のバンドの姿を見せるようなもので、それはここで早くも一大キラーチューンとなった「シンデレラボーイ」が演奏されることからもわかる。
その「シンデレラボーイ」ではスクリーンに手書きの文字による歌詞が映し出されることによって、石原慎也(ボーカル&ギター)の描く歌詞の言い回しのうまさを感じることができる。特に最後のサビ前に
「死んで」
と歌ってから
「シンデレラボーイ」
と続くのは歌詞を見ながらじゃないとわからない、同じ言葉なのに全く意味合いのことなるものを歌う歌詞になっているのが本当に発想としても文章としても見事だ。
さらには最新曲「魔法にかけられて」と、この日の前半はアッパーなバンドサウンドというよりはその石原の綴るメロディと歌詞の美しさを感じさせるような曲が続く。そうした構成になることでわかるのは、今のSaucy Dogが作る曲がこの巨大な規模のステージに見合うようなものになっており、石原のボーカルが音源以上の声量と伸びやかさによって響いているからだ。
よく「口から音源」という言葉を目にするようになったけれど、自分はそれではわざわざライブを観に来る意味はないと思っている。音源以上のものを観たいし聴きたいからこうしてライブに来ているし、石原のボーカルは間違いなくそうして音源を超えているものである。
せとの挨拶的なMCでは
「今年初の野外フェスで…」
と言ってしまうのだが、すぐさま石原に「YON FES!」と突っ込まれ、先輩たちの主催する野外フェスに出演したことを完全に忘れてしまっているという大失態を犯す。そのおかげか、毎回どこかしら歌詞が飛ぶ石原はこの日は歌詞を飛ばすことなく歌えていた。
この野外の青空の下だからこそ、歌詞の情景が頭に浮かぶし、より一層バンドも我々も「走って」いるような感覚になる「煙」からは秋澤和貴のベースもより重さとうねりを増していき、それは「ゴーストバスター」での石原の掻き鳴らすギターもそうで、前半とはまた違うシャープなスリーピースギターロックバンドとしてのSaucy Dogを見せてくれる。
なのだが、このJAPAN JAMでの思い出を話そうとしたら石原が遅刻してきて本番直前にケンカしていたというものであるのもなんともサウシーらしいというか、感動的なものにならずに自然体に笑えるものであるというのは、これを言おう、みたいに考えたりしていないのだろう。
それはあくまで感動させるのは音楽であり、曲であるという思いを持っているんじゃないかと思うのは次に演奏されたのが「東京」だったからであり、スクリーンには東京のものであろう美しい夜景の映像も映し出される。自然なようでいて、都会からすぐ来れる会場だからこそその夜景がよりリアルなものとしても感じられる。
そして最後に演奏された「グッバイ」に宿る石原の歌唱の激情と言ってもいいようなエモーションは、最後に秋澤とせとのコーラスが乗ることによってより別れとともに、また夏にこの場所で会えることを約束しているような、どこかそんな切なさだけではない希望のようなものが宿っているようにも感じられた。
去年このフェスで見た時、1年後にここまでの存在になっているなんて全く想像していなかった。ロッキンならLAKEかPARK、CDJならGALAXYという2番目のステージくらいかな、と思っていたのが、雑誌の表紙も飾ったことによって、今年は文句なしにメインステージでしかないレベルになっている。それを少しひたちなかのGRASS STAGEで見たかったな、とも思ってしまう。
1.ノンフィクション
2.シンデレラボーイ
3.魔法にかけられて
4.煙
5.ゴーストバスター
6.東京
7.グッバイ
16:30〜 My Hair is Bad [SUNSET STAGE]
こちらはもともとこのステージに出るべき規模のバンドだったが、今年の春のテレビ出演などによってさらに上のステージにまで足を踏み入れた感のある、My Hair is Bad。毎回フェス稼働するようなバンドではないけれど、この会場でのこのフェスには何度も出演している。
サウンドチェックで曲を演奏してそのまま捌けることなく本番の演奏を始めるというのはこのバンドならではのフェスの短い持ち時間を最大限に活用するというスタイルであるが、椎木知仁(ボーカル&ギター)が、
「JAPAN JAM!最高の1日になりますように!新潟県上越市から来ました、My Hair is Badです!ドキドキしようぜ!」
と言って「アフターアワー」からスタートすると、今やこんなにたくさんこのバンドの曲を知っている人がいるのかと思うくらいにSUNSET STAGEの人工芝を埋め尽くすくらいの大観衆がみんな腕を振り上げている。もしかしたらテレビで見てマイヘアのことを知って、初めてライブを観に来たという人もいたかもしれないが、そうした人たちも含めてここにいるみんながマイヘアのロックサウンドにドキドキしているのである。
山田淳の高いシンバルのセットを含めたドラムの連打が曲とバンドの演奏と我々のノリに勢いを与えてくれる「グッバイ・マイマリー」から、椎木も山本大樹(ベース)も間奏で演奏しながらステージ前まで出てきて観客の近くまで来てくれる「ドラマみたいだ」と、3月に開催したアリーナツアーの前半をギュッと凝縮したセトリであるが、この曲たちこそがフェスという場で最もマイヘアらしさを感じさせてくれる曲たちだということでもあるだろう。
そんな中で椎木はこの巨大な野外会場での涼しさも感じるようになってきた時間の青空の下で演奏する気持ち良さを口にしながら、マイヘアの疾走するエモーショナルなギターロックバンドサウンドの極みとでも言うような「告白」では曲後半で椎木が
「心の中で歌ってくれ!」
と観客に呼びかけ、自身はマイクスタンドから離れてステージ前まで出てきて心の中で歌う観客の姿を眺める。飛び跳ねるようにしていたのは、遠くの方から見てくれている人の方をしっかり見ようとしていたのだろう。
「40秒で終わるラブソング!」
とおなじみのショートチューン「クリサンセマム」から「ディアウェンディ」へと至る流れはマイヘアのハードかつラウドな部分を感じさせる曲であり、それがそのままスリーピースギターロックバンドならではのダイナミズムに繋がっているのだが、椎木は曲中で目元でピースサインを作ったりしながら、
「これはテレビでもYouTubeでもロッキンオンジャパンの雑誌の中でもない!」
と口にするのは椎木が元々熱心な読者であったロッキンオンのフェスだからこそであるが、
「目の前にいる俺たちが本物のロックバンドだ!」
と堂々と宣言できるあたりはかつての憧れの中の最前線に自分たちがいるということの自身を感じさせる。その言葉を口にした際の山本のポーズを決めるようなアクションもこの曲の見どころの一つである。
そして椎木が弾き語りのように言葉を紡いでから歌い始めたのは、テレビ出演の際に演奏したことによって「マイヘアの代表曲」からさらに広い、たくさんの人にとっての夏のテーマソングというものになっていくであろうことを予感させるくらいに、
「ブラジャーのホックを外す時だけ 心の中までわかった気がした」
というトレンド入りしたフレーズを歌い始めた際に一斉に観客の腕が上がり、空気が変わるのが確かにわかった。誰もがこの曲を求めていた、待っていたのだ。この夏のようにTシャツ一枚で過ごせる気候の青空の下で聴くこの曲は、今年この日までで最も、夏の匂いがした。
椎木の
「人生において大切なものはなんだかわかりますか?それは睡眠です」
というMCは何故今にそんな話を?と思ってしまうくらいに唐突であり、確かにそれはそうだろうけど、と思いながらも特別曲に繋がったりするわけでもないというのは、それくらいにこの日、このステージでのライブが伸び伸びとやれていたということを示していたのかもしれない。
そんな唐突なMCから演奏されたのは最新アルバム「angels」収録の「歓声をさがして」。すでに昨年のツアーから演奏されてきた曲であるのだが、「真赤」の後だったり、これだけマイヘアの代表曲が連打された後に演奏されても全く霞むことがないというか、
「音楽でもいい 映画でもいい
YouTubeでも お笑いでもいい
アニメやゲーム 読書でもいい
なんでもいい 好きならいい
大好きばかり 見つけに行きたい
今ドキドキできるものを手に取りたい
DJ放送室 僕の曲をかけて
みんなが帰っちゃう前に」
という歌詞も、その歌詞が乗るメロディの美しさも、マイヘアがマイヘアらしさを貫いたままで新しい大名曲が生まれたと思うくらいに、聴いた後に頭から離れなくなる曲だし、
「DJ もういいや 僕の曲は僕が
歌うことにするから」
と歌うべき曲になったということであり、
「大好きばっかり見つけに行きたい」
というフレーズをここにいる全ての人たちは実践している。
そしてそんなライブの最後に演奏されたのは、かつてこのフェスに出演した時にも最後に演奏されていた「いつか結婚しても」。週刊誌に椎木のことが載ったことで、この曲の聞こえ方が変わった人もいるかもしれないが、手を叩いて体を揺らしながらこの曲に浸り、椎木が再び
「心の中で歌ってくれ!」
と言って、その通りに腕を上げながら心で歌っていたであろう観客たちは、自分たちがマイヘアの音楽で幸せになろうとしているとともに、椎木とメンバーの幸せを祈っているかのようだった。
この日、ライブでおなじみの「フロムナウオン」をバンドはやらなかった。前にこのフェスに出演した時にもやっていない。それはこの日の椎木の表情が実に晴れやかだったように、この場所でのライブはどうしたってシリアスにならざるを得ない「フロムナウオン」よりも、「いつか結婚しても」のような曲を鳴らしたくなる場所なのかもしれない。かつて出演した時も、確かに椎木が見せた表情は実に晴れやかだったことを思い出していた。
リハ.優しさの行方
リハ.熱狂を終え
1.アフターアワー
2.グッバイ・マイマリー
3.ドラマみたいだ
4.告白
5.クリサンセマム
6.ディアウェンディ
7.真赤
8.歓声をさがして
9.いつか結婚しても
17:15〜 indigo la End [SKY STAGE]
元々はこの日はゲスの極み乙女。でも出演するはずだったが、そちらは出演キャンセルになったことによって、川谷絵音(ボーカル&ギター)はこのバンド一本の出演になった。本来なら夜の方が似合うバンドであるのは間違いないが、トリ前という実に良い時間での出演である。
どこか太陽の光がオレンジ混じりになる中でサポートコーラス&キーボードのえつこと佐々木みおを含めた6人がステージに登場。下手に佐藤栄太郎(ドラム)、上手に長田カーティス(ギター)、その間に川谷と後鳥亮介(ベース)、川谷と後鳥の後ろにサポート2人という並び方もこのバンドならではのものである。
川谷の憂いを含んだ声質と西陽の光が切なさを倍増させる「悲しくなる前に」からスタートすると、うねりまくるような後鳥のベースと、サングラスをかけて正確無比なリズムを刻む栄太郎のドラムによるリズム隊の上手さに改めて驚かされる。川谷の異能っぷりがとかくフィーチャーされがちであるが、このバンドはメンバー全員がスーパープレイヤーの集まりであることがすぐにわかる。
