東京初期衝動 「えんど・おぶ・ざ・わーるど」レコ発 東名阪性獣集合ツアー @恵比寿LIQUIDROOM 2/12
- 2022/02/13
- 12:26
レコ発という通りにまさにリリースされたばかりのアルバム「えんど・おぶ・ざ・わーるど」を引っ提げ、東京初期衝動が東名阪でのツアーを開催。アルバムはバンドの表現力がさらに広がったことがよくわかるものであるが、果たしてそれがライブではどう鳴らされるのか。バンドは前日にBAYCAMPに出演しているというハードスケジュールの中でのツアーファイナルある。
2020年の自粛期間中に開催された、多くの人にとって実に久しぶりの爆音かつスタンディング形式でのライブもこのリキッドルームだったこともあり、前回のツアーも含めてすっかりこの会場はバンドにとってホームになりつつある。というかこのバンドのワンマンでばかり最近は訪れているような感もある。
検温と消毒を経てリキッドルームの中に入ると、やはり客席は足元にマスが描かれたスタンディング形式。土曜日の早い時間の開場だからか、ドリンクでアルコールが飲めるのは600円払っているだけにありがたいところだ。
開演前にはキュウソネコカミなどのライブでもおなじみのP青木が諸注意を含めた前説を行うのだが、前日にオールナイトのBAYCAMPを主催した後にこの日のライブを開催しており、この男はもうそんなに若くもないというのに一体いつ寝ているんだろうかと思う。もしかしたら体力的にはめちゃくちゃキツいというかギリギリの状態だったかもしれないが、そんな素振りを全く見せないというあたりに、ポンコツなだけではないプロとしての意地や根性のようなものを感じる。この日程でBAYCAMPからこの日のライブを開催したのだって、翌日が土日であるから来やすい人がたくさんいるという観客のことを慮ってのことだ。多分。
おなじみのTommy february6「je t'aime ★ je t'aime」のSEが流れてメンバー4人が登場すると、モッズコートを着ている姿がどうしたって峯田和伸(銀杏BOYZ)を彷彿とさせるしーなちゃん(ボーカル&ギター)が叫び声を上げて両腕を上げる。気合いが演奏前から溢れ出していることがわかる。それは同時に短かったけれども、このツアーがバンドにとっても自身にとっても実に大きかったことを感じさせるのであるが、ギターを肩にかけるとすぐに「再生ボタン」を歌い始める。その爆音っぷりに耳が驚いているのが自分でもわかるくらいの爆音っぷりであるが、新しいアルバムが出てもこの曲から始まるというのは変わらないのは、やはりこの曲がバンドの始まりの曲だからだろうし、こうして最初に演奏することでバンドにスイッチが入るからだろう。それはサビで思いっきり腕を上げる観客側もそうだ。会場にいる全ての人が、止まった気がしたものがこの曲によって動き出すのだ。
歌い終わるとしーなちゃんは
「東京初期衝動です!よろしくお願いします!」
と叫ぶように挨拶する。その際の晴れやかな表情がまた一つ変わったなと感じさせるのだが、それは自信のあるアルバムを作ることが出来たからだろうということで、「えんど・おぶ・ざ・わーるど」の1曲目を飾る「腐革命前夜」を演奏するのだが、メロディアスなギターのイントロから一気にサビに向かって開放されたようにノイジーになっていくというアレンジの演奏も、
「アイツらを黙らせろ僕が僕である為に
あの夜を突き抜けろ革命を起こす僕だけが」
というこのバンドなりの文学性を帯びた歌詞を歌うしーなちゃんもの歌唱も驚くくらいにレベルアップしていることがわかる。あさか(ベース)が加入してから「修行ツアー」と題して小さめのライブハウスを回ったりしてきた成果がはっきりと表れてもいるが、メンバーそれぞれが我々の見えないところで厳しい努力を重ねているんだろうなということもわかる。そう思うくらいにバンド全体が上手くなっている。
それは単なる技術的な上手さだけではなくて表現力にも表れているというのが、アルバムリリース時からファンの間で好評の声が飛びまくっていた「マァルイツキ」でのしーなちゃんのポップさ、何なら可愛さを感じさせる歌唱。それが曲の持つポップさをより際立たせているし、普段は1番表情の変化が少ない希(ギター)が早くも笑顔を浮かべながらギターを弾いているというのもそのポップさをライブで感じられる要素の一つになっている。それを土台として支えるなおのドラムは元からバンドにおける1番の安定感を感じさせていたが、そのリズムのボトムがさらに強く太くなっているし、他のバンドに比べたら明らかに要塞感が強いドラムセットからも迫力を感じられる。
