THIS SUMMER FESTIVAL 2022 出演:[Alexandros] / sumika @東京国際フォーラム 4/28
- 2022/04/29
- 22:02
かつてこのイベントに出演したNothing's Carved In Stoneの村松拓が
「THISってdisるっていう意味かと思ってた(笑)他の夏フェスをdisってる、みたいな感じで。さすが帰国子女、すげぇ!って(笑)」
とフェスのタイトルの意味を勘違いしていた、[Alexandros]主催の「日本一早い夏フェス」ことTHIS SUMMER FESTIVAL。今年はまだ春フェスすら本格的に始まる前という、まさに1番早い夏フェスというだけある日程での開催となった。
[Alexandros]は近年は基本的にツアーや主催ライブはワンマンばかりということもあり、こうして対バンライブを行うのも実に久しぶりであるのだが、その対バン相手は世代も割と近いし、バンドとしての地元も近くとはいえ、ドロスの対バンに呼ばれるとは、というのが実に意外なsumika。個人的には今月行くはずだったsumikaのツアーのZepp Hanedaが延期になってしまっただけに、願ってもないリベンジの舞台である。
長いCREWブースの列と入場列を経て国際フォーラムの中に入ると、ステージ背面のスクリーンにはすでにこのフェスのメインビジュアルが映し出されており、開演時間前にはドロスのライブではおなじみの影アナが入るのだが、その声が明らかにいつものスタッフのものではない、良い声であることに気付くのだが、その声の主はドロスの「閃光」が主演を務めた「閃光のハサウェイ」の主題歌になり、映画の宣伝などでも何度かトークをしている、声優の小野賢章。
自分はすでに何度も「閃光のハサウェイ」を鑑賞している(ドロスが山下公園のガンダム立像の前でライブをやったのが流されたスペシャルバージョンも観に行った)のだが、あんなにあの映画に「これしかない!」という曲を作ったからこそ、こうしてその映画で築いた関係性がこうしてライブという場にまで波及している。ドロスは他にもタイアップ曲もあるし、ガンダムシリーズには過去にも数々のロックバンドたちも曲を提供しているけれど、こんなにも幸福な形で作品とバンドが融合したことは他にないと思っている。改めてドロスは素晴らしい作品に素晴らしい曲を提供したんだなと思える。
・sumika
そんな驚きのオープニングからも、ライブに関わる人すべてのこの日にかける気合いが伝わってくるのだが、そんなこの日の対バンのsumikaは
「next artist is…sumika!」
というアナウンスが流れる中で暗い場内に現れると、メンバー4人が前で横一列に並び、その後ろにフレンズの三浦太郎(ギター&コーラス)、Mop of HeadのGeorge(キーボード)、XIIXの須藤優(ベース)の豪華なゲストメンバーが並ぶという最近おなじみの7人編成である。
片岡健太(ボーカル&ギター)がギターを鳴らしながら
「君の音を聴かせてよ」
と歌い始める突き抜けるように爽やかなギターロックサウンドの「リグレット」からスタートするというのは、どこからどう切り取ってもロックバンドでしかないドロスに招かれたライブ、ドロスのファンの前で鳴らす曲としてこれ以上ないものであるが、早くも体を大きく逸らすようにしたり、躍動感溢れるアクションでギターを弾く黒田隼之介(ギター)とは対照的に、スクリーンに歌う姿がアップで映る片岡の表情はどこか緊張感を強く感じる。それは自身の喉の不調によってライブを延期してしまって、本番でしっかり歌えるかどうかという心配もあったのかもしれない。
しかしそんな不安を吹き飛ばすように、ハンドマイクになってステージを歩き回りながら歌う片岡の表情が「Flower」で明るくなっていったのは、印象的な黒田のリフから始まり、ステージ下手でメンバーの方を向いてドラムを叩く荒井智之(ドラム)の生み出すリズムに合わせて手拍子をする観客たちの姿が見えて、音が聞こえたからかもしれない。本人たちもバンドとしてのタイプが違い過ぎることを不安に思っていたようだが、もうこの時点でこの日のsumikaがアウェーではないことがわかる。
「ディスフェス!」
と片岡がフェスのタイトルを口にした後の「Flower」のフレーズを小川貴之(キーボード)や三浦が声を重ねるのに合わせて観客の腕が上がる姿からもそれは確かに感じられる。
というよりもすでにバンドとしてこうしたホールでのライブ経験も豊富なバンドであり、こうした座席がある会場でのライブにふさわしい曲を生み出してきたバンドであるが故に、この会場がsumikaをホームたらしめているということもあったと思うし、それは我々がそうしたホールでのsumikaのライブを見てきたからだとも言えるのだが、小川の流麗なキーボードのイントロによって始まった「Lovers」では曲のMVに合わせたような、フィルムが結婚式場の敷地内を映し出すようなアニメーション映像が流れる。最後には夜の情景に花火が上がるというドラマチックな展開はラスサビで音階が上がるという曲自体のドラマチックさに実によく似合う演出であるが、対バンとして迎えられた側のバンドがこうして専用の映像を使えるというのはかなり異例のことであり、そこにドロスサイドからの出演してくれたsumikaへの無言の、しかしながら至上のもてなしっぷりを感じる。それによって初めてライブを見る人によりバンドの持つ世界観がしっかり伝わるようになるからだ。
そうした映像の効果もあって、すでにここまでで完全にsumikaのワンマンに来ているかのような感すらあるのだが、
「呼んでいただけて本当に嬉しいし、ビックリしてます。我々みたいなバンドは好まれてないと思ってたから(笑)
洋平君とはドライブに行ったりするし、磯部さんとも会えば話すし、リアドさんも前のバンドの時から知ってるんですけど、白井さんですよ(笑)今日のミッションは白井さんを笑わせることだと思ってます!(笑)みんな、めっちゃ頷いてくれてる(笑)」
というMCはドロスに向けたものであるだけに、やはりこの日のライブが招かれた側であるという頭に戻してくれるのだが、やはり片岡は白井が1番コミュニケーションを取るのが難関なメンバーであることを見抜いているのはさすがであるし、その笑顔を他のメンバーに比べるとあまり見る機会がないのをわかっているからこそ、観客も頷いていたのだ。(ライブのMCなどでは結構笑ったりするけど)
さらには君付けで呼ぶあたりから親しさが伝わってくる川上とは共通の友人がいることを明かし、
「洋平君が香川に行くって言って。その人にうどんのお土産を買ってきてくれたらしいんですよ。洋平君はうどんが好きみたいで。
で、その人が次に洋平君と会う時にお土産を貰うのを楽しみにしてたら、次に会った時に
「美味しそうだったから食べちゃった」
って言われたんだって(笑)大人になってまで買ってきてあげたお土産を自分で食べる人はいないですよ!(笑)
その話を聞いた時に、この人は信用しないといけないなって思った(笑)音楽もそうやって本能の赴くままに作ってる人ってことだから(笑)」
という、川上の株を上げてるんだか下げてるんだかわからないけれど、実に川上らしいエピソードの開陳に客席は爆笑。こうした話をしっかり持っているのもまたさすがである。
すると再び片岡がギターを弾きながら歌い始める「グライダースライダー」と、こうして割と初期のものと言える楽曲が連発されているのは今のツアーやFC限定ライブの内容がそうしたものなのだろうかとも思ってしまうだけに、早く振替公演に参加したくて仕方なくなるのだが、そうした曲でもサビやコーラス部分では腕が上がったりするだけに、ドロスファンには間違いなくsumikaの曲を知っていて、ライブを見たことがあるという人もたくさんいるということがわかる。交わらないように見えて、実はファンはすでに混じり合っていたのだ。片岡のボーカルも心配していたのが良い意味で馬鹿らしくなるくらいにいつもと変わらない。曲のポップさを最大限に引き出しながらも奥深さを感じさせてくれる声である。
するとここで荒井の力強いバスドラとタムを軸にしたビートの上に、片岡の実に貴重な英語の歌い出しの歌詞が乗るのは、なんとドロスの「風になって」のカバーであり、「グライダースライダー」ではsumikaのバンドロゴが映し出されていたスクリーンには[Alexandros]のバンドロゴが映し出されるというのも、このディスフェスでしか有り得ない選曲だからである。
ワンコーラスだけだったが、やはりsumikaがカバーするとこの曲のポップさと爽やかさがさらに倍増している。そうした風が室内の会場にも確かに吹いていた。小川とGeorgeのツインキーボードによるアレンジがそう思わせる最大の要素だろうけれど、スカパラも川上をゲストボーカルに迎えたライブでこの曲をホーン隊の大迫力サウンドでカバーしていた。そうしたバンドによる違いも面白いのだが、この曲には何かアーティストが他の曲以上にカバーしたくなるような力があるのだろうか。いつかいろんなアーティストの「風になって」カバー集が聴きたい。もちろんsumikaのものはすぐに音源化して欲しいくらいだ。
そんな爽やかな「風になって」の風を引き継ぐような「ソーダ」の
「泣いちゃいそうだ」
という歌詞はそのままこの日のライブ、この日のsumikaによる「風になって」のカバーを思い出した時の我々の心境のようであるのだが、
「YouTubeでもサブスクでもなく、ライブでバズを起こします!」