そこに乗るサポートメンバー2人のコーラスとキーボードのサウンドもこのバンドには欠かせない要素であるということが「想いきり」、「夜明けの街でサヨナラを」という切なさの極みのようなメロディと歌詞による曲が続くことによってわかるのだが、そうしてこのバンドの最も空気や雰囲気に会場が包まれていくことによって、「チューリップ」のような冬の情景を想起させるような曲も全く違和感を感じないものになっている。
バンドサウンドだけに止まらないような幅広さを感じさせてくれる「邦画」のようなサウンドもまたこのバンドらしさを感じさせるくらいにこのバンドの引き出しの広さ、それがメンバーの器用さ、高いプレイヤビリティによってもたらされていることがよくわかる。特にそれは強力なアタック感も、リズムマシーンのように均等なリズムも叩くことができる栄太郎のドラムによるものが本当に大きいなと思う。
そのメンバーの演奏力と表現力がこの春の夕方というシチュエーションをタイトル通りに夏の夜へと変えてくれる「夏夜のマジック」でたくさんの観客が腕を挙げながら体を揺らす。その心地良さはこのバンドのライブでしか体験できないものであるし、また夏の夜にこうした野外の会場でこの曲を聴いていたいと思うくらいに改めて名曲だなと思える。
演奏面だけではなくて、メンバーのキャラクターの強さを引き出すためにMCやソロ回しも随所に挟まれるゲスのライブとは対照的にひたすらに曲だけを次々に演奏されていく中、川谷はここで
「僕、今33歳なんですけど、この人(後鳥)が40歳なんで僕ら平均年齢が上がってて、今日僕らが最年長っぽいんですよ(笑)」
と、ハンブレッダーズやSaucy Dog、マカロニえんぴつ、マイヘアなどの名前を挙げ、
「話したことないけど確実に年下でしょ(笑)」
と口にするのだが、確かにそう考えるとこの日の出演者たちは若手ばかりだが、このバンドの演奏力と表現力の高さは確かにベテランであるというのも納得である。
そんなバンドが最後に演奏したのは、この春の時期だからこその「春は溶けて」。
「春は溶けて
まばらに色付いて
世界抉ったんだ
幸せだと思える一瞬は
いつでもどこかに」
というフレーズは、絵音が
「ちょっとずつ戻ってきている」
と言った言葉をそのまま音楽として鳴らしてくれているかのように、この瞬間は幸せな一瞬だったし、このフェスの景色は昨年よりもはるかに色づいていた。
こうして高い演奏技術を持って楽曲を鳴らすライブを観ていると、改めてこのバンドの曲の良さを実感する。なかなかそれは絵音の様々な出来事によって伝わりづらくなってしまったところもあるのだが、ゲスやジェニーハイのメンバーや楽曲のインパクトの強さではなく、このバンドの派手ではなくても純粋な楽曲の良さは長く深く愛されていくことになるだろうし、こうした野外の夕方というシチュエーションはそれを感じさせてくれる絶好のものだった。
1.悲しくなる前に
2.想いきり
3.夜明けの街でサヨナラを
4.チューリップ
5.邦画
6.夏夜のマジック
7.春は溶けて
18:00〜 マカロニえんぴつ [SUNSET STAGE]
この日のSUNSET STAGEのトリはマカロニえんぴつ。始まる前からこんなにSUNSET STAGEに人が入っているのは初めてなんじゃないのかと思うくらいの超満員。それが今のこのバンドの状況を示している。
おなじみのビートルズのSEでメンバーが順番に登場すると、はっとり(ボーカル&ギター)にひときわ大きな拍手が巻き起こり、SEが止まって一瞬の間を置いていきなり「愛のレンタル」からスタート。ブラックミュージック的なリズムを刻む高野賢也(ベース)と高浦"suzy"充孝(サポートドラム)のリズムの心地良さに観客が体を揺らすと、はっとりのボーカルは薄暗くなってきた空にスッと伸びていく。
「マカロニえんぴつです!よろしくお願いします!」
とはっとりが挨拶すると、長谷川大喜(キーボード)が美しいメロディを奏で、スクリーンには曲に合わせた映像が流れる「レモンパイ」、メンバーがドゥーワップ的なコーラスを重ねる「はしりがき」とキラーチューンが連発され、はっとりが「なんでもないよ、」を歌い始めると、その瞬間にそれまでは手拍子などをして楽しんでいた観客が息を飲むように集中力を高めていくのがよくわかる。この曲を少しでも聞き逃すまいとしているのがよくわかるし、それによってはっとりの伸びわやなボーカルがしっかりと聞こえる。こんなに削ぎ落としたタイプの曲がこんなにもフェスという祝祭空間でたくさんの人に求められているというのは改めてこの曲の凄さを証明するものである。
「去年より明るい空気を感じる」
というはっとりの言葉は昨年ははっとり自身はかなり精神を削られていたであろうことがわかるような言葉を口にしていただけに、その表情からも自身の精神が明るくなっていることがよくわかるのだが、このバンドのポップなサウンドの中でもフライングVを使うことを変えないハードロッキンなギタリストの田辺由明がシャープなギターを刻む「好きだった (はずだった)」と、今年リリースのアルバム「ハッピーエンドへの期待は」収録の曲が早くもライブでもおなじみの曲になっている。
しかしバンドは早くもすでにその先へと向かっており、話題のアニメのタイアップに起用されている新曲「星が泳ぐ」ではタイトルに合わせてスクリーンに星が流れる美しい映像が流れる。その映像に負けないくらいに美しいメロディはこのバンドが尽きることのない名曲製造バンドであることを示している。どうやったらこんなに素晴らしいメロディの曲を次々に生み出せるんだろうかとすら思う。
長谷川のキーボードのイントロに田辺の泣きのギターが重なっていく「ブルーベリー・ナイツ」が、完全に暗くなった空に見合う夜の曲として鳴らされるのはこの時間での出演の後半に演奏することによってそうなるということを理解していた上でのセトリだったんじゃないかと思う。
そうした時間帯での登場も、このバンドの持つ名曲の数々がたくさん聴くことができる持ち時間の長さもこのフェスのマカロニえんぴつへの信頼を感じさせてくれるのだが、その信頼と観客の期待に応えてくれるかのようにメンバーがカウントしてから演奏された「恋人ごっこ」の圧倒的とも言えるような美しいメロディが夜空の下に広がっていく。それは間違いなく記念すべき瞬間というものであったのだが、きっとこれからも何度でもこうやって野外フェスのトリの時間にこの曲が鳴らされるんだろうなと思えるものだった。
そんな代表曲や新曲の中に演奏された「keep me keep me」は初期と言える頃のこのバンドの曲がすでにこのシチュエーションで演奏されるべきスケールを持っていることを証明するものになっていたのだが、今やワンマンでもやる機会がほとんどないような曲をこうしてこの日聴くことができたのは実に嬉しいことである。
高浦の連打する軽快なリズムに乗って、長谷川がエアベースをしながら高野を追いかけ回すというおなじみのパフォーマンスがステージ袖に消えそうになるくらいに長い距離を走るくらいにノリまくっている「ハートロッカー」で夜になって少し肌寒くもなってきた我々の体を温めてくれると、はっとりは
「こんな日をまた用意して待っていてください。僕らも用意して待ってます。忘れられない1日になりました」
と口にした。そこからは確かにこの日、今年が昨年とは違う、「楽しかった」「幸せだった」と思い返せるものになっていたことを示してくれるものであったのだが、だからこそ最後に演奏されたのはおなじみの「ヤングアダルト」ではなくて「hope」だった。
「手を繋いでいたい
手を繋いでいたいのだ
弱さだけを握りしめて居たいのだ
僕らはまだまだ それぞれだけれどね」
というフレーズは、確かに僕らはまだまだだけれども、でも確かに進むことができている。そこにはしっかりと希望が感じられる。
「それでも、それでも
君が好きだ 君が好きだ」
というフレーズはバンドから我々への、我々からバンドへの思いそのもののようでもあった。
去年、いろんなところから叩かれまくっていたこのフェスのステージで、はっとりは
「あなただって音楽に救われたことあるでしょうよ!歌を歌ったことあるでしょうよ!」
と、音楽やライブを不要不急として叩いていた人に向かって、音楽で人生を救われてきた人間としての言葉を発していた。それはそのまま、ああした状況でもライブに行くことを選んだ我々の思いを代弁してくれているかのようだったが、やはり楽しいというよりはどこか覚悟を問われているかのようだった。
そんなバンドだからこそ、少しでも今年は「楽しい」と思えるようになっていたことを本当に喜んでいるかのようだった。それもまた、今の我々の思いを代弁してくれているかのようだった。そんなバンドとこれから先も、手を繋いでいたいのだ。
リハ.ミスター・ブルースカイ
1.愛のレンタル
2.レモンパイ
3.はしりがき
4.なんでもないよ、
5.好きだった (はずだった)
6.星が泳ぐ
7.ブルーベリー・ナイツ
8.恋人ごっこ
9.keep me keep me
10.ハートロッカー
11.hope
19:00〜 THE ORAL CIGARETTES [SKY STAGE]
ついにロッキンオンのフェスのトリを任された、オーラル。昨年末のCDJには出演していなかっただけに、ロッキンオンのフェスに出演するのは色々あった昨年のこのフェス以来である。
メンバーがステージに登場すると、山中拓也(ボーカル&ギター)とあきらかにあきら(ベース)はサングラスを着用しているのだが、山中は通常のサングラスであるのだが、あきらは服装も含めてどこかサイバー感を感じさせるようなサングラスである。
山中がギターを持つと、おなじみの
「一本打って!」
からの口上から始まるデビュー作の1曲目「mist…」がオーラルがMASHのオーディションで優勝してシーンに登場した時の衝撃を思い出させてくれる。それこそ自分にとってはラブシャのオープニングアクトで初めてライブで見た時のことなどを。もちろん山中のボーカルとあきらのコーラスによる
「ムラムラするぜ」
の色気は当時の比ではないレベルである。それはもちろん一時の不調からの療養を乗り越えて、今や心配をすることが全くなくなった山中の喉から発せられる艶やかな歌声も。
さらには鈴木重伸によるギターのフレーズが否が応でもテンションが上がらざるを得ない「Mr.ファントム」と初期曲の連発で、ラスサビの前のキメでは中西雅哉(ドラム)が思いっきり振りかぶった瞬間に鈴木とあきらが驚異的な跳躍力によるジャンプを見せる。やはりオーラルは本当にカッコいいバンドのままであるということをこれでもかというくらいに実感させてくれる冒頭2曲の連打である。
こうして最後まで残ってくれている人が本当にたくさんいることに山中が驚いていたのは、この日が割と歌モノ、ポップ寄りの出演者が多い中でのトリが自分たちだったからであるが、そんなここまでの出演者には絶対にないようなタイプの曲が、ラッパーのKamuiとのコラボ曲である新曲「ENEMY」。サウンドは超獰猛なハードコアと言えるようなミクスチャーであり、山中もマシンガンのようなラップ歌唱を見せると、Kamuiはさすがに登場しなかっただけにその部分は同期としていたのであるが、スクリーンに映し出されたMVの映像の中でラップするKamuiの表情が今まさに目の前で歌っているかのような臨場感を感じさせてくれる。
