YON FES 2022 day2 @モリコロパーク 4/3
- 2022/04/06
- 22:55
2日目。この日は名古屋は一日中雨という予報であり、開演前からすでにレインコートを着用している人もちらほらいるくらいに、めちゃ降ってるわけではないけれど確かに雨は降っているという何とも微妙な天気であり、朝から非常に寒い。
そんな中でも開演前から大行列になっている、RYU-TAが実際に客にラーメンを手渡しする麺屋おがたにHIROKAZが行こうとしたりと、昨日トリとしてライブをやったにもかかわらず、この日も朝からフォーリミのメンバーはフル稼働である。HIROKAZはあんなに目立つ髪をしているのにあまり気付かれていなかったけれど。
前日にはKEYTALKの武正が登場するというサプライズがあった前説兼開催宣言にはこの日は名古屋グランパスのマスコットキャラも特別参加。今年は物販にコラボグッズも販売しており、もはやYON FESが音楽を超えた名古屋の新しい象徴となりつつあるのを感じる。
・ハルカミライ [SKY STAGE]
そんなYON FESが前回開催されたのは3年前。その3年前にLAND STAGEのトリとして凄まじいライブをやってみせたハルカミライが、ついにSKY STAGEに登場。この日のトップバッターとしてフェスの幕開けを告げる。
ジングルが鳴る前から既に関大地(ギター)、須藤俊(ベース)、小松謙太(ドラム)の3人がステージに登場すると、バンド名が告げられた瞬間に3人が思いっきり音を鳴らし、その音に導かれるように橋本学(ボーカル)が巨大な旗を掲げてステージに現れる。完全に観客はまだ寒い中であるのに関はペットボトルの水を頭にかけ、須藤は鳴らしたばかりのベースを床に置いてステージを歩き回っていると、関のギターがイントロを鳴らす「君にしか」で始まり、早くもたくさんの腕が上がる。やはりこの曲が1曲目に演奏されるとライブが、フェスが始まったなという気持ちになるし、
「君にしか歌えない」
という通りにこの曲はハルカミライにしか歌えないし、
「君にしか聴こえない」
という通りにこの曲は自分や、周りにいる一人一人自身にしか聴こえない。どこまでもバンドと自分が向き合うための曲だ。
さらには「カントリーロード」へと続くのはおなじみにして必殺の流れであるが、橋本は
「さみーさみー言ってんじゃねぇ!」
と言ってTシャツを脱いで上半身裸になると、
「さみ〜!」
と自分で言ってしまうものだからついつい笑ってしまうのだが、その直後に関がアンプの上から大ジャンプをかます姿を見るとその面白さとカッコ良さのギャップもまたこのバンドの人間らしさだなと思う。
須藤がベースを置き去りにしてステージを歩き回るので、ベースの音がないのに何故かこのバンドとしては完璧に成立しているような感じすらするショートチューン「ファイト!!」を、
「ファイト一発!」
と元気が出るCMのように叫んで鳴らすと、
「3年前に、好きな人と来てるやつは告っちゃえよ!って言ったらカップルになった奴がいた。恋のキューピッド、ハルカミライです!」
と橋本が挨拶するのだが、さすがにその時にカップルになってこの日ライブに来ていた人はおらず、須藤は瞬時に
「みんな別れた」
と身も蓋もないことを言うのだが、そんな恋のキューピッドは2020年に本来ならすでにこのSKY STAGEに立っているはずだったということで、この日は2020年にこのステージでやるはずだったセトリで臨むことを明かす。
それはこの日が3年前のあの日の続きということでもあるのだが、メンバーがステージ上を暴れ回るようにして鳴らされる「俺達が呼んでいる」も、このフェスのような時期のためにあるかのようにメンバーの声が重なる「春のテーマ」も、本当に2年前もこうしてこのステージで演奏されていたんだろうなというのが容易に想像できる。小松をステージ前まで呼び、メンバー全員で大合唱するのも、慌てて小松がドラムセットに戻ると、むしろ小松しか楽器を演奏していない、当時なら最新シングル曲であった
「明るい場所を探し望んでる」
という場所がこの場所であるかのように響く「PEAK'D YELLOW」も。
「雨降ってるといいこともあるぜ。湿気があるから声がいつも以上に絶好調だぜー!」
と雨すらも味方につけるように橋本がさらに歌声に伸びやかさを増す「世界を終わらせて」で観客を飛び跳ねさせると、「僕らは街を光らせた」では曲中に橋本は
「好きなバンドのライブならなんだって忘れられる!そんなバンドばっかりだ!」
とこのフェスの出演者たちを称える。自分にとってはハルカミライこそがそんなバンドの筆頭であるのだが、そのハルカミライはやはり雨が降っていることすらも忘れさせるくらいに我々の体も心も熱くしてくれる。そんなバンドだからこそ、
「這いずり回りながら、泥に塗れながら、俺たち強く生きてかなきゃね」
というフレーズにこの上ないくらいの確信が宿っているのだ。そうした生き方をしてきたバンドであるし、その姿にこそ我々は美しさを感じてきたのだから。
そしてラストの「アストロビスタ」では橋本はやはり
「眠れない夜に私フォーリミを聴くのさ」
とフォーリミへのリスペクトを歌詞にして示すと、
「ライブハウスシーン、フェスシーンが帰ってきてる。みんな、ただいま。おかえり」
とこのフェスが帰ってきてくれたこと、我々も出演者もこのフェスに帰って来れたことを口にすると、曲中に「宇宙飛行士」のフレーズを引用してその2曲が連なる物語であることを示す部分で空を指さす。そこには鳥が飛んでいた。
「生まれ変わったら会いに行くよ」
というフレーズに合わせるように飛んでいたあの鳥は3年前にこの空を飛んでいたかもしれない鳥が生まれ変わって羽ばたいているかのようにすら見えた。それくらいに全ての歌詞とタイミングが重なった、ドラマや漫画のように、でも現実だからこそより、あまりにも美しすぎる瞬間だった。
「俺たちをトップにして正解だったな。最高のフェスの始まりだー!」
と橋本が高らかに叫ぶと、まだわずかに時間が残っているということで、リリースされたばかりのアルバム「ニューマニア」収録のショートチューン「To Bring BACK MEMORIES」を鳴らし、関も須藤もステージを滑るようにしたり、飛び跳ねまくって演奏していた。この曲だけは2年前でも3年前でもなく今のハルカミライだからこそのもの。あの日の続きのようでいて、たしかに2022年のYON FESでのハルカミライのライブだった。
きっと、3年前にこのフェスでこのバンドのライブを見て衝撃を受けて、それからこのバンドのワンマンに行くようになったという人もたくさんいるはず。それくらいにあの日のハルカミライは凄まじいライブをしていたし、トリ前だからこそ、
「普通のバンドなら「フォーリミの前に体力使い切らせてやる!」って言うんだろうけど、ハルカミライは違うぜ。終わった後にフォーリミに走って行ける力を与えに来たんだ!」
と言い、その通りに力を与えてくれるライブだった。
それならばトップバッターだった今年はどうだろうか。やはり今年もこのフェスを最後まで走り抜ける力を与えてくれたのは、トップバッターがこのバンドだったからだ。来年は3年前に演奏していた、さくらのことを歌う曲がここでまた聴けたらいいな。
リハ.ファイト!!
リハ.ラブソング
リハ.ウルトラマリン
リハ.フュージョン
1.君にしか
2.カントリーロード
3.ファイト!!
4.俺達が呼んでいる
5.春のテーマ
6.PEAK'D YELLOW
7.世界を終わらせて
8.僕らは街を光らせた
9.アストロビスタ
10.To Bring BACK MEMORIES
・四星球 [LAND STAGE]
3年前はSKY STAGEに出演していたこのバンドがLAND STAGEのトップバッターというあたりに今年のこの日の出演者の層の暑さを感じさせる、四星球。このバンドとフォーリミといえば、というかつてJAPAN JAMでこのバンドの天才っぷりを見せつけた「swim!たいやきくん」はこの日は本編でやる時間がないという理由でサウンドチェックで演奏され、やはり爆笑を巻き起こしていた。
四星球はサウンドチェックは衣装を着ていないだけに、果たして本番では今回はどんなパフォーマンスを、と思っていると、北島康雄(ボーカル)こそいつもの法被姿であるが、今回が4回目のこのフェス出演ということで、まさやん(ギター)は懐かしのヨン様(ぺ・ヨンジュン)、モリス(ドラム)は2004年にヒットしたマツケンサンバの松平健、U太(ベース)は金のシャチホコを持った黒子という、それぞれの姿だけ見たら何をしに出てきた人たちなんだと思うくらいにバラバラである。
「名古屋には金のシャチホコみたいな金色を見たらみたら噛み付く人いるからね!」
と、早くも名古屋ネタを投下して笑わせると、実際に金色の松平健の衣装の袖が噛みちぎられている実に細かいネタも入れているのだが、フェスではおなじみの「運動会やりたい」では客席を白組と紅組に分け、観客にあみだくじで何をやるかを選んでもらい、大縄跳び対決でジャンプさせまくり、この日は雨が降っていることもあり、雨避け対決では前後に首を振る動きが完全にヘドバンとなり…と早くも寒さを忘れるくらいに観客の体を動かせる。
「負けたチームはリストバンド切って帰ってもらいます!」
「勝ったチームはペヤング超大盛りをプレゼントします!」
とまさやんお手製の小道具を駆使して笑わせるも、何度もこのバンドのライブを見ているとこれがどんな形であれ最後の伏線になるんだろうなというのがわかってくる。
しかし今はただ目の前で演奏しているコミックバンドに楽しませてもらうだけ、と「クラーク博士と僕」で北島がフラフープを回す姿に、メンバーの純粋に実に完成度の高いパンクバンドとしての演奏に拍手が起こり、北島は
「我々四星球、今年で20周年です!20周年にもなると、スカパラ兄さんくらいしか先輩がいませんが、まさか20年やってきてこんなに朝早い出番だとは思いませんでした!(笑)
でも今日はそんなYON FESの4を四星球の4にしに来ました!」
と祝福の拍手すらも笑いの拍手に被せるというあたりはやはりさすがである。
そんな中で
「森高千里さんの名曲「私がオバさんになっても」のアンサーソングを勝手に作りました(笑)」
という曲紹介だけでも笑えるのがもはやズルくすらある新曲(ライブでは結構前からやってるけど)「君はオバさんにならない」は曲自体は笑いのないバラードではあるけれども、このフェスで演奏されることによって、フォーリミのファンの若い人たちが今の四星球くらいの年齢になっても精神は変わらずに今のままでライブを楽しんでいて欲しいという願いが込められているかのように、ただただ真っ直ぐに歌い鳴らされていた。そんな思いを感じるのも、
「悲しいことがあったとしましょう!財布落として、中に2万円入ってたとしようか。それなら四星球のライブ来てくれたらそれ以上にして返します!免許証がなくなったとしよう。それでも四星球のライブに来てくれたらあなたがライブハウスにいるって証明しますので!
綺麗事言ってると思いますけど、20年間これをやり続けてきてるんで!」
というこのバンドが積み重ねてきた歴史による説得力と人間性によるものだ。
そして「妖怪泣き笑い」ではヨン様が服をめくるとブリーフ一丁になるという変質者的な動きをまさやんが連発する中で北島は
「我々出演者はステージに屋根があったり、楽屋にも屋根があるんですよ。でも皆さんは雨が降っても最後までフォーリミのライブまで楽しむんでしょ?本当に凄いと思います!それはこのフェスが開催できなかった3年間を耐えてきたことと全く同じだと思います!」
と熱いメッセージを我々に放ってくれる。このバンドのことを凄いバンドだと思っているからこそ、こうして我々のことを称えてくれるのが本当に嬉しいし、最後のサビ前でその場にしゃがんでから思いっきりジャンプした時の観客の表情は心から笑っていたはずだ。
そんなライブの最後に
「あなたが死にそうに 消えてしまいそうになったら
忘れちゃいそうになったら 歌が薬草になってやら」
という歌詞がパンクサウンドに乗って歌われるのは「薬草」。かつてこの客席を走り回っていた北島は、
「ジブリパークができたらネコバスで走り回りましょう!」
という言葉でいつか来るその日のことを想像させてくれる。その時はきっと今よりもさらに笑えているはず。演奏後にモリスがマツケンサンバを踊りながら(もう松平健にしか見えない)この日使った小道具を全て駆使して
「YON FES超大好き」
というメッセージをボードに作り上げたこのバンドは間違いなく優勝していた。だから北島の去り際の一言は
「金メダル獲ったんで、噛まれる前に帰ります!」
だった。
コロナ禍になってから四星球は
「みんなで歌うことも、モッシュもダイブもできない。じゃあ何ができるのか?それ以外なら全部できます!」
と言うようになった。確かに四星球のライブはそんな、それ以外のことを全てできることを証明している。でも、それをありとあらゆる方法を駆使して証明できるのは四星球しかいないと思う。それは彼らがコミックバンドだからこそできる。20周年、このバンドでたくさん泣き笑いすることができたら。
リハ.ギンヤンマ
リハ.Teen
リハ.鋼鉄の段ボーラーまさゆき
リハ.swim!たいやきくん
1.運動会やりたい
2.クラーク博士と僕
3.君はオバさんにならない
4.妖怪泣き笑い
5.薬草
・Crossfaith [SKY STAGE]
これまでにもこのフェスにはSiMやcoldrainなどのラウドバンドたちが出演してきたが、今年そのラウドバンド代表としてステージに立つのは、このフェスではお馴染みの存在である、Crossfaithである。
SEからして凶悪なサウンドを放つ中でメンバーが一人ずつ登場すると、一際目を引くのはTatsuya(ドラム)が髪色が白のドレッドヘアになっているということ。メンバーが全員衣装が黒のバンドであるだけにより一層映えるし、白蛇のメデューサかのようですらある。
「YON FES!準備はいいか!」
とKoieが問いかけると、この草原を燃やし尽くすかのような轟音ラウド・メタルサウンドの「Catastrophe」でスタートし、こんなに端正な見た目をしていたっけかと思ってしまうKazuki(ギター)と、長い髪を振り乱して顔にペイントを施したHiroki(ベース)は早くもステージ上を激しく動き回りながら、ロックバンドの用いる弦楽器はこんなに轟音が鳴らせるものなのかと思ってしまうくらいの音を鳴らし、Koieのシャウトもグロウルも変幻自在のボーカルがこの会場をまるで海外のメタルフェスの会場かと思ってしまうように我々の見ている景色を塗り替えてしまう。
Teru(シンセなど)が誰よりも自分たちが鳴らしている音に没頭するかのように頭を振りまくりながらカメラに目線を合わせてシャウトしまくるのもこのバンドのライブならではの観客の心をブチ上げてくれるものであるのだが、「Rx Overdrive」「Freedom」とキラーチューンが連発されることによって、雨がまだ少し降っていて肌寒いと感じるくらいがこのバンドのライブを見ていて体が激しく動いてしまうことを考えるとちょうどいいくらいなんじゃないだろうかとさえ思う。
Teruは誰よりも頭を振り、またKoie以上にステージ上を動き回っているのだが、「Kill 'Em All」あたりの曲を聴いていると、そのTeruが鳴らしているデジタルなサウンドはこんなにも凶暴なダンスミュージックたり得るものになるのかと、ライブを見るたびにこのバンドの音の強さに驚かされる。
コロナ禍前にはヨーロッパのフェスにも出演し、ツアーでも海外を回ったりしていたが、とかく日本的なギミックがウケたりすることの多いヨーロッパでこのバンドが受け入れられているのはひたすらにこの音の強さが海外のロックファン、メタルファンすらも血湧き肉躍らせるものになっているからなんだなと思う。
そしてKoieは
「俺らはフォーリミと同い年で、プライベートでもメンバーと仲良くさせてもらってる。そんなフォーリミが3年ぶりに開催したこのフェスに俺たちが出ていることを本当に誇りに思うし、名古屋の中でもこのフェスはこれからも帰ってくる場所の一つだと思っている」
という盟友のフェスへの愛を口にするのだが、このバンドのことを全然知らずに初めて見た人は「GENさんとこのボーカルの人って同い年なの!?」とさぞや驚いたことであろう。隣同士で並んで同い年だと思う人はそうそういないと思われる。
それはこのバンドのメンバーが自分たちの音楽性に合わせてヴィジュアルも変化させてきたからこそであるが(実際に学生時代のメンバーの写真は同じバンドとは思えないくらいに幼い)、そのラウド、メタルバンドとしての誇りを鳴らすかのように「Countdown To Hell」を演奏し、普段はこの曲で締めることも多いだけにこれで終わりかとも思ったのだけど、この日はそれでは終わらないのは、フォーリミの代表曲と同じタイトルを持つ「Monolith」を演奏するのがこのバンドのYON FESでの戦い方だからだ。ただただ圧巻の、その音だけで世界で戦ってきたバンドの強さと重さがさらにパワーアップしてこの場所に戻ってきた、そんなライブだった。
この日、自分たちのライブが終わった後にKoieはバックステージから客席内を何度も通ってPAブースの横から他のバンドのライブを見ていた。もしかしたら自分たちのライブが終わったら酒を飲んで喋りながら過ごして…というイメージをこのバンドに持っている人もいるかもしれないけれど、同じフェスに出ている他のバンドのライブを観客と同じ視点で見て、刺激を受けたりアイデアを得たりしてさらに自分たちのサウンドやライブをビルドアップしていくという、この日、いやこの年のYON FESで最も重い音を鳴らしていたバンドが、どうやってそうした音を手に入れることができたのかというのがわかった瞬間だった。
1.Catastrophe
2.Rx Overdrive
3.Freedom
4.Kill 'Em All
5.Countdown To Hell
6.Monolith
・SPARK!!SOUND!!SHOW!!
