ちょうど10年前の2012年4月19日の水曜日。TOKYO DOME CITY HALLでDOPING PANDAの解散ライブが行われた。すでに開演から3時間以上が経過したアンコールの最後、36曲目を終え、HAYATOがスティックだけでなくドラムのペダルやシンバルまでをも観客に渡していた姿を見て、「ああ、この人はもうドラムを叩くことから離れた人生を送るんだろうな。ということはもう2度とこのバンドのライブを見ることは出来ないんだな」と思った。(そもそも解散ライブというものがそういうものだけど)
それから10年。ソロとして活動してきたフルカワユタカ(ボーカル&ギター)がDOPING PANDA時代の曲を演奏しているのも知っていたし、HAYATOとタロティことTaro Hojo(ベース)がフルカワのソロ10周年ライブに登場して一緒にDOPING PANDAの曲を演奏したというニュースも見ていた。それにしても、まさか再結成するとは、しかも再結成発表と同時に新作アルバムまでリリースするなんて全く予想だにしなかった。そんな2度と見れないと思っていたバンドを10年ぶりに観れる、再結成ツアーの初日がこのZepp Hanedaでのワンマンである。
ロビーにはこのバンドの意思を継ぐダンスロックバンド、夜の本気ダンスからの再結成を祝う花も届いているが、こうしてライブハウスに来るという行為すら久しぶりなんだろうなと思うような、あの頃確かにDOPING PANDAのライブに来ていたであろう年齢層の方々がたくさん見受けられるし、そんな人たち同士が久しぶりにライブという場で会うことができていて、その再会の喜びを分かち合っているような、そんな光景をライブ開始前から観れていて、より一層感極まる感すらある。
すでにFC会員限定のライブを新代田FEVERでやっているとは言え、ほとんどの人が解散してからライブを見るのは初めてであろう、独特の緊張感に会場が包まれる中、18時ピッタリになると場内が暗転し、「Intro」のデジタルサウンドが流れる中で盛大な拍手に迎えられながらメンバー3人がステージに現れる。まだステージ上は薄暗いけれど、Taroはインディーズ時代の「PINK PaNK」に合わせたかのような上下ピンクのセットアップ(下は短パンだけど)で、HAYATOは椅子の上に立って客席の様子を眺めているのがわかる中、フルカワユタカは白のセットアップというのが暗闇の中だけに実にわかりやすい。
SEの「Intro」が鳴り止むとパッとステージの照明が点き、メンバーの姿が露わになると同時に、フルカワがギターを鳴らしながら
「I am sorry me ミラクル起こせなくてさ」
と「Crazy」を歌い始める。その瞬間、本当にDOPING PANDAがDOPING PANDAとして帰ってきたんだ、と思えて、涙を堪えることが出来なかった。もう2度と見れないと思っていたバンドが、確かに今自分の目の前で自分たちのバンドの音を鳴らしているのだから。サビでは神聖にすら感じるくらいに真っ白な照明に照らされることによって、TaroとHAYATOがこんなにも笑顔で演奏する人だったんだな、と思うくらいに表情豊かなのがわかるとともに、最後のサビ前にはフルカワが客席の手拍子する姿に思わず声を詰まらせながら、歌詞を歌わずに
「ただいま」
と口にする。その瞬間、本当にDOPING PANDAが2022年の現在に帰ってきたことを実感して、また感極まってしまった。かつてはこの曲でフルカワは
「I'm sorry me ミラクル起こしちゃってさ」
と歌詞を変えて歌っていたが、過去のどんなライブよりも圧倒的なミラクルがこの日確かに起きていた。だって、2度と見れないだろうなって思っていたバンドが今目の前にいるのだから。
何よりも、長くステージから離れていたHAYATOとTaroという2人が担うリズム(それはドーパンのダンスロックの心臓部と言っていい)がかつてと変わらないグルーヴを放っていることがライブ開始時から確かにわかる。それが何よりもドーパンがただ帰ってきただけではなくて、かつての熱狂を失わない形で帰ってきてくれたのが本当に嬉しいし、観客が両腕を挙げるようにしたり、席が決まっていても体を揺らしたりして鳴らしている音に応えていることもそれを感じさせるのだが、四つ打ちダンスロックの雛形的に形容されることもあるドーパンが、実はデビュー当初はAIR JAM世代の影響も強いパンクの要素が強かった(それこそこの曲よりも前に「PINK PaNK」というタイトルの音源をリリースしているとおりに)ことを思い出させてくれる「Mr.superman」は、こんな序盤で演奏されるとは、と思うくらいに、このツアーがずっと昔からドーパンを聴いていてくれて、こうして復活したライブにも来てくれている人とバンドとの交歓の場であることがわかる。
