9mm Parabellum Bullet presents 「カオスの百年 vol.16」 @EX THEATER ROPPONGI 3/17
- 2022/03/18
- 21:07
昨年はLINE CUBE SHIBUYAでいち早くフルキャパで開催された、9mm Parabellum Bulletの「結成記念日だと言われている日」ワンマン。
ツアーとはまた違う自主企画ライブである「カオスの百年」ももう16回目であるが、すでに先月の新宿BLAZEでの新アー写撮影も含めたフロアライブにおいて来るべきアルバムに収録される新曲も披露されており、その新曲も含めた新たなモードが見れるんじゃないかという期待も高まる。
9mmとしては久しぶりな気がするEX THEATERは全席椅子席の指定席というスタンディングよりもキャパを抑えた形ではあるのだが、かつてこの会場がオープンしたばかりの頃にワンマンを行った時にはチケットが売り切れていなかったため、今でも変わらない根強い9mmの人気と、この特別なライブになる日への期待の高さを感じさせる。
開演時間の19時になると、急に場内が暗転してSEの「Digital Hardcore」が流れ、ステージ背面にバンドロゴが迫り上がってくると、メンバーがステージに現れる。この日は武田将幸(HERE)をサポートギターに加えた5人編成というのは新宿BLAZEでのライブの時と異なっているが、菅原卓郎(ボーカル&ギター)はどこか髪型がサッパリしたように見えるのだが、中村和彦(ベース)は長くなり過ぎた髪を最初から結いており、その結いた部分も長くなり過ぎてもはや将軍のような感すらある。滝善充(ギター)はいつものように半袖Tシャツに短パンというキッズのようにすら見えるスタイルで、かみじょうちひろのドラムセットはライザーが高いだけに、客席後方からステージの方に向かって低くなっていくというステージが見やすいEX THEATERの形状も含めて、よりそのセットや姿が見やすくなっている。
「9mm Parabellum Bulletです」
とおなじみの挨拶を卓郎がした時にはもう全てと言っていいくらいの観客は立ち上がっていたのだが、その観客の熱量をさらに燃え上がらせるかのように、2013年リリースの傑作アルバム「Dawning」の1曲目に収録されている「The Lightning」からスタートし、まさに生きる稲妻というかのように滝は早くもステージを走り回り、間奏のソロではお立ち台に立ってギターを弾きまくる。まさに
「頭から爪先へ 走り抜けたライトニング」
というフレーズ通りに体内を走り抜けていく轟音が初っ端から鳴らされ、「ファンの代表としてステージに立っている男」こと武田も実に楽しそうな笑顔を浮かべながら腕を頭上に伸ばし、卓郎も笑顔で手拍子を煽る。その姿からはバンド全員がこうしてこの日にここで会えたことの喜びを炸裂させているかのようだ。
さらに滝のギターが重く鳴り響くイントロによる「Answer and Answer」と重量級と言える曲が続き、観客はイントロから腕を振り上げまくる。未だに声を出すことは叶わないけれど、全員が「オイ!オイ!」と野太い声をあげながら腕を振り上げているように見えるのは、数え切れないくらいに見てきた、この曲でのそのライブの景色が脳内に焼き付いているからだろう。和彦も髪を結いているからこそ、手拍子を煽る表情が満たされているものであることがよくわかる。
さらには「Zero Gravity」というレア曲が続いたことによって自分はこの日はかつてこの会場でワンマンをやった時が「Dawning」のリリースタイミングであったことを思い出したのだが、きっとほとんどの人がこのあたりでこの日のセトリの特殊性とコンセプトを理解したことだろう。滝の手拍子を煽るのも「この曲のここで!?」というくらいに独特なのだが、それは
「身体をリズムにゆだねて ゼロからはじめる
そう 君と僕が踊れば 世界がはじまる」
という「リズム」というフレーズがある通りに、この曲がかみじょう作詞作曲による曲だからこそのリズム感もあるのだろう。前の2曲が滝のギターが前面に出まくっていただけに、その祭囃子感すら感じるダンサブルなリズムはソングライターが違うことによって曲の構造が全く違うという、9mmというバンドの面白さを味合わせてくれる。かみじょうも和彦も、リズム隊が作曲した曲は一聴してそれとわかるくらいにソングライターの音楽性だけではなく、人間性までもが強く表出している。
そのまま「Dawning」モードで突っ走るのかと思いきや、滝がお立ち台の上に立ってギターを弾きまくるのは近年のライブでは欠かせない存在の曲になっている「名もなきヒーロー」であるが、ここまでの「Dawning」の3曲に比べると曲が長尺に感じる。(「Answer and Answer」とはほとんど変わらないけれど、「The Lightning」と「Zero Gravity」よりは全然長い)
それは、年月を経たことはもちろん、この曲を生み出した時に卓郎が、9mmが聴き手に伝えたいことが明確にあって、それを可能な限り曲に落とし込んだ結果として今までの曲からしたら長いものになったということなのだろうというのがわかるのが、こうして過去の曲の後に演奏されるというセトリの流れによるものだ。だからこそ、リリースされてからすでに数え切れないくらいに聴いてきたこの曲が今なお新鮮に聴こえるのである。
長い長い、我々にはこれしかバンドがライブをしてくれることと、ここまでですでに素晴らしいと確信できるライブを見せてくれることへの感謝を伝える術がない、という思いに満ち溢れた、喋り出すまでは止めないというくらいの観客からの拍手の後の卓郎の挨拶的なMCでは、バンドがいろんなことを考えてセトリを組んだということが伝えられるのだが、それは間違いなくこうして9mmにとって特別な日にライブを見にきてくれる観客に最高だと思うくらいに楽しんでもらうためであることがその言葉からも伝わってくる。もちろん自分たちが楽しむためでもあるのだろうけれど。
そうして
「セルフカバーだぜ!」