こちらはこのフェス初出演、メンバー4人が揃いの衣装で登場するというあたりがどこか部族というかチームのようにも見える、通称スサシことSPARK!!SOUND!!SHOW!!である。
デザイナーとしても活動しているチヨ(ベース)とタクマ(ギター)はステージに登場するなりメンバーを映すカメラに向かってピースサインをしてこのフェスに出演できた喜びを示しているのだが、169ことイチロー(ドラム)はドレッドヘアを頭の前で結んでリーゼントとドレッドの融合というとんでもない髪型になっているのが彼なりの気合いを感じさせる。タナカユーキ(ボーカル)は緑色に染めた坊主気味の髪型にヘアバンドというヘッズスタイルである。
そのタナカがマシンガンのように次々と言葉を放ちまくり、カオスという言葉を音楽にするとこういうものになるというようにヒップホップ、パンク、ラウド、エレクトロなどのあらゆるロックサウンドを飲み込んで自分たちのものにするというスサシのスタイルが炸裂する「TOKYO MURDER」でメンバーはこのステージじゃ俺たちには小さいと言わんばかりに動き回るというか暴れ回るようにして演奏している。何をどうやったのかはわからないが、タナカは足を蹴り上げると靴が脱げて飛んでいくというパフォーマンスは学生時代に上履きを蹴り上げて遊んでいた頃を彷彿とさせるが、それくらいにこのバンドのメンバーは無邪気に、自然体にこのフェスのライブを楽しんでいる。
そんなバンドの「STEAL!!」がアニメのタイアップ曲だったというのがなんだか痛快極まりないが、
「このバンドの高見沢(THE ALFEE)」
と紹介されたチヨがアンプの上に立ってからベースを抱えて大ジャンプする「SCAR」ではタナカがマイクをステージに置き、床に寝そべるようにしてそのマイクで歌うという、自分たちの鳴らす音に感電しているかのようなパフォーマンスも。見ていて飽きないというか、何をやらかしてくれるのか、制限がある、ルールがある、それを破れる状況じゃない中でも目が離せないバンドである。何故か2020年のロッキン(開催中止になったけど)に出演するのが決まった際にツイッターの検索に「スサシ ロッキン 出禁」というワードが出てきたのもこのバンドのライブの自由さを象徴している出来事である。
「フォーリミのメンバーたちも名古屋では相当悪いことしてるよ」
とタナカが不敵に言い放って演奏された「✞黒天使✞」では観客の腕が一斉に上がり、マスの中から出ないようにしながらも体を揺らしまくっていたあたり、この曲を聴けるのを待っていたという人もたくさんいたんじゃないかと思われるが、そんな曲の後に
「音楽で世界が一つになれるように」
というギャップがありすぎる真摯なメッセージを込めてタナカがギターを弾きながらストレートなポップパンク「アワーミュージック」を鳴らすなど、カオスの中だからこそこの曲のポップさが際立つところもあるし、この曲がポップだからこそ他の曲のカオスさが際立つところもあるだろう。
そんな中でこのバンドの楽しさ、音楽的な遊び心とアイデアの独特さを最も感じさせてくれるのは、ゴジラのテーマをサンプリングし、そのままゴジラについて客観的かつメタ的な視点で歌う「かいじゅうのうた」だろう。ネタ的な側面も感じる曲だけれど、そこにはこのバンドのヒップホップ、ミクスチャーバンドとしての精神を強く感じさせてくれる。確かにその系譜にいるべきバンドであるというか。
「俺たち、本当は2020年にこのフェスに出るはずだったんだけど、それがコロナで開催できなくなって。それっきりもう出れないかもしれないな、とも思ったりもしたけど、こうして今日出れたのはフォーリミが約束を守ってくれたんだろうなって」
と、見た目は完全にヤンチャな悪ガキたちという感じであるが、MCからはその奥にある人間としての純粋さのようなものを確かに感じ取ることができる。
そんなフォーリミへの感謝を自分たちなりのサウンドとして返すかのように「GODSPEED」「MARS」とさらに音が鋭利に、凶暴になり、イチローはいつのまにかリーゼントが解けて純粋なドレッドヘアに戻ると、イチローはフリースタイル的に、でもしっかりと韻やリズムを意識するかのようにして次々に言葉を吐き出していく。
それは今のロシアとウクライナをめぐる状況や、こうなるまでその国の問題や状況を知らなかった自分自身のこと、それによって失われてしまった命、この日本でも前首相が行ってきた愚行や悪政、そうしたことによって幸せに生きていくことができない世界中の人々のこと。
スサシは自分たちのツアーなどではライブでの撮影を許可しているだけに、これまでにもタナカのこうした言葉を動画で見たりもしてきたが、そこだけを見るのではなくて、こうして曲を演奏してきた後にこの言葉を聞くと、ひたすら好き勝手にやっているようにも見えるこのバンドのカオスな音楽が、世界中のありとあらゆる不条理に抗うためのレベルミュージックであることがわかる。
「今日はそれだけを伝えにきました。ありがとうございました」
とそれまで暴れ回っていたメンバーが、これはタナカ一人だけではなくてバンドとしてのメッセージであり、ステイトメントであるとばかりにじっとまっすぐ目線を保っていた姿も実に印象的だったが、その言葉の後に聴いた「南無」はやはりタナカの言葉が次々に放たれていくラップ的な、タイトル通りに呪術的でもある曲なのだが、音源とも、ここまでに演奏された曲とも全く違うバンドが鳴らしている曲のように聴こえた。それはこのバンドが自分たちの守りたいもののためにこの曲を、この音を鳴らしているということがちゃんとわかった上で響かせた曲だったからである。ただぶっ飛べるだけの麻薬的な音楽というだけではない、この狂った世の中で自分らしく、強く生きていくための闘争の音楽。それがSPARK!!SOUND!!SHOW!!だった。
自分はこのバンドのライブを初めて見たのはかなり前だ。まだ今のメンバーでも編成でもない頃から、彼らはBAYCAMPをはじめとするAT FIELD(P青木)絡みのフェスやイベントに良く出ていた。
当時はSMAPの解散を惜しんで「SHAKE」をカバーしたりする、ある意味では悪ノリの限りを尽くす、ヤンチャな軽い感じの兄ちゃんたちというイメージのバンドだった。
それが、2年くらい前にフェスに出演した映像を見た時にガラッと変わった。その時にはもう今のようなライブをやっている、名前だけ変わってない別バンドなんじゃないかと思うくらいのバンドになっていたから。
バンドで日本中を周り、自分たちもメンバーチェンジを経験し、大人として世の中を生きてきたことできっといろんなことを見てきて、それがバンドマンとしても人間としても成長させたのだろうし、そうして自分たちが本当にやりたいこと、歌いたいこと、やるべきことが見えてきて、それを100%の濃度でできるメンバーが揃ったのが今ということだろう。
正直言って、かなり好き嫌いは分かれるタイプのバンドだと思うけれど、初めて見た時には感じなかった感情を今自分はこのバンドに抱いている。それは他のこのフェスに出演しているバンドと同じようにカッコいい、いや、このバンドでしかないカッコよさを音楽としても人間としても持ったバンドになったんだなということ。人はこんなにも強く変わることができるということを教えてもらった気がしている。
1.TOKYO MURDER
2.STEAL!!
3.SCAR
4.✞黒天使✞
5.アワーミュージック
6.かいじゅうのうた
7.GODSPEED
8.MARS
9.南無
・東京スカパラダイスオーケストラ
開催初年度は同世代や地元名古屋というキーワードをもとにした出演者が集っていたこのフェスは歴史を重ねるたびに様々なアーティストが出演するようになり、ラインナップに広がりをもたらしてきた。
今年の2日間の出演者の中で最年長のスカパラが出演しているというのがそうして広がってきたこのフェスの幅を最も広げているとともに、フォーリミがレジェンドクラスのベテランとも交流を持つようになったことの証明である。
[Alexandros]の川上洋平をゲストボーカルで招いた「ALMIGHTY 〜仮面の約束」のインストバージョンのSEでオレンジ色のスーツでバシッと揃えたメンバーがステージに現れると、そのままSEを引き継ぐようにメンバーがインストのこの曲の演奏を始める。このバンドとコラボした千葉県の習志野高校の吹奏楽部の演奏が美爆音として高校野球の応援でもおなじみであるが、こうしてボーカルレスのこの曲での谷中敦(バリトンサックス)、GAMO(テナーサックス)、北原雅彦(トロンボーン)、NARGO(トランペット)によるホーン隊のサウンドはまさに美爆音と言いたくなるようなものだ。
すると谷中が
「やっと来れたぜYON FESー!元気付けるぜー!戦うように楽しんでいってくれよー!」
とおなじみのセリフでまだ少し寒さを感じる我々のハートを熱くさせるように「DOWN BEAT STOMP」で谷中や大森はじめ(パーカッション)らが歌いながら踊りまくり、それがあっという間に客席にも広がっていく。もう問答無用で楽しくさせてくれるし、暖かくしてくれる。寒さを感じる野外でのライブを過ごすために1番大事なのはこうして踊って、音楽で体を温めることだというように。
再びホーン隊の美爆音が吹き荒れるイントロで観客の腕がたくさん上がるくらいにこのフェスからも歓迎された曲は「Paradise Has No Border」であり、曲中でGAMOがマイクを持つと、
「いつものやつ行くぞー!1番盛り上がってるのはどこだー!」
と言ってステージを左右に走り、盛り上がっている方向にホーン隊と加藤隆志(ギター)、川上つよし(ベース)が集まって音を鳴らす。加藤はギターを銃のように観客に向け、川上はベースを盾にするかのようにメンバー全員を支えるようにして演奏する。これが「いつもの」というくらいに完全に定着しているのが面白いが、このアクティブさは年齢を重ねてもメンバーの体力や気力が衰えるどころかむしろまだまだ増していることの証でもある。
すると笑顔のドラマー茂木欣一がマイクを持ち、前日にメンバーが始球式をやるはずだった仙台での楽天-ソフトバンクの試合が楽天の選手にコロナ感染者が多発して中止になってしまったことを語り、それゆえに当たり前のことなんてないということが、このフェスが開催することが出来なかった期間に重なるメッセージを口にしてから演奏されたのは、その茂木の優しくて朗らかな人間性がそのまま曲になったかのような、新たな茂木メインボーカルの「君にサチアレ」。それは我々だけでなく、フォーリミやこのフェスに携わる全ての人を鼓舞してくれるかのように鳴らされていた。
すると今度は茂木に変わって沖祐市のピアノをフィーチャーした「水琴窟 -SUIKINKUTSU」へ。曲でコラボした上原ひろみが降臨したかのような鮮やかな指さばきで流麗なピアノを弾くと、そのたびに客席からは大きな拍手が起こる。こうしてフェスの短い持ち時間の中でもそれぞれのプレイヤーの見せ場を作った曲を演奏することによって、そのメンバーの技術の高さを初めて見る人にも伝えるとともに、スカパラが達人の集団による凄まじいバンドであるということも伝えてくれる。
で、フェスのスカパラと言えばゲストボーカルなのだが、この日はこれまでに曲に参加した出演者は誰もいない。しかしスカパラの曲をカバーしたアーティストはいる。ということでスペシャルゲストとして呼び込まれたのはフォーリミのGEN。
「なんか服も似ている感じで(笑)」
と少しオレンジ混じりの服を着て登場すると、フォーリミがカバーした「銀河と迷路」を茂木ではなくGENボーカルの本家スカパラ演奏でコラボする。去年の幕張メッセでのワンマンでもフォーリミはこのカバーを演奏していたが、スカパラの演奏は原曲のまま、GENのボーカルはフォーリミバージョンとして後半のサビのメロディや歌い回しを自分たちのものとしたアレンジで、その2つが融合した新しい「銀河と迷路」の形になっていた。それはきっとこの日、このフェスでしか見ることができないであろうもの。それを見せてくれたスカパラがこのフェスに出てくれたことに本当に感謝である。
そんな特別なライブのエンドロールであるかのように、大森がアジテーターのようにマイクを持ち、バンドが演奏したのは「5 days of TEQUILA」。加藤がギターを抱えてステップを踏むようにしたりと、客席とステージが全く同じ温度で楽しく踊っている様は、これまでの長いキャリアの中で国籍や人種すらも超えた同じ人間として音楽の楽しさや喜びを分かち合ってきたスカパラが、出演者や観客との世代の差を超えてこのフェスで音楽の楽しさや喜びを分かち合っているかのようだった。
かつてNICO Touches the Wallsが主催したフェスにスカパラが出てくれた時のように、自分の好きなバンドの主催フェスにスカパラが出てくれるのが嬉しいのは、好きじゃない人から舐められることだってあるようなバンドのフェスでも、スカパラが出てくれれば舐めた目で見てくるようなやつはいなくなるからだ。
それはこれまでのスカパラのキャリア、生み出してきた曲、ライブで作ってきた景色、そのフェスでしか見れないものを見せてきてくれたサービス精神という、リスペクトされるしかないような活動があればこそだ。こういうカッコいい大人になりたいというバンドがたくさんいるのが本当に良くわかるけれど、スカパラの凄さは自分たちのライブだけでは終わらないところでもあったのだった。
1.ALMIGHTY 〜仮面の約束
2.DOWN BEAT STOMP
3.Paradise Has No Border
4.君にサチアレ
5.水琴窟 -SUIKINKUTSU
6.銀河と迷路 w/ GEN
7.5 days of TEQUILA
・Wienners [LAND STAGE]
リハの段階で最大クラスのキラーチューン「蒼天ディライト」を演奏して観客の手が左右に揺れまくるくらいに盛り上げていたのはWienners。リハでこの曲をやっちゃうということは、本編では…?と期待が高まるが、初年度以来実に6年ぶりの出演である。
メンバーがステージに登場すると、玉屋2060%(ボーカル&ギター)は
「伝説のライブの条件!ヤバいバンドが揃ってる!そのバンドたちがヤバいライブをする!そして雨!全て揃った今日!神様、音楽をお救いください!」
と最初からテンションMAXで叫び、「GOD SAVE THE MUSIC」でアサミサエ(キーボード&ボーカル)による電子音がパンクというフォーリミと同じルーツを持ちながらもまるで違うジャンルの音楽であるかのように感じさせてくれる。
顎髭が緑色でおなじみの、この日はメガネをかけた560(ベース)とKOZO(ドラム)によるリズムがトライバルなムードを生み出し、それが野外フェスというシチュエーションに実に良く似合う、このままこうして夜通しこの場所で音楽を聴きながら踊っていたいとすら思える「おおるないとじゃっぷせっしょん」から、ファストコアなどのマニアックなパンクの要素とキャッチーな電子音を融合させた、タイトル的にもこのバンドがこのフェスに出るんならそりゃあこの曲をやらないわけにはいかないでしょうという「Justice4」では間奏で玉屋が、
「急遽特別ゲスト!フォーリミからKOUHEI!」
と紹介すると、
KOUHEI「誘うのが急すぎる!(笑)」
玉屋「だってさっき思い付いたんだもん(笑)」
KOUHEI「でもできるもんね」
というやり取りから、KOUHEIがパーカッションを打ち鳴らしてKOZOのドラムと重なることによってよりトライバルかつグルーヴィなリズムが練り上げられていく。一通り叩き切って間奏が終わるとすぐにKOUHEIはステージを去ったが、まさかWiennersのライブでフォーリミのメンバーがコラボするなんて全く想像していなかったし、そのコラボ相手のメンバーがドラマーというわかりやすい方にはいかないのがどこかWiennersらしい。
しかしながら玉屋はKOZOに
「もっとちゃんとKOUHEIをリードしろよ!」
と何故か突っ掛かり、
「リード出来てただろ!」
と言い合いになったかと思いきや、どこからか同期の音が流れてきて「なんだなんだ!?」とメンバーが戸惑ったのも束の間、それはまさかのフォーリミ「Garapagos」の寸劇まで含めた完璧なカバーだったのである。なので同期の音からこのバンドでの演奏になるのだが、メインボーカルを担うのはアサミであり、間奏では
玉屋「っていうかお前が歌うのかよ!」
などの曲前だけではなくて曲中の寸劇までも完璧に作り上げられているという全方位的なクオリティの高さ。改めてWiennersの演奏技術なアレンジ力の高さ、何よりも久しぶりの出演であるこのフェスへの愛情を感じさせてくれる最高のパフォーマンスである。
すると力強く疾走していくような「ANIMALS」で観客が腕を上げて飛び跳ねまくっていると、なんとこの日唯一の太陽が顔を出すという奇跡のような瞬間が。雨が降るロックバンドの野外ライブも伝説のものだけれど、雨が止んで空が晴れるというのもまた間違いなく伝説のライブと言っていいものでもあるし、それはこのバンドの持つとびっきりポジティブなエネルギーが引き寄せたものなのかもしれない。
すると玉屋は
「ちょっと北の方では戦争が起こっていて。そんな世の中でも、俺は音楽でみんなが一つになるって信じて演奏します!」
と願いをこのバンドならではのダンスパンクサウンドに乗せて「unity」を演奏する。
「UNITY UNITY とち狂った世界でも 全てはいつか一つになれるかな
UNITY UNITY ぶっ壊れた心だって 元どおり一つになれるかな」
というサビのフレーズはまさに今の世の中の状況のことを歌っているかのようであるが、そんな曲が2年前に生まれていたというのはコロナ禍になったことも含めて、この曲が、このバンドの音楽がこれから先またどんなに暗い世の中になったり、そうした出来事があったとしても光のように我々のことを、進む方向を照らしてくれるということだ。
そして玉屋は前日も会場に来ていたことを明かすと、
「俺たちも楽しみにしてたし、みんなも楽しみにしていたと思うけど、昨日のフォーリミのライブを見ていたら、このフェスを1番楽しみにしていたのはやっぱりあいつらだったんだなって思った」
というフォーリミへの、このフェスへの最大限の愛溢れる言葉を口にする。その対・人、対・心というスタンスがそのまま音となったパンクサウンドこそが、フォーリミとWiennersの最大の共通点なのかもしれない。日本人としての誇り、日本語で歌う日本のパンクバンドとしての誇りに満ちたラストの「TRADITIONAL」を聴きながらそんなことを思っていた。
そんなフォーリミとこのフェスへの愛に溢れた、この日このライブじゃないと見れないものをしっかりと準備してきて、それをずっと前からやってきたかのような完成度で見せてくれる。ライブハウスでのワンマンや対バンはもちろん、こうした大きな規模の野外フェスから、若手バンドばかりのサーキットイベントまで。
