SUPER BEAVER 「東京」 Release Tour 2022 〜東京ラクダストーリー〜 @松戸森のホール21 3/26
- 2022/03/27
- 18:58
前作からわずか1年というリリーススパン、しかもその間にはコロナ禍で観客の楽しみ方は変わったとはいえ、バンド側は今までと変わらないくらいの本数のライブを行い、どんどん広い場所でライブができるようになってきている。そんなノリにノリまくっている状態のSUPER BEAVERが今年リリースしたアルバム「東京」のリリースツアーはこの日の千葉県松戸市にある森のホール21からスタート。
この森のホールが個人的に少し他の会場とは違うのは家から近いからというだけではなくて、高校生の時に芸術鑑賞会という学校行事でここへ来て、柳家喬太郎の落語を見たりして、帰りには同級生とボーリングをしていた場所だから。
そんな場所に戻ってくることができたのが、インディーズからメジャーに戻ってきて快進撃を続けているSUPER BEAVERのライブというのが、嬉しい涙が出そうになるくらいに感慨深いのである。
会場に入ると、こんな綺麗な会場だったっけな?こんなに座席からステージに向かって傾斜があったっけな?とも思うけれど、それはもうここに来たのがかなり昔のことであるということを痛感させられる。
土曜日であり、かつこの会場は使用できる時間が20時30分までという事情もあるからか、かなり早めの開演時間である17時になり、いったん場内に流れていたBGMが止まったので、いよいよか…!という空気が場内に充満するも、そのまままたBGMが流れ始めただけに、客席からは「まだかい!」というツッコミにも似たどよめきが起こるのだが、その後すぐに場内が暗転して、その観客たちが一斉に立ち上がる。
金髪の柳沢亮太(ギター)、髪の中心部を赤く染めた上杉研太(ベース)、キャップを被った藤原広明(ドラム)の3人に続いて、最近は登場時は髪を結いていることもある渋谷龍太(ボーカル)はこの日は髪を下ろした状態でステージに登場すると、開演前には薄暗くて全貌が見えなかったステージには、アルバムタイトルにちなんだような、東京のビル群を思わせるような造形物が並んでいる。それは藤原のドラムのライザーもそうしたものになっており、上杉と柳沢のアンプもそのビル群に溶け込むかのように並んでいる。
ステージの背景にも照明とともにデザインが飾られているのだが、ステージ上の造形物が東京のビル群を模したものであるということがわかっているだけに、そのデザインがスカイツリーやレインボーブリッジ、都庁などの東京の象徴的な建造物たちを描いたものであることがわかるのだが、
「フロムライブハウス、レペゼンジャパニーズポップミュージック、SUPER BEAVERです。東京!」
と渋谷が挨拶したので、いきなりアルバムタイトル曲にして、クライマックスを担う「東京」か!?と思ったら、それはやはりアルバムタイトルを口にしたものだったということが、実際に渋谷がマイクスタンドを掴んで歌い始めたのがアルバム1曲目の「スペシャル」だったということによってわかる。
「楽しくありたいと願うと 「誰かのため」が増える 人間冥利」
という、渋谷がMCで口にしていたという「人間冥利」という言葉から思いついたという言葉を含めたこのフレーズはそのままアルバムを貫いているテーマであるとも言えるし、その単語でメンバーの声が重なるというのはやはりそこを最も強調したいということがわかる。柳沢も早くも深く腰を落としてギターを鳴らし、こうしてライブで鳴らされるのが初めてとは思えないくらいに良い意味で違和感なく、ずっと演奏されてきた曲であるかのようですらある。
「皆様のお手を拝借!」
と、観客が早くも両手を高く突き上げる「青い春」では、間奏で上杉が客席の両サイド席から2階、3階席までをもしっかりと見ながら指を指す。その席にあなたがいることによって、こうやって自分たちがここに立っていることを示すかのように。それは渋谷のMCをメンバー全員がその身を持って体現しているかのようだ。
バンドも「東京」のアルバム曲、つまりは初めてライブで演奏する曲においても完全に仕上がってきていることがわかるのだが、それは観客も完全にアルバムを聴き込んで来ているというのがわかるのが、「人間」のイントロの「ワン、ツー!」というカウントで観客が指を突き上げていたこと。
「丁寧に 真面目に 足宛くのが人間」
というサビの締めのフレーズが「足掻く」ではなく「足宛く」という表記であるというのが、ありふれたことを歌っているかのようでいて実にビーバーらしい。人間だからこそ、人間に向かって、人間に宛てて歌っている、音を鳴らしている。そんなことを感じさせてくれる歌詞だからだ。
アルバムの序盤曲がアッパーなロックサウンドの曲であるだけに、そこに挟まれる過去曲もそういうものであるということを示すのが藤原の速くかつ強靭なドラムロールが牽引する「突破口」である。観客の腕が客席一面に挙がる中、
「正々堂々「今」と今向き合って 堪能するよ現実 酸いも甘いも全部
威風堂々 正面突破がしたいな 面白そうだ 歓べそうだよな
今をやめない 味わい尽くして 笑おう 笑ってやろうぜ」
と歌われるサビは最新のビーバーの曲たちの後に聴いても全く違和感がない。それはビーバーが歌ってきたことと、今歌っていることが全くブレていないからだ。「東京」というアルバムとそれを引っ提げたツアーはそれをこんな序盤から本当に実感させてくれるものになっている。初めてこうしてロックバンドのライブを観るこのホールはやっぱり音のバランスはライブハウスとは少し違うものだな、ということにも気付くけれど。
「ロックバンドらしからぬことを言いますけど、アルバムの曲をみんなでめちゃくちゃ練習してきました!それでもやっぱり目の前にあなたがいると全然違う!」
という渋谷のMCは、確かにラフな演奏やライブの作り方の方がロックバンドらしさを感じるとも言えるけれど、それでもキッチリと構築して演奏できるように仕上げてきたというのがビーバーの真面目さ、来てくれる人にしっかりとしたものを見せなければならないという愚直さとともに、あなたがそこにいてくれるのといないのでは全く違うという、それこそ「スペシャル」の
