a flood of circle Tour 伝説の夜を君と @水戸LIGHT HOUSE 3/19
- 2022/03/20
- 00:17
昨年末のギリギリに2021年のラスボス的にニューアルバム「伝説の夜を君と」をリリースした、a flood of circle。素晴らしい傑作アルバムだった前作「2020」からわずか1年というインターバルとは思えないくらいにこれまた素晴らしいアルバムであり、個人的2021年のベストディスクを2年連続でフラッドに贈ることになった。それくらいに今のフラッドは漲りまくっているのである。
そんなアルバム「伝説の夜を君と」のツアーが先月の大阪からスタートし、まだ序盤であるがこの水戸LIGHT HOUSEが今回のツアーで最初に見れる機会に。近年はツアー初日に千葉LOOKに来てくれていたので、ツアーの始まりを目撃してから各地に観に行ってファイナルへ…という流れだったが、それとはまた少し違う流れである。
もはやフラッドのツアーで毎回来る場所、という自分内立ち位置になった水戸LIGHT HOUSEは床に立ち位置マークが貼られたスタンディング形式というのは前回のツアーと変わらないし、この時世の中であってもドリンクでアルコールが飲めるというのも前回のツアーと変わらないところである。
開演時間の18時を少し過ぎた頃に場内が暗転すると、おなじみのSEとともにシャツ姿の渡邊一丘(ドラム)を先頭にメンバーがステージに登場。HISAYO(ベース)はいつもと同じく黒い衣装で、青木テツ(ギター)はギターを掲げて登場した時点で気合いの入りっぷりをアピールすると、最後にこの日は赤い革ジャンを着た佐々木亮介(ボーカル&ギター)が缶チューハイを持ってステージに登場するのだが、すでに大阪でのツアー初日からファンの賛否両論を巻き起こしまくっていた通り、今になって亮介は金髪へと髪色が変わっている。それはフラッドのロックンロールの自由さの象徴でもあると言えるのだが、亮介がそうして攻めた姿を見せてくれると、紛れもなく同世代である自分としてもそうした攻めた髪色をまだしてもいいんじゃないかとすら思えてくる。
その亮介が
「おはようございます。a flood of circleです」
と挨拶すると、1曲目はバンドの重いビートによる「A」。「伝説の夜を君と」の収録曲であるとはいえ、少し意外な始まり方かな?とも思ったのだが、
「これが最初のA」
というフレーズを亮介が歌った瞬間に、確かにこの曲は最初に演奏されて然るべき曲だなと思った。すでに過去に「Flood」という曲もあるだけに、「of」「circle」の2曲がこれから先に生まれてくるのが待たれる。
渡邊の軽快なダンスビートが叩き出されると、HISAYOが手拍子をする「Dancing Zombiez」と、さすがにフラッド、アルバムのリリースツアーでも過去曲をこの最序盤から交えることによって、この日どんな曲がどんな順番で演奏されるのかわからなくなるし、それが楽しみになる。金髪になった亮介も、その隣にいるだけに銀髪に見えるテツも間奏ではステージ前に出てきてロックンロールでしかないギターソロを決める。何度となく演奏されてきた曲であるだけに、この曲を聴くだけでこの日もバンドが絶好調であることがわかるくらいに、このツアーでバンドのグルーヴはさらに鍛えあげられているようだ。
「水戸ー!」
と亮介が気合いを入れるように叫ぶと「クレイジー・ギャンブラーズ」へ。タイトル通りにギャンブルのことを歌ったロックンロールであるが、そもそもが音楽で、しかもロックバンドで生きていこうとすることがもはやギャンブルなんじゃないかとも思うし、
「お前を全部 賭けてくれ」
というタイトル通りに、ここにいる人たちはフラッドというバンドに人生を賭けている。そう思えるのはどこの会場に行ってもいる人ばかりが客席にいるからであるが、
「地獄の味を覚えても
お前といんだし楽勝だぜ」
「天使の羽がもがれても
最後は俺らが爆笑だぜ」
という通りに、フラッドに賭ければ最後はみんなで爆笑できる、この賭けに勝つことができることを信じているからこうしてみんな日本中のいろんな会場にライブを観にくるのだろうと思う。そういう意味では我々が1番クレイジー・ギャンブラーズなのかもしれないとも思う。
亮介が下手方向を指さすと、HISAYOがゴリゴリのベースのイントロを弾く「Blood Red Shoes」はやはりこの日も立ち位置から動くことも、声を出すことも出来なくても我々観客を熱狂させてくれるのだが、
「いかれてると言って 笑い飛ばしてくれよ Baby」
というサビのフレーズは「クレイジー・ギャンブラーズ」の後に演奏されることによって、そのギャンブラー的な生き方をそう言っているかのようにも聴こえる。今回のツアーはこの日が初参加なのでまだ他の場所がどんなセトリになっているのかをわかっていないのだが、亮介が赤い革ジャンだからこの曲を演奏している、みたいな法則性があったりするのだろうか。
ここで亮介がギターを下ろすとハンドマイクになり、片手には缶チューハイを握りしめる。その形態で演奏されたのは「伝説の夜を君と」の「狂乱天国」なのだが、ライブではおなじみ(かつては客席に突入していた)のこのハンドマイク形態も、ライブを観ないとどの曲がこの形態の曲なのかはわからない。(時にはアルバムを一回聴いただけで「この曲はハンドマイクでやるんだろうな」ってわかる曲もあるけど)
