ヤバイTシャツ屋さん "Tank-top of the DVD IV TOUR 2022" @Zepp Haneda 3/10
- 2022/03/11
- 12:01
まだ大規模なツアーがほとんど行われていなかった中での、ヤバイTシャツ屋さんによるツアー、しかもZepp Tokyoでの5days 10公演という伝説の日々を収録した映像作品のリリースは、「ツアーの映像作品をリリースして、そのリリースツアーを行う」という、もはやロックバンド、ライブバンドの永久機関とでも呼ぶべきヤバTの生き様を示すものとなった。
そのリリースツアーは基本的には各会場でワンマンと対バンの2daysという内容で、そこには昨年は出来なかった対バンという文化をヤバTが取り戻そうとしている意思を感じさせるのだが、対バンアーティストのコロナ感染によるキャンセル(出演キャンセルになったライブはヤバTのワンマンになった)やしばたありぼぼ(ベース)が慢性的に抱える体調不良、札幌での記録的な豪雪などの様々な出来事を乗り越えて、この日のZepp Hanedaでの2daysの2日目がファイナルとなる。
しかしながらこの日の対バン相手である瑛人もまたコロナ感染によって出演キャンセルとなり、結果的にはファイナルがワンマン2daysに。なかなか瑛人のライブを見れる機会もないな、と思っていたのだが、まさか見れなくなってしまうとは。そんな時にすぐさまワンマンにできるのもまたヤバTのライブバンドとしての地力の強さである。
検温と消毒を経てZepp Hanedaの中に入ると、客席は足元にマークが記されているというスタンディング制。すでにこのZepp Hanedaもオープンしてから数え切れないくらいに来ているが、先月のフレデリックのツアーのようにようやくスタンディングで出来る様になってきたんだなと思う。
GOOD4NOTHING「It's My Paradise」から坂本真綾「プラチナ」という、実にヤバTらしい選曲のBGMが流れる中で開演時間の18時(対バンのはずだった時間設定のままでのワンマンだからこその早さ)に場内が暗転すると、おなじみの「はじまるよ〜」の脱力SEが流れ始めて満員の観客が手拍子で迎える中でメンバー3人がステージに登場。しばたが道重さゆみTシャツを着ているのも、もりもりもと(ドラム)のロン毛とキッズ感もいつもの通りであるが、やはりこちらもいつも通りに上下ともに真っ黒な服を着たこやまたくや(ボーカル&ギター)の、コロナ禍になってからのヤバTのライブではおなじみのライブの諸注意を口にすると、観客もメンバーと一緒になって手で×や○を作るくらいに、ややもすると堅苦しい空気になりがちなアナウンスすらも楽しいものだと感じられるのはヤバTの3人のキャラによるものだと思う。
そんなアナウンスを終えると、いきなりこやまが思いっきり息を吸うようにして歌い始めたのは「Give me the Tank-top」。昨年のツアーやフェスなどではクライマックスに演奏されることが多かった、ヤバTがライブを取り戻しに行く決意を音楽にした曲。そのライブの始め方が昨年のツアーまでとは流れがガラッと変わったなとも思うのだが、ヤバTはツアー中でも公式アカウントが全公演のセトリをライブ後にすぐにアップするくらいにネタバレの概念がない、セトリを毎回変えるバンドであるだけにこの曲始まりなのもこのツアーだからこそというか、この日だからこそなのかもしれないが、まだ声は出せないしモッシュやダイブなどの体がぶつかり合う楽しみ方をすることもできないけれど、スタンディングのライブハウスという客席の光景でこの曲を聴くことができている。それが去年の椅子ありかつ客同士の間隔を空けたライブから少しでも前に進んで来れたんだなという感慨として沁みる。つまりはやはりこの曲はクライマックスではなくて1曲目に演奏されても感動して涙が出そうになってしまうということだ。というかもはや1曲目からクライマックスなのかもしれないというくらいに。
「心の中で叫んでくれ!」
とこやまが言うと、「Wi-Fi」が「オイ!オイ!」的なコールとして(言っているのはもちろんメンバーだけだが)響く「無線LANばり便利」のパンクなビートで突っ走り、さらに乾いたスネアの音も心地いいもりもとのドラムがラウドかつファストなツービートを刻み、こやまとしばただけではなくてそのもりもとまでもがボーカルの一部を担う「Universal Serial Bus」と、スマホ、携帯にまつわる曲が続き、こやまもしばたも自身が歌わずに演奏に徹するフレーズではステージの端まで歩きながら演奏し、自身の逆サイドにいる観客に手を振ったりする。それに観客も手を振って応えるという光景がパンクのライブの楽しさ、ヤバTのライブの楽しさを実感させてくれる。
さらには「顧客満足度1位」と、序盤からパンクな曲の連打に次ぐ連打っぷり。そもそもヤバTはパンクバンドなのだからそれも当たり前ではあるのだけれど、こうしてスタンディング形式のライブでパンクな曲を演奏しまくっていたら、そうしようとは思っていなくても衝動的にモッシュが起こってしまったりということだって考えられるし、実際に既にそういう風になっているようなライブもあるとも聞く。それでもヤバTがこうしてスタンディングのライブでパンクな曲を連発するのは決して今モッシュやダイブを誘発したいからじゃなくて、絶対にそうならないように、今の状況でライブをするためのルールを守って楽しんでくれるはずだというように、顧客たちを心から信頼してくれているからだ。
その信頼は去年のツアーをはじめとした、コロナ禍になってからヤバTと我々顧客で築き上げてきたものだ。その両者が「タンクトップの呪縛に逃れられぬ運命」を共にしている。だからこそ我々は「ルールとかマナーとかそんなのロックじゃないし」みたいに無責任な行動でその信頼を裏切るようなことをしてメンバーを悲しませては絶対にいけないと思う。ツアーファイナルということでキレをさらに増しまくっているバンドの演奏がより一層そう思わせてくれるのである。
「瑛人くん、結婚おめでとうー!」
と、この日は出演出来なくなってしまったにもかかわらず、まさかの瑛人の結婚を祝うかのようにして「ハッピーウェディング前ソング」がこの序盤で早くも演奏され、PPPHをはじめとした観客の曲の楽しみ方も一切乱れることなく祝福の空気が広がっていくのだが、果たしてこの日来ていた観客に「瑛人が最近結婚した」ということを知っている人がどれくらいいるんだろうか、とも思う。
この日は3月10日ということで、310を並べて「佐藤の日」としてこの日会場にいた佐藤さんたちを祝い、さらには「さんじゅうの日」とも読めることによって三重出身の数少ない人も祝うのだが、
「今日誕生日の人もなんかおめでとうー」
と1番祝われるべき誕生日の人はあっさりしているというあたりも実にヤバTのMCらしい。
そんなMCを経て、
「ヤバTの中で1番人気がない曲をやります!」