ありとあらゆるシチュエーションのライブに出まくって、自分たちのライブ筋力を鍛えまくってきたWiennersだからできる、作れるものを見せてくれたライブだった。そんな経験、技術、知識などなどの全てを兼ね備え、自然すらも味方にしてしまったこのバンドのライブは、間違いなく今年のYON FESにおける伝説のライブと言えるものだった。前日のTOTALFATもそうだったが、長い年月ライブハウスの最前線を、メンバーが変わっても止まることなく走り続けてきたバンドだからこその強さを見せてもらったし、それをこれからもずっと見ていきたいと思った。
リハ.蒼天ディライト
リハ.ULTRA JOY
1.GOD SAVE THE MUSIC
2.おおるないとじゃっぷせっしょん
3.Justice4 w/ KOUHEI
4.Garapagos (フォーリミカバー)
5.ANIMALS
6.unity
7.TRADITIONAL
・My Hair is Bad [SKY STAGE]
このフェス出演直前にまさかのミュージックステーション出演、さらにはついに楽曲のサブスク解禁。YON FES皆勤賞を誇るMy Hair is Badであるが、その置かれている状況はこれまでとは全く違うものになっている。
サウンドチェックで曲を演奏し、そのまま捌けることなく本番を迎えてすぐに演奏を始めるというのは前日に出演したもう一つの皆勤賞バンド、SHANKと同様であるが、
「新潟県上越市、My Hair is Badです。YON FESよろしく。ドキドキしようぜ!」
とどこか表情も吹っ切れたような爽やかさを感じさせるのはやはりTVよりも観客が目の前にいるライブのステージの方が気合いが入るんだろうかと思う椎木知仁(ボーカル&ギター)の挨拶からいきなりの「アフターアワー」でこのライブの瞬間だけは最高速で走っているかのような疾走感溢れるギターロックを鳴らすと、間奏では山本大樹がステージ真ん中前まで出てきて、シンプルなスリーピースバンドには特に重要な要素である重い、けれどメロディアスなベースソロを弾く。その後ろで高い位置のシンバルをぶっ叩きまくる山田淳のドラムのスタイルも実にド派手である。
さらには「告白」でさらに速度を上げ、最後のサビ前では椎木は観客の方に向かってマイクスタンドを傾けながら
「心で歌ってくれ!」
と叫ぶ。その観客が心で歌っている
「きっと心配はないさ」
というフレーズは、椎木が観客が自分自身にそう言い聞かせてもらうためかのようですらある。この音楽が、ロックバンドが、ライブがあればこの状況でもきっと心配はないさ、というかのように。
椎木も山本もステージ上で軽やかにステップを踏むかのようにして演奏した「ドラマみたいだ」もそうだが、時折ギターの音を外しながらもどこか余裕があるというか、必死に挑んでいくというよりも横綱相撲感すらあるのは皆勤賞バンドとしての安心感によるものだろうか。先日の代々木体育館の時もそうだったが、最近は本当に椎木の声も安定しているというのもそうしたライブがどっしりとしてきた要素の一つでもあると思う。
椎木が改めて自分たちがこのフェス皆勤賞バンドであることを口にすると、昨年のツアーでも演奏されていた、実にマイヘアらしいエモーショナルなギターロックの新曲「カモフラージュ」が披露される。椎木は歌詞にある
「今の若さが羨ましくなるまで」
というフレーズを口にしてから演奏に入っていたが、マイヘアのメンバーももう30歳になった。正直、見た目はパッと見全然昔から変わらないようにも見えるけれど、このフェスの皆勤賞記録がこれからも伸び続けていった先でそう思うようになったりするのだろうか。どんなに歳を取ってもマイヘアの音楽やサウンドは歳を取らないというか、今と変わることのない衝動や焦燥を持ったままのような気もするけれど。
そして一瞬で駆け抜けるようなショートチューン「クリサンセマム」から繋がるようにして椎木が思いっきりギターをかき鳴らし、ステージ上で何度もくるっと回るようにして演奏し始めたのは「ディアウェンディ」では
「YON FESの4を幸せの4でも心臓の4でもなく、椎木の4にしに来ました!」
と、過去の出演時の名言を再現しながら目の横でピースサインを作り、さらには
「GENさんに「椎木の元カノ、ブスだな」って言われたの忘れてないからな!」
とこのフェス最大のヒールらしくフォーリミへの感謝だけではなく、フォーリミの存在を自分たちを燃え上がらせる原動力にする。いつもこの曲のそうした椎木のアドリブ歌唱にボディランゲージでリアクションを取る山本は「え?」みたいな顔をしていたけれど。
そんな忘れていないことすらも、
「忘れた方がいいことなのはわかってる」
と言ってから歌い始めたのは、ミュージックステーション出演時に歌い出しの
「ブラジャーのホック」
という赤裸々なフレーズが話題になった「真赤」。でもやっぱり「ディアウェンディ」で口にしていた通り、テレビでもYouTubeでもサブスクでもない、今目の前にいるマイヘアが鳴らすこの曲が1番沁みる。1番夏の匂いを感じることができる。それはそのダイナミズム溢れる挙動によって鳴らされる3人の音がダイレクトに耳に入り、音の振動が体に響いてくるから。そもそもTVの音楽番組に出演する日が来るなんて思いもしなかったけれど、やっぱりマイヘアはライブのバンドなんだ。
そして最後に
「みんなも自分の中で1番大切なものを思い浮かべながら聴いてください」
と言って演奏されたのは、「カモフラージュ 」同様に昨年のツアーからすでに演奏されていた新曲「歓声をさがして」。
「音楽でもいい 映画でもいい
YouTubeでも お笑いでもいい
アニメやゲーム 読書でもいい
なんでもいい 好きならいい」
と歌うこの曲であるが、最後には
「DJ もういいや 僕の曲は僕が
歌うことにするから」
と歌うように、自分にとってもやはり1番大事なものは音楽であり、こうした音楽が鳴らされる場所であるということを再確認させてくれるような曲だ。今はまだそうは出来ないけれど、またこの会場でマイヘアの曲が鳴らされている時に上がるはずの歓声をさがしている。
ワンマンを見ていても新曲は演奏するだろうなとは思っていたけれど、今まではこうしてフェスの短い持ち時間で音源リリース前に連発するようなことはしないバンドだった。それを今そうしたというのはこの曲たちに、来るべきアルバムにこれまで以上にメンバーが強い自信と確信を持っているということだ。果たして問答無用の大傑作であり、マイヘアというバンドの存在をシーンに知らしめた「narimi」や「Woman's」を超えるものになっているのか。
今からすでに楽しみで仕方がないが、その新曲も含めたライブの声は出せない中での熱狂っぷりはMステ出演によるものだけではない。ここにいた人たちはみんなMステに出演するはるか前からこの日のチケットを取っていたから。
フォーリミが主役の、フォーリミに超えていかれるような役回りであったとしても(これは2019年の出演時に椎木が言っていたことだ)、やっぱりマイヘアはライブが1番輝くバンドだからだ。それくらい、考えてみたら全部ここにあったんだ。
リハ.いつか結婚しても
リハ.グッバイマイマリー
1.アフターアワー
2.告白
3.ドラマみたいだ
4.カモフラージュ
5.クリサンセマム
6.ディアウェンディ
7.真赤
8.歓声をさがして
・ハンブレッダーズ [LAND STAGE]
今年数少ない、中止になってしまった2020年から今年までのあいだに台頭してきた出演者である、ハンブレッダーズ。昨年フォーリミとツーマンを行った時にGENから公開オファーを受けての出演であるが、サウンドチェックで曲を演奏して音のバランスは完璧になったのだが、
「音は大丈夫です。できれば温度上げて欲しいです。寒いっす」
とムツムロアキラ(ボーカル&ギター)は本番前から我々を笑わせてくれるユーモアを発揮している。
本番でおなじみのサポートギターのうきを含めた4人がステージに登場すると、
「スクールカーストの最底辺から青春を鳴らしに来ました、ハンブレッダーズです」
とムツムロが至って平熱な感じで挨拶し、最初に鳴らされたのは昨年リリースの大名盤(個人的2021年年間ベストディスク5位)、ロックを我々の手に取り戻すためのアルバム「ギター」の1曲目に収録された「再生」。それは
「関連動画で偶然出会った歪な音楽
巻き戻してたらいつの間にか手放せなくなった
青春映画と対極の存在だった僕が
人混みの中でひとりになる為の秘密兵器」
という歌詞から始まる通りに音楽を聴くという意味での「再生」であるが、ことこの場に限ってはどこかこのフェス自体が「再生」していくためのテーマであるかのような。
「不特定多数に向けられた歌に興味はないよ
僕の感動とお前の「エモい」を同じにすんな」
という自分が10代の頃なら絶対にそう思っていただろうなという心境を言い当ててくれるキラーフレーズも、
「もう一度聴きたいからと遠回りして帰る」
という自分の経験をそのまま歌ってくれているかのようなフレーズも、1曲目からハンブレッダーズの鳴らす音楽の先には自分のような音楽しかないような奴や、音楽そのものが確かにいる。
「世界を変えるために必要なのは、ギター」
とムツムロの曲フリは毎回本当にこれしかないという言葉であるのだが、アルバムタイトル曲である「ギター」でもやはり
「錆び付いたギターでぶっ壊す
もう全部 全部 全部」
「暗闇の中で微かな光を見た
ギター ギター ギター」
というキラーフレーズの嵐であり、音楽によって、ギターを手にしたことによって人生が変わった自分がその延長としてこのステージに立っているかのように、ムツムロはギターを鳴らしながら歌う。寒い中でも短パンでぴょんぴょん飛び跳ねながらベースを弾くでらしも、長い髪を揺らすようにしてタイトなビートを刻む木島(ドラム)も演奏する楽器は違えど「ギター」のフレーズでコーラスを重ねる。それはギターを弾いているわけではないけれど、ギターを鳴らしまくっているこのバンドの存在によって人生が、自分の中の世界が変わったということだ。
そのギターの音が疾走感溢れるビートに乗ってきらめきまくる「銀河高速」はバンドの体制が変わらざるを得なくなった時に生まれた曲でもあるのだが、
「時代の波ならば HIP HOP
イマドキ女子は皆 Tik Tok
未だに僕らはロックンロールと
フォークソングをシンガロング」
というフレーズは何度聴いても「これだ!」と確信するようなものであるが、10年後くらいにはTik Tokという単語はもう死んでいて、それに置き換わるような何かが生まれているだろうと思う。でもその時にはTik Tokに変わる何かがこのフレーズにハマっているのだろうし、何よりも「ロックンロールとフォークソング」はこれから先何年経ってもずっと変わらないはずだ。
「インタビューでフォーリミのメンバーが僕らのことを陰キャって言ってたんですけど、その陰キャが1番良いライブやります。みんなそういうのが見たいんでしょ?」
というムツムロの言葉には飄々としながらも確かな闘志を感じさせるし、その最下層からの大逆転劇が生まれることこそがロックンロールであると思っている自分にとってはハンブレッダーズはやはり最高のロックバンドということだ。それは聞き流せるような音楽ではなく、こうしたライブの場のようにただひたすら鳴っている音楽のみと向き合うための「BGMになるなよ」にも現れている。彼ら(というかムツムロ)はアルバムのインタビューでもそうしたBGMたり得る音楽ではなくて、今必要なのはロックであるということを口にしていたし、「ギター」というアルバムは、ハンブレッダーズのライブは自分たちの鳴らす音でそれを体現している。
そして「ギター」の象徴的な曲と言えるのはイントロのギターのリフが一度聴いたら頭から離れなくなる、木島による軽快なリズムが体も心も解放して踊らせてくれる「ワールドイズマイン」で、間奏では
「いつでも主人公は 遅れて登場すんだ
お待たせしました ド派手なエレキギター」
というフレーズとともにド派手なギターソロが鳴らされると、ステージに片膝ついてベースを弾くでらしの膝にムツムロが足を乗せてギターを弾く。基本的には曲を演奏するということ以外のエンタメ性を持たないライブをするバンドであるが、だからこそこうして演奏する姿で我々を楽しませてくれる。
そして
「ハンブレッダーズでした、ありがとうございました」
とだけ挨拶して最後に演奏されたのは「ライブハウスで会おうぜ」。
フェスだとよく「またライブハウスで会いましょう」的な言葉を最後に聞く機会が多い。フェスで見て良かったらまたライブハウスにも見に来てくれというメッセージであるが、ハンブレッダーズはそれを言わない。それをすでに音楽に、曲にしているバンドだからだ。その曲を演奏するということがそのままメッセージになるし、短い持ち時間のライブでは演奏しないこともあるこの曲をこのフェスで演奏したのは、他の出演者たちが普段からライブハウスでライブをしているバンドたちばかりという、闘志をバチバチに燃やしながらもリスペクトを示すということであったからだと思う。
何よりもコロナ禍になった際に世間から叩かれまくっていたライブハウスのためにハンブレッダーズが生み出し、マキシマム ザ ホルモンのダイスケはんなどが聴いて涙したというこの曲が、3年ぶりに帰ってきたこのフェスのステージで鳴らされている。フェスからライブハウスへ、ライブハウスからまたフェスへ。そんな当たり前の音楽を軸にした生き方や生活が確かに戻ってきつつある。それが今まで何度もライブで聴いては涙してきたこの曲で、また違う種類の涙を流してしまった。ここじゃきっとバレないな、いや、暗いライブハウスじゃないからバレてしまうかもしれないな。
リハ.DAY DREAM BEAT
リハ.弱者の為の騒音を
1.再生
2.ギター
3.銀河高速
4.BGMになるなよ
5.ワールドイズマイン
6.ライブハウスで会おうぜ
・WANIMA [SKY STAGE]
朝から天気が悪かっただけに薄暗かった空はさらに暗くなってきている。フォーリミの前にこのSKY STAGEに最後に立つバンドは初年度から出演し、フォーリミとともに今の日本のパンクを引っ張る存在であるWANIMAである。
「JUICE UP!!のテーマ」のSEでいつものように元気良くメンバーが登場すると、KENTA(ボーカル&ベース)はフォーリミの「monolith」のサビを口ずさみながらベースを鳴らし、そこに眼鏡をかけたKO-SHIN(ギター)と変わらずに迫力のある体型のFUJI(ドラム)が音を重ね、「これは初年度に披露されたフォーリミのカバーの演奏から始まるのか?」とも思ったのだが、KENTAが口ずさんだ「monolith」はサビ部分のみで、改めてベースによるイントロを鳴らし始めるといきなりのWANIMAのエロい部分のキラーチューンである「BIG UP」からスタートするのだが、やはりFUJIのぶっ叩く強靭なドラムをはじめとして、WANIMAのライブはパンクバンドとしてのスケールや説得力が全く違う。もはや覇王色のオーラが3人から発されているのが目に見えるんじゃないかというくらいに音から立ち振る舞いから他のバンドと全く違うものがある。
「雨上がったねー!」
とKENTAが言ったことで自分自身雨が降っていないことに改めて気付いたのだが、その言葉に続いてKO-SHINが刻み始めたギターは客席からどよめきが起こった「雨上がり」。それも無理もないくらいの序盤からのキラーチューンの連打っぷりであるし、観客がツーステやスカダンスで踊っている姿はモッシュ、ダイブ、合唱がなくてもWANIMAのライブそのものだ。曲の最後にジャンプしながらKENTAが歌う
「あなたの心が晴れますように
明日は晴れ頑張れますように」
というフレーズを聞いていたら、明日が朝早くから仕事であっても頑張れる気がしてくる。WANIMAの音楽は問答無用でそんなパワーを与えてくれるが、ライブだとさらにそのパワーが何倍にも感じられる。目の前であの3人が鳴らし、歌ってくれているからだ。
KENTAがベースを置くと、ハンドマイクでステージを歩き回りながら、コロナ禍にリリースした会心のパンク回帰3部作収録の「Cheddar Flavor」の小気味良いタイトルフレーズを口ずさみながら、頭の上でリズムに合わせて手を左右に動かすという独特の動きを観客にも真似させてから演奏するのだが、この3部作収録曲は初期のWANIMAを思い出させるようなサウンドを今のWANIMAの技術と経験で鳴らしているという素晴らしいパンクナンバーばかりであるだけに、初期曲のインパクトには勝てなくともこうしてフェスなどでも演奏され続けていて欲しい曲である。
コロナ禍前のWANIMAのライブといえば「合唱大会」と揶揄されるくらいの合唱に次ぐ合唱だったわけであるが、その中でも特に大きな合唱を生み出していた「エル」もこの日演奏される。もちろん合唱は起きようがないのであるが、それでも
「明日は晴れるかな
晴れたらいいのにな
晴れた空の下
会えたらいいのにな」
というKO-SHINのハイトーンコーラスが乗るフレーズでは我々の声までもが祈りのように重なっているかのようだった。それはきっとこれまでにライブで聴いてきたこのフレーズでの大合唱が頭に焼き付いているからだ。早くまたみんなで歌いたいと思うけれど、もしそれがなくてもWANIMAのライブを物足りなく思うことはない。我々はみんな心の中で歌うことができるからである。
そんな中でKENTAは
「みんないろんな悲しいこととか辛いこともあるやろうと思う。俺もじいちゃんがいなくなった時に向き合えるようになるまで時間かかったけん。そんなじいちゃんの歌を歌います」
と祖父への想い、それがここにいる人の大切な人への想いに重なるように言葉を口にすると、近年のライブでは「Mom」の前などに追加することも多い
「皺の数だけ良い男だと」
というフレーズが強く脳内に残る、まだ曲にはなっていないメロディを口ずさみ、そのフレーズを何度も繰り返すたびにより強い感情が乗っていく。その感情の抑揚の付け方はまさにKENTAが祖父の喪失を乗り越えていく過程そのものであるかのようであったのだが、そんなメロディの後に演奏された祖父を思って歌った「1106」はそのメロディを追加したからこそ、今まで以上にKENTAの祖父への思いを強く感じられるものとなり、今まで何度となく聴いては涙を浮かべてしまったこの曲でさらに涙を流してしまった。単なる頑張れソングを歌うバンドだったらこんなに曲や音に感動しない。その背景に我々が経験することと同じ喪失があるのが見えるからこそ、WANIMAの音楽は我々の背中を支えたり、力強く押してくれたりするのである。
そんなWANIMAの聴き手の背中を押す力に満ち溢れているのが、KENTAが高らかに歌い始めると
「心の中で!」
と観客を煽る。この曲ならどんなに高いキーだとしても一緒に歌える。何度となくそう思わせてくれた「Hey Lady」は、誰もが口には出せないけれど、演奏が始まった瞬間には両手を高く突き上げていた。それは思いっきり声を出す際の動作そのものであり、声にならない声を我々は確かに心の中であげ、ここにいた人たちと大合唱することができている感覚になれた。