と言って演奏された「ペルソナ・プロムナード」のハードなサウンドと社会への警鐘と皮肉を纏った歌詞が爽やかだけではないsumikaの持ち味を見せてくれる。正直、対バンに招かれた側のライブでこうした曲が聴けるとは思っていなかったのだが、ぴょんぴょん飛び跳ねながらギターを弾く黒田の姿を含めて、バンドサウンドがさらに一丸となってきているのがよくわかる。
そんな中でメンバーが一旦ステージから去り、GeorgeのDJと片岡のボーカルのみという形で演奏されたのは「Babel」であるが、初めてsumikaのライブを見た人、この曲を聴いた人は「sumikaってこんな曲もあるの!?」とさぞや驚いたに違いないが、片岡のボーカルは全く問題ないどころか、
「悲しみよ
さようなら さようなら」
というサビを歌う際には確かに怒りとも感じられるような感情が確かに歌詞に宿っている。フェスでも演奏しているとはいえ、「ペルソナ・プロムナード」含めてこうした、多くの人が持っているであろうイメージとは異なるような曲を演奏できるのはドロスが長い持ち時間をsumika側にもくれたからである。
曲の最後にメンバーがステージに戻ってくると、荒井によるマーチ的なリズムのイントロによる、ジャス的な要素も取り入れた「Strawberry Fields」では間奏で三浦のギター、Georgeのキーボード、須藤のベースというゲストメンバーのソロ回しも行われる。須藤のベースにはノイジーなエフェクトがかけられたりしていることもあり、今のこのゲストメンバーがsumikaのライブにどんな音をもたらしてくれているのかというのが実によくわかる。そんなソロ回しの最後には荒井によるドラムソロも挟まれたことで、そうしたゲストメンバーの音をまとめているのが荒井のリズムであるということもよくわかる。
そんな中で再び流れはポップな方へと向かっていくのが片岡がまたハンドマイクになって歌う「Traveling」なのだが、歌詞は不倫を巡るものになっているというのが良い子的なだけではないsumikaの毒の部分を感じさせてくれるのだが、片岡がステージ上手端のカメラに目線を向けながら歌い、その表情がスクリーンに映し出されるとその姿にしか目がいかなくなるというのは、ドロスの「Adventure」などで見せる川上の姿と同じものだ。sumikaはドロスのようなロックスター然としたバンドではないけれど、ボーカルがその人にしかないオーラのようなもの(もちろん2人のそれは全く違うタイプのものだが)を纏っている。全く異なるタイプのバンドだと思っていたドロスとsumikaには確かに通じるところがあったのだ。
そしてフェスなどのライブでもこうした対バンでも欠かさずに演奏されるバラード曲がsumikaが今の若手バンドの中で珍しいくらいにそうしたどストレートなバラードを代表曲の一つとして持っていることを示すのが「願い」であるが、スクリーンには「Lovers」と対になるような都会のビル群の夜景のアニメーションが映し出される。最後の
「「さようなら」
春の中で」
という片岡の伸びやかなボーカルが響き渡るフレーズではアニメーション上で雪が夜景に降り注ぐ。その夜景のビル群がこの有楽町・銀座界隈の中にある国際フォーラムの周りの景色そのもののようであるのだが、その雪が降る情景とそこに流れるフレーズは、こうしてフルキャパでライブができるようになってきたとはいえ、まだまだ規制が多いと言わざるを得ない音楽業界、ライブ業界へのさらなる春の到来を待ち侘びるかのようだった。
すると片岡は
「今日、リハからずっと見させてもらってましたけど、[Alexandros]は本当にカッコいいバンドです。後輩ではあるけれど、後輩とか友達みたいな関係性で対バンしてもなぁなぁになってしまうし、だからこそバチバチにやっつけてやる!ってつもりで今日は来ました。
でも2020年があったじゃないですか。その時に[Alexandros]にも我々にもなくなってしまったライブがたくさんあって。その時に1番LINEとかで話をしていたのが洋平君でした。ライブが出来なくても全然腐ることなく前を向き続けていて。
そんな2020年を経て、こうやって対バンすることができている。だから今日は「やっつけてやる!」とかよりも、ただあなたが、[Alexandros]がカッコいいと思い続けることができて、ライブに来続けてくれていたらそれだけでいいなと思いました。今日は来ることを選んでくれて本当にありがとうございました」
とこの日について、ドロスという存在について総括するのだが、どんなライブであっても片岡は「あなたは私なんですか」と思えるようなことをステージから言ってくれる。それはバンドをやっていなかったら自分のように客席側でライブを見ていたであろう人間として、声が出せずに思いを伝えることができない我々の気持ちを代弁してくれているかのようだ。
ドロスがカッコいいからライブに来続けているというのは間違いなくここにいた誰もが抱いている感情そのものだろう。でも自分はsumikaも初めてライブを観た時(まだ小川は正式メンバーじゃなかった頃)から、sumikaだってカッコいいバンドだと思い続けているから、ずっとライブに行き続けている。これからもずっとそう思わせてくれるバンドであるとも信じている。
そんなMCの後だからこそ、「ファンファーレ」の
「ああ 夜を越えて 闇を抜けて 迎えにゆこう」
というサビのフレーズが、確かに音楽、ライブ業界を覆っていた夜を越えて、闇を抜けて、こうしてドロスとsumikaが我々を迎えに来てくれたんだなと思えるものになっている。ラスサビで思いっきり速さと手数を増した荒井のドラムをはじめとして、ステージ上にいる全員の鳴らす音からも確かにそうした感情が溢れ出していた。ドロスに負けたくないというよりも、ただただこうしてライブが出来ている喜びをsumikaの音楽として放出したいというように。
そして
「最後は我々らしく笑って終わりたいと思います!」
と言って再度片岡がハンドマイクになり、ステージ上を歩き回りながら歌うのは、小川とGeorgeの美しいキーボードの旋律と手拍子、三浦だけではないほぼ全員のコーラスが否が応でも我々を楽しい気持ちにさせてくれる「Shake & Shake」。
2コーラス目では小川と黒田だけではなく、荒井すらも立ち上がって手拍子をするのだが、それができるのはGeorgeのトラック的なサウンドと須藤のベースが手拍子するメンバーたちの傍でしっかりバンドの土台を築いているからであり、そこにこそ今のこのメンバーでのsumikaの強さとしなやかさが現れているのだが、片岡はサビ最後の
「なんだかんだ言って嫌いじゃないぜ」
のフレーズの後に、
「むしろ[Alexandros]もディスフェスも大好きだー!」
と叫んだ。それはドロスファンとして本当に嬉しい瞬間だったけれど、それと同じように、sumikaのことだって大好きなんだよな、と去り際に片岡がダブルピースする姿を見て思っていた。
全13曲、ほぼ1時間くらいという持ち時間は普通の対バンライブではまず有り得ない尺の長さだ。なんなら「フェス」というタイトルがつくライブなら主催者のオープニングアクト的に30分くらいで終わるようなことだってざらにある。でもこの持ち時間の長さによって、まるでワンマンのようにライブに緩急や起承転結をつける流れを組むことができる。一面だけじゃない、全面を見せることができる。
きっと、このライブを見る前よりもsumikaのことを好きになったという人がたくさんいるだろうし、そう思ってもらうためにドロスはこうしてワンマン並みと言えるような時間や演出をsumika側に提供したのだ。それは滅多に対バンライブをやらないドロスだからこそ、逆に対バンライブがどれだけ呼んだ相手にとって大事なものであるかをわかっているから。数え切れないくらいにライブを見てきたバンドだけれど、それでもこの日のライブの記憶や光景を、ずっとずっと離さぬように。
1.リグレット
2.Flower
3.Lovers
4.グライダースライダー
5.風になって
6.ソーダ
7.ペルソナ・プロムナード
8.Babel
9.Strawberry Fields
10.Traveling
11.願い
12.ファンファーレ
13.Shake & Shake
・兼丸 (the shes gone)
sumikaが終わって、転換時間となって席を立ってトイレに行く人などもいる中で、すぐにスクリーンに
「next artist is…」
という文字が映ったので、「え!?」と驚いていると、会場上手の非常口付近(先日この会場で宮本浩次がワンマンを行った時に「悲しみの果て」を歌いながらドアを開け放つという縦横無尽極まりないパフォーマンスを見せていた場所)にマイクスタンドを立てて、アコギを持って立っていたのは、the shes goneのボーカルの兼丸。このタイミングでの弾き語りでの出演である。
ドラマや映画のような、想像するのすらキツくなるような別れの情景が描かれた「最低だなんて」をアコギを弾きながら歌い始めるのだが、音源は聴いていたけれど、こうしてライブを観るのは初めてだったので、兼丸の声の伸びやかさに本当にビックリしてしまった。すでにZeppクラスの会場でもツアーをやっているとはいえ、それよりもさらに広い国際フォーラムでもしっかり響き渡る声、何よりもどアウェーなはずのこの日の観客が完全に歌うに連れて引き込まれている、会場全体が持っていかれているのが確かにわかる様子を見て、こんなに素晴らしいボーカリストだったとは、と思わずにはいられなかった。
「2週間前に急遽「出ない?」って誘われた(笑)」
というだけに緊張もあったかもしれないが、タイトルのリフレインが兼丸の声も含めて頭から離れないくらいのインパクトを残す「甘い記憶」を歌う姿も声も、こうした巨大なホール会場で歌うのが初めてとは思えないくらいに堂々としている。それはメンタルの強さ故なのか、あるいは天然なのか。そこはこれからもっとこのバンドに触れることによって確かめていきたいところだ。