だからこそこの曲がハンドマイクだったのか!とテンションがさらに昂るのだが、2サビで亮介は歌っている途中なのに普通に手に持っている缶チューハイを飲むので、1フレーズまるまる吹っ飛ぶという自由っぷりを見せてくれる。THE KEBABSでもよくやる手法であるが、ハンドマイクになっていきなりやるものだから、ついつい手を叩いて笑ってしまった。それくらいに面白かったのである。
で、ハンドマイクになったということは少なからずもう1曲以上はその形態の曲をやるだろうということがわかるのだが、「Sweet Home Battle Field」などの定番曲もある中で今回亮介ハンドマイク曲の中から演奏されたのは「Rex Girl」という実に意外な選曲だったのだが、2コーラス目では亮介が歌うのをやめてコーラスをしていたHISAYOが女性視点の歌詞を歌うことによって、HISAYOがRex Girlそのものなんじゃないかとすら思えてくる。
「水戸ー!偕楽園より快楽に連れて行ってあげるぜ」
と、このLIGHT HOUSEからもほど近い場所にある、日本三名園の一つである偕楽園の名前を出すのは水戸でのライブならではであるが、亮介はさらにハンドマイクで、サンバなどを思わせるリズムをロックンロールに融合させた「Welcome To Wonderland」でリズムに合わせた手拍子も含めてまさに快楽のロックンロールに観客を招き入れるのだが、2サビでは亮介が手に持っていたマイクをドラムセットの前に置いていたスタンドに差し込むのだが、そのまま後ろ向きでサビを歌うのが実に面白い。それはつまり渡邊と至近距離で向かい合って歌っているということだから。この時の渡邊の胸中も実に気になるところである。
亮介が再びギターを手にすると、
「良い曲やりまーす」
という、なんだそりゃとツッコミたくなるくらいに身も蓋もないことを言ったのだが、実際に演奏されたのは本当に良い曲でしかない名バラード曲「月に吠える」だったために、それは紛れもなく本心だったことがわかるのだが、何故だかこの曲は水戸LIGHT HOUSEが良く似合うイメージである。それは水戸駅から一直線に商店街を歩いて行くこの微妙に距離のある会場だからこそ、いつもライブが終わった後に信号待ちをしている時に月が見えるからかもしれない。
この曲を演奏すると、果たして他の場所ではこの曲をそのままやるのか、だとしても何回も聴きたいし、曲がバラード枠の中で変わるとしてもその違う曲を聴きに行きたいと思うくらいに私はフラッドのバラード曲のどれもが大好きであるし、そうした曲でこそフラッドのメロディの良さを最大限に実感することができると思っている。観客が全く声を出したりできない状況だからこそ、今聴く「月に吠える」はどこか拾って食べて飲み込んでしまった孤独という名の猛毒を我々1人1人が体内に持っているように感じる。
そんなバラード枠の最新曲となるのは、どこか前作の「火の鳥」を彷彿とさせるようなサウンドのアルバム最後を飾る「世界が変わる日」。こうしてライブの中盤でアルバム最後の曲が演奏されるのはフラッドにとっては珍しいパターンであると言えるけれど、ここで演奏されることで「月に吠える」に連なる系譜の名曲であるということもわかるのだ。
「俺たち水戸に結構来ていて。だからなんだかここに来るとホッとするんだけど、ロシアの兵士たちにもそうなって欲しいから、納豆奢ってあげたいな、みたいな」
という亮介の時勢と水戸というこの日を混ぜ合わせたかのような言葉とともにバラード枠から抜け出して一気に駆け抜けるように演奏されたのは亮介が歴史を感じさせるようなギターフレーズをイントロに追加し、渡邊のツービートがロックンロールというよりはパンクのように響く「ブレインデッド・ジョー」。それは
「イヤフォンからは “Blitzkrieg Bop” Yeah」
というフレーズがある通りにラモーンズからの影響を受けての曲だからかもしれないが、
「風になって走れ ブレイン・デッド・ジョー
妄想が死んだなら それがお前の最期だ」
というフレーズ通りの爽快な疾走感を亮介の伸びやかなボーカルによるメロディが感じさせてくれる。
「水戸に何度も来てるのに納豆の話をするのは愚かだってわかってるんだけど、テツもライブ前に
「今日は粘り強く行きましょう!」
って言ってたから(笑)」
と、水戸にはやはり納豆ネタしかないということすら亮介が口にするとHISAYOもついつい吹き出してしまったのだが、
「今日来る時に車の俺が座る席にちょっと高級なビールが置いてあって。先月のチョコをあげる日に俺はメンバーみんなにチョコをあげたから、誰かからのお返しかな?って思ったらナベちゃんからだった(笑)」
という亮介と渡邊の微笑ましいくらいの仲の良さを感じさせるMCは渡邊が恥ずかしくなったのか、
「ビールじゃなくてジントニックです(笑)」
と亮介のMCを訂正する。でも自身があげたものだというのは訂正しないのがやはり微笑ましくなる。
すると「伝説の夜を君と」の中でも飛び切りキャッチーなロックンロール「バタフライソング」へ。アルバムリリース時にはファンからの投票によってMVが制作されるという企画があったのだが、自分はダントツでこの曲になると思っていた。それくらいに良い曲だと思っているし、つまるところ自分にとっては「どれだけ良いメロディでありながらロックのカッコ良さを出せるか」であり「どれだけロックのカッコ良さを持ちながら良いメロディであれるか」が好きな音楽としての判断基準だと思っていて、この「バタフライソング」やその前の「ブレインデッド・ジョー」はフラッドがその基準を究極と言えるくらいに満たしているバンドであることを改めて感じさせてくれる曲たちだ。