と言って演奏されるという憂き目にあったのは、今回のツアーでもこの日以外に一回も演奏されていないという超レア曲の「タンクトップくんのキャラソン」。文字通りにバンドのマスコットキャラであるタンクトップくんを、というか小芝居というようなセリフ的なフレーズも交えてタンクトップを称える曲なのだが、そんな曲でありながらもメンバーは誰もタンクトップを着ていないというところも実にヤバT。
近年はバンドにもマスコットキャラがいるバンドも増えてきたけれど、正面切ってそのキャラのキャラソンを作ったバンドはヤバTしかいないと思われるのだが、そんなレア曲をツアーの中で1回演奏するためだけに演奏できる状態にまで仕上げているバンドもヤバTくらいであろう。そうして全く予期せぬ曲がいきなり演奏されるからこそ、ヤバTのライブは何回見ても飽きることがない。曲順や曲目を予想しても、いつも心地良くバンド側が裏切ってきてくれるから。今回のツアーはこの日の前日のワンマンや高崎芸術劇場など、チケットが全然取れなくてこの日しか参加することが出来なかったけれど、そうした他の日に参加していても絶対にライブに行くこと、ライブを見ることがマンネリになるようなことはなく、常にワクワクした状態で臨むことができる。それはこれまでのツアーがそういうものであったのを見てきたからこそそう思えるのだ。
さらには初期のメロディのキャッチーさがタイトルの「ウェイウェイ」というフレーズの連呼によって際立つ「ウェイウェイ大学生」ではしばたのボーカル部分でこやまがしばたの真横に立ってしばたのことをガン見しながらギターを弾くと、しばたに
「この人なんなん!(笑)」
と言われて退けらるという微笑ましい一面も。今の世の中の状況でこの曲を聴くと、
「鳥貴族でサワーで乾杯したあと
スポッチャでオールナイト
大切なものは単位より 遊びと睡眠」
という大学生なりの快楽的な生き方も今の大学生は出来ないんだよな…と思ってしまうのは少なからず自分もそうした大学生活を送ることができた人間だからだろうか。
ここまではひたすらパンクに、アッパーにという感じで走り抜けてきたが、こやまが薄暗い中で切なさを感じさせるようなギターを弾きはじめ、これはそうしたバラードと言えるようなタイプの曲が演奏されるのか?と思いきや、実際に演奏されたのは「DQNの車のミラーのところによくぶら下がってる大麻の形したやつ」というタイトルの曲であるだけに、そのイントロとのギャップが大きすぎて、演奏しているだけで面白くなってしまう。こやまがキーを落として歌っているのもライブで演奏してきたことによって見つけた形としてのアレンジと言えるだろう。この曲も含めてヤバTは初期の曲でも一切恥ずかしがることなくライブで演奏し続けている。この曲でのライブアレンジのように今ならこうする、という部分もあるのかもしれないが、曲自体が古臭くなったりすることは全くない。それはメロディと、何よりもその歌詞に変わることなき普遍性が宿っているからだろう。
そんな初期曲の後に演奏されたのは、一転して最新のヤバTの曲の一つである「Bluetooth Love」。しばたのどこまでも高みに上り詰めていくかのようなハイトーンボイスがこの上なくキャッチーに響く中、客席ではMVの振り付けをみんなが踊っている。その光景がこの曲の楽しさをより楽しいものにしてくれるし、それはこの光景がライブじゃないと見ることができない、楽しいと感じている人たちが何千人もいる瞬間を見ることができるものだからだ。
昨年の大阪城ホールでのワンマンの際にはシュールな映像なども使われていたが、この日は背面に「Tank-top DVD IV」のジャケットのクマとタンクトップくんのイラストが飾られている以外は演出らしい演出はまるでなし。そのストロングスタイルなヤバTのライブの在り方が、しばたのスラップベースがスリーピースバンドとしてのグルーヴを感じさせる「DANCE ON TANSU」をライブハウスでスタンディングで踊ることが出来ているという実感につなげてくれる。やっぱりヤバTにはこうしたライブが1番よく似合うなと思うのは、それこそが我々がずっと見てきたヤバTのライブだからである。
するとここではもりもとの「はじめてのチュウ」の熱唱もありながらも、出演することが出来なくなってしまった、対バン相手の瑛人が結婚発表した時に、こやまがそれよりも前に知っていたことを明かす。
「俺が入ってるグループLINEに瑛人くんが「プロポーズしました!」って写真と一緒に送ってきて、「え!?結婚!?」って思ったら、地元の友達のグループLINEに送るはずだったのを間違えて送ってきたらしい(笑)
俺がその画面スクショしてツイートしてたら流出してるで(笑)」
という、何とも天然(というかエピソードからはサイコパス感すらある)の瑛人らしい理由だったのだが、
「瑛人くんの横浜の後輩連れてくる!」
と言ってステージが暗転すると一度こやまとしばたはステージから去るのだが、もりもとはドラムセットにとどまって頭に白いタオルをかけただけというのが暗くてもハッキリわかってしまう。
するとこやまとしばたに変わって、おなじく頭にタオルをかけて登場したのは、ヤバTが今1番ハマっている3人組ユニット、Buyer ClientのJunとRumi。その後ろで$atoshiもハンズアップしながら、オシャレかつ洗練されたトラックが流れてJunとRumiがラップを交えた歌唱をするのは彼らのデビュー曲「dabscription」であり、ヤバTとは全く違う音楽性だな、と思いながらも観客もハンズアップして応えるのだが、途中からヤバTの3人が楽器を持ってパンクなサウンドを鳴らすという激変っぷりはもちろん、そのままBuyer Clientのことには全く触れることなくライブならではの超高速化アレンジされた「ヤバみ」を演奏して、観客も手拍子を鳴らしまくるという、一瞬の幻を見ていたかのような変わり身っぷりも実にシュールで面白い。果たしてこのBuyer Clientはこれからどう活動していくのだろうか。この曲一発だけだったりするのだろうか。
こやまとしばたのツインボーカルが伸びやかに飛翔するものの、もはやタイトルが長すぎてこやまのタイトルコールが全く聴き取れない「鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック」から、CMのタイアップとは思えないくらいにイントロからしてヘドバンが起きるくらいにラウドに始まり、サビで一気にキャッチーかつポップに振り切れる「泡 Our Music」と、この辺りはシングルのリード曲が続いたのだが、そうした曲でも振れ幅を持って違うサウンドの曲をリリースしてきたということが続けて演奏されたことによってわかる。もちろん「泡 Our Music」のタイアップに寄り添いながらというか癒着しながらも、意識して聴かないと自然に聴こえるというこやまの天才作詞家っぷりも改めて実感できる。
こやまも
「メロ3!」