そんな曲の歌詞からも、なんならバンド名からも強く感じるのは、人によってはロックバンドらしからぬと感じるであろうくらいの女々しさであり、そもそもバンドを始めたきっかけがそうした感情であることを兼丸はインタビューなどでも偽ることなく明かしているが、この日も自身が抱えるそうした感情を、ドロスとsumikaのファンの前でも恥じることなくしっかり伝えると、最後に歌ったのは昨年シングルとしてリリースされた「ラベンダー」。
弾き語りだからこそそのメロディの良さと、メロディの良さをさらに引き上げるような兼丸の歌声の力(特にフレーズ終わりで母音を伸ばして歌う時)を感じることができるのだが、兼丸本人が弾き語りであってもあくまで「バンド」と口にしていたように、今度はバンドでのライブを観てみたくなった。多分、自分やまだこのバンドのライブを観たことがない人が思う以上に、ライブが良いバンドなんだろうなということが弾き語りを観るだけでわかるし、そこにこそこのバンドが支持されている理由があるんだろうなと思える。
今までライブを観たことがなかったのは、明らかに自分はこのバンドのことを少し舐めていたところがあったからだ。でもこの日兼丸が
「[Alexandros]はUK PROJECTの先輩」
と言っていたのを聞いた時に、ああ、そうだった。UKFCなどが始まるさらに昔から、UK PROJECTに所属しているバンドはみんなカッコいいライブバンドばかりだったんだよな、ということを思い出した。きっと、このバンドがUK PROJECTにいる理由もそういうものだろう。そんなバンドと、ようやくライブという場で出会うことができたことを嬉しく思う。
1.最低だなんて
2.甘い記憶
3.ラベンダー
・[Alexandros]
そんな後輩たちのライブの後にこの日の主催者の[Alexandros]が実に久しぶりにステージに立つ。制作期間だったりもしたのだろうけれど、春のイベントやフェスにも全く出演していなかっただけに、ライブを観るのは昨年末のCOUNTDOWN JAPAN以来である。
「The final artist is…」
というアナウンスが流れて場内が暗転すると、おなじみの「Burger Queen」のカウントダウンによるSEではなく、どこかブルースのようなSEが流れ、暗闇の中であってもすぐにメンバーがステージ上に出てきているのがわかり、暗闇でも光って見える鮮やかな金髪の白井眞輝(ギター)と、いつもと変わらずに半袖Tシャツ姿の磯部寛之(ベース)が微かに音を鳴らし始める。リアド(ドラム)は髪をバッサリと切って爽やかになっているが、川上洋平(ボーカル&ギター)もどこか髪型は少し落ち着いてきたように感じる出で立ちである。
登場時のブルース的なSEをそのままバンドで鳴らすかのように演奏を始めると、スクリーンには「BACK TO THE FUTURE」のタイトルのようなポップな書体で、演奏しているメンバーの名前が次々にスクリーンに映し出されていき、そこにはおなじみのROSE(キーボード)も、そのROSEのバンドメイトであり、近年のドロスのライブには欠かせない存在になりつつあるMullon(ギター)の名前までも映し出され、いきなり6人のフル編成であるのだが、ブルース的に始まった曲がそうしたメンバー紹介を経て一気に激しさを増し、それが急に「Burger Queen」へと変化していく。それはリアド加入後の、この6人でのこの曲が今はこうしたアレンジであるということを感じさせるのだが、そのギター3本とキーボード、リズムが重なる瞬間がやはり観客の心を一気に昂らせてくれるのである。
そのままROSEのキーボードが暴れ馬的なホーンのサウンドを奏でる「Droshky!」という選曲へと至るのだが、この序盤にこの曲、さらに続けて4人だけになっての(曲によってROSEとMullonは抜けたり入ったりする)「Rocknrolla!」と、序盤からドロスの獰猛なロックサウンドの曲が続いたのは、もう久しぶりのライブなだけにとにかく爆音で俺たちのロックをぶっ放したいというような、精神的な爆裂っぷりが紛れもなくそのまま肉体的な爆裂っぷりに繋がっていた、というくらいに昨年行われなツアーなどで観た時よりも明らかにバンドの演奏が、川上のボーカルが違いすぎる。川上が思いっきり舌を巻いて叫ぶように歌うのも、磯部が頭を振りまくるようにするのも、白井が前に出てきてギターソロを弾きまくるのも、溜め込んでいたものを全開放するような様はやはりこのバンドがライブをやって生きてきたバンドであることを改めて示しているかのようだ。それは対バンライブで、出てくれたsumikaと兼丸のライブに触発されたという部分も間違いなくあると思われるが。
ドロスのライブは既存曲もライブならではのアレンジで再構築されていたり、曲同士の繋ぎもセッション的になっていたりすることが多いのだが、この日もすでに「Burger Queen」でそうしたアレンジを施していたのはもちろん、ROSEのピアノとリアドのドラムが、まるで川上がゲストボーカルで参加した、スカパラの沖祐市(キーボード)と茂木欣一(ドラム)のセッションのように展開するという新たな繋ぎが生み出されることによって、これまでのリアドのドラムに合わせて煽りまくるという形ではないものへと進化した「Waitress, Waitress!」へと繋がるのだが、やはり川上がアコギをジャカジャカと情熱的に刻み始めると、磯部も白井も「声は出せなくてももっと来い!」と言わんばかりに両腕で観客を煽りまくる。アレンジが変わっても熱さは全く変わらないどころか、やっぱりこの日のライブの熱さは今まで数え切れないくらいに観てきたライブ以上だ。そのバンドの演奏の熱さによって、観客もTシャツ1枚で飛び跳ねまくっていたりと、ホールでありながらにしてまさに夏フェスのような暑さになっていく。
さらには電子音も流れての「Kick & Spin」では川上はハンドマイクになる中で、白井、磯部、さらにはMullonの3人がフライングVに持ち替えてラウドなサウンドを鳴らしまくり、川上がキメのリズムに合わせて、卑猥な動きのようにすら感じるように腰を振る仕草を見せると、間奏では白井とMullonが向かい合うようにして頭を振りながらギターを弾く。
ここまでの前半のアッパー極まりない曲の連打に次ぐ連打は、久しぶりのライブで思いっきり爆音で自分たちの音を鳴らしたいという意識がハッキリと伺える。それはsumikaの片岡が「本能で音楽を作っている」と評したとおりに、自分たちが今この瞬間にやりたいことをやりたいようにやっているということだ。
「new song」
と一言言って演奏されたのは、すでにアニメのタイアップとしてオンエアされている「無心拍数」。この曲が「閃光」や「Rock The World」の流れに連なるような、ただひたすらにカッコいいドロスのロックソングになっているというところに今のバンドのモードが伺える。いろんな音楽を聴いてはそれを自分たちの音楽に器用に、それでも荒々しさをなくすことなく取り入れてきたバンドであるが、今は1番自信のあるストレートを強く速く投げようとしているというか。この日はこの「無心拍数」はワンコーラスだけだっただけに、実際に完成形を聴いたら全く印象が違う曲になっている可能性も0ではないのがドロスであるが。
そんな、第一印象と完成系のイメージが違う最新の曲がCMでもオンエアされていた「日々、織々」であるが、その完成系での「もっと素朴な曲かと思ったら、こんなにオシャレかつムーディーな曲になるとは」というイメージを具現化するかのように、スクリーンには夜の都会の道を歩いているかのようなアニメーションの映像とともに、
「黄身のないオムライス作って」
という、CDリリース時に歌詞カードを見て「こんな歌詞だったの?」と思った歌詞も同時にスクリーンに映し出されていく。どこか今回のライブではこうした映像の使い方もsumikaとも通じるものを感じる。
さらには、
「初めてライブでやります」
と言って演奏されたのは、家入レオに提供した「空と青」のセルフカバー。これまでにも川上の弾き語り的にチラッと歌うことはあったけれども、今回は完全にバンドアレンジ。もともと家入レオバージョンも間奏のギターなどはドロスでしかないというか、白井が弾いている絵が浮かんできてしまうくらいのものであっただけに、元からこうしてこのバンドの曲として作っていた曲なんじゃないかというくらいにハマっている。おそらくはこの曲はこのバージョンで来るべきアルバムに収録されることになると思われる。
するとここで川上は
「シャツをインします」
と言って、それだけで拍手が起こってしまうことに少し驚きながらも、
川上「国際フォーラムは前にスペシャのアワードでちょっとライブをしたことはあるけど、こうやってがっつりライブやるのは初めてで。
でも俺は昔、ここで映画を見たことがあって。主演のトム・クルーズが会場に来てくれていたんだけど、会場に着いたらトム・クルーズが入り待ちしてる人にサインをしてて、1時間くらい並んでサインしてもらって。
だから俺たちもそうやってファンサービスは極力しようと思うのはトム・クルーズを見て思ったことです。最近はあんまりしてないけど(笑)」
磯部「っていうか今はコロナでそういうのやっちゃダメだからね」
川上「あ、そうか。でもそういうファンサービスを全部音でしていきたいと思います。久しぶりにライブやるとやっぱりダラダラ喋りたくなっちゃうけど(笑)」