こんなにも声を出さず、衝動を突き動かされるようなリズムを叩くFUJIのドラムが響いてもマスの中からはみ出るようなことは誰もしない。みんな本当に凄い。WANIMAの3人の優しくて温かい人間性がちゃんとファンにも伝わっている。
そうして最後には時間が少なくなって焦るような感じもありながらも
「これからもWANIMAとともにおってくれよ!」
というメッセージとともに「ともに」を演奏する。この代表曲中の代表曲の凄まじいまでの連打はどこかこのこれまでにみんなで大合唱してきた曲をまた一緒に歌うことができる日が確かに近づいてきていることを感じさせるとともに、まだWANIMAが今ほど国民的な存在になる前から出演してきたこのフェスだからこそのものでもあるようにも感じた。
何よりも2日目の最終盤という体力を使い果たしつつあるような時間でも、それを忘れさせるくらいに我々の体を飛び跳ねまくらせてくれる。それが自分の体力の限界を自分で勝手に決めていたことを思い知らせてくれる。まだまだもっといける、もっと飛べるって。やっぱりWANIMAの音楽や存在は我々にWANIMAの音楽でしか得ることができない力を与えてくれるものなのだ。
最後にKENTAは
「またいつかここに帰ってきます!」
と言った。どれだけフォーリミと関係が近かったり、このフェスが好きだとしても、WANIMAはもう毎年必ずフェスに出まくるような立ち位置のバンドじゃない。名前や存在を知ってもらうような時期はとっくに超えているから。
それでも「またいつか」と言う。それはスタジアムや紅白まで行ったとしても、このフェスが、この場所がWANIMAの3人にとって大事な場所であることは変わらないということだ。
今度このフェスに出演する時には、晴れた空の下でWANIMAに会えるかな。
SE.JUICE UP!!のテーマ
1.BIG UP
2.雨上がり
3.Cheddar Flavor
4.エル
5.1106
6.Hey Lady
7.ともに
・Saucy Dog [LAND STAGE]
なんだか毎月のようにライブを見ている感じすらある、Saucy Dog。それだけ今いろんなフェスやイベントから求められている状況にいるバンドであり、いろんな人にライブを見てもらう状況にいるバンドということだ。初出演にしてベテランから若手から常連まで、2日間様々なバンドが熱演を繰り広げてきたLAND STAGEのトリを務める。
いつも通りにせとゆいか(ドラム)、秋澤和貴(ベース)、石原慎也(ボーカル&ギター)の3人が順番にステージに現れてそれぞれが丁寧にお辞儀をすると、この日は新たなバンドのキラーチューンに早くもなった「シンデレラボーイ」から始まるという意表を突くような曲で始まり、客席からはハッとするかのような驚きのリアクションが上がる。パンクでもなければラウドでもない、ごくごくシンプルかつ爆音でもないスリーピースバンドだからこそ、石原の澄んだ声が暗くなった夜空に光の穴を開けるかのように伸びていくのも、その赤裸々過ぎるような歌詞もしっかり耳の中に入ってくる。
そのシンプルなスリーピースバンドの、ロックバンドとしてのダイナミズムを感じさせてくれる「雀ノ欠伸」で石原がギターを掻き鳴らしながら歌い、客席はリズムに合わせた手拍子でそのロックサウンドに耳を合わせると、せとは
「もう8年前かな?COMING KOBEに行った時に見たフォーリミのライブを今でも覚えてる。それくらいに記憶に残ってるライブを見せてくれたバンドのフェスに出れているのが本当に嬉しいし、私たちのライブが今ここにいる人にとっていつまでも忘れられない思い出になってくれたら」
という素直に良い人過ぎることが伝わってくるようなMCでフォーリミへの思いを語ると、
「新曲をやります!」
と言ってこのライブの数日前にリリースされたばかりの新曲「魔法にかけられて」のイントロのギターを弾くのだが、それをミスってすぐにやり直すということに。この日はおなじみの歌詞が飛ぶということはなかったけれど、やっぱりこのバンドのライブは素直には終わらないみたいだが、石原は
「正直、めちゃくちゃ緊張してます(笑)」
とミスの理由を口にしていた。そりゃあこんな猛者しかいないような出演者の中でフォーリミの前にライブをするというバトンの重さは計り知れないものがあるけれど。
そうして再びやり直した「魔法にかけられて」でこのバンドの持つメロディの美しさに浸らせると、
「走って 走って 走って 立ち止まって
見渡せばここがどこだかわからなくなった」
というサビの石原の歌唱がどこまでも伸びていくかのような美しさと透明さを発揮する「煙」から、ライブではおなじみの、石原がステージ横に駆け出してギターを掻き鳴らすロックナンバー「ゴーストバスター」と続いていくのだが、決してアッパー一辺倒ではない、メロディを最も前面に押し出した、それに我々が浸るようなバンドの音楽だからこそ、このフェスがもう終わっていってしまうという寂寞感に襲われてしまう。
すると石原もこのライブを締めるかのように、
「フォーリミには僕らの対バンツアーに出てもらってツーマンして…」
と対バン時のエピソードを話してくれるのかと思いきや、
「もう時間ないんで曲やりまーす!(笑)その話はまた追ってします(笑)」
と、声が出せる状況だったなら間違いなく盛大な「えー!」という声が上がるような締まらなさもまたこのバンドのライブらしいものだったのだが、その後に演奏された「いつか」の
「君の見る景色を全部
僕のものにしてみたかったんだ」
というサビのフレーズは、2日間で我々が見た、このステージよりももっと壮大な景色が見えるステージの景色が来年はこのバンドのものになっていることを感じさせるには充分なものだったし、そこでこの日は話せなかった対バンのエピソードを聞けたらと思う。
しかし、ライブ後にせとはツイッターで感想を見ようとしたら、自分たちのファンが悪く言われたりしていたり、自分たちのファンがマナーを守れていないことにひどく心を痛めているようだった。
実際に先月のツタロックに出演した後もバンドの公式アカウントからは「サウンドチェック中であっても撮影をしないように」という喚起が出されるとともに、「キツい言い方で注意をしないように」という喚起も出されていた。
今、これだけ急速に支持を広げているバンドなだけに、今までライブハウスに行ったりしたことがないけれど、このバンドのライブを見たいからフェスに行ってみる、という人だってたくさんいる。そういうライブ未経験者をたくさんライブ体験者にすることができるくらいの位置に今のこのバンドはいる。そうした人たちは当然ルールやマナーを熟知しているわけではない。だから時には違反的なこともしてしまうかもしれないけれど、メンバーはそうした行為を厳しく注意するようなタイプの人たちではないし、そうしたやり取りを見たくないようなタイプの人たちだ。
そんな穏やかなメンバーだからこそ、そうした言葉を見ると傷ついてしまう。気にしないということもできないし、かといって自分たちが口うるさく言うこともできない。それが自分たちのライブを良くない方向に変えてしまうのがわかっているだろうから。それは決して弱いことではない。ただただ純粋過ぎる人たちだということだ。
急激に大きくなったバンドは得てしてこうしたことに悩まされるようになってしまいがちだ。このフェスを主催しているフォーリミも、GENもこれまでに数え切れないくらいにそうしたことを言われたり目にしてきただろうから。
そこをどう乗り切るか、あるいはやり過ごすかはそのバンドのメンバーの人間性によって変わる。でもSaucy Dogのように穏やかで優しい人たちがそうしたことで苦しんだり悩んだりしなくていいようにすることができるのは、実際にそのライブに来ている人たちだけだ。できればメンバーがそうしたことを言わなくてもいいような場所をみんなで作っていけるように。
リハ.メトロノウム
1.シンデレラボーイ
2.雀ノ欠伸
3.魔法にかけられて
4.煙
5.ゴーストバスター
6.いつか
・04 Limited Sazabys [SKY STAGE]
そして3年ぶりのこのフェスを締め括るべく、フォーリミが大トリとしてのステージへ。前日のライブでは「Buster call」の解禁という歓喜と驚きがあったけれど、この日は果たしてどんなライブでこの2日間を締め括るのか。
おなじみのSEでこの日はいろんなステージにも登場したメンバー4人が元気良くステージに出てくると、GEN(ボーカル&ベース)の
「3年ぶりのYON FES2日目、この曲知ってるやつどんくらいいんだ!」
と言っての思いっきり腕を振りかぶる姿を合図にして4人が音を鳴らし始め、RYU-TA(ギター)が「オイ!オイ!」と煽り、
「かかってこいよ!」
と叫ぶ「monolith」からスタートする。おなじみの曲であるけれど新鮮なのはWANIMAに歌われたりしてきたこの曲がやはり3年ぶりにこの場所で演奏されているからでもあるが、前日は演奏されていなかったからでもある。しかしながらライブの最初に演奏されるこの曲はやはり我々の期待や楽しみをどこまでもブチ上げてくれるのである。
続くのもライブ定番の、夜になって完全に暗くなったからこそ照明がより一層鮮やかにメンバーを照らし、今度はHIROKAZ(ギター)がイントロから「オイ!オイ!」と煽りながら手拍子をする「fiction」であるが、こちらも前日は演奏されていなかった。この段階でYON FESでのフォーリミのライブは全く違う内容になるという忘れかけていたことを思い出させてくれるのである。
GENのボーカルとともに一斉に演奏が始まる、「monolith」を今のフォーリミがやるとこうなるようでいて、GENのハイトーンの限界に挑み、それを見事に乗り越えているかのような振り絞るボーカルがどこまでもエモーショナルな「fade」から、RYU-TAのボーカルとHIROKAZのコーラスが絡む「Alien」と前日には演奏されなかった曲の連打に次ぐ連打となったのだが、明らかにライブそのものの感触が前日よりもはるかに良い。
それはそうで、前日はプレッシャーなどの方がもしかしたら強かった状態だったかもしれないが、2日目の大トリともなるともう自分たちが最高のライブをやるだけであり、それをやり切ればこの2日間は終わってしまうという解放感が強いからだろう。それはやはり3年前にも同じようにフォーリミは2日目のライブの方が抜群に良くて、だからこそ最高の締めとなるライブだったことを思い出す。
だからこそGENも
「この2日間ほとんど寝れていない」
と言いながらもどこか安堵したような表情であるかのようにも見えたのだが、そんな中で演奏されたのはこれまでは「このフェスの2日目のアンコールの最後に演奏される曲」という位置であった、名古屋のライブハウスの名前が次々に歌詞として出てくる「758」であり、ハルカミライの「ファイト!!」などのようにあっという間に終わってしまうショートチューンなのであるが、この曲がこの中盤で演奏されたというあたりに、今年のYON FESの締めとしてのフォーリミのライブがこれまでとは全く違うものになるということを感じさせるのである。
KOUHEIのツービートが爆走する、このフェスで演奏される「My HERO」はまさにこんな素晴らしいフェスを作っているフォーリミこそが我々にとっての、ロックシーンにとってのヒーローであることを実感させてくれるのだが、ここでスペシャルゲストとしてステージに招かれたのは何とスカパラホーンズのNARGO、GAMO、北原雅彦、谷中敦の4人で、フォーリミの大名曲「swim」にブラスだからこその美しい旋律と迫力を加えてくれて、そのカッコ良さにひたすら涙が出そうになってしまった。
そもそもスカパラはアーティスト主催フェスに呼ばれる時はそのアーティストの曲を演奏してくれたりする人たちなだけに、スカパラのライブでGENが登場して「銀河と迷路」をやっただけというのはちょっとおかしいな、とも思っていたのがこうしてフォーリミのライブまでちゃんと残ってくれているどころか、こうしてフォーリミの曲をさらにカッコよくアレンジしてくれている。スカパラの凄さはこれまでにも数え切れないくらいに実感してきたけれど、やっぱりこの日もそれを感じさせられてしまった。このライブはスペシャで放送もされるからまたこのコラボは何回も追体験できるけれど、このコラボバージョンを何らかの形で音源化して欲しいくらいに何度だって聴きたい。
そう思いながらもスカパラホーンズがステージから去ると、HIROKAZのさわやかなギターの音がこの草原が広がる会場の雰囲気に実に似合うスケールで響く「hello」へ。やっぱりこの曲はこの会場で聴くのが1番似合うな、と思っていると、最後のサビ前でGENが歌うのをやめ、
「みんなの声が聞きたいな」
と口にする。続けて
「話し声くらいの感じで」
と、サビを歌うように呼びかけるのだが、やはりほとんどその声は聞こえない。みんな、本当に歌っていいのか不安な感じがその声から凄く出ていた。そりゃあそうだ、「ライブで歌った」という文字だけを見たらすぐに突っかかってくるようなやつだってたくさんいるのだから。でもGENが
「hello helloくらいは言えるでしょ!」
と言うと、しっかりと聞こえる、でもそれは話し声くらいの音量が1〜2秒くらいだけここにいた人たちのものが重なったというくらいのささやかさで響く。GENはその音を確かに聴くと、
「ありがとう」
と少し感極まったように口にした。その後ろでリズムをキープしていたKOUHEIは笑顔だった。我々はみんな泣いていた。コロナ禍になってから観客が歌う声を聞くのはほとんどの人にとっては初めて、つまり3年以上ぶりの経験であり、そんな当たり前だったけれど失われてしまったものが、声量はかつてよりはるかに小さくても確かに戻ってきた、フォーリミが取り戻してくれたのだから。合唱を好まない人もたくさんいるけれど、でも人が発する声だからこそそこには感情を感じ取ることができる。この日の観客の歌声にはその場にいた人にしか感じることのできない感情が確かに宿っていた。それこそが人の心を震わせてくれるのだ。
すでにマスクをしながらなら会話をしてもいいのが当たり前の世の中において、何故ライブの空間だけが声を発したらいけないのか。それはコロナ禍になった直後にライブハウスでクラスターが起きてしまい、世間から叩かれまくってきたライブハウスでのライブを何とかして守っていくためだったからだ。
でもこのままじゃライブ会場で声を出すということがずっと失われたままになってしまう。あくまでもマスクをして、ソーシャルディスタンスを保って、換気しかない屋外という会場で、飛沫が飛びようもないくらいに普段会話しているのと変わらないくらいの声量で。好き勝手にやるんじゃなくて、感染しようもないくらいにそうした条件をちゃんと守りながら、一瞬だけでもその瞬間を取り戻す。GENは初日に
「少しでも自分たちで前に進めたい」
と言っていた。この日、この瞬間、確かにコロナ禍以降のライブがほんの少しだけでも前に進んだ。これから急速に戻るようにはならないだろうけれど、でもこれがダメなら世の中の活動は全て閉ざさないといけないし、これを批判できるのは家から一歩も出ずに誰とも全く会わずに生活している人だけだ、というくらいに我々は何も恥ずべきことはしていない。仮に何か言ってくるやつがいたとしても、あの日あの場所にいた我々だけがちゃんと大丈夫だったということをわかっていさえすればそれでいいのだ。きっとこの日のこの瞬間に耳で聞くことができたあの声を自分は死んでも忘れることはないだろう。
そんな「hello」を終えるとGENは
「ライブ中にスタッフさんが目を拭うような仕草をしていて…それを見たら俺も感動して泣けてきちゃって…。
でも後で聞いたらその人花粉症で目が痛かっただけだったって(笑)」
と笑い話にしていたが、GENの話し声は初日以上に感極まったような、涙を含んでいたように聞こえた。それは
「本当に俺は音楽が好きで良かった」
と、恥ずかしくなるようなことを恥ずかしげもなく口にしてしまうくらいにこのフェスをここまで持ってくることができた、自分たちが見たいものがちゃんと見ることができたという感慨によるものだろう。
そして
「壊れたりしたらまた作り直せばいいし、なくなったんならまた始めればいい。そんな曲をやります」
と言ってGENが高らかに歌い始めたのは、この二日間で唯一どちらの日にも演奏された「Buster call」だった。
「かかってこれないけど、かかって来いよ!」
と思いっきり感情をこめて煽り、観客は飛び上がりまくり、両腕を高く上げる。それは感謝を体で示すようであり、ここにいることができて本当に良かったという実感を示すようなものでもあった。コロナ禍じゃなかったら演奏後に隣の人とハイタッチや肩を組んだりしたいくらいだったけれど、コロナ禍だったからこんなにこの曲が特別に感じられたってところも間違いなくあるっていうのがなんだか複雑だ。
そして最後に演奏されたのはやはりGENによる
「最低な世界のまんまじゃ許されないから」
というボーカルによって始まり、RYU-TAが「オイ!オイ!」と煽りまくる「Terminal」。
「最高な世界になったら
きっと愛せるんじゃないか
何処にある ここにある
最後は 君といたいから」
最高なように感じるこの2日間も、まだ完璧に最高な世界とはいえない。でも我々はここからまたその最高な世界を目指すことができる。このフェスがあって、フォーリミがいてくれれば。「最後は君といたいから」のフレーズが、本当に痛切に胸に突き刺さってくるけれど、でもそれは確かな希望として突き刺さってくるものだ。この2日間をここで過ごすことができたからこそ、そう感じているし、来年にはこの場所がもっと最高な世界になっていますように、と願いを込めるようにしてこの曲を聴いていた。
アンコールでは明らかに時間がなさそうにすぐに出てくると、
「昨日も言ったけど、YON FESは俺たちだけが作ってるんじゃなくて、出演者や来てくれた人みんなで作っている」
という前日の開催宣言で口にした言葉を改めて口にすると、どこか名残惜しそうに、でも意を決すようにして、やはり前日は演奏されなかった夜の野外の「midnight cruising」でKOUHEIとRYU-TAがカメラ目線で演奏しながら流星群を降らせる。雨が最後までほとんど降らず、ライブが終わった後や翌日になって降っていたのは、この曲で振るのは雨じゃなくて流星群だからという理由で空が待っていてくれたんじゃないか、そんな気さえしてしまうくらいにこんなに天気が持ったのは奇跡的だと思う。
そして本当に最後の最後に演奏されたのは、
「未来からの、message」
と言っての、パンクバンドとしての矜持を最後に音として鳴らすかのようなツービートが炸裂するショートパンクチューン「message」。その未来は来年のことであり、さらにその来年のまた来年…というようにこの場所に来続けたい。
初日に会場に着いた時に前に来てから3年も経ったとは思えないくらいについこの間来たかのような感覚だった。それくらいにここでの記憶が鮮明に脳内に残っていたし、完全に自分にとってこの場所が大切な場所の一つになっているんだと思った。そんな場所だからこそ、これからも何があってもまた来れるように。集合写真を撮る出演者たちが
