メンバー脱退後初となる銀杏BOYZのワンマンツアー、先日のZepp DiverCityでの初日に続いての3公演目となる名古屋ダイアモンドホール公演。Zeppを見て、「これは一本でも多く見たい!」となり、急遽行くことを決めた。
会場のダイアモンドホールはビルの4階にあり、Zeppほど広くはないが、実に見やすく、かなり綺麗な作りのライブハウスである。
19時になると場内が暗転し、怒号のような歓声が響く中、峯田和伸が1人でステージに登場。髭は東京の時よりもさっぱりとしているが、後ろで髪をまとめているほどに髪はさらに伸びている。
峯田がアコギを手にすると、
「君が泣いてる夢を見たよ」
と初日と同様に「人間」からスタートするのだが、東京ではこの曲の時はほとんど起きなかった大合唱が早くも発生。名古屋のライブはおとなしいとよく聞くし、実際に年明けに行った米津玄師のワンマンの時もそう感じたが、むしろ東京よりすごいんじゃないか?と思わせる幕開けだったが、曲終わりで
「11年前のツアーでここに来た時、必ず新しい作品を作ってまた来ますって言って。だいぶ経ったし、変わってしまったけど、また来たよ。東京から新幹線に乗ってしまえば名古屋まで1時間半なんて近いもんだ。今日は最後まで楽しんでけろ」
と言った瞬間、関東に住んでいると、今やいろんなフェスやイベントや対バンなどで見れる機会があるため、銀杏BOYZのライブを見れるのが当たり前になってきている(実際、5月から9月まで一月に一回は見れるペース)が、この名古屋を始め、なかなかフェスなどがない地方では、本当に最初の2枚のアルバムを出した後のツアー以降、一回もライブを見ることができなかったという人もたくさんいるという現実を突きつけられたし、またこうしてライブを見れるのをずっと待っていたという空気に会場が満ち溢れていて、2年前のUKFCなど、銀杏BOYZが再びライブをし始めた頃を思い出してしまって、ついつい感傷的になってしまう。それは銀杏BOYZの音楽と、それを待ち続けた人たちの存在によって。
「俺は今まであんたらがどんなことをやってきたとしても、この曲でそんなあんたらを肯定したい」
と言って始まった「生きたい」の途中で山本幹宗(ギター)、藤原寛(ベース)、後藤大樹(ドラム)のバンドメンバーが登場し、弾き語りからバンド演奏に切り替わるとさらに客席は熱狂を見せ、続く「若者たち」では一斉に観客が前に押し寄せ、ダイバーが続出。峯田も
「切り裂け!切り裂け!切り裂け!切り裂け!」
と、早くも汗とヨダレでダラダラになりながら何度も叫ぶ。
「ノイズの中から美しいメロディが聞こえますか?」
と天を仰ぎながら峯田が語りかけると、GOING STEADY時代の名曲「アホンダラ行進曲」のリメイク「まだ見ぬ明日に」、「DON'T TRUST OVER THIRTY」のリメイク「大人全滅」をノイズを撒き散らしながら演奏。
サウンド自体はそのノイズを纏ったことで大幅に変わっているが、峯田が言った通りにメロディの美しさと
「失いかけてた希望の光が「ここまで来い」と僕を呼んでいる」
「いつの日にか僕らが心から笑えますように」
という、数え切れないくらい多くの若者の背中を押し、救ってきたようなキラーフレーズは昔から全く変わっていない。
「俺が机に座って曲を作って。2日も飯食わずに良い曲ができたって言って曲のタイトルが「ピンクローター」だったりするんです(笑)」
と東京とは異なる前振りから、冒頭同様に峯田1人で「ピンクローター」を弾き語り始めると、曲のタイトルに合わせて照明がピンク色に。東京同様、演出的には弾き語りの時はスクリーンに峯田の顔のアップが、バンドの時はツアーのメインビジュアルである片目を手で隠した少女の写真が登場する。
曲が終わると拍手が起きる中、峯田も自分自身に拍手を送る。その時の口角を上げた笑顔は昔と変わらず、「可愛い」と言われて然るべき無邪気なもの。
「本当はやりたくないんだけど、ツアーやるってなって曲が足りないってなってやることにした(笑)」
と言って、東京でもどよめきが起きた「佳代」の弾き語りでは、最初のフレーズを歌ったあとに「恥ずかしいこの曲…」と言っていったん歌を止めてしまう。しかしやはり恥ずかしくても名曲、というか恥ずかしい歌詞だからこそからこそ名曲になったのかもしれない。
「あんたらのことを思って作った曲なんか一曲もないんです。でも、あんたらが仕事終わってコンビニの駐車場に車止めて、流れてる曲を口ずさんでくれたりしたら、もうその曲はあんたらのもんなんです」
と、突き放すようでいてやはり優しさに満ち溢れたセリフから始まった「べろちゅー」からは再びバンド編成に。曲と聴き手に寄り添うように演奏されたが、続く峯田主演ドラマ「奇跡の人」のエンディングでも流れていた「骨」では生き生きとした楽しいバンドサウンドを鳴らし、「夢で逢えたら」ではダイバーが続出する中、演奏がぐちゃぐちゃになる瞬間もあったが、それはこの手練れのメンバーたちがあくまでもアドリブの多い峯田の歌に合わせて演奏しようとしているから。
「生きてるやつが1番偉いし、生きてるやつが1番カッコいい。死にたくない。日本に銀杏BOYZがいるうちは絶対に死にたくない」
と、ここにいる人たちの気持ちを代弁するかのようにして始まった「I DON'T WANNA DIE FOREVER」は音源よりさらにバンドのダイナミズムに溢れるパンクサウンドになり、「BABY BABY」では曲間に峯田がバンドメンバーそれぞれとハイタッチしてから、近年おなじみのサビを増やしたアレンジで大合唱を巻き起こす。