するとしーなちゃんがまるで椎名林檎のように拡声器を持って歌い始めたのは、明らかに自身のことをそのまま曲にしたであろう「トラブルメイカーガール」。このパフォーマンスが出来る様になったのも自身の歌唱力に自信を持っているからだろうけれど、拡声器からマイクに戻って歌うサビでのメンバー全員での
「産みたいくらいに愛してる!」
のフレーズは絶対にこのバンドじゃなきゃ出てこないであろう、超キラーフレーズである。
さらにはアルバムリリース前までは異なるタイトルだったのがアルバム収録にあたり「BAKAチンポ」という、当たり障りのないタイトルに変わるのではなく、より普通のメディアで使えないタイトルに変わっているという痛快さもさることながら、笑顔でタイトルフレーズを叫びまくるあさかの姿は、今このバンドのメンバーでいることができている、こうしてライブができている喜びを全身から感じさせてくれる。そのあさかの存在がバンドにとっても推進力になっているのもまた間違いないだろう。演奏力はもちろん、精神的、人間的に他の3人と同じことを同じように楽しむことができる存在として。じゃないとこのフレーズを笑顔で叫んでくれないだろう。
そんな飛び道具的というか、歌いたいことややりたいことを制限しないでそのままやる的な曲もある一方で、しーなちゃんが以前対談したお笑い芸人・空気階段のもぐらのことを彷彿とさせるというか、ノイジーなギターとメロディアスなメロディ、間奏の演奏がどうしたって2人の共通項てある銀杏BOYZのサウンドを彷彿とさせる「空気少女」と、「えんど・おぶ・ざ・わーるど」の曲がリリース直後でありながらも完全に既にバンドのものになっている。むしろまだ観客側の方が聴き込みっぷりが足りないような感すらあるほどにバンドが我々の先を走っている。
サビのメロディを希がギターで弾くというイントロのアレンジも実に余裕を感じさせるようになった「流星」もそうであるし、先行シングルの中から唯一「えんど・おぶ・ざ・わーるど」に収録された「春」もそうであるが、演奏力と表現力が格段に向上したことによって、よりライブで曲の輪郭がハッキリと伝わるようになっているのだが、それによって改めてわかるのはこのバンドのメロディの美しさとキャッチーさである。技術的なことは練習したり経験を重ねればついてくるということもメンバーの姿を見ていればわかるが、このメロディを生み出す力は持って生まれたセンスというか、磨き様がないものだと思っているだけに、それを確かにこのバンドが持っているということがこれからもっとたくさんの人に伝わるようになっていくんだろうなと思える。
そのメロディの良さがしーなちゃんの弾き語り的な1コーラスから、2コーラス目でバンドサウンドになるというアレンジによってより際立つ「中央線」から、
「ここでつまづくなよ東京初期衝動!」
と自分たちを鼓舞するように歌い、それが観客にとっても大きな強い力になっていく「STAND BY ME」と1stアルバム「SWEET 17 MONSTERS」収録のライブ定番曲にして人気曲が続く。新曲がたくさん聴けるのも嬉しいけれど、進化したバンドのサウンドでこうした名曲たちを聴けるのもやっぱり嬉しい。よりその進化がこれまでのライブで聴いた時を思い返してみるとよくわかるからだ。
するとここでしーなちゃんがモッズコートを脱ぎ去ると、おなじみの丈が短くカットされたTシャツ姿になるのだが、その肩口からは早くもスポーツブラ(っていうのか?)的なものが見えているし、変わらずに鍛えているのであろう肉体も見えている。
その状態でしーなちゃんが再び拡声器を持って歌い始めたのは「山田! 恐ろしい男」という、おそらくは山田という男の金を返さないなどの最低っぷりを歌ったであろう曲なのだが、しーなちゃんはステージを練り歩きながら歌い、間奏では観客の手拍子を煽る。基本的にはギターを弾きながら歌う曲が多いだけに実に珍しい場面であるし、その姿からはこのコロナ禍で一緒に歌ったりすることができないながらも来てくれた人たちと一緒になってライブを楽しみたいという意識を感じさせる。
アルバムには入らなかったけれど、しーなちゃんがレコーディングがめちゃくちゃ大変だったとリリース時に語っていた「愛のむきだし」はそうした経験が今のバンドの演奏力と表現力の向上につながっていることを示すとともに、それがリリース時よりも曲の持ち味をしっかり活かせていることも今の力で演奏されることによってよくわかる。この曲が轟音と勢いで押し切るようなサウンドから今のバンドへと進化するための一歩目の曲だったということも。