「春風 調子に乗って
派手にコケたエピソードも
一緒に笑えたなら」
というフレーズはフラッドの盟友であり、一度足を止めることを選んだロックンロールバンド、THE PINBALLSの「Way of 春風」へのリスペクトとオマージュであると個人的に思っている。自分たちがTHE PINBALLSの分もロックンロールを鳴らし続けて待っていると表明するかのような。
そんな春の曲である「バタフライソング」に続いて、亮介がブルージーなギターのフレーズを奏でてから歌い始めたのは、イントロで亮介、テツ、HISAYOの3人が揃って前に出てきて演奏する「春の嵐」。
ああ、そうだ、この日は雨が降っていたし、やたらと寒かったけど今は3月であり、それは春という季節の中なんだ、ということを改めて感じさせてくれる選曲であり、間奏では亮介に紹介されたテツが前に出てきて客席を見渡しながら思いっきりギターソロを弾きまくるのだが、長期間に渡るこのツアーはファイナルを迎える頃にはもう夏になっている。きっとその時にはこの曲は演奏されなくなっているだろうと思うと、きっと今の時期にしか聴くことができない曲だ。フラッドは今までもそうやってこの大名曲を演奏してきたバンドだから。
すると渡邊が「I LOVE YOU」を彷彿とさせるような、モータウン的と言ってもいいようなリズムを叩き出してから演奏されたのは「R.A.D.I.O.」。そこからエイトビートのロックンロールになったかと思ったらサビの後半ではワルツのリズムに変わるという展開が面白い曲なのだが、テツ、HISAYO、渡邊とフレーズを分けてのコーラスもフラッドのメンバー全員のコーラス能力の高さを示している。
「最高と最低を繰り返しながら ちゃんと君に出会えた
最高と最低を繰り返しながら 君と歩き続ける」
というフレーズはそのワルツ部分のものであるが、フラッドにも我々にも日常には最低だと思うようなこともあるかもしれないけれど、フラッドの音楽があれば、フラッドのライブを観ることができればその全ては最高なものになる。そんなフラッドとのこれまでの膨大な日々を思い返させてくれるようなフレーズである。
そんな中でテツが荒々しくギターを鳴らしつつから始まったのは実に意外な選曲である「Rollers Anthem」。いや、こうしてワンマンで演奏されて然るべき、名曲だらけの近年のフラッドの中でも屈指の大名曲なのだけれど、そんな曲であっても収録されたアルバム「2020」のリリースを過ぎて「GIFT ROCKS」やその後のベストセットツアーではほとんど演奏されなかっただけに、なんでこんな素晴らしい曲が早くもセトリから外れるのか、とも思っていただけに、こうして今回のツアー、しかも新しいアルバムを引っ提げてのツアーでセトリに戻ってきたのが実に意外だったのである。
しかしながらやはりこの曲はこうしてフラッドのライブに通い詰める我々のためにあるかのような曲だ。
「間違ってないぜ」
というサビの亮介のボーカルも、MVのコロナ禍になる前のフラッドのライブの熱狂も、もちろんコロナ禍になってからリリースされたこの曲をはじめとした名曲たちも、全てを
「誰が何と言おうと これをロックンロールと呼ぼう」
と肯定してくれているかのようだ。何故ならばやはりこの曲はロックンローラーのアンセムだからだ。いつになっても、ロックンロールを聴いて胸が震えるのは間違ってない。
そんな「Rollers Anthem」の余韻が残響となって会場に響いている。その残響すらもが爆音であるのがフラッドのライブだからこそであるが、その残響を浴びながら亮介、テツ、HISAYOは渡邊のドラムの前で向かい合うようにして楽器を構え、残響が消えると全員が呼吸を合わせるようにしてイントロを鳴らし始める。それは最近は演奏されないことも多かった「プシケ」がこのツアーでセトリに戻ってきたことの証であるのだが、やはりこの曲のイントロを聴くとフラッドのライブにいることができているということを感じることができるし、渡邊、HISAYO、テツ、亮介と順番にメンバーを紹介するごとにスポットライトが当たっていくという演出が、今この4人でのフラッドであるということを強く感じさせてくれるのだ。この4人が最強のフラッドであるということも。メンバー紹介の後に亮介が思いっきり溜めてから
「a flood of circle!」
とバンド名を口にして、観客が腕を上げるのは我々の勝利の確信の姿だ。
そうしてバンドのグルーヴが最高潮に高まる中で演奏されたのはアルバム発売に先んじてMVが公開され、そのあまりの名曲っぷりにファンを歓喜させた「北極星のメロディー」だ。ただただひたすらにロックンロールの、音楽の力を信じるように研ぎ澄ませたメロディがまさに北極星のように暗い夜空のような今の世の中を照らし出す。
「ポラリス 君と最高の景色を探している
初めての道 選び続けて
何度止まっても 光へ向かって」
というサビの歌詞は「伝説の夜を君と」というアルバムのタイトル、テーマにも繋がるものであるからこそ、やはりこの曲が今回のツアーのテーマソングのように、我々の心を照らすように響くのである。
そんなクライマックス的な光景は
「俺たちとあんたたちの明日に捧げる!」