と言って演奏されたのは、かつて栗山千明に提供した「ルーレットでくちづけを」のカバー。そもそもがファンは当時「9mmそのものじゃん」と思ったくらいに歌謡曲とメタルを融合させたサウンドの曲を有名女優に提供したという時点で9mmの攻めっぷりを示しているのだが、まさかこの曲が今になって聴けるなんてここに来た観客の誰が想像しただろうか。
自分としても当時、栗山千明が浅井健一やヒダカトオル、椎名林檎、いしわたり淳治が作詞作曲に参加しているというロック方面に振り切った歌手活動を展開しており、この曲を含めた提供曲が聴きたいがためにわざわざCDを買っていたということをよく覚えている。栗山千明の出演映画やドラマは申し訳ないことに全く見たことがないけれど。
続いて演奏された曲は、滝がイントロのギターフレーズを弾いた段階では「あれ?この曲なんだっけ?」と思ってしまったのだが、卓郎が歌い始めた瞬間にスピッツのトリビュートアルバム収録の「ロビンソン」のカバーであることがわかる。
世代的にこの曲や「空も飛べるはず」や「チェリー」が大ヒットを連発していた頃をリアルタイムで体験しているだろうし、だからこそ超高速ビートとメタリックなギターという、そりゃあ9mmがカバーしたらこの曲もこうなるだろうというイメージ通りのアレンジになっているのだが、メロディだけは崩すことがないというのが9mmとしてのスピッツへの愛とリスペクトだろうし、卓郎の最後の
「ルララ宇宙の風に乗る」
というファルセットを織り交ぜた、カラオケとかで歌うのが非常に難しいこの曲のフレーズの歌唱の見事さを実感することができる。こうしたボーカリストとしての歌唱の進化に至るまでにはソロで歌謡曲的なサウンドで真っ向から歌モノに挑んだという経験が生きているはず。それがちゃんとバンドに還元されているということがよくわかる。
するとステージ背面には棒状のライトが並び、そのライトも含めて真っ赤な照明がメンバーを照らすのが、かつて本家がこの曲を新曲として演奏していた時にステージ上でパトランプが点灯するという、今では考えにくい演出を行っていたことを思い出す、盟友UNISON SQUARE GARDENのトリビュートに参加した際にカバーした「徹頭徹尾夜な夜なドライブ」。
こちらも、そりゃあ9mmがカバーしたらこうなるだろうというカバーになっているのだが、もはや新たな手数王を襲名できそうなくらいのかみじょうの圧倒的な手数の多さは、ライブで手数を増やしまくる本家の鈴木貴雄へのリスペクトと対抗心を感じさせるのだが、何よりもステージ上をちょこまかと動き回りまくりながらコーラスフレーズを一手に担う滝はギタリスト版田淵智也と言っていいかのようですらある。どちらもバンドでのメインソングライターという立ち位置でもあり、バンド内で最も理解しがたいキャラクターという部分も含め、こうしてライブでカバーしているのを見ると、改めて2人が似ていることに気がつく。この曲も、9mmのカバーも、この曲を生み出したユニゾンも、存在が10点満点である。
イントロで滝が曲のメロディを演奏する「黒い森の旅人」がこの時点で泣けてきてしまうのは、滝がライブに参加できなかった「BABEL」ツアー期においてはそのイントロを、滝の穴をカバーするかのように和彦がベースで演奏していたのを見ていたからであるが、先行シングルだったことや、9mmとしての美メロと激しい衝動的なサウンドの融合という意味ではこの日のテーマでもある「Dawning」を象徴する曲と言える。
決してメタル的な激しさではないというか、むしろギターの轟音すらもメロディの美しさを生かすように響く曲であるが、そんな曲でも最後のサビではかみじょうがスティックを思いっきり振り下ろすように力強く叩く。かみじょうはどんなに激しい演奏をしてもクールな表情は変わらないけれど、その叩いている姿からは、俺たちが1番カッコいいってことを証明してやるとでもいうような気合いを感じさせてくれる。9mmのライブを見るとライブ後や翌日に首が痛くなるくらいに頭が動いてしまうのは、かみじょうのその気迫のこもったドラムに肉体も精神も反応せざるを得ないからだろう。
するとここで卓郎がすでに夏にリリースされるアルバムに入れる曲が出揃っており、後はレコーディングするだけという状況にまで来ていること、9月9日からそのアルバムのリリースツアーを行うことを発表する。
まだアルバムタイトルこそ未定ということだが、そのアルバムに収録されるという新曲の一つとして、まずはインスト曲が演奏される。近年もこれぞ9mmのインスト曲という爆裂系の「Blazing Soul」「Burning Blood」というインスト曲を生み出しているが、この新曲は滝と卓郎のギターがイントロからハモることによって、卓郎のギタリストとしてのレベルの高さを感じさせつつ、ヘアメタルというか、V系バンドのメタルの解釈というようなギターのサウンドになっている。この辺りはLUNA SEAや筋肉少女帯、X JAPANというバンドたちからの影響も色濃い9mmならではであるが、卓郎は普通にコーラスを口ずさんでいるというのがこれまでのインスト曲とは異なる部分であるとも言える。つまりは同じことやってもしょうがないだろうということである。
さらには先月の新宿BLAZEでも演奏されていた、9mmらしいサウンドの新曲も演奏されるのだが、EX THEATERはそれぞれの音が実に聴こえやすい会場であるだけに、
「One More Timeじゃ終われない」
などの歌詞もハッキリと聞き取ることができるこの曲のタイトルはそのまま「One More Time」であり、昨年の9月9日のライブで披露された時よりもダンサブルに感じるのは、昨年解散を発表した同タイトルの大ヒット曲を持つフランスのユニット、Daft Punkへの9mmとしての回答だったりするのだろうか。