「「誰かのため」が増える人間冥利」
というフレーズがリアルなものでしかないということをも感じさせてくれる。それはコロナ禍になってすぐの頃は普段のライブとは違う形で配信ライブも行っていたが、それもまたやはり有観客でのライブとは全く違うという意識を持った上で行っていたビーバーだからこそのものである。
「昨今珍しい、踊れないロックバンド」を自認してきたビーバーでありながらも、ここまでのストレートなロックサウンドとは異なる、渋谷もハンドマイクを手にして体を揺らしながら歌う「ふらり」は踊れるリズムを会得した最新のビーバーのサウンドと言ってもいいものだろうし、渋谷は歌いながらドラムセットのライザーに腰掛けたりという自由なパフォーマンスを見せるのも、体だけならず心が踊っていることの証拠であろう。
さらには「VS.」と「東京」の曲が続くのだが、まさに相対するように柳沢サイドに赤、上杉サイドに青という両極端な照明が背面から照らされ、真ん中の渋谷にはその2つが混ざり合った結果であるかのように緑色の照明が照らされるというド派手な演出はホールツアーならではのものであるし、映像こそないにしてもアリーナでのワンマンよりも金がかかっていそうだな、と思うとともに、「東京」の楽曲の魅力や持ち味を最大限に引き出すためのものであるとも言える。渋谷も
「過去最高の数のスタッフが参加している」
と言っていたが、それはただ単に規模が大きくなっただけではなく、それぞれ役割を持ったスタッフがたくさん参加するようになったということであり、それはこうした演出に顕著に現れている。
そんな渋谷は
「昨今、音楽の力を信じよう的な言葉も耳にしますけれど、俺は音楽大好きだけれど、そこまで信じてない。音楽よりも人間を、あなたを信じているからです。
そんなあなたが好いてくれているこのバンドのことが俺も大好きです。あなたが好いていてくれるから、このバンドは無敵だと思っています」
と、このバンドへの絶大な愛が、今こうして目の前にいてくれているあなたによってもたらされたものであることを口にしてから、観客の両腕を再び高く掲げさせて、その両手が合わさることによって曲のリズムを担うことになる「美しい日」へ。
「誰かにとって「たかがそれくらい」の ありふれた歓びでも
嬉しいと思えたら 特別じゃない今日はもうきっと
美しい 美しい日なんだよなあ
特別は そうだ 普遍的な形をした 幸せだ」
というフレーズが、ツアー初日という特別な日をこの目で観ることが出来ている我々の心境に重なっていく。ビーバーのことを全く知らない誰かからしたら「たかがそれくらい」と思われるようなことであっても、ここにいることが出来ている自分や我々にとってはこの上なく幸せなことであり、どれだけ風が強かったり雨が降っていたりしても、この日のことを美しい日だと感じることができる。照明に変わって再び現れた背面のデザインの、スカイツリーが赤く光っているのもまた、スカイツリーが新たな東京の象徴になったように、ビーバーが「東京」というアルバムをもって新たな東京を代表するバンドになったということを感じさせてくれるのだ。
アルバムの中でサウンド感としての「東京」を感じさせてくれるのは、クールな音像が際立つ「318」。そのサウンドは東京という街を再現したセットや背景が実によく似合うし、ハンドマイクを持ってステージを左右に歩く渋谷も、ステップを踏むようにして演奏する柳沢と上杉も実にスタイリッシュだ。決してリードになるようなタイプの曲ではないが、この曲が東京育ちとして東京を歌うビーバーらしさが最も現れていると言えるかもしれない。
さらにアルバムから「未来の話をしよう」という、かつてのメジャー時代にリリースした2ndアルバム「未来の始めかた」を彷彿とさせるタイトルの曲では、渋谷のボーカルを前面に出した演奏のアレンジによって、実は挫折した最初のメジャー時代からビーバーが歌っていること、伝えたいことは変わらないけれど、バンドとして人間として経験や技術を積み重ねてきたことによって歌っていることに説得力が増してきたのだということがよくわかる。
「声も出ないほど 悲しかったこと
無理やり忘れなくていいんだよ
二度と来ない日を 心から愛して
そして今と笑う」
というフレーズがまさに今この瞬間の愛おしさを、
「誰のためとか 何のためだとか
答えはひとつじゃなくていいんだよ
思いつくまま 心から向き合って
きっと未来も愛せるように
後悔すらも抱きしめられたらいいな」
というフレーズが終わってもおかしくないくらいの挫折を経験したビーバーがそれでも続いていて、今こうして目の前で音を鳴らしていることの愛おしさを感じさせてくれる。きっとこういう日がまた来ると思えれば、未来も愛せると思える。
するとここで一旦ブレイクとばかりに、渋谷がせっかくなのでと松戸市民がどれくらいいるかを問うと、それなりに多く(だいたい関東近郊の会場だと東京から来た人が多くなりがちなことを考えるとかなりの割合)の人の手が挙がっていたので、近隣に住んでいる人がこの日のチケットを取れているというのは実に良いことだよなと思うし、自分もその枠でチケットが当たったのかもしれないとも思う。
さらには渋谷以外のメンバーにも話を振ると、上杉は実はバンドが前日から松戸に入っていたことを明かし、
「昨日の夜にマッサージに行ったら、マッサージしてくれた人にペペロンチーノの作り方を教えてあげたお礼に、車でホテルまで送ってくれた(笑)
その時に「松戸で有名なつけ麺のとみ田、とみ田食堂、とみ田の二郎系(雷)」とかの情報を教えてくれた」
という、松戸ならではのエピソードを語る。とみ田も雷も是非ともメンバーに食べていただきたいと思うくらいに美味しいが、この会場からは結構離れているので、ライブ後に食べて帰るという位置ではないけれど。
柳沢は観客の拍手を煽り、それを「笑っていいとも!」のタモリの仕切りで止め、
「これまだ通じるね〜!(笑)」