と、久しぶりの観客の前に立つ機会であるだけに、止まらないくらいに喋りまくろうとするのだが、この「ファンサービスを音でする」というところにドロスというバンドのカッコよさが集約されていると思う。結局はそれが我々の最も求めるものであり、最もライブに行きたくなる理由であるのだから。
そんなMCの後に演奏されたのは、前回のツアーでも、その後のフェスなどでも最後にアンコールで演奏されていた「Rock The World」。昨年までのなかなかライブに行くことや、こうしてドロスのライブを観るのが難しかった時期、さらにはサトヤスが勇退してリアドが加入したというバンドの変化。それでも進んでいくということ、ロックし続けていくということが
「泣きたくなるほど なるほどに
僕らはちょっと強くなれる
消えたくなるほど なるほどに
世界はそっと近づいてく」
というサビの歌詞として集約されていく。それが少しずつ晴れてきているからこそ、こうして最後ではない位置で演奏することにしたのだろうし、そうしてこの世界をロックし続けて欲しい。ど真ん中なようでいて白井のイントロのタッピングや、メンバー全員でのコーラスなど、ドロスとしての新しい世界に向かっていくという挑戦が確かに見える曲だ。
すると川上が再びハンドマイクになり、ステージにはスッとMullonが登場して、白井がイントロのギターフレーズを奏で始めると、リアドのドラムの連打がまるで光のような疾走感を与え、観客が声は出せなくても「オイ!オイ!」という声が聞こえてくるかのように腕を振り上げていくのは、会場のどこかにいたであろう小野賢章も喜んだであろう「閃光」。
川上はリリース当時はほとんど動かずに歌っていた(そもそも最初はギターを弾きながら歌っていた)のが、今ではこの曲を歌いながらもステージを左右に動き回るようになっているのだが、コーラスパートではスクリーンにこの日初めて客席の様子が映し出される。マスクをして、声が出せない中でも腕を伸ばして歌うようにしているその様を見ていたら、なんだか泣けてきてしまった。それはフルキャパでこんなにたくさんの人がライブを観ることができているからというのもあったかもしれないが、そう思わせてくれるこの曲のコーラスを、近い将来みんなで歌える日が来ることを信じている。
そんな「閃光」の後に演奏された「Mosquito Bite」はアリーナやスタジアムを掌握するようなスケールを見せつけてきた曲であるだけに、もはやこのホールという規模が狭く感じてしまうほど。それでもサビ終わりや間奏終わりでは曲中にも関わらず拍手が起こるというのは、今やこの曲もライブで欠かせなくなった迫力を持った曲であるということを示している。
するとリアドが四つ打ちのバスドラを踏み始め、そのリズムに合わせたギターの音が絡み合うという形での「Girl A」はこれまでにも様々な形でのライブアレンジを見せてきた曲であるのだが、この日は元々の獰猛さは失われないままで、ドロスのライブの新たな扉を開くようなスペイシーなロックサウンドへと変化、進化を果たした形に生まれ変わっていた。まさかこの曲がここに来てこんなに進化を果たすなんて全く思っていなかったが、これはセトリだけ見てもわからない、この日目の前でこのアレンジの演奏を見ていた人にしかわからないような素晴らしさだった。ダンスに振り切るわけでもなく、ダンスとロックが絶妙な強度で共存しているというのは、かつてバンドがカバーしていたPrimal Screamを参考にしたところもあるのかもしれない。こうしたアレンジを見せてくれるから、どんなライブのどんな曲でも見逃せないのだ。
そして最後に演奏されたのは、イントロでキメに合わせて暗いステージに真っ白な照明が光る初期曲の「She's Very」。4人だけで演奏されたからこそのシンプルなサウンドはこの日の流れで最後に聴くと逆に新鮮にすら感じるのだが、やはりリアドのドラムになったことによって、サトヤスの時とはまた違う力強さを感じるようにもなっている。何よりも曲が終わった瞬間にステージが暗くなり、すぐにメンバーがステージから去っていくという潔さが本当にカッコ良すぎたのだ。
割とすぐに登場したアンコールではすぐにメンバーが楽器を持ち、白井が右手でギターのネックを抑えるようにして演奏するインスト曲は懐かしの「Schwarzenegger」のオープニング曲である「The」であり、もちろんそのまま「El Camino」というアルバム通りの流れへと向かっていく。こうして今聴くと実に変な構成の曲だなとも思うのだけれど、今になってこのアルバムのオープニングの曲を聴けるなんて思っていた人がどれだけいただろうか。本人も
「10年ぶりくらいにやりました」
と言っていたが、過去の、それこそ[Champagne]時代のアルバムも今の編成で再現ライブなんかをやってもらいたいものである。
そのままリアドがドラムを叩き出すのは「Waitress, Waitress!」であり、それもまた「Schwarzenegger」の流れでもあるのだが、さすがに川上に
「この曲はもうやったから」
と言って制して演奏を止め、sumikaの片岡が
「声が出ないかもしれない」
と言っていたことに心配しながらも全く問題がなかったことを本人に呼びかけ、the shes goneの兼丸という新しい事務所の後輩が出来たことを喜んでいたが、それでも言葉の端々からはただ先輩後輩ということで馴れ合うようなことはしないというドロスらしさをも感じさせた。
すると川上はアコギを持ち、ここでsumikaの「センス・オブ・ワンダー」を、
「ちょっとキーを高くして歌いますね」
と、自身に合ったキーでサビだけ歌う。馴れ合わないけれど、それでも確かに認め合っている。それはお互いに良い曲、カッコいい音楽を作っている存在だからこそだ。
そんな「センス・オブ・ワンダー」を歌った後だからこそ、
「いつもより荒々しく歌います!」
と言って川上がハンドマイクとなって歌ったのは「ワタリドリ」。ROSEとMullonも含めた6人編成だったことによって、川上は歌詞の
「大それた四重奏」
のフレーズを
「大それた六重奏」
に変えて歌っていた。それは今のこの6人編成だからこそこの日のサウンドを鳴らすことができているということを、やはりあくまでも曲で示すかのようだった。
そんなライブの最後に演奏された「Adventure」の
「アリトアラユル問題も
タビカサナルそんな困難も
いつだって僕達は
頭の中身を歌ってんだ
大胆な作戦で
言葉にならないマスタープランで
いつだって僕達は
君を連れて行くんだ」
というフレーズは、我々が確かに2年前からのコロナ禍という問題や困難を乗り越えてきたからこそ、こうしてこの日を迎えることができていて、川上がカメラマンの持つカメラをコーラスパートを迎える瞬間に客席に向けるというおなじみの姿を見ることができている。それだけじゃなくて、曲のアウトロでは川上が矢沢永吉のようにマイクスタンドごと持ってマイクの先を客席に向けていた。観客が心で歌っているコーラスを少しでも拾おうかとするように。
そうして少しでも進むことができている感覚を得ることができたのは、コロナが収束してきているとか、落ち着いてきてるっていうことではない。前回はコロナ禍になった直後、まだ誰も全然有観客ライブを行っていなかった時に人数を絞りまくって開催し、配信でしか観ることが出来なかったこのフェスにこうして参加することができているからだ。
配信ですら見れて嬉しいとも思っていたけれど、チケットが取れなかったのにガラガラな客席を配信で見ているのはやはり悲しかったし、寂しかった。自分もどんなにチケットが高くても画面越しじゃなくて目の前で演奏するドロスの姿を見たかったから。今年のディスフェスがより参加できて嬉しかった感覚があったのは、その経験があったからだ。これから先も、こうしてこのフェスを自分の目で見て、耳で聞くことができますように。
演奏が終わると、この日の出演者を呼び込んで写真撮影を行うのだが、sumikaがメンバー4人だけではなくて、ゲストメンバー3人もステージに招かれていた。そのsumikaがまるでワンマンのような内容とボリュームだったこと、黒田がこのフェスのTシャツに着替えていたことも含めて、ドロスはこの久しぶりの対バンを本当に楽しんでいた。
そしてメンバーは口にはしなかったけれど、写真撮影後にスクリーンにアルバムが7月にリリースされるということが映し出されたのが実にドロスらしいと思ったし、終演後の影アナもやはり小野賢章だった。これまでに参加してきた中でも、間違いなく最高の1日になったディスフェス2022だった。
この日が終われば世間はゴールデンウィークに突入していく。今年はドロスは出演しないけれど、まだコロナが猛威を奮っていた昨年のゴールデンウィークに開催されたJAPAN JAMはあらゆる批判に晒されながらの開催となった。
そのJAPAN JAMに、ドロスもsumikaもトリとして出演し、ドロスは川上がフェスのスタッフが着ているコートを着てこのフェスと一連托生であることを示し、sumikaは片岡が
「ここへ来ることを選んだあなたを傷つける人がいるのであれば、俺はそれを許せない」
とかつてなく強い口調で我々の選択を肯定してくれた。
そんな2組の姿や言葉に支えられてライブに行くことができた1年間の後に、こうしてその2組が共演する姿を観ることができた。そう考えると、このフェスにドロスがsumikaを呼んだのは意外でもなんでもなく、むしろ必然だったのかもしれない。それは大胆な作戦というよりも、言葉にならないマスタープランだったのかもしれない。
1.Burger Queen
2.Droshky!
3.Rocknrolla!
4.Waitress, Waitress!