さらにはフルカワが曲中にハンドマイクになって、観客が声が出せない状態であることをわかった上であっても、
「Say, DOPING PANDA!」
とかつてと変わらないように客席にコール&レスポンスを求める「GAME」、イントロの3人が向かい合うようにしてイントロのキメが鳴らされる「Blind Falcon」と、かつてのドーパンのキラーチューンが次々に演奏されていく。その曲たちが演奏されるごとに腕を上げて、この曲が鳴らされるのをずっと待っていたという観客の思いを可視化するかのように、レーザーもフル活用した照明が派手に光り輝く。その歌詞も含めて、そこにはどこかドーパンが今この状況の世の中に戻ってきたことの意味を感じられるような気さえする。
話始めるまで鳴り止まないくらいに長く大きな観客からの拍手が鳴り、それをさらに煽るようにHAYATOが立ち上がって両手を広げると、フルカワが
「もうなんて言っていいかわからないんだけど…またこうやって3人でやることにしました。DOPING PANDAです!」
と10年ぶりの挨拶をすると、
「今日がツアー初日、言わば始まりの始まりですから。言い方が良くないかもしれないけど、我々の終わりの始まりみたいな経験をしたZeppでツアーを始められて、こうやって即完して満員の人が来てくれてるっていうのが本当に嬉しいです。ありがとうございます」
と、かつて一大変化作「YELLOW FUNK」リリース時のツアーでのZepp Tokyoでのワンマンがガラガラになってしまったことを思い出させるようなことを口にするのだが、そのZepp Tokyoももうなくなってしまって、新しい都内のライブハウスとしてこのZepp Hanedaにみんなで集まっているというのも10年という時間の流れを感じさせてしみじみとしてしまう。
するとタロティによるスラップベースのイントロがそれぞれの鳴らす音の隙間を生かしたグルーヴを生み出すダンスチューンの「We won't stop」という変化球に改めて今のドーパンのリズムがかつてと全く変わらない、というかむしろ進化していることを感じさせてくれる。これだけ削ぎ落としたサウンドの曲であるが故に、リズムが少しでもヨレたりしたらそれがそのまま曲の強度に繋がってしまうからだ。それぞれがしっかりとこのツアーとドーパンのこれからの活動のために腕を磨き続け、それが遺憾なく発揮されているからこそこうしてこんなにも研ぎ澄まされたサウンドの曲で踊ることができるのだ。
するとデジタルな同期の音が流れ、フルカワはステージ上でハイキックを繰り出すようにしてギターを弾くと、その衝撃でメガネが吹っ飛んでいってしまう。すぐさまスタッフが拾いに来るのだが、そのままメガネなしというスタイルで1曲丸々演奏された「nothin'」はリズムに合わせてフルカワとタロティがその場でぴょんぴょん飛び跳ねながら演奏し、かつての何も気にせずに踊りまくれるとは言えない、座席指定という状態の観客もその場で2人と同じように飛び跳ねまくる。同期のサウンドやコーラスも含めて、ドーパンがそうした使えるものを全て使って我々を踊らせるダンスロックを鳴らすバンドであったことを思い出させてくれる。
ここまではひたすらにかつて我々を踊りまくらせてくれたドーパンのダンスロックの連打に次ぐ連打であったが、ここで再結成と同時にリリースしたセルフタイトルアルバム「Doping Panda」からHAYATOがスネアを軽快に連打する「kiss my surrender」が演奏されるのだが、ステージから噴射されるスモークの量があまりにも多すぎてHAYATOの姿が見えなくなるほどで、どこかフルカワも「こんなに?」と苦笑いしているかのようにも見えたのだが、こうして自然に新しい曲がこれまでのキラーチューンたちの中に溶け合っているライブの作り方もまたドーパンのライブだなと思うし、メンバーも新しい自分たちの曲やサウンドに、ノスタルジーに負けないくらいの自信を持っているんだと思う。
その「kiss my surrender」のデジタルサウンドとはまた違う、どこかシンプルなロックサウンドで踊らせるというのは続く「The way to you」のストレートさとも通じるところがあるな、とこうしてライブのセトリで並ぶことによって改めて感じられるし、それは最新作「Doping Panda」が解散前のドーパンの音楽を全て集約した上で今の自分たちのものとして鳴らしているということだろう。それにしてもこの曲もそうだが、「PINK PaNK」がリリースされたのは2002年。つまりちょうど20年前だが、全くそんな昔の曲に感じない。色褪せないどころか瑞々しさすら感じられるのは3人が演奏している表情が本当に楽しそうで、かつ3人の見た目が10年前と変わらないような若々しさを保っているからと言える。