「1,2,3,YON FESー!」
と声を上げるのを聞いていて、来年はこれもみんなで一緒に言えたらいいなと思っていた。
このフェスは今年は特に工事中で駐車場が減っているために、最寄駅までリニモに乗ってこないといけない。でもリニモは3両くらいしかないし、どうせ発車したら次にホームに来るまで長いんだろうな…と思っていたら、6分間隔で来るくらいに大幅に増便し、駅員の方々もホームの整理をしてくれていた。
そうして交通機関も協力してくれて、工事中にもかかわらず会場も貸してくれている。それはこれまでにこのフェスが積み上げてきたものの成果であり、フォーリミとそのファンを信頼してくれているからこそ成り立っているものだ。そこには名古屋を愛し、名古屋に愛されてきたフォーリミが作ってきたものが集約されていた。こんなに名古屋を好きにきてくれて本当にありがとう。これからも、永久にちょうどいい空気で。
1.monolith
2.fiction
3.fade
4.Alien
5.758
6.My HERO
7.swim w/ スカパラホーンズ
8.hello
9.Buster call
10.Terminal
encore
11.midnight cruising
12.message
そんな中でも開演前から大行列になっている、RYU-TAが実際に客にラーメンを手渡しする麺屋おがたにHIROKAZが行こうとしたりと、昨日トリとしてライブをやったにもかかわらず、この日も朝からフォーリミのメンバーはフル稼働である。HIROKAZはあんなに目立つ髪をしているのにあまり気付かれていなかったけれど。
前日にはKEYTALKの武正が登場するというサプライズがあった前説兼開催宣言にはこの日は名古屋グランパスのマスコットキャラも特別参加。今年は物販にコラボグッズも販売しており、もはやYON FESが音楽を超えた名古屋の新しい象徴となりつつあるのを感じる。
・ハルカミライ [SKY STAGE]
そんなYON FESが前回開催されたのは3年前。その3年前にLAND STAGEのトリとして凄まじいライブをやってみせたハルカミライが、ついにSKY STAGEに登場。この日のトップバッターとしてフェスの幕開けを告げる。
ジングルが鳴る前から既に関大地(ギター)、須藤俊(ベース)、小松謙太(ドラム)の3人がステージに登場すると、バンド名が告げられた瞬間に3人が思いっきり音を鳴らし、その音に導かれるように橋本学(ボーカル)が巨大な旗を掲げてステージに現れる。完全に観客はまだ寒い中であるのに関はペットボトルの水を頭にかけ、須藤は鳴らしたばかりのベースを床に置いてステージを歩き回っていると、関のギターがイントロを鳴らす「君にしか」で始まり、早くもたくさんの腕が上がる。やはりこの曲が1曲目に演奏されるとライブが、フェスが始まったなという気持ちになるし、
「君にしか歌えない」
という通りにこの曲はハルカミライにしか歌えないし、
「君にしか聴こえない」
という通りにこの曲は自分や、周りにいる一人一人自身にしか聴こえない。どこまでもバンドと自分が向き合うための曲だ。
さらには「カントリーロード」へと続くのはおなじみにして必殺の流れであるが、橋本は
「さみーさみー言ってんじゃねぇ!」
と言ってTシャツを脱いで上半身裸になると、
「さみ〜!」
と自分で言ってしまうものだからついつい笑ってしまうのだが、その直後に関がアンプの上から大ジャンプをかます姿を見るとその面白さとカッコ良さのギャップもまたこのバンドの人間らしさだなと思う。
須藤がベースを置き去りにしてステージを歩き回るので、ベースの音がないのに何故かこのバンドとしては完璧に成立しているような感じすらするショートチューン「ファイト!!」を、
「ファイト一発!」
と元気が出るCMのように叫んで鳴らすと、
「3年前に、好きな人と来てるやつは告っちゃえよ!って言ったらカップルになった奴がいた。恋のキューピッド、ハルカミライです!」
と橋本が挨拶するのだが、さすがにその時にカップルになってこの日ライブに来ていた人はおらず、須藤は瞬時に
「みんな別れた」
と身も蓋もないことを言うのだが、そんな恋のキューピッドは2020年に本来ならすでにこのSKY STAGEに立っているはずだったということで、この日は2020年にこのステージでやるはずだったセトリで臨むことを明かす。
それはこの日が3年前のあの日の続きということでもあるのだが、メンバーがステージ上を暴れ回るようにして鳴らされる「俺達が呼んでいる」も、このフェスのような時期のためにあるかのようにメンバーの声が重なる「春のテーマ」も、本当に2年前もこうしてこのステージで演奏されていたんだろうなというのが容易に想像できる。小松をステージ前まで呼び、メンバー全員で大合唱するのも、慌てて小松がドラムセットに戻ると、むしろ小松しか楽器を演奏していない、当時なら最新シングル曲であった
「明るい場所を探し望んでる」
という場所がこの場所であるかのように響く「PEAK'D YELLOW」も。
「雨降ってるといいこともあるぜ。湿気があるから声がいつも以上に絶好調だぜー!」
と雨すらも味方につけるように橋本がさらに歌声に伸びやかさを増す「世界を終わらせて」で観客を飛び跳ねさせると、「僕らは街を光らせた」では曲中に橋本は
「好きなバンドのライブならなんだって忘れられる!そんなバンドばっかりだ!」
とこのフェスの出演者たちを称える。自分にとってはハルカミライこそがそんなバンドの筆頭であるのだが、そのハルカミライはやはり雨が降っていることすらも忘れさせるくらいに我々の体も心も熱くしてくれる。そんなバンドだからこそ、
「這いずり回りながら、泥に塗れながら、俺たち強く生きてかなきゃね」
というフレーズにこの上ないくらいの確信が宿っているのだ。そうした生き方をしてきたバンドであるし、その姿にこそ我々は美しさを感じてきたのだから。
そしてラストの「アストロビスタ」では橋本はやはり
「眠れない夜に私フォーリミを聴くのさ」
とフォーリミへのリスペクトを歌詞にして示すと、
「ライブハウスシーン、フェスシーンが帰ってきてる。みんな、ただいま。おかえり」
とこのフェスが帰ってきてくれたこと、我々も出演者もこのフェスに帰って来れたことを口にすると、曲中に「宇宙飛行士」のフレーズを引用してその2曲が連なる物語であることを示す部分で空を指さす。そこには鳥が飛んでいた。
「生まれ変わったら会いに行くよ」
というフレーズに合わせるように飛んでいたあの鳥は3年前にこの空を飛んでいたかもしれない鳥が生まれ変わって羽ばたいているかのようにすら見えた。それくらいに全ての歌詞とタイミングが重なった、ドラマや漫画のように、でも現実だからこそより、あまりにも美しすぎる瞬間だった。
「俺たちをトップにして正解だったな。最高のフェスの始まりだー!」
と橋本が高らかに叫ぶと、まだわずかに時間が残っているということで、リリースされたばかりのアルバム「ニューマニア」収録のショートチューン「To Bring BACK MEMORIES」を鳴らし、関も須藤もステージを滑るようにしたり、飛び跳ねまくって演奏していた。この曲だけは2年前でも3年前でもなく今のハルカミライだからこそのもの。あの日の続きのようでいて、たしかに2022年のYON FESでのハルカミライのライブだった。
きっと、3年前にこのフェスでこのバンドのライブを見て衝撃を受けて、それからこのバンドのワンマンに行くようになったという人もたくさんいるはず。それくらいにあの日のハルカミライは凄まじいライブをしていたし、トリ前だからこそ、
「普通のバンドなら「フォーリミの前に体力使い切らせてやる!」って言うんだろうけど、ハルカミライは違うぜ。終わった後にフォーリミに走って行ける力を与えに来たんだ!」
と言い、その通りに力を与えてくれるライブだった。
それならばトップバッターだった今年はどうだろうか。やはり今年もこのフェスを最後まで走り抜ける力を与えてくれたのは、トップバッターがこのバンドだったからだ。来年は3年前に演奏していた、さくらのことを歌う曲がここでまた聴けたらいいな。
リハ.ファイト!!
リハ.ラブソング
リハ.ウルトラマリン
リハ.フュージョン
1.君にしか
2.カントリーロード
3.ファイト!!
4.俺達が呼んでいる
5.春のテーマ
6.PEAK'D YELLOW
7.世界を終わらせて
8.僕らは街を光らせた
9.アストロビスタ
10.To Bring BACK MEMORIES
・四星球 [LAND STAGE]
3年前はSKY STAGEに出演していたこのバンドがLAND STAGEのトップバッターというあたりに今年のこの日の出演者の層の暑さを感じさせる、四星球。このバンドとフォーリミといえば、というかつてJAPAN JAMでこのバンドの天才っぷりを見せつけた「swim!たいやきくん」はこの日は本編でやる時間がないという理由でサウンドチェックで演奏され、やはり爆笑を巻き起こしていた。
四星球はサウンドチェックは衣装を着ていないだけに、果たして本番では今回はどんなパフォーマンスを、と思っていると、北島康雄(ボーカル)こそいつもの法被姿であるが、今回が4回目のこのフェス出演ということで、まさやん(ギター)は懐かしのヨン様(ぺ・ヨンジュン)、モリス(ドラム)は2004年にヒットしたマツケンサンバの松平健、U太(ベース)は金のシャチホコを持った黒子という、それぞれの姿だけ見たら何をしに出てきた人たちなんだと思うくらいにバラバラである。
「名古屋には金のシャチホコみたいな金色を見たらみたら噛み付く人いるからね!」
と、早くも名古屋ネタを投下して笑わせると、実際に金色の松平健の衣装の袖が噛みちぎられている実に細かいネタも入れているのだが、フェスではおなじみの「運動会やりたい」では客席を白組と紅組に分け、観客にあみだくじで何をやるかを選んでもらい、大縄跳び対決でジャンプさせまくり、この日は雨が降っていることもあり、雨避け対決では前後に首を振る動きが完全にヘドバンとなり…と早くも寒さを忘れるくらいに観客の体を動かせる。
「負けたチームはリストバンド切って帰ってもらいます!」
「勝ったチームはペヤング超大盛りをプレゼントします!」
とまさやんお手製の小道具を駆使して笑わせるも、何度もこのバンドのライブを見ているとこれがどんな形であれ最後の伏線になるんだろうなというのがわかってくる。
しかし今はただ目の前で演奏しているコミックバンドに楽しませてもらうだけ、と「クラーク博士と僕」で北島がフラフープを回す姿に、メンバーの純粋に実に完成度の高いパンクバンドとしての演奏に拍手が起こり、北島は
「我々四星球、今年で20周年です!20周年にもなると、スカパラ兄さんくらいしか先輩がいませんが、まさか20年やってきてこんなに朝早い出番だとは思いませんでした!(笑)
でも今日はそんなYON FESの4を四星球の4にしに来ました!」
と祝福の拍手すらも笑いの拍手に被せるというあたりはやはりさすがである。
そんな中で
「森高千里さんの名曲「私がオバさんになっても」のアンサーソングを勝手に作りました(笑)」
という曲紹介だけでも笑えるのがもはやズルくすらある新曲(ライブでは結構前からやってるけど)「君はオバさんにならない」は曲自体は笑いのないバラードではあるけれども、このフェスで演奏されることによって、フォーリミのファンの若い人たちが今の四星球くらいの年齢になっても精神は変わらずに今のままでライブを楽しんでいて欲しいという願いが込められているかのように、ただただ真っ直ぐに歌い鳴らされていた。そんな思いを感じるのも、
「悲しいことがあったとしましょう!財布落として、中に2万円入ってたとしようか。それなら四星球のライブ来てくれたらそれ以上にして返します!免許証がなくなったとしよう。それでも四星球のライブに来てくれたらあなたがライブハウスにいるって証明しますので!
綺麗事言ってると思いますけど、20年間これをやり続けてきてるんで!」
というこのバンドが積み重ねてきた歴史による説得力と人間性によるものだ。
そして「妖怪泣き笑い」ではヨン様が服をめくるとブリーフ一丁になるという変質者的な動きをまさやんが連発する中で北島は
「我々出演者はステージに屋根があったり、楽屋にも屋根があるんですよ。でも皆さんは雨が降っても最後までフォーリミのライブまで楽しむんでしょ?本当に凄いと思います!それはこのフェスが開催できなかった3年間を耐えてきたことと全く同じだと思います!」
と熱いメッセージを我々に放ってくれる。このバンドのことを凄いバンドだと思っているからこそ、こうして我々のことを称えてくれるのが本当に嬉しいし、最後のサビ前でその場にしゃがんでから思いっきりジャンプした時の観客の表情は心から笑っていたはずだ。
そんなライブの最後に
「あなたが死にそうに 消えてしまいそうになったら
忘れちゃいそうになったら 歌が薬草になってやら」
という歌詞がパンクサウンドに乗って歌われるのは「薬草」。かつてこの客席を走り回っていた北島は、
「ジブリパークができたらネコバスで走り回りましょう!」
という言葉でいつか来るその日のことを想像させてくれる。その時はきっと今よりもさらに笑えているはず。演奏後にモリスがマツケンサンバを踊りながら(もう松平健にしか見えない)この日使った小道具を全て駆使して
「YON FES超大好き」
というメッセージをボードに作り上げたこのバンドは間違いなく優勝していた。だから北島の去り際の一言は
「金メダル獲ったんで、噛まれる前に帰ります!」
だった。
コロナ禍になってから四星球は
「みんなで歌うことも、モッシュもダイブもできない。じゃあ何ができるのか?それ以外なら全部できます!」
と言うようになった。確かに四星球のライブはそんな、それ以外のことを全てできることを証明している。でも、それをありとあらゆる方法を駆使して証明できるのは四星球しかいないと思う。それは彼らがコミックバンドだからこそできる。20周年、このバンドでたくさん泣き笑いすることができたら。
リハ.ギンヤンマ
リハ.Teen
リハ.鋼鉄の段ボーラーまさゆき
リハ.swim!たいやきくん
1.運動会やりたい
2.クラーク博士と僕
3.君はオバさんにならない
4.妖怪泣き笑い
5.薬草
・Crossfaith [SKY STAGE]
これまでにもこのフェスにはSiMやcoldrainなどのラウドバンドたちが出演してきたが、今年そのラウドバンド代表としてステージに立つのは、このフェスではお馴染みの存在である、Crossfaithである。
SEからして凶悪なサウンドを放つ中でメンバーが一人ずつ登場すると、一際目を引くのはTatsuya(ドラム)が髪色が白のドレッドヘアになっているということ。メンバーが全員衣装が黒のバンドであるだけにより一層映えるし、白蛇のメデューサかのようですらある。
「YON FES!準備はいいか!」
とKoieが問いかけると、この草原を燃やし尽くすかのような轟音ラウド・メタルサウンドの「Catastrophe」でスタートし、こんなに端正な見た目をしていたっけかと思ってしまうKazuki(ギター)と、長い髪を振り乱して顔にペイントを施したHiroki(ベース)は早くもステージ上を激しく動き回りながら、ロックバンドの用いる弦楽器はこんなに轟音が鳴らせるものなのかと思ってしまうくらいの音を鳴らし、Koieのシャウトもグロウルも変幻自在のボーカルがこの会場をまるで海外のメタルフェスの会場かと思ってしまうように我々の見ている景色を塗り替えてしまう。
Teru(シンセなど)が誰よりも自分たちが鳴らしている音に没頭するかのように頭を振りまくりながらカメラに目線を合わせてシャウトしまくるのもこのバンドのライブならではの観客の心をブチ上げてくれるものであるのだが、「Rx Overdrive」「Freedom」とキラーチューンが連発されることによって、雨がまだ少し降っていて肌寒いと感じるくらいがこのバンドのライブを見ていて体が激しく動いてしまうことを考えるとちょうどいいくらいなんじゃないだろうかとさえ思う。
Teruは誰よりも頭を振り、またKoie以上にステージ上を動き回っているのだが、「Kill 'Em All」あたりの曲を聴いていると、そのTeruが鳴らしているデジタルなサウンドはこんなにも凶暴なダンスミュージックたり得るものになるのかと、ライブを見るたびにこのバンドの音の強さに驚かされる。
コロナ禍前にはヨーロッパのフェスにも出演し、ツアーでも海外を回ったりしていたが、とかく日本的なギミックがウケたりすることの多いヨーロッパでこのバンドが受け入れられているのはひたすらにこの音の強さが海外のロックファン、メタルファンすらも血湧き肉躍らせるものになっているからなんだなと思う。
そしてKoieは
「俺らはフォーリミと同い年で、プライベートでもメンバーと仲良くさせてもらってる。そんなフォーリミが3年ぶりに開催したこのフェスに俺たちが出ていることを本当に誇りに思うし、名古屋の中でもこのフェスはこれからも帰ってくる場所の一つだと思っている」
という盟友のフェスへの愛を口にするのだが、このバンドのことを全然知らずに初めて見た人は「GENさんとこのボーカルの人って同い年なの!?」とさぞや驚いたことであろう。隣同士で並んで同い年だと思う人はそうそういないと思われる。
それはこのバンドのメンバーが自分たちの音楽性に合わせてヴィジュアルも変化させてきたからこそであるが(実際に学生時代のメンバーの写真は同じバンドとは思えないくらいに幼い)、そのラウド、メタルバンドとしての誇りを鳴らすかのように「Countdown To Hell」を演奏し、普段はこの曲で締めることも多いだけにこれで終わりかとも思ったのだけど、この日はそれでは終わらないのは、フォーリミの代表曲と同じタイトルを持つ「Monolith」を演奏するのがこのバンドのYON FESでの戦い方だからだ。ただただ圧巻の、その音だけで世界で戦ってきたバンドの強さと重さがさらにパワーアップしてこの場所に戻ってきた、そんなライブだった。
この日、自分たちのライブが終わった後にKoieはバックステージから客席内を何度も通ってPAブースの横から他のバンドのライブを見ていた。もしかしたら自分たちのライブが終わったら酒を飲んで喋りながら過ごして…というイメージをこのバンドに持っている人もいるかもしれないけれど、同じフェスに出ている他のバンドのライブを観客と同じ視点で見て、刺激を受けたりアイデアを得たりしてさらに自分たちのサウンドやライブをビルドアップしていくという、この日、いやこの年のYON FESで最も重い音を鳴らしていたバンドが、どうやってそうした音を手に入れることができたのかというのがわかった瞬間だった。
1.Catastrophe
2.Rx Overdrive
3.Freedom
4.Kill 'Em All
5.Countdown To Hell
6.Monolith
・SPARK!!SOUND!!SHOW!!