5.Kick & Spin
6.無心拍数
7.日々、織々
8.空と青
9.Rock The World
10.閃光
11.Mosquito Bite
12.Girl A
13.She's Very
encore
14.The
15.El Camino
16.センス・オブ・ワンダー 〜 ワタリドリ
17.Adventure
「THISってdisるっていう意味かと思ってた(笑)他の夏フェスをdisってる、みたいな感じで。さすが帰国子女、すげぇ!って(笑)」
とフェスのタイトルの意味を勘違いしていた、[Alexandros]主催の「日本一早い夏フェス」ことTHIS SUMMER FESTIVAL。今年はまだ春フェスすら本格的に始まる前という、まさに1番早い夏フェスというだけある日程での開催となった。
[Alexandros]は近年は基本的にツアーや主催ライブはワンマンばかりということもあり、こうして対バンライブを行うのも実に久しぶりであるのだが、その対バン相手は世代も割と近いし、バンドとしての地元も近くとはいえ、ドロスの対バンに呼ばれるとは、というのが実に意外なsumika。個人的には今月行くはずだったsumikaのツアーのZepp Hanedaが延期になってしまっただけに、願ってもないリベンジの舞台である。
長いCREWブースの列と入場列を経て国際フォーラムの中に入ると、ステージ背面のスクリーンにはすでにこのフェスのメインビジュアルが映し出されており、開演時間前にはドロスのライブではおなじみの影アナが入るのだが、その声が明らかにいつものスタッフのものではない、良い声であることに気付くのだが、その声の主はドロスの「閃光」が主演を務めた「閃光のハサウェイ」の主題歌になり、映画の宣伝などでも何度かトークをしている、声優の小野賢章。
自分はすでに何度も「閃光のハサウェイ」を鑑賞している(ドロスが山下公園のガンダム立像の前でライブをやったのが流されたスペシャルバージョンも観に行った)のだが、あんなにあの映画に「これしかない!」という曲を作ったからこそ、こうしてその映画で築いた関係性がこうしてライブという場にまで波及している。ドロスは他にもタイアップ曲もあるし、ガンダムシリーズには過去にも数々のロックバンドたちも曲を提供しているけれど、こんなにも幸福な形で作品とバンドが融合したことは他にないと思っている。改めてドロスは素晴らしい作品に素晴らしい曲を提供したんだなと思える。
・sumika
そんな驚きのオープニングからも、ライブに関わる人すべてのこの日にかける気合いが伝わってくるのだが、そんなこの日の対バンのsumikaは
「next artist is…sumika!」
というアナウンスが流れる中で暗い場内に現れると、メンバー4人が前で横一列に並び、その後ろにフレンズの三浦太郎(ギター&コーラス)、Mop of HeadのGeorge(キーボード)、XIIXの須藤優(ベース)の豪華なゲストメンバーが並ぶという最近おなじみの7人編成である。
片岡健太(ボーカル&ギター)がギターを鳴らしながら
「君の音を聴かせてよ」
と歌い始める突き抜けるように爽やかなギターロックサウンドの「リグレット」からスタートするというのは、どこからどう切り取ってもロックバンドでしかないドロスに招かれたライブ、ドロスのファンの前で鳴らす曲としてこれ以上ないものであるが、早くも体を大きく逸らすようにしたり、躍動感溢れるアクションでギターを弾く黒田隼之介(ギター)とは対照的に、スクリーンに歌う姿がアップで映る片岡の表情はどこか緊張感を強く感じる。それは自身の喉の不調によってライブを延期してしまって、本番でしっかり歌えるかどうかという心配もあったのかもしれない。
しかしそんな不安を吹き飛ばすように、ハンドマイクになってステージを歩き回りながら歌う片岡の表情が「Flower」で明るくなっていったのは、印象的な黒田のリフから始まり、ステージ下手でメンバーの方を向いてドラムを叩く荒井智之(ドラム)の生み出すリズムに合わせて手拍子をする観客たちの姿が見えて、音が聞こえたからかもしれない。本人たちもバンドとしてのタイプが違い過ぎることを不安に思っていたようだが、もうこの時点でこの日のsumikaがアウェーではないことがわかる。
「ディスフェス!」
と片岡がフェスのタイトルを口にした後の「Flower」のフレーズを小川貴之(キーボード)や三浦が声を重ねるのに合わせて観客の腕が上がる姿からもそれは確かに感じられる。
というよりもすでにバンドとしてこうしたホールでのライブ経験も豊富なバンドであり、こうした座席がある会場でのライブにふさわしい曲を生み出してきたバンドであるが故に、この会場がsumikaをホームたらしめているということもあったと思うし、それは我々がそうしたホールでのsumikaのライブを見てきたからだとも言えるのだが、小川の流麗なキーボードのイントロによって始まった「Lovers」では曲のMVに合わせたような、フィルムが結婚式場の敷地内を映し出すようなアニメーション映像が流れる。最後には夜の情景に花火が上がるというドラマチックな展開はラスサビで音階が上がるという曲自体のドラマチックさに実によく似合う演出であるが、対バンとして迎えられた側のバンドがこうして専用の映像を使えるというのはかなり異例のことであり、そこにドロスサイドからの出演してくれたsumikaへの無言の、しかしながら至上のもてなしっぷりを感じる。それによって初めてライブを見る人によりバンドの持つ世界観がしっかり伝わるようになるからだ。
そうした映像の効果もあって、すでにここまでで完全にsumikaのワンマンに来ているかのような感すらあるのだが、
「呼んでいただけて本当に嬉しいし、ビックリしてます。我々みたいなバンドは好まれてないと思ってたから(笑)
洋平君とはドライブに行ったりするし、磯部さんとも会えば話すし、リアドさんも前のバンドの時から知ってるんですけど、白井さんですよ(笑)今日のミッションは白井さんを笑わせることだと思ってます!(笑)みんな、めっちゃ頷いてくれてる(笑)」
というMCはドロスに向けたものであるだけに、やはりこの日のライブが招かれた側であるという頭に戻してくれるのだが、やはり片岡は白井が1番コミュニケーションを取るのが難関なメンバーであることを見抜いているのはさすがであるし、その笑顔を他のメンバーに比べるとあまり見る機会がないのをわかっているからこそ、観客も頷いていたのだ。(ライブのMCなどでは結構笑ったりするけど)
さらには君付けで呼ぶあたりから親しさが伝わってくる川上とは共通の友人がいることを明かし、
「洋平君が香川に行くって言って。その人にうどんのお土産を買ってきてくれたらしいんですよ。洋平君はうどんが好きみたいで。
で、その人が次に洋平君と会う時にお土産を貰うのを楽しみにしてたら、次に会った時に
「美味しそうだったから食べちゃった」
って言われたんだって(笑)大人になってまで買ってきてあげたお土産を自分で食べる人はいないですよ!(笑)
その話を聞いた時に、この人は信用しないといけないなって思った(笑)音楽もそうやって本能の赴くままに作ってる人ってことだから(笑)」
という、川上の株を上げてるんだか下げてるんだかわからないけれど、実に川上らしいエピソードの開陳に客席は爆笑。こうした話をしっかり持っているのもまたさすがである。
すると再び片岡がギターを弾きながら歌い始める「グライダースライダー」と、こうして割と初期のものと言える楽曲が連発されているのは今のツアーやFC限定ライブの内容がそうしたものなのだろうかとも思ってしまうだけに、早く振替公演に参加したくて仕方なくなるのだが、そうした曲でもサビやコーラス部分では腕が上がったりするだけに、ドロスファンには間違いなくsumikaの曲を知っていて、ライブを見たことがあるという人もたくさんいるということがわかる。交わらないように見えて、実はファンはすでに混じり合っていたのだ。片岡のボーカルも心配していたのが良い意味で馬鹿らしくなるくらいにいつもと変わらない。曲のポップさを最大限に引き出しながらも奥深さを感じさせてくれる声である。
するとここで荒井の力強いバスドラとタムを軸にしたビートの上に、片岡の実に貴重な英語の歌い出しの歌詞が乗るのは、なんとドロスの「風になって」のカバーであり、「グライダースライダー」ではsumikaのバンドロゴが映し出されていたスクリーンには[Alexandros]のバンドロゴが映し出されるというのも、このディスフェスでしか有り得ない選曲だからである。
ワンコーラスだけだったが、やはりsumikaがカバーするとこの曲のポップさと爽やかさがさらに倍増している。そうした風が室内の会場にも確かに吹いていた。小川とGeorgeのツインキーボードによるアレンジがそう思わせる最大の要素だろうけれど、スカパラも川上をゲストボーカルに迎えたライブでこの曲をホーン隊の大迫力サウンドでカバーしていた。そうしたバンドによる違いも面白いのだが、この曲には何かアーティストが他の曲以上にカバーしたくなるような力があるのだろうか。いつかいろんなアーティストの「風になって」カバー集が聴きたい。もちろんsumikaのものはすぐに音源化して欲しいくらいだ。
そんな爽やかな「風になって」の風を引き継ぐような「ソーダ」の
「泣いちゃいそうだ」
という歌詞はそのままこの日のライブ、この日のsumikaによる「風になって」のカバーを思い出した時の我々の心境のようであるのだが、
「YouTubeでもサブスクでもなく、ライブでバズを起こします!」
と言って演奏された「ペルソナ・プロムナード」のハードなサウンドと社会への警鐘と皮肉を纏った歌詞が爽やかだけではないsumikaの持ち味を見せてくれる。正直、対バンに招かれた側のライブでこうした曲が聴けるとは思っていなかったのだが、ぴょんぴょん飛び跳ねながらギターを弾く黒田の姿を含めて、バンドサウンドがさらに一丸となってきているのがよくわかる。