「nothin'」でメガネが吹っ飛んだ際に、
「このままメガネなしでずっとライブやろうかとも思ったんだけど。今はコンタクトしてるから、メガネなしでもライブできるんですよ。
でもこのメガネも再始動に際してブランドの方が作って進呈してくれたものなんで、これも大切な今のDOPING PANDAの一部っていうか。それは俺だけじゃなくて、タロティとHAYATOもそうで。
10年前までもライブに来てくれてた人は少し驚くかもしれないけど、タロティは本当にただただヤバい奴で、HAYATOは物販のプロデュースをやってくれる頼れるアニキで。そういう面も今は見せていけたらなって。俺は10年間ソロをやってたから、DOPING PANDAでのロックスターって感じを忘れてきてる感じもするけれど(笑)」
と、やはりソロとDOPING PANDAではフルカワ自身も見せ方が違うというか、かつてはそれぞれのキャラクターのイメージを作って活動していて、それゆえに息苦しくもなってしまったところもあったんだろうな、ということも感じさせる。確かにタロティとHAYATOはかつてはこんなにも感情を表に出しまくるようなイメージの人ではなかったから。
それと同時にフルカワは
「今日初めてDOPING PANDAのライブを見に来たっていう人はどれくらいいますか?
(手を挙げる観客を見て)…結構いますね」
とも言っていた。確かに解散時はまだライブに行くことが出来なかったであろう若い人も確かにいたし、かつては曲を聴いてはいたけれど、ライブを観る前に解散してしまって、ようやくこうしてライブを観ることができるという人もいたのだろう。きっと「いつか観れる」なんて考えてもなかっただろうけれど、メンバーも我々も生きてきたからこそ、そんな信じられないようなミラクルが確かに現実になっているのだ。
そんな感慨に浸らせてくれるかのように、そこからはメロウなサイドのドーパンを感じさせてくれるような曲が続く。サウンドだけで夏、灼熱というよりはバカンス的な夏を感じさせてくれる「Lovers Soca」ではタロティとHAYATOによる
「Cause I love you!!」
のコーラスでは観客も一斉に腕を上げる。一緒に声を上げることはできないけれど、みんなちゃんとこの曲のコーラスを確かに心の中で歌っていたかのような。
さらには「Moralist」、「stairs」という曲が続くことによって、ひたすらに観客を踊らせまくるというだけではない、緩急の緩の部分がしっかりしているからこそ、急の部分が際立つようなメリハリをつけられる曲を持っていて、そうした曲をライブで演奏してきたバンドだったということを思い出させてくれる。そうした曲によってメロディの良さが際立つバンドであるということも。
さらにはディズニーのパンクカバーコンピアルバムに収録された「Go the Distance」という選曲にはたくさんの観客が腕を挙げて喜んでいる。それくらいにディズニーの楽曲が完全にドーパンのサウンドになっている名カバーだからだ。このコンピアルバム「DIVE INTO DISNEY」には他には今も変わらずに活動しているthe band apart「WHEN YOU WISH UPON A STAR」や、ドーパンとともに2000年代後半のロックシーンを牽引したBEAT CRUSADERS「MICKEY MOUSE CLUB MARCH」などカバー巧者による名カバー目白押しアルバムなので、この日この曲を聴いて久しぶりにこのアルバムを聴きたくなってしまった。そしてBEAT CRUSADERSもドーパンのようにいつかまたライブを観れる日が来るんじゃないかと微かだけど確かな希望を抱かせてくれるかのような。そうしたバンドが並んだアルバムの収録曲だからこそ、ドーパンのパンクさを感じさせるアレンジになっている。
フルカワがタロティに
「タロティはいきなりZeppに来てるわけですけど、昨日は寝れた?今日は朝は何を食べてきた?」
と問いかけると、全身ピンク色のタロティが
「いちご」
と答えるという、これ以上ないくらいの正解を一発で叩き出して場内は思わず笑いに包まれるのであるが、いちご(一悟)繋がりということでか、
「またACIDMANとも一緒にやりたいね。大木はずっと「再結成しろ」って言い続けてくれていて。それが直接の再結成の要因っていうわけではないけど、そう言ってくれていたのがずっと心に残ってた。SAI(今年開催のACIDMAN主催フェス)には誘われてないけど(笑)