さらには一転してバラードと言っていい、「別れの季節でした」「桜」などの情景がイメージできるフレーズがしっかり聞き取れる「淡雪」も新曲として披露される。この曲も新宿BLAZEですでに演奏されていた曲であるが、蒼さを強く感じさせながらも、照明は青だけではなく赤くもなる部分があったり、てっきり桜にちなんだタイトルになるのかと思ったら雪を冠したタイトルだったりと、ある意味J-POPの常套句的な単語が並ぶ歌詞でもあるのだが、やはりそこは9mmであるだけにそんなにストレートなものにはならないということだろう。
そんな新曲たちの後には、またここから戦闘開始というようなイメージを与えてくれるイントロによる「Caution!!」から再び「Dawning」のゾーンへと戻っていくのであるが、まさかこの曲が今になって聴けるとは。その音がぶつかり合うようなイントロも含めて、トリプルギターの迫力が遺憾なく発揮されている曲だと言える。
すると再び「淡雪」のような静謐とした空気の中で演奏されたのは、「Answer and Answer」のカップリング曲という意味では「Dawning」期の曲である「Snow Plants」であり、さらには紫色の照明がメンバーを照らす「コスモス」と、まさかのレア曲が連発されていくのだが、
「ひらひらと はらはらと 雪の花びらよ」
「コスモスの花が今年も咲きました
トンネルを抜けたそこには一面秋の桜」
という、季節感はまるで違えど、花をテーマにした抒情的な歌詞という意味では一貫したものである。それが「淡雪」に繋がっているという意味での選曲でもあったのかもしれないが、「コスモス」は本当に「Dawning」リリース時以来の選曲なんじゃないだろうかと思う。9mmとしては削ぎ落としたと言えるようなサウンドであるために、3人のギターがそれぞれどの音を鳴らしているのかというのが実によくわかる曲である。
そんなあまりの懐かしさの後に演奏されたのは、リリースされている曲としては最新のものになる轟音バラードの「泡沫」であるが、
「どこまでも沈めてくれ 戻れなくても構わないから」
という歌詞がこんなにもこの日の状況にハマっているのは、まさにステージに向かって沈んでいくかのようなこの会場の造りはもちろんのこと、ここまでのレア曲連発っぷりに、我々観客はもう完全に9mmという名の沼に沈んでしまっているからだ。それでももっといろんな曲が聴きたい、もっとこの沼に沈めて欲しい。そんな我々の気持ちがそのまま歌詞となって響いているかのようだった。
ここまでは予期せぬというか、次に何の曲が演奏されるのか全くわからない中で次々にレア曲が演奏されてきたわけだが、この次の曲がなんであるかというのはスタッフが和彦にウッドベースを渡して時点で誰もがすぐにわかっていた。
その「キャンドルの灯」でのオシャレなライブアレンジによるイントロからのトリプルギターのハモりをリードするのは滝であるが、その姿は一時の腕の不調から完全復活したと言ってもいいだろうというくらいに動きも軽やかだ。逆に滝の不在時に滝の代わりは誰にも務まらないということがわかっただけに、こうして最高のパフォーマンスを見せてくれていることが9mmらしさにつながっていることがわかるのだ。
するとここで機材を交換したりする間に卓郎が口を開く。
「俺も沈むことがあって。今の世界の状況のこととか。まぁ世界はずっと前からそんな感じだけど。
でもこうして今日みんなに会えて、こうしてライブをやっていると、音楽の力ってやっぱり凄いなって思う」
これまでにも震災や原発事故、北海道での大きな地震など。9mmはそうした災害が起こった時に自分たちの言葉と行動を起こして、被害に遭われた人の力になろうとしてきた。それは9mmの鳴らしているサウンドが凶暴的と言えるくらいの轟音でありながらも全く煩さ痛さを感じない、むしろ人間らしさや温かさ、優しさを感じさせることにそのまま直結している。以前、滝に偶然駅で遭遇して話しかけた時だって、本当にニコニコとして朗らかに話をしてくれた。そうしたこのメンバーだからこその優しさが9mmの音楽や鳴らしている音からは滲み出ているし、そうして優しいからこそ、今の世界で起こっている状況を見ては傷ついてしまう。
そうした状況を音楽で直接的にどうこうできることはないのかもしれない。でもそうした状況になってしまった時に真っ先に生活からなくなってしまうのは音楽であり、エンタメだろう。それを自分たちが今もこうして享受できているということ。それによって「生きていて良かった」と思えて、それをこれからも何回だって生き延びて実感したいと思えること。その一人一人の感情がもしかしたら命がなくなっていく状況を変えることに繋がるかもしれない。それに改めて気付くことができるということだって間違いなく音楽の力だ。
そんな9mmとしての音楽の力を最大限に示すように、和彦が思いっきり両手を広げて演奏されたのは「太陽が欲しいだけ」で、卓郎も
「さあ両手を広げて すべてを受け止めろ」
というフレーズに先駆けるように両手を頭上に伸ばす。その瞳の奥には確かに太陽が宿っているというくらいの笑顔と滝も前に出てきてギターを弾きまくる姿に、観客もガンガン腕を振り上げて応える。
そのまま滝があの激しく唸りまくるようなイントロのギターを炸裂させる「Living Dying Message」へと繋がるのだが、この曲の
「あなたは二度と孤独になれない
いつか必ずわかる日が来るよ」
というフレーズがこんなにも響いたことが今まであっただろうかと思うのは、直前に卓郎のMCがあったからだ。この音楽が、このバンドが、ライブがあればもう孤独だと感じることはない。それが過去最高にわかったのがこの日だったのだ。和彦のスクリームも含めて、そんなメッセージも内包しながらバンドの演奏はクライマックスに向けてさらに凄まじさを増していく。
それが極まるのはかみじょうの高速ツーバスのリズムが観客の体を揺さぶる「新しい光」で、卓郎、滝、和彦の3人はイントロで早くもステージ前に出てきてキメ部分でネックを立てるようにポーズを決める。その後ろであくまでもその3人が主役ですというように控えめに決める武田の存在ももちろんもはやバンドには欠かせないものであるが、それを示すかのようにアウトロでの同様のキメではステージで最前で卓郎と滝が向かい合うようにしてネックを立て、その後ろでは和彦と武田が向かい合うようにしてネックを立てる。それはこの日のライブが5人編成だからこそ見ることができたものであり、この編成になってからも数え切れないくらいにライブをしてきた、この5人のバンドとしての大きな塊としての一体感を強く感じさせてくれる。