と「笑っていいとも!」の影響力の強さを実感しつつ、
「今までで最も生活に近いアルバムが出来たと思っている」
という、バンドのソングライターとしてアルバムの手応えを口にする。そのアルバムを伝えに行く旅がこの日こうしてスタートしているだけに、その場に居合わせられることが実に嬉しい。
そして渋谷に「かわい子ちゃん」と紹介されることがおなじみになっている藤原は
「ライブをやるのは初めてなんですけど、我々はこの森のホールに来たことがあるんですよ!いつだかわかる人はいますか?」
と言うと、客席上手前方にいた観客が飛び跳ねながら手を挙げるのだが、声が出せないのでその答えを観客が言うことができないため、藤原が
「実は「アイラヴユー」のMVを撮影したのがこの会場なんです!」
と明かして大きな拍手が起こると、その後を渋谷が引き継ぎ、
「「アイラヴユー」はメジャーに復帰して最初のMVで。SUPER BEAVERが第何章あるのかわからないけれど、その最新の章の始まりを作ったこの場所でこうやってツアーを始められるっていうのが本当に幸せでございます!」
と、この会場がバンドにとって特別な場所であることを感じさせてくれる。自分にとって少し特別な場所がバンドにとってもそうした場所である。そんなに嬉しいことはないし、そうした言葉がこの日のことをより一層忘れられない記憶と思い出にしてくれるのだ。
そんな思いを乗せるバラードが先行シングル「愛しい人」であるのだが、
「ぱっと一言じゃ 言い表せないのが 愛だ」
という渋谷の伸びやかかつ力強い、そこには確かに感情が宿っているボーカルから始まると、バンドの演奏がバラード曲とは思えないくらいに爆音であることにビックリする。それもバンドからの、思いを伝えるための爆音であり、それは前作「アイラヴユー」で得たものであるとも言える。
また、この曲から背面は厳かな赤い幕に切り替わっており、金色に輝く装飾とも相まってそれがホールでのSUPER BEAVERのライブという意識を強く感じさせてくれるとともに、やはり曲によって最も合う形の演出を用意しているという、多くなったスタッフの力を総動員した、ライブハウスとはまた違うビーバーのライブを見せてくれている。
そして必然的にこの会場で演奏される意味を帯びた、ここでMVが撮影された「アイラヴユー」が鳴らされる。それはもちろん目の前にいる人のためにということもあったけれど、この日だけはどこかこの会場へ向けても
「アイラヴユーを贈りたい 愛してる 愛してる」
と歌われているようで、渋谷のボーカルに乗る柳沢、上杉、藤原のコーラスももはやコーラスというよりも全員でのボーカルというようなレベルの声量で、そこからはとにかく「これを伝えたい!」という思いが漏れ出ている。それが聴き手にも伝わってくるからこそ、強く胸を打つのである。
そしてビーバーの名前をより広い層へと知らしめた「名前を呼ぶよ」のこの日、この場所で鳴らされることによって感じられるリアリティたるや。だって
「名前を呼んでよ 会いに行くよ 命の意味だ 僕らの意味だ」
という歌詞の通りに、自分が住んでいるすぐ近くにあるこの会場までビーバーが会いにきてくれていて、それを「命の意味」「僕らの意味」と歌ってくれているのだから。それはアルバム内では先に演奏された「ふらり」の
「一人で食べるより 誰かと食べる方が 美味しいこと
そういうのを大事にしたい 根拠の有無なんてどうだっていい」
というビーバーの生き様をそのまま描いたような歌詞に連なるものでもある。そう考えると観客が声を出せないのもそうであるが、それ以上に会いたい人に会いに行けないというコロナ禍による制限は本当にこのバンドにとっては逆風だったと思うけれど、その会いに行けない時間の中でこのアルバムを作ったということを考えると、その曲たちがより愛おしくもなる。
そんな「東京」というアルバムタイトルが発表された時にファンの頭の中に最も最初に浮かんだ曲は「東京流星群」であり、この曲を今回のツアーでやらないわけにはいかないだろうというくらいに、ビーバーはこれまでにも東京の風景や景色を自分たちの曲にして歌ってきた。でもこの曲のそれはまだキラキラとした東京の空という、今とはまた違う東京の見え方をしていた頃に書いた曲だ。それを象徴するかのように曲始まりでは薄暗かったステージにはサビ前でミラーボールが降りてきて、まさに流星群のように照明の光を受けて輝き出す。その輝きを浴びながら立ち上がってキックを踏む藤原の姿も、観客が声を出せずに心で唱えている分の声を自分たちで出そうとしているかのように大きな声でタイトルフレーズを叫ぶ柳沢と上杉も、アルバムの曲と等しくこの曲にもありったけのエネルギーを注いでいる。その力こそがミラーボールの輝きだけではない光をこの曲にもたらしているのである。
すると渋谷は
「久しぶりの曲をやります。この曲はあなたの声が聞こえるようになってからやろうと思っていたんだけど、「東京」ができたこのタイミングならやれると思ったから、今回のツアーでやることにしました」
と言ってメンバーがコーラスを歌い始めたのは、コロナ禍になる前には観客1人1人の声が重なって大合唱を巻き起こしていた「秘密」。観客はその時のようには歌えないながらも両腕を高く挙げて、この曲を演奏することを選んだ意思に応える。
「歓びに声を上げ叫ぶのは 幸せに手を叩き笑うのは
好きなこと 好きな人のことを 諦めなかったそんな瞬間だろう」
というサビでは久しぶりにこの曲を聴けた喜びによってリズムに合わせて手を叩く。久しぶりであっても誰もがその楽しみ方を忘れてはいないし、
「好きなこと 好きな人 大切にしたいこだわり
胸を張って口にすることで 未来を照らすんだろうなあ」
というフレーズはやはりビーバーそのものと言えるものであるとともに、
「大切にしたいこだわり」
というフレーズで柳沢が高音コーラスを重ねるというこだわりを見るのも実に久しぶりだ。
この曲を演奏している時、なんなら感動のあまりに泣いている人すらいた。それくらいに嬉しい選曲だったのだが、この日会場に来ていた人以外には、まだこの曲がライブに戻ってきたということは秘密だ。