こちらはこのフェス初出演、メンバー4人が揃いの衣装で登場するというあたりがどこか部族というかチームのようにも見える、通称スサシことSPARK!!SOUND!!SHOW!!である。
デザイナーとしても活動しているチヨ(ベース)とタクマ(ギター)はステージに登場するなりメンバーを映すカメラに向かってピースサインをしてこのフェスに出演できた喜びを示しているのだが、169ことイチロー(ドラム)はドレッドヘアを頭の前で結んでリーゼントとドレッドの融合というとんでもない髪型になっているのが彼なりの気合いを感じさせる。タナカユーキ(ボーカル)は緑色に染めた坊主気味の髪型にヘアバンドというヘッズスタイルである。
そのタナカがマシンガンのように次々と言葉を放ちまくり、カオスという言葉を音楽にするとこういうものになるというようにヒップホップ、パンク、ラウド、エレクトロなどのあらゆるロックサウンドを飲み込んで自分たちのものにするというスサシのスタイルが炸裂する「TOKYO MURDER」でメンバーはこのステージじゃ俺たちには小さいと言わんばかりに動き回るというか暴れ回るようにして演奏している。何をどうやったのかはわからないが、タナカは足を蹴り上げると靴が脱げて飛んでいくというパフォーマンスは学生時代に上履きを蹴り上げて遊んでいた頃を彷彿とさせるが、それくらいにこのバンドのメンバーは無邪気に、自然体にこのフェスのライブを楽しんでいる。
そんなバンドの「STEAL!!」がアニメのタイアップ曲だったというのがなんだか痛快極まりないが、
「このバンドの高見沢(THE ALFEE)」
と紹介されたチヨがアンプの上に立ってからベースを抱えて大ジャンプする「SCAR」ではタナカがマイクをステージに置き、床に寝そべるようにしてそのマイクで歌うという、自分たちの鳴らす音に感電しているかのようなパフォーマンスも。見ていて飽きないというか、何をやらかしてくれるのか、制限がある、ルールがある、それを破れる状況じゃない中でも目が離せないバンドである。何故か2020年のロッキン(開催中止になったけど)に出演するのが決まった際にツイッターの検索に「スサシ ロッキン 出禁」というワードが出てきたのもこのバンドのライブの自由さを象徴している出来事である。
「フォーリミのメンバーたちも名古屋では相当悪いことしてるよ」
とタナカが不敵に言い放って演奏された「✞黒天使✞」では観客の腕が一斉に上がり、マスの中から出ないようにしながらも体を揺らしまくっていたあたり、この曲を聴けるのを待っていたという人もたくさんいたんじゃないかと思われるが、そんな曲の後に
「音楽で世界が一つになれるように」
というギャップがありすぎる真摯なメッセージを込めてタナカがギターを弾きながらストレートなポップパンク「アワーミュージック」を鳴らすなど、カオスの中だからこそこの曲のポップさが際立つところもあるし、この曲がポップだからこそ他の曲のカオスさが際立つところもあるだろう。
そんな中でこのバンドの楽しさ、音楽的な遊び心とアイデアの独特さを最も感じさせてくれるのは、ゴジラのテーマをサンプリングし、そのままゴジラについて客観的かつメタ的な視点で歌う「かいじゅうのうた」だろう。ネタ的な側面も感じる曲だけれど、そこにはこのバンドのヒップホップ、ミクスチャーバンドとしての精神を強く感じさせてくれる。確かにその系譜にいるべきバンドであるというか。
「俺たち、本当は2020年にこのフェスに出るはずだったんだけど、それがコロナで開催できなくなって。それっきりもう出れないかもしれないな、とも思ったりもしたけど、こうして今日出れたのはフォーリミが約束を守ってくれたんだろうなって」
と、見た目は完全にヤンチャな悪ガキたちという感じであるが、MCからはその奥にある人間としての純粋さのようなものを確かに感じ取ることができる。
そんなフォーリミへの感謝を自分たちなりのサウンドとして返すかのように「GODSPEED」「MARS」とさらに音が鋭利に、凶暴になり、イチローはいつのまにかリーゼントが解けて純粋なドレッドヘアに戻ると、イチローはフリースタイル的に、でもしっかりと韻やリズムを意識するかのようにして次々に言葉を吐き出していく。
それは今のロシアとウクライナをめぐる状況や、こうなるまでその国の問題や状況を知らなかった自分自身のこと、それによって失われてしまった命、この日本でも前首相が行ってきた愚行や悪政、そうしたことによって幸せに生きていくことができない世界中の人々のこと。
スサシは自分たちのツアーなどではライブでの撮影を許可しているだけに、これまでにもタナカのこうした言葉を動画で見たりもしてきたが、そこだけを見るのではなくて、こうして曲を演奏してきた後にこの言葉を聞くと、ひたすら好き勝手にやっているようにも見えるこのバンドのカオスな音楽が、世界中のありとあらゆる不条理に抗うためのレベルミュージックであることがわかる。
「今日はそれだけを伝えにきました。ありがとうございました」
とそれまで暴れ回っていたメンバーが、これはタナカ一人だけではなくてバンドとしてのメッセージであり、ステイトメントであるとばかりにじっとまっすぐ目線を保っていた姿も実に印象的だったが、その言葉の後に聴いた「南無」はやはりタナカの言葉が次々に放たれていくラップ的な、タイトル通りに呪術的でもある曲なのだが、音源とも、ここまでに演奏された曲とも全く違うバンドが鳴らしている曲のように聴こえた。それはこのバンドが自分たちの守りたいもののためにこの曲を、この音を鳴らしているということがちゃんとわかった上で響かせた曲だったからである。ただぶっ飛べるだけの麻薬的な音楽というだけではない、この狂った世の中で自分らしく、強く生きていくための闘争の音楽。それがSPARK!!SOUND!!SHOW!!だった。
自分はこのバンドのライブを初めて見たのはかなり前だ。まだ今のメンバーでも編成でもない頃から、彼らはBAYCAMPをはじめとするAT FIELD(P青木)絡みのフェスやイベントに良く出ていた。
当時はSMAPの解散を惜しんで「SHAKE」をカバーしたりする、ある意味では悪ノリの限りを尽くす、ヤンチャな軽い感じの兄ちゃんたちというイメージのバンドだった。
それが、2年くらい前にフェスに出演した映像を見た時にガラッと変わった。その時にはもう今のようなライブをやっている、名前だけ変わってない別バンドなんじゃないかと思うくらいのバンドになっていたから。
バンドで日本中を周り、自分たちもメンバーチェンジを経験し、大人として世の中を生きてきたことできっといろんなことを見てきて、それがバンドマンとしても人間としても成長させたのだろうし、そうして自分たちが本当にやりたいこと、歌いたいこと、やるべきことが見えてきて、それを100%の濃度でできるメンバーが揃ったのが今ということだろう。
正直言って、かなり好き嫌いは分かれるタイプのバンドだと思うけれど、初めて見た時には感じなかった感情を今自分はこのバンドに抱いている。それは他のこのフェスに出演しているバンドと同じようにカッコいい、いや、このバンドでしかないカッコよさを音楽としても人間としても持ったバンドになったんだなということ。人はこんなにも強く変わることができるということを教えてもらった気がしている。
1.TOKYO MURDER
2.STEAL!!
3.SCAR
4.✞黒天使✞
5.アワーミュージック
6.かいじゅうのうた
7.GODSPEED
8.MARS
9.南無
・東京スカパラダイスオーケストラ
開催初年度は同世代や地元名古屋というキーワードをもとにした出演者が集っていたこのフェスは歴史を重ねるたびに様々なアーティストが出演するようになり、ラインナップに広がりをもたらしてきた。
今年の2日間の出演者の中で最年長のスカパラが出演しているというのがそうして広がってきたこのフェスの幅を最も広げているとともに、フォーリミがレジェンドクラスのベテランとも交流を持つようになったことの証明である。
[Alexandros]の川上洋平をゲストボーカルで招いた「ALMIGHTY 〜仮面の約束」のインストバージョンのSEでオレンジ色のスーツでバシッと揃えたメンバーがステージに現れると、そのままSEを引き継ぐようにメンバーがインストのこの曲の演奏を始める。このバンドとコラボした千葉県の習志野高校の吹奏楽部の演奏が美爆音として高校野球の応援でもおなじみであるが、こうしてボーカルレスのこの曲での谷中敦(バリトンサックス)、GAMO(テナーサックス)、北原雅彦(トロンボーン)、NARGO(トランペット)によるホーン隊のサウンドはまさに美爆音と言いたくなるようなものだ。
すると谷中が
「やっと来れたぜYON FESー!元気付けるぜー!戦うように楽しんでいってくれよー!」
とおなじみのセリフでまだ少し寒さを感じる我々のハートを熱くさせるように「DOWN BEAT STOMP」で谷中や大森はじめ(パーカッション)らが歌いながら踊りまくり、それがあっという間に客席にも広がっていく。もう問答無用で楽しくさせてくれるし、暖かくしてくれる。寒さを感じる野外でのライブを過ごすために1番大事なのはこうして踊って、音楽で体を温めることだというように。
再びホーン隊の美爆音が吹き荒れるイントロで観客の腕がたくさん上がるくらいにこのフェスからも歓迎された曲は「Paradise Has No Border」であり、曲中でGAMOがマイクを持つと、
「いつものやつ行くぞー!1番盛り上がってるのはどこだー!」
と言ってステージを左右に走り、盛り上がっている方向にホーン隊と加藤隆志(ギター)、川上つよし(ベース)が集まって音を鳴らす。加藤はギターを銃のように観客に向け、川上はベースを盾にするかのようにメンバー全員を支えるようにして演奏する。これが「いつもの」というくらいに完全に定着しているのが面白いが、このアクティブさは年齢を重ねてもメンバーの体力や気力が衰えるどころかむしろまだまだ増していることの証でもある。
すると笑顔のドラマー茂木欣一がマイクを持ち、前日にメンバーが始球式をやるはずだった仙台での楽天-ソフトバンクの試合が楽天の選手にコロナ感染者が多発して中止になってしまったことを語り、それゆえに当たり前のことなんてないということが、このフェスが開催することが出来なかった期間に重なるメッセージを口にしてから演奏されたのは、その茂木の優しくて朗らかな人間性がそのまま曲になったかのような、新たな茂木メインボーカルの「君にサチアレ」。それは我々だけでなく、フォーリミやこのフェスに携わる全ての人を鼓舞してくれるかのように鳴らされていた。
すると今度は茂木に変わって沖祐市のピアノをフィーチャーした「水琴窟 -SUIKINKUTSU」へ。曲でコラボした上原ひろみが降臨したかのような鮮やかな指さばきで流麗なピアノを弾くと、そのたびに客席からは大きな拍手が起こる。こうしてフェスの短い持ち時間の中でもそれぞれのプレイヤーの見せ場を作った曲を演奏することによって、そのメンバーの技術の高さを初めて見る人にも伝えるとともに、スカパラが達人の集団による凄まじいバンドであるということも伝えてくれる。
で、フェスのスカパラと言えばゲストボーカルなのだが、この日はこれまでに曲に参加した出演者は誰もいない。しかしスカパラの曲をカバーしたアーティストはいる。ということでスペシャルゲストとして呼び込まれたのはフォーリミのGEN。
「なんか服も似ている感じで(笑)」
と少しオレンジ混じりの服を着て登場すると、フォーリミがカバーした「銀河と迷路」を茂木ではなくGENボーカルの本家スカパラ演奏でコラボする。去年の幕張メッセでのワンマンでもフォーリミはこのカバーを演奏していたが、スカパラの演奏は原曲のまま、GENのボーカルはフォーリミバージョンとして後半のサビのメロディや歌い回しを自分たちのものとしたアレンジで、その2つが融合した新しい「銀河と迷路」の形になっていた。それはきっとこの日、このフェスでしか見ることができないであろうもの。それを見せてくれたスカパラがこのフェスに出てくれたことに本当に感謝である。
そんな特別なライブのエンドロールであるかのように、大森がアジテーターのようにマイクを持ち、バンドが演奏したのは「5 days of TEQUILA」。加藤がギターを抱えてステップを踏むようにしたりと、客席とステージが全く同じ温度で楽しく踊っている様は、これまでの長いキャリアの中で国籍や人種すらも超えた同じ人間として音楽の楽しさや喜びを分かち合ってきたスカパラが、出演者や観客との世代の差を超えてこのフェスで音楽の楽しさや喜びを分かち合っているかのようだった。
かつてNICO Touches the Wallsが主催したフェスにスカパラが出てくれた時のように、自分の好きなバンドの主催フェスにスカパラが出てくれるのが嬉しいのは、好きじゃない人から舐められることだってあるようなバンドのフェスでも、スカパラが出てくれれば舐めた目で見てくるようなやつはいなくなるからだ。
それはこれまでのスカパラのキャリア、生み出してきた曲、ライブで作ってきた景色、そのフェスでしか見れないものを見せてきてくれたサービス精神という、リスペクトされるしかないような活動があればこそだ。こういうカッコいい大人になりたいというバンドがたくさんいるのが本当に良くわかるけれど、スカパラの凄さは自分たちのライブだけでは終わらないところでもあったのだった。
1.ALMIGHTY 〜仮面の約束
2.DOWN BEAT STOMP
3.Paradise Has No Border
4.君にサチアレ
5.水琴窟 -SUIKINKUTSU
6.銀河と迷路 w/ GEN
7.5 days of TEQUILA
・Wienners [LAND STAGE]
リハの段階で最大クラスのキラーチューン「蒼天ディライト」を演奏して観客の手が左右に揺れまくるくらいに盛り上げていたのはWienners。リハでこの曲をやっちゃうということは、本編では…?と期待が高まるが、初年度以来実に6年ぶりの出演である。
メンバーがステージに登場すると、玉屋2060%(ボーカル&ギター)は
「伝説のライブの条件!ヤバいバンドが揃ってる!そのバンドたちがヤバいライブをする!そして雨!全て揃った今日!神様、音楽をお救いください!」
と最初からテンションMAXで叫び、「GOD SAVE THE MUSIC」でアサミサエ(キーボード&ボーカル)による電子音がパンクというフォーリミと同じルーツを持ちながらもまるで違うジャンルの音楽であるかのように感じさせてくれる。
顎髭が緑色でおなじみの、この日はメガネをかけた560(ベース)とKOZO(ドラム)によるリズムがトライバルなムードを生み出し、それが野外フェスというシチュエーションに実に良く似合う、このままこうして夜通しこの場所で音楽を聴きながら踊っていたいとすら思える「おおるないとじゃっぷせっしょん」から、ファストコアなどのマニアックなパンクの要素とキャッチーな電子音を融合させた、タイトル的にもこのバンドがこのフェスに出るんならそりゃあこの曲をやらないわけにはいかないでしょうという「Justice4」では間奏で玉屋が、
「急遽特別ゲスト!フォーリミからKOUHEI!」
と紹介すると、
KOUHEI「誘うのが急すぎる!(笑)」
玉屋「だってさっき思い付いたんだもん(笑)」
KOUHEI「でもできるもんね」
というやり取りから、KOUHEIがパーカッションを打ち鳴らしてKOZOのドラムと重なることによってよりトライバルかつグルーヴィなリズムが練り上げられていく。一通り叩き切って間奏が終わるとすぐにKOUHEIはステージを去ったが、まさかWiennersのライブでフォーリミのメンバーがコラボするなんて全く想像していなかったし、そのコラボ相手のメンバーがドラマーというわかりやすい方にはいかないのがどこかWiennersらしい。
しかしながら玉屋はKOZOに
「もっとちゃんとKOUHEIをリードしろよ!」
と何故か突っ掛かり、
「リード出来てただろ!」
と言い合いになったかと思いきや、どこからか同期の音が流れてきて「なんだなんだ!?」とメンバーが戸惑ったのも束の間、それはまさかのフォーリミ「Garapagos」の寸劇まで含めた完璧なカバーだったのである。なので同期の音からこのバンドでの演奏になるのだが、メインボーカルを担うのはアサミであり、間奏では
玉屋「っていうかお前が歌うのかよ!」
などの曲前だけではなくて曲中の寸劇までも完璧に作り上げられているという全方位的なクオリティの高さ。改めてWiennersの演奏技術なアレンジ力の高さ、何よりも久しぶりの出演であるこのフェスへの愛情を感じさせてくれる最高のパフォーマンスである。
すると力強く疾走していくような「ANIMALS」で観客が腕を上げて飛び跳ねまくっていると、なんとこの日唯一の太陽が顔を出すという奇跡のような瞬間が。雨が降るロックバンドの野外ライブも伝説のものだけれど、雨が止んで空が晴れるというのもまた間違いなく伝説のライブと言っていいものでもあるし、それはこのバンドの持つとびっきりポジティブなエネルギーが引き寄せたものなのかもしれない。
すると玉屋は
「ちょっと北の方では戦争が起こっていて。そんな世の中でも、俺は音楽でみんなが一つになるって信じて演奏します!」
と願いをこのバンドならではのダンスパンクサウンドに乗せて「unity」を演奏する。
「UNITY UNITY とち狂った世界でも 全てはいつか一つになれるかな
UNITY UNITY ぶっ壊れた心だって 元どおり一つになれるかな」
というサビのフレーズはまさに今の世の中の状況のことを歌っているかのようであるが、そんな曲が2年前に生まれていたというのはコロナ禍になったことも含めて、この曲が、このバンドの音楽がこれから先またどんなに暗い世の中になったり、そうした出来事があったとしても光のように我々のことを、進む方向を照らしてくれるということだ。
そして玉屋は前日も会場に来ていたことを明かすと、
「俺たちも楽しみにしてたし、みんなも楽しみにしていたと思うけど、昨日のフォーリミのライブを見ていたら、このフェスを1番楽しみにしていたのはやっぱりあいつらだったんだなって思った」
というフォーリミへの、このフェスへの最大限の愛溢れる言葉を口にする。その対・人、対・心というスタンスがそのまま音となったパンクサウンドこそが、フォーリミとWiennersの最大の共通点なのかもしれない。日本人としての誇り、日本語で歌う日本のパンクバンドとしての誇りに満ちたラストの「TRADITIONAL」を聴きながらそんなことを思っていた。
そんなフォーリミとこのフェスへの愛に溢れた、この日このライブじゃないと見れないものをしっかりと準備してきて、それをずっと前からやってきたかのような完成度で見せてくれる。ライブハウスでのワンマンや対バンはもちろん、こうした大きな規模の野外フェスから、若手バンドばかりのサーキットイベントまで。
ありとあらゆるシチュエーションのライブに出まくって、自分たちのライブ筋力を鍛えまくってきたWiennersだからできる、作れるものを見せてくれたライブだった。そんな経験、技術、知識などなどの全てを兼ね備え、自然すらも味方にしてしまったこのバンドのライブは、間違いなく今年のYON FESにおける伝説のライブと言えるものだった。前日のTOTALFATもそうだったが、長い年月ライブハウスの最前線を、メンバーが変わっても止まることなく走り続けてきたバンドだからこその強さを見せてもらったし、それをこれからもずっと見ていきたいと思った。
リハ.蒼天ディライト
リハ.ULTRA JOY