とおなじみの口上から演奏された「シーガル」でさらに極まるように、亮介の「イェー!」というシャウトに合わせて観客たちは一斉に高く飛び上がる。それはまさにこの伝説の夜を超えた後にやってくる明日に向かって手を伸ばすかのように。亮介のボーカルはもちろん、テツのギターも、ライブならではの手数を増やす渡邊のドラムも、肩口の紐が肘のあたりにまで落ちてきながらもなおも華麗に舞うようにベースを弾くHISAYOも、曲を経るごとにさらにロックンロールとしての凄みを増し続けている。
するとそんな「シーガル」で描いたクライマックスから一転して、亮介が弾き語りのようにギターを弾きながら歌い始めたのは、前述のMVの投票で最多票を集めてMVが製作された、アルバムの中で明らかに異彩を放っている「白状」である。
それはいつも「俺たちが最高」「今が最高」と自分たちとその音楽への絶対的な自信を口にしてきた亮介が
「もう疲れたんだ
声も出ない夜
溢れ出すのはいつもの 消えてしまいたい
今じゃ幻みたいだね ああ」
という衝撃とも言えるような自身の心情吐露によって始まる曲だからである。
しかし曲途中でバンドの演奏が亮介の歌に加わることによって、まさにバンドメンバーがいてくれることで亮介が自分と自信を取り戻していくかのように最後には
「もう疲れたんだ
そう疲れたのは
本気で信じてるから
これが生きる理由だ
行けるとこまで
行こうぜ
これが生きる理由だ
くたばるとこまで
行こうぜ」
と歌うようになる。やっぱり亮介は我々が想像しているままの亮介であり、きっと死ぬまでこうしてロックンローラーのままなのである。だからこそ、行けるとこまで行く姿を、くたばるとこまで行った姿を最後まで見ていたいのだ。それが我々の生きる理由だから。
「白状」がそうしてクライマックスのさらにその先に演奏されたことによって、この曲をMV投票で選んだフラッドファンの方々のバンドへの理解度が確かなものであることがわかるのだが、そんな「白状」の後に演奏されたのは、昨年のベストセットツアーのファイナルでは亮介の弾き語りで披露されていた、アルバムの導入を担う「伝説の夜を君と」。
音源でも弾き語り的であったこの曲がライブでは完全にバンドのものとして鳴らされている。それは
「俺たち 無敵さ
ピークのようで始まりに過ぎない夜を」
と歌うように、それは「俺」ではなくてあくまで「俺たち」であるから。そこには亮介だけではなくメンバーやバンドを支えるスタッフはもちろん、我々観客の存在だって含まれているはずだ。我々がフラッドのライブを見て「無敵だ」と思えるということは、フラッドもまた我々を目の前にして演奏することによって「無敵だ」と思えているのだろうから。
「伝説の夜を
今夜も君と」
と締められるように、この伝説の夜をフラッドと一緒に過ごせた、フラッドと一緒に作れた。そう思えるライブだったことが、本当に嬉しかったのだ。
もうここまででも充分に伝説の夜であることを示してくれているのだが、アンコールに応えて再びメンバーがステージに登場。
「7月にLINE CUBEっていう、水戸よりちょっと落ちる渋谷っていう街にある場所でツアーファイナルやるから。また良い感じのライブやるから、それも来てね」
と、亮介はバンドにとってはじめてのホールワンマンとなるツアーファイナルの告知をしたのだが、きっとここにいた人はもう全員ファイナルのチケットを取っているんじゃないだろうか。
そんな水戸での伝説の夜の最後にこの地に刻んだのは、テツ、HISAYO、渡邊によるイントロのコーラスからしてさらに観客の精神を昂らせる「Beast Mode」。こんな最後の最後に全員で歌うためのような曲(実際にこの曲の音源はライブに来た観客の合唱を録音した。もちろんコロナ禍になる前に)を演奏したら、より一層もっともっとライブを見たくなってしまうじゃないか、と思うくらいにこの曲も含めてこの日のライブもやはり一瞬というくらいにあっという間に終わってしまった。亮介が去り際に今回のツアーで販売されているタオルを掲げている姿を見て、その一瞬だったという感覚こそが、伝説の夜であった証明だったんだと思っていた。
ツアーは亮介が宣伝していた7月のLINE CUBEでのファイナルまで続いていく。およそ5ヶ月にも渡る長いツアーということは、その期間でさらに伝説の夜を更新し続けていくということだ。今のところ来月末の横浜Bayhallと、7月のツアーファイナルしかチケットを取っていないのだが、この日演奏しなかった「セイントエルモ」「テンペスト」というアルバム収録曲がその時に聴けるのか。既存曲は変わるのか。それを確かめるために、さらにたくさん各地のライブを観に行きたくなってしまう。
そう思うのは、フラッドのライブを観るといつも「本当にこのバンドが自分の人生の中にいてくれて良かった」「このバンドと出会うことができて良かった」という確信を感じることができるから。それがそのまま「俺たち無敵さ」という感覚に、「最高と最高を繰り返しながら君と歩き続けた」という感覚に繋がっている。それはもうそのまま、自分の人生と言えるバンドということだ。そう思うバンドを可能な限り観に行きながら、これからも一緒に伝説の夜を何度だって過ごしていきたい。とりあえずは、このツアーの伝説をあと何回目撃することができるのか。
1.A
2.Dancing Zombiez
3.クレイジー・ギャンブラーズ
4.Blood Red Shoes
5.狂乱天国
6.Rex Girl
7.Welcome To Wonderland
8.月に吠える
9.世界が変わる日
10.ブレインデッド・ジョー
11.バタフライソング
12.春の嵐
13.R.A.D.I.O.