峯田がギターを置いてタンバリンを手にすると、イントロの山本のギターにどよめきが起こった「漂流教室」。すでに初日を見ているとこの曲をやるのをわかっているが、やはりセトリを全く知らない状態でライブに来るとこの選曲にはビックリするようだ。
「あの人を想って曲を作って、歌えば歌うほど、あの人は遠くなっていくような気がする」
というMCの後に演奏されたのは、問答無用の名曲「東京」。この曲を最初に聴いたのはCDリリース前の川崎クラブチッタだったし、そうして東京以外の場所でもこの曲を聴いてきたが、それでもまだ関東圏、すぐ近くに東京があるところだった。でもこの日関東圏ではない名古屋で「東京」を聴くのは非常に不思議な気分だった。名古屋の人たちや、この前の仙台の人たち、これからライブしにいく地方の人たちはこの曲をどんな気分で聴いているのだろうか。それはきっと自分にはわからない。
メンバーが捌けることなくステージ上で待機しながら、峯田の弾き語りから曲中でバンドサウンドに転じる「光」ではこの日もバンドサウンドになるとハンドマイクになり、マイクスタンドを蹴り倒し、後ろ髪を結わいていたゴムを取り、転げまわりながら歌う。
「東京から名古屋まで新幹線で1時間半。あっという間だ。だから必ずまた来るし、みんなも東京のライブにも来てくれ」
と、おそらく11年前と同じように名古屋の人々に再会を約束すると、峯田が着ていたコートも脱ぎ捨てて歌う「ボーイズ・オン・ザ・ラン」へ。リリース当時は映画のために作られた曲というイメージが強かったこの曲が、今こうして聴くと、この4人での銀杏BOYZのテーマソングのように聴こえる。
正直、前の3人が抜けた時は、もう銀杏BOYZという看板を降ろしてもいいんじゃないかと思っていた。それでも、今でもかつてと変わらず少年の心のままの峯田が「もう一丁だ」と目をひんむいて歌うことで、銀杏BOYZはまだまだ終わってないし、これからも何度だって立ち上がって我々の前で歌ってくれるって思える。
そして本編ラストは
「音楽では世界を変えることはできない。けど、世界も僕たちを変えることはできない」
と語ってイントロでメンバー紹介も行なわれる「僕たちは世界を変えることはできない」。この曲をライブでやるようになってから、峯田のこの姿勢は長い年月が経ってもずっと一貫している。
アンコールで再びステージにメンバー4人が登場すると、
「昔はアンコールなんてやらないで終わったらすぐ帰ってたんだけど、他のアーティストさんのライブとか見てたら、やっぱりアンコールっていいもんだなぁって思って。
政治どうこうとかもあるけど、それは人それぞれだと思ってて。俺が原発反対って言っても、峯田がそう言ってるからじゃあ反対だ、っていうのも違うし、それはそれぞれが思う通りにすればいい。
でも俺は、こうして音楽が鳴るライブハウスとかだけは、どんな世の中になっても絶対守りたいし、こういう場所がなくなる世の中になるのであれば、俺はもう躊躇なく日本を捨てます!
だから、またこうやって会えるまで、みんなどんな汚い手を使ってでも生き延びてください。俺も何があっても絶対生き延びてやるから」
と、おそらく選挙を間近に控え、表現者としていろんな不安を今の日本に抱えたりしているんだろうな、と思わせる(それは銀杏BOYZが言いたいこと、他の人が言わないことを歌にしているからというのもあるが)MCから、
「銀杏BOYZみたいにポップになれんだ」
と歌詞を変えて、打ち込みも使いながら飛び切りキラキラしたサウンドで歌われる「ぽあだむ」。
後藤と山本がステージから去ると、峯田と藤原だけがステージに残り、カラオケでの「愛してるってゆってよね」。藤原のベースの力量はandymori時代から言うまでもないが、コーラスも実に空気が読めるというか、観客が合唱しようとする箇所ではあえてコーラスしなかったり、控えめにコーラスしたりする。それは山本と後藤の演奏もそうだが、峯田がやりたいこと、銀杏BOYZのライブとしてこうしたほうがいいこと、というのを実によくわかっている。「結婚相手」とも例えられたかつてのメンバーのようにはなれないだろうけれど、この4人での銀杏BOYZも本当にバンドらしくなってきた。
やはりセトリ的には初日と変わらないというか、むしろ「17歳」と「新訳 銀河鉄道の夜」が外れるという内容だったが、それでも名古屋まで来て良かったと思えるのは、ライブはもちろん、冒頭にも書いたように、11年間もの長い間、ずっと自分たちの街に来てくれるのを待っていた、名古屋の銀杏BOYZファンの人たちの姿をこの目で見ることができたから。
ただ単にバンドが演奏しているだけじゃなくて、その会場の空気、そこにいる人たちも含めてライブなんだ、というライブに慣れてくるとつい忘れがちになってしまうことに改めて気づかされた。この人たちが次は11年も待つことなく、銀杏BOYZのライブが見れますように。
1.人間
2.生きたい
3.若者たち
4.まだ見ぬ明日に
5.大人全滅
6.ピンクローター
7.佳代
8.べろちゅー
9.骨
10.夢で逢えたら
11.I DON'T WANNA DIE FOREVER
12.BABY BABY
13.漂流教室
14.東京
15.光
16.ボーイズ・オン・ザ・ラン
17.僕たちは世界を変えることができない
encore
18.ぽあだむ
19.愛してるってゆってよね
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