1.GOD SAVE THE MUSIC
2.おおるないとじゃっぷせっしょん
3.Justice4 w/ KOUHEI
4.Garapagos (フォーリミカバー)
5.ANIMALS
6.unity
7.TRADITIONAL
・My Hair is Bad [SKY STAGE]
このフェス出演直前にまさかのミュージックステーション出演、さらにはついに楽曲のサブスク解禁。YON FES皆勤賞を誇るMy Hair is Badであるが、その置かれている状況はこれまでとは全く違うものになっている。
サウンドチェックで曲を演奏し、そのまま捌けることなく本番を迎えてすぐに演奏を始めるというのは前日に出演したもう一つの皆勤賞バンド、SHANKと同様であるが、
「新潟県上越市、My Hair is Badです。YON FESよろしく。ドキドキしようぜ!」
とどこか表情も吹っ切れたような爽やかさを感じさせるのはやはりTVよりも観客が目の前にいるライブのステージの方が気合いが入るんだろうかと思う椎木知仁(ボーカル&ギター)の挨拶からいきなりの「アフターアワー」でこのライブの瞬間だけは最高速で走っているかのような疾走感溢れるギターロックを鳴らすと、間奏では山本大樹がステージ真ん中前まで出てきて、シンプルなスリーピースバンドには特に重要な要素である重い、けれどメロディアスなベースソロを弾く。その後ろで高い位置のシンバルをぶっ叩きまくる山田淳のドラムのスタイルも実にド派手である。
さらには「告白」でさらに速度を上げ、最後のサビ前では椎木は観客の方に向かってマイクスタンドを傾けながら
「心で歌ってくれ!」
と叫ぶ。その観客が心で歌っている
「きっと心配はないさ」
というフレーズは、椎木が観客が自分自身にそう言い聞かせてもらうためかのようですらある。この音楽が、ロックバンドが、ライブがあればこの状況でもきっと心配はないさ、というかのように。
椎木も山本もステージ上で軽やかにステップを踏むかのようにして演奏した「ドラマみたいだ」もそうだが、時折ギターの音を外しながらもどこか余裕があるというか、必死に挑んでいくというよりも横綱相撲感すらあるのは皆勤賞バンドとしての安心感によるものだろうか。先日の代々木体育館の時もそうだったが、最近は本当に椎木の声も安定しているというのもそうしたライブがどっしりとしてきた要素の一つでもあると思う。
椎木が改めて自分たちがこのフェス皆勤賞バンドであることを口にすると、昨年のツアーでも演奏されていた、実にマイヘアらしいエモーショナルなギターロックの新曲「カモフラージュ」が披露される。椎木は歌詞にある
「今の若さが羨ましくなるまで」
というフレーズを口にしてから演奏に入っていたが、マイヘアのメンバーももう30歳になった。正直、見た目はパッと見全然昔から変わらないようにも見えるけれど、このフェスの皆勤賞記録がこれからも伸び続けていった先でそう思うようになったりするのだろうか。どんなに歳を取ってもマイヘアの音楽やサウンドは歳を取らないというか、今と変わることのない衝動や焦燥を持ったままのような気もするけれど。
そして一瞬で駆け抜けるようなショートチューン「クリサンセマム」から繋がるようにして椎木が思いっきりギターをかき鳴らし、ステージ上で何度もくるっと回るようにして演奏し始めたのは「ディアウェンディ」では
「YON FESの4を幸せの4でも心臓の4でもなく、椎木の4にしに来ました!」
と、過去の出演時の名言を再現しながら目の横でピースサインを作り、さらには
「GENさんに「椎木の元カノ、ブスだな」って言われたの忘れてないからな!」
とこのフェス最大のヒールらしくフォーリミへの感謝だけではなく、フォーリミの存在を自分たちを燃え上がらせる原動力にする。いつもこの曲のそうした椎木のアドリブ歌唱にボディランゲージでリアクションを取る山本は「え?」みたいな顔をしていたけれど。
そんな忘れていないことすらも、
「忘れた方がいいことなのはわかってる」
と言ってから歌い始めたのは、ミュージックステーション出演時に歌い出しの
「ブラジャーのホック」
という赤裸々なフレーズが話題になった「真赤」。でもやっぱり「ディアウェンディ」で口にしていた通り、テレビでもYouTubeでもサブスクでもない、今目の前にいるマイヘアが鳴らすこの曲が1番沁みる。1番夏の匂いを感じることができる。それはそのダイナミズム溢れる挙動によって鳴らされる3人の音がダイレクトに耳に入り、音の振動が体に響いてくるから。そもそもTVの音楽番組に出演する日が来るなんて思いもしなかったけれど、やっぱりマイヘアはライブのバンドなんだ。
そして最後に
「みんなも自分の中で1番大切なものを思い浮かべながら聴いてください」
と言って演奏されたのは、「カモフラージュ 」同様に昨年のツアーからすでに演奏されていた新曲「歓声をさがして」。
「音楽でもいい 映画でもいい
YouTubeでも お笑いでもいい
アニメやゲーム 読書でもいい
なんでもいい 好きならいい」
と歌うこの曲であるが、最後には
「DJ もういいや 僕の曲は僕が
歌うことにするから」
と歌うように、自分にとってもやはり1番大事なものは音楽であり、こうした音楽が鳴らされる場所であるということを再確認させてくれるような曲だ。今はまだそうは出来ないけれど、またこの会場でマイヘアの曲が鳴らされている時に上がるはずの歓声をさがしている。
ワンマンを見ていても新曲は演奏するだろうなとは思っていたけれど、今まではこうしてフェスの短い持ち時間で音源リリース前に連発するようなことはしないバンドだった。それを今そうしたというのはこの曲たちに、来るべきアルバムにこれまで以上にメンバーが強い自信と確信を持っているということだ。果たして問答無用の大傑作であり、マイヘアというバンドの存在をシーンに知らしめた「narimi」や「Woman's」を超えるものになっているのか。
今からすでに楽しみで仕方がないが、その新曲も含めたライブの声は出せない中での熱狂っぷりはMステ出演によるものだけではない。ここにいた人たちはみんなMステに出演するはるか前からこの日のチケットを取っていたから。
フォーリミが主役の、フォーリミに超えていかれるような役回りであったとしても(これは2019年の出演時に椎木が言っていたことだ)、やっぱりマイヘアはライブが1番輝くバンドだからだ。それくらい、考えてみたら全部ここにあったんだ。
リハ.いつか結婚しても
リハ.グッバイマイマリー
1.アフターアワー
2.告白
3.ドラマみたいだ
4.カモフラージュ
5.クリサンセマム
6.ディアウェンディ
7.真赤
8.歓声をさがして
・ハンブレッダーズ [LAND STAGE]
今年数少ない、中止になってしまった2020年から今年までのあいだに台頭してきた出演者である、ハンブレッダーズ。昨年フォーリミとツーマンを行った時にGENから公開オファーを受けての出演であるが、サウンドチェックで曲を演奏して音のバランスは完璧になったのだが、
「音は大丈夫です。できれば温度上げて欲しいです。寒いっす」
とムツムロアキラ(ボーカル&ギター)は本番前から我々を笑わせてくれるユーモアを発揮している。
本番でおなじみのサポートギターのうきを含めた4人がステージに登場すると、
「スクールカーストの最底辺から青春を鳴らしに来ました、ハンブレッダーズです」
とムツムロが至って平熱な感じで挨拶し、最初に鳴らされたのは昨年リリースの大名盤(個人的2021年年間ベストディスク5位)、ロックを我々の手に取り戻すためのアルバム「ギター」の1曲目に収録された「再生」。それは
「関連動画で偶然出会った歪な音楽
巻き戻してたらいつの間にか手放せなくなった
青春映画と対極の存在だった僕が
人混みの中でひとりになる為の秘密兵器」
という歌詞から始まる通りに音楽を聴くという意味での「再生」であるが、ことこの場に限ってはどこかこのフェス自体が「再生」していくためのテーマであるかのような。
「不特定多数に向けられた歌に興味はないよ
僕の感動とお前の「エモい」を同じにすんな」
という自分が10代の頃なら絶対にそう思っていただろうなという心境を言い当ててくれるキラーフレーズも、
「もう一度聴きたいからと遠回りして帰る」
という自分の経験をそのまま歌ってくれているかのようなフレーズも、1曲目からハンブレッダーズの鳴らす音楽の先には自分のような音楽しかないような奴や、音楽そのものが確かにいる。
「世界を変えるために必要なのは、ギター」
とムツムロの曲フリは毎回本当にこれしかないという言葉であるのだが、アルバムタイトル曲である「ギター」でもやはり
「錆び付いたギターでぶっ壊す
もう全部 全部 全部」
「暗闇の中で微かな光を見た
ギター ギター ギター」
というキラーフレーズの嵐であり、音楽によって、ギターを手にしたことによって人生が変わった自分がその延長としてこのステージに立っているかのように、ムツムロはギターを鳴らしながら歌う。寒い中でも短パンでぴょんぴょん飛び跳ねながらベースを弾くでらしも、長い髪を揺らすようにしてタイトなビートを刻む木島(ドラム)も演奏する楽器は違えど「ギター」のフレーズでコーラスを重ねる。それはギターを弾いているわけではないけれど、ギターを鳴らしまくっているこのバンドの存在によって人生が、自分の中の世界が変わったということだ。
そのギターの音が疾走感溢れるビートに乗ってきらめきまくる「銀河高速」はバンドの体制が変わらざるを得なくなった時に生まれた曲でもあるのだが、
「時代の波ならば HIP HOP
イマドキ女子は皆 Tik Tok
未だに僕らはロックンロールと
フォークソングをシンガロング」
というフレーズは何度聴いても「これだ!」と確信するようなものであるが、10年後くらいにはTik Tokという単語はもう死んでいて、それに置き換わるような何かが生まれているだろうと思う。でもその時にはTik Tokに変わる何かがこのフレーズにハマっているのだろうし、何よりも「ロックンロールとフォークソング」はこれから先何年経ってもずっと変わらないはずだ。
「インタビューでフォーリミのメンバーが僕らのことを陰キャって言ってたんですけど、その陰キャが1番良いライブやります。みんなそういうのが見たいんでしょ?」
というムツムロの言葉には飄々としながらも確かな闘志を感じさせるし、その最下層からの大逆転劇が生まれることこそがロックンロールであると思っている自分にとってはハンブレッダーズはやはり最高のロックバンドということだ。それは聞き流せるような音楽ではなく、こうしたライブの場のようにただひたすら鳴っている音楽のみと向き合うための「BGMになるなよ」にも現れている。彼ら(というかムツムロ)はアルバムのインタビューでもそうしたBGMたり得る音楽ではなくて、今必要なのはロックであるということを口にしていたし、「ギター」というアルバムは、ハンブレッダーズのライブは自分たちの鳴らす音でそれを体現している。
そして「ギター」の象徴的な曲と言えるのはイントロのギターのリフが一度聴いたら頭から離れなくなる、木島による軽快なリズムが体も心も解放して踊らせてくれる「ワールドイズマイン」で、間奏では
「いつでも主人公は 遅れて登場すんだ
お待たせしました ド派手なエレキギター」
というフレーズとともにド派手なギターソロが鳴らされると、ステージに片膝ついてベースを弾くでらしの膝にムツムロが足を乗せてギターを弾く。基本的には曲を演奏するということ以外のエンタメ性を持たないライブをするバンドであるが、だからこそこうして演奏する姿で我々を楽しませてくれる。
そして
「ハンブレッダーズでした、ありがとうございました」
とだけ挨拶して最後に演奏されたのは「ライブハウスで会おうぜ」。
フェスだとよく「またライブハウスで会いましょう」的な言葉を最後に聞く機会が多い。フェスで見て良かったらまたライブハウスにも見に来てくれというメッセージであるが、ハンブレッダーズはそれを言わない。それをすでに音楽に、曲にしているバンドだからだ。その曲を演奏するということがそのままメッセージになるし、短い持ち時間のライブでは演奏しないこともあるこの曲をこのフェスで演奏したのは、他の出演者たちが普段からライブハウスでライブをしているバンドたちばかりという、闘志をバチバチに燃やしながらもリスペクトを示すということであったからだと思う。
何よりもコロナ禍になった際に世間から叩かれまくっていたライブハウスのためにハンブレッダーズが生み出し、マキシマム ザ ホルモンのダイスケはんなどが聴いて涙したというこの曲が、3年ぶりに帰ってきたこのフェスのステージで鳴らされている。フェスからライブハウスへ、ライブハウスからまたフェスへ。そんな当たり前の音楽を軸にした生き方や生活が確かに戻ってきつつある。それが今まで何度もライブで聴いては涙してきたこの曲で、また違う種類の涙を流してしまった。ここじゃきっとバレないな、いや、暗いライブハウスじゃないからバレてしまうかもしれないな。
リハ.DAY DREAM BEAT
リハ.弱者の為の騒音を
1.再生
2.ギター
3.銀河高速
4.BGMになるなよ
5.ワールドイズマイン
6.ライブハウスで会おうぜ
・WANIMA [SKY STAGE]
朝から天気が悪かっただけに薄暗かった空はさらに暗くなってきている。フォーリミの前にこのSKY STAGEに最後に立つバンドは初年度から出演し、フォーリミとともに今の日本のパンクを引っ張る存在であるWANIMAである。
「JUICE UP!!のテーマ」のSEでいつものように元気良くメンバーが登場すると、KENTA(ボーカル&ベース)はフォーリミの「monolith」のサビを口ずさみながらベースを鳴らし、そこに眼鏡をかけたKO-SHIN(ギター)と変わらずに迫力のある体型のFUJI(ドラム)が音を重ね、「これは初年度に披露されたフォーリミのカバーの演奏から始まるのか?」とも思ったのだが、KENTAが口ずさんだ「monolith」はサビ部分のみで、改めてベースによるイントロを鳴らし始めるといきなりのWANIMAのエロい部分のキラーチューンである「BIG UP」からスタートするのだが、やはりFUJIのぶっ叩く強靭なドラムをはじめとして、WANIMAのライブはパンクバンドとしてのスケールや説得力が全く違う。もはや覇王色のオーラが3人から発されているのが目に見えるんじゃないかというくらいに音から立ち振る舞いから他のバンドと全く違うものがある。
「雨上がったねー!」
とKENTAが言ったことで自分自身雨が降っていないことに改めて気付いたのだが、その言葉に続いてKO-SHINが刻み始めたギターは客席からどよめきが起こった「雨上がり」。それも無理もないくらいの序盤からのキラーチューンの連打っぷりであるし、観客がツーステやスカダンスで踊っている姿はモッシュ、ダイブ、合唱がなくてもWANIMAのライブそのものだ。曲の最後にジャンプしながらKENTAが歌う
「あなたの心が晴れますように
明日は晴れ頑張れますように」
というフレーズを聞いていたら、明日が朝早くから仕事であっても頑張れる気がしてくる。WANIMAの音楽は問答無用でそんなパワーを与えてくれるが、ライブだとさらにそのパワーが何倍にも感じられる。目の前であの3人が鳴らし、歌ってくれているからだ。
KENTAがベースを置くと、ハンドマイクでステージを歩き回りながら、コロナ禍にリリースした会心のパンク回帰3部作収録の「Cheddar Flavor」の小気味良いタイトルフレーズを口ずさみながら、頭の上でリズムに合わせて手を左右に動かすという独特の動きを観客にも真似させてから演奏するのだが、この3部作収録曲は初期のWANIMAを思い出させるようなサウンドを今のWANIMAの技術と経験で鳴らしているという素晴らしいパンクナンバーばかりであるだけに、初期曲のインパクトには勝てなくともこうしてフェスなどでも演奏され続けていて欲しい曲である。
コロナ禍前のWANIMAのライブといえば「合唱大会」と揶揄されるくらいの合唱に次ぐ合唱だったわけであるが、その中でも特に大きな合唱を生み出していた「エル」もこの日演奏される。もちろん合唱は起きようがないのであるが、それでも
「明日は晴れるかな
晴れたらいいのにな
晴れた空の下
会えたらいいのにな」
というKO-SHINのハイトーンコーラスが乗るフレーズでは我々の声までもが祈りのように重なっているかのようだった。それはきっとこれまでにライブで聴いてきたこのフレーズでの大合唱が頭に焼き付いているからだ。早くまたみんなで歌いたいと思うけれど、もしそれがなくてもWANIMAのライブを物足りなく思うことはない。我々はみんな心の中で歌うことができるからである。
そんな中でKENTAは
「みんないろんな悲しいこととか辛いこともあるやろうと思う。俺もじいちゃんがいなくなった時に向き合えるようになるまで時間かかったけん。そんなじいちゃんの歌を歌います」
と祖父への想い、それがここにいる人の大切な人への想いに重なるように言葉を口にすると、近年のライブでは「Mom」の前などに追加することも多い
「皺の数だけ良い男だと」
というフレーズが強く脳内に残る、まだ曲にはなっていないメロディを口ずさみ、そのフレーズを何度も繰り返すたびにより強い感情が乗っていく。その感情の抑揚の付け方はまさにKENTAが祖父の喪失を乗り越えていく過程そのものであるかのようであったのだが、そんなメロディの後に演奏された祖父を思って歌った「1106」はそのメロディを追加したからこそ、今まで以上にKENTAの祖父への思いを強く感じられるものとなり、今まで何度となく聴いては涙を浮かべてしまったこの曲でさらに涙を流してしまった。単なる頑張れソングを歌うバンドだったらこんなに曲や音に感動しない。その背景に我々が経験することと同じ喪失があるのが見えるからこそ、WANIMAの音楽は我々の背中を支えたり、力強く押してくれたりするのである。
そんなWANIMAの聴き手の背中を押す力に満ち溢れているのが、KENTAが高らかに歌い始めると
「心の中で!」
と観客を煽る。この曲ならどんなに高いキーだとしても一緒に歌える。何度となくそう思わせてくれた「Hey Lady」は、誰もが口には出せないけれど、演奏が始まった瞬間には両手を高く突き上げていた。それは思いっきり声を出す際の動作そのものであり、声にならない声を我々は確かに心の中であげ、ここにいた人たちと大合唱することができている感覚になれた。
こんなにも声を出さず、衝動を突き動かされるようなリズムを叩くFUJIのドラムが響いてもマスの中からはみ出るようなことは誰もしない。みんな本当に凄い。WANIMAの3人の優しくて温かい人間性がちゃんとファンにも伝わっている。
そうして最後には時間が少なくなって焦るような感じもありながらも
「これからもWANIMAとともにおってくれよ!」
というメッセージとともに「ともに」を演奏する。この代表曲中の代表曲の凄まじいまでの連打はどこかこのこれまでにみんなで大合唱してきた曲をまた一緒に歌うことができる日が確かに近づいてきていることを感じさせるとともに、まだWANIMAが今ほど国民的な存在になる前から出演してきたこのフェスだからこそのものでもあるようにも感じた。
何よりも2日目の最終盤という体力を使い果たしつつあるような時間でも、それを忘れさせるくらいに我々の体を飛び跳ねまくらせてくれる。それが自分の体力の限界を自分で勝手に決めていたことを思い知らせてくれる。まだまだもっといける、もっと飛べるって。やっぱりWANIMAの音楽や存在は我々にWANIMAの音楽でしか得ることができない力を与えてくれるものなのだ。