言っちゃいけないことを言っちゃうの、DOPING PANDAの俺らしい感じになってきたな(笑)」
と、ACIDMANの話でロックスター感を取り戻すあたりは解散ライブでもART-SCHOOLの木下理樹をいじっていたことを思い出させてくれるのだが、そうしたバンドたちが自分たちが不在の間も活動し続けていたというのはまたこうして戻ってくる理由の一部でもあったはずだ。続けるロックバンドの美しさやカッコ良さをACIDMANたちは今でもライブで示してくれているのだから。
そしてフルカワが
「後輩のバンドのセリフをパクります。踊れる準備はできてますか!?」
と、夜の本気ダンスの米田のキメセリフを引用する。それは自分たちの不在期間にも自分たちの意思を継ぐかのようにダンスロックを鳴らしてきた後輩への感謝とリスペクトが確かに感じられた。きっと近い将来には∞ダンスタイムと本気ダンスタイムの対バンが観れるような予感がしている。
そしてタロティが自身のパソコンを操作すると、ついにあの「無限大ダンスタイム」というデジタルボイスが流れ、タロティとHAYATOによるコーラスとともに一気に賑やかなサウンドになる「YA YA」から∞ダンスタイムへと突入していき、レーザーが飛び交うなど完全にダンスフロアへと場内が変貌していく。
この∞ダンスタイムは曲と曲をライブならではのアレンジによってノンストップに繋いでいくというものなのだが、フルカワがギターカッティングを刻む繋ぎが徐々に「The Fire」のリフへと変化していくという、ただアウトロとイントロを繋げるというだけではないアレンジがより観客を昂らせてくれるし、その「The Fire」ではまさに炎のように燃え盛るような真っ赤な照明がより体温を高くしてくれるかのような。
「Shout of victory has burning fire. You wait for the my super fighting.」
というラスサビ前ではフルカワがマイクを持ってステージ中央まで出てきて観客の声を求めるというのはコロナ禍で声が出せない状況であってもかつてのままだし、そうしたパフォーマンスの後のラスサビがより爆発力を発揮しているのも変わらない。
MCではリハをしている時もこの∞ダンスタイムをやるのは体力的に相当キツいということを口にしていたが、やはりそうした体力的な理由なのか、あるいは今の、10年越しのドーパンの∞ダンスタイムはそうしたものなのか、「I'll be there」からは思ったよりも高速ダンスロックという感じではないようにも感じられた。かつての∞ダンスタイムでは最も速くなるアレンジの印象が強かった曲であるが、それが遅くすら感じられるというのは夜の本気ダンスの本気ダンスタイムがあまりにも速く、それを近年浴び続けてきたというのもあるのだろうか。
しかしデジタルサウンドが流れ、再びレーザーが飛び交いまくる「Hi-Fi」ではこれぞドーパンの∞ダンスタイムという光景が広がり、それがこんなにも楽しい瞬間だったということをも思い出させてくれ、さらにはCM曲としてお茶の間にも流れまくった「beautiful survivor」は、あの頃の夏を席巻していたのは確かにこの狂騒的なダンスサウンドだったことをも思い出させてくれる。やはりスピードは若干イメージよりも抑えられているような感じもあるのだが、その分HAYATOとタロティのビートは重さを増しているかのような。それは年齢と経験を増したことによる、今ならではのドーパンのダンスビートなのかもしれない。
そんな中でフルカワがハンドマイクを持ってステージ中央まで出てきて歌うと、観客がサビで腕を左右に振る「Transient Happiness」が文字通りにこの瞬間だけの幸福が音となっているかのように響く。この曲の楽しさはどんな時代、年代、状況になっても変わることはない。それはこうして踊ることによってそんな今の時代、状況の不穏なムードやネガティヴさに抗おうとしているかのようにさえ感じられる。それはドーパンのダンスロックの中に確かにパンクの要素があるからこそ感じられることなんだと思う。
そんな中でこの∞ダンスタイムの中に最新作のリード曲となった「Imagine」が入ってくるというのは少し予想外でもあったけれど、それこそが今のドーパンの∞ダンスタイムということなのだろうし、この曲が他の曲と同じようにたくさんの観客が腕を挙げて受け入れているというのがバンドだけではなくメイニア(ドーパンファンの総称)も一緒になって新しい曲が生み出されたことを喜んでいるかのようだった。