そして
「あなたにこれからも頼らせてもらうし、支えてもらいます。そのかわり、あなたもSUPER BEAVERを頼ってください。全力であなたのことを支えます」
という、やはりビーバーそのものでしかない言葉の後に演奏されたのはアルバムタイトル曲である「東京」。
ステージ背面には東京の象徴を模したデザインが再び登場するのだが、いわゆる東京の情景を描いたりするような、あるいは状況や別れというような、今まであらゆるアーティストが描いてきた「東京」的な曲ではない。ただただ東京で生きていて、そこに生きる愛しい人がいるという至極シンプルなことを描いた曲。この会場は東京ではないけれど、この曲はその「東京」がそのまま自分の大切な場所に置き換わって響く。だからこそ自分にとって、きっとこの会場にいた人の多くにとってはそれは「千葉」になるのだろうけれど、そんな大事な曲をツアー初日に、自分にとってもバンドにとっても大事な場所であるこの会場で聴くことができている。それは、なんて贅沢な人生だ、と思わずにはいられない。
しかしそんな曲を演奏してもまだライブは終わらないのは、アルバムの収録順においても「東京」は12曲中の10曲目であり、まだその後にさらなるキラーチューンが続くからなのだが、それだけでも「東京」というアルバムの充実度がよくわかる。
そして実際にその「東京」の次に収録されている曲である「ロマン」がライブの最後を担う。やはりメンバー全員がコーラスというよりももはやボーカルとなり、
「それぞれに頑張って それぞれに頑張って
それぞれに頑張って また笑おう」
と歌うのだが、そのサビに続く
「一緒に頑張ろうは なんか違うと ずっと思っている
親愛なるあなたへ 心を込めて 頑張れ」
というフレーズは最初にアルバムを聴いた時に思わずハッとした。確かに、我々は支えることはできるし、頼ることもできるけれど、バンドと一緒に頑張ることはできない。それと同様に、バンドも我々の仕事や勉強という日々の生活を手伝ってくれたり助けてくれたりはしない。
でも、ビーバーの音楽を聴いて、ライブを観ることによって、そうした日々を頑張ろうと思える。で、それはやっぱり音楽の力であるとともに、その音楽を作った人間の力であり、その音楽を鳴らす人間の力でもあり、それを受け取る人間の力でもある。だからこそ「それぞれに頑張ってまた会おう」というフレーズが深く突き刺さってくるのだ。
「幸せになってくれ 幸せになってくれ ずっと願わせてくれ」
という、サビにも勝るとも劣らないフレーズを歌う渋谷のボーカルはどこか揺らぎのようなものがあった。それは本当にそう思って歌っているからこそ宿る感情によるもの。最後には柳沢もステージに膝をついてギターを弾いている。そんなビーバーとこれからも、それぞれに頑張ってまた会いたいと思っている。
アンコールでは渋谷がこのツアーが今日を皮切りに20本続くのだが、その全公演が即完したことによって、東京国際フォーラムが追加公演が決まったことによって2daysになったことと、さらにホールツアーの後にライブハウスツアーも決定したことを発表する。
新宿LOFTや横浜F.A.D.など、どう考えてもチケットが取れそうにない規模ばかりでビックリするけれど、この日の20時に解禁になる情報を
「まだそれまでは内緒にしておこうか」
と言いながらも、こうして目の前にいる我々に真っ先に伝えてくれるというのはやはり現場至上主義を掲げて活動してきたバンドならではだなと思う。
さらにはこの日がツアー初日ということもあり、
「セットリストはまだ内緒にしてもらいたい。友達に電話で聞かれて「絶対教えない!」っていうんじゃないよ(笑)
垂れ流すような感じにはしないで欲しいっていうこと。今日来れなかった人のためにもね」
という配慮も見せつつ、
「最高のツアー初日になりました。でもまた次から今日の最高を更新しに行きます!」
と気合いを新たにして演奏されたのは、アルバムの最後を担う曲である「最前線」。
「行け 行け 行け 最前線を 行け」
というシンプル極まりないフレーズは、今なおこうしたホールだけではなくライブハウスも、フェスの大きなステージも、ロックバンドとしての最前線を走り続けるビーバーが自身に歌いながら、やはりそれぞれがそれぞれの最前線を行けと我々の背中を強く押してくれているようであり、メンバー全員でのボーカルがそれをより強く感じさせてくれる。
アルバム最後の曲をこうした曲で締める、それは前作の「さよなら絶望」もそうだったが、アルバムを一周聴いて終わりというのではなくて、さらにまた最初から聴きたくなるような、それはライブで観ると翌日からの活力になってくれるような。アウトロ演奏中に渋谷は先にステージを去り、柳沢と上杉は藤原のドラムセットの前に集まって音を鳴らしてキメを打つ。そんなSUPER BEAVERというバンドの情熱に幸あれ、と心から思っていた。
渋谷が言っていたように、本当に初日からこんなに最高でこれからどうなってしまうんだと思うくらいの最高っぷりだった。でもそれをさらに更新していくのがSUPER BEAVERというバンドだ。それを確かめに行く機会がホール以外の場所でも今年まだたくさんあるはず。つまり、「東京」はまだまだ成長していくアルバムであるということ。
そして自分が高校生の時に初めてこの会場に来た時と同じくらいの年齢であろう、親と一緒にライブに来ている人もいた。自分にとってそうなったように、その人たちにとってもビーバーのライブを観たこの場所が、きっと特別な場所としてこれからの人生の記憶になって残っていくはず。
昔、この会場に来た時に帰りに同級生たちと一緒に行った、中学生の頃から数え切れないくらいに来ていたボーリング場に帰りに久しぶりに寄ったら、ビックリするくらいに変わっていなかった。自分やその人たちがまたこの会場にライブを観に戻ってくる時も、変わらないでいて欲しい景色が確かに存在していた。
1.スペシャル
2.青い春
3.人間
4.突破口
5.ふらり
6.VS.