そんな中でメンバーが一旦ステージから去り、GeorgeのDJと片岡のボーカルのみという形で演奏されたのは「Babel」であるが、初めてsumikaのライブを見た人、この曲を聴いた人は「sumikaってこんな曲もあるの!?」とさぞや驚いたに違いないが、片岡のボーカルは全く問題ないどころか、
「悲しみよ
さようなら さようなら」
というサビを歌う際には確かに怒りとも感じられるような感情が確かに歌詞に宿っている。フェスでも演奏しているとはいえ、「ペルソナ・プロムナード」含めてこうした、多くの人が持っているであろうイメージとは異なるような曲を演奏できるのはドロスが長い持ち時間をsumika側にもくれたからである。
曲の最後にメンバーがステージに戻ってくると、荒井によるマーチ的なリズムのイントロによる、ジャス的な要素も取り入れた「Strawberry Fields」では間奏で三浦のギター、Georgeのキーボード、須藤のベースというゲストメンバーのソロ回しも行われる。須藤のベースにはノイジーなエフェクトがかけられたりしていることもあり、今のこのゲストメンバーがsumikaのライブにどんな音をもたらしてくれているのかというのが実によくわかる。そんなソロ回しの最後には荒井によるドラムソロも挟まれたことで、そうしたゲストメンバーの音をまとめているのが荒井のリズムであるということもよくわかる。
そんな中で再び流れはポップな方へと向かっていくのが片岡がまたハンドマイクになって歌う「Traveling」なのだが、歌詞は不倫を巡るものになっているというのが良い子的なだけではないsumikaの毒の部分を感じさせてくれるのだが、片岡がステージ上手端のカメラに目線を向けながら歌い、その表情がスクリーンに映し出されるとその姿にしか目がいかなくなるというのは、ドロスの「Adventure」などで見せる川上の姿と同じものだ。sumikaはドロスのようなロックスター然としたバンドではないけれど、ボーカルがその人にしかないオーラのようなもの(もちろん2人のそれは全く違うタイプのものだが)を纏っている。全く異なるタイプのバンドだと思っていたドロスとsumikaには確かに通じるところがあったのだ。
そしてフェスなどのライブでもこうした対バンでも欠かさずに演奏されるバラード曲がsumikaが今の若手バンドの中で珍しいくらいにそうしたどストレートなバラードを代表曲の一つとして持っていることを示すのが「願い」であるが、スクリーンには「Lovers」と対になるような都会のビル群の夜景のアニメーションが映し出される。最後の
「「さようなら」
春の中で」
という片岡の伸びやかなボーカルが響き渡るフレーズではアニメーション上で雪が夜景に降り注ぐ。その夜景のビル群がこの有楽町・銀座界隈の中にある国際フォーラムの周りの景色そのもののようであるのだが、その雪が降る情景とそこに流れるフレーズは、こうしてフルキャパでライブができるようになってきたとはいえ、まだまだ規制が多いと言わざるを得ない音楽業界、ライブ業界へのさらなる春の到来を待ち侘びるかのようだった。
すると片岡は
「今日、リハからずっと見させてもらってましたけど、[Alexandros]は本当にカッコいいバンドです。後輩ではあるけれど、後輩とか友達みたいな関係性で対バンしてもなぁなぁになってしまうし、だからこそバチバチにやっつけてやる!ってつもりで今日は来ました。
でも2020年があったじゃないですか。その時に[Alexandros]にも我々にもなくなってしまったライブがたくさんあって。その時に1番LINEとかで話をしていたのが洋平君でした。ライブが出来なくても全然腐ることなく前を向き続けていて。
そんな2020年を経て、こうやって対バンすることができている。だから今日は「やっつけてやる!」とかよりも、ただあなたが、[Alexandros]がカッコいいと思い続けることができて、ライブに来続けてくれていたらそれだけでいいなと思いました。今日は来ることを選んでくれて本当にありがとうございました」
とこの日について、ドロスという存在について総括するのだが、どんなライブであっても片岡は「あなたは私なんですか」と思えるようなことをステージから言ってくれる。それはバンドをやっていなかったら自分のように客席側でライブを見ていたであろう人間として、声が出せずに思いを伝えることができない我々の気持ちを代弁してくれているかのようだ。
ドロスがカッコいいからライブに来続けているというのは間違いなくここにいた誰もが抱いている感情そのものだろう。でも自分はsumikaも初めてライブを観た時(まだ小川は正式メンバーじゃなかった頃)から、sumikaだってカッコいいバンドだと思い続けているから、ずっとライブに行き続けている。これからもずっとそう思わせてくれるバンドであるとも信じている。
そんなMCの後だからこそ、「ファンファーレ」の
「ああ 夜を越えて 闇を抜けて 迎えにゆこう」
というサビのフレーズが、確かに音楽、ライブ業界を覆っていた夜を越えて、闇を抜けて、こうしてドロスとsumikaが我々を迎えに来てくれたんだなと思えるものになっている。ラスサビで思いっきり速さと手数を増した荒井のドラムをはじめとして、ステージ上にいる全員の鳴らす音からも確かにそうした感情が溢れ出していた。ドロスに負けたくないというよりも、ただただこうしてライブが出来ている喜びをsumikaの音楽として放出したいというように。
そして
「最後は我々らしく笑って終わりたいと思います!」
と言って再度片岡がハンドマイクになり、ステージ上を歩き回りながら歌うのは、小川とGeorgeの美しいキーボードの旋律と手拍子、三浦だけではないほぼ全員のコーラスが否が応でも我々を楽しい気持ちにさせてくれる「Shake & Shake」。
2コーラス目では小川と黒田だけではなく、荒井すらも立ち上がって手拍子をするのだが、それができるのはGeorgeのトラック的なサウンドと須藤のベースが手拍子するメンバーたちの傍でしっかりバンドの土台を築いているからであり、そこにこそ今のこのメンバーでのsumikaの強さとしなやかさが現れているのだが、片岡はサビ最後の
「なんだかんだ言って嫌いじゃないぜ」
のフレーズの後に、
「むしろ[Alexandros]もディスフェスも大好きだー!」
と叫んだ。それはドロスファンとして本当に嬉しい瞬間だったけれど、それと同じように、sumikaのことだって大好きなんだよな、と去り際に片岡がダブルピースする姿を見て思っていた。
全13曲、ほぼ1時間くらいという持ち時間は普通の対バンライブではまず有り得ない尺の長さだ。なんなら「フェス」というタイトルがつくライブなら主催者のオープニングアクト的に30分くらいで終わるようなことだってざらにある。でもこの持ち時間の長さによって、まるでワンマンのようにライブに緩急や起承転結をつける流れを組むことができる。一面だけじゃない、全面を見せることができる。
きっと、このライブを見る前よりもsumikaのことを好きになったという人がたくさんいるだろうし、そう思ってもらうためにドロスはこうしてワンマン並みと言えるような時間や演出をsumika側に提供したのだ。それは滅多に対バンライブをやらないドロスだからこそ、逆に対バンライブがどれだけ呼んだ相手にとって大事なものであるかをわかっているから。数え切れないくらいにライブを見てきたバンドだけれど、それでもこの日のライブの記憶や光景を、ずっとずっと離さぬように。
1.リグレット
2.Flower
3.Lovers
4.グライダースライダー
5.風になって
6.ソーダ
7.ペルソナ・プロムナード
8.Babel
9.Strawberry Fields
10.Traveling
11.願い
12.ファンファーレ
13.Shake & Shake
・兼丸 (the shes gone)
sumikaが終わって、転換時間となって席を立ってトイレに行く人などもいる中で、すぐにスクリーンに
「next artist is…」
という文字が映ったので、「え!?」と驚いていると、会場上手の非常口付近(先日この会場で宮本浩次がワンマンを行った時に「悲しみの果て」を歌いながらドアを開け放つという縦横無尽極まりないパフォーマンスを見せていた場所)にマイクスタンドを立てて、アコギを持って立っていたのは、the shes goneのボーカルの兼丸。このタイミングでの弾き語りでの出演である。
ドラマや映画のような、想像するのすらキツくなるような別れの情景が描かれた「最低だなんて」をアコギを弾きながら歌い始めるのだが、音源は聴いていたけれど、こうしてライブを観るのは初めてだったので、兼丸の声の伸びやかさに本当にビックリしてしまった。すでにZeppクラスの会場でもツアーをやっているとはいえ、それよりもさらに広い国際フォーラムでもしっかり響き渡る声、何よりもどアウェーなはずのこの日の観客が完全に歌うに連れて引き込まれている、会場全体が持っていかれているのが確かにわかる様子を見て、こんなに素晴らしいボーカリストだったとは、と思わずにはいられなかった。
「2週間前に急遽「出ない?」って誘われた(笑)」
というだけに緊張もあったかもしれないが、タイトルのリフレインが兼丸の声も含めて頭から離れないくらいのインパクトを残す「甘い記憶」を歌う姿も声も、こうした巨大なホール会場で歌うのが初めてとは思えないくらいに堂々としている。それはメンタルの強さ故なのか、あるいは天然なのか。そこはこれからもっとこのバンドに触れることによって確かめていきたいところだ。