さらには不穏さすら感じるイントロとAメロからサビではフルカワのファルセットボーカルが響き渡る「beat addiction」でもやはり∞ダンスタイムならではのレーザーが飛び交いまくり、HAYATOのアタックの強いドラムの音が、やはりZeppのような大きなライブハウスがよく似合うドーパンの曲のスケールを感じさせる重さを発揮し、デジタルなサウンドが流れるとそのまま「MIRACLE」へと繋がっていき、バンドと観客とのリズムを介在としたレスポンスも行われる中でフルカワは間奏では台の上に立ってギターソロを弾きまくる。解散前からドーパンは歌いながら弾けるようなギターではないというような難しいフレーズを弾きまくっていたバンドであるが、解散後にはそうしたタイプのギター&ボーカルのバンドもたくさん世に現れてきたし、そうしたバンドのライブも観てきた。それでもやっぱりフルカワのギターは本当に上手いと思える。ドーパンのダンスロックがメンバーそれぞれのミュージシャンとしての高い技量の上に成り立っている。そんなメンバーが3人揃ったのも、それがこうしてまた再び集まったというのも、やはり止められなかったミラクルそのものなのだ。そういう意味でも本当に感慨深い「MIRACLE」だった。
そしてフルカワは無限大ダンスタイムの中にあっても
「今日は本当にありがとうございました」
と言うと、最後に再び観客の腕が左右に振られるのは最新作収録の、ある意味ではドーパンらしさを最も発揮した曲と言える「Silhouette」。∞ダンスタイムの最後の曲にして、ライブ本編の最後に演奏されたのがこの最新作の曲であるということ。それはドーパンがただ昔のキラーチューンを演奏するだけの再結成バンドではなくて、これからも今までの自分たちを更新していくために再結成したという意思の現れだ。
個人的にももちろん解散したバンドが再結成してくれたら、解散する前の曲をたくさん聴きたいと思う。それでも、そうした曲だけを演奏するのであれば再結成しなくてもいいんじゃないかと思う。毎回毎回それだけを演奏していたら、いつかまた解散せざるを得ないような、立ち行かなくなってしまうようなスパイラルに陥ってしまうからだ。それだけを見続けるのも観客としてもいつか飽きたりマンネリしたりしてしまう。
だからこそドーパンが新作を携えた上で帰ってきたのが嬉しかった。それもドーパンらしいダンスロックに真正面から向き合いながらも、自分たちが鳴らしたいからそうしたサウンドを鳴らし、そうした曲を作っていることがわかるようなアルバムだったから。
だからこそアルバムを聴いた時にも、この日こうしてライブを観ても、ドーパンはただの懐メロバンドではなくて、これから先もずっと自分たちを更新していくためにバンドを続けていこうとしているのがしっかりと伝わってきたのだ。そんなバンドだからこそ、心から「おかえり」と言いたいのだ。それに加えて「これからもよろしく」と。
そんなドーパンの今の3人の関係性が感じられたのは、HAYATOが矢沢永吉のようにマイクスタンドごとマイクを持って登場したアンコール。すでにフルカワもタロティも新しいバンドのTシャツに着替えていたが、物販全般をプロデュースするHAYATOによる物販アイテム紹介は、Tシャツのデザインなども自分たちが信頼しているデザイナーに今の自分たちのサウンドを具現化してもらうようなアイテムを作ってもらうというバンドとしての意思を感じさせる。
さらには今は徳島で暮らしているHAYATOが近所に住む友人たちをこの日のライブに招待したのだが、
「オッさん2人が久しぶりに東京に出てきて舞い上がって朝から酒を飲みながら寿司を食べたりしていたら、1人がスマホを紛失したという連絡が来た(笑)」
という話で笑わせてくれる。そこにはHAYATOの人間性の良さを感じさせてくれるとともに、今のHAYATOがバンドとしても一市民としても周りの人に恵まれて生きているんだろうなということがわかる。
それはそのまま今のHAYATOの人生がこれまでで最も楽しそうに感じられるということでもあるのだが、
「再結成したバンドは再結成した最初は仲が良いってよく聞くけど、俺たちはこれからもずっと仲良くやっていきたいと思います。これからもずっと続けていくから!」
と言うフルカワも、相変わらず言葉数は少ないけれどタロティの表情も、こうしてドーパンとして音を鳴らすということが本当に楽しいんだろうなということが伝わってくる。この日1番印象的だったのはそれかもしれない。フルカワも
「再結成したバンドはみんな自然体ですよ」
と言っていたが、その自然体さによってメンバーがバンドで活動するのを楽しんでいて、その楽しそうな表情や言葉が我々観客をもさらに楽しくさせてくれる。そんな理想的な関係性が再結成ツアー初日にして確かに出来上がっていることを感じていた。