そんなライブの締めを担うのは、「Dawning」版「Punishment」とでもいうような「The Silence」。卓郎のボーカルもバンドの演奏もここへ来て最大の激しさを見せるのだが、むしろそうでもしないと成立させられないような曲であり、滝はギターをバットやラケットの類のようにブンブン振り回しながらステージ上を暴れ回っている。それこそが9mmだよな、と思いつつ、
「俺を連れ出すのか もう二度と戻れない場所へと」
というまさにカオスそのもののような轟音吹き荒ぶ締めのフレーズを聴いて、9mmのライブが終わった時の、両手を掲げてガッツポーズをせざるを得ないくらいの爽快感を感じるような、もう二度と戻れない場所まで自分は連れ出されているんだなというようなことを思っていた。
いつも通りに丁寧に観客に頭を下げたりする卓郎の姿の後に、かなり長い時間の後にアンコールで再び武田も含めた5人がステージに登場。それは体力回復という意味はもちろんだが、このアンコール待ちのタイミングで正式に9月9日からツアーが始まるという情報が解禁になったということも関係していると思われる。
ここで卓郎が、
「9年前に「Dawning」のエクストラワンマンをやった会場がここっていうことで「Dawning」攻めのセトリになりましたが、「あの曲はやってない」っていうのはナシで(笑)」
と改めてセトリの種明かしをしたのだが、確かに「Dawning」からなら「Grasshopper」や「シベリアンバード」が聴きたいという人もいただろう。
それくらいに「Dawning」が人気があるアルバムたり得ているのは、「Movement」というどこか捉え所のないアルバムの後に、9mmが9mmを再定義するかのようなアルバムだったからだ。それまでの9mmらしい要素を随所に散りばめながら(それこそ「The Silence」の「Punishment」感含めて)、進化した9mmだからこそのアルバムというか。
そんな卓郎は
「俺たち結成18年目らしいです!これからもよろしくお願いします!」
と、もうそんなに経つのか…と改めて長くなったバンドの歴史を感じさせるような言葉を口にすると、キッズそのもののような滝のギターを弾く姿が良い意味で全くそうしたベテラン感を感じさせない「ハートに火をつけて」では
「一人ではふさげない」
のサビ前のフレーズを卓郎が叫ぶようにして歌う。それはこの日に至るまでに抱えてきた思いから解放されるかのようですらあったのだが、その後に歌詞を「EX THEATER」という文字数が多くて言いづらい会場名に変えて歌うのがいつもながらに「今、ここ」を確かに感じさせてくれる。ベテランになって落ち着くみたいな発想はやっぱり9mmには全くない。ただひたすらにぶっ飛ばすような音を好きなように発しまくる。その姿が本当に痛快で、自分もそんな大人であり続けたいなと思うのだ。
そんなライブを締めるのはやはり「Punishment」であるのだが、本編で「The Silence」を演奏しているだけに、るろうに剣心の「九頭龍閃」を本編で食らってから、アンコールでさらに「天翔龍閃」を食らうような見事なノックアウトっぷり。滝はもちろん、和彦もベースをブンブン振り回すようにして最後に最大のカオスを生み出すと、滝が真っ先にステージから去っていく中で、自身のエフェクターを操作して残響を効果音的に変える卓郎の姿を、
「何してんのこの人(笑)」
とでも言うように笑いながら指さす和彦の表情がこの日のライブがどんなものだったのか、今の9mmというバンドの状態がどんなものなのかということを物語っていた。卓郎はおなじみの観客とともにバンザイを繰り返していたが、声が全く発せられずに観客が両腕を上げたり下げたりする様はやはり実にシュールだ。早く、そのシュールな光景が普通のものに戻りますように。それが9月9日から始まるツアーからだったら本当に幸せだなと思っていた。
9mmは昔から、場所や対バン相手などによってセトリをガラッと変えるバンドだった。滝の離脱中こそなかなかそうは出来なかったけれど、そうして毎回全く違う内容の、でもそこにはちゃんとそのセトリを組んだ理由が見えるライブを見せてくれたからこそ、何度ライブを見ても全く飽きることがなかった。いつだって「今日はどんなセトリだろうか」とワクワクしていた。
その感覚は18年目の今になってより極まってきている。ライブの数日前にメンバーが生配信のトークをしてより楽しみを煽るというのも含めて、今の9mmはきっとメンバー全員で
「今この曲とか、このアルバムやったら楽しくない?みんな驚くでしょ」
なんて話をしながらライブの内容を決めているのだろう。それはメンバー自身が楽しむためでもありながらも、一切媚びるという感覚を感じさせることなく、我々観客を最大限に楽しませようとしてくれている。
それは間違いなく9月から始まるツアー以降もそう思わせてくれるはずだし、ライブに来る観客はみんなそれを楽しみにしている。気が早いけれど、来年のこの日はどこでどんな内容のライブを見せてくれるのか。必ずこの日になれば会えるというだけでも嬉しいのに、そうしたメンバーの想いが伝わるようなライブが見れるというのがより一層嬉しくなる。
だからこそ、今年はまだ完全に戻ってきたとは言えなかったくらいの本数しかライブが見れなかった去年以上にいろんな場所で、生き延びて会いましょう。
1.The Lightning
2.Answer and Answer
3.Zero Gravity
4.名もなきヒーロー
5.ルーレットでくちづけを
6.ロビンソン
7.徹頭徹尾夜な夜なドライブ
8.黒い森の旅人
9.新曲 (インスト)
10.One More Time (新曲)
11.淡雪 (新曲)
12.Caution!!