そんな曲の歌詞からも、なんならバンド名からも強く感じるのは、人によってはロックバンドらしからぬと感じるであろうくらいの女々しさであり、そもそもバンドを始めたきっかけがそうした感情であることを兼丸はインタビューなどでも偽ることなく明かしているが、この日も自身が抱えるそうした感情を、ドロスとsumikaのファンの前でも恥じることなくしっかり伝えると、最後に歌ったのは昨年シングルとしてリリースされた「ラベンダー」。
弾き語りだからこそそのメロディの良さと、メロディの良さをさらに引き上げるような兼丸の歌声の力(特にフレーズ終わりで母音を伸ばして歌う時)を感じることができるのだが、兼丸本人が弾き語りであってもあくまで「バンド」と口にしていたように、今度はバンドでのライブを観てみたくなった。多分、自分やまだこのバンドのライブを観たことがない人が思う以上に、ライブが良いバンドなんだろうなということが弾き語りを観るだけでわかるし、そこにこそこのバンドが支持されている理由があるんだろうなと思える。
今までライブを観たことがなかったのは、明らかに自分はこのバンドのことを少し舐めていたところがあったからだ。でもこの日兼丸が
「[Alexandros]はUK PROJECTの先輩」
と言っていたのを聞いた時に、ああ、そうだった。UKFCなどが始まるさらに昔から、UK PROJECTに所属しているバンドはみんなカッコいいライブバンドばかりだったんだよな、ということを思い出した。きっと、このバンドがUK PROJECTにいる理由もそういうものだろう。そんなバンドと、ようやくライブという場で出会うことができたことを嬉しく思う。
1.最低だなんて
2.甘い記憶
3.ラベンダー
・[Alexandros]
そんな後輩たちのライブの後にこの日の主催者の[Alexandros]が実に久しぶりにステージに立つ。制作期間だったりもしたのだろうけれど、春のイベントやフェスにも全く出演していなかっただけに、ライブを観るのは昨年末のCOUNTDOWN JAPAN以来である。
「The final artist is…」
というアナウンスが流れて場内が暗転すると、おなじみの「Burger Queen」のカウントダウンによるSEではなく、どこかブルースのようなSEが流れ、暗闇の中であってもすぐにメンバーがステージ上に出てきているのがわかり、暗闇でも光って見える鮮やかな金髪の白井眞輝(ギター)と、いつもと変わらずに半袖Tシャツ姿の磯部寛之(ベース)が微かに音を鳴らし始める。リアド(ドラム)は髪をバッサリと切って爽やかになっているが、川上洋平(ボーカル&ギター)もどこか髪型は少し落ち着いてきたように感じる出で立ちである。
登場時のブルース的なSEをそのままバンドで鳴らすかのように演奏を始めると、スクリーンには「BACK TO THE FUTURE」のタイトルのようなポップな書体で、演奏しているメンバーの名前が次々にスクリーンに映し出されていき、そこにはおなじみのROSE(キーボード)も、そのROSEのバンドメイトであり、近年のドロスのライブには欠かせない存在になりつつあるMullon(ギター)の名前までも映し出され、いきなり6人のフル編成であるのだが、ブルース的に始まった曲がそうしたメンバー紹介を経て一気に激しさを増し、それが急に「Burger Queen」へと変化していく。それはリアド加入後の、この6人でのこの曲が今はこうしたアレンジであるということを感じさせるのだが、そのギター3本とキーボード、リズムが重なる瞬間がやはり観客の心を一気に昂らせてくれるのである。
そのままROSEのキーボードが暴れ馬的なホーンのサウンドを奏でる「Droshky!」という選曲へと至るのだが、この序盤にこの曲、さらに続けて4人だけになっての(曲によってROSEとMullonは抜けたり入ったりする)「Rocknrolla!」と、序盤からドロスの獰猛なロックサウンドの曲が続いたのは、もう久しぶりのライブなだけにとにかく爆音で俺たちのロックをぶっ放したいというような、精神的な爆裂っぷりが紛れもなくそのまま肉体的な爆裂っぷりに繋がっていた、というくらいに昨年行われなツアーなどで観た時よりも明らかにバンドの演奏が、川上のボーカルが違いすぎる。川上が思いっきり舌を巻いて叫ぶように歌うのも、磯部が頭を振りまくるようにするのも、白井が前に出てきてギターソロを弾きまくるのも、溜め込んでいたものを全開放するような様はやはりこのバンドがライブをやって生きてきたバンドであることを改めて示しているかのようだ。それは対バンライブで、出てくれたsumikaと兼丸のライブに触発されたという部分も間違いなくあると思われるが。
ドロスのライブは既存曲もライブならではのアレンジで再構築されていたり、曲同士の繋ぎもセッション的になっていたりすることが多いのだが、この日もすでに「Burger Queen」でそうしたアレンジを施していたのはもちろん、ROSEのピアノとリアドのドラムが、まるで川上がゲストボーカルで参加した、スカパラの沖祐市(キーボード)と茂木欣一(ドラム)のセッションのように展開するという新たな繋ぎが生み出されることによって、これまでのリアドのドラムに合わせて煽りまくるという形ではないものへと進化した「Waitress, Waitress!」へと繋がるのだが、やはり川上がアコギをジャカジャカと情熱的に刻み始めると、磯部も白井も「声は出せなくてももっと来い!」と言わんばかりに両腕で観客を煽りまくる。アレンジが変わっても熱さは全く変わらないどころか、やっぱりこの日のライブの熱さは今まで数え切れないくらいに観てきたライブ以上だ。そのバンドの演奏の熱さによって、観客もTシャツ1枚で飛び跳ねまくっていたりと、ホールでありながらにしてまさに夏フェスのような暑さになっていく。
さらには電子音も流れての「Kick & Spin」では川上はハンドマイクになる中で、白井、磯部、さらにはMullonの3人がフライングVに持ち替えてラウドなサウンドを鳴らしまくり、川上がキメのリズムに合わせて、卑猥な動きのようにすら感じるように腰を振る仕草を見せると、間奏では白井とMullonが向かい合うようにして頭を振りながらギターを弾く。
ここまでの前半のアッパー極まりない曲の連打に次ぐ連打は、久しぶりのライブで思いっきり爆音で自分たちの音を鳴らしたいという意識がハッキリと伺える。それはsumikaの片岡が「本能で音楽を作っている」と評したとおりに、自分たちが今この瞬間にやりたいことをやりたいようにやっているということだ。
「new song」
と一言言って演奏されたのは、すでにアニメのタイアップとしてオンエアされている「無心拍数」。この曲が「閃光」や「Rock The World」の流れに連なるような、ただひたすらにカッコいいドロスのロックソングになっているというところに今のバンドのモードが伺える。いろんな音楽を聴いてはそれを自分たちの音楽に器用に、それでも荒々しさをなくすことなく取り入れてきたバンドであるが、今は1番自信のあるストレートを強く速く投げようとしているというか。この日はこの「無心拍数」はワンコーラスだけだっただけに、実際に完成形を聴いたら全く印象が違う曲になっている可能性も0ではないのがドロスであるが。
そんな、第一印象と完成系のイメージが違う最新の曲がCMでもオンエアされていた「日々、織々」であるが、その完成系での「もっと素朴な曲かと思ったら、こんなにオシャレかつムーディーな曲になるとは」というイメージを具現化するかのように、スクリーンには夜の都会の道を歩いているかのようなアニメーションの映像とともに、
「黄身のないオムライス作って」
という、CDリリース時に歌詞カードを見て「こんな歌詞だったの?」と思った歌詞も同時にスクリーンに映し出されていく。どこか今回のライブではこうした映像の使い方もsumikaとも通じるものを感じる。
さらには、
「初めてライブでやります」
と言って演奏されたのは、家入レオに提供した「空と青」のセルフカバー。これまでにも川上の弾き語り的にチラッと歌うことはあったけれども、今回は完全にバンドアレンジ。もともと家入レオバージョンも間奏のギターなどはドロスでしかないというか、白井が弾いている絵が浮かんできてしまうくらいのものであっただけに、元からこうしてこのバンドの曲として作っていた曲なんじゃないかというくらいにハマっている。おそらくはこの曲はこのバージョンで来るべきアルバムに収録されることになると思われる。
するとここで川上は
「シャツをインします」
と言って、それだけで拍手が起こってしまうことに少し驚きながらも、
川上「国際フォーラムは前にスペシャのアワードでちょっとライブをしたことはあるけど、こうやってがっつりライブやるのは初めてで。
でも俺は昔、ここで映画を見たことがあって。主演のトム・クルーズが会場に来てくれていたんだけど、会場に着いたらトム・クルーズが入り待ちしてる人にサインをしてて、1時間くらい並んでサインしてもらって。
だから俺たちもそうやってファンサービスは極力しようと思うのはトム・クルーズを見て思ったことです。最近はあんまりしてないけど(笑)」
磯部「っていうか今はコロナでそういうのやっちゃダメだからね」
川上「あ、そうか。でもそういうファンサービスを全部音でしていきたいと思います。久しぶりにライブやるとやっぱりダラダラ喋りたくなっちゃうけど(笑)」
と、久しぶりの観客の前に立つ機会であるだけに、止まらないくらいに喋りまくろうとするのだが、この「ファンサービスを音でする」というところにドロスというバンドのカッコよさが集約されていると思う。結局はそれが我々の最も求めるものであり、最もライブに行きたくなる理由であるのだから。