7.美しい日
8.318
9.未来の話をしよう
10.愛しい人
11.アイラヴユー
12.名前を呼ぶよ
13.東京流星群
14.秘密
15.東京
16.ロマン
encore
17.最前線
この森のホールが個人的に少し他の会場とは違うのは家から近いからというだけではなくて、高校生の時に芸術鑑賞会という学校行事でここへ来て、柳家喬太郎の落語を見たりして、帰りには同級生とボーリングをしていた場所だから。
そんな場所に戻ってくることができたのが、インディーズからメジャーに戻ってきて快進撃を続けているSUPER BEAVERのライブというのが、嬉しい涙が出そうになるくらいに感慨深いのである。
会場に入ると、こんな綺麗な会場だったっけな?こんなに座席からステージに向かって傾斜があったっけな?とも思うけれど、それはもうここに来たのがかなり昔のことであるということを痛感させられる。
土曜日であり、かつこの会場は使用できる時間が20時30分までという事情もあるからか、かなり早めの開演時間である17時になり、いったん場内に流れていたBGMが止まったので、いよいよか…!という空気が場内に充満するも、そのまままたBGMが流れ始めただけに、客席からは「まだかい!」というツッコミにも似たどよめきが起こるのだが、その後すぐに場内が暗転して、その観客たちが一斉に立ち上がる。
金髪の柳沢亮太(ギター)、髪の中心部を赤く染めた上杉研太(ベース)、キャップを被った藤原広明(ドラム)の3人に続いて、最近は登場時は髪を結いていることもある渋谷龍太(ボーカル)はこの日は髪を下ろした状態でステージに登場すると、開演前には薄暗くて全貌が見えなかったステージには、アルバムタイトルにちなんだような、東京のビル群を思わせるような造形物が並んでいる。それは藤原のドラムのライザーもそうしたものになっており、上杉と柳沢のアンプもそのビル群に溶け込むかのように並んでいる。
ステージの背景にも照明とともにデザインが飾られているのだが、ステージ上の造形物が東京のビル群を模したものであるということがわかっているだけに、そのデザインがスカイツリーやレインボーブリッジ、都庁などの東京の象徴的な建造物たちを描いたものであることがわかるのだが、
「フロムライブハウス、レペゼンジャパニーズポップミュージック、SUPER BEAVERです。東京!」
と渋谷が挨拶したので、いきなりアルバムタイトル曲にして、クライマックスを担う「東京」か!?と思ったら、それはやはりアルバムタイトルを口にしたものだったということが、実際に渋谷がマイクスタンドを掴んで歌い始めたのがアルバム1曲目の「スペシャル」だったということによってわかる。
「楽しくありたいと願うと 「誰かのため」が増える 人間冥利」
という、渋谷がMCで口にしていたという「人間冥利」という言葉から思いついたという言葉を含めたこのフレーズはそのままアルバムを貫いているテーマであるとも言えるし、その単語でメンバーの声が重なるというのはやはりそこを最も強調したいということがわかる。柳沢も早くも深く腰を落としてギターを鳴らし、こうしてライブで鳴らされるのが初めてとは思えないくらいに良い意味で違和感なく、ずっと演奏されてきた曲であるかのようですらある。
「皆様のお手を拝借!」
と、観客が早くも両手を高く突き上げる「青い春」では、間奏で上杉が客席の両サイド席から2階、3階席までをもしっかりと見ながら指を指す。その席にあなたがいることによって、こうやって自分たちがここに立っていることを示すかのように。それは渋谷のMCをメンバー全員がその身を持って体現しているかのようだ。
バンドも「東京」のアルバム曲、つまりは初めてライブで演奏する曲においても完全に仕上がってきていることがわかるのだが、それは観客も完全にアルバムを聴き込んで来ているというのがわかるのが、「人間」のイントロの「ワン、ツー!」というカウントで観客が指を突き上げていたこと。
「丁寧に 真面目に 足宛くのが人間」
というサビの締めのフレーズが「足掻く」ではなく「足宛く」という表記であるというのが、ありふれたことを歌っているかのようでいて実にビーバーらしい。人間だからこそ、人間に向かって、人間に宛てて歌っている、音を鳴らしている。そんなことを感じさせてくれる歌詞だからだ。
アルバムの序盤曲がアッパーなロックサウンドの曲であるだけに、そこに挟まれる過去曲もそういうものであるということを示すのが藤原の速くかつ強靭なドラムロールが牽引する「突破口」である。観客の腕が客席一面に挙がる中、
「正々堂々「今」と今向き合って 堪能するよ現実 酸いも甘いも全部
威風堂々 正面突破がしたいな 面白そうだ 歓べそうだよな
今をやめない 味わい尽くして 笑おう 笑ってやろうぜ」
と歌われるサビは最新のビーバーの曲たちの後に聴いても全く違和感がない。それはビーバーが歌ってきたことと、今歌っていることが全くブレていないからだ。「東京」というアルバムとそれを引っ提げたツアーはそれをこんな序盤から本当に実感させてくれるものになっている。初めてこうしてロックバンドのライブを観るこのホールはやっぱり音のバランスはライブハウスとは少し違うものだな、ということにも気付くけれど。
「ロックバンドらしからぬことを言いますけど、アルバムの曲をみんなでめちゃくちゃ練習してきました!それでもやっぱり目の前にあなたがいると全然違う!」
という渋谷のMCは、確かにラフな演奏やライブの作り方の方がロックバンドらしさを感じるとも言えるけれど、それでもキッチリと構築して演奏できるように仕上げてきたというのがビーバーの真面目さ、来てくれる人にしっかりとしたものを見せなければならないという愚直さとともに、あなたがそこにいてくれるのといないのでは全く違うという、それこそ「スペシャル」の
「「誰かのため」が増える人間冥利」
というフレーズがリアルなものでしかないということをも感じさせてくれる。それはコロナ禍になってすぐの頃は普段のライブとは違う形で配信ライブも行っていたが、それもまたやはり有観客でのライブとは全く違うという意識を持った上で行っていたビーバーだからこそのものである。