13.Snow Plants
14.コスモス
15.泡沫
16.キャンドルの灯を
17.太陽が欲しいだけ
18.Living Dying Message
19.新しい光
20.The Silence
encore
21.ハートに火をつけて
22.Punishment
ツアーとはまた違う自主企画ライブである「カオスの百年」ももう16回目であるが、すでに先月の新宿BLAZEでの新アー写撮影も含めたフロアライブにおいて来るべきアルバムに収録される新曲も披露されており、その新曲も含めた新たなモードが見れるんじゃないかという期待も高まる。
9mmとしては久しぶりな気がするEX THEATERは全席椅子席の指定席というスタンディングよりもキャパを抑えた形ではあるのだが、かつてこの会場がオープンしたばかりの頃にワンマンを行った時にはチケットが売り切れていなかったため、今でも変わらない根強い9mmの人気と、この特別なライブになる日への期待の高さを感じさせる。
開演時間の19時になると、急に場内が暗転してSEの「Digital Hardcore」が流れ、ステージ背面にバンドロゴが迫り上がってくると、メンバーがステージに現れる。この日は武田将幸(HERE)をサポートギターに加えた5人編成というのは新宿BLAZEでのライブの時と異なっているが、菅原卓郎(ボーカル&ギター)はどこか髪型がサッパリしたように見えるのだが、中村和彦(ベース)は長くなり過ぎた髪を最初から結いており、その結いた部分も長くなり過ぎてもはや将軍のような感すらある。滝善充(ギター)はいつものように半袖Tシャツに短パンというキッズのようにすら見えるスタイルで、かみじょうちひろのドラムセットはライザーが高いだけに、客席後方からステージの方に向かって低くなっていくというステージが見やすいEX THEATERの形状も含めて、よりそのセットや姿が見やすくなっている。
「9mm Parabellum Bulletです」
とおなじみの挨拶を卓郎がした時にはもう全てと言っていいくらいの観客は立ち上がっていたのだが、その観客の熱量をさらに燃え上がらせるかのように、2013年リリースの傑作アルバム「Dawning」の1曲目に収録されている「The Lightning」からスタートし、まさに生きる稲妻というかのように滝は早くもステージを走り回り、間奏のソロではお立ち台に立ってギターを弾きまくる。まさに
「頭から爪先へ 走り抜けたライトニング」
というフレーズ通りに体内を走り抜けていく轟音が初っ端から鳴らされ、「ファンの代表としてステージに立っている男」こと武田も実に楽しそうな笑顔を浮かべながら腕を頭上に伸ばし、卓郎も笑顔で手拍子を煽る。その姿からはバンド全員がこうしてこの日にここで会えたことの喜びを炸裂させているかのようだ。
さらに滝のギターが重く鳴り響くイントロによる「Answer and Answer」と重量級と言える曲が続き、観客はイントロから腕を振り上げまくる。未だに声を出すことは叶わないけれど、全員が「オイ!オイ!」と野太い声をあげながら腕を振り上げているように見えるのは、数え切れないくらいに見てきた、この曲でのそのライブの景色が脳内に焼き付いているからだろう。和彦も髪を結いているからこそ、手拍子を煽る表情が満たされているものであることがよくわかる。
さらには「Zero Gravity」というレア曲が続いたことによって自分はこの日はかつてこの会場でワンマンをやった時が「Dawning」のリリースタイミングであったことを思い出したのだが、きっとほとんどの人がこのあたりでこの日のセトリの特殊性とコンセプトを理解したことだろう。滝の手拍子を煽るのも「この曲のここで!?」というくらいに独特なのだが、それは
「身体をリズムにゆだねて ゼロからはじめる
そう 君と僕が踊れば 世界がはじまる」
という「リズム」というフレーズがある通りに、この曲がかみじょう作詞作曲による曲だからこそのリズム感もあるのだろう。前の2曲が滝のギターが前面に出まくっていただけに、その祭囃子感すら感じるダンサブルなリズムはソングライターが違うことによって曲の構造が全く違うという、9mmというバンドの面白さを味合わせてくれる。かみじょうも和彦も、リズム隊が作曲した曲は一聴してそれとわかるくらいにソングライターの音楽性だけではなく、人間性までもが強く表出している。
そのまま「Dawning」モードで突っ走るのかと思いきや、滝がお立ち台の上に立ってギターを弾きまくるのは近年のライブでは欠かせない存在の曲になっている「名もなきヒーロー」であるが、ここまでの「Dawning」の3曲に比べると曲が長尺に感じる。(「Answer and Answer」とはほとんど変わらないけれど、「The Lightning」と「Zero Gravity」よりは全然長い)
それは、年月を経たことはもちろん、この曲を生み出した時に卓郎が、9mmが聴き手に伝えたいことが明確にあって、それを可能な限り曲に落とし込んだ結果として今までの曲からしたら長いものになったということなのだろうというのがわかるのが、こうして過去の曲の後に演奏されるというセトリの流れによるものだ。だからこそ、リリースされてからすでに数え切れないくらいに聴いてきたこの曲が今なお新鮮に聴こえるのである。
長い長い、我々にはこれしかバンドがライブをしてくれることと、ここまでですでに素晴らしいと確信できるライブを見せてくれることへの感謝を伝える術がない、という思いに満ち溢れた、喋り出すまでは止めないというくらいの観客からの拍手の後の卓郎の挨拶的なMCでは、バンドがいろんなことを考えてセトリを組んだということが伝えられるのだが、それは間違いなくこうして9mmにとって特別な日にライブを見にきてくれる観客に最高だと思うくらいに楽しんでもらうためであることがその言葉からも伝わってくる。もちろん自分たちが楽しむためでもあるのだろうけれど。
そうして
「セルフカバーだぜ!」