そんなMCの後に演奏されたのは、前回のツアーでも、その後のフェスなどでも最後にアンコールで演奏されていた「Rock The World」。昨年までのなかなかライブに行くことや、こうしてドロスのライブを観るのが難しかった時期、さらにはサトヤスが勇退してリアドが加入したというバンドの変化。それでも進んでいくということ、ロックし続けていくということが
「泣きたくなるほど なるほどに
僕らはちょっと強くなれる
消えたくなるほど なるほどに
世界はそっと近づいてく」
というサビの歌詞として集約されていく。それが少しずつ晴れてきているからこそ、こうして最後ではない位置で演奏することにしたのだろうし、そうしてこの世界をロックし続けて欲しい。ど真ん中なようでいて白井のイントロのタッピングや、メンバー全員でのコーラスなど、ドロスとしての新しい世界に向かっていくという挑戦が確かに見える曲だ。
すると川上が再びハンドマイクになり、ステージにはスッとMullonが登場して、白井がイントロのギターフレーズを奏で始めると、リアドのドラムの連打がまるで光のような疾走感を与え、観客が声は出せなくても「オイ!オイ!」という声が聞こえてくるかのように腕を振り上げていくのは、会場のどこかにいたであろう小野賢章も喜んだであろう「閃光」。
川上はリリース当時はほとんど動かずに歌っていた(そもそも最初はギターを弾きながら歌っていた)のが、今ではこの曲を歌いながらもステージを左右に動き回るようになっているのだが、コーラスパートではスクリーンにこの日初めて客席の様子が映し出される。マスクをして、声が出せない中でも腕を伸ばして歌うようにしているその様を見ていたら、なんだか泣けてきてしまった。それはフルキャパでこんなにたくさんの人がライブを観ることができているからというのもあったかもしれないが、そう思わせてくれるこの曲のコーラスを、近い将来みんなで歌える日が来ることを信じている。
そんな「閃光」の後に演奏された「Mosquito Bite」はアリーナやスタジアムを掌握するようなスケールを見せつけてきた曲であるだけに、もはやこのホールという規模が狭く感じてしまうほど。それでもサビ終わりや間奏終わりでは曲中にも関わらず拍手が起こるというのは、今やこの曲もライブで欠かせなくなった迫力を持った曲であるということを示している。
するとリアドが四つ打ちのバスドラを踏み始め、そのリズムに合わせたギターの音が絡み合うという形での「Girl A」はこれまでにも様々な形でのライブアレンジを見せてきた曲であるのだが、この日は元々の獰猛さは失われないままで、ドロスのライブの新たな扉を開くようなスペイシーなロックサウンドへと変化、進化を果たした形に生まれ変わっていた。まさかこの曲がここに来てこんなに進化を果たすなんて全く思っていなかったが、これはセトリだけ見てもわからない、この日目の前でこのアレンジの演奏を見ていた人にしかわからないような素晴らしさだった。ダンスに振り切るわけでもなく、ダンスとロックが絶妙な強度で共存しているというのは、かつてバンドがカバーしていたPrimal Screamを参考にしたところもあるのかもしれない。こうしたアレンジを見せてくれるから、どんなライブのどんな曲でも見逃せないのだ。
そして最後に演奏されたのは、イントロでキメに合わせて暗いステージに真っ白な照明が光る初期曲の「She's Very」。4人だけで演奏されたからこそのシンプルなサウンドはこの日の流れで最後に聴くと逆に新鮮にすら感じるのだが、やはりリアドのドラムになったことによって、サトヤスの時とはまた違う力強さを感じるようにもなっている。何よりも曲が終わった瞬間にステージが暗くなり、すぐにメンバーがステージから去っていくという潔さが本当にカッコ良すぎたのだ。
割とすぐに登場したアンコールではすぐにメンバーが楽器を持ち、白井が右手でギターのネックを抑えるようにして演奏するインスト曲は懐かしの「Schwarzenegger」のオープニング曲である「The」であり、もちろんそのまま「El Camino」というアルバム通りの流れへと向かっていく。こうして今聴くと実に変な構成の曲だなとも思うのだけれど、今になってこのアルバムのオープニングの曲を聴けるなんて思っていた人がどれだけいただろうか。本人も
「10年ぶりくらいにやりました」
と言っていたが、過去の、それこそ[Champagne]時代のアルバムも今の編成で再現ライブなんかをやってもらいたいものである。
そのままリアドがドラムを叩き出すのは「Waitress, Waitress!」であり、それもまた「Schwarzenegger」の流れでもあるのだが、さすがに川上に
「この曲はもうやったから」
と言って制して演奏を止め、sumikaの片岡が
「声が出ないかもしれない」
と言っていたことに心配しながらも全く問題がなかったことを本人に呼びかけ、the shes goneの兼丸という新しい事務所の後輩が出来たことを喜んでいたが、それでも言葉の端々からはただ先輩後輩ということで馴れ合うようなことはしないというドロスらしさをも感じさせた。
すると川上はアコギを持ち、ここでsumikaの「センス・オブ・ワンダー」を、
「ちょっとキーを高くして歌いますね」
と、自身に合ったキーでサビだけ歌う。馴れ合わないけれど、それでも確かに認め合っている。それはお互いに良い曲、カッコいい音楽を作っている存在だからこそだ。
そんな「センス・オブ・ワンダー」を歌った後だからこそ、
「いつもより荒々しく歌います!」
と言って川上がハンドマイクとなって歌ったのは「ワタリドリ」。ROSEとMullonも含めた6人編成だったことによって、川上は歌詞の
「大それた四重奏」
のフレーズを
「大それた六重奏」
に変えて歌っていた。それは今のこの6人編成だからこそこの日のサウンドを鳴らすことができているということを、やはりあくまでも曲で示すかのようだった。
そんなライブの最後に演奏された「Adventure」の
「アリトアラユル問題も
タビカサナルそんな困難も
いつだって僕達は
頭の中身を歌ってんだ
大胆な作戦で
言葉にならないマスタープランで
いつだって僕達は
君を連れて行くんだ」
というフレーズは、我々が確かに2年前からのコロナ禍という問題や困難を乗り越えてきたからこそ、こうしてこの日を迎えることができていて、川上がカメラマンの持つカメラをコーラスパートを迎える瞬間に客席に向けるというおなじみの姿を見ることができている。それだけじゃなくて、曲のアウトロでは川上が矢沢永吉のようにマイクスタンドごと持ってマイクの先を客席に向けていた。観客が心で歌っているコーラスを少しでも拾おうかとするように。
そうして少しでも進むことができている感覚を得ることができたのは、コロナが収束してきているとか、落ち着いてきてるっていうことではない。前回はコロナ禍になった直後、まだ誰も全然有観客ライブを行っていなかった時に人数を絞りまくって開催し、配信でしか観ることが出来なかったこのフェスにこうして参加することができているからだ。
配信ですら見れて嬉しいとも思っていたけれど、チケットが取れなかったのにガラガラな客席を配信で見ているのはやはり悲しかったし、寂しかった。自分もどんなにチケットが高くても画面越しじゃなくて目の前で演奏するドロスの姿を見たかったから。今年のディスフェスがより参加できて嬉しかった感覚があったのは、その経験があったからだ。これから先も、こうしてこのフェスを自分の目で見て、耳で聞くことができますように。
演奏が終わると、この日の出演者を呼び込んで写真撮影を行うのだが、sumikaがメンバー4人だけではなくて、ゲストメンバー3人もステージに招かれていた。そのsumikaがまるでワンマンのような内容とボリュームだったこと、黒田がこのフェスのTシャツに着替えていたことも含めて、ドロスはこの久しぶりの対バンを本当に楽しんでいた。
そしてメンバーは口にはしなかったけれど、写真撮影後にスクリーンにアルバムが7月にリリースされるということが映し出されたのが実にドロスらしいと思ったし、終演後の影アナもやはり小野賢章だった。これまでに参加してきた中でも、間違いなく最高の1日になったディスフェス2022だった。
この日が終われば世間はゴールデンウィークに突入していく。今年はドロスは出演しないけれど、まだコロナが猛威を奮っていた昨年のゴールデンウィークに開催されたJAPAN JAMはあらゆる批判に晒されながらの開催となった。
そのJAPAN JAMに、ドロスもsumikaもトリとして出演し、ドロスは川上がフェスのスタッフが着ているコートを着てこのフェスと一連托生であることを示し、sumikaは片岡が
「ここへ来ることを選んだあなたを傷つける人がいるのであれば、俺はそれを許せない」
とかつてなく強い口調で我々の選択を肯定してくれた。
そんな2組の姿や言葉に支えられてライブに行くことができた1年間の後に、こうしてその2組が共演する姿を観ることができた。そう考えると、このフェスにドロスがsumikaを呼んだのは意外でもなんでもなく、むしろ必然だったのかもしれない。それは大胆な作戦というよりも、言葉にならないマスタープランだったのかもしれない。
1.Burger Queen
2.Droshky!
3.Rocknrolla!
4.Waitress, Waitress!
5.Kick & Spin
6.無心拍数
7.日々、織々
8.空と青
9.Rock The World
10.閃光
11.Mosquito Bite
12.Girl A
13.She's Very
encore
14.The
15.El Camino
16.センス・オブ・ワンダー 〜 ワタリドリ
17.Adventure
a flood of circle Tour 伝説の夜を君と w/ DOES @横浜ベイホール 4/30 ホーム
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