「昨今珍しい、踊れないロックバンド」を自認してきたビーバーでありながらも、ここまでのストレートなロックサウンドとは異なる、渋谷もハンドマイクを手にして体を揺らしながら歌う「ふらり」は踊れるリズムを会得した最新のビーバーのサウンドと言ってもいいものだろうし、渋谷は歌いながらドラムセットのライザーに腰掛けたりという自由なパフォーマンスを見せるのも、体だけならず心が踊っていることの証拠であろう。
さらには「VS.」と「東京」の曲が続くのだが、まさに相対するように柳沢サイドに赤、上杉サイドに青という両極端な照明が背面から照らされ、真ん中の渋谷にはその2つが混ざり合った結果であるかのように緑色の照明が照らされるというド派手な演出はホールツアーならではのものであるし、映像こそないにしてもアリーナでのワンマンよりも金がかかっていそうだな、と思うとともに、「東京」の楽曲の魅力や持ち味を最大限に引き出すためのものであるとも言える。渋谷も
「過去最高の数のスタッフが参加している」
と言っていたが、それはただ単に規模が大きくなっただけではなく、それぞれ役割を持ったスタッフがたくさん参加するようになったということであり、それはこうした演出に顕著に現れている。
そんな渋谷は
「昨今、音楽の力を信じよう的な言葉も耳にしますけれど、俺は音楽大好きだけれど、そこまで信じてない。音楽よりも人間を、あなたを信じているからです。
そんなあなたが好いてくれているこのバンドのことが俺も大好きです。あなたが好いていてくれるから、このバンドは無敵だと思っています」
と、このバンドへの絶大な愛が、今こうして目の前にいてくれているあなたによってもたらされたものであることを口にしてから、観客の両腕を再び高く掲げさせて、その両手が合わさることによって曲のリズムを担うことになる「美しい日」へ。
「誰かにとって「たかがそれくらい」の ありふれた歓びでも
嬉しいと思えたら 特別じゃない今日はもうきっと
美しい 美しい日なんだよなあ
特別は そうだ 普遍的な形をした 幸せだ」
というフレーズが、ツアー初日という特別な日をこの目で観ることが出来ている我々の心境に重なっていく。ビーバーのことを全く知らない誰かからしたら「たかがそれくらい」と思われるようなことであっても、ここにいることが出来ている自分や我々にとってはこの上なく幸せなことであり、どれだけ風が強かったり雨が降っていたりしても、この日のことを美しい日だと感じることができる。照明に変わって再び現れた背面のデザインの、スカイツリーが赤く光っているのもまた、スカイツリーが新たな東京の象徴になったように、ビーバーが「東京」というアルバムをもって新たな東京を代表するバンドになったということを感じさせてくれるのだ。
アルバムの中でサウンド感としての「東京」を感じさせてくれるのは、クールな音像が際立つ「318」。そのサウンドは東京という街を再現したセットや背景が実によく似合うし、ハンドマイクを持ってステージを左右に歩く渋谷も、ステップを踏むようにして演奏する柳沢と上杉も実にスタイリッシュだ。決してリードになるようなタイプの曲ではないが、この曲が東京育ちとして東京を歌うビーバーらしさが最も現れていると言えるかもしれない。
さらにアルバムから「未来の話をしよう」という、かつてのメジャー時代にリリースした2ndアルバム「未来の始めかた」を彷彿とさせるタイトルの曲では、渋谷のボーカルを前面に出した演奏のアレンジによって、実は挫折した最初のメジャー時代からビーバーが歌っていること、伝えたいことは変わらないけれど、バンドとして人間として経験や技術を積み重ねてきたことによって歌っていることに説得力が増してきたのだということがよくわかる。
「声も出ないほど 悲しかったこと
無理やり忘れなくていいんだよ
二度と来ない日を 心から愛して
そして今と笑う」
というフレーズがまさに今この瞬間の愛おしさを、
「誰のためとか 何のためだとか
答えはひとつじゃなくていいんだよ
思いつくまま 心から向き合って
きっと未来も愛せるように
後悔すらも抱きしめられたらいいな」
というフレーズが終わってもおかしくないくらいの挫折を経験したビーバーがそれでも続いていて、今こうして目の前で音を鳴らしていることの愛おしさを感じさせてくれる。きっとこういう日がまた来ると思えれば、未来も愛せると思える。
するとここで一旦ブレイクとばかりに、渋谷がせっかくなのでと松戸市民がどれくらいいるかを問うと、それなりに多く(だいたい関東近郊の会場だと東京から来た人が多くなりがちなことを考えるとかなりの割合)の人の手が挙がっていたので、近隣に住んでいる人がこの日のチケットを取れているというのは実に良いことだよなと思うし、自分もその枠でチケットが当たったのかもしれないとも思う。
さらには渋谷以外のメンバーにも話を振ると、上杉は実はバンドが前日から松戸に入っていたことを明かし、
「昨日の夜にマッサージに行ったら、マッサージしてくれた人にペペロンチーノの作り方を教えてあげたお礼に、車でホテルまで送ってくれた(笑)
その時に「松戸で有名なつけ麺のとみ田、とみ田食堂、とみ田の二郎系(雷)」とかの情報を教えてくれた」
という、松戸ならではのエピソードを語る。とみ田も雷も是非ともメンバーに食べていただきたいと思うくらいに美味しいが、この会場からは結構離れているので、ライブ後に食べて帰るという位置ではないけれど。
柳沢は観客の拍手を煽り、それを「笑っていいとも!」のタモリの仕切りで止め、
「これまだ通じるね〜!(笑)」
と「笑っていいとも!」の影響力の強さを実感しつつ、
「今までで最も生活に近いアルバムが出来たと思っている」
という、バンドのソングライターとしてアルバムの手応えを口にする。そのアルバムを伝えに行く旅がこの日こうしてスタートしているだけに、その場に居合わせられることが実に嬉しい。