さらには山中の抱えるダークな部分や世の中や自分を取り巻く環境に対する皮肉を曲に落とし込み、それがロックサウンドとはまた違ったオーラルの多様性や引き出しの広さ、メンバーの器用さを感じさせてくれる「Naked」から、その「Naked」と同じアルバム「SUCK MY WORLD」に収録されながらも、ゴスペルまでをも取り入れた神聖なサウンドが真逆の祈りのように響く「Hallelujah」と、バンドの最新の形からいろんな音楽を消化してきた姿まであらゆる面を短い時間(とはいえフェスでは破格に長い)の中に詰め込むと、そうしたバンドの成長や進化を見せながらも、
「トリは嬉しいけれど、悔しいっていう感情とか反発心が俺たちの1番のエネルギーだったりしてきた。だからここからまた1からスタートしていくつもりでやります!」
と、さすが「BKW」(番狂わせ)をテーマにしてきたバンドならではの言葉を口にすると、そんな1から始めていくような衝動をロックサウンドとメンバーのコーラスに込めた「BLACK MEMORY」へ。それは人からしたら黒歴史と呼ばれてしまうようなことすらも、自分たちにとっては最大のエネルギーであることを示すかのようであった。
そんな中、バンドは今様々なアーティストと自分たちの代表曲でコラボして、それによってアップデートした形のバージョンを発表しており、先んじて出演したVIVA LA ROCKでもその参加アーティストとのコラボが行われたのだが、この日コラボ相手として登場したのは、今年はこのフェスに出演していないSKY-HIで、つまり彼はこのためだけにこの会場に来たのだが、コラボ曲「カンタンナコト」を彼の高速ラップによって新しい形にアップデートするだけではなくて、
「お前らが歌えない分まで俺が歌ってやるよ!」
と叫び、サビでは山中とともに歌唱する。最後には
「やっぱりフェスって最高だな!」
と言い残して颯爽とステージから去っていくのだが、その最高なフェスをより一層最高なものにしてくれる、SKY-HIのバイタリティがなによりも最高にカッコ良かったのだった。
そうしてかつては山中もゲストとして出演したことがあるこのフェスのJAMにふさわしい部分を見せながら、それでもクライマックスはまだこれからだ、とばかりに「狂乱Hey Kids!!」の凄まじい音圧が我々を圧倒しながらもさらに熱狂させ、タイトル通りに真っ赤な照明がメンバーを照らす「Red Criminal」では山中がイントロで思いっきりギターをぶん回す。生まれた時期は全く違う曲たちであるけれど、その全てがオーラルをひたすらに今カッコいいバンドとしてこの目に映っている。
そして山中は最後に
「俺たちは、ロックバンドは弱い存在やから、みんなの力が必要なんです。どうかこれからもロックシーンに力を貸してください!」
と言って、手拍子が鳴り響く中で「LOVE」を演奏し、山中の最大限に艶やかなボーカルで歌い上げた。
山中が、オーラルが実はとても弱い存在であるということをライブを見てきた人ならきっとわかっている。でも弱いからこそ、それをこちらが支えるのでもなく、バンドに引っ張ってもらうのでもなく、一緒になることで互いにカッコいい存在になれるような感覚が確かにある。そのために必要なのが、ロックバンドへの、音楽シーンへの「LOVE」である。それは今のロックシーンを自分たちで背負っていくことを決めたオーラルだからこそ感じることができたものだったと同時に、そんなバンドがトリを務めることができて本当に良かったと思えた。
去年、やはり先に出演したVIVA LA ROCKで、メンバーたちは何も悪いことを一切していないのに「オーラルが出てるからだ」と、一部の参加者のマナーが叩かれまくった。その日はまだこのフェスは開催されておらず、コロナ禍でのフェスというものが完全に手探り状態だっただけに、バンド側が責められるようなことは1ミリもないのだが、そうした声が届いてしまったことによって、直後に出演したこのフェスでのオーラルのメンバーたちはかなり参っているような感じであり、それでもそんな自分たちを観に来てくれている観客たちに心を込めて頭を下げた。
その決して参加者たちのせいにはせずに自分たちが全てを背負おうとする姿が本当に弱い人間としての誠実さを感じるものだったからこそ、1年後にこのフェスのトリとしてひたすらにカッコいいライブをオーラルが見せてくれたことに感動してしまっていた。それと同時に、これからもっと深い付き合いをしていきたいバンドだなと改めて思わされた。山中が告知していた通りに、今年はバンドとしての一大イベントである主催フェスとワンマンが控えている。そこでどんな姿を、ライブを見せてくれるのか、観てみたくなったのだ。
1.mist…
2.Mr.ファントム
3.ENEMY
4.Naked
5.Hallelujah
6.BLACK MEMORY
7.カンタンナコト w/ SKY-HI
8.狂乱Hey Kids!!
9.Red Criminal
10.LOVE
10:30〜 Creepy Nuts [SUNSET STAGE]
その最初に出演する人気アーティストとはこのCreepy Nutsのことであり、前日までと朝イチのSUNSET STAGEの人の集まり方が全く違う、完全に朝から超満員。それくらいにこの2人のライブを観たい人がたくさんいるということである。
SEが鳴る中で少し照れたような表情を浮かべながらR-指定(MC)とDJ松永の2人が登場すると、自分の近くにいた女性2人組からは松永に対して「可愛い〜」という声が上がっており、え?そんな感じなの?と思っていると、R-指定がその観客たちの空気を確かめるように「板の上の魔物」をラップし始め、満員の観客が一斉に腕を上げて応え、「合法的トビ方ノススメ」でリズムに合わせて飛び跳ねまくる。朝イチからのその光景を見たR-指定は
「凄いな〜。みんな朝型ですか?まだ朝10時台ですよ?(笑)」
と驚きを口にしていた。気付けば休憩エリアであるフクダ電子アリーナの通路からライブを見ている人もたくさんいる。それくらいにこの広大なキャパでも収まりきっていないくらいの人がライブを見たがっているということだ。
そんな中で披露された新曲「2way nice guy」は歪んだギターサウンドが印象的な曲であり、この曲ですら盛り上がり方が尋常ではないくらいの受け入れられ方である。もはや恐ろしさすら感じるのだが、昨年は大雨が降るこのステージで新曲として披露された「Bad Orangez」も今ではこのグループのメロディの美しさと、超絶スキルを見せつけるというわけではないが、滑らかなRのフロウが曲に滲む切なさを感じさせてくれる。この曲を聴いていると2人が今でもどこか青春の真っ只中にいるようにも感じられる。
そんな中でRが解けてしまった靴紐を結び直すと、松永はその様子を見ながら、
「マネージャーが履いてるスケートシューズは靴紐が玉状になってて、すごく解けやすいんですよ。改善の余地があると思います(笑)」
と、何故か靴紐にまつわる豆知識を披露してくれるのだが、Rからは
「普通こういう時って相方が違う話題を提供して場を繋げてくれるもんじゃないの?(笑)」
と突っ込まれる。そのやり取りはラジオの中の楽しい2人のトークそのものである。
そして「かつて天才だった俺たちへ」では客席からガンフィンガーも上がると、Rはサビで腕を広げながら本当に気持ち良さそうに歌い、「サントラ」ではRの怒涛のラップの連打に加えて松永のスクラッチも炸裂しまくるという2人の面白いだけではないスキルの高さをこれでもかというくらいに見せつけながらも、それが自己満足的なものではなくて我々を楽しませてくれるエンターテイメントとなっている。
そしてRは昨年同様に、今こうして制限がある中でも楽しんでいるのが、マスクを外して声が出せるようになったら今までをさらに超えるような楽しさになる、それがそのまま我々やこのフェスがまだまだ成長できる余地であるという、実に見事な口上から「のびしろ」へと繋いでみせて、まさにこのフェスや音楽、ライブシーンにまだまだ「のびしろしかないわ」ということを感じさせてくれるし、それはCreepy Nutsというグループもまたそうである。これ以上成長したらどこまで行ってしまうんだと恐ろしさすら感じてしまうけれど。
ロッキンオン社長の渋谷陽一はライブ前の前説で、
「ヒップホップファンだけに届くヒップホップをやっているんじゃなくて、もっとたくさんの人に届くヒップホップをやっている」
とこのグループを評していた。それは時にはコアなヒップホップファンからディスられることにも繋がるのだが、それでも自分はそうしたアンダーグラウンドなヒップホップよりもはるかにCreepy Nutsの方が好きだったりする。それはかつて自分がRIP SLYMEやKICK THE CAN CREWを聴いてヒップホップのカッコよさと面白さを感じたように、今Creepy Nutsを聴いてそう感じているであろう人がたくさんいることがわかるから。気付けば、ロッキンオンのフェスにおいてヒップホップの看板を背負っているのはこの2人になっていた。
1.板の上の魔物
2.合法的トビ方ノススメ
3.2way nice guy (新曲)
4.Bad Orangez
5.かつて天才だった俺たちへ
6.サントラ
7.のびしろ
11:15〜 おいしくるメロンパン [SKY STAGE]
こちらも昨年に続いての出演となる、おいしくるメロンパン。SUNSET STAGEのトップバッターだった昨年に続いて今年はSKY STAGEのトップバッターという早い時間帯での出演である。
昨年は出演前にド緊張していたらしいが、今年はステージに登場した3人の表情がどこか去年よりも堂々としているというわけではないけれど、落ち着いて見える。そんな中で特に無表情のナカシマ(ボーカル&ギター)がギターを掻き鳴らしながら「look at the sea」を歌い始めると、想像していたより(昨年はそもそも参加者の人数も制限されていたから観客が少ないのは致し方ない部分もあった)多くの人が曲に合わせて腕を上げている。
基本的にサウンドがシンプルな、華やかな同期の音などは一切使わない、シャープなスリーピースのギターロックというのは普遍であるが、その中でも「色水」は歌い始めた瞬間に客席の空気が変わるというか、この曲を待っていたような、聴けて嬉しいというような、そんな空気が確かに充満していた。最も初期の頃の曲であるが、このステージの客席にいた人たちがちゃんとこのバンドのものとしてこの曲を確かに知っているという嬉しくなる驚きが確かにあった。
なのでメンバーのテンションも実に高いというか、峯岸翔雪(ベース)のMCもどこか楽しげであり、それはそのMC中に「フゥー!最高ー!」と声を上げる、金髪の原駿太郎(ドラム)もそうである。それは演奏にも確かに現れていて、峯岸はこの広いステージを端から端までフル活用するかのように袖の近くまで行ってステップを踏むようにしてベースを演奏しているのだが、そうしたライブの見せ方の進化とともにバンドの演奏そのものが実に骨太なものになっている。シンプルなサウンドであるがゆえにそれが本当によくわかる。