と言って演奏されたのは、かつて栗山千明に提供した「ルーレットでくちづけを」のカバー。そもそもがファンは当時「9mmそのものじゃん」と思ったくらいに歌謡曲とメタルを融合させたサウンドの曲を有名女優に提供したという時点で9mmの攻めっぷりを示しているのだが、まさかこの曲が今になって聴けるなんてここに来た観客の誰が想像しただろうか。
自分としても当時、栗山千明が浅井健一やヒダカトオル、椎名林檎、いしわたり淳治が作詞作曲に参加しているというロック方面に振り切った歌手活動を展開しており、この曲を含めた提供曲が聴きたいがためにわざわざCDを買っていたということをよく覚えている。栗山千明の出演映画やドラマは申し訳ないことに全く見たことがないけれど。
続いて演奏された曲は、滝がイントロのギターフレーズを弾いた段階では「あれ?この曲なんだっけ?」と思ってしまったのだが、卓郎が歌い始めた瞬間にスピッツのトリビュートアルバム収録の「ロビンソン」のカバーであることがわかる。
世代的にこの曲や「空も飛べるはず」や「チェリー」が大ヒットを連発していた頃をリアルタイムで体験しているだろうし、だからこそ超高速ビートとメタリックなギターという、そりゃあ9mmがカバーしたらこの曲もこうなるだろうというイメージ通りのアレンジになっているのだが、メロディだけは崩すことがないというのが9mmとしてのスピッツへの愛とリスペクトだろうし、卓郎の最後の
「ルララ宇宙の風に乗る」
というファルセットを織り交ぜた、カラオケとかで歌うのが非常に難しいこの曲のフレーズの歌唱の見事さを実感することができる。こうしたボーカリストとしての歌唱の進化に至るまでにはソロで歌謡曲的なサウンドで真っ向から歌モノに挑んだという経験が生きているはず。それがちゃんとバンドに還元されているということがよくわかる。
するとステージ背面には棒状のライトが並び、そのライトも含めて真っ赤な照明がメンバーを照らすのが、かつて本家がこの曲を新曲として演奏していた時にステージ上でパトランプが点灯するという、今では考えにくい演出を行っていたことを思い出す、盟友UNISON SQUARE GARDENのトリビュートに参加した際にカバーした「徹頭徹尾夜な夜なドライブ」。
こちらも、そりゃあ9mmがカバーしたらこうなるだろうというカバーになっているのだが、もはや新たな手数王を襲名できそうなくらいのかみじょうの圧倒的な手数の多さは、ライブで手数を増やしまくる本家の鈴木貴雄へのリスペクトと対抗心を感じさせるのだが、何よりもステージ上をちょこまかと動き回りまくりながらコーラスフレーズを一手に担う滝はギタリスト版田淵智也と言っていいかのようですらある。どちらもバンドでのメインソングライターという立ち位置でもあり、バンド内で最も理解しがたいキャラクターという部分も含め、こうしてライブでカバーしているのを見ると、改めて2人が似ていることに気がつく。この曲も、9mmのカバーも、この曲を生み出したユニゾンも、存在が10点満点である。
イントロで滝が曲のメロディを演奏する「黒い森の旅人」がこの時点で泣けてきてしまうのは、滝がライブに参加できなかった「BABEL」ツアー期においてはそのイントロを、滝の穴をカバーするかのように和彦がベースで演奏していたのを見ていたからであるが、先行シングルだったことや、9mmとしての美メロと激しい衝動的なサウンドの融合という意味ではこの日のテーマでもある「Dawning」を象徴する曲と言える。
決してメタル的な激しさではないというか、むしろギターの轟音すらもメロディの美しさを生かすように響く曲であるが、そんな曲でも最後のサビではかみじょうがスティックを思いっきり振り下ろすように力強く叩く。かみじょうはどんなに激しい演奏をしてもクールな表情は変わらないけれど、その叩いている姿からは、俺たちが1番カッコいいってことを証明してやるとでもいうような気合いを感じさせてくれる。9mmのライブを見るとライブ後や翌日に首が痛くなるくらいに頭が動いてしまうのは、かみじょうのその気迫のこもったドラムに肉体も精神も反応せざるを得ないからだろう。
するとここで卓郎がすでに夏にリリースされるアルバムに入れる曲が出揃っており、後はレコーディングするだけという状況にまで来ていること、9月9日からそのアルバムのリリースツアーを行うことを発表する。
まだアルバムタイトルこそ未定ということだが、そのアルバムに収録されるという新曲の一つとして、まずはインスト曲が演奏される。近年もこれぞ9mmのインスト曲という爆裂系の「Blazing Soul」「Burning Blood」というインスト曲を生み出しているが、この新曲は滝と卓郎のギターがイントロからハモることによって、卓郎のギタリストとしてのレベルの高さを感じさせつつ、ヘアメタルというか、V系バンドのメタルの解釈というようなギターのサウンドになっている。この辺りはLUNA SEAや筋肉少女帯、X JAPANというバンドたちからの影響も色濃い9mmならではであるが、卓郎は普通にコーラスを口ずさんでいるというのがこれまでのインスト曲とは異なる部分であるとも言える。つまりは同じことやってもしょうがないだろうということである。
さらには先月の新宿BLAZEでも演奏されていた、9mmらしいサウンドの新曲も演奏されるのだが、EX THEATERはそれぞれの音が実に聴こえやすい会場であるだけに、
「One More Timeじゃ終われない」
などの歌詞もハッキリと聞き取ることができるこの曲のタイトルはそのまま「One More Time」であり、昨年の9月9日のライブで披露された時よりもダンサブルに感じるのは、昨年解散を発表した同タイトルの大ヒット曲を持つフランスのユニット、Daft Punkへの9mmとしての回答だったりするのだろうか。
さらには一転してバラードと言っていい、「別れの季節でした」「桜」などの情景がイメージできるフレーズがしっかり聞き取れる「淡雪」も新曲として披露される。この曲も新宿BLAZEですでに演奏されていた曲であるが、蒼さを強く感じさせながらも、照明は青だけではなく赤くもなる部分があったり、てっきり桜にちなんだタイトルになるのかと思ったら雪を冠したタイトルだったりと、ある意味J-POPの常套句的な単語が並ぶ歌詞でもあるのだが、やはりそこは9mmであるだけにそんなにストレートなものにはならないということだろう。