するとしーなちゃんはハンドマイクとなってステージを飛び降り、客席とステージの間を練り歩きながら「下北沢性獣襲来」という「高円寺ブス集合」の歌詞変えバージョンを歌うのだが、曲中でステージの上に戻ってくると、実に楽しそうに飛び跳ねながら歌っている。その姿はライブが戦う場所から楽しむ場所に変わっているということを感じさせて、なんだかその表情を見ているだけでじーんとしてしまう。歌詞は全編に渡って掲載するのも憚られるようなものであるが、それをメンバー全員で歌っているというのがこのバンドのメンバーの意識の一枚岩感を感じさせてくれる。全員が同じようにこうした歌詞を歌うのを楽しんでいるという。
「マァルイツキ」同様にしーなちゃんの可愛いボーカルの表現力によってポップさが際立つ「パンチザウルス」はその声で歌うことによって女子同士の友情を歌っているであろう歌詞により説得力を感じられるのだが、この後半の新作曲の怒涛の連打っぷりはこれらの曲たちをずっとライブで演奏してきたかのようであるが、そんな中で1stアルバム収録の人気曲の再録となった「ベイビー・ドント・クライ」は
「黒髪少女のギブソンのギターは今も響いてる」
というフレーズで髪色は黒ではなく明るめの色になってはいるが、フレーズ通りにエピフォンからギブソンに変わっている希の方を指差して歌われるのであるが、なおのドラムは手数を増した形で曲全体が再録バージョンとして進化しているのがわかる。
もしかしたら1stアルバムでの衝動剥き出しのバージョンの方が好きという人も多いかもしれないが、それはずっとそのバージョンを聴き続けてきたという思い入れの強さによるものだろう。やはりこの曲も音源でもライブでもサウンドが整理されたことによって、もっとたくさんの人にこの曲の良さが伝わる可能性を感じさせるくらいにメロディのキャッチーさが前面に出ている。
そのメロディのキャッチーさが激しいサウンドの中で炸裂するというアレンジが、コロナ禍じゃなかったらモッシュやダイブが起きまくっているだろうなというくらいの即効性(それもまたメロディの良さあってこそ)を感じさせるのは「世界の終わりと夜明け前」。自分は「えんど・おぶ・ざ・わーるど」の中で現時点ではこの曲が1番好きなのだが、それは特にサビの締めの
「ほら そんな顔で僕を見ないでくれよ」
というフレーズの、近しい人に勧めたくなるようなキャッチーさと、親には聞かせられないようなノイジーなサウンドがトップクラスに高いレベルで融合しているから。それはやはり自分が10代の頃に聴いていたそうしたバンドの曲を思い出させるからこそ、聴いていて沁みてくるものがあるのだ。本当に良い歌詞を良い歌唱で歌えるようになったな、としみじみしてしまうくらいに。
そんなライブの終わりを告げるかのように鳴らされる轟音ギターサウンド。それはこれまでもライブの終わりを担ってきた「ロックン・ロール」のものなのだが、そこにもやはり衝動と、どこか余裕のようなものが同居しているように感じるが、
「ロックンロールを鳴らしている時
きみを待ってる ここで待ってる いつかきっと
世界のどっかで きみを待ってる いつかきっと」
というフレーズに触発されて、今客席から東京初期衝動のことを見ている少女たち(この日はいつもよりそういう人は少なかったけど)が楽器を手にする。そうやってロックンロールは繋がれていくことで鳴り止まない。
「ロックンロールは鳴り止まないって 誰かが言ってた」
という歌詞の通りに「ロックンロールは鳴り止まない」と歌っていた誰かもまた今でもロックンロールを鳴らし続けている。どんなにロックバンドが時代錯誤な存在になったとしても、こうしたバンドがいる限りは、やっぱりロックバンドが1番カッコいいって思えるし、それをやることを選んでくれて、本当にありがとうございますと思う。
今まではこの曲が終わると楽器を置いてステージから去って…という形だったのだが、まだメンバーは楽器を持ったままであり、さすがに新しいアルバムが出たからこの曲が最後の曲というわけではななくなったんだな、と思っていたのだが、しーなちゃんが
「アンコールありがとうございます」
とまだ誰もなんのアクションも取っていないのに、ここからはアンコールに突入していくことを告げる。すると客席からもアンコールを求める手拍子が発生して、そのままバンドは「Because あいらぶゆー」を演奏して、爆音の中で
「ハロー素晴らしい世界なんて見えないよ!」
「私は幻なんかじゃなかった」
という銀杏BOYZの名曲の名フレーズへのアンサーとともに、
「殺しておけばよかった!」
というフレーズがこれほどまでにポップに聴こえるとは、というくらいにメンバーの歌唱が重なっていく。
するとあさかが台の上に立ってイントロのベースをうねるようにして弾くと、しーなちゃんはハンドマイクになって飛び跳ねながら「黒ギャルのケツは煮卵に似てる」を歌い、普通にコーラスパートでは客席にマイクを向けたりする。もちろん観客は声を出したりはしないけれど、早くまたそういうコール&レスポンスが誰かに何か言われたりしないようにできる状況になって欲しいと思う。