そんなアンコールで最初に演奏されたのは、最新作の中で真っ先にリード曲になることが決まった「Imagine」の後にHAYATOとタロティが「この曲が好きだ」と言ったという「BS」。
決してダンサブルな曲というわけではない、むしろ素朴さすら感じるような曲であるが、そんな曲をメンバー全員が気に入っていて、その曲をかつてのキラーチューンたちが並んだセトリに入れて演奏することができている。そこにこそ今のドーパンの関係性の良さを感じることができるのだ。
フルカワは
「英語詞でも日本語詞でも今聴くことによって聴く意味が変わることがある」
ともこの日口にしていたが、この日最もそれを感じられたのは「It's my life」だろう。
「今日はなんだか君に会えそうな気がしてるんだ
少し遠いその場所は知らないけど今、君に会いにいくよ
何もかもあったこの街だって抜け出せるんだ
目に映るもの全てが今、歌になってゆく」
という歌詞はまるでこの日が来ることをリリース時の2007年からすでに予見していたかのように響く。
「映るもの全てを今、歌に変えてゆく」
という決意表明のようなフレーズはそのままこれからドーパンがそうして音楽を作っていく、歌っていくということを今のフルカワが歌詞にしたかのようだ。EPの収録曲であったこの曲がまさかこんな響き方をするなんて今まで全く思ったこともなかった。それは今、再結成したドーパンが歌うからこそそう感じられるのだ。
そしてそんな感傷をも全てパンクなサウンドに乗せて我々を踊らせてくれるのは最初期の「Candy House」。フルカワが上手の台の上に立ってギターソロを弾くと、ここまではほとんど自分の立ち位置を動かなかったタロティも下手側の台の上に立ってベースを弾く。2人も、その後ろでビートを支えるHAYATOも、客席にいる観客もみんな笑顔だった。
「これからも俺たちはずっと続けていきます!」
と言ったDOPING PANDAの第二章は笑顔で始まった。それはきっとこれから先もずっと続いていく。10年ぶりのDOPING PANDAのライブは、これからは止まることなくずっと踊り続けていようと我々に言ってくれているかのようだった。
コロナ禍になって全席指定のライブになったことによって、激しいバンドのライブであっても体がぶつかったり、暑かったり汗の匂いを感じたりということがほとんどなくなった。でもこの日のドーパンのライブが終わった後に感じた「汗臭いなぁ」という感覚は、確かに10年前までのドーパンのライブと同じものだった。
それはドーパンのグルーヴと熱狂があの頃と変わっていなかったことでもあるのだが、自らをロックスターと称しながらも、決して選ばれた人間にしか持ち得ないようなカリスマのオーラを持っているわけでも、圧倒的な歌唱力を持っているわけでもない。ただただ不器用で、だからこそ人間らしい。DOPING PANDAの音楽を作って鳴らし、我々を踊らせてくれるという点においてはこんなにもロックスターな男は他にいない。やっぱりフルカワユタカはDOPING PANDAだからこそのロックスターだったのだ。
10年前の解散ライブの後、10時半くらいに水道橋のラーメン屋でラーメンと餃子を食べながら一緒にライブに行った後輩と一緒に「明日の朝仕事行くの辛いな」なんて話をしていた。それはまだ我々は解散ライブを見るということに慣れていなかったからこそ、どこかもう2度とライブを見ることができないという喪失感というか虚しさも感じていたのだ。
そんなあの時の自分に「10年後になればまたDOPING PANDAのライブが見れるよ」って言ったらどんな顔をするのだろうか。いや、きっと信じないだろうな。こうやって自分の目でまたライブを見れる日が来るまでは。
1.Crazy
2.Mr.superman
3.GAME
4.Blind Falcon
5.We won't stop
6.nothin'
7.kiss my surrender
8.The way to you
9.Lovers Soca
10.Moralist
11.stairs
12.Go the Distance
13.YA YA
14.The fire
15.I'll be there
16.Hi-Fi
17.beautiful survivor
18.Transient Happiness
19.Imagine
20.beat addiction
21.MIRACLE
22.Silhouette
encore
23.BS
24.it's my life
25.Candy House