という意味不明なくらいにタイトルを略してから演奏された「メロコアバンドのアルバムの3曲目くらいによく収録されている感じの曲」ではそのこやまの冒頭の歌唱部分でしばたがちょこまかとこやまの方まで歩いてきて演奏するのも、観客が飛び跳ねまくるのもおなじみであるのだが、間奏ではこやまが観客同士がぶつからないように配慮して、
「中腰くらいでええから!」
と言ったのに観客はみんな中腰どころかいつものように完全にしゃがんで待機すると、
「そこまでしろって言ってないのになんで勝手なことするん?」
と理不尽にキレながらも、やはり完全にしゃがんでからの方が思いっきり飛び跳ねられるな、と思う。その方がこの曲にも合っているような。
そんな「メロ3」の演奏後にはこやまが
「今日は本当にありがとうございました!ヤバイTシャツ屋さんでした!」
と挨拶をする。いつもよりははるかに短いとはいえ、やはり急遽2マンからワンマンになったとなるとこのくらいの曲数になってしまうんだろうか、とも一瞬思ったのだが、こやまはすぐさま
「まだやります!」
と言ってもりもとにすべらない話をするように無茶振りを始める。つまりは本当にまだ全然ライブは終わらないということである。
そのもりもとのすべらない話は幼少時に母親とユニクロに行った時に、当時流行していたディズニー映画のプリントTシャツをもりもと少年が欲しいと母親に言ったところ、母親は
「インスターズ・モンク」
とタイトルを間違えて覚えていたことによって見事に笑いを誘う。しばたとこやまもそれぞれのネタで話をするのだが、活字にしても全く意味が伝わらないであろう内容だったのでここは割愛。
そうした話をするのも、
「曲をポンポンやり過ぎてテンポが良すぎるから、ヤバTのライブらしくテンポを悪くする」
という理由によるものらしいのだが、むしろヤバTのライブの真髄はそうして曲をひたすら演奏しまくるテンポの良さにあると言っていいし、こやまもそれを自分でちゃんとわかった上でそう言っていたはずだ。さすがにMCで小休止を挟まないと体がもたないだろうけれど、他のバンドのライブに比べたらMCの頻度はむしろ少ないとも言えるくらいだし、何よりもこの流れのライブを2日連続で、かつセトリをガラッと変えて行っているのだから恐れ入る。
そうして敢えてテンポを悪くした後に演奏されたのは、大阪城ホールワンマンで客席にいた子供たちがこの曲で楽しそうにしていた姿が今も忘れられない「ZORORI ROCK!!」。この日はスタンディングのライブハウスということでさすがにお子さん連れの人はほとんどいなかったけれど、それでも他の曲と変わらない盛り上がりを見せていたというのは、この曲もやはりヤバTにとっての大事な曲の一つだということだ。
さらにはしばたのボーカルによるサビがタイトル通りに全能感を聴き手に与えてくれるのはこれまた実にレアな「寝んでもいける」。それはこうしてヤバTのライブを見て、メンバーの姿や鳴らしている音から力を貰って翌日からも生きていく我々の気持ちそのもののようだ。8時間とまでは言わないけれど、7時間くらいは寝ていたいタイプの人間ではあるのだけれど、それでもヤバTのライブがあるんならば、寝んでもいけると思える。この音の圧力と会場の熱気が眠気を吹き飛ばしてくれるからである。
そして今までのライブでは主に最初か最後という位置で演奏されることが多かった「あつまれ!パーティーピーポー」もそのどちらでもないこの位置で演奏され、観客たちはみんな心の中で叫び歌いまくり、禁止されていないからこそ踊りまくると、こやまはギターソロを弾く前に
「レッドブルのことを歌ってたら癒着できましたー!」
と叫ぶ。それは来月の岡崎体育との2マンがレッドブルのライブだからであるが、まさか歌詞に使ったレッドブルがライブにまで繋がるなんて曲を作った時は考えてもいなかっただろう。ヤバTは策略家として見られることも多いバンドだし、実際にそうした狙いがズバズバと当たってきたバンドだけれど、それ以上に自分たちの音楽が自分たちの想像以上の結果をもたらしてきたバンドでもある。でもやっぱり、この曲はライブで聴くたびに、早くまたみんなで歌いたいなと思う。
そんな「あつまれ!パーティーピーポー」で楽しさの沸点を刻んだ後にこやまがゆっくりとギターを鳴らしながら歌い始めたのは「ゆとりロック」。決してアッパーな曲ではないけれど、その歌詞からはゆとり世代という言葉に押し込まれた世代としての反骨心が確かに滲んでいるし、そうした感情をこうした、どちらかというと淡々としていると言っていいようなサウンドの曲からもひしひしと感じられるあたりにヤバTの表現力の向上と、どうしたって滲み出てしまうバンドとしての、人間としての熱さの部分を感じてしまう。そしてそこにこそヤバTというバンドの真価があるということも。そう感じさせてくれる曲が必ずアルバムに1曲は入っているだけに、これから先のヤバTのアルバムでどんなタイプのこうした曲を聴くことができるのかというのも実に楽しみである。自分はヤバTのこうした曲で見せてくれる熱さに胸を震わせてきた人間であるから。
そしてこの流れの後のクライマックスで演奏されたのは再びパンクに疾走するツービートの「とりあえず噛む」。この曲もまた自分にとっては特別な曲なのは、自分が好きなプロ野球の千葉ロッテマリーンズの本拠地のZOZOマリンスタジアムの球場内で流れていた曲だからであり、そこには
「考えすぎるのはやめろって 悩みすぎるのはやめろって」
という実にさりげなく「ロッテ」にかけた部分もあるというのが実にヤバTらしい自然な癒着の仕方だ。
「だから ガムを噛む 掴む未来がCOME“DREAMS 噛むTRUE”さ
COME ON! ENERGY 噛もう for future」
とやたらと「ガムを噛む」という行為が凄まじく壮大に綴られていることも含めて。
するともりもとの叩き出すリズムに合わせてこやまもしばたも手拍子をし、それが観客に広がっていくと、いつまで経ってもこやまが
「新曲」
と紹介する「癒着☆NIGHT」ではイントロが鳴った瞬間に最前列にいた女性がめちゃくちゃ飛び跳ねまくっていた。そうなるくらいにこの曲を聴けるのが嬉しかったのだろうし、その喜びはきっとすぐ目の前で見ていたメンバーにも伝わっているはずだが、さすがにここまで20曲も歌っており、かつ2daysということもあってかこやまは喉が結構キツそうな感じもあったのだが、この曲の
「あなたと 癒着むちゃくちゃにしたいねん
今夜は めちゃくちゃにしたりたいねん」
というサビのフレーズに思いっきり感情を込めるようにしていた歌い方を聞いていて、完全にここで精神が肉体を超えたな、と思った。マラソン選手が40km地点を越えてからスパートをかけられるように、ヤバTもまたライブにおける最終盤で本能的にスパートをかけられるようになっている。これはもうバンドでありながらもアスリートと言っていいのかもしれない。それぐらいに強靭な精神力を3人が持っている。
そんな状態に達したこやまは
「一本一本のライブが本当に違うライブだって思ってやってきた。だから今のこのライブを見てもらえて本当に嬉しい。今はまだ来れない人もいると思うけど、またいつでも来いや」