そしてなおのドラムがこの日最も激しく速くなると、前回のツアーからやるようになった(アルバムのシークレットトラックとしても収録されている)「高円寺ブス集合」の爆速バージョンではしーなちゃんがやはりハンドマイクでステージと客席の柵を歩き回りながら歌うのだが、テンポが速すぎるが故にステージに上がってくるのも、そこからまたステージ上で歌うのも猛スピードでやらないといけないので、もはや最後の方は歌うというよりも思いっきり叫びまくるみたいな感じになっており、曲が終わるとステージ上に寝転んでしまう。
しかしそれでも
「ダブルアンコール来てる?」
とメンバーに問いかけると、もちろん観客は再びアンコールを求める手拍子をしてしーなちゃんが起き上がり、再び拡声器を手にしてこの日2回目の「トラブルメイカーガール」を、1回目よりもはるかに高いテンションで歌い、さらにはギターを持たずにハンドマイクのままでこちらもこの日2回目の「再生ボタン」を、「オイ!オイ!オイ!」とフレーズの合間に煽りまくるというバージョンで歌うのだが、すでにこれで22曲目。MCも曲間もないし、アンコールも捌けることなくそのまま演奏している。つまりはぶっ通しで演奏してきての最後に1番テンションが上がっている。それはMCをしてなかった時代のBRAHMANのごときにバンドのライブ体力の高さを示すものであり、このライブ中にも、曲を重ねるたびにバンドが進化していることの証明だった。
もちろん疲れているだろうけれど、そんな披露は全く感じさせることなく、ただただこちらを楽しいと思わせてくれるし、最後の最後に最も「なんてカッコいいバンドなんだ…」と思わせてくれる。その姿に涙が出そうだった。技術だけではなくて、ライブをやらないと絶対に進化しない部分まで、というよりもそこが最も進化していることを、あくまでメンバーは自分たちのやりたいようにライブをやりながら示していたツアーファイナルだった。
メンバーがステージを去ると、おなじみの終演 SEである森田童子「ぼくたちのしっぱい」が流れて観客が手を左右に振る中でしーなちゃんがステージに戻ってきて、すでに開催が決まっている全国ツアーの告知をすると、あさかも出てきてファイナルの渋谷QUATTROの告知をした。きっとそのツアーでは今回は演奏されなかった「東京」などのアルバム曲も聴けるのだろう。そして去り際にしーなちゃんは客席に向かって投げキッスをしてからステージを去っていった。その姿は本当にバンドを、ライブを楽しんでいるんだなと思わざるを得なかった。
まだコロナ禍になる前に初めて東京初期衝動のライブを見た時は、見えざる何かと戦っているかのように、客席に飛び込みまくるようなライブをしては全く笑顔を見せなかった。あの頃は自分たちメンバー以外にきっと味方が誰もいないと思っていたのだろうし、周りのバンドにも観客にも舐められてたまるかという意識があって、それがそのまま表情なりライブに表出していたのかもしれない。それはかつて自分の居場所がここにしかないと縋るように銀杏BOYZのライブに来ていた頃のように。
でも今はもう違う。もちろん銀杏BOYZがライブを発表しては我々と同じようにワクワクしたりしているだろうけれど、観客のことをきっともう敵や舐めてくる奴らだとは思っていない。むしろちゃんと味方だと思ってくれているし、周りには音楽と人間そのものをリスペクトできるような、PK Shampooや浪漫革命といったバンドがいてくれるようになった。そうした自分たちのことを肯定してくれる、居場所を作ってくれる人たちが確かに存在しているということがバンドを、ライブの空気を変えたのだ。もしかしたら、最も進化したのはそうした精神面なのかもしれないし、見るたびに本当に羨望せざるを得ない。一緒にすんなって思われるかもしれないけれど、同じライブを客席で見て同じように感動していた自分たちのようなやつの抱えるものを全てステージで放出してくれていて、こんなに輝いていて楽しそうな姿を見せてくれているから。そしてそれを見て「楽しい」と思えることが本当に幸せだと思っているし、救われていると思っている。
1.再生ボタン
2.腐革命前夜
3.マァルイツキ
4.トラブルメイカーガール
5.BAKAチンポ
6.空気少女
7.流星
8.春
9.中央線
10.STAND BY ME
11.山田! 恐ろしい男
12.愛のむきだし
13.下北沢性獣襲来
14.パンチザウルス
15.ベイビー・ドント・クライ
16.世界の終わりと夜明け前
17.ロックン・ロール
encore
18.Because あいらぶゆー
19.黒ギャルのケツは煮卵に似てる
20.高円寺ブス集合 爆速ver.