そんな新曲たちの後には、またここから戦闘開始というようなイメージを与えてくれるイントロによる「Caution!!」から再び「Dawning」のゾーンへと戻っていくのであるが、まさかこの曲が今になって聴けるとは。その音がぶつかり合うようなイントロも含めて、トリプルギターの迫力が遺憾なく発揮されている曲だと言える。
すると再び「淡雪」のような静謐とした空気の中で演奏されたのは、「Answer and Answer」のカップリング曲という意味では「Dawning」期の曲である「Snow Plants」であり、さらには紫色の照明がメンバーを照らす「コスモス」と、まさかのレア曲が連発されていくのだが、
「ひらひらと はらはらと 雪の花びらよ」
「コスモスの花が今年も咲きました
トンネルを抜けたそこには一面秋の桜」
という、季節感はまるで違えど、花をテーマにした抒情的な歌詞という意味では一貫したものである。それが「淡雪」に繋がっているという意味での選曲でもあったのかもしれないが、「コスモス」は本当に「Dawning」リリース時以来の選曲なんじゃないだろうかと思う。9mmとしては削ぎ落としたと言えるようなサウンドであるために、3人のギターがそれぞれどの音を鳴らしているのかというのが実によくわかる曲である。
そんなあまりの懐かしさの後に演奏されたのは、リリースされている曲としては最新のものになる轟音バラードの「泡沫」であるが、
「どこまでも沈めてくれ 戻れなくても構わないから」
という歌詞がこんなにもこの日の状況にハマっているのは、まさにステージに向かって沈んでいくかのようなこの会場の造りはもちろんのこと、ここまでのレア曲連発っぷりに、我々観客はもう完全に9mmという名の沼に沈んでしまっているからだ。それでももっといろんな曲が聴きたい、もっとこの沼に沈めて欲しい。そんな我々の気持ちがそのまま歌詞となって響いているかのようだった。
ここまでは予期せぬというか、次に何の曲が演奏されるのか全くわからない中で次々にレア曲が演奏されてきたわけだが、この次の曲がなんであるかというのはスタッフが和彦にウッドベースを渡して時点で誰もがすぐにわかっていた。
その「キャンドルの灯」でのオシャレなライブアレンジによるイントロからのトリプルギターのハモりをリードするのは滝であるが、その姿は一時の腕の不調から完全復活したと言ってもいいだろうというくらいに動きも軽やかだ。逆に滝の不在時に滝の代わりは誰にも務まらないということがわかっただけに、こうして最高のパフォーマンスを見せてくれていることが9mmらしさにつながっていることがわかるのだ。
するとここで機材を交換したりする間に卓郎が口を開く。
「俺も沈むことがあって。今の世界の状況のこととか。まぁ世界はずっと前からそんな感じだけど。
でもこうして今日みんなに会えて、こうしてライブをやっていると、音楽の力ってやっぱり凄いなって思う」
これまでにも震災や原発事故、北海道での大きな地震など。9mmはそうした災害が起こった時に自分たちの言葉と行動を起こして、被害に遭われた人の力になろうとしてきた。それは9mmの鳴らしているサウンドが凶暴的と言えるくらいの轟音でありながらも全く煩さ痛さを感じない、むしろ人間らしさや温かさ、優しさを感じさせることにそのまま直結している。以前、滝に偶然駅で遭遇して話しかけた時だって、本当にニコニコとして朗らかに話をしてくれた。そうしたこのメンバーだからこその優しさが9mmの音楽や鳴らしている音からは滲み出ているし、そうして優しいからこそ、今の世界で起こっている状況を見ては傷ついてしまう。
そうした状況を音楽で直接的にどうこうできることはないのかもしれない。でもそうした状況になってしまった時に真っ先に生活からなくなってしまうのは音楽であり、エンタメだろう。それを自分たちが今もこうして享受できているということ。それによって「生きていて良かった」と思えて、それをこれからも何回だって生き延びて実感したいと思えること。その一人一人の感情がもしかしたら命がなくなっていく状況を変えることに繋がるかもしれない。それに改めて気付くことができるということだって間違いなく音楽の力だ。
そんな9mmとしての音楽の力を最大限に示すように、和彦が思いっきり両手を広げて演奏されたのは「太陽が欲しいだけ」で、卓郎も
「さあ両手を広げて すべてを受け止めろ」
というフレーズに先駆けるように両手を頭上に伸ばす。その瞳の奥には確かに太陽が宿っているというくらいの笑顔と滝も前に出てきてギターを弾きまくる姿に、観客もガンガン腕を振り上げて応える。
そのまま滝があの激しく唸りまくるようなイントロのギターを炸裂させる「Living Dying Message」へと繋がるのだが、この曲の
「あなたは二度と孤独になれない
いつか必ずわかる日が来るよ」
というフレーズがこんなにも響いたことが今まであっただろうかと思うのは、直前に卓郎のMCがあったからだ。この音楽が、このバンドが、ライブがあればもう孤独だと感じることはない。それが過去最高にわかったのがこの日だったのだ。和彦のスクリームも含めて、そんなメッセージも内包しながらバンドの演奏はクライマックスに向けてさらに凄まじさを増していく。
それが極まるのはかみじょうの高速ツーバスのリズムが観客の体を揺さぶる「新しい光」で、卓郎、滝、和彦の3人はイントロで早くもステージ前に出てきてキメ部分でネックを立てるようにポーズを決める。その後ろであくまでもその3人が主役ですというように控えめに決める武田の存在ももちろんもはやバンドには欠かせないものであるが、それを示すかのようにアウトロでの同様のキメではステージで最前で卓郎と滝が向かい合うようにしてネックを立て、その後ろでは和彦と武田が向かい合うようにしてネックを立てる。それはこの日のライブが5人編成だからこそ見ることができたものであり、この編成になってからも数え切れないくらいにライブをしてきた、この5人のバンドとしての大きな塊としての一体感を強く感じさせてくれる。