そして渋谷に「かわい子ちゃん」と紹介されることがおなじみになっている藤原は
「ライブをやるのは初めてなんですけど、我々はこの森のホールに来たことがあるんですよ!いつだかわかる人はいますか?」
と言うと、客席上手前方にいた観客が飛び跳ねながら手を挙げるのだが、声が出せないのでその答えを観客が言うことができないため、藤原が
「実は「アイラヴユー」のMVを撮影したのがこの会場なんです!」
と明かして大きな拍手が起こると、その後を渋谷が引き継ぎ、
「「アイラヴユー」はメジャーに復帰して最初のMVで。SUPER BEAVERが第何章あるのかわからないけれど、その最新の章の始まりを作ったこの場所でこうやってツアーを始められるっていうのが本当に幸せでございます!」
と、この会場がバンドにとって特別な場所であることを感じさせてくれる。自分にとって少し特別な場所がバンドにとってもそうした場所である。そんなに嬉しいことはないし、そうした言葉がこの日のことをより一層忘れられない記憶と思い出にしてくれるのだ。
そんな思いを乗せるバラードが先行シングル「愛しい人」であるのだが、
「ぱっと一言じゃ 言い表せないのが 愛だ」
という渋谷の伸びやかかつ力強い、そこには確かに感情が宿っているボーカルから始まると、バンドの演奏がバラード曲とは思えないくらいに爆音であることにビックリする。それもバンドからの、思いを伝えるための爆音であり、それは前作「アイラヴユー」で得たものであるとも言える。
また、この曲から背面は厳かな赤い幕に切り替わっており、金色に輝く装飾とも相まってそれがホールでのSUPER BEAVERのライブという意識を強く感じさせてくれるとともに、やはり曲によって最も合う形の演出を用意しているという、多くなったスタッフの力を総動員した、ライブハウスとはまた違うビーバーのライブを見せてくれている。
そして必然的にこの会場で演奏される意味を帯びた、ここでMVが撮影された「アイラヴユー」が鳴らされる。それはもちろん目の前にいる人のためにということもあったけれど、この日だけはどこかこの会場へ向けても
「アイラヴユーを贈りたい 愛してる 愛してる」
と歌われているようで、渋谷のボーカルに乗る柳沢、上杉、藤原のコーラスももはやコーラスというよりも全員でのボーカルというようなレベルの声量で、そこからはとにかく「これを伝えたい!」という思いが漏れ出ている。それが聴き手にも伝わってくるからこそ、強く胸を打つのである。
そしてビーバーの名前をより広い層へと知らしめた「名前を呼ぶよ」のこの日、この場所で鳴らされることによって感じられるリアリティたるや。だって
「名前を呼んでよ 会いに行くよ 命の意味だ 僕らの意味だ」
という歌詞の通りに、自分が住んでいるすぐ近くにあるこの会場までビーバーが会いにきてくれていて、それを「命の意味」「僕らの意味」と歌ってくれているのだから。それはアルバム内では先に演奏された「ふらり」の
「一人で食べるより 誰かと食べる方が 美味しいこと
そういうのを大事にしたい 根拠の有無なんてどうだっていい」
というビーバーの生き様をそのまま描いたような歌詞に連なるものでもある。そう考えると観客が声を出せないのもそうであるが、それ以上に会いたい人に会いに行けないというコロナ禍による制限は本当にこのバンドにとっては逆風だったと思うけれど、その会いに行けない時間の中でこのアルバムを作ったということを考えると、その曲たちがより愛おしくもなる。
そんな「東京」というアルバムタイトルが発表された時にファンの頭の中に最も最初に浮かんだ曲は「東京流星群」であり、この曲を今回のツアーでやらないわけにはいかないだろうというくらいに、ビーバーはこれまでにも東京の風景や景色を自分たちの曲にして歌ってきた。でもこの曲のそれはまだキラキラとした東京の空という、今とはまた違う東京の見え方をしていた頃に書いた曲だ。それを象徴するかのように曲始まりでは薄暗かったステージにはサビ前でミラーボールが降りてきて、まさに流星群のように照明の光を受けて輝き出す。その輝きを浴びながら立ち上がってキックを踏む藤原の姿も、観客が声を出せずに心で唱えている分の声を自分たちで出そうとしているかのように大きな声でタイトルフレーズを叫ぶ柳沢と上杉も、アルバムの曲と等しくこの曲にもありったけのエネルギーを注いでいる。その力こそがミラーボールの輝きだけではない光をこの曲にもたらしているのである。
すると渋谷は
「久しぶりの曲をやります。この曲はあなたの声が聞こえるようになってからやろうと思っていたんだけど、「東京」ができたこのタイミングならやれると思ったから、今回のツアーでやることにしました」
と言ってメンバーがコーラスを歌い始めたのは、コロナ禍になる前には観客1人1人の声が重なって大合唱を巻き起こしていた「秘密」。観客はその時のようには歌えないながらも両腕を高く挙げて、この曲を演奏することを選んだ意思に応える。
「歓びに声を上げ叫ぶのは 幸せに手を叩き笑うのは
好きなこと 好きな人のことを 諦めなかったそんな瞬間だろう」
というサビでは久しぶりにこの曲を聴けた喜びによってリズムに合わせて手を叩く。久しぶりであっても誰もがその楽しみ方を忘れてはいないし、
「好きなこと 好きな人 大切にしたいこだわり
胸を張って口にすることで 未来を照らすんだろうなあ」
というフレーズはやはりビーバーそのものと言えるものであるとともに、
「大切にしたいこだわり」
というフレーズで柳沢が高音コーラスを重ねるというこだわりを見るのも実に久しぶりだ。
この曲を演奏している時、なんなら感動のあまりに泣いている人すらいた。それくらいに嬉しい選曲だったのだが、この日会場に来ていた人以外には、まだこの曲がライブに戻ってきたということは秘密だ。
そして
「あなたにこれからも頼らせてもらうし、支えてもらいます。そのかわり、あなたもSUPER BEAVERを頼ってください。全力であなたのことを支えます」