最後にKENTAは
「またいつかここに帰ってきます!」
と言った。どれだけフォーリミと関係が近かったり、このフェスが好きだとしても、WANIMAはもう毎年必ずフェスに出まくるような立ち位置のバンドじゃない。名前や存在を知ってもらうような時期はとっくに超えているから。
それでも「またいつか」と言う。それはスタジアムや紅白まで行ったとしても、このフェスが、この場所がWANIMAの3人にとって大事な場所であることは変わらないということだ。
今度このフェスに出演する時には、晴れた空の下でWANIMAに会えるかな。
SE.JUICE UP!!のテーマ
1.BIG UP
2.雨上がり
3.Cheddar Flavor
4.エル
5.1106
6.Hey Lady
7.ともに
・Saucy Dog [LAND STAGE]
なんだか毎月のようにライブを見ている感じすらある、Saucy Dog。それだけ今いろんなフェスやイベントから求められている状況にいるバンドであり、いろんな人にライブを見てもらう状況にいるバンドということだ。初出演にしてベテランから若手から常連まで、2日間様々なバンドが熱演を繰り広げてきたLAND STAGEのトリを務める。
いつも通りにせとゆいか(ドラム)、秋澤和貴(ベース)、石原慎也(ボーカル&ギター)の3人が順番にステージに現れてそれぞれが丁寧にお辞儀をすると、この日は新たなバンドのキラーチューンに早くもなった「シンデレラボーイ」から始まるという意表を突くような曲で始まり、客席からはハッとするかのような驚きのリアクションが上がる。パンクでもなければラウドでもない、ごくごくシンプルかつ爆音でもないスリーピースバンドだからこそ、石原の澄んだ声が暗くなった夜空に光の穴を開けるかのように伸びていくのも、その赤裸々過ぎるような歌詞もしっかり耳の中に入ってくる。
そのシンプルなスリーピースバンドの、ロックバンドとしてのダイナミズムを感じさせてくれる「雀ノ欠伸」で石原がギターを掻き鳴らしながら歌い、客席はリズムに合わせた手拍子でそのロックサウンドに耳を合わせると、せとは
「もう8年前かな?COMING KOBEに行った時に見たフォーリミのライブを今でも覚えてる。それくらいに記憶に残ってるライブを見せてくれたバンドのフェスに出れているのが本当に嬉しいし、私たちのライブが今ここにいる人にとっていつまでも忘れられない思い出になってくれたら」
という素直に良い人過ぎることが伝わってくるようなMCでフォーリミへの思いを語ると、
「新曲をやります!」
と言ってこのライブの数日前にリリースされたばかりの新曲「魔法にかけられて」のイントロのギターを弾くのだが、それをミスってすぐにやり直すということに。この日はおなじみの歌詞が飛ぶということはなかったけれど、やっぱりこのバンドのライブは素直には終わらないみたいだが、石原は
「正直、めちゃくちゃ緊張してます(笑)」
とミスの理由を口にしていた。そりゃあこんな猛者しかいないような出演者の中でフォーリミの前にライブをするというバトンの重さは計り知れないものがあるけれど。
そうして再びやり直した「魔法にかけられて」でこのバンドの持つメロディの美しさに浸らせると、
「走って 走って 走って 立ち止まって
見渡せばここがどこだかわからなくなった」
というサビの石原の歌唱がどこまでも伸びていくかのような美しさと透明さを発揮する「煙」から、ライブではおなじみの、石原がステージ横に駆け出してギターを掻き鳴らすロックナンバー「ゴーストバスター」と続いていくのだが、決してアッパー一辺倒ではない、メロディを最も前面に押し出した、それに我々が浸るようなバンドの音楽だからこそ、このフェスがもう終わっていってしまうという寂寞感に襲われてしまう。
すると石原もこのライブを締めるかのように、
「フォーリミには僕らの対バンツアーに出てもらってツーマンして…」
と対バン時のエピソードを話してくれるのかと思いきや、
「もう時間ないんで曲やりまーす!(笑)その話はまた追ってします(笑)」
と、声が出せる状況だったなら間違いなく盛大な「えー!」という声が上がるような締まらなさもまたこのバンドのライブらしいものだったのだが、その後に演奏された「いつか」の
「君の見る景色を全部
僕のものにしてみたかったんだ」
というサビのフレーズは、2日間で我々が見た、このステージよりももっと壮大な景色が見えるステージの景色が来年はこのバンドのものになっていることを感じさせるには充分なものだったし、そこでこの日は話せなかった対バンのエピソードを聞けたらと思う。
しかし、ライブ後にせとはツイッターで感想を見ようとしたら、自分たちのファンが悪く言われたりしていたり、自分たちのファンがマナーを守れていないことにひどく心を痛めているようだった。
実際に先月のツタロックに出演した後もバンドの公式アカウントからは「サウンドチェック中であっても撮影をしないように」という喚起が出されるとともに、「キツい言い方で注意をしないように」という喚起も出されていた。
今、これだけ急速に支持を広げているバンドなだけに、今までライブハウスに行ったりしたことがないけれど、このバンドのライブを見たいからフェスに行ってみる、という人だってたくさんいる。そういうライブ未経験者をたくさんライブ体験者にすることができるくらいの位置に今のこのバンドはいる。そうした人たちは当然ルールやマナーを熟知しているわけではない。だから時には違反的なこともしてしまうかもしれないけれど、メンバーはそうした行為を厳しく注意するようなタイプの人たちではないし、そうしたやり取りを見たくないようなタイプの人たちだ。
そんな穏やかなメンバーだからこそ、そうした言葉を見ると傷ついてしまう。気にしないということもできないし、かといって自分たちが口うるさく言うこともできない。それが自分たちのライブを良くない方向に変えてしまうのがわかっているだろうから。それは決して弱いことではない。ただただ純粋過ぎる人たちだということだ。
急激に大きくなったバンドは得てしてこうしたことに悩まされるようになってしまいがちだ。このフェスを主催しているフォーリミも、GENもこれまでに数え切れないくらいにそうしたことを言われたり目にしてきただろうから。
そこをどう乗り切るか、あるいはやり過ごすかはそのバンドのメンバーの人間性によって変わる。でもSaucy Dogのように穏やかで優しい人たちがそうしたことで苦しんだり悩んだりしなくていいようにすることができるのは、実際にそのライブに来ている人たちだけだ。できればメンバーがそうしたことを言わなくてもいいような場所をみんなで作っていけるように。
リハ.メトロノウム
1.シンデレラボーイ
2.雀ノ欠伸
3.魔法にかけられて
4.煙
5.ゴーストバスター
6.いつか
・04 Limited Sazabys [SKY STAGE]
そして3年ぶりのこのフェスを締め括るべく、フォーリミが大トリとしてのステージへ。前日のライブでは「Buster call」の解禁という歓喜と驚きがあったけれど、この日は果たしてどんなライブでこの2日間を締め括るのか。
おなじみのSEでこの日はいろんなステージにも登場したメンバー4人が元気良くステージに出てくると、GEN(ボーカル&ベース)の
「3年ぶりのYON FES2日目、この曲知ってるやつどんくらいいんだ!」
と言っての思いっきり腕を振りかぶる姿を合図にして4人が音を鳴らし始め、RYU-TA(ギター)が「オイ!オイ!」と煽り、
「かかってこいよ!」
と叫ぶ「monolith」からスタートする。おなじみの曲であるけれど新鮮なのはWANIMAに歌われたりしてきたこの曲がやはり3年ぶりにこの場所で演奏されているからでもあるが、前日は演奏されていなかったからでもある。しかしながらライブの最初に演奏されるこの曲はやはり我々の期待や楽しみをどこまでもブチ上げてくれるのである。
続くのもライブ定番の、夜になって完全に暗くなったからこそ照明がより一層鮮やかにメンバーを照らし、今度はHIROKAZ(ギター)がイントロから「オイ!オイ!」と煽りながら手拍子をする「fiction」であるが、こちらも前日は演奏されていなかった。この段階でYON FESでのフォーリミのライブは全く違う内容になるという忘れかけていたことを思い出させてくれるのである。
GENのボーカルとともに一斉に演奏が始まる、「monolith」を今のフォーリミがやるとこうなるようでいて、GENのハイトーンの限界に挑み、それを見事に乗り越えているかのような振り絞るボーカルがどこまでもエモーショナルな「fade」から、RYU-TAのボーカルとHIROKAZのコーラスが絡む「Alien」と前日には演奏されなかった曲の連打に次ぐ連打となったのだが、明らかにライブそのものの感触が前日よりもはるかに良い。
それはそうで、前日はプレッシャーなどの方がもしかしたら強かった状態だったかもしれないが、2日目の大トリともなるともう自分たちが最高のライブをやるだけであり、それをやり切ればこの2日間は終わってしまうという解放感が強いからだろう。それはやはり3年前にも同じようにフォーリミは2日目のライブの方が抜群に良くて、だからこそ最高の締めとなるライブだったことを思い出す。
だからこそGENも
「この2日間ほとんど寝れていない」
と言いながらもどこか安堵したような表情であるかのようにも見えたのだが、そんな中で演奏されたのはこれまでは「このフェスの2日目のアンコールの最後に演奏される曲」という位置であった、名古屋のライブハウスの名前が次々に歌詞として出てくる「758」であり、ハルカミライの「ファイト!!」などのようにあっという間に終わってしまうショートチューンなのであるが、この曲がこの中盤で演奏されたというあたりに、今年のYON FESの締めとしてのフォーリミのライブがこれまでとは全く違うものになるということを感じさせるのである。
KOUHEIのツービートが爆走する、このフェスで演奏される「My HERO」はまさにこんな素晴らしいフェスを作っているフォーリミこそが我々にとっての、ロックシーンにとってのヒーローであることを実感させてくれるのだが、ここでスペシャルゲストとしてステージに招かれたのは何とスカパラホーンズのNARGO、GAMO、北原雅彦、谷中敦の4人で、フォーリミの大名曲「swim」にブラスだからこその美しい旋律と迫力を加えてくれて、そのカッコ良さにひたすら涙が出そうになってしまった。
そもそもスカパラはアーティスト主催フェスに呼ばれる時はそのアーティストの曲を演奏してくれたりする人たちなだけに、スカパラのライブでGENが登場して「銀河と迷路」をやっただけというのはちょっとおかしいな、とも思っていたのがこうしてフォーリミのライブまでちゃんと残ってくれているどころか、こうしてフォーリミの曲をさらにカッコよくアレンジしてくれている。スカパラの凄さはこれまでにも数え切れないくらいに実感してきたけれど、やっぱりこの日もそれを感じさせられてしまった。このライブはスペシャで放送もされるからまたこのコラボは何回も追体験できるけれど、このコラボバージョンを何らかの形で音源化して欲しいくらいに何度だって聴きたい。
そう思いながらもスカパラホーンズがステージから去ると、HIROKAZのさわやかなギターの音がこの草原が広がる会場の雰囲気に実に似合うスケールで響く「hello」へ。やっぱりこの曲はこの会場で聴くのが1番似合うな、と思っていると、最後のサビ前でGENが歌うのをやめ、
「みんなの声が聞きたいな」
と口にする。続けて
「話し声くらいの感じで」
と、サビを歌うように呼びかけるのだが、やはりほとんどその声は聞こえない。みんな、本当に歌っていいのか不安な感じがその声から凄く出ていた。そりゃあそうだ、「ライブで歌った」という文字だけを見たらすぐに突っかかってくるようなやつだってたくさんいるのだから。でもGENが
「hello helloくらいは言えるでしょ!」
と言うと、しっかりと聞こえる、でもそれは話し声くらいの音量が1〜2秒くらいだけここにいた人たちのものが重なったというくらいのささやかさで響く。GENはその音を確かに聴くと、
「ありがとう」
と少し感極まったように口にした。その後ろでリズムをキープしていたKOUHEIは笑顔だった。我々はみんな泣いていた。コロナ禍になってから観客が歌う声を聞くのはほとんどの人にとっては初めて、つまり3年以上ぶりの経験であり、そんな当たり前だったけれど失われてしまったものが、声量はかつてよりはるかに小さくても確かに戻ってきた、フォーリミが取り戻してくれたのだから。合唱を好まない人もたくさんいるけれど、でも人が発する声だからこそそこには感情を感じ取ることができる。この日の観客の歌声にはその場にいた人にしか感じることのできない感情が確かに宿っていた。それこそが人の心を震わせてくれるのだ。
すでにマスクをしながらなら会話をしてもいいのが当たり前の世の中において、何故ライブの空間だけが声を発したらいけないのか。それはコロナ禍になった直後にライブハウスでクラスターが起きてしまい、世間から叩かれまくってきたライブハウスでのライブを何とかして守っていくためだったからだ。
でもこのままじゃライブ会場で声を出すということがずっと失われたままになってしまう。あくまでもマスクをして、ソーシャルディスタンスを保って、換気しかない屋外という会場で、飛沫が飛びようもないくらいに普段会話しているのと変わらないくらいの声量で。好き勝手にやるんじゃなくて、感染しようもないくらいにそうした条件をちゃんと守りながら、一瞬だけでもその瞬間を取り戻す。GENは初日に
「少しでも自分たちで前に進めたい」
と言っていた。この日、この瞬間、確かにコロナ禍以降のライブがほんの少しだけでも前に進んだ。これから急速に戻るようにはならないだろうけれど、でもこれがダメなら世の中の活動は全て閉ざさないといけないし、これを批判できるのは家から一歩も出ずに誰とも全く会わずに生活している人だけだ、というくらいに我々は何も恥ずべきことはしていない。仮に何か言ってくるやつがいたとしても、あの日あの場所にいた我々だけがちゃんと大丈夫だったということをわかっていさえすればそれでいいのだ。きっとこの日のこの瞬間に耳で聞くことができたあの声を自分は死んでも忘れることはないだろう。
そんな「hello」を終えるとGENは
「ライブ中にスタッフさんが目を拭うような仕草をしていて…それを見たら俺も感動して泣けてきちゃって…。
でも後で聞いたらその人花粉症で目が痛かっただけだったって(笑)」
と笑い話にしていたが、GENの話し声は初日以上に感極まったような、涙を含んでいたように聞こえた。それは
「本当に俺は音楽が好きで良かった」
と、恥ずかしくなるようなことを恥ずかしげもなく口にしてしまうくらいにこのフェスをここまで持ってくることができた、自分たちが見たいものがちゃんと見ることができたという感慨によるものだろう。
そして
「壊れたりしたらまた作り直せばいいし、なくなったんならまた始めればいい。そんな曲をやります」
と言ってGENが高らかに歌い始めたのは、この二日間で唯一どちらの日にも演奏された「Buster call」だった。
「かかってこれないけど、かかって来いよ!」
と思いっきり感情をこめて煽り、観客は飛び上がりまくり、両腕を高く上げる。それは感謝を体で示すようであり、ここにいることができて本当に良かったという実感を示すようなものでもあった。コロナ禍じゃなかったら演奏後に隣の人とハイタッチや肩を組んだりしたいくらいだったけれど、コロナ禍だったからこんなにこの曲が特別に感じられたってところも間違いなくあるっていうのがなんだか複雑だ。
そして最後に演奏されたのはやはりGENによる
「最低な世界のまんまじゃ許されないから」
というボーカルによって始まり、RYU-TAが「オイ!オイ!」と煽りまくる「Terminal」。
「最高な世界になったら
きっと愛せるんじゃないか
何処にある ここにある
最後は 君といたいから」
最高なように感じるこの2日間も、まだ完璧に最高な世界とはいえない。でも我々はここからまたその最高な世界を目指すことができる。このフェスがあって、フォーリミがいてくれれば。「最後は君といたいから」のフレーズが、本当に痛切に胸に突き刺さってくるけれど、でもそれは確かな希望として突き刺さってくるものだ。この2日間をここで過ごすことができたからこそ、そう感じているし、来年にはこの場所がもっと最高な世界になっていますように、と願いを込めるようにしてこの曲を聴いていた。
アンコールでは明らかに時間がなさそうにすぐに出てくると、
「昨日も言ったけど、YON FESは俺たちだけが作ってるんじゃなくて、出演者や来てくれた人みんなで作っている」
という前日の開催宣言で口にした言葉を改めて口にすると、どこか名残惜しそうに、でも意を決すようにして、やはり前日は演奏されなかった夜の野外の「midnight cruising」でKOUHEIとRYU-TAがカメラ目線で演奏しながら流星群を降らせる。雨が最後までほとんど降らず、ライブが終わった後や翌日になって降っていたのは、この曲で振るのは雨じゃなくて流星群だからという理由で空が待っていてくれたんじゃないか、そんな気さえしてしまうくらいにこんなに天気が持ったのは奇跡的だと思う。
そして本当に最後の最後に演奏されたのは、
「未来からの、message」
と言っての、パンクバンドとしての矜持を最後に音として鳴らすかのようなツービートが炸裂するショートパンクチューン「message」。その未来は来年のことであり、さらにその来年のまた来年…というようにこの場所に来続けたい。
初日に会場に着いた時に前に来てから3年も経ったとは思えないくらいについこの間来たかのような感覚だった。それくらいにここでの記憶が鮮明に脳内に残っていたし、完全に自分にとってこの場所が大切な場所の一つになっているんだと思った。そんな場所だからこそ、これからも何があってもまた来れるように。集合写真を撮る出演者たちが
「1,2,3,YON FESー!」
と声を上げるのを聞いていて、来年はこれもみんなで一緒に言えたらいいなと思っていた。
このフェスは今年は特に工事中で駐車場が減っているために、最寄駅までリニモに乗ってこないといけない。でもリニモは3両くらいしかないし、どうせ発車したら次にホームに来るまで長いんだろうな…と思っていたら、6分間隔で来るくらいに大幅に増便し、駅員の方々もホームの整理をしてくれていた。
そうして交通機関も協力してくれて、工事中にもかかわらず会場も貸してくれている。それはこれまでにこのフェスが積み上げてきたものの成果であり、フォーリミとそのファンを信頼してくれているからこそ成り立っているものだ。そこには名古屋を愛し、名古屋に愛されてきたフォーリミが作ってきたものが集約されていた。こんなに名古屋を好きにきてくれて本当にありがとう。これからも、永久にちょうどいい空気で。
1.monolith
2.fiction
3.fade
4.Alien
5.758
6.My HERO
7.swim w/ スカパラホーンズ
8.hello
9.Buster call
10.Terminal
encore
11.midnight cruising
12.message
KANA-BOON presents Honey & Darling 「Tokyo Honey, Osaka Darling」 @LINE CUBE SHIBUYA 4/15 ホーム
YON FES 2022 day1 @モリコロパーク 4/2