と観客に告げた。1本1本違うライブということをこんなにも感じさせてくれるバンドはそうそういないからこそ、そこから感じられる説得力。それをわかっているからみんないろんな会場にライブを見に行くんだろうし、来たい人がみんな来れるようになるまできっとヤバTはライブをやり続けてくれるはずだ。
そうした思いを今回は思いっきり「楽しい」という方面に振り切る形で音楽として示すのは「NO MONEY DANCE」。こうしてライブに行くのも実に金がかかる。ましてや何公演も行ったりすると尚更だ。でもそれで金がなくなるのならば本望でもあるとさえ、メンバーとともに
「Yeay!」
のコーラスでピースサインを掲げる客席の光景を見て思っていた。次のツアーではこの曲のコーラスをみんなで一緒に歌うことが出来ているだろうか。それを取り戻すためにきっとまたヤバTはツアーに出て行く。楽しいのは間違いないけれど、もうそれだけじゃない。そんな感覚が確かに芽生えていた。
本編終了時にこやまが観客に手を叩くことを促していたために、間違いなくあると思っていたアンコールで再び3人がステージに戻ってくると、まずは客席を背にした写真撮影。この撮影時のセリフが一切意味がわからない足し算や引き算であるというのもまたヤバTらしいが、その答えもまた次のツアーではみんなで口に出せるようになるのだろうかと思う。
そんなやりとりの後に3人が楽器を手にすると、
「新曲やります!」
と言って演奏されたのは、間違いなく何回も聞いたことがあるというか、耳に入ってきたことがあるフレーズ。それはやるだろうとは思っていた瑛人「香水」のパンクバージョンでのカバーであり、そのアレンジの完成度の高さは「対バンがなくなって急遽仕込んだ」というものではなく、普段から演奏していることを感じさせてくれるもの。というのもヤバTは近年は「喜志駅周辺何もない」で「香水」をメロディに当てはめて歌ってきたのだが、そのフルバージョンがついに今回開陳されたのである。
こやまとしばたのツインボーカルというヤバTの編成を生かしながらも、例えばCDJのサウンドチェックで演奏した10-FEETの「JUST A FALSE! JUST A HOLE!」もそうだったが、本当に自分たちが好きな曲を、最もメロディの良さを際立たせるような形でカバーするというのがヤバTなりの原曲への礼儀なのだろう。そのアレンジもあってか、改めて「香水」って良い曲だよなと思うとともに、なんらかの形でこのバージョンを音源化して欲しいと思ってしまう。
そしてその圧倒的に熱量を増した「香水」がそのまま「Tank-top of the world」へと繋がっていく。間奏でのこやまがステージ前に出てきてのギターソロも最後の力を振り絞るというよりは完全にゾーンに入っているかのようなオーラさえ感じられるのだが、椅子なしのスタンディングでのライブハウスという久しぶりのシチュエーションで聴くこの曲は、かつてのモッシュやダイブが当たり前だった景色を脳内に蘇えらせてくれた。それは今は顧客の高いリテラシーに支えられて起こることはないものだけれど、完全に汗の匂いが充満しまくったこの空気に1番似合うのはそうした光景だと思っている。
そしてツアーもいよいよファイナルの最後の曲へ。ここまでキラーチューンやレア曲など様々な曲を演奏してきた上での最後の曲は、まだここまで演奏されていなかった「かわE」。それはツアーの締めくくりにふさわしい至上の楽しさを感じさせてくれるとともに、やはりヤバTというバンドとそのライブはかっこE越してかっこFやんけ、と思うとともに、たのもC越してたのもDだな、とも思った。やっぱりまた次のツアーで聴くときにはこの曲の「やんけ」のフレーズを我慢しまくってきた顧客のみんなで大合唱したいと思った。
演奏を終えると3人それぞれが一言ずつというには長めのコメントを話したのだが、どこかそこからはツアーが終わって欲しくない名残惜しさを感じさせた。こやまは延期になってしまった公演へのリベンジを口にしながらも、
「8月25日のスケジュールは空けておいてください!学生は夏休みだと思うけど、社会人の人は会社休んでください!」
と、詳細はまだ明らかにしなかったけれど、間違いなくその日にライブが行われるであろうことを告知した。
8月最後の週末にはSWEET LOVE SHOWERやRUSH BALLが開催される時期だ。25日が木曜日であるということはそうしたフェスにもきっとヤバTは出るつもりでありながらも、自分たちの主催ライブをやろうとしているということ。去年の夏はほとんど会えなかったから、今年の夏こそはいろんな場所でヤバTに会えますように。
こうしてずっと曲を聴いてツアーに参加してきたからこそ、ヤバTがどんなに凄いバンドかということをちゃんとわかっているつもりだし、目線が同じなんて言えないくらいに凄い人たちだと思っている。でもどんなに高いところにいたとしても、子供に目線を合わせる時にしゃがむように、高いところから降りてきて目線を合わせてくれるのがヤバTというバンドだと思っている。
それは今回のツアーで本来は譲渡できないローチケのスマチケを「友人には譲れる」という特例を使って救済してきてくれた(何故かバンド側が言われたりすることも多かったらしいけれど)、「自分たちがこの状況でチケットを持っている観客だったら?」という視点を決して忘れることのないヤバTだからこその対応だと思うし、そんなバンドだからこそ去年のZepp Tokyoでの5daysの時からずっと、「どうすればこの状況の中でみんなが安心して来てくれるようなライブにできるか?」と、我々と一緒に戦い続けてきてくれたバンドだという感覚があるのだ。
そう感じさせてくれるバンドだからこそ、もし声を出して歌ってもいい、モッシュやダイブをしてもいいという状況に戻った時に、真っ先にライブを観に行きたいのがヤバTだと思っている。きっとそのライブを見たら泣いてしまうだろうけれど、そこで涙を流せる日まで、それがいつになるのかはまだわからないけれど、これからも一緒に戦い続けていきたいと思っている。愛と友情とPunk RockとTank-topが全部大事だと信じているから。
1.Give me the Tank-top
2.無線LANばり便利
3.Universal Serial Bus
4.顧客満足度1位
5.ハッピーウェディング前ソング
6.タンクトップくんのキャラソン
7.ウェイウェイ大学生
8.DQNの車のミラーのところによくぶら下がってる大麻の形したやつ
9.Bluetooth Love
10.DANCE ON TANSU
11.dabscription feat.Buyer Client
12.ヤバみ
13.鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック
14.泡 Our Music
15.メロコアバンドのアルバムの3曲目くらいによく収録されている感じの曲
16.ZORORI ROCK!!