encore2
21.トラブルメイカーガール
22.再生ボタン
2020年の自粛期間中に開催された、多くの人にとって実に久しぶりの爆音かつスタンディング形式でのライブもこのリキッドルームだったこともあり、前回のツアーも含めてすっかりこの会場はバンドにとってホームになりつつある。というかこのバンドのワンマンでばかり最近は訪れているような感もある。
検温と消毒を経てリキッドルームの中に入ると、やはり客席は足元にマスが描かれたスタンディング形式。土曜日の早い時間の開場だからか、ドリンクでアルコールが飲めるのは600円払っているだけにありがたいところだ。
開演前にはキュウソネコカミなどのライブでもおなじみのP青木が諸注意を含めた前説を行うのだが、前日にオールナイトのBAYCAMPを主催した後にこの日のライブを開催しており、この男はもうそんなに若くもないというのに一体いつ寝ているんだろうかと思う。もしかしたら体力的にはめちゃくちゃキツいというかギリギリの状態だったかもしれないが、そんな素振りを全く見せないというあたりに、ポンコツなだけではないプロとしての意地や根性のようなものを感じる。この日程でBAYCAMPからこの日のライブを開催したのだって、翌日が土日であるから来やすい人がたくさんいるという観客のことを慮ってのことだ。多分。
おなじみのTommy february6「je t'aime ★ je t'aime」のSEが流れてメンバー4人が登場すると、モッズコートを着ている姿がどうしたって峯田和伸(銀杏BOYZ)を彷彿とさせるしーなちゃん(ボーカル&ギター)が叫び声を上げて両腕を上げる。気合いが演奏前から溢れ出していることがわかる。それは同時に短かったけれども、このツアーがバンドにとっても自身にとっても実に大きかったことを感じさせるのであるが、ギターを肩にかけるとすぐに「再生ボタン」を歌い始める。その爆音っぷりに耳が驚いているのが自分でもわかるくらいの爆音っぷりであるが、新しいアルバムが出てもこの曲から始まるというのは変わらないのは、やはりこの曲がバンドの始まりの曲だからだろうし、こうして最初に演奏することでバンドにスイッチが入るからだろう。それはサビで思いっきり腕を上げる観客側もそうだ。会場にいる全ての人が、止まった気がしたものがこの曲によって動き出すのだ。
歌い終わるとしーなちゃんは
「東京初期衝動です!よろしくお願いします!」
と叫ぶように挨拶する。その際の晴れやかな表情がまた一つ変わったなと感じさせるのだが、それは自信のあるアルバムを作ることが出来たからだろうということで、「えんど・おぶ・ざ・わーるど」の1曲目を飾る「腐革命前夜」を演奏するのだが、メロディアスなギターのイントロから一気にサビに向かって開放されたようにノイジーになっていくというアレンジの演奏も、
「アイツらを黙らせろ僕が僕である為に
あの夜を突き抜けろ革命を起こす僕だけが」
というこのバンドなりの文学性を帯びた歌詞を歌うしーなちゃんもの歌唱も驚くくらいにレベルアップしていることがわかる。あさか(ベース)が加入してから「修行ツアー」と題して小さめのライブハウスを回ったりしてきた成果がはっきりと表れてもいるが、メンバーそれぞれが我々の見えないところで厳しい努力を重ねているんだろうなということもわかる。そう思うくらいにバンド全体が上手くなっている。
それは単なる技術的な上手さだけではなくて表現力にも表れているというのが、アルバムリリース時からファンの間で好評の声が飛びまくっていた「マァルイツキ」でのしーなちゃんのポップさ、何なら可愛さを感じさせる歌唱。それが曲の持つポップさをより際立たせているし、普段は1番表情の変化が少ない希(ギター)が早くも笑顔を浮かべながらギターを弾いているというのもそのポップさをライブで感じられる要素の一つになっている。それを土台として支えるなおのドラムは元からバンドにおける1番の安定感を感じさせていたが、そのリズムのボトムがさらに強く太くなっているし、他のバンドに比べたら明らかに要塞感が強いドラムセットからも迫力を感じられる。
するとしーなちゃんがまるで椎名林檎のように拡声器を持って歌い始めたのは、明らかに自身のことをそのまま曲にしたであろう「トラブルメイカーガール」。このパフォーマンスが出来る様になったのも自身の歌唱力に自信を持っているからだろうけれど、拡声器からマイクに戻って歌うサビでのメンバー全員での
「産みたいくらいに愛してる!」
のフレーズは絶対にこのバンドじゃなきゃ出てこないであろう、超キラーフレーズである。