そんな骨太になった中で最もイメージ的にも繊細な感じがあるナカシマのボーカルも曲が続くごとに感情が強くこもるようになっていて、後半にいくにつれて声を張り上げるような歌唱が多くなってきている。
特にこの出演日当日に発売された新作ミニアルバム「cubism」収録の「Utopia」に最も強くそれを感じたのは、最新の曲であるがゆえに最も自身が今抱えているものが反映された曲だということだろうか。
そして最後に演奏された「5月の呪い」はまさに5月の象徴であるゴールデンウィークのライブに合わせたかのような選曲であるが、昨年もそうだったけれど、ロッキンオンのフェスの大きなステージに立つたびにとかく「まだ早い」と言われ続けてきたバンドである。
確かに自分もデビュー時に小さいライブハウスでライブを見た時には「まだあんまりライブは良くないな」とも思っていたのだが、今はそんなイメージは全く抱いていない。なんならようやくこの規模のステージに見合うべきバンドになったということはこの日のライブを見ていた人ならばわかるはずだ。
去年のこのフェスのライブで峯岸は
「コロナ禍になっても歩みを止めなかったロックバンドが音を鳴らす姿をとくとご覧あれ」
的なことを言っていた。その止まらずに重ねてきたライブの経験が確かに現れているし、そのライブの中には映像を取り入れて過去にリリースしたアルバムを再現するというこれまでを振り返りながらも新しい試みもあった。そうした経験がこのコロナ禍の中であっても確かにバンドを強く、逞しく成長させたのだ。もう5月は呪いではない。それを来年からもこのフェスのステージで証明してくれるはずだ。
1.look at the sea
2.命日
3.色水
4.透明造花
5.epilogue
6.シュガーサーフ
7.Utopia
8.斜陽
9.5月の呪い
12:00〜 夜の本気ダンス [SUNSET STAGE]
本来ならこの時間のこのステージにはゲスの極み乙女。が出演するはずだったのだが、メンバーがコロナに感染してしまったことにより、急遽出演キャンセルに。そこでピンチヒッターとしてお声がかかったのは「Mr.Jフェス」と称されるくらいに近年のロッキンオンのフェスやイベントに出演しまくってきた、夜の本気ダンスである。
おなじみの「ロシアのビッグマフ」のSEでステージに登場するというのは変わらないが、米田貴紀(ボーカル&ギター)が、
「僕たち、京都のバンド、夜の本気ダンスです」
と挨拶してキメを打つと、西田一紀(ギター)とマイケル(ベース)もステージ前まで歩み出て楽器を掲げ、鈴鹿秋斗(ドラム)がリズムを刻んで「Crazy Dancer」からスタートすると、急遽の出演となっただけに前方エリアは全自由席となったのだが、完全にこのバンドを見たいと思っていた人がたくさん集結して踊りまくっている。その音楽とライブのノリの浸透度はさすがMr.Jフェスと呼ばれるバンドである。
さらに早くも米田がハンドマイクを持って自身を解放させるかのようにステージ上で誰よりも踊りながら歌う「fuckin' so tired」と続くと、鈴鹿のドラムの一打一打がめちゃくちゃ強烈であることに気付く。それによってただ単に踊らせるための四つ打ちではなくて魂の解放としてのダンスロックとして鳴らされているのだが、その音からは初めて見る人たちを掴んでやる、引き込んでやるという気概に満ち溢れている。
この日は直前のこのステージにCreepy Nutsが出演していたので、もしかしたらコラボが見れるかもしれないとも思っていたのだがそれはなく、「Movin'」のラップパートは普段のライブ同様に鈴鹿がドラムを叩きながら担当する。もはやこの曲はこの形でライブとして完成しており、鈴鹿の面白い人というだけではないカッコよさを示すことができる部分でもあるだけにこの形で良かったのかもしれない。
しかしそんな鈴鹿は
「夜の本気ダンスっていう名前なのに真昼間ですいません!っていうか君たち、なんでここにいるん?俺たちもなんでここにいるん?(笑)
今日は「ロードオブザリング」を家で見る予定だったんやけど、本来ここにいなかったもの同士で指輪を葬りに行こうや〜!」
とよくわからないMCで微妙な笑いを誘うと、華やかなホーンなどの同期の音も取り入れた「SMILE SMILE」へ。コロナ禍になってライブが全然なくなってしまった直後にリリースされ、当時良く聴いていた曲であるだけに、配信ライブばかりだった頃のことを思い出すとこうして野外フェスのステージでこの曲が鳴らされているのを見ることができているのが本当に感慨深い。
「悲しい心に BYE BYE BYE」
というフレーズに合わせて米田と観客が悲しみに別れを告げるように手を振るのもまた、この曲で文字通り笑顔になることができる要因の一つだ。
そして西田のイントロのギターがSUPERCAR「White Surf Style.5」から着想を得ているということを前回の中野サンプラザワンマンの際のライブレポに書いた時にバンドのスタッフさんからそのことにコメントをいただいたので、この曲のイントロのフレーズが鳴らされた時にはこれは自分のための選曲だな、と勝手に思えたからこそ、サビでいつも以上により高くジャンプしたくなったのだった。
すると米田はいったんダンスタイムにブレイクを入れるかのように、
「こうして代打での出演っていうことにネガティブなことを思う人もいるかもしれないですが、こうしてステージで演奏して、みんなが踊っている姿を見たらそういう気持ちが吹っ飛んでいきます。本当にありがとうございます」
と口にした。それはこうして代打で出演できるということは、元からスケジュールが空いていたにもかかわらず、最初はオファーがなかったということだろう。
制作期間とか、自分たちのツアーと被っているんなら出演しなくても仕方がないけれど、そういうわけでもない、「Mr.Jフェス」とまで称してくれていたのにオファーをくれなかったというのはメンバーからしたらさぞかしショックだっただろうし、今年もこのフェスに出演が発表されるのを楽しみに待っていたファンだってたくさんいたはずだ。そこに素直に100%代打で出て嬉しいとはなかなか思うことはできない。
でもロッキンオンのフェスの歴史を考えてみると、夜ダンの先輩であるPOLYSICSもかつては代打として出演した年があり、その出演があったことで2001年から2019年まで毎年出演したフェスの象徴的な存在になった。きっといつか夜ダンもこの年にそうして出演したからこそ、ずっと出演し続けることができたという未来につながると信じている。
そうした思いを全て音とダンスで放出するかのように「とっておきの曲」として演奏されたのは、気付けばスクリーンには後ろの方まで踊りまくっている人が映る、もはや代打出演バンドのものとは思えない景色が広がった「WHERE?」でマイケルも
「踊れJAPAN JAM!」
と叫んでから、最後は再び同期のサウンドを取り入れた、新しい夜ダンのダンスサウンドを手に入れた「GIVE & TAKE」が最後を担った。それはこれから先も夜ダンが高速四つ打ちだけではなくて、あらゆるスタイルやサウンドの曲で我々を踊らせてくれるということを予感させるものだった。
演奏が終わると西田がすぐにステージから去る中で、米田、マイケル、鈴鹿の3人が前に並ぶと、
米田「告知があります。5月11日にゲスの極み乙女。のベストアルバムが発売されます!」
マイケル「そっちかい!」
と、本来出演するはずだったゲスの極み乙女。の告知をするという素晴らしい心意気を見せるのだが、
鈴鹿「それを携えて全国ツアーもまわります!」
マイケル「なんで他人の褌で全国回ろうとするねん!」
と、まるでトリオ漫才のようにすらなる中、同じ日に発売される夜ダンの新曲「審美眼」の告知もしっかりしていった。その際の楽しそうな3人の表情を見ていて、本当に出演できて良かったなと思えた。もちろん、ここにいた我々もみんなが出演してくれて本当に良かったと思っていたはず。
見事な代打での決勝打は、もはやこのバンドはロックシーンの川端慎吾(ヤクルト)である。
1.Crazy Dancer
2.fuckin' so tired
3.Movin'
4.SMILE SMILE
5.Magical Feelin'
6.WHERE?
7.GIVE & TAKE
12:45〜 ハンブレッダーズ [SKY STAGE]
去年も出演しているかと思っていたが、意外にもこのフェス初出演。今やすでにあらゆるフェスに出演するようになった、ハンブレッダーズである。
メンバーがステージに現れると、表情は驚くくらいにいつもと変わらない。(そもそもムツムロアキラ(ボーカル&ギター)は常に無表情であるが)
そのムツムロがお馴染みの
「スクールカーストの最底辺から青春を歌いに来ました、ハンブレッダーズです」
と挨拶して最初に演奏されたのは昨年リリースの傑作最新アルバム「ギター」の1曲目に収録されている「再生」。それが2年前は開催することができず、昨年は何かと叩かれまくったこのフェスのステージで鳴らされることによって、このフェスが、ひいては音楽シーン、ライブシーンそのものが再生しているような感覚にさせてくれる。
「僕は時代遅れなものばかり愛してしまう」
と口にして演奏された「ユースレスマシン」はその言葉通りのことを歌った曲であるが、それは時代遅れかもしれないけれど決して色褪せない、普遍性を持っているものをムツムロが愛してきたという意味でもある。それはこのギター、ベース、ドラムだけを鳴らすロックバンドという形態もそうである。
金髪に短パンというスタイルのベーシストのでらしが身軽にステージ上を歩き回ったり、時にはお立ち台の上に足をかけたりし、木島(ドラム)もまさに高速を疾走するかのようなリズム隊の強さを見せてくれる「銀河高速」のサビの
「続けてみることにしたよ」
のフレーズを歌う瞬間に、スクリーンにはステージから見る客席の景色が映る。こんなにたくさんの人たちがこの曲で腕を上げている。それはギタリストが離れるというバンドの形が変わる経験をしてもバンドをやめなかったからこそ見れたものだ。メンバーの表情は本当に変わらない(でも音にはちゃんと感情がこもりまくっている)けれど、最底辺にいた自分たちがこんなに素晴らしい景色を見れていることをメンバーはどう思っていたのだろうか。
このフェス初出演ということで、初めてライブを見る人も多いであろうことを考慮して、
「首振らせるよりも頷かせる音楽をやりたいんで。名前と顔と、ドラムが教員免許を持ってることだけ覚えて帰ってください」
と抜群の掴みを見せる挨拶で笑わせてくれるのだが、そんな紹介をされるとは思っていなかったのであろう木島は
「それは言わなくていいだろ(笑)」
と照れるようにしてツッコミを入れていた。
そんなメンバーのキャラクターも発揮しながら演奏されたのは「ギター」収録のラブソング「プロポーズ」なのだが、ここまでの曲が全て音楽のこと、音楽への愛を歌っているものであるため、この曲も音楽への永遠の愛を誓っているようにも聞こえるというのはこのバンドだからこそだ。
まだ真昼間でありながらも色鮮やかな照明がステージを照らす「COLORS」の
「僕らは敵じゃない
それって素敵じゃない?