そんなライブの締めを担うのは、「Dawning」版「Punishment」とでもいうような「The Silence」。卓郎のボーカルもバンドの演奏もここへ来て最大の激しさを見せるのだが、むしろそうでもしないと成立させられないような曲であり、滝はギターをバットやラケットの類のようにブンブン振り回しながらステージ上を暴れ回っている。それこそが9mmだよな、と思いつつ、
「俺を連れ出すのか もう二度と戻れない場所へと」
というまさにカオスそのもののような轟音吹き荒ぶ締めのフレーズを聴いて、9mmのライブが終わった時の、両手を掲げてガッツポーズをせざるを得ないくらいの爽快感を感じるような、もう二度と戻れない場所まで自分は連れ出されているんだなというようなことを思っていた。
いつも通りに丁寧に観客に頭を下げたりする卓郎の姿の後に、かなり長い時間の後にアンコールで再び武田も含めた5人がステージに登場。それは体力回復という意味はもちろんだが、このアンコール待ちのタイミングで正式に9月9日からツアーが始まるという情報が解禁になったということも関係していると思われる。
ここで卓郎が、
「9年前に「Dawning」のエクストラワンマンをやった会場がここっていうことで「Dawning」攻めのセトリになりましたが、「あの曲はやってない」っていうのはナシで(笑)」
と改めてセトリの種明かしをしたのだが、確かに「Dawning」からなら「Grasshopper」や「シベリアンバード」が聴きたいという人もいただろう。
それくらいに「Dawning」が人気があるアルバムたり得ているのは、「Movement」というどこか捉え所のないアルバムの後に、9mmが9mmを再定義するかのようなアルバムだったからだ。それまでの9mmらしい要素を随所に散りばめながら(それこそ「The Silence」の「Punishment」感含めて)、進化した9mmだからこそのアルバムというか。
そんな卓郎は
「俺たち結成18年目らしいです!これからもよろしくお願いします!」
と、もうそんなに経つのか…と改めて長くなったバンドの歴史を感じさせるような言葉を口にすると、キッズそのもののような滝のギターを弾く姿が良い意味で全くそうしたベテラン感を感じさせない「ハートに火をつけて」では
「一人ではふさげない」
のサビ前のフレーズを卓郎が叫ぶようにして歌う。それはこの日に至るまでに抱えてきた思いから解放されるかのようですらあったのだが、その後に歌詞を「EX THEATER」という文字数が多くて言いづらい会場名に変えて歌うのがいつもながらに「今、ここ」を確かに感じさせてくれる。ベテランになって落ち着くみたいな発想はやっぱり9mmには全くない。ただひたすらにぶっ飛ばすような音を好きなように発しまくる。その姿が本当に痛快で、自分もそんな大人であり続けたいなと思うのだ。
そんなライブを締めるのはやはり「Punishment」であるのだが、本編で「The Silence」を演奏しているだけに、るろうに剣心の「九頭龍閃」を本編で食らってから、アンコールでさらに「天翔龍閃」を食らうような見事なノックアウトっぷり。滝はもちろん、和彦もベースをブンブン振り回すようにして最後に最大のカオスを生み出すと、滝が真っ先にステージから去っていく中で、自身のエフェクターを操作して残響を効果音的に変える卓郎の姿を、
「何してんのこの人(笑)」
とでも言うように笑いながら指さす和彦の表情がこの日のライブがどんなものだったのか、今の9mmというバンドの状態がどんなものなのかということを物語っていた。卓郎はおなじみの観客とともにバンザイを繰り返していたが、声が全く発せられずに観客が両腕を上げたり下げたりする様はやはり実にシュールだ。早く、そのシュールな光景が普通のものに戻りますように。それが9月9日から始まるツアーからだったら本当に幸せだなと思っていた。
9mmは昔から、場所や対バン相手などによってセトリをガラッと変えるバンドだった。滝の離脱中こそなかなかそうは出来なかったけれど、そうして毎回全く違う内容の、でもそこにはちゃんとそのセトリを組んだ理由が見えるライブを見せてくれたからこそ、何度ライブを見ても全く飽きることがなかった。いつだって「今日はどんなセトリだろうか」とワクワクしていた。
その感覚は18年目の今になってより極まってきている。ライブの数日前にメンバーが生配信のトークをしてより楽しみを煽るというのも含めて、今の9mmはきっとメンバー全員で
「今この曲とか、このアルバムやったら楽しくない?みんな驚くでしょ」
なんて話をしながらライブの内容を決めているのだろう。それはメンバー自身が楽しむためでもありながらも、一切媚びるという感覚を感じさせることなく、我々観客を最大限に楽しませようとしてくれている。
それは間違いなく9月から始まるツアー以降もそう思わせてくれるはずだし、ライブに来る観客はみんなそれを楽しみにしている。気が早いけれど、来年のこの日はどこでどんな内容のライブを見せてくれるのか。必ずこの日になれば会えるというだけでも嬉しいのに、そうしたメンバーの想いが伝わるようなライブが見れるというのがより一層嬉しくなる。
だからこそ、今年はまだ完全に戻ってきたとは言えなかったくらいの本数しかライブが見れなかった去年以上にいろんな場所で、生き延びて会いましょう。
1.The Lightning
2.Answer and Answer
3.Zero Gravity
4.名もなきヒーロー
5.ルーレットでくちづけを
6.ロビンソン
7.徹頭徹尾夜な夜なドライブ
8.黒い森の旅人
9.新曲 (インスト)
10.One More Time (新曲)
11.淡雪 (新曲)
12.Caution!!
13.Snow Plants
14.コスモス
15.泡沫
16.キャンドルの灯を
17.太陽が欲しいだけ
18.Living Dying Message
19.新しい光
20.The Silence
encore
21.ハートに火をつけて
22.Punishment
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