さらにはアルバムリリース前までは異なるタイトルだったのがアルバム収録にあたり「BAKAチンポ」という、当たり障りのないタイトルに変わるのではなく、より普通のメディアで使えないタイトルに変わっているという痛快さもさることながら、笑顔でタイトルフレーズを叫びまくるあさかの姿は、今このバンドのメンバーでいることができている、こうしてライブができている喜びを全身から感じさせてくれる。そのあさかの存在がバンドにとっても推進力になっているのもまた間違いないだろう。演奏力はもちろん、精神的、人間的に他の3人と同じことを同じように楽しむことができる存在として。じゃないとこのフレーズを笑顔で叫んでくれないだろう。
そんな飛び道具的というか、歌いたいことややりたいことを制限しないでそのままやる的な曲もある一方で、しーなちゃんが以前対談したお笑い芸人・空気階段のもぐらのことを彷彿とさせるというか、ノイジーなギターとメロディアスなメロディ、間奏の演奏がどうしたって2人の共通項てある銀杏BOYZのサウンドを彷彿とさせる「空気少女」と、「えんど・おぶ・ざ・わーるど」の曲がリリース直後でありながらも完全に既にバンドのものになっている。むしろまだ観客側の方が聴き込みっぷりが足りないような感すらあるほどにバンドが我々の先を走っている。
サビのメロディを希がギターで弾くというイントロのアレンジも実に余裕を感じさせるようになった「流星」もそうであるし、先行シングルの中から唯一「えんど・おぶ・ざ・わーるど」に収録された「春」もそうであるが、演奏力と表現力が格段に向上したことによって、よりライブで曲の輪郭がハッキリと伝わるようになっているのだが、それによって改めてわかるのはこのバンドのメロディの美しさとキャッチーさである。技術的なことは練習したり経験を重ねればついてくるということもメンバーの姿を見ていればわかるが、このメロディを生み出す力は持って生まれたセンスというか、磨き様がないものだと思っているだけに、それを確かにこのバンドが持っているということがこれからもっとたくさんの人に伝わるようになっていくんだろうなと思える。
そのメロディの良さがしーなちゃんの弾き語り的な1コーラスから、2コーラス目でバンドサウンドになるというアレンジによってより際立つ「中央線」から、
「ここでつまづくなよ東京初期衝動!」
と自分たちを鼓舞するように歌い、それが観客にとっても大きな強い力になっていく「STAND BY ME」と1stアルバム「SWEET 17 MONSTERS」収録のライブ定番曲にして人気曲が続く。新曲がたくさん聴けるのも嬉しいけれど、進化したバンドのサウンドでこうした名曲たちを聴けるのもやっぱり嬉しい。よりその進化がこれまでのライブで聴いた時を思い返してみるとよくわかるからだ。
するとここでしーなちゃんがモッズコートを脱ぎ去ると、おなじみの丈が短くカットされたTシャツ姿になるのだが、その肩口からは早くもスポーツブラ(っていうのか?)的なものが見えているし、変わらずに鍛えているのであろう肉体も見えている。
その状態でしーなちゃんが再び拡声器を持って歌い始めたのは「山田! 恐ろしい男」という、おそらくは山田という男の金を返さないなどの最低っぷりを歌ったであろう曲なのだが、しーなちゃんはステージを練り歩きながら歌い、間奏では観客の手拍子を煽る。基本的にはギターを弾きながら歌う曲が多いだけに実に珍しい場面であるし、その姿からはこのコロナ禍で一緒に歌ったりすることができないながらも来てくれた人たちと一緒になってライブを楽しみたいという意識を感じさせる。
アルバムには入らなかったけれど、しーなちゃんがレコーディングがめちゃくちゃ大変だったとリリース時に語っていた「愛のむきだし」はそうした経験が今のバンドの演奏力と表現力の向上につながっていることを示すとともに、それがリリース時よりも曲の持ち味をしっかり活かせていることも今の力で演奏されることによってよくわかる。この曲が轟音と勢いで押し切るようなサウンドから今のバンドへと進化するための一歩目の曲だったということも。
するとしーなちゃんはハンドマイクとなってステージを飛び降り、客席とステージの間を練り歩きながら「下北沢性獣襲来」という「高円寺ブス集合」の歌詞変えバージョンを歌うのだが、曲中でステージの上に戻ってくると、実に楽しそうに飛び跳ねながら歌っている。その姿はライブが戦う場所から楽しむ場所に変わっているということを感じさせて、なんだかその表情を見ているだけでじーんとしてしまう。歌詞は全編に渡って掲載するのも憚られるようなものであるが、それをメンバー全員で歌っているというのがこのバンドのメンバーの意識の一枚岩感を感じさせてくれる。全員が同じようにこうした歌詞を歌うのを楽しんでいるという。