夢みたいな無敵の愛」
という韻の踏み方の見事さも、「ワールドイズマイン」のギターリフと、サポートメンバーとは思えない貢献度と目立ちっぷりのうきによるギターソロも一度観たり聴いたりしたら頭から離れなくなるくらいのキャッチーさを持っている。またすぐにこの曲たちを聴きたくなるし、ライブで見たくなるというか。
「この世の中で1番ヤバい発明ってなんだか知ってますか?俺は知ってます。ギターです」
と言って演奏された「ギター」の
「錆び付いたギターでぶっ壊す
もう全部 全部 全部
暗闇の中で微かな光を見た
ギター ギター ギター」
という歌詞の通りに、そう言えるのは本人たちが青春期の鬱屈した感情をギターの歪んだ音でぶっ飛ばされてきたからだ。そんな彼らだからギターという楽器の発する音が人生を変えてしまうに足るものであるということをわかっている。この曲で鳴らされているのは、そんな時代遅れかもしれないけど変わることはないという信念だ。
しかしそんなムツムロはこうして動員の規制が緩和されるようにはなったが、コロナ禍になった当初は完全に心がやられてしまって、曲が書けなくなってしまったということを口にした。それはそうだろう。これだけ音楽のことだけを歌ってきたバンドが、あんなに音楽が不要不急と言われまくってしまったらそうなってしまうのもよくわかる。
しかしそんな状況だからこそ、この日はリハで演奏した「ライブハウスで会おうぜ」という大名曲が生まれた。自分たちが何を鳴らしたいのか、鳴らすべきなのかが定まった。ムツムロはこのフェスを主催するロッキンオンジャパンのインタビューで、
「心地良いBGMみたいな音楽で何が変わるんだろうって思う」
と口にしていた。それがそのまま「ギター」の収録曲たちにつながっているし、ラストに演奏された「BGMになるなよ」はその象徴とも言える曲だ。何かをしながら聞き流せる音楽ではない。目の前で鳴っている音に心で向き合い、その音を鳴らしている姿を見て、ロックバンドがどれだけ素晴らしいものであるかを感じさせてくれる。
新しいロックシーンのヒーローが見せた、万年弱小帰宅部の逆転サヨナラ勝利。それがついに訪れた、ハンブレッダーズのロッキンオンのフェスデビュー戦だった。
ずっとこうしたフェスに出てきたベテランバンドたちがだんだんと少なくなってきているのは寂しさもあるけれど、そのバンドたちと入れ替わるように出てくるのがこのバンドであるならば、その新陳代謝は本当に健全なものだと思う。
リハ.弱者のための騒音を
リハ.ライブハウスで会おうぜ
1.再生
2.ユースレスマシン
3.銀河高速
4.プロポーズ
5.COLORS
6.ワールドイズマイン
7.ギター
8.BGMになるなよ
13:30〜 ハルカミライ [SUNSET STAGE]
昨年に続いての出演となる、ハルカミライ。そのライブも今でも忘れられないくらいに素晴らしいとともに自分たちに力を与えてくれたが、それくらいに鮮明に覚えているだけに、あのライブがもう1年前のことなのか、とも思ってしまう。
サウンドチェックの段階から関大地(ギター)、須藤俊(ベース)、小松謙太(ドラム)の3人で曲を連発しまくっていると(須藤が歌ったりする)、本番ではそこに巨大な旗を持った橋本学(ボーカル)が登場し、「君にしか」「カントリーロード」というオープニング2連発のおなじみの流れで関は間奏で思いっきりギターを掻き鳴らす。
「やっぱり野外って最高に気持ちいいなぁ!」
と叫ぶ橋本学は早くもTシャツを脱いで上半身裸になっている。もう完全に夏フェスのような光景になっている。
そんな中で橋本が甲本ヒロトを彷彿とさせるようなブルースハープを吹きまくる、江ノ島の海を想起させる歌詞がこの気持ちいいシチュエーションに実によく似合う「ヨーローホー」と、バンドは今年アルバム「ニューマニア」をリリースし、すでにそのアルバムをもってライブをやりまくっているだけに、フェスでのセトリにもそのアルバムの曲が入ってくるという変化が起きてきている。それは元からどんなセトリだろうと毎回忘れられない伝説のライブを見せてくれてきたハルカミライのライブがよりその日でしかないセトリになるということである。
そんな中でも変わらずに「ファイト!!」というショートチューンを挟み、須藤はベースを置いて体を揺らしているだけというアイドルグループのダンス担当みたいになっているのが面白いが、関もステージ上でスライディングをかますようにしてギターを弾く「俺達が呼んでいる」と、規制が未だに多い(ロッキンオンのフェスはコロナ禍になる前から)状況の中であってもハルカミライのやりたい放題なパンクのライブは全く変わることはない。
しかもアルバムがリリースされたことによって「俺達が呼んでいる」から間髪入れずに「フルアイビール」という代表曲から最新の曲に繋がるというライブならではのアレンジも生まれている。この曲はタイトル通りにビールのことを歌った曲であるだけに橋本は客席の楽しそうな様子を見て、
「青空の下で音楽聴いて、ビール飲んで飯食って。これがフェスだぜー!」
と、おそらくコロナ禍になる前は自身もそうやって過ごしていたであろう(ハルカミライは基本的に自分たちの出番がどれだけ遅くても朝早くから会場に来て他の出演者のライブを見ている)だけに、そうした楽しさを味わうことができるフェスの状況が戻ってきていることを心から喜んでいる。そのライブができる場所が戻ってきているというのが、今でもどんな規模のフェスでも呼ばれたら出るというスタンスのバンドの生きる場所になっている。
ここにいる我々全員の拳を振り上げさせて、バンドの持っている生命力を分け与えてくれるかのような「PEAK'D YELLOW」から、こちらも上半身裸になった小松がドラムセットからステージ前まで出てきてメンバー全員で歌って始まる「世界を終わらせて」では橋本が、
「時代がどうとか関係ねぇ!音楽はいつだって自由だ!」
と叫ぶ。本当にその通りだよなと思うのは、それをステージ上で示し続けてきたバンドだからだ。制限があったとしても、そのルールを守りながら自由にライブをやる。そんなハルカミライの姿や生き様が本当にカッコいいと思う。壊すためのパンクじゃなくて、守るためのパンク。このバンドはそれを体現している。
そんな橋本が珍しくアコギを弾きながら歌うのはアルバムからの新曲「つばさ」で、この曲を筆頭に「ニューマニア」はこれまでのようにパンクにぶっ飛ばすというような曲が並んでいるアルバムではない。だからこそ、このバンドの持っているメロディの力の強さと美しさを感じることができる。結局のところは曲が良いからこそ、こうやってライブを観に来ているんだよな、ということがわかるというか。
コロナ禍になる前は大合唱が起きていたのがハルカミライのライブであるが、その最たる曲であるのはメンバー全員が声を合わせて歌う「春のテーマ」であり、それはまさに今この瞬間が歌詞の通りに「世界の真ん中」であるかのようであり、その世界の真ん中から放たれるように橋本が、
「眠れない夜に俺たちJAPAN JAMに来たんだ」
と歌い始めたのは「アストロビスタ」で、橋本は曲中の歌詞を
「音楽ってどこまで現実かな?上手い下手、見た目。それだけじゃ足りねぇ!汗と涙とハートだ!」
と変えて歌う。その汗と涙とハートというのはハルカミライの音楽とライブそのものだ。感動するようなライブも、上手いとか下手とか見た目がいいで決まるわけじゃない。そこにどれだけ感情を込めることができているかだ。ハルカミライのライブには最大限にそれが詰まっている。
そしてYON FESの時にも最後に演奏されていた新作ショートチューン「To Bring BACK MEMORIES」を鳴らして終わりかと思いきや、まだ3分も時間が余ってるということで「Tough to be a Hugh」を演奏するのだが、そもそもこれも1分に満たないショートチューンであるだけに、結局3分の中で次々にショートチューンを連発しまくり、最後には橋本が
「カメラマンの兄ちゃん、客席を撮ってくれ!」
と言ってベテランオフィシャルカメラマンの岸田哲平氏をステージに引っ張り上げて、演奏しているメンバーになったかのようにステージ上から客席の写真を撮らせる。ギリギリまで、楽しませられる最大限まで観客を楽しませてくれる。こんなに絶対事前に決めていなかったであろう曲数を連打するようなバンドは他に絶対いないと思う。それはそのまま、どんなフェスのライブであっても、ハルカミライのライブが伝説的な、決して見逃せないものであるということだ。6月からも様々なフェスが開催されるが、ハルカミライがいるかどうかで行く日を決めるくらいにはこのバンドのライブに夢中になり続けている。
橋本は去年のこのフェスで、厳戒態勢の中で観に来た我々に
「勇気出して来てくれてありがとう。勇気もらったぜ」
という言葉をかけてくれた。ハルカミライのライブから元気や勇気を貰っている我々が、その選択によってハルカミライにも勇気を与えることができている。この場所はそんな幸福なキャッチボールがバンドと我々の間で繰り返されていることを教えてくれた場所だ。これから先もきっとそうした素晴らしいハルカミライのライブの思い出が増えていく場所にもなるはずだ。
リハ.フュージョン
リハ.ファイト!!
リハ.エース
リハ.ウルトラマリン
1.君にしか
2.カントリーロード
3.ヨーローホー
4.ファイト!!
5.俺達が呼んでいる
6.フルアイビール
7.PEAK'D YELLOW
8.世界を終わらせて
9.つばさ
10.春のテーマ
11.アストロビスタ
12.To Bring BACK MEMORIES
13.Tough to be a Hugh
14.ファイト!!