という、やはりビーバーそのものでしかない言葉の後に演奏されたのはアルバムタイトル曲である「東京」。
ステージ背面には東京の象徴を模したデザインが再び登場するのだが、いわゆる東京の情景を描いたりするような、あるいは状況や別れというような、今まであらゆるアーティストが描いてきた「東京」的な曲ではない。ただただ東京で生きていて、そこに生きる愛しい人がいるという至極シンプルなことを描いた曲。この会場は東京ではないけれど、この曲はその「東京」がそのまま自分の大切な場所に置き換わって響く。だからこそ自分にとって、きっとこの会場にいた人の多くにとってはそれは「千葉」になるのだろうけれど、そんな大事な曲をツアー初日に、自分にとってもバンドにとっても大事な場所であるこの会場で聴くことができている。それは、なんて贅沢な人生だ、と思わずにはいられない。
しかしそんな曲を演奏してもまだライブは終わらないのは、アルバムの収録順においても「東京」は12曲中の10曲目であり、まだその後にさらなるキラーチューンが続くからなのだが、それだけでも「東京」というアルバムの充実度がよくわかる。
そして実際にその「東京」の次に収録されている曲である「ロマン」がライブの最後を担う。やはりメンバー全員がコーラスというよりももはやボーカルとなり、
「それぞれに頑張って それぞれに頑張って
それぞれに頑張って また笑おう」
と歌うのだが、そのサビに続く
「一緒に頑張ろうは なんか違うと ずっと思っている
親愛なるあなたへ 心を込めて 頑張れ」
というフレーズは最初にアルバムを聴いた時に思わずハッとした。確かに、我々は支えることはできるし、頼ることもできるけれど、バンドと一緒に頑張ることはできない。それと同様に、バンドも我々の仕事や勉強という日々の生活を手伝ってくれたり助けてくれたりはしない。
でも、ビーバーの音楽を聴いて、ライブを観ることによって、そうした日々を頑張ろうと思える。で、それはやっぱり音楽の力であるとともに、その音楽を作った人間の力であり、その音楽を鳴らす人間の力でもあり、それを受け取る人間の力でもある。だからこそ「それぞれに頑張ってまた会おう」というフレーズが深く突き刺さってくるのだ。
「幸せになってくれ 幸せになってくれ ずっと願わせてくれ」
という、サビにも勝るとも劣らないフレーズを歌う渋谷のボーカルはどこか揺らぎのようなものがあった。それは本当にそう思って歌っているからこそ宿る感情によるもの。最後には柳沢もステージに膝をついてギターを弾いている。そんなビーバーとこれからも、それぞれに頑張ってまた会いたいと思っている。
アンコールでは渋谷がこのツアーが今日を皮切りに20本続くのだが、その全公演が即完したことによって、東京国際フォーラムが追加公演が決まったことによって2daysになったことと、さらにホールツアーの後にライブハウスツアーも決定したことを発表する。
新宿LOFTや横浜F.A.D.など、どう考えてもチケットが取れそうにない規模ばかりでビックリするけれど、この日の20時に解禁になる情報を
「まだそれまでは内緒にしておこうか」
と言いながらも、こうして目の前にいる我々に真っ先に伝えてくれるというのはやはり現場至上主義を掲げて活動してきたバンドならではだなと思う。
さらにはこの日がツアー初日ということもあり、
「セットリストはまだ内緒にしてもらいたい。友達に電話で聞かれて「絶対教えない!」っていうんじゃないよ(笑)
垂れ流すような感じにはしないで欲しいっていうこと。今日来れなかった人のためにもね」
という配慮も見せつつ、
「最高のツアー初日になりました。でもまた次から今日の最高を更新しに行きます!」
と気合いを新たにして演奏されたのは、アルバムの最後を担う曲である「最前線」。
「行け 行け 行け 最前線を 行け」
というシンプル極まりないフレーズは、今なおこうしたホールだけではなくライブハウスも、フェスの大きなステージも、ロックバンドとしての最前線を走り続けるビーバーが自身に歌いながら、やはりそれぞれがそれぞれの最前線を行けと我々の背中を強く押してくれているようであり、メンバー全員でのボーカルがそれをより強く感じさせてくれる。
アルバム最後の曲をこうした曲で締める、それは前作の「さよなら絶望」もそうだったが、アルバムを一周聴いて終わりというのではなくて、さらにまた最初から聴きたくなるような、それはライブで観ると翌日からの活力になってくれるような。アウトロ演奏中に渋谷は先にステージを去り、柳沢と上杉は藤原のドラムセットの前に集まって音を鳴らしてキメを打つ。そんなSUPER BEAVERというバンドの情熱に幸あれ、と心から思っていた。
渋谷が言っていたように、本当に初日からこんなに最高でこれからどうなってしまうんだと思うくらいの最高っぷりだった。でもそれをさらに更新していくのがSUPER BEAVERというバンドだ。それを確かめに行く機会がホール以外の場所でも今年まだたくさんあるはず。つまり、「東京」はまだまだ成長していくアルバムであるということ。
そして自分が高校生の時に初めてこの会場に来た時と同じくらいの年齢であろう、親と一緒にライブに来ている人もいた。自分にとってそうなったように、その人たちにとってもビーバーのライブを観たこの場所が、きっと特別な場所としてこれからの人生の記憶になって残っていくはず。
昔、この会場に来た時に帰りに同級生たちと一緒に行った、中学生の頃から数え切れないくらいに来ていたボーリング場に帰りに久しぶりに寄ったら、ビックリするくらいに変わっていなかった。自分やその人たちがまたこの会場にライブを観に戻ってくる時も、変わらないでいて欲しい景色が確かに存在していた。
1.スペシャル
2.青い春
3.人間
4.突破口
5.ふらり
6.VS.
7.美しい日
8.318
9.未来の話をしよう
10.愛しい人
11.アイラヴユー
12.名前を呼ぶよ
13.東京流星群
14.秘密
15.東京
16.ロマン
encore
17.最前線