14.Rollers Anthem
15.プシケ
16.北極星のメロディー
17.シーガル
18.白状
19.伝説の夜を君と
encore
20.Beast Mode
そんなアルバム「伝説の夜を君と」のツアーが先月の大阪からスタートし、まだ序盤であるがこの水戸LIGHT HOUSEが今回のツアーで最初に見れる機会に。近年はツアー初日に千葉LOOKに来てくれていたので、ツアーの始まりを目撃してから各地に観に行ってファイナルへ…という流れだったが、それとはまた少し違う流れである。
もはやフラッドのツアーで毎回来る場所、という自分内立ち位置になった水戸LIGHT HOUSEは床に立ち位置マークが貼られたスタンディング形式というのは前回のツアーと変わらないし、この時世の中であってもドリンクでアルコールが飲めるというのも前回のツアーと変わらないところである。
開演時間の18時を少し過ぎた頃に場内が暗転すると、おなじみのSEとともにシャツ姿の渡邊一丘(ドラム)を先頭にメンバーがステージに登場。HISAYO(ベース)はいつもと同じく黒い衣装で、青木テツ(ギター)はギターを掲げて登場した時点で気合いの入りっぷりをアピールすると、最後にこの日は赤い革ジャンを着た佐々木亮介(ボーカル&ギター)が缶チューハイを持ってステージに登場するのだが、すでに大阪でのツアー初日からファンの賛否両論を巻き起こしまくっていた通り、今になって亮介は金髪へと髪色が変わっている。それはフラッドのロックンロールの自由さの象徴でもあると言えるのだが、亮介がそうして攻めた姿を見せてくれると、紛れもなく同世代である自分としてもそうした攻めた髪色をまだしてもいいんじゃないかとすら思えてくる。
その亮介が
「おはようございます。a flood of circleです」
と挨拶すると、1曲目はバンドの重いビートによる「A」。「伝説の夜を君と」の収録曲であるとはいえ、少し意外な始まり方かな?とも思ったのだが、
「これが最初のA」
というフレーズを亮介が歌った瞬間に、確かにこの曲は最初に演奏されて然るべき曲だなと思った。すでに過去に「Flood」という曲もあるだけに、「of」「circle」の2曲がこれから先に生まれてくるのが待たれる。
渡邊の軽快なダンスビートが叩き出されると、HISAYOが手拍子をする「Dancing Zombiez」と、さすがにフラッド、アルバムのリリースツアーでも過去曲をこの最序盤から交えることによって、この日どんな曲がどんな順番で演奏されるのかわからなくなるし、それが楽しみになる。金髪になった亮介も、その隣にいるだけに銀髪に見えるテツも間奏ではステージ前に出てきてロックンロールでしかないギターソロを決める。何度となく演奏されてきた曲であるだけに、この曲を聴くだけでこの日もバンドが絶好調であることがわかるくらいに、このツアーでバンドのグルーヴはさらに鍛えあげられているようだ。
「水戸ー!」
と亮介が気合いを入れるように叫ぶと「クレイジー・ギャンブラーズ」へ。タイトル通りにギャンブルのことを歌ったロックンロールであるが、そもそもが音楽で、しかもロックバンドで生きていこうとすることがもはやギャンブルなんじゃないかとも思うし、
「お前を全部 賭けてくれ」
というタイトル通りに、ここにいる人たちはフラッドというバンドに人生を賭けている。そう思えるのはどこの会場に行ってもいる人ばかりが客席にいるからであるが、
「地獄の味を覚えても
お前といんだし楽勝だぜ」
「天使の羽がもがれても
最後は俺らが爆笑だぜ」
という通りに、フラッドに賭ければ最後はみんなで爆笑できる、この賭けに勝つことができることを信じているからこうしてみんな日本中のいろんな会場にライブを観にくるのだろうと思う。そういう意味では我々が1番クレイジー・ギャンブラーズなのかもしれないとも思う。
亮介が下手方向を指さすと、HISAYOがゴリゴリのベースのイントロを弾く「Blood Red Shoes」はやはりこの日も立ち位置から動くことも、声を出すことも出来なくても我々観客を熱狂させてくれるのだが、
「いかれてると言って 笑い飛ばしてくれよ Baby」
というサビのフレーズは「クレイジー・ギャンブラーズ」の後に演奏されることによって、そのギャンブラー的な生き方をそう言っているかのようにも聴こえる。今回のツアーはこの日が初参加なのでまだ他の場所がどんなセトリになっているのかをわかっていないのだが、亮介が赤い革ジャンだからこの曲を演奏している、みたいな法則性があったりするのだろうか。
ここで亮介がギターを下ろすとハンドマイクになり、片手には缶チューハイを握りしめる。その形態で演奏されたのは「伝説の夜を君と」の「狂乱天国」なのだが、ライブではおなじみ(かつては客席に突入していた)のこのハンドマイク形態も、ライブを観ないとどの曲がこの形態の曲なのかはわからない。(時にはアルバムを一回聴いただけで「この曲はハンドマイクでやるんだろうな」ってわかる曲もあるけど)
だからこそこの曲がハンドマイクだったのか!とテンションがさらに昂るのだが、2サビで亮介は歌っている途中なのに普通に手に持っている缶チューハイを飲むので、1フレーズまるまる吹っ飛ぶという自由っぷりを見せてくれる。THE KEBABSでもよくやる手法であるが、ハンドマイクになっていきなりやるものだから、ついつい手を叩いて笑ってしまった。それくらいに面白かったのである。