15.エース
16.To Bring BACK MEMORIES
14:15〜 DISH// [SKY STAGE]
もともとは中止になってしまったCDJ 20/21に出演予定だったということもあり、俳優の北村匠海がボーカルを務めるバンドであるDISH//は本気でフェスシーンに挑んでいこうとしているのがこうして多忙であろう中でもこのフェスに出演することを決めたことによって、よくわかる。初のJAPAN JAM出演であり、まだ希少なフェスでのライブである。
ハンドマイクを持った北村匠海、矢部昌暉(ギター)、泉大智(ドラム)、橘柊生(DJ、キーボード)にギターとベースのサポートメンバーを加えた編成であるのだが、最初はやはりハルカミライのライブバンドの極みっぷりを見てしまった直後であっただけに、ライブバンドとしてはまだって感じなのかな、とも思っていたのだが、それが北村匠海がアコギを弾きながら歌う、あいみょん提供曲にしてTHE FIRST TAKEで歌ったことによってバズった「猫」からは会場の「北村匠海を見たい」的な感じだった空気も確かに変わっていく。汗を首元にしたたらせながら歌うその姿は確実にロックバンドのそれである。
「ずっと出たかったフェスにようやく出ることができました!」
と喜びを炸裂させる言葉を口にすると、北村匠海が絶賛ハマりまくっているというサウナ愛をまんま曲にした「SAUNA SONG」というタイトルもそのまんまの曲はトラップ的なビートによる、トラック的なサウンドの曲であり、こうした曲では橘のDJとしての存在がよく生きていると言えるのだが、こんな曲もあるのかと少し驚いてしまう。ロックバンドの音や形態にとらわれないからこそ、こうした挑戦もできているというか。
しかしその後はバンドサウンドとなり、北村匠海もギターを弾きながら歌う曲が多くなるのだが、MCをほとんどしないで曲を連発するというスタイルだからこそ、こうしてようやく出れているフェスで自分たちが何を伝えたいのか、それは音楽であるということに照準が定まっているし、そうして演奏を続ける中でどんどんライブにバンド感が増していく。泉も矢部もしっかりした演奏技術を持っているプレイヤーであるということがたくさん曲を演奏することによってわかってくる。特に「Seagull」は歌詞からしても完全にDISH//がロックバンドであることを示すような曲だ。
そして最後の「沈丁花」では北村匠海がハンドマイクを持って歌うと間奏で、
「ありがとうって伝えたい人には伝えられるうちにちゃんと伝えましょう。俺は昨日父親が還暦の誕生日を迎えたから、高校に行かせてくれてありがとう。大学まで行かせてくれて本当にありがとうって伝えました。みなさんも家族や友達やペットや仲間や恋人とか、ありがとうを伝えたい人にはありがとうって伝えてください!」
と、曲の持つメッセージを自身の言葉でも口にする。その姿を見ていて北村匠海は本当に良い子なんだなと思うと同時に、伝えないでいたことによって伝えられなかった経験もあるんじゃないだろうかとも思っていた。だからこそ伝えられる時に伝えないといけないということをこんなにも強く我々に訴えていると。
そんなフェスデビューを飾ったDISH//はメンバーの今の状況を考えたらわざわざフェスに出る必要性はない存在とも言える。TVの音楽番組に出て、自分たちのワンマンをやって…というだけでも全然活動していけるだろう。
それでもこうしてフェスという場所に挑んでいこうというのは、北村匠海もMCで口にしていたとおりに、音楽が鳴らされる場所がどれだけ大事なものかということをこのバンドがわかっているからだ。その大事な場所で他のアーティストと並んで生きていこうとしている。成り立ちやオーラはライブハウス叩き上げというものではないけれど、だからこそ全く違う角度から今後注目していくべきバンドが出て来たのだ。
1.No.1
2.Get Power
3.猫
4.SAUNA SONG
5.DAWN
6.勝手にMY SOUL
7.Seagull
8.沈丁花
15:00〜 SHE'S [SUNSET STAGE]
今年初頭に幕張メッセイベントホールで開催されたスペシャ主催のイベントでようやくライブを見ることができたのだが、その時には服部栞汰(ギター)が参加することができずに急遽他の3人でのアコースティック編成になったため、こうして4人揃ったライブをようやく見ることができるようになったピアノロックバンド、SHE'S。昨年に続いての出演である。
4人がステージに登場すると、EDM的な要素も取り入れた、情熱的なダンスミュージックの「Masquarade」からスタートし、井上龍馬(ボーカル&ピアノ)の歌声にメンバーのコーラスが重なっていく。その堂々たる歌唱や立ち振る舞いはさすが日本武道館でワンマンを行ったバンドである。
あどけない金髪の木村雅人(ドラム)のビートが一気にロックバンドらしい強さを発揮し、ワイルドな髭を蓄えた広瀬臣吾(ベース)がそれに合わせながらも、やはり観客の合いの手的なコーラスも聴きたいなと思ってしまう「Over You」はバンドのポップさ、キャッチーさを感じさせてくれる曲であるが、やはりメンバーのコーラスが曲において重要な役割を果たす「Un-science」と、どちらかというと初期と言える曲が続いたのは少し意外だったが、SHE'Sの音楽は観客も参加する、声や思いの交換の場でもあったんだな、ということが今はメンバーしかコーラスができないのを聴くと実感する。
そんな中で井上の奏でるピアノの音色が実に美しい「Letter」は抑制されたバンドのサウンドの中で歌われる
「僕らは大切な人から順番に
傷つけてしまっては
後悔を重ねていく
それでも愛したり
愛されたいと願っている」
というフレーズが何度聴いても人生の真理を言い当てているかのようで、聴いていて胸がギュッとなる。それは思い当たるような節が自分にも確かにあるからだ。
すると井上がピアノセットから立ち上がり、茶色のセットアップ姿でハンドマイクを持ってステージを歩き回りながら歌うのはR&B的な要素も取り入れた「Blowing in the wind」であり、井上はまるでアメリカのシンガーのような動きでステージを練り歩きながら歌うのであるが、時にはカメラに目線を向けながら歌う様がスクリーンに映し出されるのには井上の持つ華の部分を強く感じられるし、それはアイドルや芸能人にも決して負けていないと思う。
服部が
「去年はLOTUS STAGEっていう、今年はないステージのトリをやらせてもらったり、前に先輩のTOTALFATとコラボして龍馬がタンクトップを着てライブをしたり。JAPAN JAMには本当に思い出深いライブが多いです」
とこのフェスでの思い出を口にすると、その「Blowing in the Wind」と同じように風をテーマにしたこのバンドの代表曲である「追い風」へ。箱根駅伝のタイアップとしてこのバンドの名前を多くの人に知らしめた曲であるが、この会場には常に風が吹いている。そのためにこの曲はこの会場のテーマソングにも聞こえてくるし、そうしてこの会場に風が吹いているのは、この状況の中でも諦めることなく、生きていくものだけに吹く追い風だからなのかもしれない。
木村の緊張してるのか天然なのか(多分後者)という同じことを繰り返すような感謝のMCから演奏された「Blue Thermal」はその「追い風」を更新するべき新たなバンドの代表曲である。映画の主題歌としてのスケール感を確かに持ちながら、この青空の下で演奏されるのが本当によく似合う曲だ。SHE'Sがこんなにも野外に似合うバンドであるということは、こうして実際にそこでのライブを見ないとわからないことだった。
そんなライブの最後に演奏されたのは「Dance With Me」であり、この状況になるはるか前に書かれた曲がこの状況に生きる我々の背中を強く押しながら、やはり「wow」というコーラスフレーズは早くみんなで歌えるようになりたいな、とコーラスをするメンバーの姿を見て思っていた。
結構インタビューなどでは「もっとバンド感が出ないと…」みたいに言われていたり、自分たちで言っていたりもしているが、こうして今のライブを見ているとしっかりライブ感を感じることができる。それは自分がかつてのライブを見ていないからかもしれないが、そこからはなぜこのバンドが武道館でワンマンをできるような存在になったのかということを感じさせてくれるのだ。
リハ.Chained
1.Masquarade
2.Over You
3.Un-science
4.Letter
5.Blowing in the Wind
6.追い風
7.Blue Thermal
8.Dance With Me
15:45〜 Saucy Dog [SKY STAGE]
様々なフェスやイベントにひたすら出演しまくっているだけに、毎月のようにライブを見ているSaucy Dog。昨年も出演しているが、まだ大抜擢のこのフェス出演という感じもあった昨年からわずか1年で、このステージの客席は超満員になっているくらいに取り巻く状況は変わった。
いつものように3人が順番にステージに登場すると、この日は今年リリースされたばかりの「ノンフィクション」から始まるという、おなじみのライブの流れというよりは今の、最新のバンドの姿を見せるようなもので、それはここで早くも一大キラーチューンとなった「シンデレラボーイ」が演奏されることからもわかる。
その「シンデレラボーイ」ではスクリーンに手書きの文字による歌詞が映し出されることによって、石原慎也(ボーカル&ギター)の描く歌詞の言い回しのうまさを感じることができる。特に最後のサビ前に
「死んで」
と歌ってから
「シンデレラボーイ」
と続くのは歌詞を見ながらじゃないとわからない、同じ言葉なのに全く意味合いのことなるものを歌う歌詞になっているのが本当に発想としても文章としても見事だ。
さらには最新曲「魔法にかけられて」と、この日の前半はアッパーなバンドサウンドというよりはその石原の綴るメロディと歌詞の美しさを感じさせるような曲が続く。そうした構成になることでわかるのは、今のSaucy Dogが作る曲がこの巨大な規模のステージに見合うようなものになっており、石原のボーカルが音源以上の声量と伸びやかさによって響いているからだ。
よく「口から音源」という言葉を目にするようになったけれど、自分はそれではわざわざライブを観に来る意味はないと思っている。音源以上のものを観たいし聴きたいからこうしてライブに来ているし、石原のボーカルは間違いなくそうして音源を超えているものである。
せとの挨拶的なMCでは
「今年初の野外フェスで…」
と言ってしまうのだが、すぐさま石原に「YON FES!」と突っ込まれ、先輩たちの主催する野外フェスに出演したことを完全に忘れてしまっているという大失態を犯す。そのおかげか、毎回どこかしら歌詞が飛ぶ石原はこの日は歌詞を飛ばすことなく歌えていた。
この野外の青空の下だからこそ、歌詞の情景が頭に浮かぶし、より一層バンドも我々も「走って」いるような感覚になる「煙」からは秋澤和貴のベースもより重さとうねりを増していき、それは「ゴーストバスター」での石原の掻き鳴らすギターもそうで、前半とはまた違うシャープなスリーピースギターロックバンドとしてのSaucy Dogを見せてくれる。
なのだが、このJAPAN JAMでの思い出を話そうとしたら石原が遅刻してきて本番直前にケンカしていたというものであるのもなんともサウシーらしいというか、感動的なものにならずに自然体に笑えるものであるというのは、これを言おう、みたいに考えたりしていないのだろう。
それはあくまで感動させるのは音楽であり、曲であるという思いを持っているんじゃないかと思うのは次に演奏されたのが「東京」だったからであり、スクリーンには東京のものであろう美しい夜景の映像も映し出される。自然なようでいて、都会からすぐ来れる会場だからこそその夜景がよりリアルなものとしても感じられる。
そして最後に演奏された「グッバイ」に宿る石原の歌唱の激情と言ってもいいようなエモーションは、最後に秋澤とせとのコーラスが乗ることによってより別れとともに、また夏にこの場所で会えることを約束しているような、どこかそんな切なさだけではない希望のようなものが宿っているようにも感じられた。