「マァルイツキ」同様にしーなちゃんの可愛いボーカルの表現力によってポップさが際立つ「パンチザウルス」はその声で歌うことによって女子同士の友情を歌っているであろう歌詞により説得力を感じられるのだが、この後半の新作曲の怒涛の連打っぷりはこれらの曲たちをずっとライブで演奏してきたかのようであるが、そんな中で1stアルバム収録の人気曲の再録となった「ベイビー・ドント・クライ」は
「黒髪少女のギブソンのギターは今も響いてる」
というフレーズで髪色は黒ではなく明るめの色になってはいるが、フレーズ通りにエピフォンからギブソンに変わっている希の方を指差して歌われるのであるが、なおのドラムは手数を増した形で曲全体が再録バージョンとして進化しているのがわかる。
もしかしたら1stアルバムでの衝動剥き出しのバージョンの方が好きという人も多いかもしれないが、それはずっとそのバージョンを聴き続けてきたという思い入れの強さによるものだろう。やはりこの曲も音源でもライブでもサウンドが整理されたことによって、もっとたくさんの人にこの曲の良さが伝わる可能性を感じさせるくらいにメロディのキャッチーさが前面に出ている。
そのメロディのキャッチーさが激しいサウンドの中で炸裂するというアレンジが、コロナ禍じゃなかったらモッシュやダイブが起きまくっているだろうなというくらいの即効性(それもまたメロディの良さあってこそ)を感じさせるのは「世界の終わりと夜明け前」。自分は「えんど・おぶ・ざ・わーるど」の中で現時点ではこの曲が1番好きなのだが、それは特にサビの締めの
「ほら そんな顔で僕を見ないでくれよ」
というフレーズの、近しい人に勧めたくなるようなキャッチーさと、親には聞かせられないようなノイジーなサウンドがトップクラスに高いレベルで融合しているから。それはやはり自分が10代の頃に聴いていたそうしたバンドの曲を思い出させるからこそ、聴いていて沁みてくるものがあるのだ。本当に良い歌詞を良い歌唱で歌えるようになったな、としみじみしてしまうくらいに。
そんなライブの終わりを告げるかのように鳴らされる轟音ギターサウンド。それはこれまでもライブの終わりを担ってきた「ロックン・ロール」のものなのだが、そこにもやはり衝動と、どこか余裕のようなものが同居しているように感じるが、
「ロックンロールを鳴らしている時
きみを待ってる ここで待ってる いつかきっと
世界のどっかで きみを待ってる いつかきっと」
というフレーズに触発されて、今客席から東京初期衝動のことを見ている少女たち(この日はいつもよりそういう人は少なかったけど)が楽器を手にする。そうやってロックンロールは繋がれていくことで鳴り止まない。
「ロックンロールは鳴り止まないって 誰かが言ってた」
という歌詞の通りに「ロックンロールは鳴り止まない」と歌っていた誰かもまた今でもロックンロールを鳴らし続けている。どんなにロックバンドが時代錯誤な存在になったとしても、こうしたバンドがいる限りは、やっぱりロックバンドが1番カッコいいって思えるし、それをやることを選んでくれて、本当にありがとうございますと思う。
今まではこの曲が終わると楽器を置いてステージから去って…という形だったのだが、まだメンバーは楽器を持ったままであり、さすがに新しいアルバムが出たからこの曲が最後の曲というわけではななくなったんだな、と思っていたのだが、しーなちゃんが
「アンコールありがとうございます」
とまだ誰もなんのアクションも取っていないのに、ここからはアンコールに突入していくことを告げる。すると客席からもアンコールを求める手拍子が発生して、そのままバンドは「Because あいらぶゆー」を演奏して、爆音の中で
「ハロー素晴らしい世界なんて見えないよ!」
「私は幻なんかじゃなかった」
という銀杏BOYZの名曲の名フレーズへのアンサーとともに、
「殺しておけばよかった!」
というフレーズがこれほどまでにポップに聴こえるとは、というくらいにメンバーの歌唱が重なっていく。
するとあさかが台の上に立ってイントロのベースをうねるようにして弾くと、しーなちゃんはハンドマイクになって飛び跳ねながら「黒ギャルのケツは煮卵に似てる」を歌い、普通にコーラスパートでは客席にマイクを向けたりする。もちろん観客は声を出したりはしないけれど、早くまたそういうコール&レスポンスが誰かに何か言われたりしないようにできる状況になって欲しいと思う。
そしてなおのドラムがこの日最も激しく速くなると、前回のツアーからやるようになった(アルバムのシークレットトラックとしても収録されている)「高円寺ブス集合」の爆速バージョンではしーなちゃんがやはりハンドマイクでステージと客席の柵を歩き回りながら歌うのだが、テンポが速すぎるが故にステージに上がってくるのも、そこからまたステージ上で歌うのも猛スピードでやらないといけないので、もはや最後の方は歌うというよりも思いっきり叫びまくるみたいな感じになっており、曲が終わるとステージ上に寝転んでしまう。