17.寝んでもいける
18.あつまれ!パーティーピーポー
19.ゆとりロック
20.とりあえず噛む
21.癒着☆NIGHT
22.NO MONEY DANCE
encore
23.香水
24.Tank-top of the world
25.かわE
そのリリースツアーは基本的には各会場でワンマンと対バンの2daysという内容で、そこには昨年は出来なかった対バンという文化をヤバTが取り戻そうとしている意思を感じさせるのだが、対バンアーティストのコロナ感染によるキャンセル(出演キャンセルになったライブはヤバTのワンマンになった)やしばたありぼぼ(ベース)が慢性的に抱える体調不良、札幌での記録的な豪雪などの様々な出来事を乗り越えて、この日のZepp Hanedaでの2daysの2日目がファイナルとなる。
しかしながらこの日の対バン相手である瑛人もまたコロナ感染によって出演キャンセルとなり、結果的にはファイナルがワンマン2daysに。なかなか瑛人のライブを見れる機会もないな、と思っていたのだが、まさか見れなくなってしまうとは。そんな時にすぐさまワンマンにできるのもまたヤバTのライブバンドとしての地力の強さである。
検温と消毒を経てZepp Hanedaの中に入ると、客席は足元にマークが記されているというスタンディング制。すでにこのZepp Hanedaもオープンしてから数え切れないくらいに来ているが、先月のフレデリックのツアーのようにようやくスタンディングで出来る様になってきたんだなと思う。
GOOD4NOTHING「It's My Paradise」から坂本真綾「プラチナ」という、実にヤバTらしい選曲のBGMが流れる中で開演時間の18時(対バンのはずだった時間設定のままでのワンマンだからこその早さ)に場内が暗転すると、おなじみの「はじまるよ〜」の脱力SEが流れ始めて満員の観客が手拍子で迎える中でメンバー3人がステージに登場。しばたが道重さゆみTシャツを着ているのも、もりもりもと(ドラム)のロン毛とキッズ感もいつもの通りであるが、やはりこちらもいつも通りに上下ともに真っ黒な服を着たこやまたくや(ボーカル&ギター)の、コロナ禍になってからのヤバTのライブではおなじみのライブの諸注意を口にすると、観客もメンバーと一緒になって手で×や○を作るくらいに、ややもすると堅苦しい空気になりがちなアナウンスすらも楽しいものだと感じられるのはヤバTの3人のキャラによるものだと思う。
そんなアナウンスを終えると、いきなりこやまが思いっきり息を吸うようにして歌い始めたのは「Give me the Tank-top」。昨年のツアーやフェスなどではクライマックスに演奏されることが多かった、ヤバTがライブを取り戻しに行く決意を音楽にした曲。そのライブの始め方が昨年のツアーまでとは流れがガラッと変わったなとも思うのだが、ヤバTはツアー中でも公式アカウントが全公演のセトリをライブ後にすぐにアップするくらいにネタバレの概念がない、セトリを毎回変えるバンドであるだけにこの曲始まりなのもこのツアーだからこそというか、この日だからこそなのかもしれないが、まだ声は出せないしモッシュやダイブなどの体がぶつかり合う楽しみ方をすることもできないけれど、スタンディングのライブハウスという客席の光景でこの曲を聴くことができている。それが去年の椅子ありかつ客同士の間隔を空けたライブから少しでも前に進んで来れたんだなという感慨として沁みる。つまりはやはりこの曲はクライマックスではなくて1曲目に演奏されても感動して涙が出そうになってしまうということだ。というかもはや1曲目からクライマックスなのかもしれないというくらいに。
「心の中で叫んでくれ!」
とこやまが言うと、「Wi-Fi」が「オイ!オイ!」的なコールとして(言っているのはもちろんメンバーだけだが)響く「無線LANばり便利」のパンクなビートで突っ走り、さらに乾いたスネアの音も心地いいもりもとのドラムがラウドかつファストなツービートを刻み、こやまとしばただけではなくてそのもりもとまでもがボーカルの一部を担う「Universal Serial Bus」と、スマホ、携帯にまつわる曲が続き、こやまもしばたも自身が歌わずに演奏に徹するフレーズではステージの端まで歩きながら演奏し、自身の逆サイドにいる観客に手を振ったりする。それに観客も手を振って応えるという光景がパンクのライブの楽しさ、ヤバTのライブの楽しさを実感させてくれる。
さらには「顧客満足度1位」と、序盤からパンクな曲の連打に次ぐ連打っぷり。そもそもヤバTはパンクバンドなのだからそれも当たり前ではあるのだけれど、こうしてスタンディング形式のライブでパンクな曲を演奏しまくっていたら、そうしようとは思っていなくても衝動的にモッシュが起こってしまったりということだって考えられるし、実際に既にそういう風になっているようなライブもあるとも聞く。それでもヤバTがこうしてスタンディングのライブでパンクな曲を連発するのは決して今モッシュやダイブを誘発したいからじゃなくて、絶対にそうならないように、今の状況でライブをするためのルールを守って楽しんでくれるはずだというように、顧客たちを心から信頼してくれているからだ。
その信頼は去年のツアーをはじめとした、コロナ禍になってからヤバTと我々顧客で築き上げてきたものだ。その両者が「タンクトップの呪縛に逃れられぬ運命」を共にしている。だからこそ我々は「ルールとかマナーとかそんなのロックじゃないし」みたいに無責任な行動でその信頼を裏切るようなことをしてメンバーを悲しませては絶対にいけないと思う。ツアーファイナルということでキレをさらに増しまくっているバンドの演奏がより一層そう思わせてくれるのである。
「瑛人くん、結婚おめでとうー!」
と、この日は出演出来なくなってしまったにもかかわらず、まさかの瑛人の結婚を祝うかのようにして「ハッピーウェディング前ソング」がこの序盤で早くも演奏され、PPPHをはじめとした観客の曲の楽しみ方も一切乱れることなく祝福の空気が広がっていくのだが、果たしてこの日来ていた観客に「瑛人が最近結婚した」ということを知っている人がどれくらいいるんだろうか、とも思う。
この日は3月10日ということで、310を並べて「佐藤の日」としてこの日会場にいた佐藤さんたちを祝い、さらには「さんじゅうの日」とも読めることによって三重出身の数少ない人も祝うのだが、
「今日誕生日の人もなんかおめでとうー」
と1番祝われるべき誕生日の人はあっさりしているというあたりも実にヤバTのMCらしい。
そんなMCを経て、
「ヤバTの中で1番人気がない曲をやります!」
と言って演奏されるという憂き目にあったのは、今回のツアーでもこの日以外に一回も演奏されていないという超レア曲の「タンクトップくんのキャラソン」。文字通りにバンドのマスコットキャラであるタンクトップくんを、というか小芝居というようなセリフ的なフレーズも交えてタンクトップを称える曲なのだが、そんな曲でありながらもメンバーは誰もタンクトップを着ていないというところも実にヤバT。