で、ハンドマイクになったということは少なからずもう1曲以上はその形態の曲をやるだろうということがわかるのだが、「Sweet Home Battle Field」などの定番曲もある中で今回亮介ハンドマイク曲の中から演奏されたのは「Rex Girl」という実に意外な選曲だったのだが、2コーラス目では亮介が歌うのをやめてコーラスをしていたHISAYOが女性視点の歌詞を歌うことによって、HISAYOがRex Girlそのものなんじゃないかとすら思えてくる。
「水戸ー!偕楽園より快楽に連れて行ってあげるぜ」
と、このLIGHT HOUSEからもほど近い場所にある、日本三名園の一つである偕楽園の名前を出すのは水戸でのライブならではであるが、亮介はさらにハンドマイクで、サンバなどを思わせるリズムをロックンロールに融合させた「Welcome To Wonderland」でリズムに合わせた手拍子も含めてまさに快楽のロックンロールに観客を招き入れるのだが、2サビでは亮介が手に持っていたマイクをドラムセットの前に置いていたスタンドに差し込むのだが、そのまま後ろ向きでサビを歌うのが実に面白い。それはつまり渡邊と至近距離で向かい合って歌っているということだから。この時の渡邊の胸中も実に気になるところである。
亮介が再びギターを手にすると、
「良い曲やりまーす」
という、なんだそりゃとツッコミたくなるくらいに身も蓋もないことを言ったのだが、実際に演奏されたのは本当に良い曲でしかない名バラード曲「月に吠える」だったために、それは紛れもなく本心だったことがわかるのだが、何故だかこの曲は水戸LIGHT HOUSEが良く似合うイメージである。それは水戸駅から一直線に商店街を歩いて行くこの微妙に距離のある会場だからこそ、いつもライブが終わった後に信号待ちをしている時に月が見えるからかもしれない。
この曲を演奏すると、果たして他の場所ではこの曲をそのままやるのか、だとしても何回も聴きたいし、曲がバラード枠の中で変わるとしてもその違う曲を聴きに行きたいと思うくらいに私はフラッドのバラード曲のどれもが大好きであるし、そうした曲でこそフラッドのメロディの良さを最大限に実感することができると思っている。観客が全く声を出したりできない状況だからこそ、今聴く「月に吠える」はどこか拾って食べて飲み込んでしまった孤独という名の猛毒を我々1人1人が体内に持っているように感じる。
そんなバラード枠の最新曲となるのは、どこか前作の「火の鳥」を彷彿とさせるようなサウンドのアルバム最後を飾る「世界が変わる日」。こうしてライブの中盤でアルバム最後の曲が演奏されるのはフラッドにとっては珍しいパターンであると言えるけれど、ここで演奏されることで「月に吠える」に連なる系譜の名曲であるということもわかるのだ。
「俺たち水戸に結構来ていて。だからなんだかここに来るとホッとするんだけど、ロシアの兵士たちにもそうなって欲しいから、納豆奢ってあげたいな、みたいな」
という亮介の時勢と水戸というこの日を混ぜ合わせたかのような言葉とともにバラード枠から抜け出して一気に駆け抜けるように演奏されたのは亮介が歴史を感じさせるようなギターフレーズをイントロに追加し、渡邊のツービートがロックンロールというよりはパンクのように響く「ブレインデッド・ジョー」。それは
「イヤフォンからは “Blitzkrieg Bop” Yeah」
というフレーズがある通りにラモーンズからの影響を受けての曲だからかもしれないが、
「風になって走れ ブレイン・デッド・ジョー
妄想が死んだなら それがお前の最期だ」
というフレーズ通りの爽快な疾走感を亮介の伸びやかなボーカルによるメロディが感じさせてくれる。
「水戸に何度も来てるのに納豆の話をするのは愚かだってわかってるんだけど、テツもライブ前に
「今日は粘り強く行きましょう!」
って言ってたから(笑)」
と、水戸にはやはり納豆ネタしかないということすら亮介が口にするとHISAYOもついつい吹き出してしまったのだが、
「今日来る時に車の俺が座る席にちょっと高級なビールが置いてあって。先月のチョコをあげる日に俺はメンバーみんなにチョコをあげたから、誰かからのお返しかな?って思ったらナベちゃんからだった(笑)」
という亮介と渡邊の微笑ましいくらいの仲の良さを感じさせるMCは渡邊が恥ずかしくなったのか、
「ビールじゃなくてジントニックです(笑)」
と亮介のMCを訂正する。でも自身があげたものだというのは訂正しないのがやはり微笑ましくなる。
すると「伝説の夜を君と」の中でも飛び切りキャッチーなロックンロール「バタフライソング」へ。アルバムリリース時にはファンからの投票によってMVが制作されるという企画があったのだが、自分はダントツでこの曲になると思っていた。それくらいに良い曲だと思っているし、つまるところ自分にとっては「どれだけ良いメロディでありながらロックのカッコ良さを出せるか」であり「どれだけロックのカッコ良さを持ちながら良いメロディであれるか」が好きな音楽としての判断基準だと思っていて、この「バタフライソング」やその前の「ブレインデッド・ジョー」はフラッドがその基準を究極と言えるくらいに満たしているバンドであることを改めて感じさせてくれる曲たちだ。
「春風 調子に乗って
派手にコケたエピソードも
一緒に笑えたなら」