しかしそれでも
「ダブルアンコール来てる?」
とメンバーに問いかけると、もちろん観客は再びアンコールを求める手拍子をしてしーなちゃんが起き上がり、再び拡声器を手にしてこの日2回目の「トラブルメイカーガール」を、1回目よりもはるかに高いテンションで歌い、さらにはギターを持たずにハンドマイクのままでこちらもこの日2回目の「再生ボタン」を、「オイ!オイ!オイ!」とフレーズの合間に煽りまくるというバージョンで歌うのだが、すでにこれで22曲目。MCも曲間もないし、アンコールも捌けることなくそのまま演奏している。つまりはぶっ通しで演奏してきての最後に1番テンションが上がっている。それはMCをしてなかった時代のBRAHMANのごときにバンドのライブ体力の高さを示すものであり、このライブ中にも、曲を重ねるたびにバンドが進化していることの証明だった。
もちろん疲れているだろうけれど、そんな披露は全く感じさせることなく、ただただこちらを楽しいと思わせてくれるし、最後の最後に最も「なんてカッコいいバンドなんだ…」と思わせてくれる。その姿に涙が出そうだった。技術だけではなくて、ライブをやらないと絶対に進化しない部分まで、というよりもそこが最も進化していることを、あくまでメンバーは自分たちのやりたいようにライブをやりながら示していたツアーファイナルだった。
メンバーがステージを去ると、おなじみの終演 SEである森田童子「ぼくたちのしっぱい」が流れて観客が手を左右に振る中でしーなちゃんがステージに戻ってきて、すでに開催が決まっている全国ツアーの告知をすると、あさかも出てきてファイナルの渋谷QUATTROの告知をした。きっとそのツアーでは今回は演奏されなかった「東京」などのアルバム曲も聴けるのだろう。そして去り際にしーなちゃんは客席に向かって投げキッスをしてからステージを去っていった。その姿は本当にバンドを、ライブを楽しんでいるんだなと思わざるを得なかった。
まだコロナ禍になる前に初めて東京初期衝動のライブを見た時は、見えざる何かと戦っているかのように、客席に飛び込みまくるようなライブをしては全く笑顔を見せなかった。あの頃は自分たちメンバー以外にきっと味方が誰もいないと思っていたのだろうし、周りのバンドにも観客にも舐められてたまるかという意識があって、それがそのまま表情なりライブに表出していたのかもしれない。それはかつて自分の居場所がここにしかないと縋るように銀杏BOYZのライブに来ていた頃のように。
でも今はもう違う。もちろん銀杏BOYZがライブを発表しては我々と同じようにワクワクしたりしているだろうけれど、観客のことをきっともう敵や舐めてくる奴らだとは思っていない。むしろちゃんと味方だと思ってくれているし、周りには音楽と人間そのものをリスペクトできるような、PK Shampooや浪漫革命といったバンドがいてくれるようになった。そうした自分たちのことを肯定してくれる、居場所を作ってくれる人たちが確かに存在しているということがバンドを、ライブの空気を変えたのだ。もしかしたら、最も進化したのはそうした精神面なのかもしれないし、見るたびに本当に羨望せざるを得ない。一緒にすんなって思われるかもしれないけれど、同じライブを客席で見て同じように感動していた自分たちのようなやつの抱えるものを全てステージで放出してくれていて、こんなに輝いていて楽しそうな姿を見せてくれているから。そしてそれを見て「楽しい」と思えることが本当に幸せだと思っているし、救われていると思っている。
1.再生ボタン
2.腐革命前夜
3.マァルイツキ
4.トラブルメイカーガール
5.BAKAチンポ
6.空気少女
7.流星
8.春
9.中央線
10.STAND BY ME
11.山田! 恐ろしい男
12.愛のむきだし
13.下北沢性獣襲来
14.パンチザウルス
15.ベイビー・ドント・クライ
16.世界の終わりと夜明け前
17.ロックン・ロール
encore
18.Because あいらぶゆー
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20.高円寺ブス集合 爆速ver.
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21.トラブルメイカーガール
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