近年はバンドにもマスコットキャラがいるバンドも増えてきたけれど、正面切ってそのキャラのキャラソンを作ったバンドはヤバTしかいないと思われるのだが、そんなレア曲をツアーの中で1回演奏するためだけに演奏できる状態にまで仕上げているバンドもヤバTくらいであろう。そうして全く予期せぬ曲がいきなり演奏されるからこそ、ヤバTのライブは何回見ても飽きることがない。曲順や曲目を予想しても、いつも心地良くバンド側が裏切ってきてくれるから。今回のツアーはこの日の前日のワンマンや高崎芸術劇場など、チケットが全然取れなくてこの日しか参加することが出来なかったけれど、そうした他の日に参加していても絶対にライブに行くこと、ライブを見ることがマンネリになるようなことはなく、常にワクワクした状態で臨むことができる。それはこれまでのツアーがそういうものであったのを見てきたからこそそう思えるのだ。
さらには初期のメロディのキャッチーさがタイトルの「ウェイウェイ」というフレーズの連呼によって際立つ「ウェイウェイ大学生」ではしばたのボーカル部分でこやまがしばたの真横に立ってしばたのことをガン見しながらギターを弾くと、しばたに
「この人なんなん!(笑)」
と言われて退けらるという微笑ましい一面も。今の世の中の状況でこの曲を聴くと、
「鳥貴族でサワーで乾杯したあと
スポッチャでオールナイト
大切なものは単位より 遊びと睡眠」
という大学生なりの快楽的な生き方も今の大学生は出来ないんだよな…と思ってしまうのは少なからず自分もそうした大学生活を送ることができた人間だからだろうか。
ここまではひたすらパンクに、アッパーにという感じで走り抜けてきたが、こやまが薄暗い中で切なさを感じさせるようなギターを弾きはじめ、これはそうしたバラードと言えるようなタイプの曲が演奏されるのか?と思いきや、実際に演奏されたのは「DQNの車のミラーのところによくぶら下がってる大麻の形したやつ」というタイトルの曲であるだけに、そのイントロとのギャップが大きすぎて、演奏しているだけで面白くなってしまう。こやまがキーを落として歌っているのもライブで演奏してきたことによって見つけた形としてのアレンジと言えるだろう。この曲も含めてヤバTは初期の曲でも一切恥ずかしがることなくライブで演奏し続けている。この曲でのライブアレンジのように今ならこうする、という部分もあるのかもしれないが、曲自体が古臭くなったりすることは全くない。それはメロディと、何よりもその歌詞に変わることなき普遍性が宿っているからだろう。
そんな初期曲の後に演奏されたのは、一転して最新のヤバTの曲の一つである「Bluetooth Love」。しばたのどこまでも高みに上り詰めていくかのようなハイトーンボイスがこの上なくキャッチーに響く中、客席ではMVの振り付けをみんなが踊っている。その光景がこの曲の楽しさをより楽しいものにしてくれるし、それはこの光景がライブじゃないと見ることができない、楽しいと感じている人たちが何千人もいる瞬間を見ることができるものだからだ。
昨年の大阪城ホールでのワンマンの際にはシュールな映像なども使われていたが、この日は背面に「Tank-top DVD IV」のジャケットのクマとタンクトップくんのイラストが飾られている以外は演出らしい演出はまるでなし。そのストロングスタイルなヤバTのライブの在り方が、しばたのスラップベースがスリーピースバンドとしてのグルーヴを感じさせる「DANCE ON TANSU」をライブハウスでスタンディングで踊ることが出来ているという実感につなげてくれる。やっぱりヤバTにはこうしたライブが1番よく似合うなと思うのは、それこそが我々がずっと見てきたヤバTのライブだからである。
するとここではもりもとの「はじめてのチュウ」の熱唱もありながらも、出演することが出来なくなってしまった、対バン相手の瑛人が結婚発表した時に、こやまがそれよりも前に知っていたことを明かす。
「俺が入ってるグループLINEに瑛人くんが「プロポーズしました!」って写真と一緒に送ってきて、「え!?結婚!?」って思ったら、地元の友達のグループLINEに送るはずだったのを間違えて送ってきたらしい(笑)
俺がその画面スクショしてツイートしてたら流出してるで(笑)」
という、何とも天然(というかエピソードからはサイコパス感すらある)の瑛人らしい理由だったのだが、
「瑛人くんの横浜の後輩連れてくる!」
と言ってステージが暗転すると一度こやまとしばたはステージから去るのだが、もりもとはドラムセットにとどまって頭に白いタオルをかけただけというのが暗くてもハッキリわかってしまう。
するとこやまとしばたに変わって、おなじく頭にタオルをかけて登場したのは、ヤバTが今1番ハマっている3人組ユニット、Buyer ClientのJunとRumi。その後ろで$atoshiもハンズアップしながら、オシャレかつ洗練されたトラックが流れてJunとRumiがラップを交えた歌唱をするのは彼らのデビュー曲「dabscription」であり、ヤバTとは全く違う音楽性だな、と思いながらも観客もハンズアップして応えるのだが、途中からヤバTの3人が楽器を持ってパンクなサウンドを鳴らすという激変っぷりはもちろん、そのままBuyer Clientのことには全く触れることなくライブならではの超高速化アレンジされた「ヤバみ」を演奏して、観客も手拍子を鳴らしまくるという、一瞬の幻を見ていたかのような変わり身っぷりも実にシュールで面白い。果たしてこのBuyer Clientはこれからどう活動していくのだろうか。この曲一発だけだったりするのだろうか。
こやまとしばたのツインボーカルが伸びやかに飛翔するものの、もはやタイトルが長すぎてこやまのタイトルコールが全く聴き取れない「鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック」から、CMのタイアップとは思えないくらいにイントロからしてヘドバンが起きるくらいにラウドに始まり、サビで一気にキャッチーかつポップに振り切れる「泡 Our Music」と、この辺りはシングルのリード曲が続いたのだが、そうした曲でも振れ幅を持って違うサウンドの曲をリリースしてきたということが続けて演奏されたことによってわかる。もちろん「泡 Our Music」のタイアップに寄り添いながらというか癒着しながらも、意識して聴かないと自然に聴こえるというこやまの天才作詞家っぷりも改めて実感できる。
こやまも
「メロ3!」
という意味不明なくらいにタイトルを略してから演奏された「メロコアバンドのアルバムの3曲目くらいによく収録されている感じの曲」ではそのこやまの冒頭の歌唱部分でしばたがちょこまかとこやまの方まで歩いてきて演奏するのも、観客が飛び跳ねまくるのもおなじみであるのだが、間奏ではこやまが観客同士がぶつからないように配慮して、
「中腰くらいでええから!」