というフレーズはフラッドの盟友であり、一度足を止めることを選んだロックンロールバンド、THE PINBALLSの「Way of 春風」へのリスペクトとオマージュであると個人的に思っている。自分たちがTHE PINBALLSの分もロックンロールを鳴らし続けて待っていると表明するかのような。
そんな春の曲である「バタフライソング」に続いて、亮介がブルージーなギターのフレーズを奏でてから歌い始めたのは、イントロで亮介、テツ、HISAYOの3人が揃って前に出てきて演奏する「春の嵐」。
ああ、そうだ、この日は雨が降っていたし、やたらと寒かったけど今は3月であり、それは春という季節の中なんだ、ということを改めて感じさせてくれる選曲であり、間奏では亮介に紹介されたテツが前に出てきて客席を見渡しながら思いっきりギターソロを弾きまくるのだが、長期間に渡るこのツアーはファイナルを迎える頃にはもう夏になっている。きっとその時にはこの曲は演奏されなくなっているだろうと思うと、きっと今の時期にしか聴くことができない曲だ。フラッドは今までもそうやってこの大名曲を演奏してきたバンドだから。
すると渡邊が「I LOVE YOU」を彷彿とさせるような、モータウン的と言ってもいいようなリズムを叩き出してから演奏されたのは「R.A.D.I.O.」。そこからエイトビートのロックンロールになったかと思ったらサビの後半ではワルツのリズムに変わるという展開が面白い曲なのだが、テツ、HISAYO、渡邊とフレーズを分けてのコーラスもフラッドのメンバー全員のコーラス能力の高さを示している。
「最高と最低を繰り返しながら ちゃんと君に出会えた
最高と最低を繰り返しながら 君と歩き続ける」
というフレーズはそのワルツ部分のものであるが、フラッドにも我々にも日常には最低だと思うようなこともあるかもしれないけれど、フラッドの音楽があれば、フラッドのライブを観ることができればその全ては最高なものになる。そんなフラッドとのこれまでの膨大な日々を思い返させてくれるようなフレーズである。
そんな中でテツが荒々しくギターを鳴らしつつから始まったのは実に意外な選曲である「Rollers Anthem」。いや、こうしてワンマンで演奏されて然るべき、名曲だらけの近年のフラッドの中でも屈指の大名曲なのだけれど、そんな曲であっても収録されたアルバム「2020」のリリースを過ぎて「GIFT ROCKS」やその後のベストセットツアーではほとんど演奏されなかっただけに、なんでこんな素晴らしい曲が早くもセトリから外れるのか、とも思っていただけに、こうして今回のツアー、しかも新しいアルバムを引っ提げてのツアーでセトリに戻ってきたのが実に意外だったのである。
しかしながらやはりこの曲はこうしてフラッドのライブに通い詰める我々のためにあるかのような曲だ。
「間違ってないぜ」
というサビの亮介のボーカルも、MVのコロナ禍になる前のフラッドのライブの熱狂も、もちろんコロナ禍になってからリリースされたこの曲をはじめとした名曲たちも、全てを
「誰が何と言おうと これをロックンロールと呼ぼう」
と肯定してくれているかのようだ。何故ならばやはりこの曲はロックンローラーのアンセムだからだ。いつになっても、ロックンロールを聴いて胸が震えるのは間違ってない。
そんな「Rollers Anthem」の余韻が残響となって会場に響いている。その残響すらもが爆音であるのがフラッドのライブだからこそであるが、その残響を浴びながら亮介、テツ、HISAYOは渡邊のドラムの前で向かい合うようにして楽器を構え、残響が消えると全員が呼吸を合わせるようにしてイントロを鳴らし始める。それは最近は演奏されないことも多かった「プシケ」がこのツアーでセトリに戻ってきたことの証であるのだが、やはりこの曲のイントロを聴くとフラッドのライブにいることができているということを感じることができるし、渡邊、HISAYO、テツ、亮介と順番にメンバーを紹介するごとにスポットライトが当たっていくという演出が、今この4人でのフラッドであるということを強く感じさせてくれるのだ。この4人が最強のフラッドであるということも。メンバー紹介の後に亮介が思いっきり溜めてから
「a flood of circle!」
とバンド名を口にして、観客が腕を上げるのは我々の勝利の確信の姿だ。
そうしてバンドのグルーヴが最高潮に高まる中で演奏されたのはアルバム発売に先んじてMVが公開され、そのあまりの名曲っぷりにファンを歓喜させた「北極星のメロディー」だ。ただただひたすらにロックンロールの、音楽の力を信じるように研ぎ澄ませたメロディがまさに北極星のように暗い夜空のような今の世の中を照らし出す。
「ポラリス 君と最高の景色を探している
初めての道 選び続けて
何度止まっても 光へ向かって」
というサビの歌詞は「伝説の夜を君と」というアルバムのタイトル、テーマにも繋がるものであるからこそ、やはりこの曲が今回のツアーのテーマソングのように、我々の心を照らすように響くのである。
そんなクライマックス的な光景は
「俺たちとあんたたちの明日に捧げる!」
とおなじみの口上から演奏された「シーガル」でさらに極まるように、亮介の「イェー!」というシャウトに合わせて観客たちは一斉に高く飛び上がる。それはまさにこの伝説の夜を超えた後にやってくる明日に向かって手を伸ばすかのように。亮介のボーカルはもちろん、テツのギターも、ライブならではの手数を増やす渡邊のドラムも、肩口の紐が肘のあたりにまで落ちてきながらもなおも華麗に舞うようにベースを弾くHISAYOも、曲を経るごとにさらにロックンロールとしての凄みを増し続けている。