去年このフェスで見た時、1年後にここまでの存在になっているなんて全く想像していなかった。ロッキンならLAKEかPARK、CDJならGALAXYという2番目のステージくらいかな、と思っていたのが、雑誌の表紙も飾ったことによって、今年は文句なしにメインステージでしかないレベルになっている。それを少しひたちなかのGRASS STAGEで見たかったな、とも思ってしまう。
1.ノンフィクション
2.シンデレラボーイ
3.魔法にかけられて
4.煙
5.ゴーストバスター
6.東京
7.グッバイ
16:30〜 My Hair is Bad [SUNSET STAGE]
こちらはもともとこのステージに出るべき規模のバンドだったが、今年の春のテレビ出演などによってさらに上のステージにまで足を踏み入れた感のある、My Hair is Bad。毎回フェス稼働するようなバンドではないけれど、この会場でのこのフェスには何度も出演している。
サウンドチェックで曲を演奏してそのまま捌けることなく本番の演奏を始めるというのはこのバンドならではのフェスの短い持ち時間を最大限に活用するというスタイルであるが、椎木知仁(ボーカル&ギター)が、
「JAPAN JAM!最高の1日になりますように!新潟県上越市から来ました、My Hair is Badです!ドキドキしようぜ!」
と言って「アフターアワー」からスタートすると、今やこんなにたくさんこのバンドの曲を知っている人がいるのかと思うくらいにSUNSET STAGEの人工芝を埋め尽くすくらいの大観衆がみんな腕を振り上げている。もしかしたらテレビで見てマイヘアのことを知って、初めてライブを観に来たという人もいたかもしれないが、そうした人たちも含めてここにいるみんながマイヘアのロックサウンドにドキドキしているのである。
山田淳の高いシンバルのセットを含めたドラムの連打が曲とバンドの演奏と我々のノリに勢いを与えてくれる「グッバイ・マイマリー」から、椎木も山本大樹(ベース)も間奏で演奏しながらステージ前まで出てきて観客の近くまで来てくれる「ドラマみたいだ」と、3月に開催したアリーナツアーの前半をギュッと凝縮したセトリであるが、この曲たちこそがフェスという場で最もマイヘアらしさを感じさせてくれる曲たちだということでもあるだろう。
そんな中で椎木はこの巨大な野外会場での涼しさも感じるようになってきた時間の青空の下で演奏する気持ち良さを口にしながら、マイヘアの疾走するエモーショナルなギターロックバンドサウンドの極みとでも言うような「告白」では曲後半で椎木が
「心の中で歌ってくれ!」
と観客に呼びかけ、自身はマイクスタンドから離れてステージ前まで出てきて心の中で歌う観客の姿を眺める。飛び跳ねるようにしていたのは、遠くの方から見てくれている人の方をしっかり見ようとしていたのだろう。
「40秒で終わるラブソング!」
とおなじみのショートチューン「クリサンセマム」から「ディアウェンディ」へと至る流れはマイヘアのハードかつラウドな部分を感じさせる曲であり、それがそのままスリーピースギターロックバンドならではのダイナミズムに繋がっているのだが、椎木は曲中で目元でピースサインを作ったりしながら、
「これはテレビでもYouTubeでもロッキンオンジャパンの雑誌の中でもない!」
と口にするのは椎木が元々熱心な読者であったロッキンオンのフェスだからこそであるが、
「目の前にいる俺たちが本物のロックバンドだ!」
と堂々と宣言できるあたりはかつての憧れの中の最前線に自分たちがいるということの自身を感じさせる。その言葉を口にした際の山本のポーズを決めるようなアクションもこの曲の見どころの一つである。
そして椎木が弾き語りのように言葉を紡いでから歌い始めたのは、テレビ出演の際に演奏したことによって「マイヘアの代表曲」からさらに広い、たくさんの人にとっての夏のテーマソングというものになっていくであろうことを予感させるくらいに、
「ブラジャーのホックを外す時だけ 心の中までわかった気がした」
というトレンド入りしたフレーズを歌い始めた際に一斉に観客の腕が上がり、空気が変わるのが確かにわかった。誰もがこの曲を求めていた、待っていたのだ。この夏のようにTシャツ一枚で過ごせる気候の青空の下で聴くこの曲は、今年この日までで最も、夏の匂いがした。
椎木の
「人生において大切なものはなんだかわかりますか?それは睡眠です」
というMCは何故今にそんな話を?と思ってしまうくらいに唐突であり、確かにそれはそうだろうけど、と思いながらも特別曲に繋がったりするわけでもないというのは、それくらいにこの日、このステージでのライブが伸び伸びとやれていたということを示していたのかもしれない。
そんな唐突なMCから演奏されたのは最新アルバム「angels」収録の「歓声をさがして」。すでに昨年のツアーから演奏されてきた曲であるのだが、「真赤」の後だったり、これだけマイヘアの代表曲が連打された後に演奏されても全く霞むことがないというか、
「音楽でもいい 映画でもいい
YouTubeでも お笑いでもいい
アニメやゲーム 読書でもいい
なんでもいい 好きならいい
大好きばかり 見つけに行きたい
今ドキドキできるものを手に取りたい
DJ放送室 僕の曲をかけて
みんなが帰っちゃう前に」
という歌詞も、その歌詞が乗るメロディの美しさも、マイヘアがマイヘアらしさを貫いたままで新しい大名曲が生まれたと思うくらいに、聴いた後に頭から離れなくなる曲だし、
「DJ もういいや 僕の曲は僕が
歌うことにするから」
と歌うべき曲になったということであり、
「大好きばっかり見つけに行きたい」
というフレーズをここにいる全ての人たちは実践している。
そしてそんなライブの最後に演奏されたのは、かつてこのフェスに出演した時にも最後に演奏されていた「いつか結婚しても」。週刊誌に椎木のことが載ったことで、この曲の聞こえ方が変わった人もいるかもしれないが、手を叩いて体を揺らしながらこの曲に浸り、椎木が再び
「心の中で歌ってくれ!」
と言って、その通りに腕を上げながら心で歌っていたであろう観客たちは、自分たちがマイヘアの音楽で幸せになろうとしているとともに、椎木とメンバーの幸せを祈っているかのようだった。
この日、ライブでおなじみの「フロムナウオン」をバンドはやらなかった。前にこのフェスに出演した時にもやっていない。それはこの日の椎木の表情が実に晴れやかだったように、この場所でのライブはどうしたってシリアスにならざるを得ない「フロムナウオン」よりも、「いつか結婚しても」のような曲を鳴らしたくなる場所なのかもしれない。かつて出演した時も、確かに椎木が見せた表情は実に晴れやかだったことを思い出していた。
リハ.優しさの行方
リハ.熱狂を終え
1.アフターアワー
2.グッバイ・マイマリー
3.ドラマみたいだ
4.告白
5.クリサンセマム
6.ディアウェンディ
7.真赤
8.歓声をさがして
9.いつか結婚しても
17:15〜 indigo la End [SKY STAGE]
元々はこの日はゲスの極み乙女。でも出演するはずだったが、そちらは出演キャンセルになったことによって、川谷絵音(ボーカル&ギター)はこのバンド一本の出演になった。本来なら夜の方が似合うバンドであるのは間違いないが、トリ前という実に良い時間での出演である。
どこか太陽の光がオレンジ混じりになる中でサポートコーラス&キーボードのえつこと佐々木みおを含めた6人がステージに登場。下手に佐藤栄太郎(ドラム)、上手に長田カーティス(ギター)、その間に川谷と後鳥亮介(ベース)、川谷と後鳥の後ろにサポート2人という並び方もこのバンドならではのものである。
川谷の憂いを含んだ声質と西陽の光が切なさを倍増させる「悲しくなる前に」からスタートすると、うねりまくるような後鳥のベースと、サングラスをかけて正確無比なリズムを刻む栄太郎のドラムによるリズム隊の上手さに改めて驚かされる。川谷の異能っぷりがとかくフィーチャーされがちであるが、このバンドはメンバー全員がスーパープレイヤーの集まりであることがすぐにわかる。
そこに乗るサポートメンバー2人のコーラスとキーボードのサウンドもこのバンドには欠かせない要素であるということが「想いきり」、「夜明けの街でサヨナラを」という切なさの極みのようなメロディと歌詞による曲が続くことによってわかるのだが、そうしてこのバンドの最も空気や雰囲気に会場が包まれていくことによって、「チューリップ」のような冬の情景を想起させるような曲も全く違和感を感じないものになっている。
バンドサウンドだけに止まらないような幅広さを感じさせてくれる「邦画」のようなサウンドもまたこのバンドらしさを感じさせるくらいにこのバンドの引き出しの広さ、それがメンバーの器用さ、高いプレイヤビリティによってもたらされていることがよくわかる。特にそれは強力なアタック感も、リズムマシーンのように均等なリズムも叩くことができる栄太郎のドラムによるものが本当に大きいなと思う。
そのメンバーの演奏力と表現力がこの春の夕方というシチュエーションをタイトル通りに夏の夜へと変えてくれる「夏夜のマジック」でたくさんの観客が腕を挙げながら体を揺らす。その心地良さはこのバンドのライブでしか体験できないものであるし、また夏の夜にこうした野外の会場でこの曲を聴いていたいと思うくらいに改めて名曲だなと思える。
演奏面だけではなくて、メンバーのキャラクターの強さを引き出すためにMCやソロ回しも随所に挟まれるゲスのライブとは対照的にひたすらに曲だけを次々に演奏されていく中、川谷はここで
「僕、今33歳なんですけど、この人(後鳥)が40歳なんで僕ら平均年齢が上がってて、今日僕らが最年長っぽいんですよ(笑)」
と、ハンブレッダーズやSaucy Dog、マカロニえんぴつ、マイヘアなどの名前を挙げ、
「話したことないけど確実に年下でしょ(笑)」
と口にするのだが、確かにそう考えるとこの日の出演者たちは若手ばかりだが、このバンドの演奏力と表現力の高さは確かにベテランであるというのも納得である。
そんなバンドが最後に演奏したのは、この春の時期だからこその「春は溶けて」。
「春は溶けて
まばらに色付いて
世界抉ったんだ
幸せだと思える一瞬は
いつでもどこかに」
というフレーズは、絵音が
「ちょっとずつ戻ってきている」
と言った言葉をそのまま音楽として鳴らしてくれているかのように、この瞬間は幸せな一瞬だったし、このフェスの景色は昨年よりもはるかに色づいていた。
こうして高い演奏技術を持って楽曲を鳴らすライブを観ていると、改めてこのバンドの曲の良さを実感する。なかなかそれは絵音の様々な出来事によって伝わりづらくなってしまったところもあるのだが、ゲスやジェニーハイのメンバーや楽曲のインパクトの強さではなく、このバンドの派手ではなくても純粋な楽曲の良さは長く深く愛されていくことになるだろうし、こうした野外の夕方というシチュエーションはそれを感じさせてくれる絶好のものだった。
1.悲しくなる前に
2.想いきり
3.夜明けの街でサヨナラを
4.チューリップ
5.邦画
6.夏夜のマジック
7.春は溶けて
18:00〜 マカロニえんぴつ [SUNSET STAGE]
この日のSUNSET STAGEのトリはマカロニえんぴつ。始まる前からこんなにSUNSET STAGEに人が入っているのは初めてなんじゃないのかと思うくらいの超満員。それが今のこのバンドの状況を示している。
おなじみのビートルズのSEでメンバーが順番に登場すると、はっとり(ボーカル&ギター)にひときわ大きな拍手が巻き起こり、SEが止まって一瞬の間を置いていきなり「愛のレンタル」からスタート。ブラックミュージック的なリズムを刻む高野賢也(ベース)と高浦"suzy"充孝(サポートドラム)のリズムの心地良さに観客が体を揺らすと、はっとりのボーカルは薄暗くなってきた空にスッと伸びていく。
「マカロニえんぴつです!よろしくお願いします!」