と言ったのに観客はみんな中腰どころかいつものように完全にしゃがんで待機すると、
「そこまでしろって言ってないのになんで勝手なことするん?」
と理不尽にキレながらも、やはり完全にしゃがんでからの方が思いっきり飛び跳ねられるな、と思う。その方がこの曲にも合っているような。
そんな「メロ3」の演奏後にはこやまが
「今日は本当にありがとうございました!ヤバイTシャツ屋さんでした!」
と挨拶をする。いつもよりははるかに短いとはいえ、やはり急遽2マンからワンマンになったとなるとこのくらいの曲数になってしまうんだろうか、とも一瞬思ったのだが、こやまはすぐさま
「まだやります!」
と言ってもりもとにすべらない話をするように無茶振りを始める。つまりは本当にまだ全然ライブは終わらないということである。
そのもりもとのすべらない話は幼少時に母親とユニクロに行った時に、当時流行していたディズニー映画のプリントTシャツをもりもと少年が欲しいと母親に言ったところ、母親は
「インスターズ・モンク」
とタイトルを間違えて覚えていたことによって見事に笑いを誘う。しばたとこやまもそれぞれのネタで話をするのだが、活字にしても全く意味が伝わらないであろう内容だったのでここは割愛。
そうした話をするのも、
「曲をポンポンやり過ぎてテンポが良すぎるから、ヤバTのライブらしくテンポを悪くする」
という理由によるものらしいのだが、むしろヤバTのライブの真髄はそうして曲をひたすら演奏しまくるテンポの良さにあると言っていいし、こやまもそれを自分でちゃんとわかった上でそう言っていたはずだ。さすがにMCで小休止を挟まないと体がもたないだろうけれど、他のバンドのライブに比べたらMCの頻度はむしろ少ないとも言えるくらいだし、何よりもこの流れのライブを2日連続で、かつセトリをガラッと変えて行っているのだから恐れ入る。
そうして敢えてテンポを悪くした後に演奏されたのは、大阪城ホールワンマンで客席にいた子供たちがこの曲で楽しそうにしていた姿が今も忘れられない「ZORORI ROCK!!」。この日はスタンディングのライブハウスということでさすがにお子さん連れの人はほとんどいなかったけれど、それでも他の曲と変わらない盛り上がりを見せていたというのは、この曲もやはりヤバTにとっての大事な曲の一つだということだ。
さらにはしばたのボーカルによるサビがタイトル通りに全能感を聴き手に与えてくれるのはこれまた実にレアな「寝んでもいける」。それはこうしてヤバTのライブを見て、メンバーの姿や鳴らしている音から力を貰って翌日からも生きていく我々の気持ちそのもののようだ。8時間とまでは言わないけれど、7時間くらいは寝ていたいタイプの人間ではあるのだけれど、それでもヤバTのライブがあるんならば、寝んでもいけると思える。この音の圧力と会場の熱気が眠気を吹き飛ばしてくれるからである。
そして今までのライブでは主に最初か最後という位置で演奏されることが多かった「あつまれ!パーティーピーポー」もそのどちらでもないこの位置で演奏され、観客たちはみんな心の中で叫び歌いまくり、禁止されていないからこそ踊りまくると、こやまはギターソロを弾く前に
「レッドブルのことを歌ってたら癒着できましたー!」
と叫ぶ。それは来月の岡崎体育との2マンがレッドブルのライブだからであるが、まさか歌詞に使ったレッドブルがライブにまで繋がるなんて曲を作った時は考えてもいなかっただろう。ヤバTは策略家として見られることも多いバンドだし、実際にそうした狙いがズバズバと当たってきたバンドだけれど、それ以上に自分たちの音楽が自分たちの想像以上の結果をもたらしてきたバンドでもある。でもやっぱり、この曲はライブで聴くたびに、早くまたみんなで歌いたいなと思う。
そんな「あつまれ!パーティーピーポー」で楽しさの沸点を刻んだ後にこやまがゆっくりとギターを鳴らしながら歌い始めたのは「ゆとりロック」。決してアッパーな曲ではないけれど、その歌詞からはゆとり世代という言葉に押し込まれた世代としての反骨心が確かに滲んでいるし、そうした感情をこうした、どちらかというと淡々としていると言っていいようなサウンドの曲からもひしひしと感じられるあたりにヤバTの表現力の向上と、どうしたって滲み出てしまうバンドとしての、人間としての熱さの部分を感じてしまう。そしてそこにこそヤバTというバンドの真価があるということも。そう感じさせてくれる曲が必ずアルバムに1曲は入っているだけに、これから先のヤバTのアルバムでどんなタイプのこうした曲を聴くことができるのかというのも実に楽しみである。自分はヤバTのこうした曲で見せてくれる熱さに胸を震わせてきた人間であるから。
そしてこの流れの後のクライマックスで演奏されたのは再びパンクに疾走するツービートの「とりあえず噛む」。この曲もまた自分にとっては特別な曲なのは、自分が好きなプロ野球の千葉ロッテマリーンズの本拠地のZOZOマリンスタジアムの球場内で流れていた曲だからであり、そこには
「考えすぎるのはやめろって 悩みすぎるのはやめろって」
という実にさりげなく「ロッテ」にかけた部分もあるというのが実にヤバTらしい自然な癒着の仕方だ。
「だから ガムを噛む 掴む未来がCOME“DREAMS 噛むTRUE”さ
COME ON! ENERGY 噛もう for future」
とやたらと「ガムを噛む」という行為が凄まじく壮大に綴られていることも含めて。
するともりもとの叩き出すリズムに合わせてこやまもしばたも手拍子をし、それが観客に広がっていくと、いつまで経ってもこやまが
「新曲」
と紹介する「癒着☆NIGHT」ではイントロが鳴った瞬間に最前列にいた女性がめちゃくちゃ飛び跳ねまくっていた。そうなるくらいにこの曲を聴けるのが嬉しかったのだろうし、その喜びはきっとすぐ目の前で見ていたメンバーにも伝わっているはずだが、さすがにここまで20曲も歌っており、かつ2daysということもあってかこやまは喉が結構キツそうな感じもあったのだが、この曲の
「あなたと 癒着むちゃくちゃにしたいねん
今夜は めちゃくちゃにしたりたいねん」
というサビのフレーズに思いっきり感情を込めるようにしていた歌い方を聞いていて、完全にここで精神が肉体を超えたな、と思った。マラソン選手が40km地点を越えてからスパートをかけられるように、ヤバTもまたライブにおける最終盤で本能的にスパートをかけられるようになっている。これはもうバンドでありながらもアスリートと言っていいのかもしれない。それぐらいに強靭な精神力を3人が持っている。
そんな状態に達したこやまは
「一本一本のライブが本当に違うライブだって思ってやってきた。だから今のこのライブを見てもらえて本当に嬉しい。今はまだ来れない人もいると思うけど、またいつでも来いや」
と観客に告げた。1本1本違うライブということをこんなにも感じさせてくれるバンドはそうそういないからこそ、そこから感じられる説得力。それをわかっているからみんないろんな会場にライブを見に行くんだろうし、来たい人がみんな来れるようになるまできっとヤバTはライブをやり続けてくれるはずだ。