するとそんな「シーガル」で描いたクライマックスから一転して、亮介が弾き語りのようにギターを弾きながら歌い始めたのは、前述のMVの投票で最多票を集めてMVが製作された、アルバムの中で明らかに異彩を放っている「白状」である。
それはいつも「俺たちが最高」「今が最高」と自分たちとその音楽への絶対的な自信を口にしてきた亮介が
「もう疲れたんだ
声も出ない夜
溢れ出すのはいつもの 消えてしまいたい
今じゃ幻みたいだね ああ」
という衝撃とも言えるような自身の心情吐露によって始まる曲だからである。
しかし曲途中でバンドの演奏が亮介の歌に加わることによって、まさにバンドメンバーがいてくれることで亮介が自分と自信を取り戻していくかのように最後には
「もう疲れたんだ
そう疲れたのは
本気で信じてるから
これが生きる理由だ
行けるとこまで
行こうぜ
これが生きる理由だ
くたばるとこまで
行こうぜ」
と歌うようになる。やっぱり亮介は我々が想像しているままの亮介であり、きっと死ぬまでこうしてロックンローラーのままなのである。だからこそ、行けるとこまで行く姿を、くたばるとこまで行った姿を最後まで見ていたいのだ。それが我々の生きる理由だから。
「白状」がそうしてクライマックスのさらにその先に演奏されたことによって、この曲をMV投票で選んだフラッドファンの方々のバンドへの理解度が確かなものであることがわかるのだが、そんな「白状」の後に演奏されたのは、昨年のベストセットツアーのファイナルでは亮介の弾き語りで披露されていた、アルバムの導入を担う「伝説の夜を君と」。
音源でも弾き語り的であったこの曲がライブでは完全にバンドのものとして鳴らされている。それは
「俺たち 無敵さ
ピークのようで始まりに過ぎない夜を」
と歌うように、それは「俺」ではなくてあくまで「俺たち」であるから。そこには亮介だけではなくメンバーやバンドを支えるスタッフはもちろん、我々観客の存在だって含まれているはずだ。我々がフラッドのライブを見て「無敵だ」と思えるということは、フラッドもまた我々を目の前にして演奏することによって「無敵だ」と思えているのだろうから。
「伝説の夜を
今夜も君と」
と締められるように、この伝説の夜をフラッドと一緒に過ごせた、フラッドと一緒に作れた。そう思えるライブだったことが、本当に嬉しかったのだ。
もうここまででも充分に伝説の夜であることを示してくれているのだが、アンコールに応えて再びメンバーがステージに登場。
「7月にLINE CUBEっていう、水戸よりちょっと落ちる渋谷っていう街にある場所でツアーファイナルやるから。また良い感じのライブやるから、それも来てね」
と、亮介はバンドにとってはじめてのホールワンマンとなるツアーファイナルの告知をしたのだが、きっとここにいた人はもう全員ファイナルのチケットを取っているんじゃないだろうか。
そんな水戸での伝説の夜の最後にこの地に刻んだのは、テツ、HISAYO、渡邊によるイントロのコーラスからしてさらに観客の精神を昂らせる「Beast Mode」。こんな最後の最後に全員で歌うためのような曲(実際にこの曲の音源はライブに来た観客の合唱を録音した。もちろんコロナ禍になる前に)を演奏したら、より一層もっともっとライブを見たくなってしまうじゃないか、と思うくらいにこの曲も含めてこの日のライブもやはり一瞬というくらいにあっという間に終わってしまった。亮介が去り際に今回のツアーで販売されているタオルを掲げている姿を見て、その一瞬だったという感覚こそが、伝説の夜であった証明だったんだと思っていた。
ツアーは亮介が宣伝していた7月のLINE CUBEでのファイナルまで続いていく。およそ5ヶ月にも渡る長いツアーということは、その期間でさらに伝説の夜を更新し続けていくということだ。今のところ来月末の横浜Bayhallと、7月のツアーファイナルしかチケットを取っていないのだが、この日演奏しなかった「セイントエルモ」「テンペスト」というアルバム収録曲がその時に聴けるのか。既存曲は変わるのか。それを確かめるために、さらにたくさん各地のライブを観に行きたくなってしまう。
そう思うのは、フラッドのライブを観るといつも「本当にこのバンドが自分の人生の中にいてくれて良かった」「このバンドと出会うことができて良かった」という確信を感じることができるから。それがそのまま「俺たち無敵さ」という感覚に、「最高と最高を繰り返しながら君と歩き続けた」という感覚に繋がっている。それはもうそのまま、自分の人生と言えるバンドということだ。そう思うバンドを可能な限り観に行きながら、これからも一緒に伝説の夜を何度だって過ごしていきたい。とりあえずは、このツアーの伝説をあと何回目撃することができるのか。
1.A
2.Dancing Zombiez
3.クレイジー・ギャンブラーズ
4.Blood Red Shoes
5.狂乱天国
6.Rex Girl
7.Welcome To Wonderland
8.月に吠える
9.世界が変わる日
10.ブレインデッド・ジョー
11.バタフライソング
12.春の嵐
13.R.A.D.I.O.
14.Rollers Anthem
15.プシケ
16.北極星のメロディー
17.シーガル
18.白状
19.伝説の夜を君と
encore
20.Beast Mode