とはっとりが挨拶すると、長谷川大喜(キーボード)が美しいメロディを奏で、スクリーンには曲に合わせた映像が流れる「レモンパイ」、メンバーがドゥーワップ的なコーラスを重ねる「はしりがき」とキラーチューンが連発され、はっとりが「なんでもないよ、」を歌い始めると、その瞬間にそれまでは手拍子などをして楽しんでいた観客が息を飲むように集中力を高めていくのがよくわかる。この曲を少しでも聞き逃すまいとしているのがよくわかるし、それによってはっとりの伸びわやなボーカルがしっかりと聞こえる。こんなに削ぎ落としたタイプの曲がこんなにもフェスという祝祭空間でたくさんの人に求められているというのは改めてこの曲の凄さを証明するものである。
「去年より明るい空気を感じる」
というはっとりの言葉は昨年ははっとり自身はかなり精神を削られていたであろうことがわかるような言葉を口にしていただけに、その表情からも自身の精神が明るくなっていることがよくわかるのだが、このバンドのポップなサウンドの中でもフライングVを使うことを変えないハードロッキンなギタリストの田辺由明がシャープなギターを刻む「好きだった (はずだった)」と、今年リリースのアルバム「ハッピーエンドへの期待は」収録の曲が早くもライブでもおなじみの曲になっている。
しかしバンドは早くもすでにその先へと向かっており、話題のアニメのタイアップに起用されている新曲「星が泳ぐ」ではタイトルに合わせてスクリーンに星が流れる美しい映像が流れる。その映像に負けないくらいに美しいメロディはこのバンドが尽きることのない名曲製造バンドであることを示している。どうやったらこんなに素晴らしいメロディの曲を次々に生み出せるんだろうかとすら思う。
長谷川のキーボードのイントロに田辺の泣きのギターが重なっていく「ブルーベリー・ナイツ」が、完全に暗くなった空に見合う夜の曲として鳴らされるのはこの時間での出演の後半に演奏することによってそうなるということを理解していた上でのセトリだったんじゃないかと思う。
そうした時間帯での登場も、このバンドの持つ名曲の数々がたくさん聴くことができる持ち時間の長さもこのフェスのマカロニえんぴつへの信頼を感じさせてくれるのだが、その信頼と観客の期待に応えてくれるかのようにメンバーがカウントしてから演奏された「恋人ごっこ」の圧倒的とも言えるような美しいメロディが夜空の下に広がっていく。それは間違いなく記念すべき瞬間というものであったのだが、きっとこれからも何度でもこうやって野外フェスのトリの時間にこの曲が鳴らされるんだろうなと思えるものだった。
そんな代表曲や新曲の中に演奏された「keep me keep me」は初期と言える頃のこのバンドの曲がすでにこのシチュエーションで演奏されるべきスケールを持っていることを証明するものになっていたのだが、今やワンマンでもやる機会がほとんどないような曲をこうしてこの日聴くことができたのは実に嬉しいことである。
高浦の連打する軽快なリズムに乗って、長谷川がエアベースをしながら高野を追いかけ回すというおなじみのパフォーマンスがステージ袖に消えそうになるくらいに長い距離を走るくらいにノリまくっている「ハートロッカー」で夜になって少し肌寒くもなってきた我々の体を温めてくれると、はっとりは
「こんな日をまた用意して待っていてください。僕らも用意して待ってます。忘れられない1日になりました」
と口にした。そこからは確かにこの日、今年が昨年とは違う、「楽しかった」「幸せだった」と思い返せるものになっていたことを示してくれるものであったのだが、だからこそ最後に演奏されたのはおなじみの「ヤングアダルト」ではなくて「hope」だった。
「手を繋いでいたい
手を繋いでいたいのだ
弱さだけを握りしめて居たいのだ
僕らはまだまだ それぞれだけれどね」
というフレーズは、確かに僕らはまだまだだけれども、でも確かに進むことができている。そこにはしっかりと希望が感じられる。
「それでも、それでも
君が好きだ 君が好きだ」
というフレーズはバンドから我々への、我々からバンドへの思いそのもののようでもあった。
去年、いろんなところから叩かれまくっていたこのフェスのステージで、はっとりは
「あなただって音楽に救われたことあるでしょうよ!歌を歌ったことあるでしょうよ!」
と、音楽やライブを不要不急として叩いていた人に向かって、音楽で人生を救われてきた人間としての言葉を発していた。それはそのまま、ああした状況でもライブに行くことを選んだ我々の思いを代弁してくれているかのようだったが、やはり楽しいというよりはどこか覚悟を問われているかのようだった。
そんなバンドだからこそ、少しでも今年は「楽しい」と思えるようになっていたことを本当に喜んでいるかのようだった。それもまた、今の我々の思いを代弁してくれているかのようだった。そんなバンドとこれから先も、手を繋いでいたいのだ。
リハ.ミスター・ブルースカイ
1.愛のレンタル
2.レモンパイ
3.はしりがき
4.なんでもないよ、
5.好きだった (はずだった)
6.星が泳ぐ
7.ブルーベリー・ナイツ
8.恋人ごっこ
9.keep me keep me
10.ハートロッカー
11.hope
19:00〜 THE ORAL CIGARETTES [SKY STAGE]
ついにロッキンオンのフェスのトリを任された、オーラル。昨年末のCDJには出演していなかっただけに、ロッキンオンのフェスに出演するのは色々あった昨年のこのフェス以来である。
メンバーがステージに登場すると、山中拓也(ボーカル&ギター)とあきらかにあきら(ベース)はサングラスを着用しているのだが、山中は通常のサングラスであるのだが、あきらは服装も含めてどこかサイバー感を感じさせるようなサングラスである。
山中がギターを持つと、おなじみの
「一本打って!」
からの口上から始まるデビュー作の1曲目「mist…」がオーラルがMASHのオーディションで優勝してシーンに登場した時の衝撃を思い出させてくれる。それこそ自分にとってはラブシャのオープニングアクトで初めてライブで見た時のことなどを。もちろん山中のボーカルとあきらのコーラスによる
「ムラムラするぜ」
の色気は当時の比ではないレベルである。それはもちろん一時の不調からの療養を乗り越えて、今や心配をすることが全くなくなった山中の喉から発せられる艶やかな歌声も。
さらには鈴木重伸によるギターのフレーズが否が応でもテンションが上がらざるを得ない「Mr.ファントム」と初期曲の連発で、ラスサビの前のキメでは中西雅哉(ドラム)が思いっきり振りかぶった瞬間に鈴木とあきらが驚異的な跳躍力によるジャンプを見せる。やはりオーラルは本当にカッコいいバンドのままであるということをこれでもかというくらいに実感させてくれる冒頭2曲の連打である。
こうして最後まで残ってくれている人が本当にたくさんいることに山中が驚いていたのは、この日が割と歌モノ、ポップ寄りの出演者が多い中でのトリが自分たちだったからであるが、そんなここまでの出演者には絶対にないようなタイプの曲が、ラッパーのKamuiとのコラボ曲である新曲「ENEMY」。サウンドは超獰猛なハードコアと言えるようなミクスチャーであり、山中もマシンガンのようなラップ歌唱を見せると、Kamuiはさすがに登場しなかっただけにその部分は同期としていたのであるが、スクリーンに映し出されたMVの映像の中でラップするKamuiの表情が今まさに目の前で歌っているかのような臨場感を感じさせてくれる。
さらには山中の抱えるダークな部分や世の中や自分を取り巻く環境に対する皮肉を曲に落とし込み、それがロックサウンドとはまた違ったオーラルの多様性や引き出しの広さ、メンバーの器用さを感じさせてくれる「Naked」から、その「Naked」と同じアルバム「SUCK MY WORLD」に収録されながらも、ゴスペルまでをも取り入れた神聖なサウンドが真逆の祈りのように響く「Hallelujah」と、バンドの最新の形からいろんな音楽を消化してきた姿まであらゆる面を短い時間(とはいえフェスでは破格に長い)の中に詰め込むと、そうしたバンドの成長や進化を見せながらも、
「トリは嬉しいけれど、悔しいっていう感情とか反発心が俺たちの1番のエネルギーだったりしてきた。だからここからまた1からスタートしていくつもりでやります!」
と、さすが「BKW」(番狂わせ)をテーマにしてきたバンドならではの言葉を口にすると、そんな1から始めていくような衝動をロックサウンドとメンバーのコーラスに込めた「BLACK MEMORY」へ。それは人からしたら黒歴史と呼ばれてしまうようなことすらも、自分たちにとっては最大のエネルギーであることを示すかのようであった。
そんな中、バンドは今様々なアーティストと自分たちの代表曲でコラボして、それによってアップデートした形のバージョンを発表しており、先んじて出演したVIVA LA ROCKでもその参加アーティストとのコラボが行われたのだが、この日コラボ相手として登場したのは、今年はこのフェスに出演していないSKY-HIで、つまり彼はこのためだけにこの会場に来たのだが、コラボ曲「カンタンナコト」を彼の高速ラップによって新しい形にアップデートするだけではなくて、
「お前らが歌えない分まで俺が歌ってやるよ!」
と叫び、サビでは山中とともに歌唱する。最後には
「やっぱりフェスって最高だな!」
と言い残して颯爽とステージから去っていくのだが、その最高なフェスをより一層最高なものにしてくれる、SKY-HIのバイタリティがなによりも最高にカッコ良かったのだった。
そうしてかつては山中もゲストとして出演したことがあるこのフェスのJAMにふさわしい部分を見せながら、それでもクライマックスはまだこれからだ、とばかりに「狂乱Hey Kids!!」の凄まじい音圧が我々を圧倒しながらもさらに熱狂させ、タイトル通りに真っ赤な照明がメンバーを照らす「Red Criminal」では山中がイントロで思いっきりギターをぶん回す。生まれた時期は全く違う曲たちであるけれど、その全てがオーラルをひたすらに今カッコいいバンドとしてこの目に映っている。
そして山中は最後に
「俺たちは、ロックバンドは弱い存在やから、みんなの力が必要なんです。どうかこれからもロックシーンに力を貸してください!」
と言って、手拍子が鳴り響く中で「LOVE」を演奏し、山中の最大限に艶やかなボーカルで歌い上げた。
山中が、オーラルが実はとても弱い存在であるということをライブを見てきた人ならきっとわかっている。でも弱いからこそ、それをこちらが支えるのでもなく、バンドに引っ張ってもらうのでもなく、一緒になることで互いにカッコいい存在になれるような感覚が確かにある。そのために必要なのが、ロックバンドへの、音楽シーンへの「LOVE」である。それは今のロックシーンを自分たちで背負っていくことを決めたオーラルだからこそ感じることができたものだったと同時に、そんなバンドがトリを務めることができて本当に良かったと思えた。
去年、やはり先に出演したVIVA LA ROCKで、メンバーたちは何も悪いことを一切していないのに「オーラルが出てるからだ」と、一部の参加者のマナーが叩かれまくった。その日はまだこのフェスは開催されておらず、コロナ禍でのフェスというものが完全に手探り状態だっただけに、バンド側が責められるようなことは1ミリもないのだが、そうした声が届いてしまったことによって、直後に出演したこのフェスでのオーラルのメンバーたちはかなり参っているような感じであり、それでもそんな自分たちを観に来てくれている観客たちに心を込めて頭を下げた。
その決して参加者たちのせいにはせずに自分たちが全てを背負おうとする姿が本当に弱い人間としての誠実さを感じるものだったからこそ、1年後にこのフェスのトリとしてひたすらにカッコいいライブをオーラルが見せてくれたことに感動してしまっていた。それと同時に、これからもっと深い付き合いをしていきたいバンドだなと改めて思わされた。山中が告知していた通りに、今年はバンドとしての一大イベントである主催フェスとワンマンが控えている。そこでどんな姿を、ライブを見せてくれるのか、観てみたくなったのだ。
1.mist…
2.Mr.ファントム
3.ENEMY
4.Naked
5.Hallelujah
6.BLACK MEMORY
7.カンタンナコト w/ SKY-HI
8.狂乱Hey Kids!!
9.Red Criminal
10.LOVE