そうした思いを今回は思いっきり「楽しい」という方面に振り切る形で音楽として示すのは「NO MONEY DANCE」。こうしてライブに行くのも実に金がかかる。ましてや何公演も行ったりすると尚更だ。でもそれで金がなくなるのならば本望でもあるとさえ、メンバーとともに
「Yeay!」
のコーラスでピースサインを掲げる客席の光景を見て思っていた。次のツアーではこの曲のコーラスをみんなで一緒に歌うことが出来ているだろうか。それを取り戻すためにきっとまたヤバTはツアーに出て行く。楽しいのは間違いないけれど、もうそれだけじゃない。そんな感覚が確かに芽生えていた。
本編終了時にこやまが観客に手を叩くことを促していたために、間違いなくあると思っていたアンコールで再び3人がステージに戻ってくると、まずは客席を背にした写真撮影。この撮影時のセリフが一切意味がわからない足し算や引き算であるというのもまたヤバTらしいが、その答えもまた次のツアーではみんなで口に出せるようになるのだろうかと思う。
そんなやりとりの後に3人が楽器を手にすると、
「新曲やります!」
と言って演奏されたのは、間違いなく何回も聞いたことがあるというか、耳に入ってきたことがあるフレーズ。それはやるだろうとは思っていた瑛人「香水」のパンクバージョンでのカバーであり、そのアレンジの完成度の高さは「対バンがなくなって急遽仕込んだ」というものではなく、普段から演奏していることを感じさせてくれるもの。というのもヤバTは近年は「喜志駅周辺何もない」で「香水」をメロディに当てはめて歌ってきたのだが、そのフルバージョンがついに今回開陳されたのである。
こやまとしばたのツインボーカルというヤバTの編成を生かしながらも、例えばCDJのサウンドチェックで演奏した10-FEETの「JUST A FALSE! JUST A HOLE!」もそうだったが、本当に自分たちが好きな曲を、最もメロディの良さを際立たせるような形でカバーするというのがヤバTなりの原曲への礼儀なのだろう。そのアレンジもあってか、改めて「香水」って良い曲だよなと思うとともに、なんらかの形でこのバージョンを音源化して欲しいと思ってしまう。
そしてその圧倒的に熱量を増した「香水」がそのまま「Tank-top of the world」へと繋がっていく。間奏でのこやまがステージ前に出てきてのギターソロも最後の力を振り絞るというよりは完全にゾーンに入っているかのようなオーラさえ感じられるのだが、椅子なしのスタンディングでのライブハウスという久しぶりのシチュエーションで聴くこの曲は、かつてのモッシュやダイブが当たり前だった景色を脳内に蘇えらせてくれた。それは今は顧客の高いリテラシーに支えられて起こることはないものだけれど、完全に汗の匂いが充満しまくったこの空気に1番似合うのはそうした光景だと思っている。
そしてツアーもいよいよファイナルの最後の曲へ。ここまでキラーチューンやレア曲など様々な曲を演奏してきた上での最後の曲は、まだここまで演奏されていなかった「かわE」。それはツアーの締めくくりにふさわしい至上の楽しさを感じさせてくれるとともに、やはりヤバTというバンドとそのライブはかっこE越してかっこFやんけ、と思うとともに、たのもC越してたのもDだな、とも思った。やっぱりまた次のツアーで聴くときにはこの曲の「やんけ」のフレーズを我慢しまくってきた顧客のみんなで大合唱したいと思った。
演奏を終えると3人それぞれが一言ずつというには長めのコメントを話したのだが、どこかそこからはツアーが終わって欲しくない名残惜しさを感じさせた。こやまは延期になってしまった公演へのリベンジを口にしながらも、
「8月25日のスケジュールは空けておいてください!学生は夏休みだと思うけど、社会人の人は会社休んでください!」
と、詳細はまだ明らかにしなかったけれど、間違いなくその日にライブが行われるであろうことを告知した。
8月最後の週末にはSWEET LOVE SHOWERやRUSH BALLが開催される時期だ。25日が木曜日であるということはそうしたフェスにもきっとヤバTは出るつもりでありながらも、自分たちの主催ライブをやろうとしているということ。去年の夏はほとんど会えなかったから、今年の夏こそはいろんな場所でヤバTに会えますように。
こうしてずっと曲を聴いてツアーに参加してきたからこそ、ヤバTがどんなに凄いバンドかということをちゃんとわかっているつもりだし、目線が同じなんて言えないくらいに凄い人たちだと思っている。でもどんなに高いところにいたとしても、子供に目線を合わせる時にしゃがむように、高いところから降りてきて目線を合わせてくれるのがヤバTというバンドだと思っている。
それは今回のツアーで本来は譲渡できないローチケのスマチケを「友人には譲れる」という特例を使って救済してきてくれた(何故かバンド側が言われたりすることも多かったらしいけれど)、「自分たちがこの状況でチケットを持っている観客だったら?」という視点を決して忘れることのないヤバTだからこその対応だと思うし、そんなバンドだからこそ去年のZepp Tokyoでの5daysの時からずっと、「どうすればこの状況の中でみんなが安心して来てくれるようなライブにできるか?」と、我々と一緒に戦い続けてきてくれたバンドだという感覚があるのだ。
そう感じさせてくれるバンドだからこそ、もし声を出して歌ってもいい、モッシュやダイブをしてもいいという状況に戻った時に、真っ先にライブを観に行きたいのがヤバTだと思っている。きっとそのライブを見たら泣いてしまうだろうけれど、そこで涙を流せる日まで、それがいつになるのかはまだわからないけれど、これからも一緒に戦い続けていきたいと思っている。愛と友情とPunk RockとTank-topが全部大事だと信じているから。
1.Give me the Tank-top
2.無線LANばり便利
3.Universal Serial Bus
4.顧客満足度1位
5.ハッピーウェディング前ソング
6.タンクトップくんのキャラソン
7.ウェイウェイ大学生
8.DQNの車のミラーのところによくぶら下がってる大麻の形したやつ
9.Bluetooth Love
10.DANCE ON TANSU
11.dabscription feat.Buyer Client
12.ヤバみ
13.鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック
14.泡 Our Music
15.メロコアバンドのアルバムの3曲目くらいによく収録されている感じの曲
16.ZORORI ROCK!!
17.寝んでもいける
18.あつまれ!パーティーピーポー
19.ゆとりロック
20.とりあえず噛む
21.癒着☆NIGHT
22.NO MONEY DANCE
encore
23.香水
24.Tank-top of the world
25.かわE